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■オープニング本文 「野衣ちゃん、久し振り」 「……美冬? 本当に久し振りね。半年ぶりかしら?」 神楽の都の開拓者ギルドで受付職員をしている野衣は、職場で同じ歳の幼馴染の女性と再会したことに眼を丸くする。 「最後に会ったのは美冬の結婚式だったわね。でも今日はどうしたの?」 「うん……。実は開拓者の皆さんに依頼したいことがあって……」 「そう。じゃあ早速話してくれる?」 野衣は彼女の暗い表情を気にしながらも、あえて笑みを浮かべる。 美冬は女中として、とある商家で働いていた。そこの四つ年上の跡取り息子に見初められ、結婚したのが半年前のこと。義両親から反対されることもなく、幸せそうだったのだが、今では沈んでしまっている。 「もしかして、あちらのご家族と何かあった?」 「ううん。あちらのご両親は元々庶民だったのね。そこから商売が上手くいって今の地位を築いた人達だから、特にわたしが庶民ってことにはこだわっていないの。……どちらかと言えば、わたしの家の方が問題でね。野衣ちゃんも知っているでしょう? 一ヶ月前に、わたしの父が突然亡くなってしまったこと」 「……ええ」 野衣は一ヶ月ほど前のことを思い出し、真剣な顔付きになる。 美冬の父、冬彦は身寄りのない子供を引き取り、育てていた。冬彦は昔、寺子屋の教師だったので勉強も教えていたらしい。 美冬はそんな父を経済的に支える為に、商家に働きに出ていたのだ。 「ここ数年は旦那様の家に住み込みで働いていたから、子供達の顔ぶれも大分変わっててね。そのせいもあるんだけど……今のわたしはあの子達にとっては敵になっちゃったみたい」 どうやら美冬は無意識に混乱しているらしく、いまいち話が見えない。 「んーっと。とりあえず最初から説明してくれる?」 「あっ、そうね。実は父が亡くなってから、問題が起こったの」 美冬が言うには冬彦は一ヶ月前、急に冷え込んだ日に亡くなった。原因は年老いた心臓が、弱くなっていたからだ。 調子が悪いと医者に見てもらった時には、すでに治療の手段が痛み止めの薬しかない状態だった。 亡くなった冬彦を見つけたのは、養っていた子供達。近所の家に泣きながら訪れ、発見されたのだ。 「その後、わたしにも知らせが来てね。お葬式をあげることはできたんだけど……」 冬彦に世話になった者は多く、香典は多額になった。 美冬はそのお金で、新たに子供達が住む家を購入することができた。と言うのも今まで住んでいた家はボロくなっており、これから冬を過ごすには辛い場所になってしまっている。 「本当はわたしが父の役目を引き継げればいいんだけど、もう嫁いだ身だから……。代わりと言ってはなんだけど、昔、父が育てた人達が役目を引き継いでくれるって言ってくれてね。お金の問題は旦那様と、父に恩があると言ってくれた人達が何とかしてくれるから大丈夫なの。新しい家は中古ながらも立派な建物と広い庭があるんだけど、ね……」 「聞いている限りでは、子供達の心配はなさそうに聞こえるんだけど、何が問題なの?」 「それが……当の子供達が問題なの」 美冬は深いため息を吐くと、がっくりと肩を落とす。 「子供達にとっては、今まで住んでいた家こそが自分達の家だと思っているのよ。亡き父との思い出がいっぱいあるから、わたしも分かるんだけど……。でも家は屋根が壊れている部分からは水が落ちてくるし、壁も壊れているからすきま風もひどくて冬には子供達の誰かは風邪をひいているほどなの」 「あちゃー」 「住居については生きていた頃の父から相談されていたことでもあるし、子供達には新しい家に移り住んでほしいと何度も説得したわ。それでも古い家から動かないのよ」 「えっ? でもその間、子供達の世話はどうしているの?」 「子供達は父に早く自立できるようにと、掃除・洗濯・料理など一通り教えられているわ。料理の材料は庭で野菜を作っているし、近所の人達におすそ分けをもらったりして今は何とかなっているみたい。でもそれもいつまでも、ってわけにもいかないでしょう? 庭で育てている野菜には限りがあるし、近所の人達に頼りっぱなしってわけにもいかないし……」 「確かにね」 近所の人達にも、家庭や家族がある。