暖かく過ごしたい
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/16 07:42



■オープニング本文

「う〜、寒い寒いっ!」
 北面国の開拓者ギルドで受付職員をしている鈴奈は身を小さくしながら、休憩時間にいつもの和菓子茶屋を訪れた。
「桃ちゃーん、白玉ぜんざいちょうだーい」
 看板娘の桃霞は声をかけられると、小走りに鈴奈の所へ来る。
「鈴ちゃん、二階の個室に行かない? 火鉢があるし、部屋だからあったかいわよ」
「へ? まあ良いけど…」
 普段、二階の個室は予約制となっており、お金を持つご婦人達が主に使用する部屋だった。
 なのであまり来たことがない鈴奈は少し緊張しながらも、個室に入る。
「まずはあったかい緑茶と…ああ、鈴ちゃんの好きな栗が手に入ったから、白玉団子と一緒に入れようか?」
「わっ、嬉しい! お願いね!」
 上機嫌で鈴奈は注文した。
 一度個室を出た桃霞だったが、すぐにお盆に湯気が立つ緑茶とぜんざいを載せて戻ってくる。
「個室ってあったかいね〜」
 火鉢を側に置きながら、満面の笑みを浮かべて鈴奈はぜんざいを食べ始めた。
 向かいに座る桃霞は自分の分の緑茶を飲み、一息つく。
「ねぇ、鈴ちゃん。少し前にアヤカシに村を襲われて、移住して来た人達のこと覚えてる?」
「うん? いつ頃の?」
 桃霞から聞いた話で、鈴奈は思い出す。確か二ヶ月前のこと、とある小さな村がアヤカシに襲われ、ほぼ壊滅状態になった。運良く仕事帰りで通りすがった開拓者達がアヤカシを退治し、死者は出なかったものの、その村には住めなくなってしまった。なのでこの街から少し離れた場所に、村人達は一斉に移住して来たのだ。
「あの時は慌てて家を作ったり、井戸を掘らせたり、村人達に仕事を紹介したりで忙しかったのよね〜。でも大分落ち着いてきたって聞いたけど?」
「うん…。でも元いた村は暖かい地域だったみたいでね、こっちの寒さが結構キツイみたいなの。それでウチの個室を使う常連さんの一人が、移動してきた村人の一人と幼馴染だったみたいで、何とかしてあげたいと思って寄付金を集めたの」
「それは良い話じゃない」
 なのに桃霞が困り顔になっている理由が分からず、鈴奈は首を傾げる。
「確かに結構な金額が集まったらしいわ。でもそのお金をどう使えばいいか、悩んでいるみたいなの」
「…あ〜、そういうこと」
 金持ちと庶民では、金銭感覚が全く違う。見当違いな物を買って与えても、あまり喜ばれないだろう。
「で、一度その村人達をここに連れて来て話を聞いていたんだけど、あちらは庶民でしょう? 『お金をかけず、暖かく過ごす方法が知りたい』と言うのが正直な意見みたい」
「…なっ何か微妙にすれ違っているわね」
 ご婦人からしてみれば、お金を使って暖かくさせてあげたい。
 けれど村人からしてみれば、お金のかからない方法で暖かく過ごしたい。
 最終的に求める結果は同じでも、その手段が違ってしまうと確かに悩む。
「それでここからが本題、そのご婦人から相談を受けたの。あたしはホラ、鈴ちゃんと仲が良いでしょう? だから依頼を引き受けてくれるかどうか、聞いてほしいって」
「どんな内容なの?」
「まずは集めた寄付金は全て開拓者ギルドに預けるわ。そのお金の中から移住して来た村人達全員に暖かくなる物を選んで、買ってほしいの。道具でも衣料品でも構わないから」
 村人達が現在住んでいる家は長屋タイプで、囲炉裏までは作れなかった。なので村人達は火鉢で暖を取っている。しかも持ってきた布団も着物も普通用で、厚手の物を買えるほどの蓄えはない。
「そして街から少し離れた場所なせいで、なかなか外食とかできなくてあったかい食べ物を欲しているみたいなのよ。だから広場みたいな場所があるから、そこで焚き火をしたり、あったかい料理を作って振る舞ってくれるとなお良いって」
「料理を作る材料とか道具をそろえるだけでもかなりのお金が動きそうね…。その上、知恵の方も村人達は欲しているんでしょう?」
「うん…。暖かく過ごせる方法、ね。何せ銭湯は遠いし。井戸水を温めて体を洗っても、その後は寒いだろうから…」
「銭湯は街中に作られているからね。…掘ったら温泉でも出てこないかな?」
「すっ鈴ちゃん…、それはいくら何でも……」
 しかし街中には温泉を使ったいくつもの銭湯があるのだ。街から少し離れた場所ならば、もしかしたら出てくる可能性はあるかもしれない。…けれど温泉はそれこそ深くまで掘らなくてはならず、そして運次第ということもある。
「まっまあお風呂の問題は後にして、いろいろと買ったりするから経費を抜くと大して報酬は出ないと思うけど、でも何とかしてあげてほしいの」
「そう、ね。寒い冬を悲しい気持ちで過ごさないように、してあげるのも開拓者の役目よね」


