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■オープニング本文 ●祖父の宿題? 「いたた…」 「だっ大丈夫? 香弥」 「ああ、辰斗…。何とかな」 北面国の開拓者ギルドに、顔を押さえながらやって来た香弥は開拓者である。 そしてそんな彼女に付き添っているのは一般人の辰斗。二人は従姉弟であり、現在は婚約している。 ――が、香弥は女志士でもある為、辰斗よりもしっかりした性格をしていた――はずだった。しかし今はフラフラとよろけ、辰斗に寄りかかりながら歩いている。 「香弥どのに辰斗どの、どうした?」 そんな二人にギルド受付職員の芳野が声をかけた。 「あ〜、芳野さん…。実は私の手には負えないことがありまして…」 「詳しいことは僕からご説明しますので、あの…」 「ああ、個室が今空いているから、そっちに行こうか」 芳野は二人を奥の個室へと案内する。本来は気軽に使える部屋ではないが今日は使う予定がない為に、芳野は上の許可を得て使用することにした。 「手当はいるか?」 「もうしてきましたので大丈夫です。いたた…」 香弥の顔には今、赤・青・黄とアザが出来ている。明らかに何かにぶつかった傷跡だ。 「嫁入り前の娘さんが顔にアザを作るなんざぁ、よっぽどのことがあったんだな。対人トラブルか?」 芳野が声を潜めて尋ねると、二人は顔を見合わせて深く息を吐いた。 「ある意味、そうかもしれません。…芳野さん、僕の祖父の件を覚えていますか?」 「宝珠を使ったカラクリ洞窟を作ったじいさんか?」 「はい…。実はウチが経営する店の一つに鉱物専門店がありまして、建物が古くなってきたので今度立て直すことになったんです。それで店の物を片付けていましたら、祖父が使っていた部屋から宝の地図が出てきたんです」 「……また、か?」 「ええ…、『また』です。でも今回はちゃんと全て書かれてありますから」 綺麗な漆塗りの箱の中に、地図と共に宝の詳しい内容が書かれた説明書を発見したのだ。 「隠されている宝は鉱物です。真珠や琥珀、瑠璃などを隠したとありました。実際に僕と香弥の二人で行ってみたところ、地図に書かれていた場所に宝箱はありました」 店の裏は小山がある。その前に蔵があり、一番奥の壁はとある仕掛けによって開き、小山の中に入れるようになっていた。地図に書かれている場所に行くと、宝箱を見つけた。しかし箱は鉱物が入っているにしては大きく、首を傾げながらも辰斗が開けようとしたが開かなかった。 そして説明書の方をよく見てみると『開拓者が鍵』とあり、香弥が開けてみたところ…。 「突然『ぶーっ!』と音が鳴り、宝箱から赤くて丸くて大きな物が飛び出して、香弥の顔を直撃したのです」 現代風に言うと、びっくり箱のパンチバージョンだ。パンチは小玉スイカほどの大きさがあり、中には綿がぎゅうぎゅうに入っている。 宝箱を開けた途端にバネの力で飛び出してきたパンチを、香弥は無防備に受けてしまった為にこんな顔になった。 「でも全てがハズレってワケでもなかったんです。三つほど開けましたが、一つは正解で中からはこの『真珠の耳飾り』が出てきましたから」 そう言って辰斗は小さな布袋から美しい細工をされた真珠の耳飾りを取り出し、芳野に見せる。 ちなみに当たりの時は『ぴんぽーん!』と音が鳴ったと言う。 「…しかし開拓者しか開けられない宝箱って、どういうこった?」 「私が思うに、恐らく練力に反応しているんだと思います。宝箱に小さな宝珠みたいなものがありましたから」 「また宝珠かよ…」 香弥の話を聞いて、芳野はうんざりしたようにため息を吐く。 カラクリ洞窟も宝珠をふんだんに使った物だったし、今度は宝箱ときた。恐らく防犯の意味もあるのだろうが、そこで宝珠を使おうと思った辰斗の祖父の考えはよく分からない。 「…んで、辰斗どのは開拓者を雇って、その宝箱を全て開けてみたいと?」 