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■オープニング本文 ※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。 私立ギルド学院(の設定はシナリオ・『【混夢】悪夢よ、覚めよ』を参照)には、三つのコースが存在する。 一つめは開拓者コース。将来、開拓者として働きたいと思う人々はこのコースに入り、そして自ら開拓者のクラスを選んで学ぶ。 二つめは受付コース。開拓者ギルドの受付職員として働きたいと思う人々は、こちらのコースに入る。 そして三つめは相棒コース。将来、開拓者のパートナーとして働くことを目指している人々は、このコースを選ぶ。 それぞれコースが分かれている為に校舎と授業は別々で、普段は滅多に交流がない。 しかし年に何度かある学院全体のイベントは例外であり、この時ばかりはコース関係なく、交流ができるのだ。 そしてもうすぐ、秋の学院祭が開催される。 学院祭には既にギルド学院を卒業し、開拓者ギルドで働いているOBやOG達も参加できることになっていた。 「香弥。今年の出し物、開拓者とそのパートナーで行わないか?」 「神楽。また突然の申し出だが、悪くはないな」 開拓者コースの志士クラスの生徒である香弥は、相棒コースの生徒で既にパートナーを組んでいる神楽の申し出に、失笑しながらも良いと思った。 こういう機会でもなければ、まだ学生の開拓者と相棒が共に行動することは少ない。 「学生達はもちろんのことだが、卒業生達にも声をかけてみよう」 「そうだな。じゃあ早速、知り合いに連絡してみるか」 そして神楽と香弥は、一緒に催し物を行うメンバーを集めた。 ――が、会議で決定した催し物に、頭を抱えることになる。 何をしようか?という会議を行ったところ、カフェはどうかという意見が出た。 しかしただのカフェではつまらない。 ならばステージを作り、何かを見せるカフェならば良いだろうとなった。 それなら給仕をする人も、少し変わった姿になるのが面白いだろう。 執事&メイドがいいか、アイドルがいいか、猫耳つきがいいか、などなどたくさんの意見が出る。 だがどれもこれもありきたりで目新しくはない。 いっそのこと〔男装&女装 ステージ付きカフェ〕にしようかという提案に、人々は少し悩む。 開拓者は仕事によっては男装・女装をして、依頼をこなすこともある。 そしてクラスによっても、あえて女性は男性らしくなったり、男性が女性らしくなったりする場合もあるのだ。 それゆえに大した抵抗なく、男装・女装する人もいるにはいるが……今回は相棒コースの人々も一緒だ。 開拓者をサポートする為に日々学んでいる人々だが、開拓者のように変装の授業などないにも等しい。 それでも面白いのでやってみるべきだ!との強い意見があがり、結局出し物は〔男装&女装 ステージ付きカフェ〕となった。 「……とりあえず、俺は着物を着て裏方をしよう」 「うっ! 神楽、ズルい……。じっじゃあ私も着物を着て、裏方をする!」 着物は柄と色によって、男女兼用にも見える。 二人は目立たなく活動することにし、活躍は他のメンバーに任せることにした。 |
■参加者一覧
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
月・芙舞(ib6885)
32歳・女・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
伊波 楓真(ic0010)
21歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●準備中 空き教室を更衣室にして、開拓者と相棒はそれぞれ着替える。 女性用の更衣室では、着替え終えたレビィ・JS(ib2821)が壁際に置かれた等身大の鏡の前に立ち、自分の姿を見て満足そうに微笑む。 「うん、男性給仕服って結構良いね。いつもパンツルックだから、何となく馴染むよ」 「レビィお姉ちゃんはいつも男装しているようなものだからね。でもまあ似合うから良いんじゃない?」 相棒のヒダマリはレビィの隣の鏡の前に立ち、顔をしかめながら自分の胸元を睨み付けている。 ヒダマリの人間の姿は、レビィと同じ歳の女性だ。だがレビィとは反対に、短い髪型に豊満な体付きをしている。 「ヒダマリもその燕尾服、よく似合うよ。ショートヘアだし、イケメンレディだね」 「ありがと。でもお姉ちゃんはそんなんでもないけど、わたしは胸元がとってもきつくて……」 「う〜ん。なら又鬼犬の姿で、給仕する?」 「……お姉ちゃん、それはもう男装&女装カフェじゃなくて、ドッグカフェになっちゃうから」 真剣に提案してきたレビィだが、ヒダマリの頭の中ではドッグカフェが思い浮かんでしまう。 「うふふっ。でも別の姿になって、大きくて重い胸の苦しみから逃れられるのは良いかもしれないわね」 純白の男性用のスーツに着替えた月・芙舞(ib6885)は、シャツのボタンを一番上までしめることができずに胸元が開いた姿になっている。 「せっかくの男装だから、背中の白い羽根に合わせて衣装を選んだんだけどね。ネクタイもリボンも結べないのは、ちょっと残念」 完全な男装に見えないことに、芙舞は少しがっかりした様子で肩を竦めた。 「まあまあ。主人と私は接客を担当するんですから、お客様相手に男性っぽく接すれば良いと思いますよ」 芙舞の相棒であり駿龍のアヤメは、長い黒髪を後ろで一つに束ね、漆黒のスーツに着替えている。 アヤメは妙齢の女性の姿をしているが、その体付きは芙舞と違ってスレンダーだ。それが逆に、男装姿が芙舞よりも様になっていた。 「まっ、アヤメの言うことにも一理あるわね。それじゃあ今日は執事のように振舞ってみましょうか」 女性用の更衣室の隣の教室は、男性用の更衣室になっている。 「いよっしゃあ! 年に一度の秋の学院祭だっ! カフェを盛り上げようぜ! なあ、月牙!」 「ああ、そうだな」 緋那岐(ib5664)と相棒で駿竜の月牙は、女性用のパティシエ姿になって鏡の前に立つ。 月牙は二十歳ぐらいの長身の青年の姿をしており、パティシエの格好がよく似合っている。 しかし自分達の姿を見て、緋那岐の表情が引きつった。 「……この衣装ってパッと見、男女の区別がつきにくくねぇか?」 「今頃気付いたのか? だが私達は今日は調理人だから、あまり客の前には出ない。まあ外のオープンキッチンで料理を作るから、ある程度は目立つと思うが……」 「アレ? 調理室を使うんじゃなかったっけ?」 緋那岐が不思議そうに首を傾げるのを見て、月牙はスゥっと眼を細めて低い声を出す。 「緋那岐はスイーツを研究しているから、秋の味覚を使ったお菓子を作ると言い出した。そして最初は調理室を使うことになっていたが、お前が『料理している姿を客の前で見せることができたら良いなー』と言ったから、カフェは外でやることになったんだぞ?」 「あっ……あーっ! そうだったそうだった。んじゃ、張り切って作るぞ!」 思い出した緋那岐は青い顔色で、更衣室から走って出て行った。 そんな彼の姿を見て深いため息を吐いた月牙に、リィムナ・ピサレット(ib5201)の相棒であり炎龍のチェンタロウが肩に手をポンッと置く。 「お互い、主には苦労をさせられるな」 「ああ、そうだ……んなっ!?」 振り返った月牙は、頭にピンク色のリボンをつけたメスのクマの着ぐるみを着たチェンタロウの姿を見て、言葉と共に顔色を失う。 チェンタロウの人間の姿は、月牙よりも長身の青年である。しかし整った顔立ちも、クマの頭に隠されていた。 