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■オープニング本文 陰殻王国の開拓者ギルドには、輸出と輸入を仕事にしている商人の男性が、険しい顔でギルド職員と向かい合っていた。 「…では、年末・年始で多く取引をしているところを、山賊に眼を付けられ、荷物を奪われていると言うのですね?」 「はい…荷物を盗まれるだけで、幸いにもケガ人が出ていないのですが」 そうは言うものの、やはり荷物を奪われているのは悔しいのだろう。表情が苦渋に歪んでいる。 「しかもその盗み方が、どうやらシノビ崩れの者達の仕業らしいのです」 商人の言葉を聞き、ギルド職員の手がピクッと動く。 最近、開拓者ギルドではその手の者達が問題を起こすことが多かった。 元はシノビだったが、今ではその技術を持って山賊に落ちぶれてしまった者達のことを、『シノビ崩れ』と呼んでいた。 陰殻王国は決して裕福な国ではない。貧しさから闇へ堕ちる者も、少なくはなかった。 「荷物を運ぶ道はそう多くありません。特に山の中であれば、元はシノビであった者達ならば目星もつけやすいでしょう」 商人は数少ない道をいろいろと変え、運ぶ時間も変えているものの、必ずと言って良いほど襲われてしまうのだと言う。 「盗みのやり方からシノビ崩れと判断したのですが……陰殻王国の者としては、この内部の恥を、外に出すわけにもいかないと思ったのです」 「確かにそうですね」 ギルド職員も力強く頷く。 今はまだ陰殻王国内でしか起こっていない問題だが、やがて外から来た者達をも襲わないとも限らない。 そうなれば陰殻王国の評判は一気に下降するだろう。 「なのでお願いします。奴等を捕らえ、荷物を取り返せる開拓者達を集めてください」 「―了解しました。すぐに招集をかけましょう」 |
■参加者一覧
空(ia1704)
33歳・男・砂
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●偽装班の動き 運び屋に扮した珠々(ia5322)、以心伝助(ia9077)、ルンルン・パムポップン(ib0234)は、依頼人の商人の店の前で、荷車に荷物を運び積んでいた。 「荷物を積み上げるのまで手伝ってもらい、すみません。では中で手続きの方をお願いします」 荷車は店の者に見張りをさせ、商人と三人は店内に入る。 「しかし旦那さん、あっしらみたいな運び屋まで雇うとは、随分と仕事が忙しいんすね」 伝助が人懐っこい笑顔で話かけながら、書類に文字を書いていく。 「年末・年始ですからね。嬉しい悲鳴ですよ」 「でも旦那さん。ここら辺では最近、山賊が出るって聞いたんですけど……。どの辺りで襲われているんですか? 私、怖くて…」 ルンルンが不安そうな表情で言うと、商人は安心させるように力強く頷いた。 「あなた達にこれから行ってもらう道は、まだ誰も通っていない道ですから大丈夫ですよ」 「そうですか。それを聞いて安心しました」 珠々は淡々と答えたが、商人の言葉に裏があることは察している。 「それじゃ書類はこんなもんで良いっすか?」 伝助が満面の笑みで商人に書類を見せる。それを見て一瞬眉をしかめた商人だったが、すぐに満足そうに頷いた。 「―確かに。ではこの件は頼みましたよ」 「了解っす」 「頑張りまーす!」 「では、お仕事と参りましょう」 そして三人は荷車を引きながら、歩き出した。 町人に変装したフレス(ib6696)はその様子を見届けた後、こっそりその場から離れる。町の外で待っている、追跡班に報告する為に。 その後ろ姿を見送った商人は店に戻り、奥の自室へ入る。