お嬢様を護衛して!
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/24 15:42



■オープニング本文

「はあ〜…。退屈ですわねぇ」
「そう仰られても、外には出られませんからね」
 窓辺で美しい中庭を見ながらため息をついたのはジルベリア帝国の貴族の娘、レアー。十五になる彼女は、ジルベリア帝国から神楽の都にある知り合いの貴族の屋敷に遊びに来ていた。
 しかし一緒に来るはずだった両親は仕事の都合で来られなくなった上に、知り合いもちょっと都合が悪くなったと言って、せっかく訪れた神楽の都を案内してくれない。なのでレアーは屋敷の中で、何もしない日々を過ごしている。
「ねぇ、偲那。あなたはここが地元なんでしょう? 都を案内してくださいな」
 この屋敷のメイドとして勤める偲那は、レアーと歳が近い娘ということで、ここに来た時から世話役をしていてくれた。
「いけません。もう少しすればウチの旦那様や奥様も時間ができて、ご両親もお仕事が片付いてこちらにいらっしゃいますから。それまで辛抱してください」
「そう言われてもう一週間以上経つんですのよ? もう我慢の限界ですわっ!」
 せっかく高級なドレスを着ているというのに、レアーは両手足をバタバタと動かす。
 ――こういうところは子供だ、と偲那は表情一つ変えずに思う。
「はあ……とにかくわたしは旦那様と奥様からレアーお嬢様を外へ出さぬよう、きつく言われているんです。屋敷の中でできることならば何でもお手伝いしますので、外に出るのは諦めてくださいな」
「むぅ〜っ!」
 唇をとがらせ、不満を顔に出すレアー。しかしふと何かを思いついたように、両手をぽんっと叩く。
「それならばワタクシ、この神楽の都の娘の格好をしてみたいですわ」
「ああ、そのぐらいならば」
それなら出入りしている仕立て屋を呼び出し、レアーのサイズに合った服を持って来てもらえば良いと、偲那は安易に考えてしまった。
「では少々お待ちください」
「ええ」
 偲那が部屋を出て行った後、レアーはニヤッと笑う。


 そして一時間後、メイド服姿の偲那は大慌てで開拓者ギルドに訪れた。
「野衣ちゃーんっ! 開拓者を大急ぎで集めてぇ!」
「わっ!? しっ偲那、一体どうしたの?」
 半泣き状態でしがみついてきた偲那を宥めつつ、野衣は個室に入る。
「じっ実は今、ウチでお預かりしているお嬢様が逃げちゃって……」
 彼女が神楽の都の娘が着ているような服を着たいと言うので、仕立て屋を呼んでいくつか購入した。そして試着したいので部屋を出て行くように言われたが、いつになっても呼ばれないのを不審に思い、部屋の扉を開けてみたところ……無人だったのだ。
「お嬢様の部屋は一階の角部屋で、窓が開けっ放しだったの! そこから裏庭に出て、逃げちゃったみたいでっ…!」
「でもそれなら、お屋敷の人達を集めて探した方がよくない?」
「そっそれが…」
 偲那は言いづらそうに、語り出す。
 実は彼女の両親はジルベリア帝国で鉱山を代々管理する貴族の家の者だが、最近、商売敵と争いはじめているらしい。一人娘に危険が及ぶのを危惧した両親が、神楽の都に移り住んだ友人に娘を預けた。
「ゴタゴタが済むまで、とにかくお嬢様を外には出さないようにと厳命されているの。もしかしたらお嬢様を誘拐して、強引な取引を持ちかけてくる可能性もあるからって……」
「なるほど。だからここを頼ってきたのね」
 強引なやり方を好む相手ならば、屋敷の者では役に立たないかもしれない。こういう緊急事態に慣れている開拓者を頼ってきたのも分かる。
「でもさあ、いつそのゴタゴタは終わるのよ?」
「まだ分からないらしいの。決着はちゃんとつけるとは言っているみたいだけど……」
「でもだからと言って、ずっと屋敷の中に閉じ込めちゃ可哀想よ……そうね、どうせなら開拓者達にはお嬢様を見つけた後、開拓者とは名乗らずに一般人のフリをしてもらいましょう。そして神楽の都を案内しつつ、護衛も内緒でしてもらうっていうのはどう?」
「そっそんなことできるの?」
「ええ、きっと。開拓者ならば、ね」
 野衣は自信ありげに微笑んで見せる。


