【開拓者!】甘味修行
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/08 05:40



■オープニング本文

「こんにちわー」
「またあなた?」
 ギルドに顔を出した流和を、呆れ顔で迎える受付嬢。しかし、もちろんそれで怯む流和ではなかった。
「あの、開拓者になりたいんですけど」
「さんざん聞きました。それで? 話では進路は決まったそうですが」
「師匠紹介してください!」
「‥‥念のためにうかがいます。どんな人物をご希望ですか?」
 ええとー、と、流和は指折りながら条件を述べた。
「泰拳士でー、薙刀が上手くてー、剣とか刀とか弓とかが使えてー、補助的に拳とか足とかが使えてー、回復系を教えてくれる人でー。
 あ、あと、あたし村で修行したいです! 村に来てくれるひとで!」
 めんどうくさい条件‥‥、探せばいるが、ゴロゴロ転がってはいなさそうだ。だいたい村に長期滞在するのなら、現役開拓者にはたいへん声をかけづらいではないか。情報の入りづらい田舎の村なんぞにいたら、気軽に依頼も受けられない。
「神楽の都ではだめなんですか? 修行も兼ねて都生活、だいたい開拓者になれば、基本的に神楽にいないと。でなきゃ、だいぶ不便ですし」
「だって、修行してる間に村が潰れちゃったら意味ないもん」
 ぶー、と頬を膨らます流和。ため息をつく受付嬢。
「わかりました、探してはみます」

 数日後。
「ほう、お前さんか。弟子希望というのは」
「はい」
 受付嬢が連れてきたのは、白髪の老人だった。
「お前さんが望むなら、つらく苦しい修行を授けてしんぜよう。しかし――」
 キラン、と男の目が光る。ごくん、と流和は喉を鳴らした。
「弟子入りを認める前に‥‥試練があるのは定番じゃ」
 冷や汗を流しつつ、一歩も引かない流和。その肝の太さに、男はふと口元をほころばせ――。
「いい目じゃの。お前さんなら乗り越えられるやもしれん‥‥この」
 男は、ゆっくりと――告げた。
「甘味作りに――」
「はいっ! ‥‥は‥‥はいぃぃぃぃっ!?」
「なんぞ、その年で耳が遠いのかの」
「遠くない! ちょっと待って! どっから甘味が出てくるの!?」
「お前さんがこれから作るから、まだどっからも出てこんぞ」
「あたしは開拓者になりに来たの!」
「ほぉう、師の言うことが聞けんとな」
「まだ弟子じゃない! なんで甘味!?」
「甘ったるい奴よのぉ‥‥。あんことちょこれーとを足すほど甘い」
「確かにそれは甘いけど! だから、なんで甘味!」
「修行をつけて疲れた師に、毎日弟子が丹精込めて作るもんじゃ」
「疲れるのあたしじゃないの、それ!?」
「弟子なのだから、それくらいはするもんじゃ。あと掃除と洗濯と料理もの。まあ、こっちは適当で構わんが」
「のあーっ! そーゆーの得意なの佐羽ちゃんなのにーっ!!」
 叫んだ流和。そこへ。
 べしっ!
 書類の束で、さっきの受付嬢が流和の後頭部をはたく。
「お静かに。他の方の迷惑です」
「こ、この人やだ! 他の人にしてよ!」
「手の空いてて弟子の育成なんて面倒なことやってくれそうな人、そんなにいません。時間をかければ他にも集められますが、その間の宿泊費などはどうするんです? 犬に噛まれたと思って、おとなしく師事してしまいなさい。腕はいいんですから。腕は」
 受付嬢は薄情だった。

「甘味‥‥甘味かぁ」
 師からの課題は、「ワシの納得する甘味」を作ること。師匠の好きな味をたずねたが、「フツーでいーわい」と言うだけだ。
 が。フツーと言われても、その手の技能が流和にはあんまりない。佐羽を頼ろうにも、佐羽も弟子入り後で忙しすぎる。
 手元にあるのは、師匠探しの軍資金。これで――。
 よし、とそれを握り締め、あの薄情な受付嬢に声をかける。
「すみません。依頼、ひとつお願いします」


