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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ●IFの舵天照の世界でお花見を 四月になりまして、桜が満開になりました。 この季節にやることと言ったら、やっぱりお花見ですよね♪ ということでお花見をしに、みんなで集まりませんか? お花見会場は広い公園です。中には多くの種類の桜の木が植えられていまして、今は見頃になっています。 公園の中には川がありまして、屋形船で桜並木を見物できます。 また池で船を漕ぎながら、のんびりするのも良いでしょう。 二人乗りの人力車もありますので、乗って公園を回るのも楽しそうです。 食べ物と飲み物は屋台で購入するのもいいですが、お弁当を作って持ってきたり、お酒やお茶なども持ち込むのも良いものです。 そして太陽の下で見る桜も素晴らしいですが、夜桜もまた良いものです。 月の光の下でお花見をするのも、ロマンチックですね。 さて、ここからがIFの世界らしくなります。 開拓者である皆様は、この世界では性別が逆になります。つまり女性は男性に、男性は女性になるのです。 また相棒と参加となりますが、相棒も何と普通の人間の姿になります。どんな相棒でも人間の姿となりまして、開拓者の仕事上のパートナー扱いになります。 いつもとは違った世界観でのお花見を、楽しんでみませんか? |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / ヘスティア・V・D(ib0161) / Kyrie(ib5916) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 啾啾(ib9105) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / 祀木 愁(ic0346) / 鶫 梓(ic0379) / 徒紫野 獅琅(ic0392) / シルヴィオ・ローレンツ(ic0394) |
■リプレイ本文 ●女性から男性に、そして相棒は人間に 「しらさぎ、開拓者と相棒達が集まって、お花見をするんだって。お弁当を作って、一緒に行こう♪」 可愛らしい『少年』の礼野真夢紀(ia1144)は開拓者ギルドでお花見の話を聞き、家に帰るとすぐに相棒のしらさぎに声をかけた。 からくりの時と同じ容姿をしているしらさぎは喜んで頷き、二人は早速お弁当を作ることにする。 「マユキ、りょうりジョウズ。作るの、手伝うよ」 「ふふっ、ありがと。いーっぱい作ろうね!」 二人のほのぼのした関係は、この世界でも変わらず。 「なあなあ、ネメシス。一緒に花見に行こうぜ。開拓者の他に、相棒達も来るってよ」 「…ふんっ。まあ良かろう。おぬしとだけなら御免こうむるが、相棒達も集まるのならば開拓者の悪口を酒の肴にしようかのぉ」 野性味のある美『青年』のヘスティア・ヴォルフ(ib0161)は、相棒のネメシスのツンデレに思わず苦笑する。 真っ白な髪に真紅の瞳を持つネメシスは、幼い少女の姿をしていた。凹凸がまだない体型をしているが、それでも一目見れば忘れられない美しさがある。 「それじゃあ行くぜ!」 「うわわっ!? 抱きかかえるでない! 何をするのじゃ、妾に触れるでないーっ!」 こちらは少々、バタバタしていた。 エルレーン(ib7455)の相棒、もふもふは十歳ぐらいの少年になっている。 二人はすでにお花見会場である公園に来ていた。 「わあっ…! 桜、キレイだねぇ、もふもふ」 「そうもふな〜」 人間になっても口癖の『もふ』が抜けないもふもふは、おっとりした『青年』のエルレーンを見る。 