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■オープニング本文 「はあ‥‥」 「兄さん、お帰り。どうしたの? 休憩から戻って来たばかりなのに、暗い顔しちゃって。食事が美味しくない店にでも入ったの?」 「違う。‥‥あのな、開拓者って知名度、高いよな?」 「当たり前でしょ? じゃなきゃ、あたし達の仕事が無くなるわよ」 兄と妹の二人は、神楽の都にある開拓者ギルドに職員として働いている。すでに兄の方は勤めて五年になるし、妹も二年になる。 開拓者ギルドには毎日、多くの依頼人と開拓者が訪れて、静かになる時などないほど多忙だった。 「それがさあ‥‥食事しに行った食堂で、衝撃的なこと聞いちゃって」 ――開拓者って、何か意味、分かんなくね? 「いや、言葉遣いの方がわけ分かんないけど‥‥。それ言ってた人って小さい子?」 「そうだな。まだ十にもなっていなかったかもしれない」 「だったら分からなくてもしょうがないんじゃない? ウチの依頼人達はみんな、ちゃんと報酬を払える大人ばかりだから、子供にはまだ早いんじゃないの?」 「そうも言ってられないだろう? 確かに依頼人が必要なのは違いないが、開拓者自身も必要なんだぞ? いくら志体の条件があるとは言え、開拓者を目指す子供がいないんじゃ話にならないだろう?」 「‥‥まあそれは一理あるけど」 志体を持っているのに開拓者にならない人が増えたら、それこそ兄妹共々失職してしまう可能性も出てくる。 「だからな、現在活躍中の開拓者達を集めて、『開拓者とはこういうものです』とギルド前で説明会をしてみてはどうかな?」 「はあっ? その依頼料はどこから?」 「今から上司に相談してくる!」 兄の突然の思い付きに、妹はクラッ‥‥と目眩を起こす。 しかしそんな妹の様子もお構いなしに、兄は再び何かを思い付いたように両手を叩く。 「おお、そうだ。開拓者と言えば、やっぱりパートナー紹介もあった方が良いよな? 今までこなした依頼の経験談とかを語ってもらい、子供に夢を与えるのだ!」 倒れそうになるのを踏ん張って耐えて、妹は声を荒らげる。 「ちょっと待った! 開拓者のパートナーってデッカイのもいるでしょう? 龍やアーマーはギルド内に入らないわよ!」 「あっ、そうだな。流石に大きいのをギルド前に置いては、邪魔になるか」 「迷惑にもなるから」 ギルドの中に入りたい人が入れないだろうし、驚いてギルドから遠ざかる人もいるかもしれない。それでは本末転倒だ。 「よし、じゃあ広場を使おう。あそこなら広いし、大きなパートナーがいても大丈夫だろう?」 「‥‥借りる申請は?」 「俺の方でしておく。よーしっ! やることが多いな。でも頑張ろう!」 「にーさーんっ!」 妹の叫ぶ声もむなしく、兄は行動を始めた。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
からす(ia6525)
13歳・女・弓
闇野 ハヤテ(ib6970)
20歳・男・砲
ルカ・ジョルジェット(ib8687)
23歳・男・砲 |
■リプレイ本文 神楽の都、海近くの広場には多くの人々が集まっていた。それと言うのも、前々からギルドが宣伝のはり紙を都中に貼りまくり、口々に宣伝していたおかげである。集まった人達の中には小さな子供の姿も多く、また物売りまで来ていた。 そんな広場の隅で、六名の開拓者達を前に、兄と妹が説明をしている。 「話をするのは一人ずつ、順番に演壇に上がってください。そして今回は特別にマイクを用意しました!」 兄が指し示した演壇の真ん中に、スタンドマイクが置いてあった。 「マイクがあれば声はよく通ります。けど借り物なのでくれぐれも壊さないでくださいね! 宝珠を使って作られているだけに、高いんですから」 妹が心配そうに六人の開拓者の顔を見回す。 「何だか話す方としてもドキドキするなぁ‥‥」 緊張した面持ちで呟いたのは闇野ハヤテ(ib6970)だ。そわそわと落ち着かない様子で演壇を見つめる。 一方でからす(ia6525)はみんなに背を向け、歩き出す。 「では私はここで失礼する」 「えっ!? もうすぐ説明会、始まりますけど?」 スタスタと歩いて行くからすに、妹が慌てて声をかける。 「私は茶席を設け、そこで語ろう。まったりした空間を作りたいからね。おお、茶菓子も用意せねば。