|
■オープニング本文 ●精神鍛錬の道? 北面国には大きなからくり人形館がある。様々なからくり仕掛けの人形が置かれており、見物客を楽しませていた。 「ここ、お祖父様が作った所なんだけど、ずっと人気があるみたいで良かったよ」 商家の一人息子である辰斗は休館日に、婚約者の香弥と共に訪れていた。 「あの人は人を楽しませることが好きだったからな。しかし今日は大変だな。人形の手入れをする日だし」 二人は今日、月に一度行われるカラクリ人形の手入れを手伝う為に来たのだ。すでに館内にはカラクリ人形職人が大勢訪れており、人形はバラバラになっている。 「一番人気の音楽を奏でるカラクリ人形は奥の方だよ」 辰斗の案内で、香弥は和楽器を奏でるカラクリ人形が並ぶ場所へ移動した。左右の壁に七体ずつ並んでおり、各々和楽器を持っている。 「お祖父様は特にこの十四体の人形がお気に入りだったみたいで、凄いお金がかかったみたいなんだ」 「でも玄人並みの演奏をするんだろう? しかも館を開けている間、ずっと。…もしかして宝珠を使っているのか?」 辰斗の祖父が残した宝珠絡みの遺産に、何度も酷い目に合わせられた香弥の顔は険しい。 「まっまあでも普通に演奏の為に使っているだけだし。操作はこっちでやっているんだよ」 人形達の間にある道を通った先には、人間の大きさがある猿のような動物の人形が一体あり、山をはさんでその動物を見て驚く村人達の人形がある。 今まで見てきたカラクリ人形とは一風変わった人形に、香弥は首を傾げた。 「…何か妙な動物だな。威嚇している猿のように見えるが…」 「ああ、覚(さとり)って言う妖怪なんだって。覚は人の心を読んで話す妖怪で、人を驚かすんだ。このカラクリ人形、普段は覚が口と両手両足を動かして驚かせる動きをして、村人達は身を引くっていう動きをしているんだよ」 「ふぅん…」 「それで何故かお祖父様は音楽を演奏するカラクリ人形からここまでの道を、『精神鍛錬の道』と言っていたけれど……どういう意味だったのかな?」 「『精神鍛錬の道』? …よく分からないな」 演奏をするカラクリ人形達はいずれも美しい顔立ちをした老若男女で、楽器も高価で歴史のある物、演奏する姿はまるで御所に勤める演奏家達を思い浮かべるような幻想的な光景となる。そこを通った先に何故、妖怪のカラクリ人形があるのか理解できず、香弥と辰斗は同時に首を傾げた。 「…まあいいか。辰斗のお祖父様の考えはよく分からないことが多いし。それより手入れを手伝おう。今日はその為に来たんだしな」 「あっ、そうだね」 覚のカラクリ人形で行き止まりとなっており、右手側に従業員だけが入れる部屋がある。そこが全てのカラクリ人形を操作する場所となっており、宝珠の不思議な輝きに満ちていた。 「香弥、こっちだよ。演奏するカラクリ人形と、あの妖怪のカラクリ人形を制御する装置は同じなんだ。宝珠も使っているし、取り扱いが難しいから手伝って」 「ああ、分かった」 二人は手入れ道具を持って、装置に近付く。辰斗は職人達と共に装置を外し、カラクリ人形を制御している宝珠を取り出す。 「とりあえず香弥はその宝珠を拭いてくれる?」 「了解した」 香弥は布を手に持ち、宝珠を拭き始めた――その瞬間、目映い光が部屋に満ちた。 ●『精神鍛錬の道』、発動 数日後、辰斗は一人で開拓者ギルドに訪れた。 対応しているのは毎度お馴染み、芳野だ。渋い表情で、依頼書に記入していく。 「…んで、香弥どのは?」 「寝込んでいます…。その原因なんですが……」 宝珠が光ったのは一瞬のこと、特にその後は何も起こらなかったので作業は続いた。やがて全ての手入れが終わり、試しにカラクリ人形を動かして見ることになり、香弥と辰斗が再び館内に戻った事で異変に気付いたのだ。 「香弥が音楽を奏でる人形達の前に来た時でした。突然人形が演奏をしながら口を開き、香弥への悪口を歌いだしたのです」 それこそ子供並みの悪口から、グッサリ胸に突き刺さる悪口まで。