視線に気付いたエルレーンは笑みを浮かべ、弁当を入れた布袋を持ち上げた。 「お弁当、持ってきたんだ。頑張って作ったんだよ〜」 「…そうもふか。(こいつは料理を作ってくれるおなごを、早く見つけるべきもふ〜)」 もふもふの気苦労は、ここでも変わらない。 「なあ、深緋。屋台がたくさん出ているが、何を買って行けば良いと思う?」 『男性』になっても狼の耳と尻尾を持つ紫ノ眼恋(ic0281)は、相棒の深緋に屋台を指差しながら尋ねた。 二人は公園の屋台で食べ物を買うことにしたのだが、数と種類が多過ぎて迷っている。 「そうだねぇ…。今日のお花見は二十四人もいるし、無難にお団子にしとく? 桜餡とか出ているし、ボク、食べてみたい」 赤い両眼に、赤く長い髪を側頭部の片側で結んでたらした髪型をしている深緋は、恋を上目遣いで見上げる。その眼差しは期待に満ちていた。 「…そう。じゃあそうしよっか」 「やった♪」 嬉しそうな深緋の右頬には傷跡があり、露出の激しい服装をしている。女性にしては高い身長と豊満な体付きは人目を集めるものの、笑えばまだ幼さの残る顔をしている。 ――そしてこの世界でも大食いの恋と深緋は、屋台に出ている桜餡の団子を全て買い占めたのだった。 「せっかくの花見だ! 飲んで飲んで、愛でなきゃな! なあ、朝比奈!」 パッと見は凛々しい『青年』の鶫梓(ic0379)は上機嫌で酒の瓶に口を付けて飲みながら、相棒の朝比奈に声をかける。 「…梓様、少々飲みすぎなのでは?」 からくりである時と同じ姿の朝比奈は、呆れた表情で梓に声をかけた。 梓は途中で買ってきた日本酒を、まだ仲間と合流する前に飲み始めてしまったのだ。 「だって、朝比奈。桜がこんなに見事に咲き誇っているんだ。酒もすすむってもんさ」 「どういう理屈ですか。はあ…。まあでも、桜は確かに美しいですね」 朝比奈は桜を見上げ、微笑む。うっとりしている中、梓が「ぷはーっ!」と酒臭い息を声と共に吐いたことで再び現実に戻され、深いため息をついた。 ●男性から女性に、そして相棒は人間に 「ほう、これは見事な桜だ。花見がしたくなる気持ちも分かるな」 「誠にそうですな」 妙に艶のある『美女』の竜哉(ia8037)は、老執事の容姿をしているReinSchwertと共に桜道を歩いている。 「花見など大したことはないだろうと思っていたが、この桜は立派なものだ。民も笑顔で喜んでいるし、たまにはこういう場に来るのも良いものだな」 「そうですな。私も開拓者の皆様や相棒の方々とお会いするのが楽しみでございます」 ReinSchwertはニコニコと笑みを浮かべながら、竜哉の少し後ろを歩く。――時折、竜哉を邪な視線で見る男を見つけては、殺意がこもった眼差しを向ける為に。 そんなことには全く気付かない竜哉は、ただ満足そうに花見を楽しんでいる人々の姿を見つめていた。 その一方で、Kyrie(ib5916)と相棒のザジは別の意味で人々の視線を集めている。 ザジは二十代前半ぐらいの男性の姿で、細身の体に執事服を着ていた。身長は高く、タレ目で、波打つ赤髪、派手な顔のつくりがより一層目立っている。 「いや〜、晴れて良かったですね、Kyrieお嬢様。まさにお花見日和って感じです」 笑顔で明るく前を歩くKyrieに声をかけると、Kyrieは立ち止まってゆっくりと振り返った。 足首が隠れるほどの長く黒いゴシックドレスに身を包み、髪型は長くて真っ直ぐな黒髪になっているKyrieは、黒い日傘をさしている。一見、まるで洋風の人形のように見える『美女』だが、妖艶な雰囲気が人を寄せ付けない空気を出していた。 「そう…ですね。ですが春の日差しは強いですからね。気をつけなければ……」 憂いの表情で軽く息を吐くと、再び歩き出す。 