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■オープニング本文 ●妖志乃からの挑戦状 北面国の開拓者ギルドで受付職員として働いている芳野は、曇天を見上げて険しい表情を浮かべる。 「桜が散る頃になると、途端に天気が悪くなりやがる。…だが今日はちぃっとばかり、気配が違うな」 「芳野さん、今からご出勤ですか?」 芳野に声をかけたのは、女志士であり開拓者の香弥だ。 「ああ。香弥どのは?」 「私は先日終わった依頼の報告をしに、ギルドへ行く途中です。よろしければ一緒に行きませんか?」 「…だな」 こうして二人はギルドへ向かって、共に歩き出す。 「芳野さん、険しいお顔をしていますが、どうかされました?」 「ん? …いや、昔の開拓者としての勘が、な。妙な気配を感じやがっているんだ」 まだ昼間であるはずなのに、曇りのせいで辺りは薄暗い。その上、生暖かい風が強くふき、桜の花びらを散らせていた。 「確かに…。今朝から鳥や動物達が騒いでいます。嵐でもくるのでしょうか?」 「う〜ん…。まあ春は天気が変わりやすいからなあ。…んん?」 芳野はふと、一人の若い女性がこちらに向かって来るのをその眼に映す。 どこにでもいそうな女性だが、その手には黒の漆塗りの箱を大事そうに持っている。そしてうつろな笑みを浮かべながら、芳野と香弥を真っ直ぐに見つめているのだ。 「芳野さん、後ろに下がってください」 香弥も女性のただならぬ気配に気付き、腰に差している刀に手を触れつつ、芳野の前に出る。 そして女性は、二人の前で立ち止まった。 「突然、失礼いたします。開拓者ギルドで受付職員をしていらっしゃる芳野様と、女志士であり開拓者である香弥様ですか?」 「…いかにも」 「そうですけど…あなたは?」 「妖志乃(あやしの)様より、あなた達へコレを渡すように言われて参りました」 女性は漆塗りの箱を、二人に向かって差し出す。 しかし女性の左手の薬指には、黒い指輪らしい物があった。そこから微かな瘴気を感じ取った香弥は目にも留まらぬ早さで刀を引き抜き、女性の黒い指輪を斬る。 「あっ……」 指輪は黒い煙となって消え、女性は急に意識を失って倒れそうになるのを、とっさに芳野が支えた。 女性が持っていた箱は、香弥がもう片方の手で受け止める。 「この女性、どうやら操られていたようですね」 「黒い指輪が操る道具だったワケか…。手の込んだ真似をしやがる」 二人はその後、女性を抱えてギルドへと向かった。 倒れた女性は念の為に、ギルドで抱えている医者に見てもらうことになった。 そして芳野と香弥は個室に入り、例の箱を二人で見つめている。 「…『妖志乃』とやらが、まず女性を操ったアヤカシと考えていいだろう。問題は人を操ってまで、何を持ってこさせたかだ」 「それはやはりこの箱を開けて見なければ、分からないことでしょうね。芳野さん、私が開けて見ます。万が一の時がありますから、出口に近い所に移動してください」 「頼むな」 芳野が移動した後、香弥は深呼吸をし、箱を慎重に開けた。 中に入っていたのは、一通の手紙。封筒の表書きには『親愛なる開拓者達へ』と書かれてある。 香弥は中の手紙を取り、読み出す。するとどんどん顔をしかめていった。 「香弥どの、何が書かれている?」 「……正直、信じがたい内容です。指定された日に、山奥にある村にアヤカシを向かわせ、襲わせると書かれてあります。アヤカシは化猪を十匹……体長が二メートルはあるアヤカシですから、もし本当に襲われたら村は全滅します」 「何だとっ!?」 芳野は慌てて、香弥の背後から手紙を見る。 「『アヤカシを倒すのもよし、村人を避難させて村自体は犠牲にするのもよし。ああそれとも我の言うことを妄言だと決めつけ、無視するのもまたよかろう。我の依頼は襲われるかもしれぬ村に対して、開拓者達の反応が見てみたい。どのような結末になろうとも、反応を見るだけだからのぉ』。