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■オープニング本文 ●弱点は…… 陰殻王国の連なる山脈の一つの山に、異変が起きていた。まだこの季節であれば、山の頂上に僅かに雪が積もるだけなのに、その山は頂上から麓まで雪と氷に覆われているのだ。 山に起こった異変を調べる為に、開拓者ギルドから男性五人組の依頼調役達が現地調査に訪れている。山はそんなに高くないものの、凍り付いた山の異変はただ事ではないことから、注意して調べていた。 しかし頂上付近で、調役達はアヤカシに出会ってしまう。アヤカシはアイスツリーと呼ばれるモノで、全長三メートルの大きさがある。一見は凍り付いた普通の樹木にしか見えなかったが、突然地面から根を出し、歩いて来たのだから驚いた。動きは遅いものの枝につけた氷柱を飛ばしてきたり、枝や幹に巻き付いたツタを伸ばして絡め取ろうとしたり、根を鞭のように振るってくる。 慌てて調役達は逃げ出したものの、今度は別のアヤカシでフローズンジェルの群れが襲ってきた。スライムの一種であるフローズンジェルは半透明でシャーベット状の身体をしており、眼に映りにくいアヤカシだ。 運悪く三人がフローズンジェルに頭から呑み込まれ、その場で氷漬けにされてしまう。 「くっ…! 何でコイツら、火をあまり怖がらないんだ?」 「高熱が弱点のはずなのにっ…!」 残った二人は松明を手に持ちながら牽制するも、フローズンジェルにはあまり効果がないように見えた。だが困惑している間にも、フローズンジェルは襲ってくる。その上、アイスツリーまで追い付いてきた。 絶体絶命――二人の頭の中に同じ言葉が浮かんだ直後に、あまりの恐怖から一人がプッツン!してしまい、顔を歪めながら涙を浮かべ、力強く叫んだ。 「危険(きけん)なことは棄権(きけん)するべきだった! ここで死んだら幽霊になって愚痴(ぐち)をグチグチ言ってやるぅ! …ううっ! でも氷漬けにされるのなら、死体は臭くならずに済むか…。まあ屍が臭いのはしかばねぇ(仕方ねぇ)けどよ」 ビューーーーーーッ! 強い冷風が吹き、オヤジギャグを聞いた同僚は身も心も一瞬にして冷えた。それこそフローズンジェルに氷漬けにされてしまった男性達と同じ顔付きになるほどに。 ――だが、自分と同じことが、アヤカシ達にも起きていることに気付く。 今にも襲いかかってきそうだったのに、何故か動きが停止しているのだ。攻撃される気配も無い。 今がチャンスと、慌てておびえる同僚の手を掴み、その場から走って逃げ出した。 「まさかあのアヤカシ達の弱点はっ…!」 「寒いオヤジギャグ…?」 陰殻王国の開拓者ギルドに受付職員として働く利高は、命からがら戻って来た二人の調役達の報告を聞いて、微妙な表情を浮かべる。 「しっ信じてくださいっ! コイツが下らないオヤジギャグを言った途端、アヤカシ達は動きを止めたんです! ヤツらは自分達よりももっと寒いオヤジギャグが苦手なんですよ!」 「恐ろしすぎてつい三連発言ってしまったら、アイスツリーもフローズンジェルも一斉に動きを止めたので、確かだと思います」 毛布で体をくるみ、火鉢の近くで暖を取っている調役達は必死に訴えた。 「…じゃあ何ですか? 今からアヤカシ討伐の為に集まってもらう開拓者達には、雪よりも氷よりも冷たく寒いオヤジギャグを言いながら、戦ってもらわなければいけないのですか? この寒い季節に?」 そう言う利高の眼は、先程のアヤカシ達よりも冷たい。 「そっそれしか方法はないかと…」 「相手は複数ですし、動きを一時的にでも止められるオヤジギャグは有効な手段だと思います…」 利高は眉間にシワを寄せながら、痛むこめかみを指で押す。 