 その頃、身軽な着物ワンピースに着替えたレアーは、様々な店を見て歩いていた。
「わあ、ここが神楽の都ですのね! いろんな物があって目移りしてしまいますわ」
 楽しげに歩いているレアーの姿を、数メートル後ろから見つめる怪しい人物の影があった。


■参加者一覧
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
バロン(ia6062
45歳・男・弓
からす(ia6525
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
三条 忠義(ib9899
30歳・男・弓


■リプレイ本文

「しかしこうも広いと、どこへ行こうか悩みますわね」
「何かお困りですか?」
 道の途中で立ち止まり、困り顔で首を傾げるレアーにリィムナ・ピサレット(ib5201)が気軽に声をかける。
「あなたは?」
「あたしはリィムナと言いまして、ジルベリア帝国出身なんです。今は家族の仕事の都合でこっちに移り住んでいるんですよ。おねーさんは見たところあたしと同じ国の人みたいですし、よかったらこの神楽の都を案内しましょうか?」
「まあ、そうだったの。ではお願いしても良いかしら? ワタクシはレアー、ええっと…一人で観光に来たんですけど、どこへ行けばいいのか分からなくて困っていましたの」
「それならあたしのオススメの場所を案内しますね。…あっ、でも敬語は使わなくても良いかな? 実は使うのがちょっと苦手なの」
「ええ、良いですわよ」
 レアーに警戒されずに近付けた事に、リィムナは内心ほっとした。
 しかしそこへ村雨紫狼(ia9073)がナンパ男となり、レアーの目の前に現れる。
「やあ、お嬢さん! キミ、キャワユイね〜! 俺と一緒に遊ばない?」
「はっ?」
 ウインクと共にかけられた言葉で眼を丸くするレアーに見えないように、リィムナは一歩下がると肘鉄を紫狼の腹に入れた。
「うごっ!」
 リィムナはすぐにレアーの目の前に移動し、にっこり微笑みかける。
「ここは賑わっているから、こういう人もいるんだよ。気をつけて行こうか」
「えっええ…」
「あっ、待って!」
 仲間に見限られた紫狼は青い顔で腹を押さえつつ、慌てて二人に必死で自分が安全であることを説明した。十分後、何とか同行することを許され、紫狼は二人と共に歩き出す。
「まずは貸衣装屋さんに行こうか。試着するだけでも楽しいよ」
「天儀の衣装は素敵なのが多いですものね。楽しみですわ」
 大通りにある立派な貸衣装屋に三人は入って行く。そしてリィムナはレアーの手を引っ張り、いろいろな衣装を見て回る。
 紫狼が店の入口近くの壁に背を預けながら二人の様子を見ていると、バロン(ia6062)が客として入り、紫狼の近くにある衣装を見つつ声をかけた。
「とりあえず近付く事は成功したようじゃな」
「まーね。でもあのお嬢さん、年齢の割りには警戒心がなさすぎる。怪しい人物達も追って来ているようだし、そいつらの事は頼んだ」
「分かっておる」
 互いに視線も合わせぬまま小声で会話をし、バロンは店を出て行く。
 その頃、レアーはリィムナに勧められるまま、巫女、公家、天儀の花嫁衣装など次々と試着していた。
「わあ! レアーさん、綺麗! やっぱり女の子は花嫁衣装だよね!」
「あっありがとう。でも着付けって苦しいのね。化粧の方はどうかしら?」
「バッチリ!」
 いろいろと試着を繰り返した後、満足して三人は店の外に出る。
「そんじゃあ次は俺が案内する番だな。レアーちゃん、お腹空いてないか? ちょっと行儀が悪いかもしれねーが、歩きながら食べるってのはどうだ?」
「まあ、楽しそうですわ! 何を食べさせてくれますの?」
 意外にもレアーは眼を輝かせて、話に乗ってきた。
「歩きながら店を見て行こうぜ。…おっ、早速焼き鳥屋はっけーん!」
 まずは焼き鳥を数本購入し、三人で歩きながら食べる。そして肉まんを店先で売っている店も見つけ、また買って食べた。
「とっても美味しかったですわ! ああいう食べ物、ジルベリア帝国では食べられませんもの。…ですがちょっと味が濃くて、喉が渇いてしまいました。どこかに飲み物を売っているお店はありませんかね?」
 レアーが歩きながらキョロキョロすると、くすっと笑いながらからす(ia6525)が声をかける。
「何かお困りかな?」
「アラ、あなたは?」
 レアーと共にリィムナと紫狼も立ち止まるが、からすとは視線を合わせるだけで何も言わない。
