償えぬ罪、アヤカシ屋敷
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/31 20:00



■オープニング本文

 山奥にある小さな古い寺の寝室には、一人の七十代の男性高僧が布団の中で横たわっている。顔色は悪く、体も骨に皮が張り付いているかのようにやせ細っていた。
「こんな山奥まで来てくださり、感謝いたします……」
「敬語なんぞ使うな。ワシらは兄弟弟子なんじゃからのぉ、静流(しずる)」
「今更俗名で呼ばれるとは、何とも言えぬ気持ちにさせられる。……特に五十年以上も前に捨てた名であれば、特に。なあ、天高(あまたか)?」
 俗名を静流と呼ばれていた七十代の男性高僧の枕元には、六十代の男性高僧が座っている。
 二人は十ほどの年の差があるが、同じ師の元で修行した兄弟弟子であった。
「突然、手紙で呼び出して悪かったの。見ての通り、わたしはもう寿命が尽きる。その前に、どうしてもしておきたいことがあるのじゃ」
「何を弱気な……。しかし心残りを抱えたままでは、治療に専念できそうもないからのぉ。言ってみよ」
 静流は弟弟子の天高を真っ直ぐに見上げながら、五十年以上も前に起こしてしまった己の罪を告白しはじめる――。


●心の闇が引き起こした悲劇
 五十年以上も昔、森の奥に一軒の立派な屋敷があった。
 広い庭に二階建ての大きな和の屋敷は、とある商人が建てたもの。しかし金を稼ぐことに夢中になり、人の心を失ってしまった商人はやがて、命を狙われることになる。
 商人は用心棒として腕が立つ男達を雇い、屋敷に住まわせた。だが用心棒とは名ばかりで、男達は好き勝手に振る舞う。
 やがて他の使用人達や近くに住む村の人々の不満は膨らみ、ある日、惨劇は起きる――。


 使用人の一人であった青年が商人に頼まれて、馬に乗って隣村まで使いに出た。
 その帰り、森の土道を馬に乗りながら進んでいた青年は、アヤカシの怪狼五匹と遭遇してしまう。
 青年は慌てて逃げ出したが、アヤカシ達は追い掛けてくる。逃げている途中で、とんでもないことを思い浮かべてしまった。

――このままアヤカシを、あの屋敷に導けるのではないか?――と

 給金が高いという理由で、青年は今まであの屋敷に使用人として働いていた。
 だが自分勝手な主人や傲慢な用心棒達から、毎日のように理不尽な暴力を受けていたのだ。それは他の使用人達も同じだったが、それでも皆、金の為に耐えた。
 しかし薮入りで田舎に帰った時、体中に様々なアザができているのを見た実家の家族達から、泣きながら「もう家に帰って来い」と言われてしまい、心が揺らぐ。
 けれど自分の稼ぎがなければ育てられない弟妹が複数いることが、青年の悩みだった。
 もしあの屋敷で働くことを辞めれば、口減らしの為に弟妹達は人買いに売らなければならない――それだけは絶対に嫌だったので、今まで耐えてきた。
 だが青年の心は、もう限界をむかえている。
 その証拠に馬が向かうのは人気のない場所ではなく、働いている屋敷だ。
 善の心と悪の心の間で揺れ動く心のまま、とうとう青年は馬を屋敷の庭に入らせる。
 アヤカシが突然現れたことにより、屋敷中が大混乱になった。そんな中、青年は他の使用人達を逃しながらも、屋敷の金目の物を盗む。
 用心棒達はいくら腕に覚えがあったとはいえ、普通の人間がアヤカシを倒せるはずもなく、屋敷には悲鳴と血しぶきが上がった。


 やがて丸一日経過した後、屋敷にはアヤカシ五匹しか残らず――。
 商人と用心棒達は、物言わぬ肉塊と化してしまった。
 他の使用人達は青年の誘導もあり、怪我を負いながらも何とか逃げ延びることができた。
 そして近くの村に住んでいた人々も、ここにはいられないと去って行った。
 青年は屋敷から盗んだ品を実家に届けると、そのまま行方をくらましてしまう。
 かくして、惨劇は幕を下ろした。


