【武炎】出張・刃物屋
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 23人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/24 00:18



■オープニング本文

●激戦の後
 血と泥に塗れた兵たちが疲れた身体を引きずり、次々と合戦場から戻ってくる。
「此度の戦は、厳しいものであった」
 雲間から覗く青空を仰ぎ、立花伊織が呟いた。
 大アヤカシと呼ばれる脅威に人は勝利を収めたが、代償は大きい。
 秋を前に野山は荒れて田畑は潰れ、村々も被害を受けた。避難した民は疲弊し、アヤカシも全てが消えた訳ではない。
「再び民が平穏な暮らしを取り戻すまで、勝利したと言えぬ」
 伊織は素直に喜べず、唇を噛んだ。
「今後の復興のためにも、今しばしギルドの、開拓者の力を借して頂きたい」
 随分と頼もしさを増した面立ちで若き立花家当主が問えば、控えていた大伴定家は快く首肯した。
「まだしばらくは、休む暇もなさそうじゃのう」
 凱旋した開拓者たちが上げる鬨の声を聞きながら、好々爺は白い髭を撫ぜた。

●刃物屋は行く
 がら空きの入り口から、薄暗い店内に陽光が差し込んでくる。ギルド受付のようなカウンターに置かれた水桶と、砥石と錆びた包丁。
「ふーん‥‥復興、ねぇ」
 包丁の柄を分解しながら、髪の白い青年は相槌を打った。店の残り物を届けに来た少女が頷く。
「はい。でも、おじさんは行かないんだそうです」
「そりゃなー。イチ屋台じゃ、儲けも旨みも宣伝効果もたいして狙えねーだろーし。うち武天じゃなくて石鏡だし」
「そういうもの、ですか?」
「まあ、ギルドから多少支援の援助は出るかもしれねーけど、普通に町で通常営業してたほうが利益は出るわな」
「む‥‥」
 納得いかなさそうな少女の頭を、わしわしと大きな手が撫でた。皮膚が分厚いその手は、柔らかな少女の髪を多少引っ掛けていたけれども。
「気にすんな。お人よしってのはどこにでもいんだから。そーゆーのに任せりゃいい」
「でも、なんかあたしだけここでのうのうとしているのも気が引けるっていうか‥‥」
「だろうな。
 でもこの手の復興ってのは、現場行って自分が何をすンのかちゃんと理解して行動しねえと。
 行ったものの足引っ張りました、じゃあな」
「うっ‥‥。
 翠牙さん、なんでそんなに冷静なんですか」
 上目づかいに睨まれて、青年はにぃと口の端を笑みの形に歪めた。
「大人だからだよ、お・と・な」
「納得できない‥‥」
「はっはっは。大人ってのは子供から見りゃ理不尽で不条理な生き物だ」
「うー、うーっ」
「ほら帰った帰った。暗くなるぜ?」
「もう。わかりました。それじゃあ失礼しますね」
「おう。じゃあな」
 ひらひら、手を振って少女の背中を見送る。ふと浮かべていた笑みが唇から消えた。
「復興、ねぇ‥‥。
 場所によっちゃ、農具だのなんだの、壊れてそうでもあるわな‥‥」
 薄暗い店内。棚が乱立し、押し込められるようにたくさんの刃物が陳列されている。
 刀から手裏剣まで。包丁から斧まで。鉋もナイフも、あらゆる『刃物』が並んでいる。
「‥‥うし。行くか」
 となればギルドに話を通すか、と考えつつ、彼は店を出た。

 その後――
 復興支援に行くので、他にも行きたい奴がいたら一緒に行かないか、という大雑把な依頼がギルドに並んだ。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 菊池 志郎(ia5584) / 藤宮生良(ia8116) / 和奏(ia8807) / ラヴィ・ダリエ(ia9738) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / フラウ・ノート(ib0009) / フェンリエッタ(ib0018) / 明王院 浄炎(ib0347) / 明王院 未楡(ib0349) / ティア・ユスティース(ib0353) / 无(ib1198) / リア・コーンウォール(ib2667) / 十野間 修(ib3415) / 御鏡 雫(ib3793) / シータル・ラートリー(ib4533) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / 玖雀(ib6816) / 雨下 鄭理(ib7258) / 蒼雀姫(ib7475