■参加者一覧
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎


■リプレイ本文

「流和さんからの依頼はっけーん♪」
 依頼の紙に知った名前を見つけた秋霜夜(ia0979)。
 さてどんな依頼かと、読み進めると。
「って‥‥甘味作り?
 あれ? 修行‥‥は??」
 霜夜の思考を疑問符が乱舞する。かくかくしかじか、手短に説明する流和。
「なるほど。
 師匠獲得のための試練なのですねっ!」
 霜夜はあっさり納得する。が、流和は衝撃を受けた。ショックだった。ものすごく。
(それって納得できるレベルの話なんだ‥‥!? 師匠に失礼なこと言ったかも)
 がーん、と鐘の音が鳴る。残念ながら、リーンゴーン、などというハイカラな音ではなかった。もちろん流和の脳内限定の話である。蘇るでこピンの悪夢、いや違った、模擬線の記憶脳内再生。
 さらに橘 天花(ia1196)は、心から喜んだ。
「数日で流和ちゃんの理想通りの方を見つけるなんて、やっぱりギルドの受付係さんは優秀です! 良い方が見つかって良かったですね☆」
 まったく裏のない祝福の笑みに、流和の脳内でごーん、と鐘の音が(以下略)。受付嬢が聞けばしみじみ感心しそうだが、流和ではこんなものである。
 固まった流和を励ますように、天花は続けた。
「この上は弟子入りを認めて頂けるよう、精一杯頑張りましょう!」
「う、うん」
 がんばる、がんばるけど‥‥。何か違くない? 疑問を言葉にしたのはマルカ・アルフォレスタ(ib4596)である。
「開拓者としての修行をつけてもらうのに、まずは甘味作りでございますか‥‥。何か意味があるのでしょうか?」
「やっぱり不思議だよね、不思議に思ってていいよね‥‥?」
 常識が揺らいで、すがるようにマルカを見つめる。
「え、ええ。少なくともわたくしには見当がつきませんし」
 ほっと胸をなでおろす流和。
「お料理初心者は、まず基本どおりに煮炊の時間を守るのが良いですよね?
 この前アル=カマルへ行った記念に、砂漠の砂を持ち帰りました」
 霜夜がさらさらの砂を見せてくれる。やわらかな天儀の陽光は砂漠を思わせはしないけれど、きらきらと光を受ける砂は夢を掻き立てる。どこまでも広がる砂丘で、風はどこから吹くのだろう。
「わ‥‥ぁ‥‥」
「砂時計にあつらえてプレゼントです♪」
 細工師さんに頼んできます、と、足取り軽く出かける霜夜。
「良かったですわね」
「‥‥うん!」
 頬を紅潮させた流和に、にこりとマルカは微笑んだ。

 ふにふに。白玉粉を水で練ってまとめ、小さめの団子サイズに。不恰好なのはご愛嬌、と言って構わない範囲だろう。沸かしたお湯に白玉投入。
「どうするの?」
「浮いてきたら掬えばいいですよ」
 礼野 真夢紀(ia1144)は簡潔に答えた。
「わかりやすーい」
 時間を見る必要もない、お手軽な判別方法である。
「今回砂糖を入れた黄粉を使いますけど、砂糖降っただけでも良いし冷やして餡を付けても」
「黒蜜もイケそう‥‥」
 適当なことを言いつつ味見。
「ん‥‥、佐羽ちゃんが好きそう?」
「もうちょっとお砂糖入れましょうか」
「ガッツリ入れちゃおうよ。ぜんぜん甘くないし」
「入れすぎてからだと大変ですから。少しずつです」
「はーい。んー、もうちょっと甘くても」
「じゃあ、これでひとまず完成ですね」
 物足りなさそうな顔をする流和。が、今回は流和の好みに作るわけではないのでスルーである。次に真夢紀は買ったばかりのフライパンを取り出した。蜂蜜入りホットケーキの作り方である。材料を混ぜてフライパンを熱し、油を敷いて種を置く。
 鼻腔をくすぐるほんのり甘い香り。でれ、と相好を崩す流和。
「表面に泡が立って裏面が狐色になったらひっくり返してください」
「あ、うん」
 裏も焼いて、竹串で刺して何も付かなければ完成。
「か、簡単だった。簡単にできるんだ‥‥!」
 いつか佐羽ちゃんに自慢しよう! と決意する流和である。
「木苺や薄皮剥いた蜜柑入れても良いですし、甘さ足りないと思ったら蜂蜜を焼いた物にかけて甘さも調節出来ます」
「わお、あれんじばーじょん、ってやつだね」
「片付けて次作りますよー」
「え、まだあるの!?」
 真夢紀の料理のレパートリー、底なしだ。てきぱき動いてさっさと淡雪かんに突入。極論すれば、あわ立てた卵白と溶かした寒天を混ぜて冷やせばいいわけだ。
「黄身はどうするの?」
「卵黄は使いません。次のに流用すれば良いかと」
 まだまだ出てくる真夢紀のレシピ。
(‥‥そろそろ驚くのはやめよう。真夢紀ちゃんだから当然だ、って思うべきだ、たぶん)
 過去の食事の山を思い出し、流和は自分に言い聞かせ、最後のきんとん茶巾を作った。