ザジは背負った大きい荷物を背負い直しながら、空を見上げる。 「女性にとって、日差しは天敵か…。覚えておきます」 真面目な顔で頷くと、再び視線をKyrieの背に戻した。 長く真っ直ぐな黒髪に、中華服を着た長身の男性のレギは、隣を歩くラグナ・グラウシード(ib8459)の言動にハラハラしている。 「桜、キレイだな。今日は来て良かったな、なあうさみたん」 背中に背負ったうさぎのぬいぐるみに嬉しそうに声をかけるものだから、慌てて周囲を見ながら小声で注意をした。 「主、それはやめろ。見ている者が、引いている」 「何故だ? うさみたんは私の大事な友だ」 「『何故』と聞かれても…」 返答に困ったレギは、がっくり項垂れる。 幼い少女がうさぎのぬいぐるみを背負うのならば、可愛らしいと誰もが思う。 しかし成人しているんじゃないかと思うほど成長している『女性』がそういう行動をしているのを見ると、正直イタイ。 最早どーでもよくなってきたレギは、諦めてラグナと歩くのであった。 小柄で可愛らしい『少女』の啾啾(ib9105)は渋い色の着物を着ており、長身の女性の鬼哭の後ろを必死になって追いかけている。 「おい、啾! 早く来いよ! こっちの屋台から美味そうな匂いがするぜ! あれ、美味そうだ」 青い髪を後ろで一つに結び、丈の短い着物を着ている鬼哭は、先程から元気に屋台を回っては買い食いを繰り返していた。 「き、鬼哭…。ま、待って。食べてばかりじゃ、だ、ダメだよ」 「だって啾が桜餅を作って持って来ただろう? 差し入れはそれだけで充分だ」 「で、でも寄り道ばかりで、あんまり先に進んでない…」 「そっか。待ちくたびれているかもしれないしな。そんじゃあ、急ぐか!」 眼を回しつつある啾啾の手を握り、鬼哭は走り出す。 「ひ、ひぃ〜〜〜っ!」 啾啾の悲鳴が尾を引きながら、二人は去って行った。 「…ん? 何か悲鳴が響いているような…って、夜鈴! 屋台に行くんじゃありません! 皆さん、待っているんですから、お弁当を開けるまで我慢しなさい!」 徒紫野獅琅(ic0392)は相棒の夜鈴がフラフラと屋台に行こうとするのを、必死になって止めている。 「いつになったら獅琅の弁当、食べられるんだぜ? 僕はお腹が空いたぜ!」 「待ち合わせ場所に到着するまでの我慢ですよ。もうそんなに距離はありません。すでに公園内なんですから」 口ではそう言うものの、夜鈴を見る獅琅の眼はあたたかい。 夜鈴は小さな男の子の姿をしており、青墨色の髪に、橙色の眼をしている。 獅琅に首根っこを掴まれてジタバタする姿は、仲の良い『姉』と弟のように見えた。 「さっ、みんな待っていますし、急いで向かいましょう」 「う〜…。分かったんだぜ」 しょぼくれる夜鈴と手をつなぎながら、獅琅は苦笑を浮かべる。 「こんなに美しい桜が近くにあるというのに……。俺達には花より団子の方が、合っているんでしょうね」 「ふふっ、主様とお花見です〜。他の開拓者の方々や、相棒の皆様とお会いするのも楽しみです〜」 「まっ、たまには花見も悪くない」 イルザを相棒に持つシルヴィオ・ローレンツ(ic0394)は、『お嬢様』の姿になっていた。 イルザは腰まで真っ直ぐ伸びた銀色の髪に、西洋風のドレスを着ている。嬉しそうに、そして楽しそうにニコニコと笑顔で歩いていた。 「主様のお知り合いの方もいらっしゃるんですよね〜? 主様も楽しみでしょう〜?」 「ん〜…、そうだなぁ」 シルヴィオの頭の中に、梓と獅琅の顔が浮かぶ。するとシルヴィオの口元が笑みの形を作る。 「…まあ確かに、会いたいな」 「……主様、今の意味アリアリな笑みは何ですか〜?」 「さあ? それより急ぐぞ。のんびり歩きすぎた」 「あっ、待ってくださいよ〜!」 ●集まった仲間達と宴会 大きな桜の木の下でござを敷いて、宴会は始まった。 