○現在
「……もう気付いておろうが、この事件を起こした『青年』とはわたしのことだ。当時、闇に心を支配されてしまったわたしは、言い訳などできぬことをやってしもうた。しかしわたしの罪が明るみに出れば、家族や田舎に迷惑がかかる。それだけは避けたくて、仏門に入ったのじゃ。……何とも浅ましかろう?」
 静流は天高から視線をそらし、自嘲の笑みを浮かべる。
 そんな兄弟子を、痛ましそうに天高は見つめた。
「……じゃがお主は己の罪を反省し、修行に打ち込んだからこそ高僧になれたのじゃ。そう皮肉ることもなかろうて」
「いや、償えぬ罪というのは確かにある。わたしは死後も、己の罪を受け入れるつもりじゃ。……だがどうしても、あの屋敷がどうなっているかを知りたいと思うておる。そこでお前様を呼んだのじゃ。開拓者ギルドを何度か頼っているお前様を、な」
「なるほど。調査を依頼したいのじゃな」
 天高の言葉に、静流は深く頷いて見せる。
「一度は見捨ててしまったが、あの屋敷がどうなっているのか調べてほしい。そしてもしアヤカシが残っておるようなら、退治してほしいのじゃ。依頼料はそこの箱の中に入っておる」
 静流の頭上には、桐箱が置かれてあった。
「危険な依頼かもしれぬのに、依頼料としては少ない方になるじゃろう。しかしどうしても屋敷のことが気にかかっている今、死の運命を素直に受け入れられぬのもまた事実。悪いがわたしの体は思うようには動かぬから、お前様に代わりに開拓者ギルドへ行ってほしいのじゃ」
「うむむ……。まあお主の気持ちは理解できた。とりあえずワシが依頼してこよう」
「よろしく頼む」


 しかし依頼調役達が調査に向かったところ、屋敷がとんでもないことになっていることを知る。
 庭にはアヤカシの大毒蛾が三匹、屋敷の一階には怪狼が五匹、そして二階には石蜘蛛が二匹いることが分かったのだ。
 アヤカシ屋敷とも言える場所になってしまった為、開拓者達には緊急の招集がかけられた。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
ナツキ(ic0988
17歳・男・騎


■リプレイ本文

 森の中から屋敷の庭を見るのは、五人の開拓者。
 リューリャ・ドラッケン(ia8037)は真なる水晶の瞳越しに庭を見て、表情を曇らせる。
「十ものアヤカシがいるだけに、瘴気が濃いな。それに庭中に大毒蛾の毒鱗粉が振りまかれている。……悪いが俺は毒鱗粉を防ぐものを持っていないから、戦いに参加できない。任せていいか?」
「分かったよ。ここはあたし達に任せておいて。その代わり、屋内の戦闘では期待しているからね♪」
 顔に片眼鏡・斥候改、防塵マスク・黒、手拭・竹林をつけたリィムナ・ピサレット(ib5201)は励ますように明るく言う。
「しかし五十年以上も放置されていたとは……。こんな森の奥深くにあったからこそ、なんでしょうね」
 防塵マスク・黒、遠見の眼鏡、手拭・竹林を顔につけながら、Kyrie(ib5916)はしみじみと呟く。
「でもこれでようやく、犠牲になった人達の供養ができるってことだよ。時間はかかったけれど、良い方向に進まなきゃ」
 マスク代わりに罠師の長手拭をつけながら、戸隠菫(ib9794)は優しく微笑む。
「さて、スキルの戒己説破を発動しておこうかな? 万が一、毒鱗粉を間近で吸い込んでも平気なように」
 スキルを発動させる菫の隣では、ナツキ(ic0988)が鼻と口を覆うように手拭・竹林を渋い表情でつけていた。
「敵が多いアヤカシ屋敷に挑むのは良いが、顔に何かつけるのって邪魔くさいな。……さて、俺は戦闘能力を高める為に、スキルのオーラドライブを使っとくか」
 こうして戦いの準備を終えた四人の開拓者は、一斉に庭に駆け込んだ。


●大毒蛾 三匹
 最初に大毒蛾に接触したのは、菫だった。聖槍・ノルンを両手に持ち、壊れた門の近くを飛んでいた一匹の大毒蛾をスキルの烈風撃にて弾き飛ばす。
「リューリャさんの所まで、毒鱗粉をまかれちゃ困るからね」
 遠くへ飛ばされた大毒蛾が体勢を整える時間を与えず、三つに分かれた穂先で突き刺した。
「先手必勝だよ!」
 貫かれた大毒蛾はその姿を崩し、瘴気となって霧散する。
 一方でナツキは菫を背後から襲おうとしている大毒蛾の存在に気付き、後ろから飛びかかってその動きを封じた。
「仲間の元へは行かせねぇぜ!」
「よしっ! ナツキくん、そのまま押さえといて!」
 リィムナはすかさずスキルの黄泉より這い出る者を、大毒蛾に向けて発動する。
 突然血反吐を吐いて苦しみ暴れる大毒蛾の背から、慌ててナツキは飛び降りた。
「おい、スキルを使うのはいいが、一言言ってから……」
「ナツキくん! 最後の一匹も押さえてください!」
「またかよっ!」
 Kyrieに声をかけられて、ナツキは渋い表情をしながらも最後の大毒蛾に向かって走り、飛びついて動きを止める。
 大毒蛾に向かい、Kyrieも黄泉より這い出る者を発動させた。
 三匹の大毒蛾を退治したことにより、庭に漂う毒鱗粉はどんどん薄くなっていく。