■リプレイ本文

●来る人、来ない人
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、佐羽を誘いに来ていた。
「ええ!? 行かないみたいなこと言ってたのに、翠牙さん行くんじゃない! 騙されたー!」
「別に騙したわけではないと思いますが‥‥」
 佐羽の言い草に苦笑して、マルカは用件を切り出す。
「わたくし料理は出来ませんので代わりにおでんをつくって下さればと。材料費は持ちますわ」
「え、でも‥‥」
 佐羽はしばらく躊躇うように言いよどみ、しばらくののち、はっきりと頷いた。
 次は匂霞。会いに行くと、面会自体はあっさりかなう。
「ご一緒する開拓者の中には無双の名刀をお持ちの方も多いかと。暮谷様の腕前を見せ付ければぜひ扱ってくれ、となるかもしれませんわ」
「そんな条件なら腕を見せたいほかの研師が喜ぶんじゃない」
 さらりと言って踵を返す。うわぁ、と佐羽が顔を引きつらせた。

●畑
 無事なところも多いが、無事でないところもまた、多かった。
「あわわ‥‥村が荒れ放題‥‥。
 姫に何かできることはないかな‥‥」
 そのありさまに、蒼雀姫(ib7475)は自分のできることを探しに行く。
「これは‥‥酷い。
 本当なら今の時期は収穫で賑わっていたでしょうに」
 畑に出たフェンリエッタ(ib0018)は、すっかり荒らされた畑を前に呟いた。踏み潰された畝、根こそぎあっちこっちに飛び散った豆の株。
「でも、きっと大丈夫。
 畑は一生懸命手をかけた分、また応えてくれる筈です」
 志体持ちの体力はここで生かさねば、そう思ってフェンリエッタは究極の鍬をぐっと握り締めた。
 故郷は、こうではなかった。シータル・ラートリー(ib4533)は顔にも口にも出さなかったが、少しだけ。少しだけ心躍らせていた。
 砂と乾いた熱風。オアシスはあれど、土地の大半がそんな土地。そこが彼女の故郷だ。
「お邪魔しますわね♪」
 小さな声でそう言って、畑に足を踏み入れる。湿った柔らかな土。かすかに足が沈んだ。
「ふっこうしえん‥‥、手伝ったら何か食べ物もらえるでしょうか」
 戦闘は怖くて避けたいけど、村の復興のお手伝いならできそうかな。そう思った藤宮生良(ia8116)はざっと畑を見回す。収穫前の畑がめちゃくちゃに荒らされていて、まともな収穫は見込めそうもなかった。
 無事な作物を探すため、シータルは丁寧に優しく、ぼろぼろの芋のつるや葉をかきわけ、土を掘り返す。
 まるで馴染みのない土の感触。柔らかさが心地よく、いとおしさを込めてすくい取る。
「‥‥感触が全く違いますのね。これが、天儀の土‥‥」
 雨のあとなので土はあまり固くはなく、捜しやすいといえた。残ったつるを伝い、芋を探し当てる。
 土の中にあったとはいえ、芋も無事ではなかった。傷がついているくらいはかわいいほうで、折れていたり石がめり込んでいたりするものが大半。それでも念入りに捜せば、小指ほどの長さしかないものも見つけられた。
「あら♪ 見つけましたわ。えっと、どこに置けばよろしいかしら?」
「そこの籠に‥‥、ああ、これは傷がないね。これはそっちに頼むよ」
 ひとりの農夫が、中身の少ないほうの籠を指差した。傷物は悪くなるのが早くなる。保存するのであれば傷のないものに限るのだ。
 それを聞いたシータルは、いっそう丁寧に土を掻き分けた。
 羅喉丸(ia0347)もまた、豆の畑に入っていた。
 片田舎の暮らし、土の記憶。子供のころの思い出。鍬の重さ、土に食い込む感触。踏ん張る足の裏が畑に沈む。
 子供のころより、よほど簡単に土は持ち上がった。慣れた動作とギャップのある力加減。回数を重ねればすぐに感が戻り、体に馴染む。
「体にしみついた記憶は消えないか」
 振動を与え、鍬の端から少しずつ土をこぼす。その中に臙脂色の粒を見つけて拾い上げた。小豆だ。
 探せばまだ見つかりそうだ。少しでも冬を越すための足しにならないかと、地味な作業を続けた。
 生良もまた、無事だった野菜を見つけて選り分けていた。ざっと選別して、それからもう一度、だめだと判じたものを分別にかかる。
 状態のひどく、食べられそうにないものの中からましなものをもらいたい、と思っていたが‥‥。
「ダメ‥‥ですね」
 どれもこれも、どう考えても可食部がない。虫食いだろうが皮だろうがヘタだろうが、食べ物は食べ物。秋の収穫をまるごと台無しにされた農家は、もとから切り詰めていた食生活をさらに切り詰めているようだった。
 フェンリエッタは既に作物もすっかりなくなった畑で鍬を振るっていた。慣れたようにざくざくと鍬を入れ、土を掘り起こしていく。
 畑仕事。子供の頃から手伝っていた。
(正確には‥‥皆のお邪魔をしてた、かも)
 くす、と小さく笑う。握る鋤の感触。土のにおい。畑に混ざる石をまとめて畦に放り投げた。
 厳しさも含め天と土地の恵みを実感できるお仕事、フェンリエッタはそう思う。
 冬栽培に向けての畝作りは、全面的に賛成された。種は少なくなっているが、やらなければ冬は越せないからだ。
 地道に豆の畑を調べていた羅喉丸も、それが終わると耕しにかかった。村人とやりかたを確認して一気に耕そうとする。
「昔が懐かしいな」
 ざくざく進める。生良も石や木など、邪魔なものを見つけてはどかしていった。