そして伝助が書いた書類に、再び目を通す。 開拓者ギルドへ依頼をしに行った後、後日、手紙にて連絡がきた。差出人は依頼を受け付けたギルド職員で、用心の為か偽名で手紙を寄越してきた。 内容はシノビ崩れのアジトを探る為に、わざと襲われる為の荷車を用意してほしいとのことだった。そして運び屋に扮した開拓者達が来る日時が記してあり、商人は今日までに準備を済ませた。 そして三人は商人が雇った運び屋として訪れ、開拓者であることは隠している。 商人が三人を開拓者であることを知ったのは、彼等が商人とはじめて会った時に渡してきた手紙に、依頼を受け付けたギルド職員の偽名があったからだ。 そして伝助が書いた書類の内容は、こうだった。 『近くに敵が潜んでいる可能性がある為、偽装班と追跡班に分かれます。我々開拓者のことは内密に、しかし通常の仕事として扱ってください』 三人がこれから通る道は、今まで通らせた道を多少変えたもの。その報告は店の者達に話はしている。身内に敵がいるとは思いたくないものの、内心ではその可能性を考えてはいた。 商人は重いため息を吐きながら立ち上がり、庭に向かう。先の職員の手紙と同じように、この書類も燃やす為に―。 ●そして決められた道へ 荷車が通れるのは舗装されている道と限られている為、三人はあらかじめ商人に渡された地図通りに歩いていた。 やがて鬱蒼とした森の中に入ると、奇妙な気配と視線を感じ始める。それはシノビである三人だからこそ気づけた異変。 陽の光すらも木々に遮られた所で、周囲の気配が動いた。三人の眼の前に現れたのは、全身をニンジャ服で隠し、顔まで布を巻いて隠したシノビ崩れの五人だった。 「おわっ!?」 「きゃあっ!」 「っ!」 伝助・ルンルン・珠々は怯えた表情を見せ、荷車を守る姿を見せる。 五人の中の一人が、一番幼い珠々を狙って動き出した。しかし瞬時に伝助と珠々の眼に鋭さが宿り、裏術・鉄血針が五人に向かって放たれる。 「ぐあっ!」 「うっ…!」 「チッ!」 そのうち三人の足に命中するも、四人目が珠々を狙って攻撃を仕掛ける。 「―おっと、危ない」 すかさず伝助が珠々の前に立ち、四人目の腹に強烈な蹴りを入れる。 「うぐっ!」 四人目が吹っ飛んだ後、入れ違いに五人目が荷物に近付く。だが側にいたルンルンが奔刃術を使って加速し、足を狙って攻撃をする。 「ぐっ!」 体勢を崩した五人目だったが、先に裏術・鉄血針で足を傷付けられた三人が荷物に到着した。そして苦無で荷物を支えていた紐を切り、それぞれ持ちやすい小さめの品を持って荷車から素早く離れる。逃げ出そうとした三人のうち二人を、珠々が奔刃術で回り込みながら足を傷付けた。しかし残り一人と、ルンルンに攻撃された五人目の二人はその場から消えてしまう。 「―とりあえず、予定通りってことで」 その様子を見た伝助が呟く。 この場に残ったシノビ崩れは、伝助が蹴りを入れて木にぶつかり気絶している者と、珠々が攻撃している二人。後の二人はわざと逃し、追跡班に任せる。 「こちらを早く片付けて、合流しましょう」 「そうそう。悪人達に真のニンジャの道を教えてあげるんだからっ!」 珠々とルンルンの言葉に、伝助は微笑みながら荒縄を取り出した。 「だな。では持参したこの荒縄で、捕縛しやすか」 ●追跡班の動き シノビ崩れの二人は足を庇いながら、アジトへ向かう。 その後を空(ia1704)は月影と奔刃術を使用しつつ、ペケ(ia5365)も気配を絶ちながら追っていた。そんな二人の後ろを、合流したフレスが猫足で慎重に続く。 やがてシノビ崩れの二人は山の奥の洞窟にたどり着いた。中へ入って行くのを見届けてから、空はフレスに目線で合図を送る。