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
ティア・ユスティース(ib0353
18歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
巌 技藝(ib8056
18歳・女・泰


■リプレイ本文

●村人達へ運ぶ荷物
「おーい、荷車に積む荷物はこれで全部か?」
 ギルドの前でルオウ(ia2445)が五人に声をかける。
「私の甘酒十個、芋幹縄三つ、シャツが十七枚に肌襦袢が十七枚はちゃんと載せました」
 明王院未楡(ib0349)は自分が持ってきた荷物を数えつつ、頷いた。
「私もうさぎのぬいぐるみ八個に、もふらのぬいぐるみが八個、そしてりゅうのぬいぐるみ一個も積みましたよ」
「あたしのあったかい毛布、十七枚も載せたよ」
「あたいの甘酒二個、荒縄一つ、芋幹縄二つ、携帯汁粉三個、天儀酒一つに女神の薄衣もね。ああ、だけど荒縄と酒と衣は後で使う物だから、別にしといておくれ」
 ティア・ユニティース(ib0353)、リィムナ・ピサレット(ib5201)、巌技藝(ib8056)もそれぞれ確認し終える。
 荷車に山積みになっている荷物を見て、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は驚きつつも心配そうにルオウを見た。
「あたいは大きいお鍋一つだけだけど…。ルオウちゃん、こんなに大量の荷物、一人で大丈夫?」
「こんくらい平気だぜ! それより買い出し、頑張れよ」
「私とルオウさんは先に行きますので、買い物はお願いします」
 こうして荷車を引くルオウと未楡は先に村人達の元へ向かい、四人は買い出しに出掛ける。


●寄付金で購入する物
「未楡さんから買い物メモを預かりました。それに寄付金とは別に自費も出してくださって、本当にお優しい方ですね」
 ティアは未楡から預かったメモとお金を入れた布袋をそれぞれ手に持ち、感心したようにため息を吐く姿を見て、技藝も同感だと言うように頷いた。
「そうだね。さて、あたいらも買い物をとっとと済ませてしまおう」
「あたしとルゥミは大八車を引くのを頑張るよ!」
「頑張ろう! おーっ!」
 リィムナとルゥミは大八車を借りて引いている。そんな二人を微笑ましく見つめながらも、買い物を始めた。
 まず未楡に頼まれている物から。冬用の掛布団に敷布団、冬用の衣装をそれぞれ人数分、そして料理用の食材も頼まれている。
「未楡さんは掘りごたつを作るようでして、それらの資材はギルドの方で準備して運んでくれるそうです。何せ量が多いですし、重いですから。私は藁沓、足袋、湯たんぽを人数分、そしてぬいぐるみを使って温石入れを作りたいので布や糸を購入したいです」
「あたしは衣類だと肌着に厚手のパンツ、半纏に靴下、手袋、腹巻に股引、耳当てに帽子を人数分、もちろん冬用のが欲しいな。あと軟膏に木綿手袋、あかぎれやしもやけって痛いからね。それと木炭だけど、先にギルドに頼んで買って運んでもらったから、このぐらいだね」
「あたいはホワイトシチューを作るつもりだから、食材が欲しいな」
「そうそう、温泉掘りに使う道具も先にギルドが用意して運んでくれたみたいだよ。そっちは借り物で何とかなるからって」
 ティア、リィムナ、ルゥミ、技藝はそれぞれ意見を出し合いながら買い物を済ませる。…しかしとんでもない荷物の量になった為に、ギルドに頼んで運び手と荷車をお願いしたのだった。


