『彼』は花魁盗人?
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/22 16:41



■オープニング本文

「すみません、待たせましたか?」
「いえ、そんなに待っていませんよ」
「まだなーんも頼んでいなかったしな」
 開拓者ギルドで受付職員をしている男性三人が、とある花街の料亭の個室に集まっている。集まったのは陰殻王国の利高、東房王国の美島、北面国の芳野だが、三人がいる国は遭都だ。
「調べてきましたが、やはり陰殻王国の開拓者ではなさそうです。恐らく志体を持っていても、開拓者にはならなかったのでしょう。ですがスキルを持っている為、厄介な相手です」
 利高は調査書を二人に差し出す。その中には似顔絵もあり、美しい顔立ちを見て芳野は呆れたような感心するようなため息を吐いた。
「だが陰殻王国出身だということは分かったんだな?」
「はい…、陰殻王国で知っている者達がいました」
 利高が申し訳なさそうに俯く。
 ――何故、職場が離れているこの三人が、これまた担当地域から離れてこの花街に集まったのかというと、事は二ヶ月ほど前にさかのぼる。


 二ヶ月前、東房王国の花街に一人の花魁姿の美女が現れるようになった。
 美女は金を持っていそうな男に声をかけ、二人で個室に入って酒を飲む。そして男が飲み潰れた後、金や金品を盗んで逃走する――という事件が起こるようになった。
 しかしその美女、花街の誰もが知らないと言う。
 だが美女が店から一人出て、逃げて行く場面を見た人がいた。
 その人物の話を聞いたところによると、美女は普通の人間とは思えないほどの身軽さで建物の屋根の上に飛び乗り、そのまま走って逃げたのだと言う。
 被害にあった男達が言うには、美女はかなりの大量の酒を飲んでいたらしい。しかしそれならば、あの運動神経は何だったのか?
 普通の人間ではない能力が、美女にあるのではないかと言われはじめた。そして被害者達から報告を受けて、花街を仕切る者達が開拓者ギルドに依頼してきた。
 だが被害報告が東房王国から北面国となり、今はこの遭都と移っていったのだ。
 ギルドでは『酒をいくら飲んでも酔わない』ことをシノビのスキルの一つ、【酒笊々】ではないかと予想している。【酒笊々】は自分の意思で酩酊状態を操ることができ、コレを発動させているならばいくら飲んでも酔うことはない。
 またどんな男でも声をかけられれば引っかかってしまうことから、【夜春】も使えるのではないかと言われている。【夜春】は色仕掛けの一種ゆえに、一般人ならば簡単にかかってしまうだろう。


