【合宿!】最終戦
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/19 19:34



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 駿龍を飛ばし、いつもの場所に行く。そこにはいつもと違って、何本も棒切れが地面に突き立てられていた。
「湯花ー、おーい‥‥湯花?」
「あっ、な、何?」
 ぱさぱさおかっぱが振り返った。息が弾んでいる。浮かれているのではなくて、息が整ってないがゆえだろう。手に持つ木刀が理由を物語っていた。
「何、今日お前修行だっけ?」
「違うけど‥‥、だって、なんか悔しいじゃない。庇ってもらってばっかりで。せめて足引っ張んないように、戦況くらいちゃんと把握できるようになりたいし、そう言われたし」
 なるほど、地面に突き立てられたいくつもの棒は敵を模しているらしい。すべてを視界に入れつつ交戦する練習、だろうか。
「確かになー。俺は元々遊撃タイプだし、鋼天は我侭で臆病だから保身しっかりしてるもんな。お前がうっかり突っ込んでって敵陣に取り残されんのが一番危ないか」
「うっ‥‥」
「まあなんだ、無茶はすんなよ?」
 む、と湯花は唇をひん曲げた。この幼馴染に無茶を心配されるのは心外である。
 けれど真樹は笑って、都竹さんの依頼見つけたけど、と湯花を誘った。

 村に着くと、都竹は珍しく先に説明を始めた。今度はのぼりも垂れ幕もない。そろそろそれが無益だと気づいたのか、忘れているのか、アイディアがなかったのか‥‥?
「ま、そんなわけでー、残すは例のでか黒ちゃんとちびズだけなんですよね。ぶっちゃけわたしが出張って倒しに行ってもいいんですけどー。
 せっかく合宿なんですから、そんなもったいないことできません☆」
 どんなところがもったいないのかよくわからないが、とりあえず都竹の中では、都竹がアヤカシを倒してしまうのは『もったいないこと』になっているらしい。
「わたしも偵察した限りではー、谷底から移動していません。たぶんあのへんじめじめしてて涼しいからでしょう☆ アヤカシが湿気好きかはわかりませんけど!」
 つまり適当なことを喋っているようだ。確実なのは偵察結果であり、どういう場所をアヤカシが好むかは都竹の思いつきらしい。
「今までの敵とくらべるとけっこー強いみたいですがー。まあ、がんばってくださいね! がんばればちゃんと倒せますから!」
 たいへん無責任に言う都竹は、やっぱり最後まで都竹であった。
「あ、でも、今回は別に村の防衛に残る必要ないですしー、必要ならわたしもついて行きますよ? 壁役くらいならやりましょう!」
「壁? 志士ってそんなに耐久性あんのか? どっちかってーとオールマイティな感じだと思ってたけど」
 真樹が首を傾げた。都竹がにこっと笑う。
「だってこれは合宿ですから! 皆様の訓練に、わたしが出しゃばっちゃだめじゃないですか!」
 合宿ってタテマエじゃなくて本気だったのか‥‥、三人衆の心が一つになった。どうやら都竹は本気で合宿を提案していたらしい。目的と手段が逆になるケースはよくあるが、彼女は典型的な本末転倒になるタイプのようである。

「では皆さん、とりあえずこちらへ☆ あ、飛んでついてきてもいいですよー」
 そのあと問答無用で都竹が開拓者を連れてきたのは、風信術のための物見櫓のような場所だった。上まで昇ると、村を一望できる。で、一望すると、村の中心みたいな広場にカラフルな文字が書いてあった。文字というか、たぶんあれは塗装した木材を担いだ人間だ。それぞれ長かったり短かったりする木材を頭上に掲げている。それがちょうど、上から見ると『おいでませかいたくしゃさま』となっていた。別に忘れてもいなければ無益を悟ったわけでもないらしい。フィナーレに相応しい規模‥‥と言っていいのだろうか。農作業ほっといて村人に何させとんじゃ、と湯花は思ったが、とりあえず沈黙を選んだ。無難といえよう。
 きれいに文字が並んでいるのを見て、うん、と満足げに都竹は頷いた。
「都竹さん、いかすじゃん!」
「わかってくれます? もー、村長初めとして皆さん照れ屋で、大反対を押し切ったんですよ!」
 褒める真樹も、押し切る都竹も何かが間違っている気がしてならない。というか、わざわざ持たせなくても地面に木材並べりゃいいじゃん、と湯花は思った。思ったが、都竹が狼煙銃を撃つと、それを合図にわらわらと文字が崩れ、動いていく。ちょっと待っていると、ばらばらになった文字がそれぞれ別のところで別の相手とドッキングし、あちこちにハートや星ができあがった。
(‥‥練習、させられたんだ‥‥)
 湯花は村人たちに心底同情した。真樹と鋼天は大喜びで手を叩いている。湯花も礼儀として手を叩いた。