確かにフローズンジェルは群れで行動するタイプのアヤカシで、しかも白銀の世界となった山の中では見えにくい。形も不定形ゆえに、オヤジギャグで固まるのならば倒しやすくなるだろう。 その上アイスツリーまでいるとなると、厄介だ。アイスツリーもまた普通の樹木と見分けにくく、一度逃げられると見つけにくい。特に今から雪が降る冬本番になる為、山全体がヤツの潜伏場所になってしまう可能性がある。 「…ではまあ無理にとは言いませんが、倒しやすくする為にオヤジギャグを言ってくれる開拓者を集めましょうか。すでに被害者は出ていることですしね。氷漬けにされてしまった三人を助け出す為にも、オヤジギャグを考えてもらいましょう」 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「わあ、本当に一つだけ雪山になっているね。しかしオヤジギャグが弱点とは、面白いアヤカシもいたものだな。そのうち動きが止まるだけではなく、ダメージを受けるモノまで出てきたりして」 ギルドから防寒着を借りて着用し、かんじきを履いた水鏡絵梨乃(ia0191)は山を見上げながらクスッと笑う。 「『こんだけ寒いと、防寒着を着込んでも動きたくないよな。…防寒なだけに、傍観する』ってか」 これからアヤカシ退治に行くというのに、九竜・鋼介(ia2192)はオヤジギャグを気軽に語る。彼もまたギルドから防寒着を借りて、かんじきを履いて雪道を歩く。 「鋼介殿は駄洒落が好きだな。おっ、早速私も一つ浮かんだ。『まるごとからすを着るからす』。…う〜ん、深いな」 からす(ia6525)は言葉通り、耐寒性能があるまるごとからすを着ていた。 「みなさん、真面目に行きましょうコケ。人命がかかっていますコケ。…けれど『凍えて小声になってしまう』コケ」 語尾にコケをつけているのは同じく耐寒性能があるまるごとこっこを着て、足にかんじきを履いているKyrie(ib5916)。 エメラルド・シルフィユ(ia8476)は自分と同じく、ギルドから防寒着とかんじきを借りて着用して隣を歩くエルディン・バウアー(ib0066)に不安げに問い掛ける。 「なあ、エルディン。今回の依頼は私の力が必要だと言われ、光栄だと思ったから参加することにしたが…オヤジギャグを言わなければならないんだろう? 私はそういうのが苦手なんだが…」 「そうですか? 私はエメラルド殿には人を笑わせる才能があると思います。シリアスな笑いが最近の流行りらしいですしね。それにギャグを言う他にも氷漬けにされた三人を助け出すことと、アヤカシ達を退治するという目的があります。いろいろな場面で、期待していますよ」 「むむっ…、そうか。頼られているのならば尽力すべきだな! …しかし笑うことが動きを止めることにつながるアヤカシとは……変わったモノもいたものだな」 微妙に違うことを教えられたエメラルドから、エルディンは乾いた笑いを浮かべながら視線をそらす。 「アハハ、ホーントそうですねぇ。さて、オヤジギャグの練習をしておきましょうか。『ダジャレを言うのは誰じゃ?』、『くだらないシャレを言うのは止めなしゃれ』、『布団が吹っ飛んだ』。どうですか? エメラルド殿」 「…ドヤ顔をされてもな」 エメラルドは冷風を浴びたように、顔をしかめて身を小さくした。 ●目的のモノを発見 六人は利高から預かった地図を頼りに歩いていたが、頂上付近で氷漬けにされた三人を発見して駆け寄る。 「良かった、無事だったな」 絵梨乃は氷漬けにされたままの三人を見て、ほっと安堵のため息を吐く。 しかし鋼介はアヤカシの気配を感じて振り返ると、フローズンジェルとアイスツリーがこちらに向かって来た。 「喰いそこなった獲物を、改めて喰らいに来たか」 「まっ、探す手間が省けたと思えば良いさ」 からすが呪弓・流逆を手に取り構えたのを見て、五人も次々と戦闘の準備をする。 