 あまり手の込んだ物は流和様も覚えるのが大変だと思いますし、と切り出すマルカ。
「それほど手のかからないものをじいやに頼んで教えてもらってきたのですが、お豆腐で作るかりんとうなどはどうでしょう?」
「え、えええ!?
 かりんとう、豆腐? じいやさんが?」
 いつもマルカが持ってきてくれる食べ物は、だいたいジルベリア風。そこにいきなりかりんとう。しかも豆腐バージョン。
「なんだってまた豆腐?」
「お豆腐ならヘルシーだと思いますわ」
 なるほど。流和は頷く。
「ちなみにわたくしはじいやに絶対直接手伝ってはいけないと釘をさされておりますので、口頭でのご指導に留めますわ。わたくしが手を出すと何が起こるかわかりませんから‥‥」
「あ、あははー」
 流和は引きつり笑いを浮かべ、ふと首をかしげた。
「不思議だよねぇ。マルカさん、ドジってわけでもないし‥‥」
 これまでの日々を思い返して腕を組む。家事全滅の精霊から祝福でも受けてるんだろうか‥‥、馬鹿な思考が脳裏を過ぎる。
「たとえばさ、マルカさんが包丁持って、その上から別の誰かがマルカさんの手ごと包丁を握りこんだりしたら、ちょっとは緩和されないのかなぁ」
 雑談しつつ焼き豆腐の水を切り、細長く切る。たっぷりの油で揚げ焼き。あとは煮詰めたシロップを絡めて完成、黒糖と砂糖で二種類だ。
「もうちょっと甘くても‥‥」
「そのあたりで留めて頂けますか?」
「はーい」
 かりんとう、完成。

 続いて気軽にレッツトライ、和菓子の基本、お団子だ。神咲 六花(ia8361)と一緒に団子粉に水を混ぜつつ、耳たぶと同じ固さにコネコネ。
「白玉といっしょだー」
「潰さないけどね」
 同じくお湯に投入。
「浮いてきたよ、六花さん。取っていい?」
「もうちょっと。さっき霜夜にもらった砂時計使おうか」
「うん!」
 いそいそと砂時計をひっくり返す。さらさら、落ちた砂は砂丘のように山になる。さら、最後の砂が、滑るように落ちた。
「そろそろかな。
 水にさらして出来上がり♪」
「おおー! あとは味付け?」
 わくわく、気の早い流和に、はい、と団扇を渡した。はて?
「団扇で扇いでさ」
「ええー! まだなの?」
「あら熱を取らないと。もう一息、がんばろう」
 励ましつつ自分も扇ぐ。多少不満ながらも扇ぎ始める流和。差し向かいで扇いでいたので、より強かった六花の起した風がぶわりと頬を撫でていく。
「‥‥負けないもん!」
 ばたばたばたばた! まったく後先の体力を考えない流和が全力で扇ぐ。
 ひよっことはいえ志体の全力、むやみに六花の赤毛を巻き上げる。粉類を出していなかったのは幸いだった。黄粉なんかがそのへんにあったら、台所が黄粉色にリメイクされるところである。
「それくらいでいいよ」
「つ、つかれたー」
「次は飛ぶものないか、見てから。ね」
 やんわり注意を促され、あはは、と頭を掻く流和。それから待ってましたの味付け。黄粉に砂糖、餡子に黒蜜。みたらしあんを習って作り、淡いみたらし独特の香りに頬を緩める。
 続いて五平餅。赤味噌と砂糖、すりゴマをでタレを作る。ご飯をすりこぎで練り潰して串につけ、焼いてタレをかけ。
「あ。コレいい! お菓子っていうか‥‥、軽食でもイケる」
 もきゅもきゅ二本目に手を伸ばす。全部食べるほど見境なくはないが、一本では我慢できなかったようだ。
「味はどうかな?」
「おいしい。あたしこれ好き」
「‥‥もうちょっと薄めようか」
「あ、ならこれ食べちゃっていい?」
「いいよ」
「やったー!」
 流和が跳ねてる間、マルカはお茶を淹れていた。
(お湯を注ぐだけですので大丈夫ですわ、きっと)
 こぽこぽ、音を立てて急須から湯飲みに注ぐ。お盆に載せて。
「あ、マルカさん。なんだ、できたんじゃ‥‥」
「きゃあ!」
 案の定というか、躓くマルカ。割れはしないが、転がる湯飲み。
 沈黙。
「‥‥いないよね? そんな冗談じみた精霊‥‥」
 思わず家事全滅の精霊説を疑う流和だった。

