おいしいものを守る為2
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/06 20:05



■オープニング本文

「あーっ! ちがーう! そうじゃないの、ここ。ここを縫うの! なんで裾と袖をくっつけちゃうの!?」
 囲炉裏を囲み、ちくちくと着物を繕っていた佐羽が――、親友のやり口に、眉尻を吊り上げた。
「えー? 先に言ってよ、もうこんなに縫っちゃった!」
「もーっ。いーから流和ちゃん、外で雪かきでもしててよー。今日の修行はー?」
「‥‥ま、まだ」
「ならさっさと行ってくる! 繕い物なんて流和ちゃんに向かないんだから、ほらっ!」
 ぺいっ、と佐羽に自宅を追い出され、頭をかきつつ家の裏へ。
「‥‥むーう‥‥」
 とりあえず居合‥‥? いや、命中率悪いし、弓のほうが‥‥。薙刀とか槍もやっといたほうが‥‥?
 かりこり。また頭を掻いた。
「‥‥どーしよっかなぁ‥‥」
 開拓者から直接学んで早ひと月。話を聞いて色々見て、考えた。
「サムライ、泰拳士、弓術士、騎士‥‥かぁ」
 流和が絞ったのは四つ。実際の防衛力を考えると、サムライか騎士かなぁ、とは思うものの‥‥。いまいち踏ん切りもつかない。
 とりあえず、どれを修行しても応用が効きそうだったので、一通り学んだことは復習しているが。
「う、う〜ん‥‥」
 選ぶに選べず、煮詰まっていた。
 勇ましく、開拓者になる! と言ってみたのはいいものの。二の足踏んで立ち往生、どうにもならずに途方にくれる。
 すんごく困った‥‥、正直な本音であった。が、流和はもともとあまり頭脳派ではないのか、わりとあっさり思考を放棄した。
「相談しよう、そーしよう!」
 なんかの遊び歌にでもありそうな節をつけて、出かける準備をした。

「‥‥というわけです!」
「‥‥あ、そう」
 大雑把に説明する流和に、受付嬢はきわめて淡白に受け流す。
「それで? また開拓者に話が聞きたいということですね?」
「そうです。やっぱりいまいちピンとこないし」
 堂々と白状する流和に、受付嬢はため息をついた。
「あのですね。
 開拓者ギルドが何でも屋の側面を持っているからと、本当になんでもかんでも解決すると思ったら大間違いです」
「え、ええ!?」
 驚く流和に、頭痛をこらえつつ、根気よく説明をする。
「進路相談をするのはかまいません。むしろ、現役の開拓者の話が聞けるのは貴重でしょう。前回あなたがとった行動は、前向きかつ建設的だと言えます」
 えへへ。照れる流和に、しかし、と受付嬢は続ける。
「前回話を聞いて、修行もつけてもらって――なおかついまいちピンと来ないから、どうにかしてくれ、はありません」
「な、なんでー!?」
「なんでって‥‥。
 言われませんでした? 最終的に決めるのは、流和さん。あなたですよ、と」
「うっ」
 もっともな切り返しに、言葉に詰まる流和。受付嬢はたたみかける。
「体を張るのも命を賭けるのも、あなたなんですから。他人に決めてもらおうなんて甘いこと、言わないでください」
「うう‥‥」
 しょぼーん、と肩を落としてうなだれる。あまりにもわかりやすく落ち込む流和に、ため息をもうひとつ。
 このまま追い返してもいいのだが‥‥、こう素直に単純に落ち込むと、なんでか手出し口出ししたくなるから不思議だ、と思いつつ。
「‥‥それで? 四つまでは絞り込めたんですね?」
「は、はい‥‥。薦められたっていうか、詳しく教えてもらったから‥‥。でも、サムライか騎士かなぁって‥‥」
「理由は?」
「弓は‥‥、あの、専門でやるより、サムライとかになって、補助的に使うといいよって言われました。得意ってわけじゃないし‥‥、がんばったけど、伸びも悪いから、そのほうがいいかなって」
 遠距離で狙撃できるのがすごく魅力的なんですけど、とぼそぼそ続ける。
「泰拳士も候補に上がっていましたね?」
「具体的な修行とか教わってなくって、なんにもやってないし‥‥。でも、回復できるのがうらやましいなーっては思ってたんですけど‥‥」
 防御力はよくわからないから、不安だけど‥‥、もごもごと喋る。
 ため息、三つ目をついた。
「これはあくまでも提案です。
 いちど、候補に上がったクラスの方と戦ってみてはどうです?」
「え、ええ!?」
 おおげさに騒ぐ流和に、受付嬢は淡々と続ける。
「もちろんあなたでは、駆け出しの開拓者にもかないません。実力差はありすぎです。全力の試合は論外。
 手加減をしてもらって、そうですね、巫女か陰陽師も必要でしょう。無傷では済まないでしょうから。
 とにかくあなた、頭で考えてどうにかできるタチの人間ではないでしょう? もういっそ、拳で語ってもらってきなさい。そのための依頼なら受諾します。甘ったれた、将来決めてお願い、なんてのはなしですが」
 うーん、と流和は考え込んだ。それから、顔を上げてまっすぐ受付嬢を見る。
「よろしくお願いします」
 ようやっと、受付嬢の口の端に笑みが浮かんだ。