各々手作りの弁当や、屋台で買ってきた食べ物・飲み物を振る舞い、笑顔で食べたり飲んだりをしている。 一通り騒ぎ終えると、自由行動をすることになった。 ●開拓者と相棒 「みんな、お弁当喜んで食べていたね」 「うん。良かった良かった」 真夢紀としらさぎは手をつなぎながら、桜並木道をゆっくりと歩いている。道の両脇に植えられた桜は満開で、二人に桜の花びらが降り注ぐ。 「天気も良いし、のんびり歩くだけでも楽しいね。でもしらさぎ、他の人達と一緒にいなくて本当に良かった?」 自由行動をすることになった時、しらさぎの方から真夢紀と一緒に桜並木道を歩きたいと言い出した。 喜んで誘いに乗ったものの、参加者の中にはしらさぎと同じ相棒という立場の者がいる。たまには相棒同士で話をさせてあげるべきだったのではと、今更ながら真夢紀は思うのだ。 しかししらさぎは悔いのないという笑みを浮かべ、首を横に振る。 「今日は一日、マユキと一緒にいるつもりだもん。それが一番楽しい」 「…そっか。しらさぎが楽しいなら、良いよ。ずっと一緒にいよう」 「うん!」 しらさぎは見た目では真夢紀よりも年上の女の子に見えた。だがその心は、真夢紀よりも幼い。 彼女が真夢紀の相棒になったきっかけは、真夢紀がたまたま故郷に帰った時、道で行き倒れているしらさぎを発見したことがはじまりだった。 当時は今より幼かった真夢紀は家族を呼んで、しらさぎを家まで運んだ。そしてしばらくして眼を覚ましたしらさぎは、全ての記憶を失っていたのだ。 うっすらと誰かの面影だけが彼女の中に残ってはいたものの、『誰か』の名前も正体も分からない。 真夢紀は開拓者ギルドを頼ってみたものの、残念ながらしらさぎを探している人物は未だいない。 しばらく実家で暮らしていたが、彼女の記憶は戻らなかった。 真夢紀の姉が「名前もないのはかわいそうだ」と言い、『しらさぎ』と名付けた。 一緒に暮らしていた姉から、しらさぎの精神状態が自分よりも子供であることを聞かされた。 それでも彼女には、開拓者の相棒になる素質があった。 ならば開拓者である自分と共に行動していれば、しらさぎのことを知っている人物にいつか出会えるかもしれない――そう言って、しらさぎに相棒にならないかと誘ったのだ。 その後、相棒込みの依頼であれば、積極的に参加した。今回もそれが理由で、参加したとも言える。 (でも未だ進展は無し、か…) しらさぎが共にいない時でも真夢紀はあらゆる手段を使って、探ってはいた。しかしギルドからも、良い返答は返ってこない。 体と心、そして記憶がバラバラになったしらさぎは、今ではよく笑うようになっている。いつか全ての記憶を取り戻すか、彼女を探し求めている人物が現れた時、彼女は自分から離れてしまうかもしれない。 (その時は少し寂しいかもしれないけれど…。…でも今は、自分が彼女を護るんだ) ぎゅっとしらさぎの手を握る手に力を込め、真夢紀は明るい笑みを浮かべて話しかけた。 「しらさぎ、池に二人で乗れる船があるんだって。乗りに行こう!」 「ふう…。皆さん、私の作ったお菓子を喜んで食べてくれて、良かったです」 「ですねー。私の淹れた紅茶も好評で、良かったですよ」 Kyrieとザジは宴会をした場所から少し離れた場所に、住んでいる屋敷からザジが背負って持ってきた折りたたみ式のテーブルと椅子を置き、優雅にお茶をしている。 テーブルに置かれているのはザジが淹れた紅茶に、Kyrieが作って持ってきたお菓子。レーズン入りのスコーン、チョコチップ入りのスコーン、桜の花の砂糖漬けなど、甘い物好き達は喜んで食べていた。 向かい合わせに座る二人の上には、見事に咲き誇る桜がある。 不意に落ちてきた桜の花びらが、Kyrieが使っていたティーカップの中に入った。 