酒は飲んでも飲まれるな!
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/24 21:35



■オープニング本文

●酒飲みの恐ろしさは……
 神楽の都の開拓者ギルドに、六人ほどの依頼者達が訪れた。
 すでに初老をむかえている男性達を担当するのは、受付職員をしている京司と京歌の兄妹。
 彼らはみな、酒蔵で働いていると言った。
「最近暖かくなったおかげで、一般の方々が外で宴会をすることが多いんです。そのこと自体は良いのですが、その…あまり礼儀がよくないみたいでして……」
「ああ、酒癖の悪い人っていますもんね」
 京司の上司にも酒を飲むとからんでくる人がいるので、迷惑だと言わんばかりに頷く。
「…ええ。ところが困ったことに、酒蔵をも襲ってくる人々が出てきたんです」
「あ〜…。酔っ払いって、何をしても記憶に残らないところが恐ろしいですよね」
 京歌の言葉に、依頼人達は同感だと言うように頷いて見せる。
 夜も遅くにいきなり戸を激しく叩く音で、酒蔵の人々は眼を覚ます。
 何事かと窓から覗いて見ると、戸の前で酔っ払った人々が酒を求めて暴れているのだ。
「酒屋や飲み屋が閉店した後、酒蔵に来るようになったのです。ウチだけではなく、他の酒蔵も襲われているそうで…。しばらく騒ぐと帰るのですが、何度も夜に騒がられると翌日の仕事に響きます」
 依頼人達の顔を見ると、誰もがぐったりしている。
 確かに真夜中に騒がれたら、睡眠が充分に取れないだろう。
「それに近所の方々の迷惑にもなっています。このままでは仕事に支障が出てしまいます」
「では開拓者に何を頼みたいんですか?」
 酒飲みに注意しても素直には聞かないだろう、と京司は思っている。
「酒の最終出荷日に、酔っ払いから酒蔵を守ってほしいんです。もうすぐ酒の出荷が終わります。そうすれば彼らも襲ってはこないんです」
「それはどういうことですか?」
 意味が分からず、京歌は首を傾げた。
「以前、夜中に騒いだ人々の中で、少数ですが謝りに来られた人達もいたんです」
 酔っ払って暴れたが、それでも寝て起きて自分のしたことを思い出した人々が申し訳なさそうな顔で後日、酒蔵の人々に謝りに来た。
 そして彼らが言うには、酒を求めているうちに酒の強い匂いがする酒蔵にたどり着いたそうだ。
 つまり酒蔵から完成した酒がなくなれば、匂いが減って彼らも襲わなくなるだろうと考えた。
 しかし相手は一般人。酔っ払ってしまうことはしょうがないので、何とか無傷で彼らが酒蔵を襲ってこないようにしてほしい――そうだ。
「特に最終日が一番多く出荷します。酒の匂いもいつも以上になるでしょう。出荷する前の晩、開拓者の方々に酒蔵を守ってほしいのです」
「つまり警護ですか。でも同心にお願いしようとは思わなかったんですか?」
「確かに一般人が相手で、しかも職場と商品を守る為ならば、同心に頼めば動いてくれると思いますが」
 京司と京歌の言葉を聞いて、依頼人達は複雑そうな表情を浮かべる。
「同心の方々にお願いしようと、最初は考えました。しかし同心の方々だと、手荒をしてしまう可能性が高くてですね…」
 すでに同心にお願いした酒蔵もいたそうだが、力づくで酔っ払い達を追い払った為に、とんでもない騒ぎになったらしい。
「我々にとっちゃあお酒を飲む方は、大事なお客様です。そりゃあ暴れられるのは困りますが、かと言って酒を絶たれては困るんです」
 同心が酒飲みの家族や周囲の人に事情を説明してしまう為に、酒を飲むのを止めようと考える人がいるのだ。それでは商売あがったりになる。
 なので開拓者には手荒な真似をせずに、酒蔵を襲わないようにしてほしい。
「んっん〜。相手が一般の人で、しかも酔っ払いだと少々難しいかもしれませんが…」
「まあ頑張ってもらいましょうか。ねっ、兄さん」


