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■オープニング本文 囲炉裏を囲み、ひとつの家族が互いを向き合う。 家長である老人、跡取りの青年、青年の嫁。そして――。 「あたし‥‥開拓者に、なる」 流和は、ぴんと背筋を伸ばして家族に告げた。 「流和‥‥」 「反対‥‥しないよね」 青年が眉をしかめた。老人は皺の深い顔の中、諦めを滲ませてため息をつく。 できるわけもない、反対など。ここ数年、アヤカシの目撃例などなかった村だというのに‥‥こうも立て続けに出没されては、志体持ちを遊ばせておくわけにもいかない。それなりの技能と力を身につけてもらったほうが、お互いのためだ。――そう、志体だから狙われやすい流和にとっても、戦う力のない村人にとっても。 できるわけも、ない。反対など。できるわけも、なかった。 「すみませーん」 開拓者ギルドに、ひとりの少女がおとずれた。 すこし古びた印象のある、藍色の着物の少女だ。連れはないようで、ひとりで受付に顔を出す。 「依頼をお願いしたいんですけど」 「どのような内容ですか?」 受付はやわらかく問いかけた。少女はにっこりと笑う。 「あの、あたし、志体なんです」 「それは‥‥。開拓者になりたい、という希望ですか?」 「将来的には。でも」 少女はえへへ、と照れたように頬を掻く。 「あたしどんなふうに戦えばいいのか、全然わかんなくって」 「‥‥」 受付は思わず沈黙した。それは開拓者になるとか、修行するとか、そういうはるか以前の話ではなかろうか。 「で、師匠紹介してください! とも言えないですよね」 「ええ。希望進路――、サムライだとかシノビだとか、そういう希望があるならお話は通しやすいのですが」 「だから」 ぺこ、と頭を下げる少女。 「開拓者の人、何人か派遣してください。あたしには何が向いているのか、あたしはどんな修行をしたらいいのか、どんなふうにみんなが戦うのか。 いろんなことを、知りたいんです」 静かに少女は頭を下げた。 「流和ちゃん!」 帰ってくるなり、親友が飛びついてきた。なにも雪の中待っていなくても、と苦笑して受け止める。 「ばかだなー、佐羽ちゃん。身体冷え切ってるよ」 ぎゅう、とそのまま抱きすくめられる。冷たい親友の身体は震えていた。ほんのかすかに。 「‥‥あたしに言わないなんて、どーいうことなのー!? もう! 心配したんだから、村長さんからお話聞いて‥‥!」 「情報源はじーちゃん? あーあ、口止めするんだった」 「流和ちゃん!」 茶化して言ったら、ばっと佐羽は離れた。離れきらなかった互いの腕を掴んだまま。 「開拓者‥‥なるの?」 「‥‥いずれはね」 「‥‥村から、出るの‥‥?」 不安げな目に苦笑する。 「できるだけ、いるようにする。ここを守りたいから強くなりたいんだし」 「でも‥‥」 「ねぇ、佐羽ちゃん」 流和は言葉を遮った。片手を離し、もう片手を握り合って家に向かう。 「あの猪が、あたしたちの見た最初のアヤカシだったね」 「う、うん‥‥?」 「お祭りでスリにも遭った」 「うん」 「白いアヤカシに、追いかけられたよね」 「だって、それは流和ちゃんが」 流和は笑った。佐羽を向いて。 「次にもっと強いのが出てきたら、あたしは‥‥食べられちゃうと思う。だれも守れないまま」 「流和ちゃん!」 とがめるような友の声に、ちょっと怯んだ。でも、佐羽とて無関係でもない。ここに住む以上は。 「ずっと平和だったよね。ここは。でも‥‥それって、これからの保障じゃないよ」 知ることができたのは幸運だったと思うよ、と付け加えた。佐羽のなだらかな目に、涙が滲む。 「あたしは死にたくないし、村も無事でいてほしいんだ」 「そりゃ‥‥でも‥‥」 「あたしはサムライとか巫女とか、どんなのの修行すればいいのか、それすらわかんないから。 どうせ冬ごもりで暇だし、そんならその間、現役の開拓者の話聞いたり、修行つけてもらったりできるでしょ?」 「そっか‥‥」 「来てくれるようにお願いしてきたとこだよ。だいたい、武器も持ったことないのに、そんなすぐ開拓者になれるわけないじゃない。