耐え切れなくなった香弥はそのまま走って館から出てしまい、それから数日間、部屋に閉じこもっているらしい。 「…祖父が言ってた『精神鍛錬の道』と言うのがよく分かりました。あそこは通るたびに悪口を歌われるんです。仕掛けはよく分かりませんが、演奏をする人形には様々な悪口を歌うように設定されていたようです」 「当てずっぽうな悪口でも音楽に乗せながら言われたら、精神的にキッツいな」 芳野は演奏しながら悪口を歌うカラクリ人形を想像して、ぞっとする。 「しかもその道にいればいるほど、悪口も酷くなります。…ここからは僕の想像になりますが、宝珠が開拓者である香弥が触れたことによって、何かしらの作用が出たんでしょう。僕としては悪口を言うカラクリ人形は止めたいというのが本心です。ですが近付く者、全員が精神的攻撃を受けてしまい、調べることができません。なので芳野さん、悪いのですが…」 「精神的攻撃に負けないようなヤツらを集めろってか。…肉体への攻撃の次は、精神かよ。辰斗どのの祖父どのは開拓者に何か恨みでもあったのか?」 「そっそんなことはないと…思います。…ただ、『面白い存在だ』と生前よく言っていましたが…」 「まったく…。まっ、このままじゃ人形館が開けられないだろうし、実際に行って調べるしかねーか」 |
■参加者一覧
蓬仙 霞(ib0333)
22歳・女・志
月野 魅琴(ib1851)
23歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
ゼクティ・クロウ(ib7958)
18歳・女・魔
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 からくり人形館は今、不気味な静寂に包まれている。悪口を歌うカラクリ人形と、覚と村人達のカラクリ人形は今、精神鍛錬の道を歩く人物に反応して動く。なので誰も歩かなければ、動きは止まったまま。 人形達の視界に映らぬ場所で集まった六人の開拓者達はジャンケンをし、一人ずつ精神鍛錬の道を歩いて調査を開始することにした。 ●リィムナ・ピサレット(ib5201)の悪口歌 「あはは! 普通、こんな面白い仕掛け思いつかないよね! 前に参加した依頼で顔面パンチを受けるのとは違って、悪口は我慢すれば良いだけだもん。耳栓もいらないよね〜。楽勝だよ!」 朗らかな笑顔を浮かべるリィムナは覚と向かい合い、操作部屋に向かって歩き出す。 するとカラクリ人形達が一斉に動き出した。覚が村人達を驚かせ、十四体のカラクリ人形は楽器を演奏し始める。 『ちんちくりんのくっせーガキンチョ♪ 風呂入れ♪ タヌキみてぇな臭いがするぞ♪』 「早速始まったね」 曲調や声は明るく聞きやすいものの、虚ろな表情の人形達が歌う姿はどこか恐怖を感じる。 しかしリィムナは立ち止まり、両手を腰に当て、まるで人形達に諭すように声をかけた。 「いーい? あのね、天儀の人達はお風呂に入り過ぎなの。冬はあんまり汗をかかないんだから、体が痒くなったら入るぐらいでいいんだよ。そんなに臭くないしね」 クンクンと鼻を鳴らしながら自分の匂いを嗅いで、満足そうに頷くリィムナ。 しかしそこで、人形達の眼付きが鋭くなった。 『毎日毎晩、布団に天儀の地図を描き、今朝も姉ちゃんに叱られ叩かれおサルみたいに真っ赤なおケツぅ♪ いつ治るんだ、寝小便癖ぇ〜♪ もう十歳だぞ、寝小便娘ぇ♪ 寝小便タレのくっせーガンキンチョ♪』 「なあっ!?」 リィムナの顔が耳まで真っ赤に染まる。 「ちっ違うっ! 毎晩なんてしてないもんね! おっお尻だってレ・リカルで回復させてきたから赤くないし…。大体しちゃうものは仕方ないでしょっ! ううっ〜…もう壊そうかな?」 涙目になりながら危険なことを考えるリィムナだったが、ふと仕事に出掛ける時に姉から貰ったメモのことを思い出す。『困ったことがあれば読むように』と言われており、リィムナはメモを開いて見る。 