「よくお分かりで」 本心では外れてほしかったと思いながらも、芳野は青白い顔色で大きく息を吐いた。 「実は無視できない宝が一つあるんです。…それは加工前の巨大な宝珠です」 辰斗が小さな声で言った宝の内容に、芳野の顔付きが変わる。 「その大きさはスイカほどの大きさがあると書かれています。もし本当にその大きさの宝珠があるのならば、流石に無視はできません」 「しかも加工前となると貴重で希少…。宝珠は昔、宝石扱いされていたみてーだし、そういう意味で隠されたのかもな」 小さな宝珠は宝箱を封印することに使い、大きな宝珠を隠すことが本来の目的で、鉱物はそのオマケみたいなものなのだろうと、芳野は考えた。しかし開拓者のみ開けられる宝箱の仕掛けはイマイチ意味が分からないが、それは取りあえず置いておくことにする。 芳野が考えている間に辰斗は懐から二枚の大きな紙を取り出し、芳野の前に広げ、説明を始めた。 「説明書には宝の種類が、地図には宝箱を置いてある場所が書かれていますが、どの宝箱に何が入っているかまでは書かれていません。なので一つずつ、開けていくしかないんです」 例えパンチに当たろうが、それでも探し出さなければならないだろう。今は無事でも今後、万が一盗まれでもしたら大変なことになる。練力を持つ者は何も開拓者だけではない。練力を持ちながらも開拓者にならず、その力を悪用する者だってこの世にはいるのだ。 「今回は負傷する可能性が高いことですし、報酬の方は増やさせていただきます。なので開拓者を集めてもらえませんでしょうか? 残りの鉱物もこのままというのは忍びないですし…」 「私からもお願いします、芳野さん。宝珠関係であれば、開拓者として黙っていられません」 辰斗と香弥は真剣な表情で、頭を下げる。 確かに宝珠関係であればギルド職員として、そして元開拓者としても黙っているわけにはいかないだろう。 「よしっ! 負傷するのを何とも思わない連中を集めてみるか!」 |
■参加者一覧
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●宝探し、開始! 「うっわあ! まるで遺跡みたいですねぇ」 仕掛け壁の向こうは開けた場所になっており、中の様子を見てアルネイス(ia6104)が驚いた。 「前のカラクリ洞窟と同じで壁に明かり用の宝珠が埋め込まれているけど、前よりもちょっと暗いかな?」 リィムナ・ピサレット(ib5201)が少し視界の悪さに顔をしかめる。 「地図を見る限り、そんなに広くないのがありがたいですね。何か問題が起こっても、すぐに戻れそうです」 宝箱の位置が書かれてある地図の写しを見ながら、ライ・ネック(ib5781)が言った。 「ですが道は細かく分かれていますし、宝箱も点在しています。最初に誰がどの道を選んで、どの宝箱を開けるか決めてから出発しませんか?」 緋乃宮白月(ib9855)の言う通り、すでに四人の目の前には最初の分かれ道が三つもある。 なので四人はまずここで、行く道と開ける宝箱を決めた。 「そういえば香弥さんの怪我を【レ・リカル】で治療したんだけど、かなり痛そうだったよ。ハズレた時の為に、何か予防策を考えた方が良いかもね」 リィムナはここへ来る前に香弥の顔を治療したのだが、色とりどりのアザを見て驚いたのだ。 三人は改めて腹を決め、地図の写しを持って出発する。 ●一回目の選択 アルネイスは三つある分かれ道の真ん中を選択し、更に真っ直ぐに進む。 「直進、直進〜♪ 宝は一番奥に眠っているものと相場が決まっていますよね〜。…でも正直、パンチは怖いです」 一つめの宝箱はすぐに見つけられた。宝箱はかなりの大きさがあり、何が入っているのかさっぱり分からない。 「でも大丈夫! 私に良い考えがあります!」 アルネイスは自信たっぷりに、宝箱の裏に回って蓋に手を置く。 