「私はからすという者。まあ通りすがりの貴族のお嬢さんとでも思ってくれ。見たところ、神楽の都ははじめてのようだな。どうかな? 私で良ければ案内をしよう」
「それ、イイね! 人数が多い方が楽しいし!」
「女の子が増えるのは大賛成♪ ってことでレアーちゃん、良いかな?」
「えっ? あっ、はい」
 リィムナと紫狼の迫力に押され、レアーは頷くしかなかった。
 人の多い大通りを歩く中、からすはレアーに語りかける。
「人通りの多い所ではスリに気をつけると良い。私の家の者も心配して、こういった物を持たせるんだ。まあお守りみたいなものさ」
 そう言ってからすは腰に下げている大鉄扇を見せた。
 レアーが物珍しげに大鉄扇を見ていると、後ろから身を屈めた怪しげな男が一人近付いてくる。男は意識がそれているレアーに近付き、手に持っているお金入りの巾着袋に手を伸ばそうとした。
「甘いよ」
 バコッ!と音がすると同時に、男は股間を押さえながら倒れ込む。
「ほら、捕まえて」
「はっはーい…」
 からすに指示され、同じ男である紫狼は白い顔色で男を取り押さえる。
 スリの行動を見抜いていたからすはレアーを間に入れつつ大鉄扇を使い、【山猟撃】でスリの股間に容赦ない一撃を与えたのだ。
 一瞬の事で何が起きたか分からず首を傾げるレアー。リィムナはこっそりスリに向かって両手を合わせる。そして紫狼は駆けつけて来た同心に、スリの身柄を引き渡した。
「神楽の都の住人をなめない方がいい。こんな捕り物は日常的にあるからな」
 肩を竦め、からすは再び歩き出す。
 四人が芝居小屋の前に来た時、女性用の着物を着た華御院閧(ia0351)がレアーに声をかけた。
「あんさんら、観光客どすか? よかったらうちの舞台、見ていっておくれやす」
「えっ!? でっでも…」
 突然のことに戸惑うレアーに、今度は三条忠義(ib9899)が近付く。
「ほっほっほっ。それなら麿と同席するがよいぞ。一番良い席である正面桟敷を用意させたのじゃが、運悪く共に行く者の予定が悪くなったのでのぅ。良ければそなたら、麿と共に見物せぬか?」
「あたし、見てみたーい!」
「俺もー! 女装の技を盗みた…いだっ!」
 リィムナはともかく、紫狼の言葉は途中でからすが大鉄扇で紫狼の脛を打った為に途切れた。
「ああ、名乗るのがまだじゃったな。麿はやんごとなき生まれの三条忠義でおじゃる。よろしくな」
「うちは華御院閧と言います。歌舞伎役者をしとりまして、これから出番なんどす。楽しみにしといておくれやす」
 こうして忠義のおかげで、四人は一番良い席で閧の舞台を見ることになった。レアーはからすと忠義から歌舞伎の歴史を、リィムナと紫狼からは掛け声のやり方を教えてもらった。閧の見事な演技を見てレアーは感動するものの、からすから閧の性別が男であることを知らされ、思いっきり衝撃を受けるのであった。
 そして舞台が終わると、芝居小屋の前で閧は五人と合流する。
「これからうち、休みに入るさかい、レアーさんの都案内にご一緒してもええどすか?」
「それなら麿の行きつけの料亭に行くでおじゃる。無論、一般客が入れぬ個室を用意させるでおじゃるよ」
「天儀のお料理って美味しいですわね。食べてみたいですわ」
 そして忠義の案内で高級料亭に行き、美味しい和食を食べる。
 次にからすの案内で、衣料品店と装身具店が一緒になっている店へ向かう。
「ほう…。ここを知っておるとは、おぬしもなかなかでおじゃるな」
 豪華で立派な建物を前に、忠義は感心したようにからすを見る。
「ふふっ。ここには良い物がそろっているからね。お土産も買った方が良いだろう?」
「ええ!」
 買い物と聞いて、レアーの笑顔が輝いた。長い時間をかけて買い物を楽しんだ後、レアーはふとモジモジしはじめ、真っ赤な顔になってからすにこっそり耳打ちする。
「…ああ、厠なら店の外に出て裏側にあるよ。荷物は私達が預かっておくから、リィムナ、付き添ってやってくれ」
「分かったよ。一緒に行こうか、レアーさん」
 リィムナと共にレアーは外の厠に向かう。しかし店の裏にある厠を見かけると、レアーは恥ずかしそうにお願いをしてきた。
「あの、ここで待っててくれます? 流石に間近に来られるのは…」
「そお? 分かったよ」
 リィムナが立ち止まったので、レアーは小走りで厠に行く。
「大通りから外れているから大丈夫だと思うけど…」
 と、リィムナが視線を大通りに向けた時だった。ドサッという音が聞こえたのは。
「レアーさん、大丈夫?」
 心配になったリィムナが厠をこっそりと覗いてみるが、無人だった。
「ヤバっ…! みっみんなぁ〜!」


