モテ男は大ピンチ?!
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/05 18:50



■オープニング本文

●バレンタインから数日後

 開拓者ギルドで受付職員をしている京司と京歌の兄妹は、バレンタインが過ぎた日からとんでもない光景を見るようになっていた。
「この女の敵めーっ!」
「この野郎!」
 と複数の女性が鬼のような形相になって叫びながら、男に大豆を投げ付けるのだ。
 男は悲鳴を上げながら、走って逃げている。
「……日が過ぎているけど、遅くなった豆まきだろうか?」
「あるいはバレンタインに何かあって、その痴話喧嘩かもよ。豆まきの豆が残っていたから、使っているんじゃないの?」
 などと二人は最初のうちは、軽く考えていた。


 ところがそういった事はどんどん増えていき、とうとう二人が勤める開拓者ギルドに依頼がきてしまう。
 依頼してきたのは、数名の若い女性達。みな、青白い顔で涙ぐんでいる。
 あまり他人には聞かせたくない内容だと言うので、二人は奥の個室に案内した。
 そして話し出したのは、女性達の中でも身なりの良い妙齢の女性だ。
「実は今年のバレンタインに、恋人にチョコレートを渡したのですが……。次の日に私の家で彼に会った途端、何故か異様に彼のことが憎く思い、つい家にあった大豆を投げてしまいました……」
 彼が逃げ出した為、その場はとりあえずおさまった。
 しかし彼の姿が見えなくなると、女性は正気に戻り、自分が何故あんなことをしたのか分からなかったらしい。
 すぐに謝ろうと彼の家に行っても会うことを拒絶され、今でも会えない。
 他の女性達もそれぞれ話し出したのだが、要約すると『バレンタインに彼氏にチョコレートを渡して数日後に会うと、何故か彼のことが憎くなり、豆を投げつけてしまう。しかし数日経って会うと、その憎しみは消えている』とのこと。
 だがいきなり憎しみを込めた豆を投げつけられ、平気でいられる男性は少ない。事実、依頼人の女性達の中には破局してしまった人もいるようだ。
「それで私のようになっている人達を集めて話を聞いたところ、どうやら同じお菓子の屋台でチョコレートを購入したことが分かったんです」
 女性達が言うには二月になったばかりの頃、広場でとある屋台を見つけた。その屋台はバレンタインチョコを売っており、大きなハート型のチョコレートが綺麗にラッピングされていることから、若い女性達に人気となった。
 彼女達はその屋台からチョコを買って渡したのだが、異変の原因はそのチョコだったのではないかと考えているらしい。
「あの、でもそのチョコは私も自分用に買って、バレンタイン前に食べたんですけど、その時は何ともなかったんです」
 女性の言葉を聞いて、京司は首を傾げる。
「と言うことは、男性限定で何かが起こっているってことですか?」
「多分……。それとですね、これも共通しているんですけど、彼からこう……何か嫌な匂いがしたんです。その匂いを嗅いだ途端、おかしくなってしまったような気がします」
「嫌な匂い? 香水とかお香とかですか?」
「いえ、どちらかと言うと、体臭……っぽいですね。彼の近くに寄った途端に匂いましたから」
 京歌の問いに、女性はうろ覚えながらも答えた。
「そうですか。それでその屋台はどこにありましたか?」
 京司の質問に、女性達は悲しそうな表情で俯いてしまう。
「屋台はバレンタインまでは広場にありましたが、今はありません。私達なりに必死に探したのですが、どこにもないのです。これはもう開拓者の方々にお願いするしかないと、今日は参りました」
 チョコによって女性達がおかしくなってしまった原因をしっかりとつかめれば、恋人である男性達も考え直してくれるかもしれない。
 最早藁にもすがる思いで、ここへ来たらしい。
「分かりました。同じ女性として、無視できない問題ですしね。こちらでしっかりと調べます」
 京歌の言葉に、女性達はほっとしたように微笑みを浮かべた。


