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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ●男性は危険? 「あっ、野衣ちゃん。連れてきたよ」 「待っていたわ、偲那。えっと、里美(さとみ)さんですよね? はじめまして、野衣と申します。ここ、神楽の都の開拓者ギルドで受付職員をしています」 「あっ…どうも」 野衣は幼馴染で、ジルベリア帝国の貴族の屋敷でメイドとして働いている偲那から、友人が開拓者ギルドに依頼をしたがっていると相談を受け、今日来てもらった。 「実はわたしが女中として働いているお屋敷の主人が最近、怪しげな骨董売りから妙な品物を購入したのです」 その骨董売りは泰国風の服を着ており、頭には布を巻いて顔を隠していた。身長の高さや声から男性ということまでしか分からない、不審人物だ。 「ですが話術が上手く、主人はすっかり信用してしまいました。ですが売りつけられた品物は、偽物や粗悪品とかではありません。まぎれもなく『本物』だったからこそ、困っているのです」 里美の言葉を聞いて、野衣は首を傾げる。 「『本物』で困る…と言うと、呪われている品物とかですか?」 一部の金持ちは変わった骨董品を好む者がおり、後で大変なことになってギルドを頼ることがままある。 しかし里美は項垂れ、深くため息を吐く。 「…ある意味、似ているかもしれません」 売りつけられた品物は二点。一つは宝珠が埋め込まれた陶磁器の香炉、もう一つは宝珠を使った装身具(アクセサリー)。 高値で購入した主人は、早速その二点を使い始めたのだが…。 「実はその二品は宝珠によって、不思議な力を発揮する道具だったのです。香炉でお香を焚き、その香りを嗅いだ者は、装身具を身につけた人物…つまり主人にメロメロになってしまうんです!」 野衣と偲那は互いに顔を見合わせ、複雑な表情を浮かべた。 「それはまた、何と言いましょうか……」 「ちなみに焚いているお香は普通のもの?」 「ええ、そうよ。偲那ちゃん。香炉の中で焚くお香の種類は何だっていいの。問題は香炉と装身具なのよね」 野衣は顔をしかめながら、考えてみる。恐らく香炉と装身具に使われている宝珠は元々同じ物だったのを、二つに分けたのだろう。そして何らかの術をかけられ、そういう呪いみたいな力が発動したとしか考えられない。 「でもイヤなご主人様よね! 女の子のハーレムでも作ろうってことかしら?」 偲那がプンプン怒っている姿を見て、しかし里美はふと真顔になった。 「――ああ、違うの。ウチのご主人様は、女主人だから」 「「…えっ?」」 野衣と偲那の声がキレイに重なり、二人同時に目が点になる。 「言ってなかったわね。ウチの女主人はこの神楽の都を拠点に、貿易関係のお仕事をしている人なの。仕事はとても厳しいけれど真面目で、好評な人なんだけどね…」 男勝りにバリバリ働いてきたせいで、四十を過ぎても独身だった。そろそろ結婚をしなければと焦っていたものの、すでに彼女は……。 「その…ご容姿の方が、ね」 言いづらそうに里美は説明をする。 何でも仕事関係で他所の国の美味しい料理をたらふく食べてきたせいで、まるで雌牛が二足で立っているような姿になってしまったらしい。着ている服がはちきれんばかりに太り、身長もそんじょそこらの男より高い。しかも顔には厚塗りの化粧をしており、あまり男性が惹かれないタイプになってしまったのだ。 「それでせめて使用人だけは、と思ったんでしょうね…。自分が気に入った男性を側に置いて、女性達はあまり近付けさせないの。まあお仕事がお忙しい方だから、あまり屋敷にはいないんだけど…」 それでも男性を魅了する道具を手に入れたせいで、今では屋敷の中に閉じこもりっぱなしになっている。 どうやらお香の香りが届く範囲は屋敷の建物の中だけらしく、一歩でも外に出れば男性達は正気に戻るらしい。 「でも問題はご主人様のことより、魅了されてしまった男性使用人達のことよ。ウチの職場、基本的に同僚同士では恋愛禁止なんだけど、中には秘密で付き合っている人達もいるの。