ずっと子供達を見ていることはできないだろう。 「子供達も頑固になっちゃって、説得をしようとする大人を帰らせる為に家をカラクリ屋敷みたいにしちゃったの」 「……んっ? カラクリ屋敷って?」 「あっ、そんなに大げさなものじゃないんだけどね。急に床板が反転して足を取られたり、頭の上にヤカンが落ちてきたり……」 「ええっ!? なっ何でそんなのがあるの?」 「十二歳になる年長の男の子が、そういうのを作るのが得意みたい」 「……将来、有望ね」 「ええ。しかもその罠は前あった場所と変わっている場合もあってね。説得をしようと家に入った途端に、罠に引っかかる人が多くて」 しかも子供達は家のどこかに隠れてしまっているので、なかなか話も聞いてもらえない。 「だから開拓者の人達に、罠を掻い潜りながら子供達を説得してほしいの。もう雪が降っているし、できるだけ早めにお願いしたいのよ」 「分かったわ。でも冬彦おじさんの一人娘である美冬の言うことにも耳を貸さないの?」 「わたしなんてここ数年は時々顔を出すおねえさんにしかなっていないもの。顔馴染みの近所の人達の方に懐いているし。それにちょっと今は……」 美冬は視線を下に向け、お腹を撫でる。 「あっ、もしかしておめでた?」 「ええ、二ヶ月になるわ。孫の顔を見るのを、父は楽しみにしていたんだけどね」 確かに妊婦では、罠だらけの家に入るのはかなり危険だ。 「……でも寂しいわね。確かに顔は見せられなかったけど、ほとんど給金を送っていたんでしょう?」 「援助をしていたからって、大きな顔はできないわよ。でも新しい家はわたしと旦那様が住む家に近いから、会いに行く回数は多くなると思ったんだけどね」 しかし予想外に子供達の拒否がひどく、落ち込んでいる。 「おっお母さんになるのに、そんな暗い顔しちゃダメよ。大丈夫! 開拓者達は百戦錬磨の人達ばかりだから、子供が作った罠なんか平気よ! ……多分」 「本当? でも子供達には手荒なことはしないであげてね。わたし達を拒絶するのも、本当は父のことが大好きだったことが理由だから」 「分かっているわよ。任せておいて!」 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
ナツキ(ic0988)
17歳・男・騎
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●開拓者VSカラクリ屋敷 四人の開拓者達は美冬に書いてもらった地図を見ながら例のカラクリ屋敷に来たが、あまりのボロさに呆気に取られる。 「亡くなった養父のことを思って家に住み続ける気持ちは分かるけど……。確かにこんな家に小さな子供が住み続けていたら、命に関わっちゃうね。あたしも寒い所で生まれ育ったから身にしみているんだけど……ボロいね」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は顔を引きつらせながら、家を見上げていた。しかしハッと我に返るとラ・オブリ・アビスを発動させて、子供パンダに姿を変える。 「こんなに可愛いパンダが来たら、子供達もきっと近寄って来るね。もし仕掛けにかかったら、助けてくれる優しい子が出てくるかもしれないし」 リィムナの隣にいる戸隠菫(ib9794)は腕を組みながら頷く。 「確かにね。思い出がつまっている上に、住み慣れている家から離れたくないという気持ちは分かるわよね。でも養父はあたたかい家に住ませてあげたいって思っていたわけだし、ここはやっぱり移動してもらわなきゃ。とりあえず眼はカバーするわね」 そう言いつつ、防風坊砂ゴーグルをしっかりつける。 「カラクリ屋敷を作ったのが、僕と同じ歳の男の子だなんて……。もし開拓者になったのならば、クラスはシノビになりそうですね」 サライ(ic1447)は緊張した面持ちで、家全体を見回す。 「へっ! 何をビビっているんだ。しょせんは子供が作った仕掛けなんか大したことないさ。俺が証明してやる!」 ナツキ(ic0988)は胸を張りながら、庭の門に触れる。一メートルほどの木の門は、軽く押しただけでギギィーと軋む音を立てながら開いていく。 「思ったより手応えがないな。