「えーっ、試合ぃ!?」
 報告するなり、佐羽は慌てふためいた。
 無理だよ流和ちゃん――、と言われるかと思いきや。
「おいなりさんと太巻き作らなくっちゃ! 煮物の具はどうしようかなぁ」
 観戦する気満々だった。
「あっつーいお茶が欲しいなぁ」
「シイタケ茶でいい?」
「うん」
 退屈な冬篭りの日々に、ちょうどいいイベント――、佐羽の頭はのどかなものだった。


■参加者一覧
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰
水野 清華(ib3296
13歳・女・魔
針野(ib3728
21歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎


■リプレイ本文

 ある家の台所へ、長谷部 円秀(ib4529)は人を訪ねた。
「始まるまで時間があるので手伝いにきましたよ」
「あ、お久しぶりです!」
 佐羽がすし飯を扇ぎながら振り向いた。
「太巻きお任せしていいですか? あとは巻くだけなんですけど」
 単純作業だが、量が半端ない。慣れた手つきで円秀はそれを巻いていく。
「そういえば、ここに竹刀はありますか?」
「竹刀? ちょっとないですけど‥‥、どうかしたんですか?」
 忘れてきてしまって、と言う円秀に、木刀ならありますよ、と稲荷を作りつつ答える佐羽。
「木刀ですか‥‥、竹刀より手加減が要りますね」
「流和ちゃん、多少の怪我なら大丈夫ですよ〜。
 ちょっとつくりは雑ですけど、裏にあるので使ってください」
「じゃあ、行くときに借りていきますね」
 流和の知らないところで、難易度がちょびっと上がっていた。

 当の流和はといえば、秋霜夜(ia0979)と鍛錬について話していた。
「やっぱり基礎の積み重ねで地力を着けるのが1番です」
「基礎‥‥」
「単調で退屈な繰り返しが、自分の技の揺るぎ無い自信に繋がるのです♪」
 にこにこと告げられて、ちょっと流和は気が遠くなった。
 ――いったいマトモに戦えるようになるまで、どんだけかかるんだろう、という心理である。
 そんな流和の顔色を見て、霜夜も過去を振り返る。
「そういえば、お寺の大釣鐘をデコピンで動かす修行、させられたな‥‥」
 目が遠かった。
 あきらかにあさっての方向を向いている目。紛れもない苦労の痕跡。
「‥‥な、なんかすごい不安になったよ霜夜さん‥‥!」
 恐れる流和に、礼野 真夢紀(ia1144)が声をかける。
「依頼のお話したお友達から『良かったら渡してあげて』って預かったです」
 差し出したのは、見習いの服、靴、刀の装備一式だった。
「今日靴は慣れた物の方が良いと思いますけど、服は普段着と違う方が心構え違うと思いますですし」
「わぁ‥‥! 革の靴なんてはじめて!」
「それ、本当に今日はやめたほうがいいですよ」
 浮かれたノリで履きかねない流和に、真夢紀はもう一度釘を刺した。靴擦れでも起こしたら目も当てられない。
「うん!」
 真夢紀の心配もよそに、村ではなかなか目にできない靴を大事に置いて、きゃっきゃと服を着替えた。