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
シルフィリア・オーク(ib0350
32歳・女・騎
十 水魚(ib5406
16歳・女・砲
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ
クレア・エルスハイマー(ib6652
21歳・女・魔


■リプレイ本文

 一日目。
 十 水魚(ib5406)は、眼下にひろがるハートや星の鮮やかさに小さく感想をこぼした。
「農作業で忙しい時期に、これだけの準備をされているなんて。ずいぶん歓迎されているみたいですわね」
 まだ本格的な稲刈り前でもあるし、時間をやりくりすればじゅうぶんできることとはいえ、ハンパない労力である。逆に突っ込んだのは神座真紀(ib6579)であった。
「おもろいのは認めるけどさすがに他人さん巻き込むのはあかんで、都竹さん‥‥」
「え? お気に召されませんでした?」
 きょとんとする都竹。そういう話ではない。しかし、言っても通じる気がしない。
「いいんですよ、神座さん」
 カラフルな板を肩に担いで片付けながら、よく台所で一緒になる女が苦笑して言った。
「都竹ちゃんのやることだからねぇ、これくらいは笑っていなせますよ」
 笑っていなせないこともあるが、今回のはマシな部類ということか。困り顔ではあるが、厭っているようではない。
「それより、大丈夫ですかい、その怪我」
「あの‥‥、包帯とか、お持ちしましょうか?」
「旦那が使ってる薬が余ってたかしら」
「ちょっと待ってくださいね」
 あっというまに散っていっては戻り来て、真紀の腕には薬や包帯が積み上げられた。慌てて礼を言い、それから仲間たちに重傷の身をわびる。心配したものはいても気にしたものは誰もいなかったが、やはり少しいたたまれないのかもしれない。
「まゆ攻撃・範囲回復・索敵持って行きますと解毒が持っていけませんの。解毒持って行っていただけます?」
「いいよー」
 礼野 真夢紀(ia1144)の言葉に軽く頷く鋼天。さらに都竹を誘うと、こちらも「オーケーですよー」と軽く返事が返る。そして、彼らの所有スキルを確認した。
「谷じめじめしていましたから、場所によっては非物理攻撃の火炎の方が大蛇に効果あるかもしれませんし」
 三人衆は顔を見合わせた。
「使えます?」
「俺のは無理。飛び回るためのスキルはともかく、攻撃系はほとんど覚えさせてねぇな」
「僕攻撃とか苦手だし。知らなくていいやって」
「うっ、あたしも‥‥、その、まだだけど」
 偏りまくった三人だった。
(さて、三人衆が重傷負うことなく黒蛇を倒し、『合宿』を終えられるよう務めましょうか)
 霧咲 水奏(ia9145)はそんな三人を見て思う。御調 昴(ib5479)も、辿り着くはずの終着点を目前に表情を和ませた。
(いよいよ大詰めまできたみたいですね。最初はどうなるかと思いましたけど‥‥頑張った甲斐があったみたいで、嬉しいです。
 最後の最後、油断して今までを台無しにしてしまわないように、頑張りましょう!
 ‥‥失敗してまた次の機会、なんてなったらまた村人さん達が大変ですし)
 次はどんな無茶をやりだすかわからない都竹。明るすぎるお姉さんの暴走は、このへんで終わったほうがみんなのためだ。
「シルベルヴィント、終わったら好きなだけ空を飛んで良いですからね。あと少しよろしくですわ」
 クレア・エルスハイマー(ib6652)は、最後まで同行してくれた己の炎龍に声をかける。銀色の龍は恭順を示した。