ぶつかっても平気そうだ」 しかしナツキがパッと手を離した途端にバターンッ!と勢い良く閉じて、庭に足を入れていたナツキの下半身に見事に直撃した。 「うわー。痛そうな音がしたよ」 「大丈夫? 下半身全体に門が当たったでしょう?」 リィムナと菫は気の毒そうな視線を向けてくるが、同性のサライは真っ青な顔色で声をかける。 「ナツキさん、平気ですか? 何だか男性が当たってはいけない部分にも、当たったように見えたんですけど……」 「だっ大丈夫だ。俺は打たれ強いからな! それより俺が門を押さえておくから、お前達はその間に中に入れ」 涙目になって立ち上がったナツキだが、体がブルブルと震えていた。 「でもさあ、子供達はどうやって中に入っているんだろうね」 「う〜ん。この高さならよじ登るか、あるいは飛び越えて……」 リィムナと菫は互いに顔を見合わせると、まずは身軽なリィムナが門に手をかけてヒョイっと飛び越える。 「ああ、この方法なら大丈夫そうだね」 「じゃあ続くわね」 その後に菫が門を飛び越えた姿を見て、ガックリと項垂れたナツキの肩に、サライは複雑な表情で手を置く。 「玄関の引き戸を開けたら、まずは挨拶をした方が良いわよね。知らない人達が家の中に入ってきたら、きっと怖がっちゃうし」 菫は玄関の引き戸を少しずつ開けて、中を見る。床にはうっすらと氷が張っているのが、見て分かった。 「こんにちはー。あたし達、美冬さんから頼まれて来た開拓者なんだけど……って、きゃあっ!?」 「あぶねぇ!」 恐る恐る足を踏み入れた菫だったが思いのほか滑り、体勢を崩したところをナツキに後ろから支えられる。 「ありがとう……。本当に滑りやすいのね。子供達には悪いけど、ここは土足でジャンプして中に上がった方が良さそうだわ」 氷は床全体に広がっており、足をつけただけでも危険だ。 四人は一人ずつジャンプをして床を飛び越え、中に着地した。 部屋数が多いのと子供達をおびえさせない為に、四人はバラバラになって探すことにする。 まずはリィムナが玄関近くにある居間を調べることになった。 「ここは忍眼を発動させて、仕掛けを見抜こうかな」 そしてゆっくりとふすまを開けると、布団を縄でしばった物がリィムナに向かってきた。 「おっと、危ない」 見抜いていたリィムナはヒョイっと横に移動する。布団棒はしばらくすると勢いをなくし、リィムナは避けながら居間に入った。 居間の中は広かったが物はほとんど置いてなく、また押入れもない為に子供が隠れる空間がない。 リィムナはぐるりと居間の中を見回した後、残念そうにため息を吐く。 「ここには仕掛けも子供もないようだね。サライ君はどうかな?」 サライは一階の奥の台所に向かっていた。 「効果は三十分ですが、超越聴覚を発動しますか。子供達が隠れていても、音を出さないのは不可能ですからね」 サライはスキルを発動させると、先程屋台で購入してきた焼き鳥串を手に持つ。 「後はこの焼き鳥を出しておけば、美味しそうな匂いにつられて子供達が出てくるでしょう」 台所には子供が隠れられそうな棚があり、サライは忍眼も発動させながら開けて見た。しかし探せる場所を全て探った後、ガックリと肩を落とす。 「サライ君、居間には誰もいなかったけど、こっちはどう?」 リィムナが台所へ来たが、サライは首を横に振って見せる。 「ここには仕掛けもなければ、子供達もいないようです。隣に厠がありますから、僕、ちょっと見てきます」 次にサライは厠に向かうも、そこにも仕掛けも子供の姿もなかった。 「こうなったら厠で張り込みしますか。こんなに寒いと厠に行く回数は多いですし……」 そこまで言ったサライはしかし、リィムナが自分を見る眼が気温よりも寒いものになっていることに気付き、慌てて両手を振る。 「へっ変な意味ではないですよ? 厠はどんな人間だって使いますし……」 「うん、それは分かっている。けどやっぱり人として、ね? まだ寝室を探していないし、そっちに移動しよう」 リィムナに力強くグイっと手を引っ張られながら、サライは寝室に向かう。 しかしリィムナが踏んだ床が妙な音を立てたのを聞いて、慌ててサライはリィムナの肩を掴んで後ろに下がる。 