「リィムナの希望で、こんな格好をすることになったんだ……」 「まっまあまあ。リィムナはまだ子供だから、な?」 「……将来、絶対に嫁の貰い手の問題が出ると思う」 キッパリ言うと、覚悟を決めたチェンタロウは廊下に出る。 「あっ、チェン太だね? その衣装、長身用のを探すのに苦労したけど、よく似合っているよ」 「お前も金太郎姿、よく似合っているぞ。……しかし本当にこれらの格好で、接客をするのか?」 「だってこの格好で料理はできないもーん。それに『メイクをするのはイヤ、スカートも履きたくない』と言ったのはチェン太だよ? だから妥協して、この衣装にしたんだから」 リィムナは金太郎の衣装を着ており、チェンタロウはメスのクマになり、一応男装と女装という条件をクリアした。 「さっ、もう着替え終えたんだから、さっさと外に行くよ!」 リィムナに手をつながれ、チェンタロウが歩き出した後、二つの更衣室用の教室の扉が同時に開き、それぞれ女装と男装した人物が廊下に出てくる。 「ふう……。女装するのは意外と疲れるものだな。しかし私はどんな格好をしても美しいものだ」 満足そうに男性用から出てきたのは、筋肉質の体にゴスロリメイド服を着たラグナ・グラウシード(ib8459)。 一方で女性用から出てきたのは、彼の相棒で羽妖精のキルア。 小柄で、長い銀髪を後ろで一つに結んでいるキルアは、ラグナに合わせて執事服を着ていた。 しかしラグナの姿を見て、眼に強烈なダメージを受け、一瞬気を失いそうになるも慌てて踏み止まる。 「くっ……! 貴様っ、何という見苦しい姿だっ! その格好に何の疑問も持たないのか? 鏡は見たのか?」 「何故だ? カフェで接客といえば、今の流行りはメイドではないか。さて、そろそろ開店時間だ。頑張って売り上げを伸ばそう! なあ、うさみたん!」 ラグナがクルッと振り返ると、その背にはうさぎのぬいぐるみが背負われていた。 その後ろ姿を見て、キルアは血の気が引くのを感じる。 「待て、ラグナ! その格好で外に出たら、間違いなく通報されるぞ!」 キルアが必死になって止めるのも聞かず、ラグナは歩いて行ってしまう。 慌ててキルアが追いかけて行った後、男性用から苦笑を浮かべた伊波楓真(ic0010)が出てきた。 「……ラグナさん、やっぱりキルアさんにツッこまれましたね。僕もメイド服を選んだんですけど、相棒の反応はどうなんでしょうね?」 楓真はミニスカートのメイド服を着ている上に、猫耳をつけている。 一緒に着替えたラグナには大好評だったが、どうにも彼とは美意識が違っているように感じてならない。 二人とも時代の流行には乗っていることには間違いないのだが、いざ自分が身に付ける側になると、そういう問題じゃないらしいことが分かった。 女性用の扉が開いたと思った瞬間、ガツンッと何かがぶつかる音が聞こえて、楓真は再び苦笑する。 「カルバトス、貴女は身長が男性よりも高いんですから、出入り口には気を付けないといけませんよ」 「イタタ……。衣装に気を取られて、注意すんの忘れてたわ」 楓真の相棒で炎龍のカルバトスは、ぶつけた額をさすりながらも屈んで教室から出た。 肩まで伸びた髪は赤く、両目も赤いカルバトスはそこら辺にいる男よりも長身だ。その為、執事服が下手な男よりも良く似合っており、様になっている。 「ああ、でも執事姿は素敵ですよ。今日はちゃんとお客様の相手をしてくださいね」 「はぁーい」 「ちなみに僕はどうですか? こんな格好をするのははじめてなので、似合っているのかどうか自分じゃよく分からないんですよね」 少し戸惑いながら楓真が自分の衣装を見ている間に、カルバトスはデジタルカメラを取り出してその姿を撮っていく。 「スッゴク似合っているわ! きっと主人が一番注目されるわね。やっぱりカフェで接客といえば、メイドよ!」 