●狩り
「‥‥…皆の者も頑張って過ごしているのだ、我々が頑張らなくてどうしようというのだ」
 雨下 鄭理(ib7258)は、意見調整をまず行った。村人の希望を聞きだし、担当に報せ、食い違いを調整する。とはいえ喪失が大きすぎてあまり具体的な希望は出ないし、それゆえ喧嘩も起こらなかったが、家屋が必要なのか家財が必要なのか、そういった大雑把なことを行うだけで、開拓者側とのやりとりが潤滑になった。
 それから蒼雀姫と共に森へ行く。狩りのためだった。
「姫がんばるよ!」
 蒼雀姫は抜足を使ってゆっくりと進んだ。獲物を見つけるのはだいぶ手間取ったが、発見さえすれば鄭理がおびき寄せ、蒼雀姫の打剣で精度を上げた手裏剣で片がついた。
「えへへ‥‥おいしい燻製ができますように!」
「‥‥蒼雀姫殿。‥‥練力は、大丈夫か?」
「あっ、そろそろかも! ていりんありがとー!」
 礼を言って蒼雀姫は薬草採取に加わり、鄭理は猪を担いで戻り、手早く解体して血抜きを始めた。

●採取
 森の中は静かだった。
(自分にできことがあるなら‥‥惜しんでいては駄目ね。
 大変な時だからこそ、助け合わなきゃ)
 そう思って、柚乃(ia0638)は八曜丸と共に森に入る。
「あ、八曜丸! それは毒草だから食べてはダメ」
「も、もふ!?」
 はぐり、と齧った葉っぱを慌てて吐き出す八曜丸。そんな相棒と共に、柚乃は薬草を探して回った。
 黙々と薬草の採取をするのは瀬崎 静乃(ia4468)。他の開拓者や村人も探して摘んで籠に入れる。地道で地味な作業だ。静乃は周囲を警戒し、人魂を飛ばしつつ薬草を摘む。
「‥‥あの、この薬草も使えると思うのですが、問題ないですか?」
 薬草について学んだこともある静乃だが、知識のすりあわせや事実の確認は怠らない。熊笹を示す静乃に顔を上げた男が頷いた。
「ああ、大丈夫だ。‥‥あんた、ちゃんと勉強したんだな。でももう少し摘んでも平気だぞ」
 すべて採取せずに残しながら摘んでいったそのあとを見て、薬師もどきだという男は笑う。
「‥‥なるほど。実際に経験すると、やっぱり、また違う」
 静乃はひとつ、また確認した。
 菊池 志郎(ia5584)も籠を持ち、森の中へ分け入っていた。
(戦は終わっても、復興には長い時間がかかるでしょう。
 全てを助けることはできないけれど、少しでもお手伝いできれば)
 キノコや木の実なんかが見つからないかな、と木の根元や枝等をじっくりと観察する志郎。
(村が荒れていたとしても、森には恵みが残っていればいいのですが‥‥)
 あながちその期待は外れておらず、比較的安易にいろいろな食用の植物が見つかる。桔梗の根っこは薬効も期待できる上に食用にもなるし、栗が落ちていたりもした。
 間違い防止に携帯した野草図鑑で確認し、大丈夫なのを確かめたきのこを籠に放る。ついでに桑も見つけたので、枝を切り取って一緒に放った。
 いろいろと集めるうちに籠がいっぱいになり、それを抱えて村に帰る。
「どこに干したらいいですか?」
「そこの納屋をお使いください。‥‥たくさん見つけてくださったんですね」
 顔をほころばせる村娘にきのこを渡し、他の収穫物のところへ持っていってもらう。それから納屋を借り、葉を括って吊るしたり、枝を切りそろえて乾かしたりする。一通り収穫物がさばけてしまうと、今度は作業台に紙を広げた。
 薬草図鑑も脇に開き、種類と効能を表にしておいた。
「ばば様にたくさん‥‥教えて貰ったの」
 柚乃も人を集めてできるだけ村人に知識を教えた。