「…それでですねぇ。実はここへ来る前に、ギルドに依頼人達が来たんですよ。その依頼人達が、例の美女のことを知っていました」
 利高は幼い子供達三人組を職場で見かけ、思わず声をかけた。
 子供達は安物の着物を身に付け、貧しい所の子であることが一目見ただけでも分かった。腹を空かせていたので、近くの食堂で食事をさせながら依頼内容を聞いた。
 何でも自分達は親をアヤカシに殺された子供達で、普段は廃寺に住んでいる。そこで一人のシノビに面倒を見てもらっているのだがここ最近、妙に金の使い方が派手になってきていると言う。
「それまではシノビの仕事をしたり、雑用をこなして何とか数人の子供達を育てていたみたいなんです。…しかし養っている子供の一人が病気になり、金がいるようになってから留守にすることが多くなったそうで…」
「似顔絵で確認してみました?」
 美島は例の美女の似顔絵を上げて見せると、何故か利高は複雑な表情をする。
「見せました…けど、子供達は確かに『似ている』とは言っていました。…ですがその、養ってくれているのは『男の人』…らしいです」
 歯切れ悪く言った利高の言葉に、今度は芳野と美島が複雑な表情になり、改めて似顔絵を見るも、どう見ても二十代後半の『美女』にしか見えない。
「つまり…だ。その男は美女になりすまして、悪さをしてるってことかい?」
「多分…芳野さんの言う通りだと思います。盗んできた金や金品で、何とかその病気の子供は治療を受けさせることができたので、今はもう大丈夫みたいです。しかし未だ盗みを止めていない上に、夜になると家から出るものですから、子供達は不安がっているみたいなんです。数日間、帰ってこない時もあるようですし…。何をしているのか尋ねても、『仕事』と言うだけらしいです。それで危ない仕事をしているんじゃないかと心配になって、年長組達が開拓者ギルドに調査をお願いしに来たんです。…まあ一応依頼料も持ってきましたが、受け取るのは拒否しました。あまりに少ない額でしたし、今回の依頼にも絡んでいますからね」
「それで養っている子供達はどのぐらいいるんですか?」
 美島の問いかけに、利高は思い出しながら指折り数えていく。
「確か…女の子が三人、男の子が四人…ですね。病気にかかったのはまだ二歳の男の子だったらしいです。とにかく薬が入手困難な高い物だったらしく、緊急だったこともあり、こんなことをはじめたんでしょう」
「合計七人もの孤児を一人で育ててたのか…。涙ぐましいと言いてぇとこだが、やっていることがなぁ」
 芳野は気まずそうに、隣に座る美島に視線を送る。
「――彼が捕まれば、ほっとする人はいるでしょう。しかし子供達は悲しみますね。下手をすればもう二度と会えない上に、彼には罰がくだされるでしょうから」
「つーか子供のことはどうするんだよ? 利高」
「えぇっと…。引き取り手が見つかるまでは、お寺に預けるしかないですね」
 最終的には全員離れ離れになってしまうだろう。憐れだと思うが、彼のやっていることは罪だ。
 だがふと、美島が何か思いついたように口を開く。
「…まあしかし、開拓者達には『もう二度と盗みをさせないこと』を彼に説得できれば、良いかもしれませんね」
「美島さん、そう簡単にいくかね?」
「芳野さんは心配性ですねぇ。どうせ花街で使うつもりだったお金が、孤児や病気の子供の為に使われたとなれば良い話になるじゃないですか。物は言いよう、ですよ。しかも被害にあわれた方々は、元よりお金を庶民より持っている人達ばかり。懐なんて痛んでいないんですから、募金したと思ってもらいましょうよ」
 美島が笑顔で邪悪なオーラを出すのを見て、二人は思わず後ろに下がる。
「被害届も取り下げられれば問題はないですし、ようは彼の問題でしょう。ちゃんとした人生を導いてあげるのも、開拓者とギルドの役目だと思いますよ?」
 と美島に言われては、二人は何も言えない。
「とにかく彼を説得し、何とか子供達と今後も一緒に過ごさせなければいけませんね」


■参加者一覧
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
御凪 縁(ib7863
27歳・男・巫
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
ゼス=R=御凪(ib8732
23歳・女・砲


■リプレイ本文

●囮役二人
「ゼス、例の花魁の似顔絵、覚えているな?」
「ああ。縁こそ大丈夫か? 花街には花魁が多いし、見間違えるなよ」
 御凪縁(ib7863)とゼス=M=へロージオ(ib8732)の二人は囮役として、夜の花街で彼がよく目撃される場所を歩いていた。
 ゼスは少し強ばった表情で呟く。
「子供達を養う為に金を稼ぐ事は悪いとは思わない。けれど金を稼ぐ方法で、子供達を悲しませることはしてほしくない。子供達の事を思えば止めさせたいが……こういう囮役は慣れていないから縁に任せる」
「了解。とりあえず俺に話を合わせてくれ」
 縁の言葉に、ゼスは頷いて見せる。
 するとタイミング良く、向こうから例の花魁の彼が歩いて来た。まだ今夜の標的は見つけていないらしく、視線だけを動かして人を観察している。
 縁は咳を一つすると、豪快に笑い出した。
「わっははー! ゼス、この花街はどうだ? 良い女がたくさんいるだろう! 実は俺、最近博打で一山当ててな。懐があったかいことだし、お前に良い思いをさせてやるよ。…おっ、こういう美人はどうだ?」
 縁はゼスに話しかけながらも、彼とすれ違う時に肩に触れて歩みを止める。
「…わたくし、ですか?」
 しかし彼は驚いた様子を見せず、妖艶に微笑んだ。
「おう! 姐さん、ここの花魁だろう? 俺ら男二人じゃ寂しいもんで、せっかくの花街で華がねぇのはいただけねぇよな。ちょいと俺らに付き合ってくれや。美味いメシが食える場所、知ってんだ」
「ふむ…。そちらの方は異国のお人で?」
「あっああ、ジルベリア帝国から友人を訪ねて来たんだ。花魁という存在は噂話で聞いていて、会ってみたいと思って今日は連れて来てもらった。良かったら食事だけでも一緒にどうかな? 静かな所でゆっくりと話を聞いてみたい」
「そうですねぇ…まあ良いでしょう。ですがわたくし、お酒がイケる口なのでご注意くださいませ」
 コロコロと笑う彼を見て、とりあえず目的の場所へ行けることに二人は内心安堵する。
 開拓者ギルドは川近くにある料亭を一軒、貸し切っていた。ここならば多少騒ぎが起こっても大丈夫ということで、二人は店の二階の個室に彼と共に入る。そして縁はまず、女中に酒を頼んだ。
「まずは酒で乾杯といこうか」