 真夢紀はまず、鋼天と確認をした。どちらかがすぐに回復に入れるように、だ。
「まゆの錬力は出来るだけ攻撃に回したいので、谷での索敵お願いできますか?」
「鋼天殿には回復の他、解毒と結界での索敵を担って頂くのが良いですかな」
 水奏も同意見だ。
「ん、わかった。瘴索結界を張り続ければいいんだよね、切れたらかけなおして」
(拙者は弓術師故、助言できる事は多くはありませぬが‥‥)
 そう思いつつも、水奏は湯花に助言した。
「湯花殿も戦場全てを把握するのではなく、自らの間合いと可能ならば黒蛇の攻撃範囲を意識に残すぐらいでよいかと」
「そ、そんなんで大丈夫なんですか?」
「拙者もそうですし、足りぬ部分は仲間に補って頂ければよいのですからな」
 その横で、水魚が鋼天に声をかける。
「個人的には、巫女の立ち回りが重要だと思いますわ」
 個々の弱点を意識しているのなら、仲間同士補い合う事も出来ますし‥‥、そう考えてのことだった。
「え、僕?」
 鋼天がきょとんとする。回復すればそれでいいだろう、とか思っていそうな少年だ。こくりと水魚は頷き、敵味方双方の状況に気を配ること、回復や支援のタイミングを考えること‥‥、そんなことを教えた。
「前衛は後衛の手を煩わせない様に。後衛は前衛が思い通りに動ける様に。お互いに支え合うのが大事ですわ」

 初日は三人の訓練に時間を割いた。
「真樹君が敵の観察、攻撃指示。鋼天君が能力支援、治療。湯花さんが指示ポイントへの攻撃。真樹君がそれをフォローするのがええと思うんやけど」
「あー‥‥、了解。そうだな、今は俺しかできねーし、まぁ妥当だよな」
 真樹が頷く。歯切れの悪い返事に、真紀は首をかしげた。
「なんか引っかかることあったん?」
「んー。ほら、俺遊撃だからさ、あんま声出して敵に注目されたくねぇっつーか」
「そか‥‥そやなぁ」
「でもたしかに妥当なんだよなぁ。このへんは追々鋼天にやってもらうとして、とりあえず今は俺がやるか」
「え、僕なの?」
「水魚さんの話聞いてたのか、おい。
 回復・支援なら指揮命令もこなせておかしくない。よな、水魚さん」
「そうですわね。でも、一人だけに押し付けずきちんと全員で分け合うことですわ」
「ま、手一杯なら俺もフォローするし。かわりに湯花、前衛キバれよ!」
「が、がんばるわよ!」
「連携に必要なんはお互いの信頼やろな。せやけど相手に信じて欲しかったらまず自分が相手を信じんとな。自分を信じてくれん人を信じる気にはならんやろ?」
 真紀が言う。
「まぁなんやかや言うても幼馴染。大丈夫や」
 その言葉に、に、と真樹は彼女の目を見て笑った。しょうがないなぁ、といった顔で鋼天が肩をすくめる。そして、湯花は神妙に頷いた。
(湯花さんは色んなパターンが頭に入ってれば、慌てず対処できて大分強くなりそうですよね)
 昴は思う。今は欠点ばかり‥‥というか欠点にしかなっていないが、たしかに型をきれいに覚える努力と正確性はありそうだ。
 訓練‥‥とはいえ具体的に誰かと打ち合うのか、仮想敵を想定して動くのかを決めていなかった開拓者たちであったが、結局今回の敵は人ではない、という理由で仮想敵を想定しての訓練となった。
「頭上から来てます!」
 昴が声を飛ばす。湯花は刀を頭上に振りかぶり、そして敵を吹き飛ばすように振り払った。
「混乱しちゃったらとにかく一度下がって、敵を視界に収める!」
「は、はい!」
 解答をつけることで実戦の時に動けるように。それが昴の示した解決策だった。

 真樹は特に訓練方法を指示されることもなかったので、あぐらをかいて座り込み、目を閉じて黙々とイメージトレーニングに耽っているようだった。時折いらいらと手や足が動くのは、好き勝手に動けず湯花に指示を飛ばす、という手間が挟まっているせいだろう。根本的にこの少年は、そういった他人を補助することに向いていないようだ。
 鋼天のほうは最終的に何をしていいのかわからず、真樹の真似をして舟をこいでいた。こっくり、こっくりと頭が揺れている。緊張感がないのはいいことなのか悪いことなのか‥‥。らしいと言えば、それまでなのだが。