『宝珠を使用したカラクリ人形は高価ゆえに破壊したり、罰金、あるいは依頼失敗となったら百叩きは覚悟しておくように』 「ひぃいいっ! …さっさあ、悪口なんて気にしないで行こう! 悪口なんてへっちゃらさ! ガマンガマン…!」 青ざめた笑顔を浮かべながら、リィムナは操作部屋に入った。 ●エルレーン(ib7455)の悪口歌 「へぇ、歌うカラクリ人形か…。ふふんっ、何かかぁいいなあ! でも本当はどんな演奏をするのか、聞いてみたいねぇ」 二番手のエルレーンは、悪口よりも演奏と歌の方に関心が向いている。そして興味深いといった様子で、人形達の前に出た。 『哀れな貧乳♪ ほっそり、すらっとした体型がご自慢♪ だけど胸まで同じ♪ そこが辛い♪ 男物の服を着てしまえば、性別が分からなくなるぅ♪』 「うっ…! むっムカつくぅ! だけど高いから壊せないー! ぐぬぬっ…!」 思わず黒鳥剣の柄を掴むが、ぐっとガマンする。眼に涙を浮かべるも、人形を破壊してしまえば仲間達にも迷惑をかけてしまう。 「ふっふーんだっ! そっそんな悪口、兄弟子のおバカさんに言われ慣れてるよぉーだっ!」 人形達に向かってアッカンベーをした後、操作部屋に走って向かった。 ●蓬仙霞(ib0333)の悪口歌 「悪口か…。そんなものは慣れているさ。確かにボクは志士だが、異国の血を引いている。地位の高い志士の家だが、そのことで差別されることは少なくなかった…。…でもボクはこの赤い髪と碧い眼に誇りを持つことにしたんだ。人形ごときの悪口に、心を折られたりしないさ!」 霞は強い覚悟を持って歩き始める。 『ムダに乳デカ、衣装がふしだら、ぱんつが見える♪ 自分のことを「ボク」とかイタイ♪ クール系キャラもまたイタイ♪ 何を狙っているのか分からないのもイタ過ぎるぅ♪』 「わっ悪口ってそっち系っ? べっ別にキャラを作っているわけじゃない……ボクはボクさ。この衣装だって志士として師匠からいただいた機能性と装飾性を重視したものだし、ぱっぱんつだって戦闘することを考えて見せてもいいものにしているんだし…グスッ…。あっ、なっ泣いてない! ボクはこんなことで傷ついたりしないんだからね!」 『「しないんだからね!」とかツンデレ、あざとい♪ 気持ち悪い♪ 「見せぱんだから恥ずかしくない」とか既に時代遅れ♪ 衣装からは胸がはみ出て、脚も見える♪ 全体的に女を主張し過ぎ〜♪』 「余計なお世話だあ!」 霞は顔を真っ赤にして涙を浮かべ、つい殲刀・朱天の柄を握り締めるも、深呼吸をして何とか落ち着きを取り戻す。 「とっとにかく調査をしよう…。ボクは覚と村人達のカラクリ人形を調べなきゃ」 耳を両手で塞ぎ、霞は演奏をするカラクリ人形達の前を走り抜けた。 ●篠崎早矢(ic0072)の悪口歌 残りの三人は十四体のカラクリ人形を調べるのだが、まずは気合が入っている早矢が前に進み出る。 「この人形達が悪口を歌うカラクリ人形か…。どれほどの悪口か楽しみだな。私の心を折れるものなら、折ってみるが良い!」 『ブサイクブサイクー、醜女が現れた♪ 微妙に不細工なのがまた悲し♪』 勇ましくカラクリ人形に近付こうとしたが顔のことを歌われ、早矢は立ち止まってギリっと歯ぎしりをした。 『リアルにブサイク、生々しくブサイク、目元のバランスが悪いんだ♪』 「お前らあぁ! だんだん悪口が詳細になってきているぞっ! くそっ、くそっ! 破壊できればいいのにぃ!」 早矢は悔しそうに地団駄を踏む。しかし肩を震わせながら、何とか気を静めようとした。 「どうしよう…涙が出てきた。…落ち着いて、愛馬の顔を思い浮かべるんだ。馬は人間の友達、決して罵倒なんかしない…」 自分に言い聞かせるように呟いていたが、いきなり演奏が止み、何事かと顔を上げると先程よりも激しい演奏が始まる。 『表情、下品♪ 育ち、悪そう♪ 精神的にもこれまたブサイク♪ 腹の肉は少し帯に乗っており、さらしを巻いて誤魔化している♪ 弓しかできないクセに、自分のことを可愛いと思って…』 「ぬわああぁ! 