 その後、調役達が事件を調べてみたところ、いろいろと分かったことがある。
「まず女性がおかしくなったのは、屋台で購入したチョコが原因で間違いないらしい。そのチョコを男性が食べた後に女性に会うと、何故か女性は豆を投げつけてくるそうだが……どうして豆なんだ?」
「豆は『魔を滅する』という言葉からきているらしいからね。つまり女性からチョコを貰う男性を、滅したかったんでしょう。その屋台の主人は」
 妹の言葉に、兄はげんなりした。
 報告をまとめてみると、チョコにはどうやら男性にしか効かない特殊な材料が入っているらしい。女性には効果が無いが、男性がそのチョコを食べると一時、女性から嫌われる体臭が出るらしいことが分かった。チョコを完全に消化すれば効果は切れるらしいが、人によっては食べてから数時間で効果が出ることもあれば、数日後に現れることもある。また効果が切れるまでに数日かかることもあり、男性達は女性が怖くなり、部屋に閉じこもっているようだ。
「複数の女性に襲われた男性は、体臭が多く出てしまう体質だったようだ。……気の毒に」
「そしてその体臭を嗅いだ女性は不機嫌になり、豆を投げてしまうのね。その豆も家にあるものならまだしも、時には売り物を勝手に使ってしまうから厄介ね」
 正気に戻った女性は豆を売っていた店主から代金を要求され、訳が分からぬまま支払っているそうだ。
「それで、だ。屋台の主人の身元は分かったようだぞ」
「ええ、それは良いことなんだけど……本人はまだ見つかっていないのよね」
 報告書には人相絵もあり、名前や詳細も書かれてある。名は『好之助(こうのすけ)』、年齢は四十二。まるまると太っており、しかも巨漢でハゲていた。元々山に暮らしながら、薬を作って売っていたらしい。
「……けれど四十過ぎても嫁の貰い手がなく、チョコレートも貰えない。それでチョコを貰う男に対して激しい憎しみを抱き、妙な薬を調合したワケか」
「しかもその薬の効き目を試す為に自ら服用したというのだから、努力の方向が思いっきり間違っているけどね」
 兄妹二人は同時に重く長いため息を吐いた。
「だがモテる男達を痛めつける為に薬を作ったのなら、その効果を知る為にまだこの辺りにいそうだよな」
「そうね。多分、隠れて見ているでしょうけど。でも問題の薬入りのチョコも、まだ持っていそうね」
 調役達が好之助の家に行ったところ、作られた薬の製薬書はあったものの、問題の薬自体はなかったらしい。
「今、他の製薬者に解毒剤を急いで作ってもらっているが、それでも間に合わない人もいるだろう」
「チョコを食べた人を隔離する場所も急遽用意してもらっているけど、その間の騒ぎも何とかしなきゃ」
 そして京司と京歌は、開拓者にやってもらうことを紙に書き出しはじめた。


■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●モテ男達の悲劇!
「うっわぁー……。街の中がモテ男達の悲劇の舞台になっているよ」
「ちょっと怖いです……」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)とファムニス・ピサレット(ib5896)の双子の姉妹は耳栓を鼻に詰めながら、建物の影から様子をうかがっている。
 街の大通りでは例の薬入りのチョコを食べたらしい男性達が、鬼の形相になっている女性達に大豆をぶつけられながら逃げまくっていた。
「よしっ! 耳栓を鼻栓の代わりにしたから、これで匂いの影響は受けないよ! ファム、とりあえず襲われている男の人達を助けながら、好之助を探そうね!」
「はっはい……!」
 そして二人は一気に大通りに向かって、駆け出した。
「ん〜、でもこれだけ街の中が大混乱になっていると、一般人の悲鳴と当事者の悲鳴の聞き分けが難しいなぁ。ここはスキルの超越聴覚を発動させた方が良さそうだね」
 リィムナはスキルを発動させると、ビシッとある一点を指差す。
「あっちの方向から、騒ぎが大きく聞こえてくるよ!」
「急ぎましょう!」
 そして二人が到着したのは、街の広場だった。恋人達がよく集まる場所だったせいか、大勢の男女が騒ぎを起こしている。
 しかも広場に足を一歩踏み入れた途端、バキッと大豆を踏んでしまうほどばらまかれていた。広場の近くにある豆屋の大豆らしく、店主が呆然と立ち尽くしている。
「あーあ、後始末が大変そうだねぇ。でもまずはスキルの夜の子守唄で、男女共々眠ってもらった方がいいみたい。ファム、巻き込んじゃう可能性があるから、あたしから離れてて」
「分かりました。姉さん、頑張ってください」
 ファムニスが広場から走り去るのを見届けた後、リィムナは真剣な表情で混乱の中に入って行った。そしてスキルの夜の子守唄を唄い始める。
 すると今まで騒いでいた男女達はピタリと騒ぐのを止めたかと思うと、静かに地面に倒れて眠りに入った。
「ごほっ……。う〜、鼻栓をしながら唄うのはちょっと辛いね。でもまあ騒ぎは何とかおさまったことだし、いっか」
 リィムナは軽く咳き込みながら、物陰に隠れていた同心やギルドの男性職員達を手招きする。
 眠っている男性達はギルドが用意した隔離施設へ、女性達はとりあえず診療所で休ませることになっていた。
 運ばれて行く人達の合間をぬって、ファムニスがリィムナの元へ戻って来る。
「お疲れ様でした、姉さん。……でも例の男性はいないようです」
 ファムニスはリィムナがスキルを発動している間、周囲の人々を観察していたのだが、好之助らしき人物は見当たらなかった。
 リィムナは腕を組み、顔をしかめて唸る。
「む〜ん。……まあ騒ぎは街中で起きているからね。どこかの騒ぎは見ていると思うんだけど、作戦を考えた方がいいかも。……っと、先に運ばれて行く人達をちゃんと見送らないと。みなさーんっ、倒れた人達は安全な場所へ移動させるので、近寄らないでください! 特に女性の人っ! 知っている男性がいても、近寄っちゃダメですよ!」