●待機組三人
 縁、ゼス、そして彼がいる部屋から廊下をはさんで向かいの部屋に、待機組の三人がいた。縁達がいる部屋のふすまは少し開いており、そこから中の様子が窺える。
 しかしケイウス=アルカーム(ib7387)がゼスを見る眼には、不安の色が浮かんでいた。
「ゼス、平気かな? 女性なのに囮役をすると言い出した時は心配だったけど…。本当は役を替わろうかとも思ったけど、縁がいるから大丈夫そうだ。でも気を付けてね」
 そわそわしながらもケイウスは聴覚を極限まで研ぎ澄ませ、彼の行動を注意して見ている。
 その隣ではラグナ・グラウシード(ib8459)がしかめっ面をしながら、向こうの部屋を睨むように見ていた。
「ぬう…、悪党は成敗すべきだが……しかし子供達の為か。何とかしてやりたいものだな。なあ、うさみたん」
 紐で背中に括りつけているうさぎのぬいぐるみに、同意を求めるように話しかけたラグナを見るケイウスの表情が微妙なものになる。
「…なあ、ラグナ。背負っている二つのうさぎのぬいぐるみは…」
「ああ、もう一匹はうさきちくんだ。いざという時は頼むぞ!」
 ラグナがもう一つのうさぎのぬいぐるみに話しかけるのを見て、ケイウスは何も言わずにもう一人の仲間に視線を向けた。
 Kyrie(ib5916)は行灯の近くで、化粧した顔が鏡に映っているのを見ながらブツブツ呟いている。
「私が一番美しい…。確かに彼の美貌は素晴らしいですが、やはり私には敵いません」
「あっあの、Kyrie? 今、仕事中なんだけど…」
「分かっていますよ、ケイウスさん。私はこうやって自己暗示をかけることによって、もし彼が夜春を使ってきても大丈夫なようにしているだけです」
 クスクス笑いながら振り返るKyrieを見て、ケイウスの背中に冷たい汗が流れる。
「ちゃんと仕事中であることは分かっています。取り返しがつかなくなる前に、止めさせなければいけませんね。では自己暗示の続きをしますか」
 自分の世界に入るばかりのラグナとKyrieを見て、ケイウスはやはりゼスと交替すれば良かったと思い始めた時、女中が酒を持って戻って来た。


●現場を押さえる為に
 徳利に入った酒を盃にたっぷりと注ぎ、三人は飲み始める。縁と彼が上辺では和やかに楽しそうに話をしながら飲んでいる中、ゼスは渋い表情で酒を飲む。実は澄み酒が苦手なゼスは、数杯空けたところで眼が熱っぽく潤み、全身に熱さを感じてしまう。
 一方、縁は彼の視線がそれている隙を狙い、三杯に一杯は袖の内に巻いたサッシュに酒を染み込ませて、飲んでいる量を誤魔化していた。
 やがて二人の顔色が赤く染まりつつある頃、彼は熱い吐息を出し、胸元を緩める。
「何だか熱くなってきましたねぇ」
 しかしそう言う彼の顔は軽く赤みがさしているだけ。酒笊々を使っているのか飲んでいる酒の量は多いのに、酔っているようには見えなかった。だが夜春を発動し始めたのか、縁とゼスの眼には彼が異様に色っぽく映り始める。
 けれどこうなることを予想していた縁はあらかじめ、五人全員に加護結界にて防御と抵抗を上昇させていた。それでも間近で夜春を使われては、その効果も薄れてしまう。
 ゼスは彼に眼を奪われながら、微笑みを浮かべる。
「それにしても花魁という存在は良いものだな。とても美しく、その…羨ましく思う」
「羨ましい?」
「ハッ! いっいや、何でもない!」
 つい女性としての意見が出てしまったおかげで、ゼスは彼から視線を外す。
 滅多に見られないゼスの表情を見ていた縁だが、ゼスに視線で『後は頼む』とお願いされ、彼の盃に酒を注いだ。
「ままっ、一杯。にしても今日は良い夜だ。姐さんのような美人と一緒に呑めるなんざぁダチに自慢ができる。天儀中を探しても、姐さんのような美人はいないだろうよ」
「まあお上手」
 楽しそうに話をする縁と彼の姿を見て、ゼスは少し複雑そうな表情を浮かべる。
「縁もやはり男だな…。…しかし何で胸がざわつくんだ?」
 首を傾げるゼスだが、その理由は分からなかった。