「…ああ、こうして桜を味わうのもいいかもしれませんね」 Kyrieは桜の花の砂糖漬けを、紅茶の中に入れる。鮮やかな紅茶の中でピンク色の桜の花が浮かんでいるのを見ると、笑顔で紅茶を飲んでみた。 「美味しいです…。春ならではの飲み物ですね」 「さっすがお嬢様は考えることが雅びです。お嬢様の相棒として、誇りに思います」 「…そう言うなら、せめて視線は私に向いてくれませんか?」 ザジの言葉はKyrieに向いていたものの、視線は二人組の若い女の子の方に向いている。 そんな相棒の姿を見て、Kyrieは呆れた表情で、深いため息を吐いた。 「あなたの場合、『花より女の子』なんでしょうね」 「アハハ、すみません。ホラ、桜と女の子の組み合わせってステキでしょう? あっ、もちろんお嬢様以上に似合うコなんて…」 「もういいです。しばらくは黙って桜を見続けましょう。今日の主役なんですから」 ここには様々な種類の桜の木が植えられている。白い桜から濃いピンク色の桜まで、春風に乗ってやってくる春色の花びらを見つめ、Kyrieは優しい微笑みを浮かべた。 「うん、やっぱり花見には何かを買って食べると、いつも以上に美味く感じる。見上げる花も、よりいっそう美しく見えるな」 「そ、そうだね…」 自由行動になった途端、鬼哭は再び啾啾の小さな手を掴み、屋台が並ぶ場所まで走って来た。 鬼哭はイカ焼きを、啾啾は餡子の串団子を買って、草原に座って桜を見上げている。二人並んでいる姿は、仲の良い親子のように見えた。 「たまにはのんびりも良いな…と思っていたのに、やっぱり啾は啾だったな」 「な、何のこと?」 鬼哭がニヤリと笑うので、啾啾はサッと顔をそらす。 「とぼけんなよ。さっきの宴会で出した桜餅、唐辛子入りのをわざと混ぜただろう?」 パッと見は全てピンク色の桜餅だった為、仲間達は何の疑問もなく一人一つずつ手に持ち、食べた。 だが食べた瞬間、エルレーンとラグナが口から火をふいた。二人とも「「何で桜餅が辛いんだ〜!」」と叫びながら、ザジが淹れた紅茶に砂糖を大量に入れて飲んだのだ。 「啾は唐辛子がたくさん入った餅が好きだからな〜。それに実はかなりのイタズラっ子だ。あの時は『自分が食べる分を間違って配ってしまった』と言っていたが、本当はみんなに食わせて反応を見たかったんだろう?」 鬼哭はニヤニヤしながら、啾啾に身を寄せる。 「う、うっ…」 啾啾の顔色がどんどん悪くなっていく。 「まっ、当たったのがあの二人でよかったな。他の連中は冗談やミスは全く受け付けないだろうし? ある意味、命拾いしたかもな」 「ぐぅ…」 「そんじゃあ啾啾の奢りで、全ての屋台を回ろうか!」 「え、ええっ!?」 「口止め料、な」 「うう…。わ、分かったよ」 あの二人にバラされては、せっかく助かった命が無駄になる。 「よっしゃ! 食べるぜ、飲むぜ!」 ――こうして自業自得の啾啾は、財布の中身が冬になったのであった。 「はふはふっ…! あっちーけど、やっぱたこ焼きは美味いな!」 「だな」 たこ焼きを出している屋台の隣には、休憩場として椅子とテーブルのセットがいくつか置かれてある。 深緋と恋は向かい合わせに座り、購入した数十箱のたこ焼きを食べていた。 深緋は美味しそうに、恋は黙々と、恐るべき早さでたこ焼きを食べていく。その食べっぷりに、近くにいる人々は驚いて足を止めるほどだ。 しかしたこ焼きが最後の一つとなった時、二人の手が同時にピタッと止まる。 「…恋、異国では女性を優先させることが習慣であり、礼儀なんだそうだ。つまりボクに最後の一つを譲れ」 「断る。そもそも異国のことを言われても、ピンとこないし。戦場では男も女も関係ない」 「ふっ…! たこ焼き一つめぐって、戦と言うか。