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■オープニング本文 とある小さな茶屋の隅。座敷に上がりこんだ三人の少年少女は、頭をつきあわせてうんうん唸っていた。 「やっぱり王道は龍かなぁ。なんといってもギルドが貸してくれるし‥‥でもなぁ」 ふわふわの赤毛の少年が、幼げな顔立ちをめいいっぱいしかめて呟いた。隣のつんつん頭は腕組みして、いかにも重々しく首を振る。 「いや、もふらさまだろ、天儀にいるなら。もふるのが王道だ」 彼らの向かいでは、ぱさついた栗毛のおかっぱ頭が首をかしげる。似たような年頃の少女だった。 「でも‥‥人妖は憧れよねぇ。いつかは! って思うわ」 「どんだけレアなの狙うんだ。まず手に入らないだろ、あれ。 猫又とかよくないか? 戦闘にはうってつけだし、にゃんこだぞにゃんこ」 存外猫好きなのだろうか。しかし、少女は眉根を寄せた。 「懐いてくれなかったら寂しいわよ。気性激しすぎるもの。なら忍犬のほうがいいわ、飼い主に忠実。なんてけなげなの」 つんつん頭がひょいと肩をすくめる。 「前衛代わりに土偶とかもいいんじゃね? ほら、後衛だとさ。な、鋼天」 しかし、当の鋼天――赤毛のふわふわ頭――は、まったく話を聞いていないらしく、 「グライダーで空中戦、できたらいいよねぇ。僕、高所恐怖症だけど」 希望的観測をのべた。湯花とつんつん頭があきれ返る。 「あんたね、できっこないでしょーが。それ。おとなしくもふらさまの背中に揺られてなさい」 「いや実はもふらさまの背中もちょっと怖くて」 「‥‥」 言葉もなかった。 「やっぱ地上のだよね、そうなると。ジライヤ‥‥いや、ジライヤは厳しい。ずっと詠唱とか無理。僕、カツゼツ悪いから絶対舌噛む」 「‥‥あんたってやつは昔っから‥‥!」 「いやまあ‥‥、ほ、ほら、欠点があると人ってとっつきやすいでしょ?」 「大丈夫なのかよ、そんなんで開拓者」 「う、でも、やってくうちにきっと僕も色々スゴい開拓者に!」 「‥‥」 「そ、そんな白い目で見なくたって‥‥。あっ、そうだ、水泳なら得意だよ! 川遊びしてたから!」 「ならミヅチにすれば? あんまり見かけないけど」 湯花の言葉はなげやりだった。しかし、鋼天はまじめに呻く。 「くっ‥‥! 高そうだよね、ミヅチ‥‥!」 やれやれ、とつんつん頭は天井をあおぐ。それからため息と共に、 「おい、湯花。こいつどうするよ」 「どうするって‥‥どうすんのよ。知らないわよあたし」 「もう手ごろな鬼火玉でどうだ。初心者にもやりやすいって聞いたぞ。戦闘で頼れるらしいし」 「むしろ、いっそ龍一本に絞っちゃいなさいよ。全然乗れないわけじゃないでしょ」 「で、でもずっとつきあってくものだし‥‥。龍一筋だと‥‥怖いから率先して乗るのはやっぱり遠慮したいっていうか‥‥」 だめだこりゃ、とつんつん頭が息を吐き出した。そこへ。 「あら、なにか悩んでいるの? 浮かない顔ね」 「お菊さん」 にこにことお茶を運んできた女性に、湯花は顔をほころばせた。馴染みの店員である。 「あの、あたしたちもうちょっとで修行終わるんです! で、開拓者になったら、龍をどうしようかって」 「まあ。ええと、ギルドから貸していただけるんだったかしら」 「ええ。で、まずどの種類か悩んでたんですけど」 「決まったの?」 湯花はがくりと肩を落とした。 「ぜんぜん」 「そうね、大事な相棒になるのだもの。当然だわ」 「はい‥‥。 で、決まらないから、つい。稼げるようになったら、どんな朋友にしようかって脱線してて‥‥笑わないでください。もう」 「ふふ、ごめんなさいね? だったら、そうね、いっそ先輩たちに集まってもらったらどうかしら。いろいろな経験談も聞けるでしょうし」 「集まって‥‥? あ」 ふと、向かいのつんつん頭が顔を上げた。ぱっと笑顔が広がる。 「それだ!」 「な、何?」 「湯花、鋼天。それでいこう。石鏡じゃ祭りがあるじゃないか!」 「祭り‥‥安須大祭? でも、だから?」 「あ」 お茶をすすっていた鋼天は閃いた。 「ミスコンだ!」 「はぁぁ!?」 にやりと笑うつんつん頭。嬉しそうな鋼天。置いてきぼりの湯花。 「ちょっ、何? 何の話よ!?」 「つまりね、朋友のコンテスト開いて、どの朋友が一番かを決める! そうだよね真樹?」 「趣旨が変わってるわよそれ!」 