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
佐長 火弦(ib9439
17歳・女・サ
Kurt(ic0569
14歳・男・ジ
ウルリケ(ic0599
19歳・女・ジ


■リプレイ本文

●酒宴の準備
 依頼をしてきた酒蔵に、六人の開拓者は集まった。
 竜哉(ia8037)とウルリケ(ic0599)は蔵の中に入り、依頼人達を見つけて声をかける。
「申し訳ないが、酒をいくつか分けてくれないだろうか? もちろん代金は払う」
「持ち寄ったお酒だけでは少々心もとなくてですね。できるだけ多くのお酒があると助かるのですが…」
「ああ、それなら売り物にならない酒をお分けしますよ」
 そう言って酒蔵の人は二つのぐい呑みを手にし、樽に入っている酒を注ぎ、二人の前に差し出した。
「ウチは清酒を出しとるんですが、酒粕がどうしても抜けきれない濁った酒ができちまうんです。普段は家の者が飲んどりますが、コレでよろしければ無料でお譲りしますよ。清酒として商品にはなりませんが、味は大して変わりません」
 二人はぐい呑みを受け取り、中を見てから味を確かめる。確かに酒粕が少しばかり浮かんでいるものの、味は美味い。
「…うん、コレはコレで美味いな」
「ではこれをお願いします」

 庭の方では猫宮京香(ib0927)とKyrie(ib5916)、佐長火弦(ib9439)とKurt(ic0569)の四人が、酒宴で酔っ払い達を持て成す為の準備をしている。
「貸衣装屋さんから、露出が激しいドレスを借りてきました〜。でもお酒が美味しいのは分かりますけど、正気を無くすほど飲むのは困りものですね〜。特に他人に迷惑をかけちゃダメですよね〜」
 京香は苦笑しながら、ドレスを体に合わせて見た。
「確かに飲みすぎて、人々に迷惑をかけるのはよくありませんね。今回は平和的に酒宴で酔いつぶれてもらいましょう」
 Kyrieは持ってきた執事服を一旦置いておき、買い込んできた食材を持つ。
「さて、お酒だけでは胃腸に悪いですからね。私はおつまみを準備します」
「はい、行ってらっしゃーい」
 酒蔵の中に入っていくKyrieを、京香は笑顔で見送る。
 庭の酒置き場では、火弦が持ってきた酒を次々と置いていく。
「とりあえず酒・祝千と葡萄酒三本、ヴォトカも三本、重箱弁当を二つ持ってきました。あと地面に座れるように茣蓙を四枚と、寝てしまった人にかける毛布を五枚ほど。下調べとして酒飲み屋からこの酒蔵の途中にある空き地を見てきたんですけど、なかなか広いですし柔らかな草もはえていました。女性には茣蓙を使ってもらい、男性には我慢してもらいましょうか」
「そうだねー…」
 火弦に答えるKurtの声には、元気がない。
「Kurt君? どうかしました?」
 Kurtは渋い表情で、借りてきた踊り子の衣装を見つめながら深いため息を吐いた。
「僕はさ、迷惑かける奴等って嫌いなんだよねー。特に酔っ払いが一番イヤ。ウルサイし、ムダにベタベタしてくるし、酒臭い息を吐くし。今回の相手は一般人だから、力技で何とかするワケにもいかないからさ。めんどくさーい、って思ってる」
「…思っていることを全て打ち明けてくれて、ありがとうございます。でもわざとそうしているわけではないのですから、今回は広い心を持って頑張りましょう?」
「……まっ、火弦おねーちゃんがそう言うなら、頑張るよ」


 夕暮れ時、酒飲み達が店へ向かう中、開拓者六人は酒蔵の人々と共に空き地へ向かい、一夜限りの酒宴の用意をし始める。
 まずは地面に茣蓙を敷いたり、借りてきた折りたたみ式の長机やテーブルを置いていく。
 長机とテーブルの上には多種多様の酒の他に、借りてきたお猪口やぐい呑みも載せる。おつまみ用の料理と、取り分けられるように皿と箸も置く。
 通りに面した場所には簡易かまどを作り、調理器具を設置した。そして空き地の至る所に提灯を置いて明かりを灯す。
 野外の宴会場が出来上がると、酒蔵の人々は家に帰った。
 そして開拓者達は服を着替え、酒宴で給仕をする者となる。
 ちょうどその頃には酒屋も酒飲み屋も閉店する時間となった。六人はそれぞれ持ち場へと向かう。