 それから川端へ行くと、まずは明王院 未楡(ib0349)が手ほどきをする。
「薙刀は、突き・斬り・払い・受け‥‥と大きく4つの攻防の術があります」
 渡された薙刀を握り締め、神妙に未楡の話を聞く流和。実際に基本の素振りを見せながら、未楡は説明を続ける。
「刃だけでなく、柄や石突‥‥何より、長柄故の対応可能な範囲の広さの活かし方が重要です」
 やってみましょう、と、文字通り手取り足取りの指導が始まる。
「こ、こう?」
「動きを繋ぐことを意識するといいでしょう。それが重要ですから」
「せいっ! ‥‥こんな感じとか!」
「ええ、よくなってきましたね」
 繰り返すたび、だんだん形になっていく。相性のいい武器なのだろう。
「突きが一番綺麗ですが、払いや斬りのほうが得意そうですね?」
「あ、槍の練習してたから」
 そうですか、頷きながら次の型を教えに入る。
「長柄の武器の利点は、間合いを広く取れる事‥‥。
 相手の攻撃の間合いの外で戦えると言うのは、守り主体‥‥それも傷を負えない時には大きな利点になるんですよ」
 ふわりと未楡は微笑んだ。

 フルートの音が開会を告げる。耳慣れない楽器のなめらかな音に、村人たちは沸き立った。初戦は未楡が相手である。
「よろしくお願いします!」
 構える流和に、未楡は遠慮なく――剣気を放った。
「ひ」
 楚々とした風体を保ちつつ、がっつり威圧する。そんな未楡に怯みつつも打ち込む流和。それを薙刀の柄と腕とを交差する、十字組受で受けた。
「人を庇う等、受けざるを得ない場合はこうします」
 そのまま流和を押し返す。助言しつつ、実践訓練として試合を終えた。
「ふあーっ」
 ごろんと寝転ぶ流和に、真夢紀が神風恩寵をかける。
「どうです?」
「ありがとー。うん、なんか、薙刀が一番しっくり来る感じ?」
 しっかり教え込まれたのもあり、好感触だ。休憩を挟んで次に移る。
「わたくしの試合でのルールを説明いたしますわ」
 装備でハンデをつけ、自身の動きをあえて鈍らせたマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、まず説明をした。
「時間制限を設けて、その間に流和様が有効打を一本打ち込めれば流和様の勝ち、できなければ負けにいたしましょう」
 こくんと流和も頷き、地面を蹴って先に仕掛ける。大上段から振り下ろした薙刀を受け流した。
「えいっ」
 受け流された流れに乗って身をひねり、回し蹴りを放つ流和。マルカはバックステップでやりすごし、踏み込んだ流和に水平に斬りつけた。とっさに戻した薙刀で受けるものの、力負けしてよろめく。焦りからバランスを崩したまま攻撃をしかけ、受け流されて地面に転がった。
 が、マルカは立つのを待たずに上から剣を振り下ろす。
「っ‥‥!」
 川石の上を転がって、間合いをとって起きる流和。
「怖っ! 隙少なっ!」
「わたくしに攻撃の起点を読ませぬよう動くのですわ」
 それからしばらく――。
 二、三度かすりはしたものの、とても有効打と呼べず、タイムアップ。
「ぅあーっ」
 どさり、と川石の上に身体を投げ出す流和。
「よくがんばりましたわね」
 にっこり微笑むマルカは微笑んだ。

「わたしも重りを持とうかと思ったけど‥‥それじゃ秦拳士の持ち味を殺しちゃうかと思ってね」
 レビィ・JS(ib2821)はハンデをつけずに流和と対峙した。ルールはマルカと同じ。流和も薙刀を構える。
「がんばってね〜」
「怪我しても任せてください〜」
 真夢紀と佐羽は、かき餅を火であぶりつつ暖をとっていた。
「あ、ず、ずるーいっ!」
 流和が抗議するが、レビィは容赦なく。
「じゃ、行くよ」
 流和が抜け出さないうちにと瞬脚で一気に間合いを詰める。驚いてとっさに放った流和の薙刀を、さらっと流して足払い。
「っと!」
 マルカとの戦いを思い起こし、落ち着いて体制を立て直す流和。
「お握りに蕗の薹味噌付けて焼きお握りにしましょう」
「え、蕗? もう出てるの?」
「姉様達が送ってくれたんです」
「うわぁ、真夢紀ちゃん最高ー! お姉さんありがとー!」
「ちょっ、あたしの分残してよーっ!!」
「わたしが木刀とはいえ、集中しないと危ないよ?」
「ぎゃーっ!!」
 にぎやかだった。