●家
 主の居なくなった家に黙祷を捧げるのは、ジルベール(ia9952)だった。
「あんたらの家からもらった木材で皆の家が修復できるわ。有り難く使わせてもらうな」
「申し訳ございません、皆様の為に使わせていただきますわね」
 マルカも一礼し、ポイントアタックで要所を破壊し効率化を計る。屋根を剥ぎ取り、壁を引っ剥がし、柱を切り出して。
「古鉄はまとめてよこしてくれ、釘にでも打ち直すわー」
 翠牙が錆びまくった鍬を束にして担ぎ、声をかけていく。彼は砥石でがりがりと錆を落とすと、刃をつけてさっさと次の刃物を探しに行った。
 リア・コーンウォール(ib2667)はそうして取り出された木材の山や道具の山を見て、なぜか苦悩していた。しばらくの後に我慢ができず、長さや厚さ別に整理を始める。
「‥‥?」
 水を運んでいたおばさんが、不思議そうに見ていた。視線に気づき振り返り、ばっちり目が合う。
「はっ!? こ、これは‥‥その、少しずれていたので直そうとだな」
 顔を赤くして説明するリアだった。にっこりとおばさんは微笑んだ。
「忙しいときには損な性分だねぇ。でも、いいお嫁さんになれるよ」
 片づけが好きなのは美点だよ、と笑うおばさんに、ますます顔を赤くするリアだった。
 他にも、材料を運び込んだのは十野間 修(ib3415)だった。釘等の金物、漆喰等の補修材料を買い込んできたのだ。現地調達の限界をカバーする資材が提供され、ぐっと作れるものの幅が広がる。
「店を守る妻の分まで、義父母共々復興の為に出来ることをしましょうか」
 愛用の大工道具を下げて、手斧と掛矢、荒縄を手にした義父明王院 浄炎(ib0347)と共に取り掛かる。
(我らが開拓者として過ごして行けるも、全ては人々が必要としてくれるが故‥‥。
 我らに出来る事を成すとしよう)
 生活基盤を支える人々のため。浄炎はそう、考える。
 修は比較的状態のよい物件から手をつけた。
 ――少しでも早く一人でも多くの住民が雨風を凌げるように。
「雨風すら凌げないのでは体が持ちませんからね。完全修復よりも、住める家を一軒でも多く増やす事を優先しましょう」
 補助に回るつもりの浄炎は特に異論もなく、頷いて力仕事に回る。
 邪魔になる瓦礫撤去、整地。それから家屋の状態も見て回る。
「だいぶ柱が歪んでおるが、この程度ならばまだ直せそうだな」
 傾いた柱を見て診断を下し、傾きを戻していく。
 ジルベールも、解体した家に縁深い人へ優先的に材料を回していた。
(形見‥‥みたいなもんかな)
 主に加工に回ったマルカから材料を受け取り、破れた外壁を張り直す。釘を打つ乾いた音が村中に響いた。
「これと言って得意なものはありませんが、体力と根気だけはありますので」
 そう言う和奏(ia8807)もまた、地道にカンカンと釘を打っていた。やたらと根気のある‥‥、ひとつのことをえんえんと続ける苦痛をあまり‥‥ほとんど‥‥まるで‥‥感じない彼は、黙々と作業をこなしていく。
 地道に木材に鉋をかけて平らにし、地道に釘を打ち付けていく。芸術的センスというよりは、技術的で無難な仕上がりとなる。それは下手をすると欠点にもなりかねないが、今回はもとよりシンプルな生活を営む農村の修繕だ。こまごまとした機能よりは単純で頑丈なものが求められる。ある意味うってつけだったりもした。
 和奏のみならず、何人かは村人たちに形や機能についての注文を尋ねたものの、直ればいい、との返事しかなかった。もとより複雑な家屋をあまり必要としないし、失ったものが多すぎて思考がそこまで回らないのだろう。面白みはないが、綺麗に修繕していった。
 リアは材木や道具の運搬を担って、あっちこっちと現場を走り回る。