 そんなこんなで実戦、二日目。
「壁っていうことですけどー、わたし、でかちゃんとちびちゃん、どっちの壁やったらいいんですかー?」
 素朴な都竹の疑問に、けれど沈黙がひろがった。誰も考えていない。
「‥‥俺らと一緒でいんでね? 敵の数多いし」
 そんなボケた会話をよそに、崑崙に騎乗した水奏は、弦を弾いて反応を探った。いくつかの反応をとらえる。
「崑崙、頼みまする」
 高度を下げて低空飛行、ついでに木々をなぎ倒すよう指示を与える。木々にぶち当たりに行く崑崙。そこまで太くないものは普通に倒れるが、何と言っても山の中。多少とはいえ、面積を確保するには地道な作業となる。
 広い場所なら先に確保して、あとから蛇ズを誘い込んだほうが手っ取り早かったかもしれない。

 全員にアクセラレートを付与しようとして、クレアは若干とまどった。効果時間は約三十秒、クレアが十秒間に使えるアクセラレートは二回。全員にかけるなら五十五秒は必要。かけた人から前線に行けば袋叩きにあうし、全員にかけてから、というわけにもいかない。三十秒以上効果がもたないためだ。戦闘中に支援魔法として使うにしても、戦端がいちど開かれればクレアは大きいほうの相手に行くため、味方との距離を三十メートル以内に保てる保障もない。
 アイスブルーの瞳を一瞬だけ伏せて、クレアはアクセラレートという選択肢をばっさり切り捨てた。かける優先順位もつけていないのだから、ここで悩むだけ時間の無駄になる。
 決めたとなればあとは早い。つり目がちの瞳が湯花を映した。
「慌てないで、今までの経験があなた自身に教えてくれるわ。そして、これはお守り『我は与える輝凜の鎧』」
 光が湯花の身体を包む。
「わ‥‥」
 着せられた力に目を丸くし、ぱっと破顔する。
「いってきます!」
 手に持つ綱をぴしりと叩き、くん、と高度を一気に下げていく湯花。
「さあ、行きましょうか。ただし、スマートに、ね?」
 シルベルヴィントのうなじをぽふぽふと軽く叩き、クレアは先んじてでか黒蛇に向かった。
 まっすぐにでか黒へ向かったのはシルフィリア・オーク(ib0350)。彼女だけならぱくりとひと飲みにしそうな口がぐわりと開く。
 片手で手綱を握り締め、霊刀「ホムラ」をもう片手で振りかぶる。刀身にオーラを集中させた。鋭い牙の並ぶ口が迫る。大きな羽ばたきと共に、ウィンドは直前で回避した。太すぎる首、まっすぐに続く胴。がら空きのその脇から、集めたオーラを解き放つ。
 オーラショット。非物理攻撃はそれなりに脅威と思ったか、その頭がシルフィリアに向けて固定される。ちろちろと紅い舌が揺れた。
「我は振るう、雷神の鎚!」
 雷光、そして電撃。迸る光が漆黒の蛇を撃ち抜く。巨体が一瞬びくりと跳ね、めきめきと周辺の木々をなぎ倒す。それから鎌首をもたげると、ほおずきのように真っ赤な目がクレアを睨んだ。