 バロンとも合流した五人だったが、どうやらレアーを追っていた人物には仲間がいたらしい。五人と合流するまで、見張っていた者達は目の前にずっといたと説明する。
 とにかくレアーは攫われてしまったので、六人はバラバラになって捜索を開始した。捜索中、リィムナ、バロン、からす、閧の四人は偶然合流する。しかしその時、大通りから外れた裏通りを、気を失ったレアーを抱えて走る者の姿をバロンが発見した。
 こっそり追って行くと、人気のない広い草原へと到着する。そこに集まったのはジルベリア帝国の若い男性剣士が五人と、魔術師の姿をしている少し年老いた男性が一人。
 開拓者達四人はそれぞれ目配せをし、戦う準備を整える。そしてバロンを先頭に、ゆっくりと誘拐犯達の前に姿を現した。
「おぬしら、そこのお嬢さんを返してもらえんかね?」
 突然声をかけられ、魔術師以外の剣士達はびくっと体を揺らす。
「素直に返してくれるのならば手荒な真似はすまい。しかし返してくれぬのなら…」
 最後まで言い終わらないうちに、剣士達は互いに頷き、剣を抜いて襲いかかってきた。
「やれやれ、素人共が。わしの弓術は近付けばどうにかなるほど甘くはないぞ」
 バロンは険しい表情を浮かべ、弓の幻を構える。そして【狩射】にて回避と攻撃能力を上げ、【月涙】によって薄緑色の気をまとって飛んだ矢は剣士の剣を砕く。次に【六節】で素早く次の矢をつがえ、【月涙】で魔術師を狙って射つも、その前に庇うように出て来た剣士の右肩に刺さった。
「ふむ。見上げた騎士道と言いたいところじゃが、人攫いは褒められぬな」
 負傷した剣士が斬りかかってくるのを、再び【狩射】で回避する。しかしその剣士はリィムナの【アムルリープ】にて眠りに落ちてしまった。地面を見ると、バロンが剣を砕いた剣士も同じように倒れて眠っている。
「ふう…。呪文を立て続けに唱えると口が渇くよ」
 リィムナは渋い表情で舌を出す。
 閧は【紅焔桜】で攻撃、命中、回避を上昇させ、黒夜布のレイラを使い、【瞬風波】にて直線上にいた剣士の一人に風の刃を浴びせ、気絶させた。だが向こうの魔術師が【アイヴィーバインド】を使い、地面から魔法の蔦と草を伸ばして閧の体を絡め取ろうとした。
「くっ…!」
 閧は再び【紅焔桜】を発動させ、レイラも使って蔦や草を斬り刻んで逃れる。しかし隙をついて後ろから剣士が斬りかかってきたが、リィムナの【アムルリープ】で眠りながら地面に倒れた。
 ほっとするのも束の間。リィムナは魔術師が【アルムリープ】の呪文を唱えていることに気付き、慌てて魔術師の近くにいる閧に声をかけた。
「気をつけて! 今度は【アルムリープ】を使うつもりだよ!」
 振り返った閧はすぐさま抵抗力を上昇させる【苦心石灰】を発動すると、ちょうど魔術師の【アルムリープ】が発動し、閧の周囲に灰色の地場が形成された。
 ことごとく攻撃を防がれた魔術師の眼に、危険な光が宿る。そして精霊武器を掲げて【メテオストライク】の呪文を詠唱し始めたのを見て、同じ魔術師であるリィムナの顔色が悪くなった。
「わあーっ! あのスキル、【メテオストライク】は火炎弾が召喚されて、敵に目掛けて放たれると大爆発を起こして周囲一帯を吹き飛ばしちゃうよ!」
 大声の説明を聞いて、三人はぎょっとする。
 すでに魔術師の頭上には火炎弾がその姿を現しつつあった。
「急いで止めんと!」
 閧は再び【紅焔桜】を発動させて魔術師目掛けて走り出すも、目の前に最後の剣士が立ち塞がる。
「くぅっ!」
 仕方なく剣士の相手をすることになった。
「全く、物騒なスキルだな」
 その間にからすが呪弓の流逆を使い、【六節】を発動させながら魔術師の手を狙って矢を連射する。魔術師は詠唱しながらも僅かな動きで避けようとするものの、矢は腕や肩に突き刺さるがそれでも詠唱を止めない。
「なら、コレでどうだ!」
 リィムナは【アークブラスト】の電撃を、魔術師の持つ精霊武器に目掛けて放った。見事命中し、精霊武器は粉々になって砕け散ったものが、火炎弾の様子が一変する。炎が白くなったかと思うといきなり上昇し、爆発したのだ。熱風と衝撃が起こり、全員が地面に伏せる。
 そして静かになっていくと、ふとレアーの存在を思い出した。彼女は確か、魔術師の後ろの地面に寝かされていたはずだ。顔を上げて見ると、魔術師と最後の剣士は吹っ飛び、気絶して地面に転がっていた。レアーの上には駆け付けた紫狼が覆いかぶさっているのを見て、安心のため息を吐く。
「ふう…。危機一髪でごじゃったな」
 忠義も息を切らしながら、到着する。
「……いや、結構ダメージは受けたから」
 紫狼は割と近くから熱風と衝撃を受けた為に、負傷していた。リィムナが慌てて駆け寄り、【レ・リカル】を使って回復させたのであった。