「いーんだよ。どうせ朋友買うのはずっとあと。先輩たちがどんだけ朋友に思い入れあるのか、イロイロ教えてもらえばいいだけじゃん。あとは野となれ山となれ! きっとどの龍を選んでも、最終的にはうまくいくさ! よし、まず場所確保だな! えーと、街ン中は無理だな、龍とか入るの厳しいし。外だな!」 「ちょっ‥‥ちょっと真樹? おちついて考えようよねえ!」 「思い立ったが吉日! ぐだぐだ言うな、ほら行くぞ!」 「ええ? っきゃあ! 引っ張らないでよわわわ!」 「お菊さん、お茶ごちそうさま! お代は師匠にツケといてくださーい!」 少年少女は嵐のように去っていった。 「つーワケで! 開催・朋友コン! えー、開拓者の皆様ー! 開拓者の皆様ー! お手元の朋友、ギルド預けの朋友、ご自慢の朋友、当コンテストに出してみませんかー! 朋友のかわいさ、朋友の凛々しさ、朋友の頼もしさ! 大事な朋友をみんなに見せてみませんかー!」 喜色満面、大声で客寄せするのは真樹。へたくそな字で「朋友こんてすと」と書かれた旗を背負い、足取りも軽く通りを練り歩く。 「なにコレ恥ずかしい‥‥!」 同じく旗を持ちながら、湯花はこそこそと顔を隠しつつ進む。あはは、と鋼天が笑いながら肩を叩く。 「気にしすぎだよ、湯花ちゃん」 「これから開拓者になろうってのに悪目立ちよ! なにこれ、なんなの、どんな恥さらし!? だいたいこんな旗だけで人集まるの!?」 「しょうがないじゃん。ギルドに依頼出せるほど、貯金してなかったし」 「あんたら貯めてないからでしょう!」 「うん、優先されるべきは食欲だよね!」 「のあああああっ!」 頭をかきむしる湯花をよそに、真樹は嬉々として、 「えー、一般の皆様もご覧においでくださいー! めずらしい朋友、かわいい朋友、かっこいい朋友とふれあえるまたとない機会! お見逃しなくー!」 いっそ行商でもやってしまえ、と言いたくなるほど、なぜだか嬉しそうに宣伝した。 |
■参加者一覧 / 風雅 哲心(ia0135) / 羅喉丸(ia0347) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 酒々井 統真(ia0893) / 秋霜夜(ia0979) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 乃木亜(ia1245) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / エルディン・バウアー(ib0066) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 御陰 桜(ib0271) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 天青(ib5594) / 総角 景(ib5621) / 北条神楽(ib5640) |
■リプレイ本文 コンテスト開催――。 ぞろり、と揃う開拓者たちと、わいわいと集う見物客。ステージもなにもない野っ原だが、意外なほどに客がいた。 開拓者の中にも見物に回った者もいたとはいえ、なかなか盛況である。それもそのはず、普段ゴロゴロいるわけもない、朋友たちがゾロゾロどこかへ集まっているのだから‥‥、つられてゾロゾロ集まったのだろう。真樹の旗より、来場した開拓者のほうがいい宣伝効果になっていたりした。 「入場料とればよかったわ。なんて惜しいことを‥‥!」 「湯花ちゃん、がめついから。それ」 受付で涙を呑む湯花。ひとつ鋼天が突っ込んだ。 「えー、それではただいまより! 第一回・朋友コンテスト開始しまーす!」 いつのまにか第一回と銘打つ真樹。ちなみに、次回の予定なんぞない。完全に気分任せの発言だった。 「一番! 桜さんと桃ちゃんでーっす!」 ばっと手を上げる真樹。御陰 桜(ib0271)に連れられて、てこてこ柴犬がやってきた。首筋に見える模様が独特である。 「桃〜、いくわ‥‥あら?」 玉を投げて桃に取らせようとした桜。しかしうっかり、手元に玉がない。 「ねぇ、なにか投げるのってない?」 「え? えーと」 真樹はぽりぽり頭を掻いた。主催側は突発的にやってみただけなので、フォローの準備が整っていない。ため息ついた湯花が、受付の鉢巻と「こんてすと」の旗の布を引っぺがし、ぐるぐる玉状にした。 