●全員、村人達の元へ
 先に到着したルオウと未楡は、村人達の手を借りながら荷車から荷物を下ろす。そして村人一人ずつに持ってきた荷物を配り、広場で焚き火をしながら料理の準備をしていると四人がやって来たが、大量の荷物を見て眼を丸くする。
「なっ何かスッゴイ量だぜ」
「…頼み過ぎましたかね」
 新たに運び込まれた荷物を、今度は六人で村人達に配った。村人達は喜んでいるもののその顔色は白く、また着込んでも寒さに震えている為に、暖かく過ごせる知恵を授けるよりも先に料理を作ることにする。
「明王院のねーちゃんは小料理屋を兼ねた民宿をやってんだよな? 俺も一応は料理の経験があっから、手伝いはできるぜ。何でも言ってくれ!」
「ふふっ、期待していますよ、ルオウさん。では今から保存調味料として焼き大蒜辛味噌を作りたいと思います。この調味料さえあれば味噌ラーメンに味噌鍋、味噌雑炊などが作れますからね。まずは大蒜とネギ、生姜に唐辛子を刻んでくれますか?」
「へんっ、俺はサムライだぜ? 刃物の扱いなら任せてくれよ!」
 そう言ってルオウは得意げに野菜を切り始めた。
「しかし最近は寒いよな〜。村人達の気持ちはよく分かるぜ。じっとしてちゃ寒いだけだもんな。でも温かい料理をたくさん作って、食べてりゃ寒さも逃げていくってもんだ」
「そうですね。料理の作り方は後でお教えするつもりですし。ちなみに刻んだ野菜は混ぜて、火にかけた鍋の上で香ばしい匂いがするまで炒めます。この調味料があれば寒い日でも、手をかけずに温まる料理が作れますからね…って、ルオウさん? 何故、泣いているのですか?」
 未楡はルオウが涙を流しながら野菜を切っているのを見て、ぎょっとする。
「ねっネギがしみるぜ〜!」
「あっ、ネギは玉ねぎと同じで切ると目にしみるんですよ。そっちは私が担当しますね」
「ううっ…。任せたぜ」
「あたいも玉ねぎが目にしみるよぉ〜」
 ルゥミもまた玉ねぎを切るのに苦戦しているのを見て、未楡は苦笑した。
「ではそちらも後で手伝いますので。ルゥミさんは何をお作りになるのですか?」
「あっあたいはホワイトシチューを作るつもりだよ。ジルベリアでじいちゃんに作り方を教えてもらったから、スゴク美味しいのを作れるよ! 野菜をたっぷり入れて、お肉は鶏肉を使うの。皮がプルプルして美味しいんだから! 冬の寒さなんて吹っ飛んじゃうよ!」
 ルオウと共に顔を手拭いで拭きながらも、ルゥミは笑顔で語る。
「ホワイトシチューは優しい味がしますからね。美味しいのを作りましょう」
「うん!」
 こうして三人が料理をしている間に、ティア、リィムナ、技藝の三人は甘酒を温めたり、芋幹縄で味噌汁を作ったり、携帯汁粉を作って村人達に振る舞う。
 そして完成した味噌ラーメン、味噌鍋、味噌雑炊、ホワイトシチューを村人達と一緒に食べて体があったまったところで、今度は暖かく過ごせる知恵を授けることにした。


 未楡とルオウとルゥミは共に、ギルドから紹介された大工達と長屋の中に入って行く。そして未楡は一枚の絵図を広げて見せた。
「大工仕事の得意な夫や義理の息子から家に作ってくれた掘りごたつの作り方、それに伴う注意点を聞いてきました。絵図を書いてもらいましたので、この通りに作ってください」
「んじゃ、頑張るぜっ!」
 絵図には掘りごたつの作り方が書かれてある。それを見ながら、大工達とルオウは改装を始めた。熱源は火鉢を利用し、こたつ布団は掛け布団を使うことで、夜暖かく眠れるようにする。
「あたいは大工さん達と一緒に、家の中で隙間風が吹いていないか見て回るよ。冬の隙間風は冷たいしね」
 そしてルゥミは家の中を調べ始め、隙間風が吹いてくる場所を見つけると、大工を呼んで直してもらった。