「宝箱からパンチが飛び出してくるなら、裏側から開けたら受けずに済むんじゃないですかね? とりあえず、裏側からそ〜っと…」 開けた瞬間『ぶーっ!』とハズレの音が鳴り、蓋を掴んだままアルネイスは飛び出したパンチを顔面に食らってしまった。 「おっ思ったより…出てくるのが早かった、です…」 そして後ろにバッタリ倒れる。 「…何か今、ハズレた時の音が聞こえた気がするんだけど……早速誰かパンチに当たったのかな?」 分かれ道の左を選択し、更に左に進むリィムナはハズレの音を聞いて足を止めていた。しかしすぐに前を見て、歩き出す。 リィムナの周囲には【マシャエライト】の火球が明かりとなって、中を照らしている。 「それにしても辰斗さんのおじいちゃんに会ってみたかったもふー。きっとスゴク楽しい話ができたもふ♪」 語尾を「もふ」にしているリィムナは今、まるごともふえもんを着ており、その上に千早・如月を装備している。 「あっ、宝箱ってコレもふ? よぉーし!」 リィムナは特製の座布団仮面を顔に付けた。座布団仮面とは、眼と鼻の部分を開けた数枚の座布団を重ね合わせて紐で結び、顔を覆えるようにした物である。 「コレでパンチに当たっても大して痛くないもふ! 防御力アップもふよ! 開拓者の叡智もふ! ……でもこの座布団、カビ臭いもふ」 座布団仮面の材料は辰斗の片付け途中の店の物を使わせてもらったので、そこはしょうがない。 リィムナは思い切って、蓋を開けて見る。すると『ぴんぽーん!』と明るい音が鳴り、中から『琥珀の首飾り』を発見した。 「やったぁ♪」 「ハズレている方もいれば、当たっている方もいらっしゃるようですね。一筋縄ではいかないようですし、私も気をつけて進みましょう」 ライは松明を手に持ち、【暗視】で視力を上げて、【超越聴覚】で聴覚を研ぎ澄ませながら歩いている。ライは真ん中の道から、右へ行く道を選んだ。しばらくすると、目的の宝箱を発見する。 「さて、【忍眼】で注意力と正確性を上げておきましょう」 もしハズレた場合のことを考え、念には念を入れる。 そして軽く深呼吸した後、蓋を掴んで勢い良く開けた。しかしすぐに『ぶーっ!』と音が鳴ってパンチが出てきたので、慌ててライは後ろに身を引いて避けることに成功する。 パンチは一メートルほど伸びたところで止まり、後はバネの力で上下左右に滅茶苦茶に動いた後、止まった。 「…ふぅ。ハズレでしたが、とりあえず避けられて良かったです」 ライはほっと胸を撫で下ろし、次の宝箱へ向かうことにする。 「パンチが飛び出てくる宝箱、ですか…。気を付けないといけないですね」 最初に右の道を選び、更に右に進んでいる白月は地図を頼りに歩きながら、緊張した面持ちになっていた。 そして宝箱を見つけると、恐る恐る近付く。 「それにしても練力に反応する宝箱ですか。…何だか変わってますね」 ゆっくりと手を伸ばして蓋を開くと、『ぴんぽーん!』と音が鳴る。 「えっと…コレは当たりの宝箱だったのですね」 宝箱の中には『瑠璃の腕輪』が入っており、白月は取り上げた。 「…うん。持って帰って、辰斗さんにお渡ししましょう」 ●二回目の選択 「ううっ…。【治癒符】が使えて良かったです」 スキルの【治癒符】で顔を治療したアルネイスは、真ん中の道を歩き進んでいる。しかし再び宝箱を見つけると、複雑な表情を浮かべて足を止めた。 「くっ…! えーいっ! ハズレればパンチに当たるのはもう仕方ないです! 諦めます!」 覚悟を決めると足音高く近付き、蓋を力強く掴んで一気に開ける。しかし再び『ぶーっ!』と音が鳴り、真正面からパンチを受けるのであった。 「あうっ…」 「一回目は運が良かったけど、二回目はどうなるもふ?」 リィムナはあの後、左の道を選んで歩いている。 再び宝箱を見つけ、座布団仮面をつけた後、躊躇いもなく蓋を開けた。『ぴんぽーん!』の音と共に中に入っている装具品を発見して、満面の笑みを浮かべる。 