でもご主人様のせいで、破局になっている人達がいるらしくて……職場の空気がとても悪くなっているのよ」 想像しやすい修羅場を思い浮かべ、二人の顔色は悪くなった。 「道具の力を借りて、人の心を操るなんて許されないことだわ。だからお願いします。開拓者の方達に、香炉と装身具を破壊してほしいんです!」 「…確かに下手すれば捕まる行為ですね。香炉はまあ香りをたどれば置かれている場所は分かるでしょうが、装身具は何ですか?」 野衣の問いかけに、里美は言葉につまる。そしてガックリ肩を下ろす。 「実は…分からないのです。どうやら骨董売りの助言で、例の二品を購入した後、宝珠に似た宝石を使った装身具をいくつか購入して、いつも身に付けるようになったのです。一般人であるわたし達、使用人には見分けがつかなくて…」 装身具と一言で言っても、首飾りや耳飾り、腕輪に指輪など様々な種類がある。近付けば宝珠の力の気配を感じることができるだろうが、問題がいくつかあった。 「でもその女主人は男性は側に置いても、女性は遠ざけているんですよね? 香炉は女性開拓者に任せて、装身具は男性に…と言ってもメロメロになってしまうんじゃ難しいですね」 「けど野衣ちゃん。お香の匂いを嗅ぐとダメなら、鼻を塞いでたら大丈夫じゃない?」 偲那の意見に、野衣の顔が一瞬険しく歪む。 「…鼻を塞いだ男性を、女主人が側に置くとは考えられないんだけど?」 「あっ、そっか」 「それにお香の香りだけではなく、宝珠やそれにかけられた術の力もあるからね。女主人に近付けば近付くほどメロメロになってしまうんでしょうけど、開拓者は精神的に鍛えている人もいるからね。とりあえず男性達に装具品を任せてみましょう。…でも女主人に夢中になるあまり、女性開拓者に攻撃しなきゃいいけどね」 |
■参加者一覧
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
祀木 愁(ic0346)
16歳・男・志
ナザム・ティークリー(ic0378)
12歳・男・砂
ジャミール・ライル(ic0451)
24歳・男・ジ |
■リプレイ本文 ●まずは香炉を破壊 里美の手引きで、リィムナ・ピサレット(ib5201)は裏口から屋敷の中に入った。 「今回の依頼、女性開拓者はあたしだけで、香炉の破壊はあたししかやれる人がいないからね。頑張らないと! 責任重大だね! …でもお屋敷の中、本当に香りがヒドイね」 「香炉はご主人様が雇った用心棒達に、絶えず焚かせているのです。女性には無害ですけど、匂いだけはちょっと…」 里美も顔をしかめながら、リィムナに女中の衣装を着せる。 「他の使用人達には開拓者の皆様のことは伝えてありますが、用心棒達は敵だと思ってください。香炉がある部屋に五人の刀を使う男性達がいますので、くれぐれもお気を付けて」 「分かったよ。でもその用心棒って、一般人? 開拓者とかじゃない?」 「それはないと思います。ご主人様は宝珠を使っている道具を使っているので、開拓者のことには少々神経質になっていますので…」 下手をすればギルドに訴えられることを少しでも避ける為に、気を使ったらしい。 「まっ、それなら逆にやりやすいから良いね。それじゃあ香炉を破壊に行って来るね!」 頭に三角巾を付けて、リィムナは元気よく廊下に出た。 「男性は装身具の近くにいる時間が長いほどメロメロになっちゃうらしいし、仲間にうっかり攻撃されない為にも早く香炉を破壊しなきゃね!」 ――もっとも攻撃してきたら反撃は必ずしよう、と心に決め、リィムナは香りや白い煙の流れを見ながら香炉の場所をたどる。 「でっでもこのお屋敷、広いなー…」 ぜぇぜぇと息を切らしながら、リィムナは屋敷奥にある部屋の前まで来た。ここから煙が出てきているのを確認し、ふすまを開ける。 「何奴だっ!」 「ここには主人の許可がなくては入れないのだぞ!」 「間違えて来たのなら、早く戻るといい」 「お前のような者が来ていい所ではないのだからな」 「とっとと去れ!」 中にいる武士風の五人の男性達が、リィムナに次々と声をかけた。 しかしリィムナの視線は、部屋の中心に置かれた香炉に向いている。