「氷漬けにされた三人を庇いつつ、オヤジギャグを言って敵を怯ませ、退治する…。なかなか難しい戦いになりそうですが、頑張りましょう」 Kyrieも神秘のアンクを手に持ち、険しい表情を浮かべた。 「ギャグを考えながら戦うというのも、良い修行になりそうだ!」 「頑張りましょうね、エメラルド殿」 エメラルドとエルディンも真剣な顔付きになり、アヤカシ達と向かい合う。 「さて、ボクはアヤカシ退治に専念しようかな」 絵梨乃は一体のアイスツリーの前に走って出る。アイスツリーは枝につけた氷柱を数本、絵梨乃に向かって放つ。身軽な動きで避けながらも、絵梨乃は悲しそうな顔でオヤジギャグを語り始めた。 「『犬が去(い)ぬ…。アレからもう二年か』、『猫が寝込む。今夜が峠だと言われたよ』、『馬が埋まってた。…まだ生きていたのに』、『豚をブッた。軽い気持ちだったのに、あんなことになるなんて…』」 絵梨乃に向かっていたツタと根がピタッと空中で動きを止めたのを見て、ニヤッと笑う。 「いよっし!」 そして絶破昇竜脚を発動させる。身体に力を満たし、アイスツリーに向かって蹴りを繰り出す。青い閃光が龍のように走り、雷雲のような鳴き声が周囲に轟いた。 アイスツリーは瘴気を放ちながら粉々になって砕け、絵梨乃は一息ついた。 「なるほど…。確かにオヤジギャグの効果は凄いな」 鋼介はサンドワームシールドを構えつつ不動で不転退の決意を固め、気合と共に自らの肉体を硬質化させて防御力を上げる。そして刀・虎徹を抜き、向かって来た一体のフローズンジェルをシールドで押さえながら追い抜けを使い、最小限の動きで真っ二つに切り裂く。 「『門の前で追い抜け、コレが本当の門前払いってねぇ。…ここに門は無いが』」 鋼介の後ろには氷漬けにされた三人がいる為、庇いながらの戦闘になっている。 だがアイスツリーがこっちに来るのを見て三人に中・遠距離攻撃されるのを恐れ、今度はあえて自分から向かって行った。 「『アイスツリーか…。氷柱が木になっているだけに、気になる』なんてな」 鋼介に向かって放たれた氷柱が力を失い、地面に次々と落ちる。 「『攻撃は俺が受け止める! ただし横からは勘弁な。盾(たて)だけに』ってねぇ」 続いて絡め取ろうとして伸ばされたツタが、勢いを無くして萎れた。 これは好機と、鋼介は刀に焔陰による炎を纏わせる。 「『刀を使う以上、負けるわけにはいかないねぇ。…刀だけに、勝たないと』。『このアイスツリーはなるべく早めにぶった斬って、薪にでもしてやる。薪だけに、時間を巻きでな』」 そしてアイスツリーの動きが止まっている隙に、幹を横一文字に斬り裂いた。 弓で鏡弦を使い、からすはフローズンジェルが一体、近くにある雪に擬態していることに気付く。すると次に朧月を発動させ、矢を射る。放った矢の姿をぼんやりとぶれさせながら、フローズンジェルの近くに刺した。 すると驚いたフローズンジェルが跳び上がり、からすに向かって飛んで来る。 「身も心もボロボロになるといい。『変なアヤカシもいたものだね。寒空にアイスを求める人間もいるというのに』、その心は『フリーズをプリーズ』。まあその人間は防寒しているのだが。それと『あいつのアイスはいらない』ね」 眼の前でピタッと止まったフローズンジェルを、からすは真っ直ぐ矢で射貫く。 続いて一体のフローズンジェルが襲ってきたが、最小限の動きでかわしながらオヤジギャグを少し声を張って言う。 「『そうそう、この山には怨念がおんねん』、『とっておきを求める。ダサいのをください』、『ダメージをもらった。痛いと言いたい』!」 言いつつも、矢を射ってアヤカシを倒していった。 瘴索結界でアヤカシがいる位置を知ったKyrieは、その方向を睨み付ける。