「すまん、ちょっとこれを押えていてくれませんか」
「ふむ。了解した、私は構わないよ。よろしく頼む」
 村人が壁にあてがう板を示し、リアはそれを固定した。
「こういう感じでよろしいだろうか? む?! こう‥‥か?」
「はは、ずれなきゃそれでいいですよ」
 間違っても大雑把ではなく、こういうところが几帳面なリアはきちんと端と端を合わせて手で押さえつけた。釘を打ち込んでいく音と振動を感じる。
 大工の跡取りだと、ジルベールも気さくに周囲へ声をかけていた。
「家以外にも壊れて困ってるもんないか?」
「ええと‥‥、大丈夫です。とりあえず、家があれば生活できますから」
 微笑んで、村人は彼に礼を述べた。

●食事
「まゆが一番行動出来るとなったらこれしかないですもの」
 礼野 真夢紀(ia1144)が購入してきたのは、芋や穀物類の当座の材料と調味料等だ。村ひとつ。たかが村とはいえ、数十人で済む話ではない。山ほどの材料を荷車に乗せる。
「小父様、修さん、荷車引くの手伝ってもらえません?」
 炊き出しを請け負う開拓者や、担当外でも食料を持ち寄った開拓者は少なくなかった。それが続々と村に運び込まれ、積み上げられる。
 唖然とする者、手放しで喜ぶ者、しきりに礼を述べる者。衣類や医薬品の寄贈もあり、それらは必要とする者へなるべく平等に振り分けられる。安堵の吐息をついた村長は、大慌てで提供者を探して回って礼を述べた。
「廃材を割って薪にしてきたのでな、炊出しや当座の燃料にでも使って貰ってくれ」
「ありがとうございます、小父様」
 浄炎から燃料も受け取る。
「猪がとれたそうですからそれで芋煮鍋しましょうか?」
「保存食に回したほうがいいんじゃない?」
「そうですね。では、芋の茎がかなり無事でしたので。皮を剥いて水にさらして、これと蒟蒻を炒め煮にしましょう」
 畑に行った皆から集めた材料を、真夢紀は手早く調理しはじめた。
 そうして作り出すと、じっ、と見つめる視線を感じる。まだ小さな、働けるかどうか怪しい年頃の子供たちだ。気づいたフラウ・ノート(ib0009)は手招きする。しゃがんで目線を合わせ、笑いかけた。
「お腹減ったのかしら?」
 こくり、小さな頭が頷く。ふわり、優しく微笑んだ。
「なら、あたしの手伝いしてくれる?」
「うん」
 そうして子供たちも連れてきて、皮むきや水洗い、そんな簡単な仕事を与えた。もとより子供も労働力、フラウの教えるのをすぐに理解し飲み込んで、拙いながらもしっかり手伝う。
「おーし! 協力ありがとー♪」
 気を配ってフォローしながら完成させる。わぁ、と子供たちから声が上がった。
 マルカが買った材料で、佐羽もおでん作りだ。村の女たちと手分けして材料を切る。鍋に具を放り込み、煮立たない程度の低温で煮込む。あちこちで出た野菜の皮は刻んできんぴら。だいこんやにんじんの葉はヘタごと水栽培して味噌汁用にとっておく。たまねぎの皮も捨てない。お茶にも出汁にもなる。
 ラヴィ(ia9738)は、主に家屋修理を担う現場への配膳を担当した。
 炊き出しも手伝いつつ、大量に米を炊いておにぎりを作る。塩に鮭、梅、高菜とこんぶ。各種味を取り揃え、お漬物も添える。
 てきぱき作っていると、匂いにつられてやってきた子供もいた。明るく彼らを招いたラヴィは、一緒におにぎり作りにとりかかる。
「手を綺麗に洗ってから‥‥そうそう♪ 三角に♪ お上手ですわ♪」
 できあがったものは、作るのができないようなぶきっちょさんか、もっと小さな子供たちが箱詰めにする。
 仕事があれば気が紛れるだろう、という気遣いもそっと込められていた。それが子供でも、きっと同じだろうと。