●説得と戦闘
 その後も飲み続けた結果、二人は眠ってしまい、彼は一人でコッソリと店から出る。
「――彼らの財布、返してくれないかな?」
 そこへケイウス、ラグナ、Kyrieの三人が彼の前に立ち塞がる。一瞬、顔をしかめた彼だったが、すぐに作り笑いを浮かべた。
「何の事でしょうか?」
「悪い事ってさ、続かないものだよ。もう止めよう。あなたがこんな事をするのは誰も望んではいない。このまま続けたら、本当に大切なものを失ってしまう。今ならまだ戻れるから。取り返しがつかなくなる前に、子供達の所へ戻りなよ。俺は多くの戦いを見てきて、大切な人と二度と会えなくなってしまった人達のことを知っている。その別離の辛さを見てきたからこそ、あなたと子供達には最悪な形で離れ離れになってほしくないと強く思うんだ」
 ケイウスの言葉を聞いて、明らかに彼の顔色が変わる。
「お前ら…開拓者か。随分と俺のことを知っているようだな」
 低い男性の声を聞いても動じず、ラグナは真剣な表情で一歩前に進み出た。
「お前が養っている子供達は、お前が自分達の為に犯罪に手を染めていることを知ったらどう思う? 子供達を養う為に、もっと他にやることがあるはずだ。もう泥棒稼業は辞めるんだな」
「貴方が行っていることは罪です。捕まれば、死罪もありえるのですよ? 子供達を悲しませないよう、こんな事は止めるのです」
 続いてKyrieの説得を聞いて、ますます彼の眼がつり上がる。そして袖の中に両手を入れるのを見て、Kyrieはハッとして二人の前に出た。
「二人とも、下がってください!」
 彼が十字手裏剣を四枚、三人に向けて投げてきたのを、すかさずKyrieがジプシークロースを使って受け止め、地面に落とす。次に彼の体を捕獲しようとジプシークロースを向けるも、彼は空蝉を使い、Kyrieの視界を惑わせて逃れる。
 そこへ縁に解術の法をかけてもらい、夜春を解除してもらったゼスが短筒・一機当千を使って早撃ちで彼の足元を狙うが、酔いが回っている体では狙いがそれてしまう。
「くっ…! 飲み過ぎたか…」
「ちっ! 痛い目は見せたくなかったが止むをえまい! うさきちくんの正義の一撃を喰らえっ!」
 ラグナはうさぎのぬいぐるみを一つ手で引き抜き、ゼスに視線を向けていた彼の後頭部をポコンッ!と殴った。
 その様子を料亭の二階でゼスと共に見ていた縁は、酔いもどこへやらという感じで冷静な面持ちになる。
「…ラグナ、真面目か?」
「無論だ! 剣を使わぬよう、そして傷付けないようにする為には一番良い手段ではないか!」
「……そうか。だがそんなに間近にいると、夜春にかかるぞ?」
「おわっ!? そういうことはもっと早く言え!」
 慌ててラグナはKyrieとケイウスの後ろに隠れるものの、その顔色は赤い。
「あわわわ…! だっ騙されるな、私。アレは男だぞ? そそそうだ! アレは男アレは男…」
 二つのうさぎのぬいぐるみを胸に抱き締めながら夜春に必死に耐える姿を見て、仲間達は(ラグナは戦闘不可能)と同時に心の中で思う。
「…Kyrie、確か縁と同じく解術の法を使えたよね? ラグナを頼むよ」
「了解しました」
 ラグナをKyrieに任せ、ケイウスは詩聖の竪琴を使って闇のエチュードを演奏し、彼の抵抗力を下げようとする。呪歌を奏でている間に、彼は両手に二本ずつ飛苦無を持ち、ケイウスに向けて放った。
「させませんよっ!」
 しかしKyrieが再びジプシークロースを操り、飛苦無を弾き飛ばす。
 何とか演奏を終えたケイウスだったが夜春にかかってしまい、思わず彼に見惚れていたことに気付き、慌てる。
「あっ…相手は男! 男…なんだけど、綺麗な人だよね…」
 熱っぽく彼を見るケイウスを見て、Kyrieは心の中で(ケイウスさんも戦闘不可能)と思った。
「これ以上、仲間が夜春にかかると厄介ですね。ゼスさん、閃光練弾をお願いします!」
「分かった! みんな、眼を閉じろ!」
 Kyrieはラグナとケイウスの腕を引っ張り、彼から走って距離を取る。
 縁も部屋の奥へと移動し、ゼスは銃で閃光練弾を彼に向けて撃った。錬力を込めた弾丸が炸裂し、閃光を発する。
 その間にKyrieはケイウスに神楽舞・心をかけ、知覚力を上昇させた。
「くっ…!」
 彼は眼がくらむも業物を手にし、弱々しく構える。
 そしてケイウスは静かに夜の子守唄を奏で始めた。
 視界が効かない中、彼はまどろみを誘うゆったりした曲を聞き、徐々に体の力が抜けていく。最後には業物を地面に落とし、その身も落とした。