 霜夜と作るのは茶巾絞り。切って茹でて潰して混ぜて。
「ひとつまみのお塩を仕上げに♪」
「ひとつまみ、っと」
 味付けこれでいいのかな? ふと二人で顔を見合わせる。霜夜も特に考えていなかった。
 しばらく二人でうんうん悩み、ベターに流和と佐羽の好み、それからその中間の味で作る。
「あとは、布巾でキュッっと包めば完成ですー」
 しかし料理は大変だ、とこぼす霜夜。頷く流和
「はっ、もしかして!」
 霜夜がはっとして顔を上げる。
「砂糖を煮詰める時の集中力とか、お鍋の炊け具合から火加減を感じる感性とか、この甘味づくり、すでに流和さんの修行も兼ねてるのかな?」
「え、えええ!?」
「ただの甘味好きな師匠じゃないのかもですね☆」
「そ、そうか。そうなんだ‥‥!」
 みごとに流和、流された。
「終わったかしら」
「あ、未楡さん」
「ばっちりです☆」
 先生、明王院 未楡(ib0349)にバトンタッチ。流和は乗り気でさくさく片付け準備し、細かくした寒天を火にかけて煮溶かす。
「沸騰したら弱火にしてくださいね」
「弱火‥‥、七輪かなぁ」
 火力を足すのは簡単だが、意図して火力を落とすのは難しい。となれば七輪の出番だ。火を移し、鍋を七輪にかけ、砂糖を加える。餡子を少しずつ入れて混ぜ混ぜ。
「いっかいに入れたらだめなの?」
「全体に馴染ませながら入れるものですから」
 ちなみに、一度に入れると混ぜるのがとても大変である。全部混ざったところで味見。
「あたしはもうちょっと甘くてもって思うけど」
「では‥‥」
 さらに、塩と砂糖を一つまみずつ投入。それから少し弱火で煮て、火からおろして冷たい井戸水にあてた。立ち上った水蒸気に一瞬驚くが、幸い火傷などはない。
「全体にトロミが付くまで、餡が沈まないように混ぜてくださいね」
「はーい!」
 ここで冷やしつつ混ぜる、という工程を抜くと、面白いくらい餡子と寒天が分離したものが出来上がるのだが‥‥幸いなことに、流和はその落とし穴にはまることはなさそうだ。
 餡子の濃厚な香りの中で混ぜ混ぜ。だんだん混ぜる手にかかる抵抗が強くなり、トロミが出てくる。
「未楡さん、こんなんでいーい?」
「ええ。あとは固めるだけです。
 取り出しやすいように、器は濡らしてから餡を流し込んでくださいね」
 あとは汲みたての冷たい井戸水で冷やすだけ。お茶も同じく冷やしておく。
「ひと汗かいた後に、お茶と一緒に頂けるのが売りですよ」
「おお‥‥! それはいいです!」
「あとは餡子の作り方ですが‥‥、小豆を一晩水に浸けるところからですから、作り方だけお教えしますね」
 作り方を一通り説明してから、未楡は付け加えた。
「十分に軟らかくなっていない小豆に砂糖を入れて煮込むと逆に硬くなるので注意です」
「りょ、了解です」
 一緒に聞いていた霜夜もこくりと頷いた。