「恥ずかしいわ。疲れて厠の外で眠ってしまったなんて…」
 リィムナに気を失っていた時のことを話され、レアーは顔を真っ赤にする。もちろんそれはウソで、本当はここまで紫狼が背負って運んで来たのだ。
 二人が大通りに戻ると、バロンが声をかけてきた。
「遅れてすまなかったな」
「あっ、バロンさん! レアーさん、この人はあたし達と同じジルベリア帝国の人で、あたしの知り合いなの」
「そうなの。はじめまして、レアーと申します」
「はじめまして。いや、道に迷ってしまってのぉ。歳のせいか、物忘れが酷くなって困るわい。お詫びに皆に甘い物でも奢ろう」
 本当は偲那の屋敷に捕まえた六人の身柄を引き渡すのに時間がかかっていたのだが、もちろん黙っておく。
「わーい♪ じゃああたし、みんなを呼んでくるね!」
 こうして七人で甘味屋に寄った時にはすでに、夕日が沈みかけていた。食べ終える頃に、偲那が店に入って来る。
「お嬢様、もうそろそろ帰りませんか?」
「…ええ、もう充分に満足しましたわ」
 そして六人は甘味屋の前で、レアーと別れることになった。
「皆さん、今日はありがとうございました。おかげで楽しい一日を過ごすことができました」
 そう言って深々と頭を下げたレアーに、からすは大きな紙袋を手渡す。
「中には先程購入した服に装具品、それに菓子も買って入れておいたから後で食べると良い」
「ありがとうございます」
 こうしてレアーと偲那は屋敷へ向かって歩き出した。


【終わり】