夢中でシャッターボタンを押していくカルバトスを見て、案外ラグナと彼女は似ているのかもしれない――と楓真は微笑みを崩さず心の中で思った。 ☆男装&女装カフェ開店! 香弥と神楽が外に準備したオープンキッチンを見て、緋那岐は眼を輝かせる。 「おおーっ! 立派なもん、用意してくれたんだな。よしっ! 月牙、客が来る前に作り置きしとこうぜ」 「そうだな。客を待たせるのは、よくない」 メニューとレシピは緋那岐が担当しているので、月牙は手伝うことになっていた。 「和洋折衷のスイーツを、イギリスのアフタヌーンティーの食器にのせて出すつもりなんだ」 「普通のアフタヌーンティーは上からスコーン、ケーキ、サンドイッチだよな? 内容はどう変えたんだ?」 月牙が問うと、緋那岐は自信ありげに胸を張りながら、料理名を書いたメモを差し出す。 「焦がしバターとハチミツ入りのマドレーヌ、秋のフルーツタルト、カボチャプリン、抹茶と小豆のスコーン、そして柿の種……ってふざけるな!」 月牙は険しい表情で拳を握り締め、緋那岐の頭をゴツンッと叩く。 「まっ間違えた! 柿のデザートスープだ! そんで飲み物は他に、紅茶とミルク入りの抹茶を用意しようかと……」 「なら良い。じゃあ早速、材料を切っていくぞ」 午前の晴れた秋の空の下、手際良く二人がお菓子を作っていくと、美味しそうな甘い香りが周囲に漂う。 学院の中で中庭が空いていたので、そこでオープンカフェをすることになった。ステージは前日には完成しており、後はスイーツと飲み物がすぐに客に出せる状態になるのを待つばかり。 しばらくして、緋那岐と月牙は作ったスイーツと飲み物の数や量を確認して、互いに頷き合う。 「とりあえず、これだけ作れば充分だろう」 「ああ。少なくとも、置かれているイスの人数分は作った。開店しても大丈夫だろう」 「よし! それじゃあみんな、開店してくれ!」 緋那岐の一声で、男装&女装カフェはオープンする――。 最初の客は二十歳ぐらいの女性二人組で、スイーツの甘い香りにつられてやって来た。 「いらっしゃいませ」 「当店は秋の味覚を使った、和洋折衷のスイーツと飲み物がいただけます。よろしければどうぞ」 男装した芙舞とアヤメが声をかけると、女性達は少し顔を赤くしながら客になることを決める。 「さあ、お嬢様方。こちらの席へどうぞ」 「お飲み物は紅茶と抹茶、どちらにしますか?」 注文を受けつつ、芙舞とアヤメはこのカフェについて説明した。男装と女装、そしてステージ付きというのが面白いと好評で、女性達は早速友達も呼ぶと言って携帯電話を取り出す。 その後、アヤメは新たに来た客の所へ行き、芙舞は注文を書いた紙を手に持ちながら緋那岐達の所へ向かった。 「秋の味覚スイーツセット二つと、温かい紅茶と抹茶を一つずつお願いね」 「了解!」 緋那岐と月牙は早速準備を始めるも、緋那岐は芙舞の視線を感じてふと手を止める。 「どうかしたか?」 「ん〜。実は料理が得意だから、本当は調理を担当しようと思っていたんだよ。でもホラ、この羽根があるでしょ? 邪魔になるかと思ってアヤメと一緒に接客することにしたんだけど、まさか外にオープンキッチンができるとはね」 「だが妙齢の男装美人に接客された方が、客は喜ぶだろう。緋那岐だと、どうしても子供のお手伝いにしか見えないからな」 「一言余計だっ! 月牙!」 「ふふっ、ありがとう」 シレっとする月牙、頭から湯気を出す緋那岐、そして嬉しそうに笑う芙舞を少し離れていた所から見ていたアヤメもまた、幸せそうに微笑んでいた。 緋那岐と月牙が作ったスイーツの評判が良く、また甘い香りにも誘われて客は次々にやって来る。 ――が、ラグナは客から不審者を見るような眼で見られていることに気付かない。 「働きっぷりは、かなーり良いんだけどな……」 とても良い笑顔で接客をするラグナを見て、キルアは不憫に思えてきた。 