「ジルベールさまぁ〜♪」
 ぶんぶんと手を振り、愛情を振りまく勢いで声を上げるラヴィ。
「はい♪ お好きな高菜のおにぎり、お持ちしました♪」
「待ってました」
 ラヴィに続いて、子供たちも配達にかかる。あたたかな米の香り。緑茶の熱さ。
「家は元通りにできても、人の心が元通りになるんは時間かかるんやろな」
 夫の呟きに、ラヴィも頷く。
「でも自分に出来る事をやるしかないな。さ、もうひと頑張りしよか」
「たくさん召し上がって、たくさんのおうちを直して差し上げて下さいませね」

●子供
(気持ちは直ぐ切り替えられずとも、切欠の一つになれれば)
 こわばったような顔で笑う少女を見かけて、玖雀(ib6816)は歩み寄った。
 そっと頭を撫でる。戸惑ったような瞳が玖雀を見上げた。さらさらと少女の髪をすき、愛しげに結い上げる。芙蓉の花を一輪手折って髪に差し、美しく整えた。主へ、するように。
「さぁ出来た。小さなお姫さま、とてもお似合いですよ」
 目線をあわせて頭に手を置く。髪ごしに伝わる体温。気が緩んだのか、じわり、と涙が滲んだ。
「う‥‥」
 玖雀はそっと、そっと指先で涙を拭い取った。そのまま頬に手を添えて、上を向かせる。
「笑ってください。俺は貴女の笑顔が見たい」
 少女の唇がわななく。それでもゆっくりと笑みをかたどり、潤んだ瞳で微笑んだ。
「あぁ、それでいい。ご立派ですよ」
 少女に微笑み返して。ふと周囲の視線に気づいて振り向くと、じ、と見上げる子供たち。
 一瞬のにらめっこ。そして。
「あたしも!」
「うわ、ちょ、待て! 順番に並べ!」
 途端にペースの崩れた玖雀に少女はきょとんとして、そして、微笑んだ。
 ティア・ユスティース(ib0353)も、子供を誘って遊ぶ。年齢の低い子供が多いので自然と単純な遊びになった。鬼ごっこ、かくれんぼ、影踏み。
 合間に口笛や心の旋律を奏でた。少しでも心が癒せれば‥‥、そう思ってのことだった。
「皆さんはどんな曲が好きですか?」
「あめのうたー」
「ちいちゃんのおうたー」
 ティアの問いかけに、舌っ足らずな返事が返る。
「こちらの村のお祭りの調べや、童歌など、教えて貰えませんか? みんなで一緒に歌いましょう」
 不ぞろいな民謡が流れる。正しい音程はわかりそうもなかったが、未成熟の声帯は単純に歌うことを楽しんでいた。そうして遊んでいると、夕暮れにはマルカやフェンリエッタも加わって合唱となる。
 相変わらずにばらばらな音程。屋根の上から、炊事場から、道端から、畑から。
 呼応するように、好き勝手な音程で同じ節の歌が響いた。ひどく哀切を誘う歌い方、奇妙に陽気な高い声。あるいは唇を閉ざして沈黙を続ける喉。