物売りに良いのが売っていないかな?」 「かっからすさん、そんな自由にされると予定がっ‥‥!」 そこでからすは歩みを止め、妹と向き合う。 「私は志体持ちだからといって、開拓者という職業を強要するつもりはない。私はただ、開拓者というものがどういう存在なのか、語るだけ。未来を選ぶのは子供達次第だと考えている。だからこの会が、子供達が選ぶ未来の選択肢の一つになれば良いと思っている」 言いたいことだけ言うとからすは再び背を向け、行ってしまった。 「まっ、確かに全面的にオススメな職業じゃないわね。危険が伴う依頼もあるし」 海月弥生(ia5351)がからすの後姿を見ながら、苦笑する。 「でも実際いろいろ駆けずり回っていると、所々で人手不足の感が有るしね。この前の仕事もそうだったし。やっぱり仲間は大勢いた方が良いわね」 「‥‥弥生さんはどちらの味方ですか?」 暗い空気をまとう妹が、低い声で問う。 「まあ依頼によっては傍目には難しかったり、辛い状況に追い込まれたりするけど、内情はそんなに厳しいものじゃなくて、むしろ心躍るものも多いから。その辺をこの説明会で、汲み取ってくれたら良いわよねぇ」 弥生の言葉を聞いてがっくり項垂れた妹の背後から、兄のはしゃいだ声がかけられた。 「そろそろ説明会を始めますよ〜!」 一番手は風雅哲心(ia0135)。堂々とした様子で演壇に上がり、マイクの前に立つ。 「俺は風雅哲心と言う者だ。よろしくな。開拓者というものはぶっちゃけてしまえば、何でも屋の印象が強いだろう。だが普通の人間では対処できないアヤカシやケモノ、更には同じように志体を持ちながら人の道を踏み外した者達から、人々を守る為の存在でもあるんだ。だからこの中に志体を持っている人がいるのならば、俺達と同じように『守る存在』になってほしい」 哲心の真剣な説明に、会場の人々も黙って真面目な面持ちで耳を傾ける。 「俺は最初、志士として修業を積み、昨年の春に魔術師へと転向したんだ。理由はより幅広い戦術を求め、編み出す為だ。術師というのは後方支援という、常識から外れた規格外の戦法を持ち味とするから面白いぞ。そして――」 そこでパートナーを呼び出し、人々の前に姿を見せた。 「開拓者には相棒がつきものでな。コイツは羽妖精の美水姫。つい最近、俺の相棒になったんだ」 「うにゅ。はじめまして、みなさまぁ〜。みずきと言いまぁす」 人々は羽妖精を見て、驚きと喜びの表情を浮かべる。その様子を見て哲心は優しく微笑み、美水姫は哲心の頭の上に乗った。 「他にも甲龍の極光牙というのがいて、そいつは最初の相棒だ。主に空中戦で力になってくれる。持ち前の耐久力で攻撃を耐え、隙を突いて頭突きするのが得意なんだ。それと魔術師に転向してから会ったのは、管狐の翠嵐牙。同体化することによって能力変化するだけでなく、自身を変化させて偵察などもできるようになるんだ」 人々の中から、「ほぉ‥‥」と感心するような声がもれる。 「けど」 そこで哲心は表情を引き締め、真面目な顔つきになる。 「今まで数々の依頼をこなしてきたが、成功したこともあれば、失敗したこともある。失敗した理由は対人戦でこちらの裏をかかれたり、人質を利用されたりして、それに対するこちらの作戦が機能しなかったのが原因だ。ただそういうことがあったからこそ、次の依頼に活かす為の糧となるし、同じ過ちを繰り返さないようにできるんだ」 一気に語り終えると、再び表情を和らげる。 「まっ、失敗は成功のもととも言うしな。なかなか面白い仕事だと俺は思っている」 そう言って哲心は軽く頭を下げると、演壇から下りた。 入れ違いに、弥生が演壇に上がる。 「どうも、はじめまして。あたしは海月弥生と言うの。よろしくね」 にこっと微笑み、弥生は話し出す。 「あたしが開拓者になった理由は‥‥そうね。元々理穴出身で、生まれは奏生近郊の山中なの。ギルドへ登録したのは丁度理穴の北東方面が怪しくなった頃で、何となくその辺で手伝えれば良いかなと、その時は思っていたのだけど‥‥」 そこで当時を思い出したのか、弥生の表情が暗いものへと変わる。 「その後、類も見ないほどの大規模な戦になってね。結局あたしは末端の兵として、空で援護しながら戦ったの。でも勝った時の歓喜はねぇ‥‥。思い返すと、仲間達との一体感は良かったわね」 晴れ晴れとした表情を浮かばせ、弥生はパートナーを呼び出した。 「はい、ここで紹介するのは土偶ゴーレムの縁よ。