しかしラグナは何かに悩んだ顔になり、コソコソしながらキルアの所へ来る。 「何だか先程から、売り上げに貢献している気がしなくてな。接客態度を変えてみるというのはどうだろう? 『もえもえキュン♪』とでも言えば、喜ばれるか?」 「キモすぎて、客が冥土に行ってしまうからヤメろ」 「ではメイド喫茶によくあるんだが、ホットケーキに私が生クリームで客が望む絵や柄を描くというのは……」 「却下っ! そもそもホットケーキはメニューにないっ! 貴様はもう大人しく接客してろっ!」 キルアに腰をドカンッと蹴られ、渋々ラグナは接客に戻る。 しかし客の注文を聞く時、腰を屈むので短いスカートの奥が後ろにいる客に見えてしまい、青い顔をされてしまう。 「……裏方に回した方が、カフェの為だろうか?」 真剣に、キルアが考え始めた時だ。 「私のうさみたんに触るなぁ!」 突然、ラグナの怒鳴り声が聞こえてきた。 顔を上げて見ると、ラグナは背負っているうさぎのぬいぐるみを庇うような姿勢をしている。 だが怒り狂ったラグナが睨み付けている相手は、五歳ぐらいの可愛らしい女の子だ。 どうやらラグナのぬいぐるみが気になったらしく、うっかり触ってしまったことを怒られているらしい。 おびえて泣き出しそうになっている女の子を見て、キルアのこめかみに青筋が浮かび、ダッシュで走り出す。そして地を蹴り、ラグナの頭を蹴り飛ばした。 「うごふっ!?」 ズササーッと地面を滑り、ラグナはダウンする。 「さあ、泣かないでお嬢さん。悪いモンスターは退治したからな」 キルアがしゃがみ込んでキラキラスマイルを見せると、女の子はピタッと泣き止んだ。 その間に、倒されたラグナは緋那岐と月牙が担架に乗せて運んでいく。 裏の方に置かれたラグナは震える体で、笑顔で接客をしているキルアを睨み付けた。 「だっ誰が悪い、モンスター……だっ」 そのツッコミを最後に、ラグナは気を失う。 しかし子供に困らせられたのは、ラグナだけではなかった。 歩いていた芙舞はお尻に向かってくる気配を感じて、近付いてきた手を捕まえる。 「お客様、おイタはいけませんよ?」 冷たい笑みを浮かべながら振り返った芙舞は犯人を見て、顔が引きつった。 何せお尻を触ろうとした犯人は、六歳ぐらいの少年だったのだ。軽いイタズラ心からしたことだが、思いのほか真剣に怒られていることを感じてビクビクしている。 「主人、子供相手にそんな怖い空気を出さないでください」 慌ててアヤメが割って入り、少年の頭を優しく撫でながら慰める。 そんな二人の姿を見ながら、芙舞は自分の修行不足を感じたのだった。 「チェン太……じゃなくて、メスのクマのクマミ! そろそろあたし……じゃなくて、僕達のステージの時間だよ!」 「(グダグダだな)」 チェンタロウは着ぐるみを着ているので、しゃべることをリィムナに禁止されている。 なので二人は一緒に接客をしており、客と話をするのはリィムナの役目、食器を運ぶのはチェンタロウの役目になっていた。 チャンタロウは四つん這いになり、リィムナはその背に乗る。そして二人はステージの上に移動して、チェンタロウの背中から降りたリィムナは客に向かって、両手を振りながら大きな声で告げた。 「これから金太郎の僕とクマのクマミのショーがはじまるよー! 金太郎とクマといえば、やっぱりプロレスだよね!」 「(違うっ! 相撲だ!)」 チェンタロウは心の中で叫んだものの、リィムナは構わずパンチや蹴りを入れてくる。 「(イタタッ!)」 「くぅっ! 流石はクマミ、こんな攻撃じゃあ効かないようだね。それなら必殺・ゴールドキィック!」 「(ぐぼぉっ!?)」 「あちゃ……。リィムナさん、男性の急所を攻撃しましたね」 ステージ近くにいた楓真は、気の毒そうにチェンタロウを見つめた。 