心配性だなぁ、佐羽ちゃんったらー」 「なによー、もう! 流和ちゃんがいつもムボーなのが悪いんでしょ! 志体だからって、もうっ!!」 ぷりぷりと怒る友に、あははーと苦笑する。無謀はしたが、それは自分が動かないと被害が拡大しそうなときだけのつもりだ。なにも考えていないわけではない。‥‥一応。 「で、いつ開拓者さんたち来てくれるの? お料理準備して待ってなきゃ! えーと、おせち作って、おもちついてー‥‥。もー! 早く言ってくれればいいのに! やることいっぱいだよー。あたしのお布団だけは出しててね!」 「え? もしかして佐羽ちゃん、うちに泊まり込むつもり?」 「毎日通うの大変だもん。三江さんもまだ勝手がわからないだろうし」 兄嫁は夏に嫁いできたばかり。なるほど、確かに佐羽が一番勝手を知っている。家の女がするべき仕事を、流和ではなく佐羽が把握しているあたりで色々間違っているのだが‥‥。あいにく流和は細かいことは苦手だし、もとより男に混じって働くのが流和なので、佐羽がいないと家事が回らないのが現実だった。 「じゃ、そっちはお願いね」 「まかせて! もしかして、おいしいレシピ知ってる人もいるかもしれない‥‥!」 俄然やる気の佐羽を、とりあえず火にあたろう、と連れ帰った。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
神咲 六花(ia8361)
17歳・男・陰
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
アッシュ・クライン(ib0456)
26歳・男・騎
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
神鳥 隼人(ib3024)
34歳・男・砲
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰 |
■リプレイ本文 基礎知識のない流和に、と、まず用意されたのは座学の時間だった。礼野 真夢紀(ia1144)がまず受け持つ。 「では、まずサムライから‥‥」 「あれ? 巫女の講義ってなし?」 「個人としては正直、余りお勧めしません」 「でも、回復できるんでしょ?」 「できますけど‥‥、技能は主に回復や補助。攻撃術もありますが接近されると厳しいですし、難しい職です」 「あ、そっか」 それから真夢紀は、丁寧に調べた話を整理してくれた。 「村の守部なら、攻撃より守り重視で向われた方が良いかと」 「守りかぁ」 「状況を考えるなら、武器は長柄‥‥薙刀がお勧めですね」 その真夢紀のあとを引き継いで講師に立つのはアッシュ・クライン(ib0456)。 「あの後もまたアヤカシが現れたのか‥‥。 さすがにそうなると自衛の力は必要だな」 「あはは‥‥、よろしくです」 流和が頭を下げる。 「最終的に決めるのは流和だが、どのような進路を取るかどうかは簡単には決めかねるだろう」 「そうなんですよー。得意な武器でもあればよかったんですけど」 (最初が肝心だし、村のためにも、俺たちできちんと手助けをしてやらんとな) そうして始まったアッシュの講義は、簡単に魔術師と吟遊詩人についてのものだった。 「じゃあ騎士は? アッシュさんは騎士でしたよね?」 「ああ。他の2人のように剣と盾、槍を用いる場合もあれば、自分のように大剣で立ち回る事もでき、またそれぞれに適したスキルもある」 実際に見せるのはあとでだが、と前置いて、ひとつだけ注意を付け加えた。 「オーラドライブに関してだ」 「ええと‥‥オーラより上のやつですよね?」 アッシュは頷いて続ける。 「オーラとは違い練るのに多少時間がかかるので、合間を見て使わなければならない。 だが、その分より錬度の高い力を得られる」 心に留めておくといい、そうしてアッシュは講義を締めくくった。 泰拳士について教えてくれたのは、レビィ・JS(ib2821)だ。 「え? 武器使っていいの?」 「うん、わたしも使うよ」 流派によって千差万別だけど、そう前置きして、 「大体共通するのは俊敏さが重視される事、気を操る事」 「気?」 「こういうこと。