勝った方が褒美を貰えると言うことだな?」 「ああ、そういうことだ」 二人の間で眼に見えぬ火花が飛び散る。辺りにただならぬ空気が漂っていく。 「望むところだ! 恋、後で吠え面かいても知らねぇからな!」 「それはこっちのセリフだ!」 ガタっと同時に立ち上がった二人に、たこ焼きを焼いていた中年男性が慌てて声をかけた。 「お客様っー! もう一箱差し上げますので、ここでのケンカはお止めください!」 熱々のたこ焼きを差し出され、二人の殺意が音を立ててしぼむ。 そしてありがたく受け取り、二人は黙々と食べ始めた。 「ったく…。さっきの宴会では全く動いていないクセに、よく食べるな」 深緋は先程の宴会を思い出し、顔をしかめる。 深緋は仲間達に酒や食べ物を配っていたのだが、恋は我関せずといった顔でパクパク食べ、グビグビ飲んでいたのだ。 全く気を使わない恋に代わって、深緋は動き回っていたので余計に腹が減った。 「ちっ…。やってらんねーぜ」 ブツブツ言いながらも、たこ焼きを完食する。 その後も屋台のいろんな食べ物を食べて回っていたのだが、恋がチョコバナナを食べている間に、深緋は甘酒を買って飲んだ。 「…アレ? 何かフラフラする…」 あたたかい甘酒は思ったよりも酒が入っていたらしく、フラフラと歩いて恋にぶつかる。 「深緋、何か顔が赤いぞ? 何を飲んだ?」 「あまらけ〜」 すでに舌っ足らずの深緋の手には、カラの木の器があった。落ちそうになる器を恋は掴み、甘酒屋に返す。その頃には深緋の眼はトローンとしていた。 「まったく…。ホラ、背に乗れ」 「うん…」 恋の背中に乗ると、すぐに深緋は眼を閉じて寝息をたて始める。 「ヤレヤレ。主におぶってもらうとは、しょうもない相棒だ。酒は元々弱かったはずなのにな」 恋もそうだが、深緋も大食らいではあるけれど、酒には弱い。それでも飲んだのは浮かれていたせいだろう。 恋は苦笑しながら、家への帰り道を歩き出した。 ●微妙な関係? 「う〜ん…。すっかりたつにーを見失ってしまったぜ」 「そりゃあおぬし、花見の席でアレほど嫌がらせをすれば、誰だって逃げるであろう」 ヘスティアは公園の中で竜哉の姿を探していたが、一緒に歩くネメシスはうんざりした表情を浮かべている。 ヘスティアは恥ずかしがるネメシスを抱きかかえて花見会場に来たのだが、竜哉を見かけた途端、ネメシスを竜哉に向かって放り投げた。 「たつにーん! 受け取ってー!」 「ぎゃあああっ! このたわけがーっ!」 「はっ? うわわっ!?」 騎士である竜哉は、飛んで来たネメシスを上手く抱きとめることができた。しかし続いて、駆けてきたヘスティアがネメシス越しに竜哉に抱きついたのだ。 「たつにー! 相変わらず超美人! …うん、やっぱり『たつにー』って呼ぶよりは、お姫さんって呼んだ方が合うな。お姫さん、キレイ! 今すぐ結婚して!」 間にはさまれているネメシスは「何をするのじゃー! ヘスの馬鹿者!」と必死に叫ぶも、ヘスティアには届かず。 見兼ねたReinSchwertがジョーカーナイフを取り出し、優しくにっこり微笑みながらヘスティアの首に当てた。 「ヘスティア様、竜哉様とお会いできて感激しているのは分かりますが、やり過ぎでございます」 「はい、すみません」 命の危機を感じたヘスティアは、青い顔色で両手を上げる。 その隙にネメシスは竜哉から離れ、竜哉はヘスティアから離れた。 「この俗人がっ!」 「うごふっ!」 顔を真っ赤に染めた竜哉に、鉄拳制裁を与えられたことは言うまでもなく。 その後、顔に赤・黄・青のアザを作ったヘスティアはそれでも持ってきた古酒と、屋台で買ってきた食べ物をつまみにして、しばらくは大人しくしていた。 だが隙あらば竜哉にちょっかいをかけた為に、自由行動となった時には竜哉とReinSchwertはさっさと消えてしまったのだ。 