「ああっ! 俺の力作!」 「威力は出ないと思いますけど」 真樹の嘆きをスルーして、湯花は桜にそれを渡す。 「ありがと〜! じゃあ、気を取り直して。桃〜、いくわよ〜♪」 ぽーん、と投げられる布玉。 「わん!」 きりりと飛びつく桃。ナイスキャッチ。てってと足取りも軽く、桜のところに戻ってくる。 「さっすが桃♪」 桜は撫でた。褒めたのもあったが、別の思惑も持って。 「わん!」 気づいているのかいないのか。ただ誇らしげな桃。愛らしい顔をまっすぐに主人に向け、すごいでしょう、といわんばかりだ。尻尾がはたはた振られている。 「えらいえらい♪」 なでなでなで、もふもふもふ、飼い主ゆえに的確なツボを心得ているのか‥‥。 「くぅ〜ん♪」 (暇があったら修行シてるくらい真面目なコなんだけど) だんだん恍惚と、でれっと桃はとろけだした。犬デレな何人かの観客が、一緒にでれっと顔を相好に崩す。 「くぅ、くぅ〜ん♪」 執拗な桜の撫で技。震える尻尾。お腹をもふもふ、もふもふもふと‥‥。 (お腹をもふもふシてあげるとすっごい幸せそうな顔をするところなんかカワイイのよねぇ♪) 桜は桃を撫で倒した。 ‥‥はて。犬デレるのは一向にかまわないが、どうおさめよう? 真樹はちょっと悩んで、 「えー、では二番! モハメドさんとムア‥‥ウィ、ヌンさん、でーっす!」 人垣の半円を別の方向に設置しなおし、進めた。一部桃にでれでれの観客はそっちのけ。致し方ない。ちなみに、ちょっと名前を噛みかけた。真樹的にはだいぶ言いにくかったようだ。 「私は、モハメド・アルハムディと言います」 小麦色の肌をしたモハメド・アルハムディ(ib1210)は、すこしばかりイントネーションの異なる調子で語りだす。 「そしてこれは、私の駿龍ムアウィヌンです」 彼ににつきそう駿龍は、商才に恵まれない彼が開拓者になったとき、祖父から譲られたものだそうだ。商家としてだいぶ成功をおさめた実家のようだが、幸運にも、と言うのだろうか。モハメドは志体ゆえに別の道へと踏み込んだようである。ムアウィヌン自身は陽光に鱗を輝かせ、主人のうしろに佇んでいた。 「へー、それじゃあモハメドさんちはお金持ち? もともとご実家の仕事用の龍だったの? 龍じゃあほとんど荷物積めないし、やっぱ仕事上の連絡係か書類運搬係だったのかなー? いろいろ気になりますねぇ!」 気になるが、そのシステムを根掘り葉掘り聞いてるわけにもいかなさそうだ。 「ありがとうございました、モハメドさん! 次は青天(ib5594)さんと明星さんでーっす! おっ、空繋がりのお名前ですね!」 ハイテンションな真樹の紹介に、けれど天青はひとつもペースを乱さない。 「俺はシノビの天青。こいつは弟の明星」 龍を弟、と紹介する天青。愛情の深さをうかがわせる言葉だった。 「俺は開拓者になって、親父様に初めてギルドに連れてこられた時にこいつに出会った。 こいつの前の主人は行方不明になっちまっててね」 このご時世に行方不明――。 なかなか希望的観測の持てる話ではないが、しかし。 「顔も知らねぇ生き別れの兄上を探す俺には他人に思えなかったのさ。 なぁ明星」 天青は明星の頭を撫でた。今も明星が前の主人を待っているのかはわからない。けれど、明星は空を飛ぶ。天青を乗せて。 一周して明星が着陸すると、 「いい再会ができるといいですね! でも、俺的には今のお二人もイイんじゃないかと思いますよー!」 真樹はぶんぶか手を振った。 「お次は鎮璃さんと結珠さんでーっす! にゃんこぉぉぉぉっ!」 無駄にテンションの高い真樹に迎えられ、のんびりやってくる鬼啼里 鎮璃(ia0871)。 「鎮璃ん‥‥」 真樹のテンションが若干鬱陶しい様子。ちょっとばっかり不服げに鎮璃を見上げる。さりげなく鎮璃が真樹と距離を置くと、くるんと丸まって尻尾を揺らした。柚子色の毛並みが太陽の光で明るく映える。陽気がさっきより二割り増しでぽかぽかと感じるのはなんでだろうか。 「結珠さんの魅力は、名前通りの柚子色の毛並みです」 真樹は口を挟まなかった。挟めなかった、とも言う。うっかり結珠にでれでれしていたために。ちなみに、一部猫デレな観客たちも似たような状態だった。 「ちょっと気まぐれな所が有りますけど、それが良いんですよね。 癒しと和みの魅力全開です」 なんだか縁側と緑茶の欲しくなる光景である。