開拓者になると色々な相棒を稼ぎによって従えることができて、依頼を手伝ってもらえるようになるのよ。このコは目端が良く利くので、グライダー整備とかも手伝ってくれるから良い相棒と言えるかしらね」 弥生は嬉しそうに縁を見るも、人々は滅多に見ない土偶ゴーレムを見てポカーンとしている。 「おめぇさん方ぁ、はじめまして。おらぁ、縁と言うだぁ」 その口調と人懐っこそうな雰囲気で、人々は物珍しげに縁を見つめた。 「後はそうねぇ‥‥。やっぱりさまざまな土地を、あまり障害なく見に行けるのは良いわね。その土地のそれぞれの風光明媚を見聞とし、己の体験として蓄積していくの。今はまだだけど、いずれ開拓者を引退した時には、あたしの血を引き継ぐ血縁者達に思い出話を話せたら良いかなと思っているわ。もちろん、開拓者としてやるべきことはやった後にね」 次に演壇に立ったのは、ルカ・ジョルジェット(ib8687)。 「どうも〜。ミーはルカ・ジョルジェット。よろしくね〜」 ルカは気軽い雰囲気を持ち、笑顔を浮かべて語り出す。 「ミーが開拓者になったのは、スリルに惹かれてだったね〜。開拓者は良いよ〜。スリリングで楽しいんだ〜」 楽しそうにルカが語るので、聞いている人々の表情も明るくなる。 「今日ここで紹介するミーのパートナーは、滑空艇のバロ〜」 そこで人々はこれまた滅多に見られないグライダーこと滑空艇を見て、驚きの声を上げる。 「バロに乗ってパフォーマンスを見せてあげるよ〜」 得意げに片目でウィンクをし、ルカはバロに乗り込む。 会場の人々は空高く舞い上がるバロを見上げた。 ルカは会場から距離を取り、周囲を見回し、ニヤッと笑う。そしてマスケットのバイエンを取り出す。 「せっかくだし、空中射撃を見せようか〜」 ルカの目に映るのは、分厚い雲の塊。それは小さな物だが、存在感がある。 標準をそれに合わせ、ルカは引き金を引く。 ドゥっ! バイエンから弾が放たれ、小さな雲を貫いた。貫かれた雲は散り散りになり、消えてしまう。 会場から「おおっー!」と歓声の声が響いてくるのを聞き、ルカは満足げに笑い、会場へと戻る。 「まあこんなことができちまうのが、開拓者ならではの楽しみなんだ〜。どうだい〜? ミーと一緒に、スリリングな日々を送ってみないか〜?」 四番手は柊沢霞澄(ia0067)。マイクの前で一礼し、静かに語り出した。 「はじめまして、私は柊沢霞澄と申します‥‥。私が開拓者になった経緯ですが、私は早くに両親を亡くしまして、その後‥‥母方の親戚中をたらい回しにされて、育ちました。両親の結婚が周囲に祝福されたものではなかったので‥‥さまざまな冷たい言葉をかけられました」 そこで静かに深く息を吐き、霞澄は続ける。 「ですが私の父は開拓者でしたので、物心ついた頃からこの職業に興味を持つようになったのです。そして自分が志体を持っていることを知り、この神楽の都に来て、開拓者となったのです。誰かに必要とされたかった‥‥そして誰かの役に立ちたいと思ったのです」 一通り説明を終えた霞澄は、今度は少しだけ明るい表情を浮かべる。 「私のパートナーは炎龍の紅焔と、管狐のヴァルさんです‥‥。今回はヴァルさんについてきてもらいました」 そこで宝珠を取り出し、封印を解いてヴァルをその場に出す。 「普段はこうして宝珠に封印されていますが、呼び出すことで私の助けになってくれます‥‥。呼び出せる時間は限られていますが、頼りになるパートナーです‥‥」 「お前が頼りないから、仕方あるまい」 ヴァルはため息をつきながら、ヤレヤレといった感じで呟く。その後、キリっと顔を引き締め、人々を見る。 「とりあえず挨拶をしておこうか。正確な名はヴァルコイネンという。以後、よろしく」 「今日は連れて来ませんでしたが、紅焔も良い子です‥‥」 そう言ってヴァルを宝珠に戻し、話を続ける。 「仕事内容ですが、私は巫女ですので戦うのではなく傷を癒し、皆を助けるのが本分です‥‥。失敗もしますが、それなりにはお役に立てるようになってきたと思います‥‥。あっ、そう言えばこの間、仕事で助けた二人の祝言に呼んでいただけました‥‥。助けた人達が元気でいてくれるのが、今の私の嬉しいことです‥‥」 五番手のハヤテはまだ少し緊張した面持ちで、マイクの前に立っていた。 「俺が開拓者になった理由は‥‥単純に兄と妹がなったから、俺も続いたって感じかな? 