「むむっ! あの後ろ姿はお姫さんだ! 見ぃつけた!」 獲物を目にし、竜哉は狩りの体勢に入る。そして息を潜め、一気に飛びつこうとした。 しかし気配に気付いた竜哉が振り返った時、その手には縄があった。 「せいやぁっ!」 ――そしてヘスティアの体を、縄で縛り上げる。 「うっぷっ!?」 グルグル巻きにされたヘスティアは、顔面から地面に着地した。 「ふう…。ReinSchwertが縄を売っている屋台を見つけてくれて、良かった」 「お役に立てて光栄でございます」 「…素晴らしい主従関係じゃ」 その光景を見ていたネメシスは、顔を引きつらせながらも感心する。 竜哉はヘスティアを踏みつけて歩いて行ってしまう。 ネメシスはヘスティアから助けを求められ、渋々縄を解いてあげた。 ボロボロになったヘスティアは、それでも竜哉の後を追う。 「なっなあ、お姫さん。一緒に公園の中、巡ろうよ。もうイタズラしないからさ」 必死になって頼んでくる姿を見て、竜哉は深く息を吐いた後、手を差し出した。 「これ以上、騒がれると面倒だからな。手をつなぐぐらいは許してやる」 「あっありがと…。でもお姫さん、人前でこういうことするの、イヤだと思ってた」 そう言いながらも、しっかり竜哉の手を握る。 「…別にイヤなわけじゃない。ただ人が大勢いる場所で、あからさまなセクハラはやめろと言いたい」 「ふぅん…。ならさ、二人っきりの時ならいいの? それならお姫さんを家にお持ち帰りしたいなぁ」 ぴきっと竜哉のこめかみに青筋が浮かぶ。そしてつないでいない方の手を握り締め、ヘスティアに向かって振り上げた。 「この助平がっ!」 「がはっ!」 桜の花びらが舞い散る中、ヘスティアの血もまた舞い上がる。 「…コレもまた、春にしか見られぬ光景よのぉ」 「ほっほっほっ。仲良きことは美しきかな、ですな」 相棒達が開拓者を見る眼の温度差が、そこにはあった。 ●おかしな関係? 「もふもふ、あそこから屋台船に乗れるみたいだよ〜。一緒に乗ろ…あっ」 「レギ、あの船が屋形船なんだろう? 面白そうだから、乗って…はっ!」 土手にてエルレーンとラグナは互いに相棒を連れて、はち合わせした。 「むむっ! 宿敵、エルレーンを発見! ここで会ったが百年目! 覚悟ぉ!」 鋭い眼付きでラグナはエルレーンに飛びかかったが、冷静なエルレーンはヒョイっと避ける。 「ぶぶっ!? なっ何故だ! 何故、私が勝てない!」 派手な音を立てて地面にぶつかったラグナだが、顔を草と泥だらけにしてすぐに起き上がった。 「ふふ〜ん。弱ーいラグナが、私に勝てるわけないじゃん! そんな大きな胸をしているから、動きが鈍いんだよ!」 エルレーンの眼に怪しい光が宿ったのを見て、身の危険を感じたラグナは後ろに下がる。 「やっやめろ…! 来るなぁ!」 「もう遅い! とりゃあ!」 「もふもふキィーック!」 「うぎゃんっ!?」 ラグナに襲いかかろうとしたエルレーンの後頭部に、もふもふの見事な飛び蹴りが当たった。 「やめるもふ、この外道。いくらアホなコとは言え、相手は女の子もふ」 冷静に言い放つと、地面に倒れているエルレーンの襟首を掴んで歩き出す。 「もっもふもふ、苦しい〜!」 「うるさいもふ! セクハラ開拓者!」 こうしてエルレーンともふもふは、土手を登って行ってしまった。 呆然としているラグナに、レギはそっと声をかける。 「…そろそろ屋台船に行くか」 「あっ、そうだな。船に乗りながら桜を見るなんて、今しかできないしな!」 我に返ったラグナはうさみたんを背負い直し、ウキウキしながら乗船場に向かう。 そんなラグナの後ろ姿を見ながら、レギは深いため息を吐いた。 「春はいろんなモノが活性化するんだな…」 ●三角関係? 