くそっ…! ふざけてやがる」 手紙の内容から、開拓者を挑発しているのを感じた。しかも悪意ではなく、興味本位からの行動だと思えるから余計にタチが悪い。 「『報酬は箱の底にある。襲う予定の村の地図も入れておくし、日時も書いておく。後はお前達次第じゃ』」 芳野は再び箱に視線を向けると、確かに地図があり、その下には金がある。 「文面から見ると、年老いた女アヤカシのように思えますが…。でもやっていることはまるで子供のようですね」 香弥は戸惑いの表情で、手紙を何度も読み返す。美しくも達筆な文字は、まるで貴族が書く字のようだ。 「能力は何かを操るものだとすりゃあ、下級アヤカシぐらい朝飯前ってことか…。わざわざ予告してくれたんだ。受けて立たねぇとな」 「それに本当に村が襲われたら、とんでもないですしね」 「妖志乃…か。どんなアヤカシか知らねぇが、お前の挑戦、開拓者達が受けて立つぜ」 |
■参加者一覧
鳳・陽媛(ia0920)
18歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
アン・ヌール(ib6883)
10歳・女・ジ
瀏 影蘭(ic0520)
23歳・男・陰
源三郎(ic0735)
38歳・男・サ
クリス・マルブランシュ(ic0769)
23歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●村へ向かえ! ドドドドドッ…! 山道を、土埃をあげながら複数の馬が走る。 依頼を受けた六人の開拓者達は、香弥や依頼調役達と共に馬に乗って、妖志乃が指名した村に向かっていた。 「すでに依頼調役の数名が早馬で村に行っています! 私達も急ぎましょう!」 先頭を走る香弥の言葉に、後ろに続く者達は険しい表情で頷く。 「しかし妖志乃と名乗ったアヤカシは一体どういうつもりで、どんなアヤカシなんでしょうか? …でもまずは、村の方達を助けに行きませんと!」 鳳・陽媛(ia0920)は手綱を強く握り締め、真っ直ぐに前を向いた。 リィムナ・ピサレット(ib5201)は馬を操り、香弥の隣に並んで走る。 「香弥さん、先に向かった調役の人達は今回の件を伝えに行ったんだよね? どれぐらい前に行ったの?」 「向かったのは私達より前ですが、ギルドから村はかなりの距離がありますからね。到着してさほど時間は経っていないでしょう」 「そっか…。急がないとね」 「うう〜っ! 駿龍がいれば、もっと早く到着することができるのに…。そりゃあ馬は歩くよりずっと早いけど、もどかしいのだよ!」 アン・ヌール(ib6883)はじれったいと言いたそうに、悔しそうに唇を噛む。 襲われる予定の村はかなり山奥にある為、周囲の木々が邪魔となる。それに村自体が小さいせいで、体の大きな相棒達は着地することが不可能。 アンの隣を走る瀏影蘭(ic0520)は苦笑いを浮かべながら、声をかける。 「まあまあ。その代わりギルドが山道を走るのに慣れている馬や、大きな荷馬車も借りてきてくれたんだから我慢しようね」 そう語る影蘭自身が、荷馬車を引いていた。通常は引っ越しなどで使われる荷馬車だが、今日は村人を乗せる為に使うことになっている。 しかし影蘭はふと、遠い眼をしながら呟く。 「だがこんな真似をして、妖志乃とやらの狙いは一体何なんだろうね。挑戦状を見た限りでは、子供じみた遊び心を持つアヤカシっぽいけど」 「まったくだ! アヤカシ風情が舐めやがって! 何の罪もねぇ堅気の衆を巻き込んだとあっちゃあ許してはおけねぇ。ここは一つ、叩きくじいてやるとするかい」 影蘭の後ろで、同じく荷馬車を引く源三郎(ic0735)は鼻息も荒く、睨むように前を見据えている。 「その場に妖志乃がいればいいですけどね…」 源三郎の言葉を聞いて、クリス・マルブランシュ(ic0769)は小さく呟いた。 「やっていることはふざけていますが、操作能力を持っている厄介な敵ですしね。