フローズンジェルが雪解け氷に擬態しながら、こちらに向かって来ていた。 「フローズンジェルが二体、来ています。からすさん、お願いしますね」 「ああ。オヤジギャグは任せた」 からすが弓を構えるのを見て、Kyrieは軽く深呼吸をした後、火尖鎗を手に持って炎を噴出させながらオヤジギャグを口に出す。 「『火尖鎗は他人には貸せんそう!』、『結界はこんなんで、いけっかい?』、『コケッコー!寒いのはもうけっこー(結構)!』」 不自然にピタッと止まった二体のフローズンジェルに向かって、からすは矢を二本放って倒す。 「…もしかしたら、一番倒しやすいアヤカシかもしれないな」 瘴気を撒き散らしながら消滅していくアヤカシを見て、からすはボソッと呟いた。 「くっ…! 氷に擬態していたか。『何とジェルい(ズルい)アヤカシだ!』。『なるほど…。こおりゃあなかなか骨が折れそうだ』。ふふっ…」 エメラルドは片手に聖十字の盾を持ちながらフローズンジェルの攻撃を防ぎ、もう片方の手には儀礼宝剣・クラレントを握り締め、敵を斬り裂いている。 最初こそはイヤイヤの渋々だったものの言っているうちに調子が出てきたのか、得意げな笑みを浮かべながら今ではオヤジギャグを言っていた。 「さあ、覚悟しろ! 『私のギャグはすべらないぞ! かんじきを履いているからな!』。つまり足がすべらないのと、ギャグがすべらないのをかけているわけで…」 ギャグの説明をするエメラルドの眼の前で、一体のフローズンジェルが空中で停止する。 「そうかそうか、そんなに面白いか」 満足そうに何度も頷きながらも、剣で斬った。 「『アヤカシの分際で笑いを心得るとは、ジェれた奴ら』だが、それがアダとなったな。お前達を爆笑させて動きを止められれば、私達は楽勝だ!」 「エメラルド殿、結構苦しいオヤジギャグを…。…本当は『笑えるギャグで動きを止める』のではなく、『雪よりも氷よりも冷たく寒いオヤジギャグで動きを止める』という真実を知ったら、どうなるんでしょうかね?」 アクセラレートで自分自身の俊敏性を上昇させたエルディンは、襲いかかってくる一体のフローズンジェルの攻撃を身軽な動きで避けている。 「さて、素早い動きを止めてもらいましょうか。神父である私が、このギャグを言わないわけにはいきません」 コホンっと咳を一つすると、エルディンは真剣な顔をして大声でオヤジギャグを叫ぶ。 「『教会の境界はどこ?』、『それが決まるのが今日かい?』、『神父が新婦と浮気した!』。…あっ、三番目のは私はしませんからね! …ごっほん。では最後に『教会が開くのは十時か(十字架)?』」 カッと眼を開いたエルディンは心の中で(決まった!)と叫び、ガッツポーズをした。 そして凍り付いたフローズンジェルに向かって、アークブラストを放つ。閃光と共に電撃がほとばしり、フローズンジェルを射抜いた。 「まっ、本当は冷たい反応よりも、笑ってくれた方が嬉しいんですけどね」 肩を竦めながら、エルディンは苦笑する。 しかしそこで四メートルほどの大きさのアイスツリーが一体と、二体のフローズンジェルが開拓者達の眼の前に現れた。 「今までのより、少し大きめのアイスツリーだな…っとと」 絵梨乃は飛んできた氷柱を蹴りで砕いたり、体をひねったりして避ける。 先に倒した二体のアイスツリーより一メートルほど大きいせいか、氷柱も大きい。 「フローズンジェルも四メートルほど伸びるな。まっ、元から不定形のアヤカシだが…」 鋼介のシールドに体を伸ばして当たってくるフローズンジェルには、どこか焦りを感じる。どうやら仲間達を次々と倒され、怒っているようだ。 そんな中、別のフローズンジェルが体の一部を使って、からすの足を凍らせた。 「…足が氷で動かないな。『靴がくっついた。