 一方で民家の裏の道を、雁久良霧依(ib9706)とサライ(ic1447)が走っていた。サライが超越聴覚を発動したところ、とある場所から大きな騒ぎが聞こえてきたので、そこへ向かっている途中である。
 大通りでは人が多い為に裏道を選んだのだが、しかしサライはこの事件とは別の理由で渋い表情を浮かべていた。
「あの、霧依さん。せめて鼻と口を覆う布を巻いた方が良かったのではないですか?」
「だって私、独特な匂いが好きなんだもの。どんな体臭がするのか、興味があるのよね♪」
 リィムナとファムニスは被害者である男に接近しても大丈夫なように鼻栓をしたのだが、霧依は断固拒否したのだ。そのことが、サライの悩みの一つになっている。
「……何だかとてつもなく、悪い予感がするんですけど」
「まああえて近付くような真似はしないわよ。けどもし私がおかしくなったら、止めてちょうだいね♪」
「僕程度の力で霧依さんを止められるとは思えないんですけど……。まあ努力はします。栄養も補給してきたことですしね」
「お肉でも食べてきたの?」
「いえ、チョコレートです。バレンタインに女性からいただいたチョコを、少しずつ食べている途中でして……。今回は持久戦になりそうですし、甘い物は疲労回復に良いと聞きましたから」
「そうねぇ。好之助を見つけてもその後も大変そうだし、今日は長くなりそうだわ」
 霧依が本音を呟いた時、二人は騒ぎの現場に到着した。現場は屋台が軒を連ねる道の真ん中で、一組の恋人らしき男女が騒ぎを起こしている。女性は豆売りの屋台から大豆を奪い取り、男性に向かって投げつけていた。
「アララ〜。これは女性を眠らせた方が良さそうねぇ。私がスキルのアムルリープをかけるから、サライ君は彼女の体を支えてあげてね」
「了解しました」
 霧依は男性に必要以上に近寄らないように注意しながらも、女性に睡眠のスキルをかける。すぐに眠りに落ちてしまった女性の体を、慌ててサライが支えた。
「ん〜、とりあえず私が女性を背負って診療所まで連れて行くわ。サライ君はそこでうずくまっている男性を、隔離施設まで送り届けてくれるかしら?」
「分かりました。では霧依さん、また後ほど」