●怪狼 五匹
 毒鱗粉が完全に消えるまで、四人は一旦リューリャの所へ戻る。
「さて、これからは屋内戦闘になるわけだが、その前に俺を含めた全員にスキルをかけておこう。戦陣・砂狼は抵抗力が落ちるが、攻撃力と俊敏さが上昇する。短い間の発動だが、それでもやって損はないからな」
 待っていたリューリャは仲間達が怪我をしていないことにほっとすると、スキルを発動させた。
「じゃああたしは個人スキルだけど、修羅道を使おうかな? 残っているアヤカシ達は動きが素早いみたいだし、準備は万全の方が良いからね」
「あっ、俺もオーラドライブを再び使っておくか。……っとと、その前にこの邪魔な手拭は取っとくか」
 菫とナツキもそれぞれスキルを使い、その頃には庭の毒鱗粉は綺麗さっぱり消えていた。


 今度は五人そろって、屋敷の中に足を踏み入れる。
「うっわー。中はボロボロだね。でも床板とかはあんまり傷んでいないみたい」
「お金をかけて作っただけはあるようですね。しかしこれなら安心して戦えます」
 リィムナとKyrieは持ってきた細い木の棒で床板を突っつく。傷は多いものの、それでもしっかりと踏みしめられる。
 しかし廊下を中程まで歩いた所で、怪狼二匹が右横の部屋からこちらに向かって来た。
 スキルによって戦闘能力を上げていた五人は、すぐさまバラバラに逃げ出す。
「同じ『狼』と名がつく種族同士、一騎打ちといこうぜ!」
 ナツキは一匹の怪狼を誘導しながら、奥の部屋まで走る。しかしボロボロのふすまをくぐると突然立ち止まり、大剣・ヘヴィアームズを鞘から抜いた。
 そして鋭い牙と爪を剥き出しにしながらふすまを飛び越えて来た怪狼に向かい、剣を突き出す。喉から胴体を貫かれた怪狼は瘴気と化し、消滅していく。
「まっ、能ある狼は罠を仕掛けるもんさ」


「たあっ!」
 もう一匹の怪狼を別の部屋に誘き寄せた菫は再び烈風撃を使い、怪狼を部屋の隅まで弾き飛ばした。そしてそのまま穂先で胴体を突き刺し、倒す。
「ふう……。スピード勝負はなかなか疲れるわね」


「まさか敵が待ち構えているとは思いませんでした。案外、頭が良いんですね」
 Kyrieが駆け込んだ部屋には、三匹めの怪狼が待っていた。
 怪狼の攻撃を避けながら、Kyrieは黄泉より這い出る者を発動する。
「……しかしアヤカシ以上に、五十年以上積もった埃が危険ですね」
 Kyrieは顔を覆う物を外してはいなかったものの、視界を悪くする埃に顔をしかめた。


「これでもう、逃げられないよ」
 リィムナもまた、四匹めの怪狼と遭遇していた。だがすぐにスキルの結界呪符・白を発動させて、怪狼を閉じ込める。
「ウロチョロされると、面倒だからね」
 そして黄泉より這い出る者を発動させると、すぐさま心配顔で振り返った。
「みんな、大丈夫かな?」
 怪狼が消滅していく姿を確認した後、リィムナは元いた廊下へ走って戻る。すると一番奥の大広間から激しい物音が聞こえてきたので、急いで向かう。
「あっ、リューリャさんとKyrieさん、大丈夫だった?」
「ああ、助けてもらった」
「この部屋に入った途端、リューリャさんと怪狼が対峙しているのを発見しましてね。すぐにスキルを発動しました」
 Kyrieはすでに黄泉より這い出る者を使っており、最後の一匹は消滅しはじめている。
 その後、菫とナツキも大広間に入り、五人は合流した。
「怪狼は全て倒せたな。……しかし巨大な瘴気の塊が二つ、頭上にあるのが気になるな」
「だね。しかも動いていないところを見ると、明らかに罠を仕掛けていそうだね」
 瘴気の流れを見ることができる装備アイテムを身につけているリューリャとリィムナは、見上げながらうんざりする。
「じゃああたしは再びスキルの戒己説破と、修羅道を発動させておこうっと。万が一、捕まった時に石にされないようにね。……でも大分、練力を消費しちゃったし、節分豆で回復しよっかな」
 菫は最後の戦いの準備をはじめた。
 その姿を見て、Kyrieも表情を引き締める。
「では私はスキルの閃癒を使い、みなさんの負傷を回復させましょう。その後、個人スキルになりますが、ここの瘴気を使って瘴気回収で練力を回復しましょうか」
 そして最後に、リューリャが仲間達の顔を見回しながら言葉をかけた。
「二階に上がれば、ゆっくりスキルを発動している時間はないだろう。今のうちに戦陣・龍撃震を全員にかけておく。このスキルは俊敏さを上げるが、戦う順番を必要とするんだ。順番はどうする?」