 天花と作るのは鬼饅頭。二口の竈の片方にてあとで使う芋を蒸しておき、残った片方を使う。
「甘藷は賽の目切りにしてくださいね」
「さ、賽の目切り?」
「サイコロの形です」
「‥‥ああ!」
 ぽむ、と手を叩く流和。料理の知識がちょっと乏しかった。ともあれ切ったら水で晒し、半刻後に水を切る。砂糖をまぶしてまた半刻、にじみ出た水ごと白玉粉と小麦粉で混ぜ、拳大にまとめて四半刻蒸して完成。
 燻製用の竈については、庭に組もうかと思った天花だったが‥‥、材料やもろもろの都合で断念。大きなものを作るときは、それなりの事前準備がないと難儀だった。が、どのみち台所に竈があるので、他の作業が終わってから使えば問題あるまい。
「林檎はありませんでしたが、甘藷がありましたから燻製にしましょう!」
「え。林檎で燻製できるの!?」
「はい。手順は同じです。本来は冬に三日ぐらい日干しにしますし一番美味しいのは干柿ですが、それは秋のお楽しみですね」
「そうか。干すのを夏とかにやろうとしたら、燻製なんだ‥‥」
 話しつつ桜の木片を盛る二人。さらに横に置いた台の上にざるを置く。ざるの中身はさっきふかした甘藷だ。
「林檎でしたら、厚さ半寸に切っておきます」
「へー」
 それから木片の上に着火した炭を置き、どでかい桶をてやっ、と竈にかぶせた。ざるごと全部。
「これで半日待てば燻製が出来ます!」
「おお、お手軽!」
「どちらも時間は大まかで大丈夫ですよ。余り甘くありませんが、気軽に摘まめるお菓子です☆」
 そうしてすべて作り終わってから。
「ぜ、全部覚えてられるかな‥‥?」
 どれも簡単だった、たぶん大丈夫‥‥、でもきっと、このままだと何度かは妙なヘマをしでかしそうだ。主に記憶違いが原因の。
 くすり、と未楡は微笑んで、一冊の手帳を手渡す。
「書いておきましたから」
「未楡さん‥‥!」
 フォローが行き届いていた。簡単な絵もついていて、全員分のレシピが網羅。
 ふだんの何気ない微笑みが、流和にはきらきらに輝いて見えた。

「‥‥ふむ」
 師匠候補のじーさんは、一口ずつ甘味をつまんでいく。
「形は悪いが素人にしちゃ上等じゃの。うむ美味い。なんぞ、少々甘すぎるものが混ざっとるようじゃが?」
「あ、それあたし基準のやつ」
 流和が気に入った味の茶巾絞りだ。師匠には甘すぎたらしい。
「こっちは佐羽ちゃん基準、こっちは中間」
 他の茶巾絞りも並べてみた。
「うむ、これは薄すぎじゃ。甘くなければ美味くない。む、こっちは良いの。
 こっちはちと薄いのぉ‥‥」
 燻製と鬼饅頭だ。
「ではこちらをどうぞ。丁度いいと思います、老先生☆」
 にっこり別に用意してたほうを差し出す天花。
「おお、では遠慮なく。――うむ、良い」
 続いて羊羹をぱくり。
「むむっ‥‥!」
 いきなりぴし、と背筋が伸びる。舌の上で転がして、味を確認。うむ。
「ワシの好みにしては‥‥僅かじゃが濃い。が、引き立つの。なまじ他よりほんのり濃いだけじゃしのぉ。いつもでは辛いが、たまには良い。うむ。けちをつけるなら、茶は濃い目が良いがの」
 つまるところ、状況を味方につけた味、と言いたいようだ。
「気づくんだ、あのたった一つまみに。佐羽ちゃん並みだ‥‥」
「うむ、馳走になった。協力してくれた方々もの。よいものを食べられたわい。
 流和、そなたを弟子として認めよう」