 ラストを飾るのは団体戦、流和にとってはまったくの初体験だ。
「い、痛くしないように‥‥あ、でも、訓練だからちゃんとやらなきゃだめで、えーと、えーと‥‥」
 人見知りなせいか、あるいは攻撃をかけることに抵抗感があるのか。ためらいを含んでストーンアタックを未楡の足元めがけて放つ水野 清華(ib3296)。掌から生まれた礫が飛んでいき、未楡の足をかすめた。
「あっ‥‥!」
 食らった未楡のほうが堂々と微笑み、清華のほうが逃げ腰になる。ちなみに、清華のすぐ前にいる流和も引け腰だった。
「え、ええと‥‥、こ、ここは通さない?」
「弱気になってはいけませんわ!」
 疑問系の流和に、マルカがビシッと突っ込む。
「だ、だって未楡さんに勝てる気しないー!」
「流和様の村を守りたいお気持ちはその程度なのですか?」
「っ‥‥!」
 唇を引き結び、じゃきっ、と薙刀を構える流和。
 ‥‥が。
 がんばっても手加減されてても、流和に未楡の相手は荷が勝ちすぎるわけで。じりじり押される流和に、清華がストーンウォールで支援した。
「わお!」
 いきなり眼前に発生した石の壁に、驚く流和。
「この魔法は何となく得意かな‥‥」
 攻撃より、防御とか支援とかのほうが向いているのかもしれない。
「流和様! そちらに秋様が行かれましたわ!」
「流和さん、レビィさんの教えの成果見せて下さいね☆」
「え、ええー!?」
 とりあえず、薙刀を振るって間合いをとる。即座に踏み込んだ霜夜に、
(だ、だめだ、霜夜さんは武器持ってたほうがやりにくいっ!)
 さっさと薙刀を手放し、無手になる。
「あれ? いいんですか〜?」
「ケンカならできるもん!」
 言葉どおり、戦闘というよりケンカじみたやりとりだった。霜夜の速さにはついていけていないが、武器を捨てたせいで反応速度が上がっている。まだ手足と呼べるほど、武器に馴染みがないせいだろう。
 流和の蹴りを、避けずに霜夜は掌で受け、その反動で上に勢いよく投げる。
「うわ!」
 自然、頭が下になる流和。両手で河石だらけの地面を支え――いや違った、石を掴んで転がりざまに霜夜に投げた。
「っと。
 ホントにケンカですねぇ。アヤカシにはほとんど通じませんよ?」
 さくっと避け、泰練気法・弐を使い、霜夜は――。
 ベシベシベシ。
「いだぁーっ!」
 鐘を動かしたという、驚異のでこピンをかました。
「見た目ド派手な攻撃でも、対処法はちゃんとあるんよー」
 霜夜が距離をとった隙に、針野(ib3728)は弓を引いた。
 考える余裕を与え、わかりやすい軌跡を選んで。
 ――放つ。
「そこっ!」
 ばっと身をかわす流和。真横を過ぎる。が、そこは範囲攻撃のバーストアロー。
 衝撃波を食って、流和は転がった。これをかわすには、もうちょっと反射神経が必要そうである。
 がら空きになった流和と針野の線上に、今度は円秀が立ち、無手の流和に、剣を投げた。
「この剣をあげるので使ってみてください」
「だ、大事にシマス」
 抜刀し、正眼に構えた。
「‥‥いきますっ!」
 突かれた剣を盾で受ける円秀。防盾術で受けきり、一拍置いて木刀を打ち込む。痛みに一瞬怯む流和だが、歯を食いしばって耐えた。
 直後に背後から閃癒がかかる。勢いを得て流和は円秀に切りかかった。薙刀の扱いを汲んでいる。それを受け流し、さばいてあるいは盾で受け。がちんっ! と思いっきり剣が盾にぶつかったのを見て、盾を使って打撃を与えた。
「うわ!」
 押し切ったのちに木刀で打ち据える。それでもへこたれずに突っ込んできた。
「はっ、はぁっ‥‥」
 繰り返すうちに、明らかに息が上がってきた。ころあいか、とその足元を薙ぎ払う。
「っわ!」
 よろめくが踏ん張り――損ねて、尻餅をつく。足にも疲労がきていたのだろう。
 が、それで容赦する円秀ではなかった。
「疲れても相手は待ってくれませんよ? こちらからいきます」
 流和が倒れるぎりぎり手前まで、ビシバシとしごいた。