流れに乗らないとさ、後でどんな扱い受けるか分かんないじゃん。最初は渋々って感じだったけど、今は全身で楽しんでいるよ」 そこでようやくハヤテの顔に、微笑みが浮かぶ。 「大切な人を護れることもできるし、それにこんな俺にも友達ができた。どんな依頼であれ、依頼人から『ありがとう』って感謝の言葉を言われるのが一番嬉しいんだ。依頼で何げに難しいのは、説得系の依頼なんだよね。例えば恋愛絡みの依頼で、両想いなのにすれ違う二人をくっつける時とか、こっちもハラハラものだよ」 当時を思い出したのか、ハヤテは難しい顔でため息を吐いた。しかし人々の視線を感じ、我に返る。 「あっ、俺のパートナーを紹介するのを忘れていたね」 空気を変えようと、ハヤテはパートナーを呼び出した。 「炎龍で、名前はアイビーというんだ。目付きはちょっと悪いけど、良いヤツなんだ。アイビー、せっかくだし大空を舞う姿を見せてやれ」 アイビーは頷き、翼をはためかせて空を飛び始める。力強く空を飛ぶアイビーの姿を見て、人々は感動して言葉をなくす。 しばらくして戻ってきたアイビーの首を撫でながら、ハヤテは子供達に声をかけてみる。 「良かったらアイビーに乗ってみないか? あまり高く飛ばさないから安全だし、楽しいよ? アイビーは人間が好きだし、喜んで乗せてくれるよ」 ハヤテの申し出に、子供達はちょっと怖がりながらも頷いた。 そして数人の子供達を背に乗せ、アイビーは会場の上空を飛ぶ。子供達ははじめての体験に、大喜びして声を上げていた。 ハヤテは再び戻ってきたアイビーと向かい合いながら、視線ははしゃぎながら戻って行く子供達の後ろ姿を見る。そして誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。 「‥‥ありがとう。アイビーも俺も楽しかったよ。‥‥こんなふうに幸せそうな人々の顔を見ると疲れも吹っ飛ぶから‥‥俺は頑張れるんだ」 会場の一角にパートナーであるアーマーの鳥籠を置き、からすは茶席で人々をもてなしていた。 「茶菓子はいかがかな?」 からすに勧められ、子供達は喜んで茶菓子を食べる。 「朝廷の命で遺跡開拓に従事したのが始まりだっただろうか? だから、開拓者。今は依頼という形で、人を助けたりする何でも屋みたいなことをしているがな。アヤカシと戦うだけでなく、新しい土地や遺跡を発見したり、猫探したり、お誘いがあればこんな会や遊びにだって付き合うのも仕事さ。報酬なくとも動く人はいるし、開拓者にも色々いるのさ。変な人達と、よく周りからは言われるけどな」 湯呑に入った茶をすすり、苦笑しながらからすは続ける。 人々の中から「何故開拓者なったのか?」という声が上がり、その問いに答えた。 「理由はしいてあげれば、好奇心と探究心かな? 依頼を通して世界を旅して、いろんなものに出会えるから」 そこまで言って、からすは背後に立つ鳥籠を仰ぎ見る。 「例えばこの鳥籠は、ジルベリアのアーマーを私に合わせて作り直した物だ。アーマーは騎士が乗るのが最も力を発揮できる兵器だが、作り直せば私でも乗りこなすことができる。こうした物に多く触れられることが、利点の一つかな」 からすは湯呑を置き、立ち上がった。 「どれ、せっかくだし鳥籠を起動して、剣を振っている姿をお見せしよう」 身軽な動作でからすは鳥籠に乗り込み、起動する。そして人々から少し離れ、空いた空間で剣を振ったり、動いたりする。一連の動作を、子供達が興味津々といった様子で見続けた。 一通り動き終えると、からすは鳥籠から出て、再び茶席に戻る。 「パートナーの紹介はこんなところだ。さて次は体験談でも語ろうか。今までさまざまな依頼をこなしてきたからな。ああ、パートナーのことでも構わないよ? この場にはいないけど、私の屋敷には多くのパートナーがいるからね。知りたいことがあるのならば、私が教えられる範囲で答えよう」 個人の説明が終わっても、開拓者達の周囲には人々が多く集まっていた。 盛り上がっている会場を見て、兄は満足そうに笑い頷く。 「これで開拓者という存在がどんなものか、分かってもらえただろう」 「そうね。でも‥‥開拓者は必ずしも、安全な職業ではないわ。それを理解し、覚悟を決めた人が開拓者になってくれれば良いわね」 妹の言葉に、兄もまた遠い目で会場の人々を見つめる。 「‥‥だな。願うことなら、開拓者達が『なって良かった』と思えるような職業であってほしいと思うよ」 |