見ててね」 障子をあけて掌を突き出す。気をそこへ集中させ、一気に放った。 転がっていた薪を砕く。(‥‥あ、薪運んだときに落っことしたやつ)、拾い忘れていたのを思い出す。 「それが『気』なの? 他には? まだあるんだよね?」 わくわく、と身を乗り出す流和。もちろん、とレビィは用意していたスキルを披露する。 「ええ? 回復できるの!? 巫女だけの特権だと思ってたー!」 「そんなことないよ。生命波動は自分にしか効果がないけど」 「ええと‥‥、じゃあつまり、巫女は回復専門。攻撃もできるけど専門外。泰拳士は格闘専門。回復もできるけど専門外。ってこと?」 「うん、そんな感じかな。 村を守る為開拓者になるのなら、アヤカシ相手に一人でもある程度持ち堪えられる前衛系がいいんじゃないかな?」 「そっか、うん‥‥、真夢紀ちゃんにも言われたんだよね。前衛かぁ‥‥」 「でも、そういう意味では、流和さんは向いているのかも知れないね」 泰拳士は俊敏さが問われるから、というレビィに、なんとなく照れて頭を掻いた。 「そ、そうかな‥‥」 そんな流和に小さく笑う。そこへ、 「お昼だよ〜!」 佐羽が来た。真夢紀と一緒に、なにやらいい匂いのするものを運んでくる。 「なぁに?」 「ピロシキだって。マルカさんに頂いたの」 「うわぁ‥‥!」 真っ先に流和がかぶりついた。「おいしい!」、次々に食べていく。 「むせるよ?」 神咲 六花(ia8361)の言葉にお約束どおり、 「ごふっ」 詰まらせた。もう、と呆れる佐羽も、シッカリとピロシキにかぶりつく。やたら食い意地の張った食事量に、 「よ、よく食べるね‥‥」 レビィがちょっと驚いた。対照的にマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は、にこにこと嬉しげに眺める。真夢紀も、 「流和さんったら、そんなに焦らなくても逃げませんよ?」 冷静にお茶を差し出した。 「さて、私の講義は主に遠距離戦闘だな」 神鳥 隼人(ib3024)の講義は食後の眠い時間‥‥、と思いきや、田舎娘たちは昼寝の習慣があるようで、食休みのあとは意識も正常。はーいと元気のいい返事が返る。 「主に考え付くのは弓術士や砲術士だろう、だが志士や侍も使えない訳ではない」 「サムライ‥‥、へぇ、使えるんだ。いかにも刀! って感じだと思ってたけど、みんなの話聞くと、けっこうイメージっぽくない武器選んだりもするんですね」 「印象だけで決めてはいけないぞ?」 「はーい」 「遠距離の利点は敵の射程外から一方的に攻撃できる所だ。 空を飛ぶアヤカシに対して地上で刀を振り回して当てるのは難しいだろう? 状況に合わせた武器選択が出来ると良いな」 「な、なるほどー! それいい!」 やたらと感心する流和に笑いつつ、次に進む。 「さてスキル説明だ、主に遠距離系で特徴的なのを挙げていくぞ。 弓術士には鏡弦は長距離のアヤカシ探知がある、砲術士や侍は威力を、志士は主に命中を上げものが多いな。弓術士と砲術士は一瞬で弓を番えたり弾丸を装填するものがある、これがないから他の職では弩や長銃は弓術士や砲術士でないと扱い難いという訳だ」 「うわぁ待って待って! 一気に覚えられない! も、もう一回お願い! 今度は書くから!」 「あ、ちゃんと記録してますよー」 「真夢紀ちゃん‥‥! ありがとう‥‥!」 さらに続いた説明のあと、川端で射撃の手ほどきを受けた。の、だが‥‥。 結果だけ言うなら、あんまり芳しくなかった。 「頑張ってはいるんだがな」 「ううっ」 命中率は素人に毛が生えた程度。教えたことを理解はするのだが、技術がなかなか追いつかない。努力型なのだろう、時間が必要そうだった。 (うーん、おいしかったぁ) 顔を洗いに起き出した流和は、寝ぼけた頭で昨夜の食事に思いを馳せる。と、水がめのところに。 「あ、蒼羅さん。ごちそうさまでしたー」 琥龍 蒼羅(ib0214)だ。おはようの前にごちそうさまが出てくるあたり、流和である。 「流和か。どうだ」 軽く刀を叩いてみせると、「うわぁ修行っぽい!」なんだか喜んだ。家の裏手に出る蒼羅に、てこてこついていく。 「なにやるんですか?」 