とにかく、村へ急ぎましょう!」 ●村に到着、化猪が来る前に… 「急いで来ましたが、妖志乃が指定した時間までもう間もないですね…。急いで取り掛かりましょう!」 香弥の一言で、六人はそれぞれ馬から下りて自分の役目を果たしに行く。 「陽媛さん、アンさん、荷馬車に乗る村人はあちらに集まっているようです」 香弥が指でさした場所には、不安そうな表情を浮かべる村人達がいた。主に女性や子供、そして年老いた人々が先に荷馬車に乗って、ここから離れることになっている。 すでに調役の者が説明していたので、最低限の荷物を持って広場に集まっていた。 「私はあの方達を安全に誘導する為に、超越聴覚を使います。三十分間、聴覚が研ぎ澄ませられますから、アヤカシが来た時はすぐに気付けるようにしておきます」 「あっ、俺様も笑顔を使っておこう。不安な時だからこそ、笑顔を見せて少しでも元気づけないとな」 二人はスキルを発動し始めた後、集まっている村人達の元へ向かう。 そして陽媛は村人達に向かって、軽やかな口笛をふいて聞かせる。スキルが使われたことによって、村人達の間に流れている暗い空気を和ませた。 「皆さん、私は開拓者であり吟遊詩人の鳳・陽媛と申します。皆さんを安全な場所まで誘導します。まだ予定の時間になっていませんし、慌てずに今から荷馬車に乗ってください」 「避難先はこの山を下りた所だ。大きな町があるし、他の開拓者も何人か来ている。そこに行けばまず身の安全は確保できるから、安心してくれ。案内として俺様と鳳様、それにギルドの人達が一緒に行く。俺様はよわっちいけど、みんなのことは絶対に守るからな!」 こうして村人達は、次々と荷馬車に乗っていく。 しかしアンは複雑な面持ちで、村を見回す。 「アンさん、どうかしましたか?」 「んっ…。できれば家畜や家も守ってあげたいなって思ったのだよ」 「そうですね…。できるだけ被害は出さないように努力するしかありませんね。しかし村人達が生きてここへ戻って来れるなら、大丈夫です。いくらでも何とかなりますよ」 「…だよな。そんじゃあそろそろ俺様達も行くとするか」 「はい。それじゃあ香弥さんに声をかけてきます」 こうして陽媛とアン、香弥と村人達を乗せて荷馬車は走り出した。 「いつもは農業に使っている道具は全部集めたね? それじゃあ化猪を入れる落とし穴を掘ろう!」 リィムナの一言で、クワやシャベルを持った村の男達は「おーっ!」と声をあげる。 「とりあえず村を囲むように落とし穴を掘っていけば、中に侵入する前に倒せると思うよ。あたしは超越聴覚を使って周囲を警戒しつつ、穴を掘っていくね。何かあったら呼子笛をふくから。あと穴を掘り終わったら、落とし穴だとバレないようにあたしが持ってきた八枚の茣蓙をかぶせて、その上から土をかぶせてね! 」 早口で言い終わると同時に、リィムナはシャベルを担ぎながら走り出す。 クワを選んで手に持った影蘭は、深いため息を吐いた。 「全長二メートルもある化猪を十匹落とすほどの穴を掘るのは、力仕事だし大変だねぇ。でも頑張って襲撃時間ギリギリまで穴を掘りましょうか。リィムナが言った通り、化猪の足元を崩せば倒しやすいと思うしね。…とその前に、人魂を使って符を鳥にして、視覚と聴覚を広げておこうかね。化猪が来た時、すぐに対応できるように」 影蘭は懐から黒死符を一枚取り出すと、術をかけて鳥にする。そして上空から村の周囲を見下ろせるようにした。 鳥になった式は、村の入口をその眼に映す。 そこには土だらけになりながらも、一生懸命にシャベルで穴を掘る源三郎の姿がある。 「話も道義も通じねぇ、アヤカシが相手だ。こっちも礼儀正しく迎え入れるつもりはねぇぜ」 ある程度の深さ・広さまで掘ると穴から這い出て、穴の上に茣蓙をかけ、その上に掘った土をかぶせた。 クリスは穴を掘って余った土を、家や家畜の前に積んでいる。 「コレで多少は被害を防げるでしょう。…しかしどこから化猪がやって来るのか、分からないのが困りますね。