フレスは黙って頷き、偽装班の三人にアジトを伝える為に静かにその場から離れた。 「空さん、何か随分と簡単な所にアジトがありますね」 「荷物を置くだけなら、出入りが楽な場所が良いんだろう? 恐らく人間の方はそれぞれ別んとこに普段はいるだろうしな」 そこでアジトから一人出てきたので、空とペケは口を閉じる。出てきたのは先のシノビ崩れと同じ格好だが、無傷だった。 「…見張り役、でしょうか?」 「そりゃ襲った相手に逆に襲われちゃ、警戒もするだろうさ」 二人は身を小さくし、偽装班が到着するのを待つ。 ●合流 フレスが三人を引き連れて戻って来た時、見張り役が気配に気付いた。そこへすかさず空が秘術・影舞を使用しつつ奔刃術で移動し、見張り役の足元を狙って苦無・烏を投擲した。 「ぐっ!」 烏は見張り役の足首に刺さる。そこへペケが素早く見張り役の背後に立ち、首筋に手刀を入れると、声もなく見張り役はその場に倒れた。 「流石はシノビ、動きが素早いな。んでそっちのシノビ崩れはどうした?」 「荷車に荒縄で縛り付けてきました」 空は珠々の返答を聞いて、楽しそうに笑う。 「そりゃあ良い。―そんじゃまっ、残りのヤツらも同じようにするか」 そして六人はアジトへ踏み込んだ。 中の洞窟の通り道はそれほど広くはなく、奥は行き止まりになっていた。しかしフレスは目の前の壁に近付き、耳をピクピク動かす。 「むぅ〜…。何かここから人の話し声が聞こえるんだよ」 「血の跡も続いているっす」 伝助は薄暗い洞窟の道に続いている血痕を見て、みなを振り返って見る。 「まっ、隠し部屋ってのはシノビのお約束みたいなもんっすから」 「私、知っています! こう時はこう言うんですよね。『開け、ゴマ!』って」 ルンルンが壁の前に立ち言うと、五人は失笑した。―が。 ゴゴゴっ…! 何と目の前の壁が横に動き、六人の目の前に新たな空間が現れた。 「わぁ〜い! やりましたぁ!」 ルンルンは喜ぶものの、五人はポカンとしてしまう。 「だっ誰だ! お前達!」 しかし中にいる者達を見て、顔付きを変える。 二人は足を負傷しながらも荷物を奪って行ったシノビ崩れ、そして町人の姿をした男が二人の合計四人がそこにいた。 変装した二人を見て、空が納得したように頷く。 「なるほど。盗む相手の情報は、そこにいる町人に扮した二人のシノビが集めてたのか」 シノビならば変装も得意だし、隠れるのも得意だろう。このシノビ崩れ達は偶然通りかかった者達を襲っていたのではなく、あらかじめ町で情報収集してから襲っていたらしい。 空は頷きながら、洞窟内を見回した。ここには奪った荷物が置いてあるのだが、聞いていた量よりはるかに多い。 「ん〜。この荷物の量、どうやら依頼人の他からも奪っていたらしいな」 空が荷物を見ながら言うと、珠々が首を傾げた。 「しかし他に似た依頼は無かったようですが……」 「あ〜…。この国にはあまり、金銭的に余裕がある人はいないですからねー」 「ペケさんの言う通りだと、あっしも思うっす。きっと頼みたくっても頼めなかったっすよ」 うんうんと頷くペケと伝助を見て、ルンルンとフレスは互いに顔を見合わせる。 「この国って…」 「ビンボーなの?」 ぐさっ! 天然コンビの爆弾発言に、その場にいたシノビ達は深く傷ついた。 「ははっ。まっ、ここで荷物を奪い返してやれば、良い話さ」 空の言葉で、再び開拓者達は顔を引き締める。 シノビ崩れの四人もそれぞれ武器を取り出し、動き出した。 まず動いたのは町人に扮したシノビ崩れの一人。両手に苦無を持ち、フレスに切りかかる。 「おっとっと」 フレスは懐から二本の短刀を取り出し、両手で持ちながらカッティングを使用して苦無を弾く。