●石蜘蛛 二匹
 ところどころ割れている木の階段を慎重にのぼった開拓者達は、目の前に広がる蜘蛛の糸の世界に眼を丸くする。
「想像はしていたけれど、凄まじいわね……。とにかく一番手のあたしは、みんなの視界を広げるわよ!」
 聖槍を両手で握り締めた菫は、蜘蛛の糸を切り裂いたり、柄で巻き取ったりしていく。そうして前に進み、奥へ行く。
 同じく大剣で蜘蛛の糸を切り裂いていたナツキは、菫に音もなく近付く一匹の石蜘蛛を見つけた。
「へっ! 二番手の俺に、ちょうど良いタイミングで現れたな! お前の相手は俺だっ!」
 ナツキは大剣にスキルのスタンアタックを発動させて、石蜘蛛の足の関節を狙って切りつける。
「天井から降りてこいっ!」
 続いてグレイヴソードを使い、蜘蛛の尻から出ている糸の束を切った。
 石蜘蛛はボトッと変色した畳の上に落ちたが、怒ったように尻を上げて大量の糸を吐き出す。
 襲いかかってくる糸に対し、菫とナツキは壊れているふすまを開けて隣の部屋に身を隠して、リューリャも二階の廊下の隅へ走って逃れる。
 しかしリィムナは壊れた花瓶を、Kyrieは小さな木の棚を、近付いてくる糸に向けて投げた。
「んにゃろっ!」
「身代わりにどうぞ」
 糸はそれらを絡め取ったが、しかし目的のものではないと気付いたのか、すぐさま家具は二人に向けて投げられる。
 二人は素早く避けるも、埃が雪のように積もった床にぶつかったせいで視界が急に悪くなった。
「うわっ!? 五十年以上降り積もった埃のせいで、前が見えない!」
「遠見の眼鏡を装着していても、視界が悪いです……」
 だが視界がきかなくなったのは石蜘蛛の方も同じのようで、動きが止まっている。
「向こうも動けないなら、こっちが有利だよ!」
 リィムナは再び結界呪符・白を発動させて、石蜘蛛を閉じ込めた。そして黄泉より這い出る者を発動する。埃の中に血の匂いがまじっていることに気付き、リィムナはちゃんとその眼には映せないが、スキルが成功したことを知った。
 埃が落ち着いてきたところで、廊下の隅に移動していたリューリャが戻って来る。
「残りは一匹か……。菫さんとナツキくんは大丈夫か?」
「きゃあっ!」
「うわっ!」
 疑問を口に出した途端、二人の悲鳴が聞こえてきた。リューリャは慌てて二人がいる部屋へ行くと、石蜘蛛が糸に家具を巻き付けて次々と投げている。そのたびに埃が舞い上がり、残骸が菫とナツキにぶつかった。腐った畳の上は歩きにくく、逃げることが難しいのだ。
 リューリャは木の机が菫にぶつかりそうなのを見て、慌ててスキルのフォルセティ・オフコルトを発動して自ら受ける。
「リューリャさん、大丈夫?」
「俺は平気だ! 菫さん、ナツキくん、部屋から出るぞ! 流石にこれじゃあまともに戦えない!」
「うっうん!」
「分かった!」
 心配する菫の肩を掴んで、リューリャは部屋から出た。続いてナツキも出ると、代わりにKyrieが部屋に入り、黄泉より這い出る者を険しい顔付きで放つ。
「私の大切な仲間を傷付けた報い、しっかりと受けていただきます」
 しかし最後の力を振り絞り、石蜘蛛は血反吐を吐きながらも暴れだす。
「往生際が悪いぜ!」
 ナツキはグレイヴソードを発動させながら、石蜘蛛の頭を胴体から切り落とした。
「へへっ。この一撃は効いただろう?」