今回は村全体を囲むように掘っていますが、埋める時が大変そうです」 入口まで掘る為に、先に男性以外の村人を外に出したのだ。しかし戻って来る時に、うっかり村人が落ちてしまっては大変。戦闘が終われば、今度は埋める作業を大至急始めなければならない。 「…もし『次』があるとすれば、今度は襲ってくる方向も教えていただけるとありがたいですね」 冗談とも本気ともつかない言葉を言い、クリスは穴を掘る作業に戻った。 ●化猪、来襲! 最初に異変に気付いたのは、二度目の超越聴覚を使用している陽媛だった。 避難場所まで無事に到着した村人達を荷馬車から下ろし、安心させる為に口笛を吹いている最中だったが、物音を聞いて村がある方向を鋭く睨む。 遠くから地響きが村に向かっているのを、聴覚がとらえたのだ。 「鳳様、どうしたのだよ?」 「…アンさん、香弥さん、ここと村人の方達をお願いします」 二人に小さな声で告げると、陽媛は調役の者が乗ってきた早馬に素早く乗る。 真剣な陽媛の様子を見て、二人も真面目な表情で頷く。 「分かったのだよ。村の方は頼むのだよ」 「こちらのことはご心配なく。ここは私とアンさん、それに他の開拓者達と共に守ります」 「はい。では、参ります!」 次に気付いたのは、超越聴覚で地響きを聞いたリィムナと、鳥の眼を通じて化猪の姿を見た影蘭だった。 「…この激しい音はもしかしなくても」 「来た、ようね」 土だらけになりながらもリィムナは呼子笛を取り出し、強く吹く。 ピィーーー! 「来やがったか! アヤカシどもめ!」 「時間通りとは、意外に律儀ですね」 源三郎は男性達を村の中に避難するように指示を出し、クリスは金の懐中時計を取り出して見てため息をついた。 そして早馬で村に来た陽媛は入口で源三郎に落とし穴の位置を教えてもらい、馬に飛んでもらって中に入る。 「間に合って良かったですっ…! 早速ですけどみなさんに武勇の曲をお見せします。攻撃力が僅かに上がりますので、きっと戦闘にはお役に立ちます」 「あっ、あたしも黒猫白猫を使うよ! このスキルを使うと、みんなの素早さが上昇するんだから!」 陽媛とリィムナは仲間達の前で、化猪が村に到着するまでそれぞれスキルを披露し、陽媛はその後、男性達が隠れている村の中へと移動した。 「アヤカシは村の四方から来ている…。でも絶対に村の中には通さないよ!」 リィムナは村の入口から右手側の位置につく。 木々を倒しながら、巨大な化猪が鼻息も荒くこちらに向かって来る。まずは一頭めの化猪が、落とし穴に足を取られた。 すかさずリィムナはフルート・ヒーリングミストを吹き始め、魂よ原初に還れを演奏する。 「(でもまだ一頭め…。残り九頭は他の仲間達の所?)」 「うふふ…、期待を裏切らない直猛突進さね。さあ、お目当ての開拓者はこっちよ! いらっしゃいな!」 村の入口から左手側にいる影蘭は穴の前に立ち、まるで化猪を迎え入れるように両手を広げて見せた。 しかし影蘭の前には落とし穴があり、化猪はものの見事にハマってしまう。 すかさず影蘭は黒死符を一枚取り出すと幽霊系の式を召喚し、呪声を化猪の脳内に響かせた。 「本物の猪なら牡丹鍋にしたいところだけど、残念だわ。アヤカシはただ、消滅するだけだものね」 黒い瘴気を上げながら消滅していく化猪を見ながら、影蘭は口元に笑みを浮かべる。 「私達は今回こういう行動をしたわけだけど……満足かしら? どこからか見ている妖志乃さん?」 「こっちだっ! 化猪! かかってきやがれっ!」 村の入口にいる源三郎は咆哮を上げ、化猪の注意をこちらに向けさせた。 スキルにかかった一頭の化猪が穴に落ちると、後ろから来た二頭のうち一頭もまた穴に落ちる。 しかし残り一頭は、落とし穴にいる化猪を踏んで中に入って来た。 「仲間を踏み越えて来るとはな。さすがアヤカシ。だが足元がふらついているぜ!」 突進して来たものの、途中で足場が悪かった為に体をふらつかせている。 