そしてナイフステップで徐々に攻撃をし、やがてシノビ崩れの苦無を弾き飛ばすと、短刀を瞬時に持ち替え、刀の柄の部分でこめかみを打ち、気絶させた。 「ふぅ…。流石はシノビ崩れ。強かったよ」 次に動いたのはルンルンの側にいたシノビ崩れだが、先に荷車の件でケガをしているせいか、殺気立っている。刀を両手で握り締め、ルンルンに切りかかった。 「あっぶないなぁ」 ルンルンは夜で時を止め、その隙に背後に回りこんだ。術が解けた後、気付いたシノビ崩れは後ろを取られたことに驚く。その表情を見て、ルンルンはニッと笑った。 「そして時は動き出す―これが正しいニンジャの技なのです。ルンルン忍法ニンジャドライバー!」 そして飯綱落としを決め、シノビ崩れは気絶した。 「足を負傷しててもコレだけ動けるとは、大したもんっすね」 伝助が相手をしているのは、荷車で顔を合わせたシノビ崩れだ。互いに短刀を使い、攻撃をする。 「でもシノビの評判を落とす行為は、さすがに許せないっす!」 眼に鋭い光を宿すと、漸刃を使って一気に斬り付ける! 体勢を崩したシノビ崩れの腹に強烈な蹴りを入れ、気絶させた。 「ふぅ…。トドメを刺さないってのも、疲れるっすね」 仲間達が次々とやられていく姿を見て、最後の一人となった町人の姿をしているシノビ崩れは、近くにあった品を持って、出口から逃れようとする。 「―逃しません」 出口を見張っていた珠々がシノビ崩れの腰を狙って苦無を投げる。分厚い帯に刺さり、シノビ崩れは体勢を崩す。 「おっと」 そこへ空が秘術・影舞を使って近付き、シノビ崩れの首筋に手刀を入れて気絶させた。落としそうになった品をすかさず受け取り、ため息を吐く。 「…やれやれ。コレにて一件落着、か?」 「いえ、まだです。荷物の確認をしなければ」 「珠々さんの言う通りです。それに捕まえたシノビ崩れも、連れて行かねばですよ」 ペケは荷物とシノビ崩れ達を交互に見ながら言う。 「しっかしコイツら、この後どうなるんすかね?」 伝助が倒れているシノビ崩れ達を見ながら呟く。 「とりあえず、依頼人の元へ連れて行くんだよ」 「そうですね。では荷物共々、シノビ崩れも持って行きましょう!」 フレスとルンルンが「えいえいおーっ!」と拳を振り上げる中、四人は運び出すものの多さにうんざりした。 ●再び商人の店の前 六人は八人のシノビ崩れを荒縄で縛り付け、商人の店の前に帰って来た。 「賊を捕まえてもらい、ありがとうございました」 町の自警団にシノビ崩れを引き渡した後、商人は六人に頭を下げた。 「盗まれていた荷物の方は、後に人手を出して回収したいと思います。聞きました量だと、恐らくまだ売られる前だったようですし」 流石に洞窟いっぱいに積まれた荷物を一度に全て運び出すことは難しく、そのことを商人に話すと、そう言ってくれた。 「それなら回収の時もお手伝いします」 「そうっすね。依頼内容は荷物を取り返すことですし」 「一緒に運びます!」 珠々、伝助、ルンルンの言葉に、商人は微笑んだ。 「ありがとうございます。そう言ってくださると嬉しいです」 「まっ、これも仕事のうちか」 「頑張って、元の持ち主さん達に返しましょうー!」 「はーい!」 空、ペケ、フレスも三人の意見に同意する。 商人は再び六人に頭を下げて見せた。 「すみません。もう少々お付き合いください」 その後、回収した荷物は全て無事で、売り払われていた物はなかった。どうやら一気に売り払うつもりだったらしく、その前に回収できたのが良かった。 依頼人の他の商人達の荷物も取り返すことができたということで、六人は感謝された。 ―しかし荷物を運ぶ為に何度も往復した為、六人はしばらく筋肉痛に悩まされたらしい。 <終わり> |