チェンタロウは蹴られた部分を押さえながらブルブル震えていたが、突如殺気を放ちながら顔を上げる。 そしてリィムナを担ぎ、肌色のスパッツに包まれた尻をペシペシッと連打し始めた。 「うわーんっ! お尻を堤太鼓にしないでよぉ!」 リィムナは泣き出したが、客達は大笑いしている。 「……まっ、これも一つのエンターテインメントですね」 楓真は肩を竦めながら、ステージに背を向けた。 その後は香弥と神楽が頼んで来てもらった吟遊詩人クラスの人達に楽器を演奏してもらいながら、芙舞は白い羽根を存分に伸ばして、アヤメとステージ上でダンスを踊る。 時には女性客をステージに上がらせ、リードしながら踊ったりした。優雅で気品溢れる二人の姿を見て、女性客達は眼をハートにする。 二人の他にも男装しているレビィとヒダマリ、カルバトスが女性客達と踊った。 そして踊り終えたレビィとヒダマリは、接客に戻る。しばらくは忙しく動き回っていたヒダマリだが、ふとレビィの姿が見えないことに気付く。 「お姉ちゃんったら、またどこかでドジっているのかな?」 キョロキョロと見回すと、レビィが出入り口付近で三十代ぐらいの女性三人組に囲まれているのを発見した。 女性達は男装麗人のレビィを気に入ったらしく、しつこく電話番号やメールアドレスを聞き出そうとしている。 「ムッ!」 ヒダマリは険しい表情で舞台の裏に回ると、又鬼犬の姿になった。抜足を使いながらレビィの所へ行き、女性三人組の足を次々に踏んでいく。 女性達は悲鳴を上げるも、ヒダマリはそのまま舞台裏に戻った。 そして人間の姿に戻って給仕をしていると、こっそりレビィに話しかけられる。 「ヒダマリ〜。お客様に怪我させちゃダメだよ?」 「何のこと?」 知らぬ顔をするヒダマリを見てため息をついたレビィは、トレーに載せた空のティーカップを落としそうになった。 「危ないっ!」 咄嗟にヒダマリが空中でキャッチし、自分のトレーに載せる。 「んもう……。お姉ちゃん、人のこと注意している場合? 空の食器、トレーに山積みになっているじゃない。危ないわよ?」 「だって忙しくなってきたんだもの。ホラ、行列ができているし」 「アララ。あんまり長くはもたないけれど、影分身を使おうかな」 ヒダマリはスキルでもう一人の自分を作り出し、手伝わせることにした。 「ヒダマリは真面目だね。……まああっちの二人が一人分の働きしかしていないのも、問題だと思うけど」 レビィの視線の先には、楓真の背中にべったりくっついているカルバトスの姿がある。 「……カルバトス。いい加減に離れて、一人で仕事をしてくれませんか?」 「あたしは主人を守る仕事があるから、離れられないの!」 いつもなら微笑ましく思わなくもないが、今は忙しい仕事中だ。 楓真はどうしようかと考えていると、ふと近くにいたレビィと視線が合う。 「背負っているソレ、重そうだね」 「分かります? ラグナさんのうさぎのぬいぐるみの方が、まだマシですね」 先程から注目の的になっていることに気づいていた楓真の笑みは、冷気を放っている。 しかしそんな楓真に気づかず、カルバトスはギュウギュウしがみつく。 呆れた表情を浮かべるレビィだが、そんな三人の姿を離れた所から見たヒダマリは、サボって話をしているように思った。 「そこの三人、ちゃんと働けっ!」 ヒダマリは怒りの表情を浮かべながら調理台からスコーンを一つ手に取り、三人に向けて投げる。 「よっと」 「おっと」 「うわっ! ……んぐぅっ!?」 レビィと楓真はヒョイッと避けたものの、カルバトスの口の中にスコーンは入ってしまった。噛まずに飲み込み、驚いた拍子にカルバトスは炎龍になってしまう。 辺りが騒然とする中、楓真はこの隙にカルバトスから離れて伸びをする。 「さて、身軽になったことですし、接客を頑張りましょうか」 炎龍のカルバトスが暴れだすも、楓真は素知らぬ顔をした。 <終わり> |