●戦いが終わり、そして……
 全てのアヤカシを倒した後、五人は屋敷の外へ出た。
 全員Kyrieの閃癒で傷を癒したが、机が背中にぶつかったリューリャには、リィムナがレ・リカルをかけて回復させる。
 その後、顔を覆っていなかったリューリャとナツキは顔を洗いに、近くにある川に向かった。
 その間、リィムナとKyrieは再び屋敷の中に入ると商人と用心棒達の骨を拾い集め、布に包んで屋敷の庭へ運ぶ。
「生前の行いがどうであれ、魂が安らかに眠れるように祈りましょう」
 武僧である菫は骨が包まれた布を前に、祈り始める。
「五十年以上も前に起こった事件、これでやっと終われるな……」
 両手を合わせながら、ナツキは小さく呟く。
「……まっ、アヤカシが出ちゃったのは『そういう運命だった』としか言えないね。死んでしまった人のことを悪く言うのもなんだけど、悪行の限りを尽くせば地獄を体験しちゃうのは当たり前のことだよ。あたしは依頼人の静流さんに、罪は無いと思うけどな」
 リィムナの意見に賛成するように、隣のKyrieは黙って何度も首を縦に振る。
「人間には我慢の限界というものがある。我慢がたまっていけば、悪の心が囁く時だってあるのさ。その囁きにのってしまったことをどんなに悔やんでも、過去は変えられない」
 リューリャは両手を合わせながらも、少し悲しそうな表情で屋敷を見上げた。
「残念ながら我々人間は、良い事ばかりして生きている生き物じゃない。他人を犠牲にして、その罪を自覚しながらも生きていく存在だ。消せない罪を抱えながら、それでも償うように生き続けていれば、ある程度は自分を許せるようになる。そんな無様で惨めだが、力強く生きていく姿は案外悪くはない――と俺は思う」
 リューリャの言葉で、四人はそれぞれ自分が生きてきた過去を思い出す。
 誰もが簡単に言葉には出せない罪を抱えて、それでも一生懸命に毎日生きている。その重みと大切さが、ズシッと体にのしかかった気がした。
 だがそこへ馬が近付いてくる音が聞こえてきたので、五人は一斉に振り返る。
 早馬で来たのは、依頼調役の青嵐だ。
「開拓者の皆様、依頼は終えましたか? 実は依頼人の静流様のご容態がっ……!」


 静流の容態が急変して亡くなったのは、依頼が終わって僅か数時間後のことだった。
 最期を看取ったのは、兄弟弟子である天高とその弟子の天城。天高から依頼が完了したことを聞いた静流は、静かな微笑みを浮かべながら眠るように亡くなったらしい。
 静流は遺言通り、住み慣れていた寺に埋葬されることになった。
 アヤカシの犠牲になった者達の遺骨は、森の近くにある寺に引き取られることになる。
 寺の住職に遺骨を預けた後、天高はやりきれないという表情を浮かべる天城に声をかけた。
「そういえばの、静流は寺入りをした後は家族と縁を切ったようじゃ。罪を背負った自分を、遠ざけたかったようじゃのぉ」
「……静流様が天高大伯父上様と同じぐらい図太かったら、良かったんですけどね」
「血縁者に対して言ってくれるのぉ」
 実は天城の祖母の兄にあたるのが、天高だ。二人の一族は代々僧侶になる者が多く、そのたびに血縁同士で師弟関係を結んできた。その為、天城も幼い頃から静流のことを知っており、可愛がられていたのだ。
「残された静流の家族は屋敷の噂を聞き、置いていかれた物が盗んだ物だと気付いたらしい。しかし返せる人も場もなく、仕方なく売って金に換えたのじゃ。その金で静流の弟妹達は成長し、ずっと家にいられたそうじゃ。……しかしそのことを『善だ』『悪だ』と一言で言えぬのが、この世の難しいところよのぉ」
 もし静流が金目の物を盗んでいなければ、弟妹達は売られていただろう。そのことを考えると、何とも言えなくなる。
「……ですが善と悪があるからこそ、人は人らしくいられるんです。混濁した世界の中で、自分という個を生かす為に。そしていつかは終わる人生が、愚痴より何かへの感謝が多ければ、まだマシってもんですよ」


【終わり】