「あう。だめ。もう無理」
 流和がまったく動かないので、佐羽はござを流和のそばに広げた。
「あはは、お疲れ流和ちゃん。みんなもお疲れ様〜」
 言いながらぱたぱたと準備を整える。見回せば、他の村人たちもめいめい持ってきた弁当を広げていた。
「じゃーん! 今朝は円秀さんにも手伝ってもらいました〜!」
 重箱を七つも広げる佐羽。ちなみに、三段重ねが丸ごと二つ、流和の前に置かれた。
「‥‥美味しそう」
 ぽつりと呟かれた清華の言葉。うらやましげなその視線に、佐羽が小さく噴出した。
「清華ちゃんのぶんもちゃんとあるよ。あたしも流和ちゃんも、重箱七つは食べきれないもん。
 はい、取り皿とお箸」
「あ、ありがとう‥‥」
「佐羽様、じいや作のサンドイッチですわ」
「わー、ありがとうマルカさん! ほら流和ちゃんー」
「た、たべる‥‥」
 いただきます。言うやいなや、えらい勢いで流和は食べた。あっというまに重箱がひとつなくなり、サンドイッチも半分消える。さすがに今回は、この意地汚さに佐羽も黙ってお茶を出した。ごくごくごっくん。
「‥‥いきかえった‥‥」
 泣き出しそうなほど幸せに呟く流和。
「や‥‥やっぱり、よく食べるね」
 相変わらずの食いっぷりにレビィは頬を引きつらす。落ち着いたのを見計らい、円秀は模擬戦の結果を流和にフィードバック。
「集団ではもっと周りを見ましょう‥‥ただ、前に出る姿勢はよかったですよ」
「‥‥! はいっ!」
 たぶん一番厳しかった円秀の言葉に、わかりやすく流和は喜んだ。それにほのぼのしつつ、
「あ、お茶貰えるかな?」
「どうぞ〜」
 しいたけ茶を煎れてレビィに回す。のんびり食べているのに、そろそろ佐羽もひとつめの重箱を制覇しそうだ。
 相変わらずの食いっぷりを、マルカはにこにこと楽しげに見守った。

 落ち着いた食後。ようやく慣れてきた清華は、流和を捕まえて口を開いた。
「あのね、色々悩んじゃうと思うけど、やってみたら結構できたーってことも結構あると思うな〜」
「清華ちゃん‥‥」
「一番興味があって、やってみたいって思うことをやるのが一番、だと思うよ? 人間生き方はいくらでも変えれるってあたしのお師匠様も言ってたし、ね?」
 やさしい思いやりに、照れくさそうに流和も笑う。
「うん、がんばって考えるね」
「煮詰まらない程度にね?」
「あはは、うん」
 レビィも考えていたことを口にした。
「以前に流和さんがアヤカシを引き付ける為に逃げ続けてた‥‥って事を報告書で読んだんだけど」
 なぜか円秀が微笑んだ。
 ちょっとだけ針野が苦笑した。
「ひぃ!」
 流和はおそれおののいた。
(‥‥あ、怒られたんだ)
 担当者の欄に円秀と針野の名前があったのを思い出した。無理もない。むしろ、怒られて当然だ。
 ともあれ。
「そういう時は、身軽な秦拳士の方がいいんじゃないかな?」
「そ、そ、そうだね〜」
 ものすごく引きつった返事に苦笑する。
「流和ちゃん‥‥、もう怒ってないんよ」
「そうですよ。しっかり修行して生きる力をつけないと」
「が、ガンバリマス」
 あの事件がきっかけで開拓者を目指しただけに、流和も思うところがあるのだろう。針野は彼女に、自分が弓術士を選んだわけを話す。
 最大の理由は、祖父母が弓術士だったからだ、と。だが、同時に唯一の理由でもなかった。
 アヤカシの中には毒を持ったものもいる。その毒で両親を失ったゆえに。
「弓なら毒が届かなくて済むかも、とも思ったんさ」
 そんな臆病な気持ちもあった、と。
 だが実際、弓術士はうかつに前に出られない。前衛が倒れたときの悔しさを知り、前衛の頼もしさを覚え。
「その背を自分の弓で護ることに、誇りを持てるようになったわけで」
 じっと流和は針野を見つめた。すこしだけ不安そうな色をしていた。
(背中に、後衛も庇うんだ)
「なってみなきゃ分からん良さも悪さもあるし、いっぱい悩んで決めてほしいさー」
「針野さん‥‥」
 不安を払拭するように。両手で頭をわしゃわしゃ撫でて。
「流和ちゃんと一緒にお仕事できる日を、楽しみにしてるんよ!」
「わ、‥‥えへへ」
 楽しげに引き上げていく村人を見る。片づけをする佐羽たち。
(‥‥守備に徹するのもいいけど。
 打って出るのを、選ぼう)
「決めたよ。
 あたし‥‥泰拳士になる」