陶磁器の香炉には、大きな宝珠が埋め込まれていた。 「…うん、ここで間違いないみたい。でもオジサン達には用はないから、眠っててね」 にっこり微笑むと夜の子守唄を奏で、男性達を眠らせようとする。 「くっ…! 妙な術を使いおって…!」 しかし一人の男性がリィムナに向かって来たものの、眠気に勝てずにバターンっと畳の上で倒れてしまう。 「術じゃなくて、スキルなんだけどね。とりあえず、オジサン達は荒縄で縛っておこうっと」 リィムナは隠し持ってきた荒縄で五人の男性を縛り、次に殲刀・秋水清光を取り出し、鞘から刀身を引き抜いた。 「宝珠を使った物には、宝珠を使った武器でね。せいやああっ!」 そして香炉を真っ二つに切り裂く。中に入っているお香には水をかけて火を消し、リィムナはその場を後にする。 「さて、次は装身具の破壊だ! 忙しい忙しい!」 ●仲間達の見てはいけない姿 里美がいる部屋に戻って来たリィムナは、女主人がいる部屋に案内してもらうことになっていた。 ――そしてリィムナが女主人のいる部屋に行くまでの数刻前。 開拓者の男性五人は、表入口から屋敷の中に入った。名目は新たな使用人として、男性使用人に女主人の部屋まで導かれていた。 「とりあえず、女性が好きそうなまるごととらさんを着てきましたが……僕、気に入られるでしょうか?」 相川・勝一(ia0675)は不安げにきぐるみを着た自分自身を見て、ため息をつく。 「私は色打掛の吉祥鳳凰を着てきました。派手で目立つかと思って…」 勝一の隣を歩くのは、日依朶美織(ib8043)。彼もまた、緊張した面持ちで歩いていた。 そんな二人の後ろを歩き、会話を聞いていた祀木愁(ic0346)はふと何かを考えるように顎に手を当てる。 「…ふむ。女性の好みに合わせるようにするのも、作戦の一つか。依頼をきっちり全うする為に、必要なことだな」 「う〜…。でもこの匂いはたまんねーな。何かモヤモヤしてくるぜ」 ナザム・ティークリー(ic0378)はお香の匂いに顔をしかめていた。 「けど! 砂迅騎の男の誇りにかけて、やってやんよ!」 「アハハ。ナザムちゃん、張り切っているねー」 ジャミール・ライル(ic0451)は気合を入れるナザムを見て、軽く笑う。 「まっ、俺もお金を持っている女は嫌いじゃないしね。ヤル気を出そうっと」 「きみのヤル気の源は、ボク達と違っていないか?」 愁の冷たい視線と言葉を向けられても、ジャミールは軽快に笑うだけだった。 そして女主人の部屋まで来てふすまを開けられた途端、五人は異様な気配と存在感を感じる。 「おや、新入りかえ?」 野太い女性の声を出す者こそが、この屋敷の主人であった。豪華で立派な椅子に座り、煙管を吸いながら周囲にはうつろな表情の男性達をはべらかせている。里美が説明した通りの人物であり、五人は一目見て一瞬「うっ…!」と唸り声を上げたものの、どんどんその表情がゆるんできた。 「可愛いコ達だ。さあ、近くにおいで」 「リィムナさん、この部屋になります」 「里美さん、案内ありがとう。ここまでくればあたし達だけでも大丈夫だから、この部屋から離れてて。戦闘になると危ないし」 「はい。よろしくお願いします」 香炉を破壊したおかげで、大分匂いは薄くなってきた。屋敷の使用人達に頼んで戸や窓を開けてもらっているし、男性達が正気に戻るのも時間の問題だろう。 「でも装身具の方もきっちり破壊しておかなきゃね。さて、男性達の様子はどうかなっと…」 リィムナはふすまをほんの少しだけ開けて、中の様子を窺った。 「そなた、随分と可愛い顔をしておるのぉ」 「ありがとうございます、ご主人様」 勝一は顔をほんのり赤く染め、うっとりした眼で自分の頭を撫でる女主人を見上げている。 (ううっ…! 頭の中は冷静を保てても、体が言うことを聞きません〜! でっでもとりあえず、首飾りを調べてみましょう) 顔では笑みを、心の中では涙を流しながらも、勝一は女主人の首飾りに熱い眼差しを向けた。 「ご主人様の首飾り、とても素晴らしいお品ですね。でもご主人様なら、何も付けていなくても美しいと思います」 「おや、この首飾りに興味があるのかえ? …ふむ。