●いらっしゃいませ!
 踊り子の衣装を着たKurtと火弦の二人は、空き地から少し離れた場所に立つ。ここは酒屋と酒飲み屋がある場所から、酒蔵へ向かう道の途中。ゆえに酔っ払い達が歩いてくる道でもある。
「さて…と。確実に酔っ払い達を宴会場に向かわせる為に、バイラオーラを使っておこうっと」
 このスキルを使うとKurtの踊りが魅惑的であり、倒錯的に見える効果が三十分ほど続くのだ。
 火弦はふと、酔っ払っている三人組の中年男性達が近付いてくるのを気付いた。
「――ではKurt君、頑張りましょうか」
「うん」
 二人は三人組の前に、立ちふさがるように出る。
「おにーさん達、こんばんは♪ 今、あっちで宴会が開かれているんだ。よかったら寄ってかない?」
「天儀のお酒の他に、異国のお酒もご用意しています。今夜は無料でお酒の試飲ができる上に、美味しいおつまみもありますよ。催し物もございますし、ぜひいらしてください」
「お酒は楽しく飲んだ方が良いでしょ? ホラ、こういう料理とお酒が待っているんだから」
 Kurtはクルクルと踊りながら、寿司の折詰を差し出す。
 火弦もKurtが持ってきた天儀酒を三つのお猪口に注ぎ入れ、三人の前に出した。
 男性達は最初は面食らっていたものの寿司を食べ、酒を飲むと表情が一気にゆるむ。
 火弦とKurtは視線を合わせると、同時に頷く。
「それではご案内しますね」
「おにーさん達が来てくれるなんて、僕、嬉しいな〜♪」
 ――こうして宴会場に三名が通された。


 一方で、執事服を着ているKyrieは料理を作りながら、美味しそうな匂いで酔っ払い達を引き寄せている。
 まずはかまどに薪を入れ、火種で火をつけた。
 泰鍋に油を入れ、短冊状に切ったじゃがいもを揚げる。油の中に入れたにんにくの匂いが周囲に広がり、空腹を感じてしまう。
 じゃがいもを揚げている間にまな板の上で魚を捌き、小麦粉を付けて同じ泰鍋の中に入れた。
「揚げ物ばかりでは胃もたれしてしまいますね。サッパリしたおつまみも作らなければ」
 次に魚肉を薄切りにし、生のタマネギとトマト、カイワレ大根も準備する。そしてオリーブオイルと塩、コショウとレモン汁を混ぜて、カルパッチョを作った。
 出来上がった料理と、あらかじめ作って持ってきた酒盗と共に皿に盛り付けていく。
「後はやっぱり干物ですね。酒蔵の人達に美味しい干物を売っているお店を教えていただき、良かったです」
 借りてきた大量の七輪を地面にならべ、炭にかまどの火を移し入れる。そして網の上で干物を焼き出すと、赤ら顔の人々が寄って来た。
 Kyrieは酔っ払い達が近付いてきたことに気付くと、ニッコリと微笑みを向ける。
「いらっしゃい! 貴方達は運が良い! これからここで宴会が始まるんですよ。今年作られた世界各国のお酒を、無料で試飲できる宴会です。おつまみの方も用意していますので、是非ご参加ください!」
 景気良く声をかけると、酔っ払い達は嬉しそうに宴会場に入って行く。


「そこのおにーさん達ぃ、美味しいお酒がこちらにありますよ〜。私がお酌をしますので、寄っていきませんか〜?」
 京香は酒蔵から譲って貰った酒瓶を抱えながら、二人組の若い男性に声をかける。
 二人は京香の色っぽい姿を見て、フラフラと近付いて来た。
 そして京香の案内で宴会場の中に入り、ぐい呑みを渡され、酒を注がれる。
「はーい、お酒ですよ〜。今年発売のお酒をたぁっくさん用意しましたので、どんどん飲んじゃってくださいね〜」
 なみなみと注がれた酒を一気に飲み干すと、京香は感心したように手をパチパチと叩いた。
「きゃあ、スゴイです〜。カッコ良いですね〜」
 褒めながらも、新たに酒を注ぐことを忘れない。
 ――こうして男達がぐでんぐでんになるまで、京香は酒を注ぎ続けた。