「俺の場合は基本が刀を抜き、鞘に収めるのを繰り返す居合いの鍛錬。 それと手裏剣、苦無の抜き撃ちの二つだが」 「居合‥‥、かっこよさそう! ‥‥あ、でも、あたしじゃ間違えて指切っちゃいそーだなぁ‥‥」 「木刀から始めればいい」 「そうします。えーと、このあたりがちょうどいいかなー」 適当な木の棒を見繕う流和。「蒼羅さ‥‥」、呼びかける途中で声が消えた。ぴんと蒼羅のまとう空気が張り詰め、手が鞘にかかる。瞬間。 ぅん! 虚空を裂いて白刃が閃き、そのまま流れるように鞘へと戻される。精巧な動作は真似できる気がしないが、蒼羅は手取り足取り教えるタイプでもないらしい。 (ええと、こうやって‥‥手はこうかけて、‥‥早くてよく見えないなぁ) 見よう見まねで模してみる。ばしっ! と抜き放つ真似をしてみるが (‥‥いやいやいや。これは子供のちゃんばらごっこでしょ) なんとかそれっぽく体裁を整えようと四苦八苦、佐羽が呼ぶまで没頭した。 おせちを朝に食べた後。狩に行く。そう言って何人かで林に出かけた。 「妊娠中の動物には手を出すでないぞ」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)のはっきりした言葉に、流和も頷く。 「うん。まだ繁殖期じゃないし、熊もすっかり冬眠しちゃったと思うけど‥‥。もうちょっと早い時期なら危なかったかもね」 「うむ」 さすが田舎娘。野山については優等生である。模範解答にリンスガルトも頷いた。 「妾の剣捌きは他の2名の騎士に比べ、切れが鈍く命中しにくい」 そう言いながら、スキルでそれを補うことを教えてくれる。命中についてはさんざんな結果を出した弓をやっている手前、流和も真剣に耳を傾けた。 「盾を体の前面に掲げ、切先を盾の裏側に押し当てるように剣を持ち、正面から剣を見えなくする」 「攻撃の射線を隠すんだー。あたしもやったよ、お兄ちゃんと喧嘩したとき」 「その通り。真似事をしたならわかっておろう。 相手の攻撃をいなし、すれ違いざまに盾の影から剣を繰り出しヒットさせる。これぞ我がブラインドアタックの極意じゃ」 そんな話を聞きながら、動物を探す。 「この時期のイノシシは‥‥ギリギリセーフかな、冬深まると、なんっかおいしくなくなるんだよねぇ」とぶつぶつ呟きつつ、薄く積もった雪を踏む。人のものではない、蹄の分かれた足跡を辿った。 「食材も確保できましたし、一石二鳥ですわね」 イノシシをしとめ、晴れやかに微笑むマルカ。わー、とぱちぱち拍手する流和。そのままイノシシを持って帰る。佐羽は驚きつつも、 「うわぁ‥‥! ありがとう! 牡丹鍋と、あと焼肉にしよう!」 嬉々として血抜きして解体の準備をする。 「すみませんアッシュさん、そこ持って、はい、こんなふうに切ってくださいー」 「こうか」 「はい! あ、皮に傷つけないようにお願いです」 「問題ない」 「じゃあ次は‥‥」 指示を出す声が、やたらと弾んでいた。 アッシュは佐羽に引き抜かれてしまったが、残る三人は、丁寧にスキルの説明をした。アッシュの分をかわって説明したリンスガルトが、ついでとばかりに付け加える。 「騎士には相手を殺さぬよう手加減して殴る技もあるのじゃが、殴りやすい面の者がおらぬ故、実演はできぬ。残念じゃ」 「‥‥いたら殴るの?」 「殴らねば実演にはならんじゃろうが」 「‥‥」 賢明にも、流和は沈黙を選択した。 昼食後の講師はマルカだった。 「開拓者はアヤカシだけでなく、時として人を殺めることもございます」 一瞬だけ。一瞬だけ流和は虚をつかれたような、そんな顔をした。 「厳しいようですが、その覚悟だけはお持ち頂きたいのですわ」 「‥‥うん。心の準備は‥‥しておく。 覚悟ができてるかどうかは‥‥そのときにならないと、わからないけど‥‥」 正直な言葉に頷いて、槍を流和に持たせて修行開始。 マルカ指導の下、キンッ、甲高い金属音を立てて、流和はコインをなぎ払った。 「流和様、そうではありませんわ。まっすぐに突くのです」 「でもなんか、こう、払いたくならない? 反射的にさ‥‥」 うーん。しばらく流和の槍さばきを観察して、マルカは結論を下した。 