 広場ではティアが村の女性達と共に、持ってきたぬいぐるみを使って温石入れを作っている。温石とは火を使う時に、手頃な大きさの石を入れて熱した物。温石はぬいぐるみの中に入れて抱きしめたり、また布に包んで懐に入れたりして体を暖める為に使うと説明した。
「それと湯たんぽを買ってきましたので、ぬるくなった湯たんぽのお湯は洗濯に使うと手が冷えずに済みます。また唐辛子を木綿袋に入れて揉むと手が温まりますし、それを藁沓や足袋の中に入れておくと、ポカポカしてきますよ。でもくれぐれも素手や素足で触っちゃダメです。後で痛くなっちゃいますからね」
「水仕事で手があかぎれやしもやけをしている人はこの軟膏を塗って、木綿手袋をして寝ると早く治るからね」
 共に裁縫を手伝っていたリィムナが軟膏と木綿手袋をそれぞれ手にして持ち上げ、励ますように声をかける。


 そして一通り作業を終え、未楡を除いた五人は温泉探しを始めた。
「明王院さんは掘りごたつを作るので忙しいから、温泉掘りはあたし達が頑張らないとね」
 リィムナはダウジングペンデュラムを使いながら、温泉が出そうな場所を探っている。かじかむ手に暖かい息を吹きかけ、寒さに身を震わせた。
「寒い冬は辛いよね…。あたしはジルベリア育ちであまり裕福な家じゃなかったから、村人達の気持ちがすごくよく分かるよ。頑張って温泉を掘り当てて、みんなにあったかな冬を過ごしてもらうぞー!」
 張り切るリィムナの手から下がっている振り子は長屋から離れ、森の近くで反応を見せる。
「…うん、ここだね。さあ、みんな! 一生懸命に掘ろう!」
「よっしゃあ! 温泉を掘り当ててやんぜー!」
「リィムナ、ルオウ、ちょいと待った。温泉掘りと言っても大地を傷付けるわけだし、土地神のご機嫌を損ねたら良い事ないよ。まずは土地神へご挨拶をすべきさ。ティアは吟遊詩人なんだろう? 土地神への舞の演奏を頼めるかい?」
「喜んでお引き受けします、技藝さん」
 ティアは詩聖の竪琴を持ち上げ、にっこり微笑む。
「それじゃあ女神の薄衣に着替えるから、ちょっと待っててくれ。それとルオウ、持ってきた荷物の中から天儀酒を持ってきておくれ」
「分かった」
 そして技藝は長屋を借りて着替えを済ませ、ティアの演奏に合わせて踊りだす。素晴らしい演奏と美しい舞に惹かれて、村人達が集まってくる。技藝は奉納の舞をした後、天儀酒を掘る場所にかけた。
「ふう…。これでこの場は清められた。後は温泉が出るまで掘るだけだよ」
「いよっし! 掘って掘って掘りまくるぜ! るぁっ〜! 温泉、出てこーい!」
「あたしもシャベルで掘るよ!」
「あたいもバンバン掘るよ!」
 それぞれシャベルを手に持ち、気合を入れて掘り出したルオウ、リィムナ、ルゥミの姿を見て、ティアと技藝は苦笑する。
「元気ですね。あっ、技藝さん。着替えた方が良いですよ。薄衣では寒いでしょうし、お手伝いしましょう」
「悪いね。でもあたいなんかは踊っていれば、寒さも忘れてポッカポカでいられるけどさ。そうもいかない人もいるもんだね。まあ住み慣れた場所から離れて、しかも異なる気候じゃあ何かと辛いだろうしさ、踊る気持ちも起きないだろうね」
 技藝は着替える為に長屋に向かいながらも、三人と一緒に温泉を掘る村人達を心配そうに見つめていた。
 そんな技藝と村人達を見ながら、ふとティアは何かを思い出すように遠い眼をする。
「そうですね。…そういえば母が以前話してくれたんですけど、ジルベリア帝国の寒風が吹きすさぶ中、屋外訓練をしていた母や配下の兵隊達へと、天儀出身の父が湯たんぽや温石、唐辛子入りの木綿袋を入れた靴下などをよく用意してくれたそうです。雪深い故郷と比べてはいけないのかもしれませんが、暖かな土地で過ごしてきた人達にとっては寒さの厳しさは同じようなものかもしれません。暖かく、過ごしやすくしてあげたいものです」
「だね。さあて、温泉掘りも頑張るよ。あたいみたいな綺麗な舞姫が泥だらけになりながら穴を掘って、温泉が出たら『一番で入らせてよ』とか朗らかに微笑みながら言ったら、村人達も悪い気はしないだろうさ」
 ニヤっとイタズラっぽく笑う技藝を見て、思わずティアは吹き出した。
「『綺麗な舞姫』とか、自分で言っちゃダメですよ」