 スキルの笑顔を使っているウルリケは、持ってきた天儀酒を両手で抱えながら宴会場を歩いている。
 目的は酔っ払い達の空になったお猪口やぐい呑みに、酒を注ぐ為であった。
「会場には大分人が集まりましたね。…ここら辺で場を盛り上げる為に、余興を始めた方が良いでしょう」
 前もって飲んでいたとは言え、酔っ払い達の間にはまだ少し緊張感が残っている。気をゆるめてもらわなければ、いつ酒蔵へ行くと言い出すか分からない。
 ウルリケは酒をテーブルの上に置くと、空いた場所に立った。
「皆様! あたしは旅芸人の踊り子なんですよ。これから舞いますので、よかったらご覧ください!」
 声高く言うと、踊り子の衣装に身を包んだウルリケは舞いだす。
 突然始まった余興に、酔っ払い達のテンションが上がっていく。
「おっと。ウルリケおねーちゃん、はじめたね。じゃあ僕も踊ってこよっと!」
 火弦と共に酔っ払い達を宴会に引き入れていたKurtだが、ウルリケが舞いだしたのを見て会場に入り、軽やかに踊りだした。
 Kurtは会場の中を、人の合間をぬって踊り続ける。しかし笑みを浮かべながらも、眼では酔っ払い達が会場から出ていないか監視していた。
 だがベロンベロンに酔っ払った男が一人、フラフラしながら会場から出ようとしたのを見つけると、素早く移動する。
「おにーさん、そっちは危ないよ」
 手を引いて、会場の中に戻した。
「おっとと…」
 中に戻された男の懐から財布が落ちそうになるのを見て、Kurtの眼に怪しい光が宿る。
 Kurtは密かにライールを発動させた。そして再び踊りだしたのだが、一通り終えると人のいない場所に行き、懐に入れた複数の財布を手に持つ。
「コレ以上、他所でお酒が飲めないように、ちょっと拝借しておくよ。お金がなかったら、他所でお酒を飲むことができないからね」
「いけません! Kurt君!」
「あだっ!」
 ゴインッ!とKurtの頭をゲンコツで殴る音と共に、火弦が叱った。
「イタタ…。いや、でも後でちゃんと返すから…」
「どんな理由があろうとも、酔っ払いの方達からお財布を盗むなんていけないことです! とっとと返してください!」
 火弦の怒りに満ちた顔を見て、Kurtは慌てて踊りながら財布を返していく。
「ぜっ全部、返してきたよ…」
「よろしい。では会場の入口辺りで次は踊ってください」
 火弦はKurtの腕を掴み、会場の入口に移動する。
「さあさあ、お立ち会い! この少年は異国の土地で、踊りを職業とする者! 素晴らしき舞をとくとご覧あれ!」
 火弦が声高く言うものだから、新たな酔っ払い達が興味を持ってこちらに向かってきた。
 その光景を見て、Kurtはため息を吐きながら新たに踊る準備を始める。


 会場の中では、舞をしているウルリケとは別の場所で、竜哉が余興をしていた。
 立て札を地面に突き刺し、三メートルほど離れる。そして懐から投文札を四枚取り出す。片手に二枚ずつ持ち、立て札に向かって放った。
 立札には白い紙に黒墨で三重丸が書かれており、投文札は見事中心に四枚とも刺さる。
 それを見ていた酔っ払い達は、大歓声と拍手を惜しみなく竜也に送った。
 竜哉は笑顔で手を振りながら、ボソッと呟く。
「この場がうす暗くて、観客が酔っ払いで良かった」
 投文札の正体は金属製の札だが、表面に白い紙が貼られている為に手紙を書く紙に見えてしまう。その紙が立て札に刺さったのを見れば喜ぶだろうと思ってやったことだったが、見事に狙いが的中した。
 竜哉は次に、酒が置いてあるテーブルに移動する。白いテーブルクロスの端を両手で掴み、気合を入れて一気に引っ張った。
「ふっ!」
 一瞬にしてテーブルクロスはなくなったものの、置いていた酒は数センチ移動しただけで割れたりしない。
 見ていた酔っ払い達から、再び竜哉は歓声と拍手を送られるのであった。