真樹が無駄に正座しはじめた。じりじり結珠に、にじり寄ろうとしている。 「懐いてる猫又、ステキですねー! ってか懐かせるなんてすごいですね! ありがとうございましたー!」 司会として役に立たない真樹をさしおいて、湯花が仕切った。 「次は五番! 哲心さんと極光牙さんでーっす! おお、なんか白い龍ですよ!」 猫デレから復活した真樹が、気を取り直して司会再会。 風雅 哲心(ia0135)はその言葉に、 「身体が白いから白組ってわけじゃないからな。その辺勘違いしないでくれ」 さらりと釘を刺した。それからみずからの甲龍に向き直り、 「いつも通りに飛べばいい。お前らしさを出せていれば、それでいいんだ」 優しく語りかける。主人としてのできのよさに、観客の何人かがほっこりと心温まっていた。 そうして空へと飛び立つ極光牙。飛び回り、羽ばたいて空中でひとところにとどまる。そこへ纏う霊鎧。煌びやかさと重厚さのイメージがぐんと上がる。純白の体躯がそれをなお引き立てていた。 「おおっ! これはかっこいい! いーなーすげぇ俺も欲しいっ! 強そー!!」 そのきらきらしい姿のまま、極光牙は主人のもとへ降り立つ。巻き起こる風で哲心の髪が巻き上がった。 「よし、よく頑張った。いい感じだったぞ」 やわらかに迎え入れる哲心。主人に似て温厚なのか、極光牙はきわめておとなしく翼をたたんだ。 「あとはのんびりしてようか」 おいで、と呼ぶ哲心のあとを、ゆっくりついていく極光牙だった。 そうしてコンテストが進行するかたわら、一部朋友たちが遊び始める。 早めの出番ゆえにこれからの待ち時間を潰そうと、「友だち」で結珠をじゃらかす鎮璃。ころんと転がる「友だち」に、しゅしゅっ、と手を出す結珠。そこへ、てけてけ寄ってくる秋霜夜(ia0979)の霞。結珠も気づいておもちゃから離れる。しばし見詰め合う二匹。やがて。 ぱふっ。ぱふぱふっ。 互いの前足をたし、と合わせ‥‥肉球くらべ? 「おや? 霞はお友達ができました?」 霜夜はくすりと笑み、 「パフパフぽふぽふ、楽しそうですー」 のんびりそれを見守った。 その近くで、エルディン・バウアー(ib0066)が愛犬ペテロの肉球をモミモミ。 「ほら、ふにふに、気持ちいいかい?」 そして、遊んでおいでー、と、肉球くらべに送り出したのであった。 さて、戻ってコンテストはというと。 「さあ! お次は六番、うわすげぇレアだっ! 人妖ですよー! 統真さんとルイさんです!」 酒々井 統真(ia0893)は、すこしばかり気まずい思いをしつつ中央に立った。なぜなら、雪白を登録する予定が‥‥。うっかり間違え、ルイの名前を書いてしまった。 「悪い、登録ミス。実際はこっち、雪白な」 ちょこんと小さな人妖を見せる。 「あららー。じゃあ改めて! 統真さんと雪白さんです! ではどうぞ〜!」 さくっと流して進める真樹。統真も気を取り直して語った。 「感動の出会いがあった訳でも、付き合い長い訳でもないんだよな‥‥依存心も高くはないし。 まあだからこそ、今のところとはいえ付き合ってくれてる事に感謝しなきゃいけないんだとは、思う」 「へー。んじゃ、雪白さんは?」 「まあボクもボクで、なにかやらなきゃいけない事がある訳でもないし、ね」 こちらも回答はだいぶ淡白である。黒い髪を風に揺らし、 「強いて言うなら、統真君には「俺の朋友だぞ」みたいに「所有してるんだ」って意識がない分、気楽にいられるから付き合わせてもらってるよ。 ‥‥これからもよろしく、我が主♪」 落ち着いているように見せかけ、最後は飄々と統真に微笑んだ。 「おおっ! じゃあ、なんか友達感覚なんですねー! ありがとうございましたー!」 フランクな二人を見送って、真樹はさらに続ける。 「お次は‥‥おおっ? やったぜ鋼天! 登場! ふしぎさんと天空竜騎兵! グライダーの登場っ!」 グライダーを持ってやってきたのは、天河 ふしぎ(ia1037)。 「この流れるようなフォルム、扱い易いながらも、光る速度と小回りの良さ、何より自らの手で空を飛ぶ感覚が味わえる‥‥一家に一台、もう貴方は飛べる!」 なぜだか出るなり宣伝風のふしぎ。しかし、語りつくすさまにえらく共感したのか、隣で真樹が拳を握り締め、うんうん頷いていた。コンテスト参加者募集をしていた真樹と、ちょっとばっかり通じるものがあったかもしれない。 「‥‥なんてね。