「リィムナさん、そこ、仕掛けがあるか腐っていると思います」 「ほえ? どれどれ」 後ろを支えられながら、リィムナは足の爪先でちょいっと床に力を入れて踏んでみた。すると床の一部分がぐるりと回るのを見て、二人はぎょっとする。 「あっありがと、サライ君」 「はい。慎重に進みましょう」 寝室は居間の向かいにあり、リィムナはそっとふすまを開ける。 「うっ! ここにも布団の仕掛けがあったか!」 目の前に迫ってきた布団棒にビックリしながらも、リィムナはスキルの夜を発動させた。三秒間だけ時間が止まった中で、素早く横に移動する。 「気を緩めちゃダメだね。あたしは押入れの中を調べるから、サライ君は他の場所をお願い」 「分かりました」 リィムナが押入れのふすまを開けると、中から子供の頭ぐらいの大きさの綿が詰まった布製の丸い玉が飛び出てきて顔面にヒットした。 「ぶほっ!?」 後ろに倒れそうになったのを何とか踏ん張り、リィムナは顔を両手で覆う。 「けっ結構なダメージがっ……!」 「大丈夫ですか?」 リィムナに駆け寄ろうとしたサライは、ふと天井から物音が聞こえてきてハッとする。 「……もしかして、天井裏に隠れているんでしょうか」 サライは暗視を発動し、押入れに入った。そして角の天井の板がズレているのを見て、眼を細める。この家に入る前に全体を見た時、寝室の上には部屋がないことを知ったのだ。 「子供の体重なら、天井裏にいても平気そうですね」 そして板を横にずらして頭を天井裏に入れて見ると、四歳の女の子、八歳の女の子、十歳の男の子が一枚の布団にくるまりながらそこにいるのを発見する。 「こんな所に隠れていたんですか。あの僕達は開拓者で、冬彦さんの娘さんの美冬さんに頼まれてここに来たんです」 そこまでサライが言った後、四歳の女の子が軽く咳き込む。 「ああ、こんな所にいたらカゼをひいちゃいますよ。キミ達のお父さんは、あたたかい家を用意してくれたんです。そこに行くことで、天国に行ったお父さんもきっと安心しますよ」 サライは説得を続けるも、子供達は警戒心をなかなか解かない。 「サライ君、子供達を見つけたの?」 下からリィムナが声をかけてきたので、いったんサライは頭を引っ込める。 「ええ。中には体調を崩している子もいるんですけど、やっぱり警戒しているみたいで……」 「ならあたしの出番だね! その串、貸して」 サライの手から串を取ると、今度はパンダのリィムナが天井裏に顔を出す。 「みんな、こんにちは! 美冬さんから頼まれてみんなを迎えに来たパンダのリィムリィムだよ♪ こっちにおいで〜! 一緒に遊ぼう♪」 リィムナが焼き鳥の串を子供達に向けながら振ると、しゃべるパンダに驚いたものの、匂いに誘われてフラフラと寄って来た。 「よしよし。こんな埃っぽい所じゃなくて、お部屋で食べようね」 こうしてリィムナは、串一本で子供達を寝室まで誘導する。 「俺達は一階の物置部屋と、二階の書斎と教室を探す。それでは行こう!」 廊下を走り出したナツキは、しかし二メートルほど先でズボッと床に足がはまった。 「あ〜あ、床板の一部は腐ってるって聞いていたのに」 「なっ何のこれしき!」 足を掴んで引き抜いたナツキだが、その眼にはうっすら涙が浮かんでいる。足を軽く引きずりながらも、一階の一番奥にある物置部屋に向かった。 「まずは俺がふすまを開けよう。菫さんは少し離れてくれ」 「分かったわ。気をつけてね」 警戒しながらナツキはそーっとふすまを開けると、中から勢い良く布団棒が向かってくる。 「おっと! あぶねえ!」 素早く避けたナツキは得意げに二ヤっと笑うも……。 「ナツキくん! 後ろ……」 「ふがっ!?」 菫の言葉が終わらぬうちに、勢い良く戻って来た布団棒がナツキの後頭部に当たり、そのまま物置部屋に倒れながら入った。 「布団棒は反動で戻ってくるんだから、一度避けて気を抜いちゃダメよ」 冷静に言いながら床に倒れたナツキを飛び越え、菫は物置部屋に入る。 「う〜ん。この部屋、物がゴチャゴチャ置いてあるけど、子供が入れるぐらいの隙間はなさそうね」 「そうだな」 部屋は三畳ほどの広さで、いろいろな物が置いてあるせいでナツキと菫が入るといっぱいになった。 探索を止めた二人は物置部屋を出て、すぐ近くにある階段の前で立ち止まる。 「ここの仕掛けはちょっと厄介なのよね」 「勢い良く行けば、大丈夫だろう!」 