「やったー! 今度は『パールネックレス』を見つけたもふ。キレイもふ〜」 「とりあえずここは他に罠や隠し通路はないようですね。宝箱もパンチが飛んでくる仕掛け以外は、特に何も無いようですし…」 今度は左の道で宝箱を見つけたライは、難しい表情で宝箱を見つめている。いろいろと探ってみたのだが、ハズレの宝箱を当てなければ安全であることを知った。 「怪我だけは避けたいですね」 そう言って再び【忍眼】を発動させて、蓋を開ける。しかしまたしても『ぶーっ!』と音と共にパンチが飛び出してきたので、ひょいっと避けた。 「…何だか避けるのに慣れてきました」 白月は不安げな面持ちになり、尻尾をくねくね動かしながら真ん中の道を歩いている。 「最初は当たりましたけど、次も運良く…とはいかないでしょうね。念の為に、スキルを発動しておきましょうか」 そして宝箱を発見した白月は【裏一重】と【運足】で回避能力を上げてから、蓋を開けた。すると『ぶーっ!』と音が鳴ってパンチが飛んできたので、回避能力を使って慌てて避ける。 「ふう…、危なかったです。やっぱりスキルを使ってて良かったです」 ●三回目の選択 アルネイスは最後の道も真っ直ぐに進んでいたものの、流石に二回連続ハズレては肉体的にも精神的にもダメージが大きいせいか、少々フラフラした足取りだ。 「さっ最後の宝箱です…」 ごくっと喉を鳴らし、最後の宝箱の前に立つ。 左の道を選んで進んだリィムナもまた、最後の宝箱を発見した。 「まだ肝心の宝珠が見つかっていないもふ。最後の賭けもふ!」 右の道を選んだライは【忍眼】を発動させながら、大きく息を吐いて静かに吸う。 「宝が出るか、パンチが出るか…。最後の選択です」 右の道を進んだ白月は緊張からか猫耳を後ろに倒し、尻尾の先端だけ小刻みに揺らしている。 「なっ泣いても笑っても、コレが最後です…!」 そして四人は一斉に蓋を開けた。 『ぴんぽんぴんぽんぴんぽーんっ!』 『ぶーっ!』 『ぶーっ!』 『ぶーっ!』 「…パンチが飛んでこない…ということは、当たりですか?」 蓋を開けると同時に目を閉じていたアルネイスは、恐る恐る目を開ける。すると宝箱の中にあったのは、スイカほどの大きさの宝珠だった。 「きゃあ〜! やった、やりました!」 目的の宝珠を見つけて、大はしゃぎするアルネイス。 ハズレてパンチを顔面で受けてしまったリィムナは、ふら〜とよろける。 「座布団仮面越しでも、結構衝撃がくるもふ…」 後ろに下がり、座布団仮面を外した。予想していた通り直接受けるよりは衝撃は少ないものの、地味に痛みを感じている。 そして三回ともハズレてしまったライだったが、【忍眼】を発動させていたので安心していた。 しかしおかしなことに、宝箱にはパンチがあるものの飛び出してこない。それは【忍眼】の効果時間一分を過ぎても変わらなかった。 「…もしかして、故障しているんでしょうか?」 そーっと宝箱の中に顔を近付けた途端、突然パンチが出てきて直撃する。 「ぶほぁ!」 運悪く顎にヒットした為、派手に後ろにふっ飛ぶ。 「何故ですかぁぁぁー!」 ぐしゃっと地面に落ちたライの上に、宝箱からパンチと共に飛び出してきた一枚の紙が落ちてくる。ライは震える手で紙を手に取り、読んでみた。 「『開拓者の中にシノビがいる場合、【忍眼】を使ってパンチを避けようとするだろうことを予想して、一分間の時間差攻撃をするハズレバージョンを作っておく』…って、そんなのアリですか…」 確かにパンチは【忍眼】の効果時間が過ぎた後に出てきた。 あまりに計算し尽くされたハズレバージョンに、少し感心しながらライは力尽きる。 「うぅ…! とても痛いです…」 白月はパンチが顔面直撃してしまい、猫耳と尻尾がふにゃっ…と垂れて、涙目になりながらその場にしゃがみこむ。 「本当に…辰斗さんのお祖父さまって、変わった人だったんですね…」 ●宝、発見後 「あっ、みなさん! 