 水魚は花鳥を駆り、マスケットを構えた。銃口を、鎌首もたげた大きな蛇に向けて発砲する。たいして傷ついたようにも見えない。
「銃の弾を弾くなんて、どんな鱗をしてるんでしょう」
 他の皆がちびズとの間合いに入るのを確認して、花鳥を駆る。マスケット銃から魔槍砲に持ち替えた。
「新しい武器だそうですが、使い心地は如何なのでしょうね」
 銃口のない、銃弾の飛ばない、けれど銃によく似たもの。まっ平らな切断面をちびズへ向けた。撃つ。
 火が吹いた。多少の距離などものともせずにちびズの一匹に当たった。
 矢を番え、引き絞る。衝撃刃が水奏の肩を裂いた。腕はゆるめず、かえって敵の射線から潜む位置を割り出して矢を放った。
 もとから視界が悪いので不利ではあるが、繰り返すうちにいくつかは命中した。少しばかり木々をなぎ倒したここへ誘い込めれば、と思ったのだが、そうやすやすと、というか、意味もなく出てくる気はないようである。噛み付く対象がいないのだから、わざわざ出てくる理由がないようだ。
 真夢紀は攻撃を鈴鹿に任せていた。ちびズの一匹にソニックブームを放つ。それはじわじわとちびズを追い詰めていたが、龍や鷲獅鳥は抵抗力が高いわけではない。地上からの攻撃は、乗り手より先に朋友を攻撃していた。それを癒すのに真夢紀が専念、ごりごりと余裕がなくなっていく。
「前衛の穴を埋めないと‥‥!」
 砂迅騎の昴も、真紀の抜けたかわりに前衛でケイトを駆る。戦陣「槍撃」を使うために少しばかり下がり、湯花や鈴鹿、水魚や水奏を範囲内におさめた。がっつり攻撃力を上げる代わりに防御が下がるのだが、幸い相手は知覚寄り。たいしたデメリットではない。昴自身は遠めのちびズで衝撃刃を放ってくるものを優先して狙いを定めていた。とはいえやはり木々が深く、視認が難しい。騎乗していることを差し引いても、あきらかに命中率が落ちていた。
「湯花! 右のだけに集中しろ、他は無視! 鋼天! ひたすら湯花の炎龍回復! 真夢紀、悪ぃが他頼む! 鋼天の回復は回せねぇ!」
 敵の攻撃圏外から手裏剣を飛ばしつつ、ついでに指示も飛ばす真樹。完全に前衛としての役割を放棄している真樹だが、戦況把握と司令塔と敵への攻撃で手一杯、自分と朋友の生命力まで把握してられっか、というのが実情だった。
 そんな中、真紀はほむらにヒートアップ、龍の牙のコンボで攻撃をさせていた。水奏が切り開いた場所に出てきた蛇を対象とし、一気に肉薄して蛇を噛むほむら。じたじたと暴れるそれを、剣気で威圧した真紀。槍を構え、強打を使って貫き通す。
 包帯からにじむ血。いつも通りの破壊力が叩き出せない。
「真紀さん、戻って!」
 昴が叫んだ。槍に貫かれたまま、蛇は猛然と這ってきた。振り払う間もなく噛みつかれる。
「っ‥‥」
「湯花ちゃん引き上げて!」
「えっ?」
「真紀さんの治療行くから! 湯花ちゃんいたら僕動けないよ!!」
 慌てて湯花が上昇する。発砲音。昴の放った銃弾が蛇の頭を打ち抜き、尻尾をほむらが食い千切った。瘴気に戻る蛇、ほむらが羽ばたいて空へと戻る。
「大丈夫?」
 解毒しつつ鋼天が案じた。
「まだぜんぜん平気なんやけど‥‥、なんや、えらい心配させてしまったみたいやな」
「あー、ごめん。つい神経質になっちゃった」
 それから、シルフィリアやクレアも引き揚げてきていた。仲間の損傷が酷くなる前に、と思っていたシルフィリアがすこし眉根を寄せる。全体的に朋友の消耗が激しい。
「何匹倒せたのでしょう」
 水奏の言葉に、空を飛びながら報告しあう。七匹。目標にはすこし足りない。でか黒蛇もまるっと残っている。
 いろいろな面で効率が悪かった。生命力の高いメンバーが盾になる必要があったし、さらに言えば抵抗の高い後衛であればちびズの攻撃など、受けてもたいした傷にはならない。敵の攻撃射程圏内に抵抗の低い朋友をぞろぞろ連れていったため、真夢紀と鋼天はほぼ回復のみで練力が尽きた。
 そして、射撃に頼るのなら射線と視界の確保が大事だっただろう。
 村に降り立つと、都竹はくるり、と振り向いて戻った全員を見渡した。そして、とても珍しく神妙な顔をして口を開く。
「朋友のダメージの把握はしないとまずいです。特に生体系は取り返しがつきませんから、強い敵と戦うなら気をつけてあげないと。絆が強く結ばれている限り、朋友は開拓者の言うことを聞き続けるんですから。
 あと細かいところは皆さんいろいろ思うところあるでしょうしー、わたしからはそれだけです☆」
 最後には普段どおりに締めくくり、わたしは整備してきますね! と家へ帰っていった。