「えっ? ちょっと!」 ナツキは菫の言葉を無視し、そのまま階段を駆け上がった。 しかし階段の一部分に塗られた油に足を滑らせた挙句、体が宙に浮くのと同時に二階から雪玉が数多く降り注いできた。 「ぐほあっ!?」 そのままズドドッと落ちてきたナツキをヒョイっと避けた菫は、入れ替わりに階段を駆け上がる。ナツキが足を滑らせた場所は避けて進むと、二階の部分に十一歳の女の子と七歳の男の子がざるに雪玉をのせながら、菫を見てぎょっとした。 「まずは二人発見ね。ナツキくん、この子達を捕まえといて」 「よしっ!」 復活したナツキは再び階段を駆け上がり、逃げようとした二人の子供を両脇に抱える。 「まったく、厄介な仕掛けを作りやがって」 「さて、後はとりあえず書斎が近いから、そこを……」 近くの書斎に向かおうと歩き出した菫の頭に壊れたヤカンが、ナツキの頭には壊れた金だらいが突然パッコーンと落ちてきた。 「ううっ……。壊れた安物で助かったわ。でも痛いわね」 「ああ……」 涙目になりながら菫は慎重にふすまを開けたが、布団棒はこない。それでも警戒しながら中に入ると、ふと本棚の形が階段のようになっていることに気付く。 「昔の家具に、階段になる棚があることは知っていたけど、ここもまさか……」 本棚をのぼって行くと天井に近くなり、菫が板に触れると簡単に開いた。 天井裏に頭を入れて見ると、十二歳の男の子と六歳の男の子が毛布にくるまりながら身を潜めていたが、菫を見ると警戒するように睨みつけてくる。 「あのね、あなた達のお父さんがまだ生きている頃、娘の美冬さんに新しいおウチを用意してくれるように頼んでいたの。ここが思い出深い場所だというのは分かるけど、子供だけでいつまでも住んで良い場所ではないことは、あなた達も分かっているでしょう?」 しかし男の子達は菫から視線をそらし、その拍子に咳き込む。 「お前、いい加減にしろよ!」 突然下からナツキが声をかけてきたものだから、菫と男の子達はビクッと体を揺らす。 「いつまでもこんな間違ったやり方で、この家を守ろうとするなよ! 誰も幸せになってねーだろう!」 「なっナツキくん……」 菫が頭を戻すと、ナツキは子供を抱えたまま書斎に入ってきていた。 「血がつながっていないとはいえ大事な家族と過ごした家が大切なら、もっとちゃんとした守り方をしろよ。亡くなった親父さんが心配するようなやり方で、周りにいる連中を困らせるんじゃねえ!」 それまで黙って聞いていた十二歳の男の子が、突然バッタリ倒れてしまう。 「だっ大丈夫?」 音を聞きつけた菫は慌てて天井裏に上がり、男の子達に駆け寄った。 ○数日後 子供達は発見された後すぐに、新しい家に移動した。子供達の何人かは体調を崩している上に、子供だけでは暮らしていけないと薄々気付いていたからだ。 そして看病されて回復した子供達の所へ、四人は後日訪ねて来た。 リィムナが持ってきた写真術式機で、元の古い家の前で子供達の写真を撮る為に。写真用練感紙に映った静止画に子供達は驚きながらも喜び、新しい家の居間に飾った。 「よし! ようやく荷物の移動が全部終わったな」 この日、昔の家から新しい家に荷物を全て運ぶと美冬から聞かされていた為、四人も手伝った。 ナツキは大きな家具を運んでおり、菫は台所に立つ。 「せっかく来たんだし、あたたかいお汁粉でも作るわね。できるまで時間がかかるから、クリスマスクッキーを食べててね」 子供達がクッキーを嬉しそうに受け取るのを見て、リィムナはポンっと手を叩く。 「それじゃああたしはまたパンダになって、子供達と遊ぼうかな」 「リィムナさん、お風呂がわいたそうなので女の子達と一緒に入ってください」 しかし後ろに立っていたサライに背中を押されて、風呂場へと連れてかれた。 「後から男の子達と僕が一緒に入るので、女の子の方はよろしく頼みます」 「はっはい……」 ただならぬサライの気迫に負けて、リィムナは女の子達と浴場に入る。 家具の移動を終えたナツキは、菫がいる台所に来た。 「そういやぁ教室だけは綺麗なままだったな。何でだ?」 「それはやっぱり、お義父さんとの思い出がいっぱいある場所だったからよ。特別な場所は大事にしたかったんでしょうね」 <終わり> |