「主様〜、この公園って本当にいろんな桜が咲いていますね〜。芝桜も綺麗です〜」 イルザは芝桜が植えられている場所に、シルヴィオと共に来ていた。淡桃、赤、薄紫、白と、色とりどりの芝桜が見渡す限り続いている光景は、まるで芝桜の絨毯のようだ。 「確かにこういう桜も良いものだがな。しかしただ花を見ているのも、退屈なものだな」 「それでは人力車に乗りに行きましょうか〜。確かこの近くに、乗り場があったはずです〜」 イルザがキョロキョロと周囲を見回すので、シルヴィオも同じように人力車を探す。しかし別の存在を見つけ、シルヴィオの視線が止まる。 「…おや、あそこに座っているのは鶫ではないか」 「あら〜、本当ですね〜。人目をはばからず、朝比奈さんを愛でています〜」 イルザの言う通り、梓は朝比奈を後ろから抱き締めて座り、上機嫌の笑顔で頬ずりをしていた。 「朝比奈、可愛いな〜。ほんと、可愛いな〜。こんな可愛い朝比奈を相棒に持てるなんて、俺は何て幸せなんだ」 「なっ何を人前で言っているんですか! もう、いい加減にしてください!」 梓の腕の中で、朝比奈は顔を真っ赤にしてジタバタと暴れている。 「どれ、いっちょからかってくるか」 ニヤっと笑うとシルヴィオは忍び寄り、梓が近くに置いていた日本酒の瓶を手に持ち、そのまま飲んでしまう。 「あれ、俺のお酒…って、シルヴィオ。その手に持っているのは…」 「うん、美味い酒だな。なかなか良い銘柄じゃないか」 「まあ! 主様、いけませんよ〜! 鶫さんに怒られますよ〜!」 イルザがシルヴィオの行動を見咎め、慌てて駆け寄って来た。 「ふふっ、別に良いよ。酒も美女に飲まれた方が嬉しいだろうし。でも酒代は払ってもらおうかな?」 梓の目線が怪しくなったことに気付いたシルヴィオだが、こちらへ向かってくる人物を顎でさす。 「あなたが愛でるのは、あちらの方が良いんじゃないか?」 「あっ、獅琅!」 獅琅と夜鈴が屋台で購入した食べ物を持って、仲良く手をつなぎながらやって来た。 しかし梓がいきなり立ち上がり、獅琅に抱きついたものだから、夜鈴の血相が変わる。 「何いきなり梓に抱き着いてんだぜ? この好き者!」 「今は獅琅に夢中なんだ。俺の愛の力、見せてやるぜ!」 こうして梓は右手を、夜鈴は左手を握り、獅琅をそれぞれ自分の方向に引っ張り始めた。 「う〜ん。男のコに取り合いをされるなんて、何だか乙女の夢って感じだなぁ」 「…意外と余裕があるんですね、獅琅様」 止めに入ろうかと思っていた朝比奈だが、獅琅のノホホーンとした反応で考え直す。 「徒紫野、あなたも鶫の酒を飲むかい? 遠慮はいらないよ。せっかくの花見酒、楽しんで飲むべきだ」 「はっ!? シルヴィオさん!」 いきなり獅琅が体ごとシルヴィオの方を向いたので、梓と夜鈴は吹っ飛ばされた。 「ああっ…! シルヴィオお姉さまの銀の髪に、桜の花びらが……本当にキレイ…。…はっ! いっいけない…」 熱い眼差しをシルヴィオに向けていたものの、恥ずかしそうに視線をそらす。 そんな獅琅の足元では、吹っ飛ばされた梓と夜鈴が痛む体を手で押さえながら上体を起こした。 「主様、いい加減にしてくださいませ〜!」 「あだっ!」 イルザはとうとう耐え兼ねて、シルヴィオの後頭部を拳で殴る。 「若い女性が酒瓶をあおる姿なんて、人の目に映していいものではありません〜! さっ、行きますよ〜」 「イタタタっ! イルザ、腕を引っ張らないでくれ」 イルザに腕を掴まれ、シルヴィオは行ってしまった。 酒瓶はすでに中身が空になっているらしく、地面に落ちても中身がこぼれない。 朝比奈は二人を見送った後ため息をつき、自分の主の元へ歩いて行く。 こうしてIFの世界で行われたお花見は終了した。 この世界でも開拓者はやっぱり開拓者であったとさ。 <終わり> |