 そして技藝は着替えると持ってきた荒縄を肩に担ぎ、再び戻る。ギルドで用意してもらった温泉を掘る道具と荒縄を土木作業員達と共に使い、土を掘っていく。
 ティアも超越聴覚で水の流れと作業の音を聞き、貴女の声の届く距離を発動させながら指示を出していった。
 やがて一番奥を掘っていたルオウが、シャベル越しに手応えを感じる。
「んっ?」
 ビシッと地面が割れたかと思うと、ジワジワと温かい湯が湧き出てきた。
「おおっ!? 出たっ、温泉が出たぜ〜!」
 ルオウの言葉通り温泉はどんどん出てきて、掘った大きな穴いっぱいに湯が溜まる。
 次に温泉の周囲に木で堀を作り、外から見られないようにした。そして脱衣所も作り、全員がヘトヘトになりながらも全て完成する。
「やったー! 完成したぁ…あれれ?」
「リィムナさん! 大丈夫ですか?」
 突然よろけたリィムナを、慌ててティアが支える。少し後ろでは同じようにルゥミがぐったりしながら、技藝に支えられていた。
「お二人とも、どうしたんですか?」
 そこへこたつ作りを終えた未楡が来て、二人の様子に驚く。
「あ〜、スタミナ切れだろう。ここまで休憩なしで、頑張ったしな。…うしっ! まずは女性と子供が先に温泉に入れよ。男達は後でも大丈夫だろう?」
 ルオウは自分と同じように泥だらけになっている男性達に視線を向けると、彼らは苦笑しながらも頷いてくれた。
「悪いけど、そうさせてもらうよ」
 技藝はルゥミを背負い、ティアもリィムナを抱き上げながら脱衣所に入って行く。
「明王院のねーちゃんも大工作業して疲れてんだろ? 行ってこいよ」
「ルオウさん…。それじゃあお先しますね」
「おう! ゆっくり入ってこい!」
 こうしてまず、村の女性や子供達が先に温泉に入る。しばらくすると、はしゃいだ声と水音が聞こえてきた。その中で五人の女性開拓者達の声もあり、ルオウはほっと安堵の息を吐く。
 待っている間に村の男達から酒を振る舞われ、ルオウは少しずつ飲んでいった。
「この後、温泉に入るからほどほどにしとくか。…しかしこれだけ冷えると、雪が降りそうだな。おっ、そうだ。雪が降ったら、かまくらを作ると良いぜ。中は結構あったかいし、雪かきにもなるから良いと思う。中であったかいもんを飲んだり食ったりすれば、寒さも楽しめるってもんさ」
 ルオウの言葉で、男性達の表情が明るいものになる。どうやら乗り気のようだ。
「寒い地域では雪は避けられないもんだしな。でもそんな中でも楽しむ余裕があればいいと思うぜい!」
 静かに白い雪が降り出す中、人々の明るい声と笑顔がそこにはあった。


●村人達から送られた感謝の手紙
 後日、村人達からお礼の手紙がギルドに届いた。
 あの日、作ってもらった料理はとても美味しく頂き、教わった料理で今は温かい食事ができるようになったみたいだ。そして開拓者達から貰った物や教えてもらった暖かく過ごせる方法のおかげで、雪が降っても大丈夫らしい。特に温泉のおかげで、冬の寒さも楽しめているそうだ。村人達は明るく楽しく過ごすことを考えるようになり、とても感謝しているとのことだった。


【終わり】