 それからしばらくして隔離施設には大勢の男性達が、診療所にも数多くの女性達が集まった。街の中の騒ぎは大分おさまったものの、それでも未だに混乱は続いている。
「京歌さんと京司さんのお話では解毒剤は明日にでも完成するようですし、今日を乗り切ったら一段落つくんですけど……。でも問題の好之助は、一体どこにいるんでしょう?」
 サライは眉を寄せながら、街中をキョロキョロと見回していた。
 何となく似た背格好の人物は時々見つけるのだが、男女の騒ぎが思いのほか大きく、こちらに気を取られてしまうのだ。だがかなりの数の被害者と加害者を捕まえて分けたおかげで、騒ぎは縮小している。
「このまま騒ぎが全ておさまってしまったら、好之助を見つけることは難しくなりますね。一旦全員で集まって、何か作戦を考えた方が良いのかも……」
「あっ、ここにいたのね。サライ……君?」
 診療所の様子を見に行っていた霧依はサライがいる場所まで来たのだが、何故かその表情は近付くにつれてどんどん険しくなっていく。
「霧依さん? どうかしましたか?」
 サライは不思議そうに首を傾げるも、霧依はふと何かを思い出したかのようにハッとする。
「サライ君、仕事前にチョコを食べてきたって言ってたわよね? そのチョコってまさか、好之助が作ったヤツじゃないでしょうね? ええっと……、確か『大きなハート型のチョコレートが綺麗にラッピングされている』ものよ」
「……あっ」
 思い当たったサライの顔から、血の気が引いていく。そして霧依から距離を取るように、後ろに数歩下がる。
「霧依さん、まさかっ……!」
「……ええ、何か嫌な匂いがサライ君からするの! 生理的に無理な匂いよっ! ううっ……、何だかサライ君のことが憎く思えてきたわ!」
 カッと見開いた霧依の眼には、隠しきれない憎しみの色が強く浮かんでいた。
「うわぁっ!? だから『鼻と口を布で覆ってください』って言ったじゃないですか! 正気に戻ってくださいよ、霧依さん!」
 必死に叫びながらも、サライは全速力で走って逃げる。
「……アラ、まあ。確かに凄い影響力がある匂いねぇ」
 サライが三メートル以上離れたことにより、匂いの影響から解き放たれた霧依は正気に戻った。
「けれどコレって、使えるんじゃないかしら? 早速二人を探さなくちゃ!」
 そして霧依は二人の気配を追い、開拓者ギルド前で会うことができた。
「ええっ! サライさん、例のチョコを食べちゃったんですか?」
「あちゃー。サライ君もモテ男だったこと、すっかり忘れていたよ」
 ファムニスとリィムナは霧依からサライの現状を聞いて、困り顔になる。
「でもね、これって良い機会だと思うの。サライ君には悪いけど、囮になってもらうのはどうかしら?」
 霧依が語った作戦は、まず自分がサライに大豆をぶつけながら、彼を女性がたくさん集まる場所へ追い詰める。そこで大豆を女性達に渡して、あえてサライを攻撃対象にさせれば、騒ぎを聞きつけた好之助が姿を現すのではないか。そして見つけたのならば、すぐに好之助を捕らえる――というものだ。
「まあ確かに大分騒ぎはおさまりましたが、犯人は未だに捕まえていないですし……。節分豆でよければ、ファムニスが三十個ほど用意できますけど……」
「女性がたくさん集まる場所は……甘味屋が軒を連ねている土手が確か近くにあったね。行列ができる店もあるらしいから、そこを目指せばいいかな?」
 ファムニスとリィムナはサライを犠牲にすることに少々戸惑いはあったものの、それでも好之助をこのまま逃がしてはいけないという開拓者としての使命感がある。
「じゃあ決まりね♪ 私は先に節分豆を一つ貰って、サライ君を土手まで追い詰めるから。リィムナちゃんとファムちゃんは残りの節分豆を、荷馬車を借りて運んでね」


 サライはできるだけ女性に近付かないように、裏道を歩いていた。しかし突然大豆を背中にぶつけられて、慌てて振り返る。
「サライ君、悪いけど犯人を誘き寄せる為の囮になってもらうわ。このまま私に大豆をぶつけられながら、土手に向かってくれる?」
 三メートル以上離れた場所から、霧依はサライに話しかけた。
「囮……ですか。分かりました。ではお手柔らかにお願いしますよ!」
 サライは一瞬躊躇したものの、それでも依頼を第一に考えて走り出す。
 二人は土手へ向かう道を走りながら、目立つようにあえて大声を上げる。
「霧依さん、いきなり何をするんですか! 大豆をぶつけないでください! 痛いっ、痛いですよぉ!」
「うふふっ♪ サライ君の痛がる姿、可愛くてたまらないわぁ。良い表情よ、もっと痛がりなさい!」
 二人は大騒ぎをしながら、土手に来た。そこにはリィムナの情報通り、女性達が数多くいる。サライは意を決すると、あえて女性達の近くを走り抜けた。
 するとサライの体臭を嗅いでしまった女性達が険しい形相で、彼を追いかけ始める。
「おねーさん達、節分豆どうですかー?」
「せっ節分が過ぎた今なら無料で配っていますので、どうぞ」
 荷馬車で先回りをしていたリィムナとファムニスは、サライを追いかける女性達に節分豆を配っていく。
 しかしうっかり自分達用の節分豆まで配ってしまい、どうしようかと悩む。
 だがファムニスはポンっと手を叩くと、近くの甘味屋に入って行く。そして戻って来た時には、二つの木桶を両手に持っていた。
「姉さん、スキルの氷霊結で水を凍らせて、氷にした物を砕いてきたんだけど……大豆の代わりに使えますか?」
「う〜ん。でも氷を触ると、あたし達の手が冷えるんじゃない?」
「あっ……。そっそれなら桶ごと投げれば……」
「……近くに女性達がいなければ、そうしようね。とりあえず地面に落ちた大豆を拾って、それをサライ君に投げよう」


