【混夢】巨乳パニック!
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/01 02:49



■オープニング本文

※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 シノビを住人とする陰殻王国の開拓者ギルドで受付を担当する利高は、酒飲み友達の香椎(かしい)と受付場で向かい合っていた。香椎は利高と同じ歳の男性でいつもはサッパリとして明るいのだが、今は暗雲を背負っている。
「なあ…利高も男ならば、やっぱり大きい胸は好きだろう?」
「はっ? まっまあな」
 利高は僅かに頬を赤く染めるものの、問いかけた香椎の表情はとても暗い。
「…実は、な。ウチの兄貴が働いている屋敷の敷地内にいると、老若男女問わず胸がデカくなるんだ」
「………はい?」
 言われたことを理解するのに、たっぷり十秒はかかった。
「兄貴が働いている屋敷の主人は現在六十歳の男でな。はっきり言えば、女性の大きい胸が大好きなんだ。しかもそれは血筋らしく、代々巨乳好きときている。そして主人の先祖は元々一流のシノビだったらしく、様々な忍術を作り出した天才だったという」
 物凄く遠い目をしながら、香椎は淡々と語る。
「ある日、その先祖は『老若男女問わず胸が大きくなる術』を開発した。その術にかかった女性は元々の大きさから更に大きくなり、そして恐ろしいことに男まで胸ができてしまうという。しかもその先祖、その術を宝珠に何らかの方法で封じ込めた。そして主人が蔵を片付けている時にそれを見つけ、術が発動する呪文も知ってしまったんだ。その日から、主人以外の使用人達はみな巨乳になったという…」
「そっそうか…。それで術が発動するのは屋敷の敷地内だけってことなんだな。…というか、大丈夫か? 顔色が白いが…」
「大丈夫大丈夫」
 しかしその表情は強ばったまま固まっており、とてもじゃないが大丈夫には見えない。
「俺がそれを知ったのは、兄貴が家に帰って来なくなり、いきなり住み込みになったからだった。兄貴は昨年結婚して、もうすぐ子供も生まれる。もしかしたらあっちで他の女と良い仲になったのではないかと義姉に言われて、屋敷に行ってみたんだ」
 そして見てしまったのだろう。――実の兄が女性のような巨乳になっているところを。
「そっそれで?」
「主人に隠れて、敷地の外で話を聞いた。しかし先程も説明した通り、胸が大好きな主人だからな。使用人達をそういう姿にしてしまった代わりに、給金を上げたらしい。兄貴は子供を育てる為の資金を一気に稼ごうとしているみたいなんだ。だから赤ん坊が生まれるまでは、帰らないと言ってきた」
 そこでようやく香椎は表情を解き、深く息を吐いた。
「今、嫁さんは俺の実家にいる。実家にはウチの両親がいるし、妹もいて面倒を見てくれている。義姉の実家も近所にあるからって、兄貴のヤツ…」
「でもそんなに周囲に人がいるのに、一気に稼ぐ必要あるのか?」
「…ああ。実は今は実家住まいだが、どうやら義姉や子供と一緒に新しい家に移り住みたいらしい。まあウチは平屋の一戸建てだが、ボロいし狭いからなぁ」
 何でも結婚してすぐ子供ができてしまったので、引っ越すタイミングを逃してしまったらしい。
「俺や身内は気にしないが、やっぱり兄貴は男としてのプライドがあるんだろう。早く自分一人の稼ぎで嫁さんや子供を養いたいのさ」
「だが子供が生まれたら、今の所は辞める気なんだろう? 次の働き口は見つかっているのか?」
「一応…な。でも今の所ほど給金は良くないし、場所も少し遠いらしい。だから本当のことを言えば、今の所で働き続けた方が良いのさ」
 香椎の兄、椎名(しいな)は使用人として子供の頃から働いているので、今ではすっかり中堅になっているらしい。待遇も良く、慕ってくれる人も多い。主人の巨乳好きをのぞけば、良い職場だと言える。
「だが例の忍術のせいで、辞める気はある。職場だけとはいえ、女性の胸がある父親なんてみっともないとは思っているらしいからな」
「なるほど。――で、開拓者ギルドに何を頼みにきたんだ?」
 そこで利高はようやく本題を切り出す。
 すると香椎の表情も、真剣なものへとなった。
「さっきも説明したが、術を発動しているのは宝珠だ。開拓者達はまず例の屋敷へ潜入してもらい、主人が隠し持っている宝珠を破壊してほしい」
 そうすれば胸は元通りになり、椎名も仕事を辞めずに済む。
「…って、ちょっと待て。女性開拓者ならともかく、男性開拓者までその…胸ができてしまうんだよな? しかも巨乳サイズ」
「そうだ。説明しただろう?」
 あっさりと香椎は切り返すが、利高の表情が引きつった。
「宝珠を壊す代わりに、男として大切なものを失いそうなんだが……」
「しかし開拓者ギルドとしても、そういう宝珠の使い方は認められないだろう? しかも使われているのは忍術を封じた物だぞ? シノビの国の恥となるじゃないか」
 ザクッ!と言葉の刃が利高の胸を貫いた。そういう正論だけは、聞きたくなかったのだ。
「なっ? 頼むよ。陰殻王国の恥部は早めに始末しといた方が良いだろう?」
「ううっ…! 分かったよ。とりあえず開拓者を集めてみる」