あっしの足が。まっとうな的だなぁ』。『しかし大きなアイスツリーだな。お頭だろうか?』」 「ギャグを言っている場合かっ!」 からすは剣で足元の氷を砕いてくれるエメラルドに、真面目な顔で告げる。 「言わなきゃ襲われるんだよ。実際、アイスツリーの根とツタが今にも襲ってきそうだ」 「あっ、そうだった! 『アイスツリーが三体もいるとはな。私達も本気で挑まんと、ツリー合いが取れんな!』」 「『木が歩く! コッケー(滑稽)なコウッケー(光景)だコケ!』」 慌てて言ったエメラルドとKyrieのオヤジギャグで、こちらに向かっていたアイスツリーの根とツタの動きがピタッと止まった。すかさず足が自由になったからすは矢を放ち、エメラルドは剣を振るって、それぞれ根とツタを破壊する。 「『アイスツリーを愛す!』、『アイスツリーの技で釣り(ツリー)をしないか?』、『それは無理。あい、すいません』!」 真剣な表情でオヤジギャグを言いながらエルディンは聖杖・ウンシュルトを握り締め、アイヴィーバインドで地面から魔法の蔦と草を伸ばし、二体のフローズンジェルを絡め取った。それらを絵梨乃は蹴りで、鋼介は刀で倒す。 「『最後は最高』に決めようか」 「ああ、これでラストだ!」 からすの矢が最後の根を砕き、エメラルドは素早くアイスツリーに近付くと真っ二つに斬った。 ●三人を救出、しかし… アヤカシを全て倒し終えた後、開拓者達は改めて氷漬けになっている三人の元へ集まる。 Kyrieが解術の法を三人に使い、氷を溶かして助け出すことに成功した。そして凍傷になった者や戦いで傷付いた者達に、閃癒を使って癒しをほどこす。だが癒している間に、ふとKyrieは何かを思いついたようにクスッと笑う。 「『閃癒をあなたに、send you(セン ユー)!』。…なんてコケ」 解凍された三人だが、Kyrieのオヤジギャグを聞いて再び凍りつく。 「しかし流石は巫女だな、Kyrie。『アイスのナイスな溶かし方を知っている』」 続いてエメラルドが言うと、鋼介が得意げな顔で三人の前に出る。 「今回は酷い目に合ったな。ギルドに戻ったら薬草を食べると良い。『ああ、薬草の食べ方を知っているか? 薬草だけに、焼くそうだ』。帰り道は怖いよな。『狼が出ないように、神にでも祈るか。おお…神よ!』なんてな」 三人が呆然としながら見つめてくるので、鋼介は少し照れたように頭をかく。 「『駄洒落を言うのは誰じゃ?』ってか? 『駄洒落のネタはたくさんあるが、妬む(ネタむ)なよ?』。しかし氷漬けの山じゃなけりゃあ、良い山だったろうな。『紅葉の季節に、また来ぅよう』」 「…おーい、そろそろ山を下りないか?」 見兼ねて絵梨乃が声をかけると、三人は助かった!とばかりに顔を輝かせる。 しかし帰り道でも、からすがエルディンに楽しそうに声をかけた。 「そうだ、エルディン殿。『シンプルなものや、神風(しんぷう)を起こすようなネタがあるのだろう?』」 「いくつかありますけどねぇ。『おたく、運送屋? うん、そうや』、『上寿司のネタとなって、ジョーズ死す』、『今日の気分は爽快! うん、そうかい』。…うむ、今回の成果を活かしてダジャレを説法に織り交ぜてみたいですね。説法の途中で、信者の方々に眼の前で居眠りされると凹むのですよ…」 「まあまあ、そう暗雲を背負わずに。帰ったらお茶を淹れよう。あっ、思いついた。『おっちゃんのお茶』、『悪魔か。あくまでな』、『どこでこんなギャグを思いつくのか? 丹念に三年考えた。嘘だ』。ふふふっ…」 ――こうして助け出された三人は、開拓者達が次々と言う寒いオヤジギャグのせいで心に凍傷を負ったのだと言う……。 そして六人はしばらくの間、ふとした瞬間にオヤジギャグを言ってしまうクセがついてしまったそうだ。 【終わり】 |