●戦闘後、新たに説得。そして転職へ
 彼が着ている物を肌襦袢まで脱がした後、包帯で手足を拘束する。そしてしっかりとゼスと縁の財布を取り戻した。
 彼が眠っている間に、Kyrieは閃癒で全員の傷を癒す。
 一時間が経過し、夜春の効果が消えた頃、彼は眼を覚ました。
「ああ、起きたね。縛っている手足は大丈夫? 包帯ならきちんと縛っても、痛くないと思ったんだけど。傷はKyrieが癒してくれたからね」
 すっかり夜春から解放されたケイウスは、晴れやかな顔で彼に話しかける。
「…俺をどうするつもりだ?」
「お前のことはギルドに引き渡す。けれど安心しな。ギルド職員達は子供達の味方だ」
 戦闘後、緊張が解けて眠ってしまったゼスの体を支えつつ、縁は意味ありげに微笑む。
「今逃げても、いつか必ず罰を受ける時がくるよ。そして報いを受けるのは、あなた一人じゃない。子供達をも巻き込んでしまうことが分かっているからこそ、必死に抵抗したんだよね? だったら今のうちに捕まっておいた方が良い。きっと大丈夫だよ」
「ケイウスの言う通りだと、私も思う。今ならギルド職員達が被害者達に上手く言って、被害届を下げてもらえる。もちろん、お前がもう二度とスキルを使った悪さをしないことが条件だがな。お前を待つ子供達の為にも、ここら辺で改心したらどうだ?」
 改めて二つのうさぎのぬいぐるみを背負ったラグナは、真剣な表情で彼に言い聞かせる。
 彼は顔をしかめたまま、開拓者達から顔を背けた。そんな彼の態度にケイウス、縁、ラグナは困ったようにため息を吐くも、Kyrieだけは彼に近付き、声をかける。
「稼ぐ方法を変えませんか? 貴方のその美貌を、別の形で活かしましょうよ」
「別の形…?」
「ええ。表現者…と言うと少し難しいですが、ようは舞手になるのです。今からやってみませんか?」


 そして花街の野外の舞台で、Kyrieは借りた楽器を演奏しながら歌をうたい、彼は舞手の衣装に着替えて舞を踊る。外ということもあって街を歩く人々が見に集まり、彼とKyrieの舞台を見ていく。
「Kyrieならではの稼ぎ方だね」
 ケイウスは感心しながら、舞台に視線を向ける。
「終わった後が大変だぞ。ちゃんと見物料を貰わんとな」
 ラグナとケイウスの手には、おひねりを入れる為の大きな竹かごがあった。
 Kyrieが教えた新たに金を稼ぐ方法とは、彼が美しい女装をして舞手となり、舞台などで踊りを見せる。そして見物人達からおひねりを貰うというもの。上手くすれば座敷に呼ばれ、そこそこ良い稼ぎが出来るだろうとのことだ。
 ケイウスは笑みを浮かべながら、Kyrieの考えに賛同するように頷く。
「目の付け所が良いよね。花街だと女性に良い格好を見せる為に、多くお金を出す男性はたくさんいるだろうし」
「そうだな。シノビならば動きが流麗だし、良い女の演技も上手い。短時間で稼ぐ事ができるから、早めに家に帰れるだろう」
「こういう所なら、お土産に美味しい物を買って行けるしね。…そう言えば、ゼスは大丈夫かな?」
 ケイウスは先に帰ったゼスと縁のことを思い出す。ゼスが酔いつぶれて寝てしまったので、背負って縁は花街から出て行ったのだ。
「ゼスのことは縁に任せておけば大丈夫だろう。そろそろ舞が終わるぞ。おひねりを貰う準備をしろ」
「あっ、うん」


 舞が終わって大歓声と大きな拍手が起こるのを背中で聞きつつ、縁はゼスを背負いながら苦笑する。
「…ったく。らしくねぇ事、するもんじゃねぇな。まっ、子供達の為ならばしょうがないか」
 心地良いぬくもりを感じながら、ゼスは眠りながらも微笑みを浮かべたのであった。


【終わり】