自分の手で操って、空を自由に飛ぶ感覚は、龍じゃあ味わえないものだよ」 にこっと微笑み、ふしぎは愛機に乗り込んだ。立てられた、巨大な旗が青空にはためく。音がした。バタバタッ、と、重く。急上昇し、宙返り。さらに高度を上げ、上がりきった所から一気に急反転。地上へ向けて、高速で降下する。 さらにそのまま速度を落とさず強行着陸。最後に一瞬バランスを崩してしまったが、見事な飛行技術だった。 「おおお!!!」 さすがにこれは盛り上がった。 「にーちゃんすげー!」 見に来たちびっこどもも大はしゃぎである。着陸したふしぎのまわりに、人がたかった。 「はいはーい! 気持ちはよぉーっくわかるんですけどー! むしろ俺も混ぜろ! と言いたいところだが! コンテスト続行しますよー!」 めずらしく冷静に、真樹が取り仕切る。司会の自覚、ちょっとはあるようだ。猫には負けていたが。 「お次は同じく飛行系、こっちは堅実に実直に甲龍、羅喉丸(ia0347)さんと頑鉄さん、どーぞっ!」 どっしりがっしり、いかにも頑強そうな甲龍を連れ、羅喉丸が中央に立つ。三人のために、と簡単な説明から入る。 「この頑鉄は、いくつもの依頼を共に潜り抜けてきた自慢の相棒だ。 見てのとおりこの頑強な体躯こそが一番の自慢だ」 「おお‥‥。これはまた丈夫そうですねぇ」 素直に感心する真樹。見た目が本当に堅牢そうだ。まるで岩にでも見えそうな風体。戦闘では簡単にヘバれない回復手、鋼天もまじめに耳を傾ける。 「この頑強な体躯に何度助けられたことか。 他の龍と比べれば攻撃力と速度は劣るが、それを補って余りある耐久力が最大の武器だ。 騎乗して空戦もできるし、降りて別々に戦ったとしてもそうそう引けを取らない。 敵の前に城壁の如く立ち塞がる姿は実に心強いものさ」 「そっか‥‥。乗らないって手もアリかぁ‥‥」 地味に感心する鋼天。 (‥‥でもやっぱり空中戦ってかっこいいよねぇ‥‥) そろそろあきらめろ、と言いたくなるしつこさで、小さなため息をついた。 「羅喉丸さん、ありがとうございましたー! お次はわんこ! 霜夜さんの霞さんでーすっ!」 「あ、行かなきゃ。霞ー」 まだぱふぱふしていた霞を呼び、霜夜は中央に出た。 「霞は四歳。人間だと二十八歳くらいでしょうか? あたしより遅く生まれたのに、なんか姉さんみたいです」 簡単に霞を紹介する霜夜。霞はそれがわかるのか、まるで胸を張るようにして、耳をピンと立てる。 「あたしは未熟で、霞に助けられてばかりです」 霞は霜夜を見上げた。ちょこ、と前足を差し出す。大丈夫、と言いたげに。 「今日はそんな忍犬、霞に晴れ舞台をと思い参加しましたっ」 キリリ、と表情を引き締める霞。そして尻尾をフリフリしつつ、観客のまわりを一周する。 「わんわんー」 「まあかわいい」 ところどころ撫でられまくりながらも、無事に霞は戻ってきた。ちなみに、一番長く引き止めていたのは湯花だった。 「ああ、おりこうさん。いい子。しっかり者。もふもふ‥‥!」 「湯花ちゃん、進まないから。放してあげなよ」 珍しく鋼天に突っ込まれ、しぶしぶ放す湯花だった。 「ありがとうございましたー! いやあ、やっぱ忍犬って頭いいですねー! お次は真夢紀さんと鈴麗さんです!」 礼野 真夢紀(ia1144)は、駿龍を連れて前へ出る。コンテスト、というより体験談を話しに来てくれたようだ。 「色々購入している方もいますけど、まゆはずっと鈴麗だけですの」 果物好きだという鈴鹿に、蜜柑を剥いて口に投げ入れる。ぱくん、ぱくんと食べる鈴麗。のどかな光景である。 「朋友って、買うのにお金かかるでしょ? で、術を覚えたり練習したり武具を鍛えたりするのにもお金が必要。 どちらかというと、朋友連れていけない依頼の方が多いし」 まあ、もし町中なら迷わず龍はアウトよね‥‥、湯花も頷く。 「まゆはまず、術の習得を一番に考えましたの。一応全部使えればそれだけ戦術の幅とか様々な状況に対応出来ますし」 現実に即した話である。 「それに、鈴麗は地元にいた時からの付き合いですから、他の子と絶対に扱いに差が出ると思いますの。 それは互いに不幸でしょ? 未来はどうかわかりませんけど‥‥」 「そう‥‥そうね」 うーん、と湯花は悩む。たまたまそばにいた羅喉丸が、 「相棒とは苦楽を共にする事になるので、見栄えとかではなく一緒にいたいと思えるのにした方が良いよ」 「そっか、そうですね。