 翌日は空と地上に別れての行動だった。
 上空には鈴鹿と真夢紀、水奏と崑崙、ウィンド、昴とケイト、クレアとシルベルヴィント、水魚と花鳥、真紀とほむら。
 地上はシルフィリア、そして三人衆と都竹、であった。朋友の回復に疲れた鋼天と、戦闘中に朋友の面倒まで見切れなくなった真樹は早々に相棒を空に放っている。湯花は二人に流されただけだ。彼らの朋友はまだ弱いので、妥当かもしれない。
 鏡弦で索敵した水奏は、反応を返す個体がぐっと減っていることに気づいた。確実に数は減っている模様。
 オーラドライブをかけてから、シルフィリアはオーラショットをでか黒に放った。
「シルフィリアさん!」
 真夢紀が声を上げた。
「そのままこっちに誘導してください。開けたとこに来てもらいたいんです」
「了解、ほらほら、あんたの相手はこっちだよ」
 重たい攻撃をガードで耐え、山道を駆け出す。
「我は駆ける砂漠の風!」
 クレアがアクセラレートをシルフィリアにかけた。明らかに、今彼女に必要だろう。高確率で先手を取れるのだから。
 水奏は心毒翔をでか黒に放つと、地上へ声をかけた。
「真紀殿」
 崑崙の上から矢を射て、でか黒にくっついてくるちびズの気を引く。意図を察してにやりと真樹は笑った。
「よし、湯花行くぞ!」
「へ」
「遊撃!」
「ちょっ‥‥」
「置いていかないでよ!」
 一匹を捕まえて袋叩きにする三人。見る間に走るチームからは引き離されるが、よってたかって一匹仕留めた。ギャーとか言いつつ鋼天も杖で殴っている。
 水魚は花鳥の背から身を乗り出し、散発的に魔槍砲を放っていた。こちらは射程が二十メートル、どうやら向こうさんはせいぜい十メートル。でか黒に絡まれなければ、距離を保って一方的な狙撃が可能だ。そして、そのでか黒はただいまシルフィリアたちに夢中である。
「撃破、ですわね」
 六発目を放ち、瘴気になって消えた敵を目視確認する。リロードに時間がとられる。けれど、連射性が非常に高い。単動作などを持つために枠をひとつ潰したくない、でも連射は欲しい、といったときに重宝しそうだ。魔槍砲もいろいろあるので、使い勝手もそれぞれ異なるのだろう。
 昴も戦陣「槍撃」を展開しつつ、でか黒を追いかけてくるちびズを仕留める。
 真紀はその間、少なくなったちびズの前面に躍り出た。ほむらの背で、槍を構えて突き出す。慌てて昴と水魚が援護射撃を放った。
 一方真夢紀とクレアは、でか黒を徹底して攻めていた。精霊砲が撃ちこまれ、アークブラストがたびたび炸裂する。でか黒が二人へ攻撃をかけようとすると、シルフィリアがオーラショットで気を引いた。
 さすがにシルフィリアでも息が切れそうになるころ。ばっと視界が開け、開けたところに出る。振り向くと、わりとぼろぼろなでか黒がいた。
「我は振るう、雷神の鎚!」
 クレアがすかさず攻撃を放つ。真夢紀が精霊砲で追撃した。
 だぁん、重く揺れを伴う勢いで、でか黒は大地に横たわる。シルフィリアはホムラを構えた。
 ――練力はもうない。刀身を黒い皮へ突き立てた。

 瘴気にもどって消えていく姿を見て、クレアはシルベルヴィントに声をかけた。
「お待たせしましたわね、好きに飛んで良いわよ!」
 いまだ抵抗するちびズ。嬉々としてシルベルヴィントが突っ込んでいく。やがて三人衆も追いついてきて、掃討に加わり。
 乾いたマスケット銃の音を最後に、戦いの音は止む。
「全て片付きましたし、後は打ち上げと反省会ですわね」
 水魚は狐の尻尾を風にそよがせ、ゆっくりと銃をおろした。

 4日目。
 平和な朝が来た。
 エプロンドレスを着て、真夢紀はこの村ではじめて台所に立つ。
「料理大好きですが合宿は気を回す事多すぎて今まで出来なかったんです」
 たしかに、すごく多かった。ようやっと料理を楽しむ余裕ができた最終日。
「せめて料理くらいは頑張って美味しい物作らせてもらうわ」
 重傷を気に病んでいた真紀も、台所の女たちの心配を押し切って包丁を握っていた。野菜はそこそこ、魚も川魚ならいくらかある。肉類はあまりないが、村をコッコと歩いていた鶏が一羽、とっくに絞められて吊るされていた。材料はだいぶ限られるが、そのへんは腕の見せ所だろう。
 台所ではなくて、畑に出ている人もいた。シルフィリアだ。
 一面の薩摩芋畑。葉がやたら密生して、えらく手間取る収穫だ。実に傷がつくと安く買い叩かれるばかりか、早く痛んでしまうので気を遣う。
「‥‥すまんな。合宿とは関係がないだろうに」
「滞ってたんだろう?」
 かたじけない、と一緒に畑に入った村長が頭を下げた。

 この日開拓者たちは、(なぜか都竹も堂々と入り浸り)ささやかな宴を催した。