私、宝珠を見つけたんですけど……」 アルネイスは宝珠を持って蔵の外に出ると、負傷した三人と辰斗、香弥、芳野を見つけた。しかし開拓者の三人はぐったりしており、辰斗と香弥から水に濡らした手拭いを受け取ってそれぞれ顔や体を冷やしている。 「おお、アルネイスどのが大当たりしたか。見つかって良かった良かった」 芳野がアルネイスから宝珠を渡してもらい、用意していた箱の中に入れた。 「アルネイスさんもどうぞ。冷やした方が良いですよ」 香弥もすぐに駆け寄って来て、冷たい手拭いを差し出す。 「ありがとうございます。…イタタッ。気を抜くと、流石にちょっと痛みますね」 顔を冷やすアルネイスに、こっそり芳野が声をかけた。 「怪我しているとこ悪いんだけどな。ライどのが不意打ちを食らったらしく、結構ダメージが大きいみたいなんだ。スキルで治療してやってくれないか?」 「ええ、良いですよ」 ライは建物の影に青白い顔でぐったり倒れており、顎を手拭いで冷やしている。 「ライ殿、大丈夫ですか? 今、【治療符】で傷を癒しますからね」 「おっお願い、します…」 そしてライを治療するアルネイスを見て、その顔に色付きのアザを見つけたリィムナが慌てて走って来た。 「アルネイスも顔にアザがあるよ。今、治してあげるね」 「ありがとうございます。でもリィムナ殿や白月殿は? あなた達もパンチに当たったのでしょう?」 「あたしは大丈夫! 座布団仮面を顔につけてたし!」 「僕も大丈夫です。それに男の僕よりも、女の人の顔に傷がある方がイヤですので」 二人がここまで言うのならば、断るのも無礼というもの。アルネイスは苦笑しながら、申し出を受けることにした。 「それじゃあお願いします、リィムナ殿」 「うん! 任せて!」 こうしてアルネイスの傷は、リィムナが【レ・リカル】で治療する。 その後、開拓者達は見つけた装具品を辰斗に渡していく。しかしその中で、リィムナが引っかかっていることを辰斗に尋ねた。 「ねぇ、辰斗さん。地図を見る限りじゃあまだ宝箱はあるみたいだし、説明書の方に書かれてある宝も見つけていない物があるよ? そっちはどうするの?」 「目的の宝珠は見つけたことですし、そちらは後からということにします」 ここには今、建物を立て直す為に多くの人の出入りがある。辰斗はその為に盗まれる心配があったのだが、とりあえず宝珠を発見できれば良いと思っていたらしい。 宝珠の価値は、同じ宝箱に隠された装具品とは比べ物にならないぐらいに高い。装具品ならば盗まれてもしょうがないとある程度は諦めきれるが、宝珠であればそうはいかないのだ。 宝珠が見つかったことにより、辰斗の表情には安堵の色が浮かんでいる。 「あの宝珠はどうするんですか?」 治療を終えたアルネイスは、自分が発見した宝珠入りの箱を見ながら問いかけた。 「僕の手には余る物ですし、開拓者ギルドにお譲りすることにしました」 「まあ確かに一般の人が持っていても、仕方ない物ですしね」 「開拓者ギルドに譲った方が、安全です」 辰斗の答えに、納得したようにライと白月も頷く。 そこで何かを思い出したように、辰斗がぽんっと手を合わせる。 「ああ、そうだ。今回はお世話になった上に痛い目にも合わせてしまいましたので、報酬とは別にお礼の品も用意しましたので、後で芳野さんから受け取ってください」 「おっと、そうだった。報酬を渡す時にそれも一緒に渡すから、後で開拓者ギルドに来てくれ」 思いがけない嬉しい事に、四人は喜びの声を上げた。 こうして宝珠は開拓者ギルドへと引き取られた。 そして建物を立て直した後、改めて香弥達が地図に書かれてあった宝箱を全て開けたらしい。 見つけ出した装具品は辰斗の家で保管されることになり、練力に反応する宝箱はこっそり辰斗が自分の『おもしろコレクション』に加えたとか…。 【終わり】 |