誰か介錯をしてくれー! ここで死んでやるー!」 矢の先を自分に向けた早矢を見て、慌てて霞が止めに入った。 ●月野魅琴(ib1851)の悪口歌? 「ふむ…、さすが精神鍛錬の道。ここを通る人はことごとく撃沈されていますね。どれ、私が通ったら何を歌ってくれるんでしょうか?」 魅琴は顎に手をやりながら、カラクリ人形の前に出る。 『寂しがり屋の泣き虫でぇ、嫌われたくはないと泣いているぅ♪ そのクセ空気を読めず、他人から見られる眼は白い♪ 本当は凄く臆病で、いつもそのことを笑顔で隠しておく♪ ああ、寂しい♪ ああ、悲しい♪ 本当の自分をさらけ出せないなんて♪』 「なるほど…、まあ大方その通りですね。まさか眼の前を通っただけで、こんなに歌われるとは…。実に興味深いですね。まっ、この程度の歌なら騒音程度ですけど」 悪口を次々と歌われるも動じることなく、余裕で受け答えながらカラクリ人形を一つ一つ調べていく。 だが突如、早矢の時と同じようにカラクリ人形は演奏を中断する。そして再び始まった演奏は、甘い艶声で歌われた。 『ああっ…! あなた様はとてもカッコ良く、ニヒルな口元も素敵ですぅ♪ 細い眼は知的で、誰も考えぬその一手は素晴らしい♪ その片メガネも良く似合っています♪ とっても優しいあなた様を、誰もがとても愛しています♪』 先程とは逆に褒められ始めた魅琴は眼を見開き、動揺する。悪口は慣れていたが、褒められる経験はなかった為、思わず後ずさった。 「こんな歌まで歌えるなんてっ…やられた! …もうやめっ…ひっぐ、もう止めてぇえ!」 両耳を手で塞ぎ、カラクリ人形の前から逃げ出した魅琴は、隅の方でグスグス泣き始める。 ●ゼクティ・クロウ(ib7958)の悪口歌 次々と撃沈していく仲間達を冷静な眼で見ながら、ゼクティはカラクリ人形に向かって歩き出す。 「さて、と。あたしは悪口を歌うカラクリ人形を調査しなきゃね。仕掛けなどをしっかり調べて仕組みが分かれば、悪口を歌うカラクリを止めることが可能かもしれないしね」 手に持っている書物にフィフロスをかけ、調査の準備をする。 『見てもらいたいから、そんな胸を強調した格好なんだろう♪ その胸元の紐を解いてみろ♪ このメス豚が♪』 「ふぅん…。なかなか言うわね」 ゼクティから放たれる氷のように冷たい空気に、無数の針が突き刺さったような痛さをその場にいる霞、早矢、魅琴は感じ取って震え上がった。 「まあ意志の無いカラクリ人形が考えて歌っているわけじゃないようだけど……コレらを作り出した職人達を凍らせても良いかしら?」 顔では微笑みながらもその眼が氷よりも冷たく光り輝くのを見て、三人は短い悲鳴を上げてその場から飛び上がる。 「そっそれはダメ!」 「ひっ人を凍らせるのは流石にどうかと思うぞ?」 「そっそれに多分、お亡くなりになっていますよ。亡くなった辰斗さんのお祖父さんが若い頃にここを作り、その当時からある人形らしいですし」 霞、早矢、魅琴の必死な言葉を聞いて、ゼクティは表情を緩めた。 「それなら亡くなっているでしょうね…。残念」 肩を竦めたゼクティはフロストクィーンを手に持ち、ブリザーストームを発動させる。激しい吹雪が生じ、視界が一瞬にして真っ白に染まった。吹雪がおさまり眼を開くと、カラクリ人形全てが雪まみれとなり、動きが鈍くなっている。 「コレで悪口は歌えなくなったわ。安心しなさい、人形を壊したりなんかしないわ。高価だしね」 本気なのか冗談なのか分からなかったが、コレでカラクリ人形達を調査するのに何の苦痛も無くなったことは確かだった。 ●悪口を歌う仕組みの正体 操作部屋に入ったエルレーンとリィムナは前もって辰斗から受け取っていた説明書を見ながら、例のカラクリ人形達を制御する装置に近付く。 「なっ何か順番があるのなら、その通りにやらないとだけど…」 「辰斗さんは起動を停止させたいなら、ただスイッチを押せば良いって言ってたね。とりあえず押してみようか。