よし、湯花、鋼天! 堅実におおいに悩もうではないか!」 「‥‥話が振り出しに戻ってるわよ真樹」 「あはは、でも、何も知らずに悩むよりはいいよね?」 幼馴染三人は、やっぱりまだまだ悩むようだ。 コンテストが進む中、けれど参加しない人、というのもいるわけで。 草の上に座り込み、見物を決め込むのはからす(ia6525)である。名前の通り、結んだ真っ黒い髪をそよ風に遊ばせていた。出すのはお茶‥‥と言いたいところだが、残念ながら湯がない。なぜならここは野っ原であるからして。 けれど水出しのそれを、来る人来る朋友にお茶を振舞っていた。 「やあ、お茶は如何かな?」 ちょっと風は冷たいが、太陽が暖かい。冷え性でなければ喉を潤すのにちょうど良かった。 クッキーも、と言いたいところだが、買うか作ってくるのか考えておらず、残念ながらお預けだ。 「お茶菓子食べたかった」 琴音がぽそっと文句を言った。金髪はからすに似ないが、目の色がそっくりだ。そんな琴音は適当にコンテストを見物したり読書をしたり。堂に入ったマイペースっぷりである。 人妖のものめずらしさに惹かれた人々が、お茶を飲んで琴音を撫でくり回して去っていったりもするが‥‥。そんな人々が、その後ささいな不幸に見舞われたとか、なんとか。 また、和奏(ia8807)もお茶こそ広げないが、観客として来たうちの一人であった。 「こんな、イベントもあるのですねぇ‥‥」 ゾロゾロ同じ方向に動いていった参加者の龍につられ、やってきた和奏。龍好きなのだろうか。 (龍さんをゆっくり見て行きたいな〜) 出番を終えた龍たちも多い。そっちに行こうとする。が。 「む」 和奏の朋友、人妖の光華姫。そばに自分がいるってのに、和奏の視線はまっすぐ龍へ。光華姫の機嫌は一気に右肩下がりに傾いた。 (和奏とお出かけ♪ ‥‥だったのに!) つんつん、と袖を引き。 が、和奏は止まらない。 一束だけ伸ばした髪を引っ張り。 「和奏ってば」 黒い一束はずいぶん掴みやすいらしく、光華姫のちいさな手が、こっちを向けとばかりにぐいぐい引っ張る。 「あのですね‥‥」 かがんだ和奏の頬を、むにょーんと引っ張り自己主張。 (この調子ではコンテストに出られる日は当分来ないだろうな) ほかの開拓者の朋友たちをほれぼれ眺めつつ、また髪を引っ張られる和奏。 そんな二人の姿を、やたらほほえましく見守っていたのは、通行人一同だった。 「さあ! 次はこれまた珍しい! 乃木亜(ia1245)さんと藍玉さん! ミヅチだはじめて見たぜ!!」 コンテストは終盤にさしかかり、ますます盛り上がりを見せた。乃木亜は簡単に藍玉を紹介する。 「ちょっと我儘ですけれど、賢くて私の意図を汲んでくれますし、こう見えて頼りになってくれるんです」 大観衆に気後れしたのか、乃木亜の後ろに隠れる藍玉。けれどもとより細い乃木亜に隠れきれるわけもなく、身体が半分はみ出している。 「藍玉!」 乃木亜が呼ぶ。物怖じしてたとは思えないほどすばやく反応し、投げられた鞠――がなかったので、例の布玉――を、水柱で跳ね上げる。キラキラと飛び散る飛沫が陽光に輝く。 「おおっ!」 が、威勢がよすぎて玉が千切れ飛んだ。 「ピィ‥‥?」 「のあああっ! 俺の力作!」 「す、すみませんっ」 やかましい真樹。謝る乃木亜。真樹をぶん殴る湯花。そして。 「はい。今度は手加減してやってみてくださいね」 他の二枚の旗を引っぺがし、湯花よりきれいに玉を作った鋼天が、乃木亜にそれを差し出した。 「あの、すみません‥‥」 「どうせしょうもない旗だから」 今度は藍玉に加減を教え、再挑戦。藍玉は観衆の真ん中で二度、三度と跳ね上げ――。 「藍玉、最後!」 布玉を水牢が受け止めた。 「ピィ!」 「ありがとうございました」 ぺこり、とお辞儀する乃木亜。拍手が鳴り響く。 「戦闘用の技を器用に芸に! ありがとうございましたーっ!」 袖に引っ込んで、乃木亜は藍玉をよくよく褒めた。が、途中で。 「えー、では皆さん、ちょっと場所替えしますよー」 水柱の使用で、ちょびっと荒れた野っ原。真樹が舞台の位置をずらす。それに気づいて、 「す、すみません、ごめんなさい‥‥!」 慌ててまた謝る乃木亜。あはは、と鋼天が笑った。 「いいんだよ。どーせただの野っ原だし。面白かったよ、乃木亜さん」 観客も、ハプニング含めておおらかに楽しんだようである。 