 炊き出しに行くつもりだった无(ib1198)に、わっさー、と鈴なりに群がる子供たち。
 ――まぁ遊びますか。
 方針変更して、无は子守に回った。はて、どこで遊ぼうか。ちびっこを観察して考える。
 明るさの中に、かすかな不自然さを見つけ出す。違和感。だから无は、声をかけた。
「笑いたければ笑えばいい。泣きたいことがあるなら泣いてもいいのさ」
 笑顔が消えて、唇が引き結ばれた。ぎらぎらと強い瞳が无を見上げる。
「人目に付くのが嫌なら森へでも行き一緒に泣けばいい、騒ぎたければ大声出したければ出せばいい」
 反論するように唇が開かれた。一瞬早く、无は言った。
「それをしてもいいのだから」
 泣き声が聞こえる。子供らしくない、泣き声。森の奥へ消えていく。
 慟哭。
 それは、慟哭だった。
 ぎゅ、と残った子供が无の手を握る。
 空は青かった。空気は乾いていた。
 声はいつまでも、途切れはしなかった。

●衛生・医療
 明王院 未楡(ib0349)が取り掛かったのは、衛生管理だった。布製品の補修や洗濯をはじめとする住環境の改善。人手確保に、少し年嵩の子供に声をかける。
「お手伝いをして貰っても良いですか」
 にこっと笑って、小さく割った甘刀を配った。
「何をしたらいいですか?」
「折角ですから‥‥お日様の香りのするお布団で寝れるようにしましょうね」
 というわけで、布団干し。片っ端から布団を引っ張り出し、屋根や縁側に並べていく。怪我人や病人、赤ん坊や妊婦の寝具を優先。洗濯もして綻びはつくろっていった。
 天気は良好、夜にはぽかぽかの寝具に横たわれることだろう。
 少しでも早く、生活を立て直せるように……、洗濯物を干し終えて、女の子たちと針仕事をする。
「あたっ」
「慌てたらだめですよ」
 間違って指を刺した子を宥め、次々につくろっていった。
 御鏡 雫(ib3793)もまた、道具を抱えて回診していた。雫も未楡と同じ条件で優先順位を定め、あちこちの家に出入りする。
(助けを求む傷病者が居るならば、いずこであろうと出向くのが医師の心意気ってもんさ)
「大丈夫かい? 痛いのは‥‥ここかな?」
「っつ‥‥」
「骨折か‥‥、安静にするしかないね。包帯を替えとこうか」
 てきぱき手当てする。
「大丈夫。すぐに良くなるよ」
 声をかけて安心させ、忙しく次へと回った。木材の運搬を手伝う少年たちとすれ違う。
「悪いけど、調子の悪そうな人が居たら教えておくれよ。すぐに向うからさ」
「じゃあ……、三軒向こうのばあちゃんお願いできますか?」
「もちろんだよ」
 しっかりと請け負って、患者のもとへ向かう。ぺこり、とその背中に少年が一礼した。

●終わりに
 畑では、シータルが感謝の言葉を述べてお辞儀をした。こちらこそ、と村人の言葉が返る。
 柚乃は墓地に花を供え、祈った。琵琶で鎮魂の音色を奏でる。
 静乃もまた、帰る前に立ち寄った。一つ一つの墓前に律儀に立ち、黙祷を捧げて降霊の鈴を三度鳴らす。
「本当の戦いはこれからか」
 ぽつり、羅喉丸は静かに呟いた。