●酔っ払い達の暴走
 宴もたけなわになると、酔っ払い達の暴走が激しくなってくる。
 眠った人には、火弦とKurtが持ってきた毛布をかけてあげた。
 ――しかし迷惑な症状が出始めた者もいる。
 京香の背後から、酔っ払った若い女性が後ろから抱き着いてきた。
「おねーさん、良い体しているわねぇ」
「きゃっ!? おっお触りはダメですよ〜」
 露出している部分を触られ、京香は身を竦める。相手が男性ならば技を使って逃れるが、自分よりも若い女性相手だと怯んでしまう。
「ふう…。あっついわぁ」
 しかし同じく若い女性が真っ赤な顔で服を脱ごうとしたのを見て、慌てて毛布を持って駆け寄った。
「ここで脱いではいけませんよ〜! 風邪を引いてしまいますし、お嫁に行けなくなってしまいますぅ〜!」
 毛布で女性の体を包み込むとそのまま眠ってしまったので、隅の方に連れて行き、寝かせる。
「さっ酒癖が悪いのは、何も男性に限ったことではないのですね〜。私もお酒が大好きでよく飲みすぎてしまいますから、ああならないように注意しましょう…」
 ふと長机の方を見ると、Kyrieが空瓶を片付け、新たな酒を補充している姿があった。
「Kyrieさん、随分お酒を持ってきたんですね〜」
「京香さん、接客ご苦労さまです。お酒は発泡酒、古酒、天儀酒、ヴォトカをそれぞれ三本ずつ、葡萄酒は四本持ってきました。多いにこしたことはないと思いまして…」
「おおっ! 珍しい酒があるな」
 二人の間に、一人の男が割って入る。土木工事をしているのかと思うぐらい体付きが筋肉質で、日焼けしている顔には無精ひげがはえていた。
 しかし男は酒から京香に視線を移すと、ニヤッと笑う。
「お嬢ちゃん、可愛いなぁ」
 そしていきなり京香の肩を掴んで眼を閉じ、唇を近づけてきた。
「きっきゃあ〜〜〜っ!」
 京香はとっさに眼を閉じて、利き手を振り上げ、男の頬を平手で叩く。
「ぶっ!?」
「んむっ!」
 バチンっ!と叩く音がして間もなく、男と何故かKyrieの声が聞こえたので、京香は恐る恐る眼を開けて見た。
「ひぃっ!」
 京香の眼に映ったのは、男とKyrieが唇を合わせている姿だ。
 どうやら男は叩かれた衝撃で顔がKyrieの方を向いてしまい、Kyrieは京香と男を引き離そうと近付いたところ、タイミング良く…いや悪く互いの唇が触れてしまったのだろう。
 男は白目をむき、その場にバッターンと倒れて意識を失った。
「すっすみません、Kyrieさん〜!」
「…いえ、コレも仕事ですから」
 少し離れた場所では京香と同じように、酔っ払った男達に絡まれている竜哉の姿があった。
 竜哉は笑みを崩さないまま、剣気を使って一人を怯ませる。けれどすぐに士道を使って、周囲にいる人々の心象を良くさせた。
 ウルリケは天儀酒をお猪口に入れ、少しずつ飲みながら酔っ払い達の話を聞いていたものの、熱くなった酔っ払い達を黙らせる為に素早く顎に掌底を入れた。
 そして酔っ払い達が動けなくなった後、Kyrieは酔っ払って怪我をした人を神風恩寵で癒し、眼を回すほど酒を飲んでしまった京香には解毒を使う。

 酒蔵は平和に一晩過ごし、出荷も無事に終える。
 しかし帰り道を歩く開拓者達の体からは、強い酒の匂いが染み付いてしまったのだった。


<終わり>