「‥‥ありがとう、藍玉」 「ピィ♪」 いろいろあったが、なんとか丸く収まった藍玉の演目だった。 「お次はエルディンさんとペテロ君! 忍犬多いっすね〜、やっぱ頼れますか!」 「柴犬の可愛さは世界に誇れます」 エルディン、さらりと答えて真樹の反論を封じた。 「特にうちのペテロ、くるっとした尻尾、愛嬌のある顔。 犬らしい均整の取れたボディ、ハンサムです」 ここに来て、真樹はひとつの確信を得た。 忍犬の主は、総じて徹底した愛犬主義者だ、と――。 別段そんなことはないのだが、コンテストの趣旨が趣旨だけに、溺愛する開拓者が多いのも事実だろう。そんな真樹の早とちりをよそに、エルディンはペテロに語りかける。なだらかな目が愛くるしい。 「ペテロ、何か芸をしてみるかい?」 言うなり、饅頭を振りかぶり、上空に投げ飛ばすエルディン。 開拓者の腕力だ。空高く饅頭はぶっ飛んだ。 しかしそこは忍犬、飛跳躍にて全力で追いかけ、やたらと高い空へとその身を躍らせた! パクッ。 みごとにかけらも零さず口に収め、したっ、と着地する。 次は円盤‥‥円盤? ないない、と真樹は手を左右に振った。かわりに例の布玉を取り出し。 「もう、ここまで来たらこの元・旗にも栄光を‥‥!」 わけのわからんことを言いつつ、エルディンにたくす。 「今度はこの球ををもってこ−い!」 思いっきりぶん投げられた球。投擲に特化したものではないが、そこは開拓者の腕力。ばびゅんとペテロも追っかける。 「頑張れペテロ」 むやみに爽やかに見えるのは、なんでだろうか。 「さあ! 無事にペテロ君と元・旗も戻ってきたところで! お次は蒼羅さんと陽淵さん! おっと、これまた空つながりのお名前ですかねー? どうぞー!」 呼ばれて静かに中央に立つのは、琥龍 蒼羅(ib0214)。 「俺が陽淵と出会ったのは去年の今頃‥‥」 語る言葉も静謐を含んで、そっとつむがれる。 「開拓者となる少し前、刀の鍛錬を重ねていた頃だ」 あ、と真樹たち三人は小さく声を上げた。つまるところ、蒼羅は自分たちよりちょうど一年先輩、ということか。 「風と共に舞い降りた、俺の名と同じ琥珀の瞳と蒼き体の龍。 俺は対峙し、理解した。 共に空を翔け、共に戦う相手だと。 それは陽淵も同じだったのだろう。 俺の声に応え、共に往く事を選んだその時から俺達は友となった」 「‥‥おとぎ話みたいだねぇ」 にっこり目を細めて、鋼天が小さく呟く。 「‥‥思い返せば不思議な話だが、な」 その呟きを拾ったのかは定かではないが、蒼羅はそう締めくくった。そして。 「さあ、出番だ陽淵」 控えていた陽淵の、蒼い翼が羽ばたいた。 「翔けろ‥‥、飛燕の如く」 風をはらんで空に舞う。蒼い鱗が空に煌いた。 陽淵のアクロバティックな飛行が終わると、真樹は手元の名簿を見る。残念、楽しい時間はあとすこしのようだ。残りは二名。 「さあ! お次は‥‥志郎さんといんひっ‥‥い、い、隠逸さん、でーっす!」 ちょっと噛んだ。でもがんばった。 菊池 志郎(ia5584)は、「‥‥俺も言いにくいですけどね」、小さく呟き、隠逸を駆って空を舞う。秋空は飛ぶのになんとも心地よい。よく晴れて、すこし寒い。その青い空に、集めた紅葉を振りまいた。 「わぁ‥‥!」 地上の歓声も、空では遠い。隠逸が羽ばたけば紅葉が踊る。舞い散る紅葉の間を、あちらこちらと泳ぐように。 (観客から綺麗に見えれば) 鮮やかな紅葉と空のコントラストを躍らせて、志郎は着地した。わっ、と観客が沸き返る。目に鮮やかなそれは、意図した通りに美しかった。 「す、すごい綺麗でした!」 着地した志郎と隠逸を真っ先に出迎えた鋼天が、目をきらっきらさせつつ感想を告げる。 「お兄さんよかったよー」 「きれいだったー!」 反応も上々である。真樹も、 「いやぁ、ほんと綺麗でした! 志郎さん、ありがとうございまーっす! さあ皆さん! 最後ですよー! トリは琉宇(ib1119)さんとろんろんさんでーっす!」 琉宇は駿龍、ろんろんと共に中央に立つ。手にしたヴァイオリンを肩と顎で挟み込み、やさしみ、やさしい音色が軽快に音律を奏でた。にぎやかな祝いの席によく似合うその曲は、さほど馴染みがなくとも心沸き立つ陽気な音を響かせる。琉宇の足がステップを踏んだ。 それにあわせているのだろうか。ろんろんがまた、なぞるように鳴く。音楽、と呼べるほど完成されたものではなかったけれど、首を動かし楽しげだ。