「不向きですわね」 「うぐ」 「そ、その‥‥、すぐに払いに行かれてしまいますもの。槍は刺突が基本ですから。 もしかすると、薙刀のほうが向いていらっしゃるかもしれませんわ」 「あ、マルカさんが前使ってたやつでしょ?」 「ええ」 充分矯正できる範囲内ではあるが、そうでなくても十文字槍あたりを持たせるのもいいかもしれない。 それから蒼羅に引継ぎ、刀の扱いを学び。夕食は餅三昧だった。 「む‥‥!」 お雑煮の中のふわんとした餅を食んだ、リンスガルトの翼がぱたぱたと動く。大根が大量に刻まれているのもあり、なんとも美味だ。 「わぁ、真夢紀ちゃんのこれ、おいしい!」 「手順は覚えました?」 「うん、大丈夫! えへへ、またひとつ増えたー」 にこにこと佐羽もご機嫌だ。 「胡桃に黒蜜もかけちゃうの!?」 「兎月庵で話してから、ずっと忘れられなかったんだ」 どこかで話題に上ったらしいその食べ方に、流和もチャレンジ。「‥‥これはイケル!」六花にならって、その甘さを堪能した。 翌日は鍛錬を繰り返したりしたあとに、六花の講義が入る。 「流和、君はどうして開拓者になりたいんだい?」 「え? そりゃ」 「村を守るため?」 間髪入れず問う六花。こくん、と黒い頭が頷いた。 「でも、修業の為、村を離れる事になったら?」 「‥‥、でも‥‥」 手をこまねいてるだけじゃ‥‥、言い訳は喉の奥にわだかまる。意図して手厳しく、六花は伝える。 「本物になる為には、与えられた物に甘んじる事なく、自ら道を見いだす事」 ‥‥だと思う、そっと付け加えた。 「‥‥漠然としてるね」 「じゃあ、逆に。何から何まで、きちんと決めて欲しい?」 あえて明確な回答を与えない。六花のスタンスに流和も苦笑して首を横に振った。 「僕は模擬の相手を務めようか」 甘刀を手にして構える。流和は‥‥、斧だ。 「あれこれ説明するより、手合わせした方が早いしさ」 微笑む六花に、緊張で強張った顔でうなづく。そう緊張しなくても、思いつつも笑顔で迎撃体勢をととのえた。 「やぁっ!」 「はい、胴ががら空き」 振り下ろした柄を左手で掴み、こつんと甘刀を入れる。 「うぁーっ! ゼンッゼン歯が立たないーっ!」 恨めしげに睨む流和。が、そんな視線もどこ吹く風、すずしい顔して笑みを浮かべる。 「どう? 少しは何か分かってきた? まだ? なら休まず続けようか」 「ちょ、返事してな‥‥! わわっ!」 目前を過ぎった蝶に怯む。にこにこと追い詰める六花に、たじたじになる流和。もとよりそんなに素直じゃないというか、ひねりのかかった性格というか。思考を紛らわすための気遣いであるが‥‥。 「こんのにゃんこぉーっ!」 流和は猫人形に遊ばれてるのが関の山。むきになってかかってく。 そんなこんなで日が傾き、空が茜に染まる。(‥‥あ、六花さんの髪の色)、斧も放り投げて寝転んだ流和を覗き込み、治癒を施して、ぽんぽんと叩く。 「これで大丈夫かな。 どう? 痛くない?」 「へーき! ありがとー‥‥、でも疲れた」 へばる流和に、笑って甘刀を差し出した。 「‥‥?」 「頑張ったね」 「くれるの!? ごちそうさまっ!!」 がばっと飛び起きて受け取った。へろへろ具合が嘘のように、「ぃやったぁー!!」と飛び回る。 無邪気でのどかな夕暮れに、目を細めた。 「えーと、こっちはお餅、そこがイノシシでー、あとね、そっちがおせちで、ここはなんと! お好み焼きでーっす!」 また作ってもらっちゃったー、佐羽が幸せそうに説明した。農家なので、キャベツは使い放題である。鉄板などはないが、大きな鍋底に油を引けば、なんとかはなるものだ。器用さが要求されるが。 「材料がそろうか気になったが‥‥」 「揃わないのはソースです‥‥!」 蒼羅の言葉に、悔しげに佐羽が呻いた。 「おお、中々に豪勢な料理だな」 「最後の夜ですから!」 「え、これ全部食べきるの?」 いくらなんでも多すぎない? 焦ったレビィに、にこにこと佐羽が返す。 「残ったら明日に回せるものばっかりだし、大丈夫ですよー」 「‥‥食べちゃいそうな気はしますけどねぇ」 真夢紀が、あながち間違いでもなさそうなことを呟く。賑やかに夜は更けていった。 |