ならそのきぐるみを脱いでくれるのなら、貸してやらんこともないぞ?」 (えっ!?) 「ご主人様の言う通りにします」 (僕の体のバカーっ!) 心では嫌がっていても、体は動き、きぐるみを脱いでしまう。白褌姿になった勝一を頭のてっぺんから足の先まで見た女主人は、「ぷぷっ…」と吹き出しながらも首飾りを外し、勝一の首にかける。 「あっありがとうございます…」 (でも吹き出したのは何でですかぁ!) しかし触って見ても、宝珠特有の力と気配を感じない。ハズレであることを悟った勝一は仲間達に視線を向けた。 美織が頷き、密かに夜春を発動させる。そして一歩前に出て、女主人の前に跪く。 「美しいご主人様、美織にお手を触れさせてはくださいませんか?」 「うむ、良いだろう」 女主人が差し出した手を恭しく両手で包み、優しく撫でるフリをしながら宝珠かどうかを確かめる。 (前もって聞いていたとおり、この女主人の近くに来れば来るほど夢中になってしまいますね。…でもこの指輪はハズレのようです) 内心ガックリ項垂れながらも、愛おしそうに指輪を撫でた。 「この指輪が気に入ったかえ? お前もその重たい衣装を脱げば、貸してやらんこともないぞ?」 「仰せのままに」 にっこり笑顔で色打掛を脱ぎ、美織はマイ・フェア姿になる。 「ほお…。随分と色が白い。女性用の下着を身に付けているのは少々気に食わんが、まあ似合っているぞ」 「ありがとうございます!」 (ひーんっ! 大事な人に見せる前だったのにですぅ!) 心の中で大号泣しながらも、体では嬉しそうに女主人から指輪を受け取る美織だった。 「ああ、ご主人、髪型が少々崩れています。今、お直ししましょう」 「そうかえ?」 愁は自然な動作で女主人に近付き、髪型を直すフリをしながら簪を調べる。 (…残念ながら、簪もハズレだな。しかし宝珠によく似た宝石を使っている。ここまで近くに寄らなければ分からないなんて、腕の良い職人を知っているんだな) 「どうした?」 「あっ、いえ…。どうも簪が少し歪んでいるようでして、ご主人がよければボクが直しますが…」 「そうだったか。すぐに直りそうか?」 「この程度ならば、短時間で」 「では頼むとしよう」 女主人の許しを得て、愁は簪を髪から外すことに成功した。 仲間達の姿を見てきたナザムは、ブルっと身を震わせる。 (ううっ…! あんなブサイクなオバサンに、媚を売るなんて男としての誇りがっ…!) 「おや、そこにいるのは獣人かえ? どれ、側に来てみよ」 「はい、喜んで! 美しいご主人様!」 しかし呼ばれれば体は素直に反応してしまう。 (俺ってヤツはーっ! …ハッ! しかし宝珠を使った装身具がどれか、調べなくちゃいけなかったんだ。俺は腕輪担当だったな) 「いい耳を持っておるなぁ」 女主人は面白そうに、ナザムの頭に生えている耳を触る。しかしその手には目的の腕輪があった。 「やっやめてくださいよー」 恥ずかしそうに女主人の腕を掴みながらも、ナザムは腕輪を調べる。 (…ちっ。ハズレだ。何の力も気配も感じねぇ。使っている石はタダの宝石だな。まっ、高そうではあるけど) 思わずじぃ〜っと腕輪を見つめてしまったナザム。しかしその姿はまるで、上目遣いで何かを期待しているように見えてしまった。 「おや、何を期待しているんだい?」 「えっ? うわわっ!」 気付けば女主人の手がナザムの尻を揉み、顔は間近に迫っている。 (何考えているんだよっ! このオバサンっ!) 「どこを触っているんですか! ちょっ、顔が近いです! やっやめてぇーーーっ!」 ナザムの絶叫を聞きながら、ジャミールは腕を組む。 (…となれば、俺がこれから調べるあの耳飾りがアタリってワケか) 少し離れた場所にいたジャミールは、獲物を見つけてペロッと唇を舐める。 女主人の左耳には、豪華ながらも繊細な細工の耳飾りがあった。 (さて、と…。リィムナちゃんが到着したようだし、とっととあの耳飾りをいただきますか) チラっとふすまの方に視線を向ければ、呆れ顔のリィムナの姿があった。女主人に見つからないように、わざと大きく目立つ動作で前に出る。 「ご主人様、実は俺、使用人として今日からここで働かせてもらうことになったんですけど、本当は踊り子もやっているんですよー。