源三郎は業物を鞘から抜き、構えた。そして直閃を発動させ、化猪の横に移動すると首を全力で刀で突く。 化猪は断末魔の叫びを上げながら、消滅していった。 続いて穴に落ちた二頭の化猪も、源三郎は刀で斬りつけて倒す。 「ったく…。とんでもねぇ猪どもだ。牡丹鍋の材料にもなりゃしねぇとは、勿体無いぜ」 「ん? 何か今、妙な親近感を感じたような…」 先程、源三郎と似たようなことを言った影蘭は、キョロキョロと周囲を見回した。 「まったく…。馬鹿力ですね」 村の入口の裏側にいるクリスは、落とし穴を飛んでこちらへ来ようとした化猪をベイル・エレメントチャージを使って防ぎ、穴へと落とす。 そして鞘から抜いた刀・長曽禰虎徹で頭を貫き、倒した。 この行動を二回繰り返した為に、両腕がビリビリと痛んでいる。 「でもアヤカシである化猪って飛べるんですね。ある意味、勉強になりますよ」 突進から飛んでくるので衝撃はあるものの、それでも体勢を崩しているせいである程度は力がゆるむ。 そして三頭めがこちらに向かって来るのを見て、改めて構えた。 「できれば素直に穴に落ちてくれると嬉しいんですけどね」 苦笑しながら呟いた言葉は、次の瞬間、現実になる。 クリスを眼に映して興奮した化猪は、突然走る早さを上げた。だが注意力がそれてしまったので、そのままストーンと穴に落ちたのだ。 落ちた化猪の後ろ首を、クリスは刀で刺した。 消滅していくアヤカシを見ながら、大きく息を吐く。 「疲れますね…。さて、残りは何頭でしょう?」 「(あたしはコレで二頭め…。後どのぐらい残っているのかな?)」 リィムナは穴に落ちている化猪に、魂よ原初に還れを聞かせていた。 そして消滅するアヤカシを見て、フルートから口を離して軽く深呼吸をする。 「ふう…」 ――ほんの一瞬、気を抜いた時だった。 突如、化猪が現れ、穴を飛び越してリィムナに接近してきたのだ。 「あっ…!」 「リィムナ! 危ないっ!」 「リィムナ殿、下がってください!」 チェックシールドを持った影蘭と、ベイル・エレメントチャージを持ったクリスが駆け寄り、リィムナの前に並ぶ。 そして化猪を防ぎ、二人はそのまま盾を持つ手に力を込めて穴に落とした。 我に返ったリィムナは慌ててフルートを吹き、魂よ原初に還れを演奏する。 「おーいっ! 大丈夫か?」 源三郎も訪れ、四人はそれぞれ倒したアヤカシの数を報告し、予定通りの数を倒せたことを確認した。 「…まあ念の為に、私の式に周囲を見てもらっているけど」 影蘭は顔を上げて、村の周囲を飛んでいる鳥に視線を向ける。 「とりあえず近くにアヤカシはいないみたいだから、今のうちに治癒符で治療するわ。クリス、腕をかなり痛めているでしょう?」 「ああ、すみません。お願いします」 ●化猪は倒したが… 「…鳳様が行ってから大分時間が経つけど、大丈夫かな?」 アンは町から村を心配そうに見つめていた。 「そこのおねえちゃん」 「ん? 俺様のことか?」 呼ばれて振り返ると、小さな女の子が黒い漆塗りの箱を持ちながら立っている。 「コレ、妖志乃って女の人から、渡してほしいって言われたの」 「なにっ!?」 よく見れば箱は挑戦状が入っていた物と同じ。 アンは箱を受け取ると、女の子の様子を見てみたが、特に操られている感じではない。 「…ありがとなのだよ」 「うん!」 女の子は母親の元へ走って行った。 「とりあえず開けて見るのだよ。一体何が…」 箱をその場で開けたアンは一枚の紙をその眼に映し、険しい表情を浮かべる。 『一人の犠牲者も出さずに、化猪退治、お見事。金は迷惑をかけた詫びじゃ。村の者達に渡してくれ。では、またな。 妖志乃』 紙に書いてある通り、箱には大金が入っていた。 「ふざけやがって…! …でも金は村人達に渡しておこう。はあ…。とりあえずみんなが無事だったことが、最大の幸せなのだよ」 ――その後、開拓者達は掘った穴を埋めながら、どこか釈然としない気持ちにさせられた。 <次へ> |