今までの演目で緊張のほぐれたのも手伝い、観客たちも身体を揺らし、足を踏む。中には地方の舞踊を踊り始めるおじさんもいたが、それもそれでありだろう。 「おおっ! よし! みーなさーん! ぐるっと輪になって! そうそう、あとは好き勝手に!」 おとなしくて入り込めない女の子を引っ張り込み、真樹が先導する。琉宇とろんろんを取り巻いて、いびつな輪が漉き放題にリズムを刻んだ。輪が二層三層になったところもあれば、団子状のカオスエリアあり、かと思えば途切れたところでひとり踊るのもあり、足元やら頭上やらを飛び回る影もあり、ちらほらと静観する面々もある。 てんでばらばらな最後に、ひときわ高くヴァイオリンの音が響き。 ごうっ! ろんろんの口が、空に向けて火焔を放った。一瞬驚きで静まり返り、わっと笑い声にかわる。 「さあ! 以上を持ちまして――朋友コンテスト、ピーアールタイムはしゅーうりょーうっ!」 審査には、すこし時間がかかった。 と、いうのも。 「いいかげん決めろよ」 「そうだよ。湯花ちゃん、悩みすぎ」 「だ、だって〜!」 この期に及んで、湯花が優柔不断を発揮したのである。 「二人とも早いよ! 早すぎる!」 「だって‥‥なぁ?」 「うん。すぐ決まったし」 「なんで!? どのコも可愛すぎるのに! なんで決められるの!?」 「だって‥‥ねぇ?」 「なぁ?」 参考にならない。 いっそ‥‥、と、思いつめてあみだを始める湯花。やめろ、と真樹が止めた。 「さすがにそれは失礼だろ」 「湯花ちゃんならどの子をパートナーにしたいって思ったの? それでいいと思うよ。もともとそういう目的のコンテストだし」 そして――。 「さあ! いよいよ結果発表!」 真樹が声を張り上げる。張り詰める緊張感。 「まず俺! かっこいいで賞受賞は――。ふしぎさんと天空竜騎兵だーっ!!」 『おおおおおっ!』 どよめく観客。よっしゃ! とふしぎが拳を握った。 「天空竜騎兵にかける情熱! 魅力を最大限に引き出す演目! おれの賞はふしぎさんに贈るっ!」 大きく拍手が鳴り響く。続いて湯花が前に出た。 「次、あたし。かわいいで賞受賞者は、霜夜さんの霞ちゃんでっす!」 『おーっ!!』 ぐっと胸を張るようにして、霞はピンと背筋を正した。わかってるもんである。 「すっごく悩んだけど、かわいくて頼れるなんて最高じゃない? あたしの賞は霞ちゃんにあげる!」 また拍手が鳴り響いた。最後に鋼天が進み出る。 「じゃあ、僕で最後。きみがいいで賞、隠逸さん! みんな忘れられやしないよね? 紅葉が降るのは綺麗でした、志郎さん」 『もちろんだー!』 ノリのいい観客である。隠逸も志郎も、控えめに佇んだ。 「綺麗だって思ってもらえたら、よかったです」 「一緒に人を感動させるなんて、素敵だと思いました。だから、僕の賞は二人にね」 そうして幕を閉じ――るかと思いきや。 「いやあ、楽しかったよ。最後にちょっといいかい?」 琉宇の演目で、ひとり熱心に踊っていたおじさんが出てくる。なんだこいつ? と各方面から思われつつ、おじさんはふしぎたち三人に向かって話しかけた。 「実は僕、下っ端の役人なんだけどね、面白かったから。 君たち三人は紅白どっちの組だい? あとで追加しといてあげるよ、点数。各賞千点ずつ、演出力で志郎君‥‥だっけ? 君にはおまけで追加五百。他の子にもあげたいけど‥‥僕、細かいの苦手だから。三人に代表してもらうね」 そんなことを、言った。 すべてが終わり、集った人々が解散する。 「今晩は藍玉の好きなものをあげるからね?」 「ピィピィ♪」 乃木亜のあとを、嬉しげにくっついてく藍玉。 「うーん、ミヅチもかわいいわぁ‥‥。あんなにぺったりくっついて」 そこへ居合わせた志郎が、湯花含め三人に声をかけた。 「どんな朋友を選んだとしても、こちらが相手のことを考えて信頼を得られるよう努めれば、きっと朋友も応えて力を発揮してくれますよ」 「信頼‥‥」 はい、と志郎は頷く。 「俺は先生には本当にいつも助けられていて‥‥先生と肩を並べられるよう、まだまだ修行中です」 「先生?」 鋼天が聞き返した。 「ええ。先生です」 志郎が指し示すのは、そばに佇む隠逸。そっか、と鋼天は顔をほころばせた。 「みんな、自分の朋友、すごく大事にしてましたね」 「大切ですから」 そうして、第一回・朋友コンテストは幕を閉じた。 |