 そしてファムニスはサライに向かって、大豆と共に罵声を浴びせる。
「サライさんの体から野生動物の匂いがします……! あっちに行ってくださーいっ!」
「この女の敵めーっ! ……って、こんな感じで良いのかな?」
 サライから三メートル以上離れた場所から、ファムニスとリィムナは豆を巻きながらも周囲の様子をうかがっていた。
 そこでふとリィムナの眼に、甘味屋の建物の影からこちらを隠れて見ている一人の男の姿が映る。人相絵に描かれていた姿とよく似ていたので、リィムナはこっそり女性達の中から抜けた。
 そしてスキルの夜を使って時間を止めて、男の目の前で仁王立ちして見せる。
「おじさん、好之助って名前だよね? 妙なチョコを作って売ったことについて、開拓者ギルドでいろいろと聞きたいんだけど」
「くそっ! 突然目の前に現れたから何事かと思ったが、お前、開拓者か!」
 好之助は懐に手を入れると、複数の小さなチョコをリィムナ目掛けて投げた。
「食べ物を粗末にすると、罰が当たるよ!」
 チョコを避けている間に、好之助はリィムナの横を通って逃げ出す。
「みんな、好之助が逃げるよっ!」
 リィムナの大声で、サライがイジメられている姿をうっとりしながら見ていたファムニスが我に返る。そしてサライに夢中になって豆を投げつけている霧依に、止める意味で抱き着いた。
「霧依さん、正気に戻ってください! 犯人が……って、はうぅ。霧依さんの胸、おっきくて柔らかいですぅ」
「こっ好之助が現れたんですね!」
 ファムニスの言葉で反応したのは、サライの方だ。キョロキョロと視線を動かして、走って逃げている好之助を見つけると素早く駆け出す。
「僕がこんな酷い目に合ったのは、全てあなたのせいです!」
 涙目になりながらスキルの夜を発動させて、時が止まっている間に好之助に飛びかかった。
「何をするっ! 離せ!」
「サライ君、離してあげなさい」
 正気に戻った霧依が、こちらへ向かってくる。サライは霧依がスキルを発動させようとしていることに気付き、言われるままに好之助から離れた。
 慌てて好之助は逃げようとしたが、霧依のアイヴィーバインドに捕らえられてしまう。
「しばらくは私のアムルリープで眠ってね♪」
 そして眠った好之助の体を、開拓者四人は荒縄を使って縛り上げた。


●甘い結末
 ――その後、サライはファムニスのスキル・解毒によって薬の効果を失い、更に閃癒によって傷を癒してもらった。
「リィムナさんはあの男のことを『天才だと思うよ』と言っていましたが、自分で作った薬の解毒剤を作らなかったなんて間抜けな話ですよね」
 そのせいで好之助自身が女性から、大豆をぶつけられることがあったらしい。
 なのでサライがスキルの死毒で、薬の効果を打ち消してやったのだ。
「それでも解毒剤はちゃんと完成して、被害者はいなくなったわけだし。破局した恋人達も元通りになっているという話だから、一件落着ね♪ サライ君、お疲れ様」
「こっ今度は人々が幸せになれるような薬を作ってくれると良いですね……」
 ビキニのノワールに着替えた霧依と、水着に着替えたファムニスに、腰にタオルを巻いたサライは頭と背中を洗われてご機嫌だ。避難施設は人がほとんどいなくなったので、浴場には三人しかいない。
「今回は痛い目に合いましたけど、良い事もあったので良かったです♪」


<終わり>