エルレーン、みんなに『今からカラクリ人形の動きを止める』って言ってくれる?」 「うっうん、分かったよ…」 エルレーンは扉を開け、カラクリ人形を調べている仲間達に声をかけた。 そしてリィムナは、スイッチを押して起動を止める。 「アレ? 覚の人形の眼が…」 覚と村人達を調べていた霞は、起動が終わる直前に覚の両目が不思議な光を発したのを見た。不思議に思い、覚の両目をじっと見つめて、その正体に気付く。 「あっ…! …ただのカラクリ人形が人の心を読んだように歌うのは……コレが原因だったのか」 慌てて霞は仲間達を呼び、覚の両目のことを知らせた。 「この覚の人形の両目が…宝珠?」 「そっそうだと、私も思う…。両目から感じる力、宝珠が発する力と同じ…」 リィムナはエルレーンに抱き上げてもらいながら、覚の両目を見る。 「この宝珠には恐らく何かしらの加工か、あるいは術が仕込まれているのでしょう。いやはや…実に興味深い」 魅琴は好奇心に眼を輝かせながら、覚の目線を追う。 「覚の人形は普段、体を動かして村人達を驚かせています。それはつまり、宝珠の両目をこちらに向かって来る人に照準を合わせる為でしょう。そして宝珠を通して得た情報を演奏をするカラクリ人形達に流し、演奏と共に歌わせていたんでしょうね」 「それじゃあ覚の両目を宝珠ではなく、別の物に取り替えれば人形達は悪口を歌わなくなるのか?」 早矢の言葉を聞いて、ゼクティは一歩前に進み出ると覚の両目にフロストクィーンを向け、フローズを発動させて凍らせた。 「仕掛けの正体を聞いたら、凍らせたくなったわ」 突然のゼクティの行動を見て、五人はガタガタと震える。 しかし一早く我に返ったエルレーンが、勇気を振り絞って声を上げた。 「とっとりあえず辰斗さん達に報告しないと! …ね?」 ●そしてただのカラクリ人形へ 開拓者達から報告を受けた辰斗は、職人と技術者を連れてやって来た。そして覚の人形を解体し、両目をガラス製のと交換して再び起動させると、ようやく十四体のカラクリ人形は素晴らしい演奏を始める。 「あら、良い演奏じゃない。壊さなくて良かったわ」 「…でも凍り付いたのを溶かすのに、苦労したみたいだけど」 珍しく笑顔で演奏を聞くゼクティの隣で、早矢は青い顔色になっていた。 「あの、みなさん。ありがとうございました」 辰斗は二人に近付き、頭を下げる。 「今考えてみると、ヒントはあったんですね。覚は人の心を読む妖怪で、そしてお祖父様はここを精神鍛錬の道と呼んでいました。覚と演奏をする十四体のカラクリ人形を制御する装置は同じで、元々宝珠が使われています。開拓者である香弥が制御用の宝珠に触れたことにより、覚の両目の宝珠が発動したのでしょう。発動条件が『開拓者が触れること』というのがよく分かりませんが…祖父は開拓者に並々ならぬ思い入れがあったと聞きます。恐らく悪口に負けず、真っ直ぐに弱さを見抜く覚と眼を合わせてほしかったのでしょうね」 「悪口と一言で言っても、いわゆる弱さとも言えるわね。つまり弱さを悟ってほしかったわけね。…まっ、なかなか面白かったわよ」 「私は辛かった…!」 ゼクティは意味ありげに微笑むが、早矢は本当に辛そうに人形達から顔をそらす。 一方で、素晴らしい演奏をするカラクリ人形に背を向けて、リィムナ、エルレーン、霞、魅琴は暗雲を背負いながらうずくまっていた。 「ううっ…! みんなにいろいろバレちゃったよ…」 「ぐっすん…。ダメージが大きい依頼だったの…。…ああ、でも私を『貧乳』ネタで一番傷付ける兄弟子の彼は、今頃どうしているんだろう? またうさぎのぬいぐるみを背負いながら、依頼をこなしているのかな?」 「泣いてない…。本当に泣いてなんかないやい……ぐすんっ」 「褒められることがこんなに苦しいこととは……また一つ、勉強になりましたね。…辛い体験でした」 ――こうしてからくり人形館は無事に再開されたものの、ゼクティを除いた五人の開拓者達はしばらく人形の歌に悩まされたそうだ。 【終わり】 |