今のご時世、踊りだけじゃなかなかやっていけないんですよねー。だから兼業をしているワケなんですけど…」 人懐っこい笑みを浮かべながらも、相手に警戒されないように近付いて行く。 「ほう…。上手く踊れるようであれば、給金を上乗せしてもよいぞ?」 「マジで? やったね♪」 ジャミールは嬉しそうにクルクル回りながら、女主人の間近に迫った。そして耳元に口を寄せ、囁くように声をかける。 「ねぇ、この耳飾りって大事な物? 俺があんたの物になったって証拠、何か欲しいなぁ」 頬に触れながらも、じっと耳飾りを見つめた。そこから漂う力とただならぬ気配に、ジャミールの眼が真剣になる。 「わっ悪いがコレは気に入っておるでのぉ。他の物ならばあげられるが…」 女主人の態度が、明らかに変わった。眼が泳ぎ、ジャミールから離れようと身を引く。 (正直な人だ。嫌いじゃなんだけどね) クスッと笑った後、今度は明るい表情を浮かべる。 「ならこれから踊るから、その間だけ貸してくれない? すぐに返すからさ」 「踊っている間だけなら、な。……そら」 「ありがと」 上機嫌でジャミールは耳飾りを受け取り、自分の耳につけた。 「どう? 似合う?」 「ああ。さあ、お前の踊りを見せておくれ」 「はいよ」 その場で軽快に踊りながらも、リィムナが控えているふすまに近付く。 ――が、リィムナは一歩後ろに下がっていた。 「……ここで出て行くと、仲間達のプライドが……。いや、でも装身具を破壊できるのはあたしだけ。ここは男のプライドよりも、依頼達成を大事にしよう。うん!」 決意も新たに、再び刀を抜くとふすまを開き、中に入る。 そして踊っていたジャミールは耳飾りを外し、リィムナに向かって投げた。 「リィムナちゃん、よろしく!」 「了解っ! うおりゃあっ!」 飛んで来た耳飾りを、宝珠ごと真っ二つに切り裂く。 音を立てて床に落ちた耳飾りを見て、血相を変えた女主人が椅子から立ち上がる。 「この小娘っ! 何てことをするんだっ!」 「へんっ! こんな道具を使わないとモテないオバサンに、何言われても痛くも痒くもないよーっだ!」 アッカンべーをして見せたリィムナ。 女主人はワナワナ震えながら、リィムナを指さす。 「お前達、あの小娘を痛めつけてやれ!」 「ふんっ! かかってこい!」 リィムナは未だ操られている男性使用人達を、峰打ちで倒していく。 ――が、ちゃっかり愁とジャミールは精神的にも肉体的にもダメージを受けたナザムを引き連れ、部屋の奥に避難した。 そして男性使用人達を全て倒した後、勝一と美織がリィムナの前に立ちふさがる。 「ご主人様に危害を加える人は許しません! ご主人様は僕達が守ります!」 「ここであなたを倒します!」 (二人とも、いつまで操られているの! あの三人はとっくに離脱しちゃったのに!) (だって体が言うこと聞きませんー!) (リィムナさん、止めてくださーい!) 目線で会話をしながらも、三人は戦闘を始めてしまう。 美織は奔刃術を発動させ、走りつつ戦闘ができるようにした。そしてリィムナと距離を取りつつ苦無・烏を手にし、散打にて攻撃を放つ。 「うわっとっと…!」 降り注ぐ苦無を刀で何とか防ぐリィムナの背後に、勝一が回った。 「あなたの弱点は存じています」 「しまった…!」 気付くのが遅く、リィムナは勝一に尻をパパーンっと音よく叩かれてしまう。 「あんぎゃーっ! …くぅ、お姉ちゃんに植え付けられたトラウマを刺激するなんて……もう怒った! アンタ達、いい加減にしろぉーっ!」 ――そして部屋の中で、リィムナの夜の子守唄が響き渡る。 ●無事に依頼終了? 部屋の隅にいた為、愁、ナザム、ジャミールは無事であった。なので眠った勝一と美織、そしてトラウマをつかれて倒れてしまったリィムナを背負い、里美の案内で屋敷の外に無事脱出することができたのだった。 しかし怒り狂ったリィムナは眼を覚ました勝一と美織にがっちり説教をし、ナザムはしばらく女性がトラウマとなった。愁はいつも通りであったが、何故かジャミールは踊り子として女主人の屋敷をたびたび訪れたのだった。 <終わり> |