 ――と言うことで、巨乳になりたい開拓者よ。集まれ(笑)


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
桂樹 理桜(ib9708
10歳・女・魔


■リプレイ本文

 屋敷の裏戸の前で、四人の開拓者達は息を飲む。
「それでは皆の者、準備は良いな?」
 神町桜(ia0020)は緊迫した面持ちで仲間の顔を見回す。その額には緊張からか、一筋の汗が流れた。
「ええ、覚悟はできておるどす」
 華御院閧(ia0351)の性別は男性だが、今回は京美人の女装をしての侵入だ。
 ワクワクしながら屋敷を見上げるエルレーン(ib7455)は、ソワソワと体を揺らす。
「こっ…ここが巨乳になれる場所…。はっ早く行きましょう!」
「わーい、巨乳! 理桜、巨乳大好き♪」
 桂樹理桜(ib9708)が大興奮する姿を優しい眼で見ていた桜だが、ふと人の気配に気付いて真顔になる。
「しっ! どうやら家の者が来ておるようじゃ。これからは『開拓者』であることは口に出してはならんぞ」
 桜の一言で、三人は口を閉じて真面目な表情になった。
 そして間もなく、若い女中が裏戸を開けて姿を見せる。女中の大きな胸に、思わず四人の視線が釘付けになった。
「今日からここで働く四人の女性の方ですね?」
「はい。こちらが紹介状どす」
 四人の中で年長に見える閧が懐から書状を取り出し、女中に差し出す。中身を読んだ女中は深く頷き、真剣な面持ちで四人を見た。
「もう聞いているかと思いますが、この屋敷の敷地に入った途端、胸が大きくなります。しかし一歩でも外に出れば、元の大きさに戻ります。この事はくれぐれも他言無用でお願いします。その為の高い給金なんですから」
 女中の言葉に、四人は深く頷いて肯定を示す。
「では中へどうぞ」
 女中が道を開けてくれたので、四人は恐る恐る敷地の中へと足を踏み入れる。するとボインっ!と一気に四人の胸が膨らんだ。
 小柄な体に巨乳という少々不釣り合いな体付きになった桜は、それでも嬉しそうにニヤける。
「クククッ…! 念願の巨乳になったぞ! …それなのに宝珠を破壊せねばならぬのは複雑じゃのう…」
 前半の言葉は大きく、後半は女中には聞こえないぐらいの小さな声で呟く。
 閧は小玉スイカぐらいの大きさになった自分の胸を下から持ち上げ、ほぅ…とため息を吐いた。
「パット入りの胸では限界がありやしたし、一度巨乳というもんを体験したかったんどす。これはなかなかに貴重な体験どすなぁ」
 女性としての演技が向上しそうなことと、はじめての胸の柔らかさと重みを感じ、少し感動する閧。
 その近くではエルレーンが涙を浮かばせながら、うっとりしていた。
「あはぁ…。この巨乳、すっ素敵なの…! …でっでも人助けしないとね。…宝珠を壊して、椎名さんを巨乳から開放しなくちゃ。…ああっ! でもスゴイ揺れる! この胸、揺れてるぅ!」
 感激するあまり、エルレーンの眼からは涙がこぼれ落ちる。涙は揺らしている胸の上に落ちて弾け、それを見てエルレーンは嬉し泣きをした。
「やったー! 理桜がきょにゅーになったぁ!」
 メイド服を着ている理桜だが、上着がキツくなるほど大きく膨らんだ胸を見て、触ったり自分自身を抱き締めたりして、全身で喜びを表現している。
「…あのぉ、みなさん? もうそろそろ気は済みましたか?」
 女中に声をかけられ、四人は依頼を思い出し、ハッと我に返った。
「ごっごめんなさい…。ところでこの屋敷の主人に挨拶をしたいんだけど…」
 エルレーンが上目遣いで女中に声をかけるも、首を横に振られる。
「残念ですが、今は仕事中ですので会わせられません。夜になればお時間ができるそうなので、その時に四人まとめてご挨拶をしてください」
「はーい♪」
 理桜の緊張感のない返事に脱力しながらも、女中は四人を屋敷の中に招き入れた。


 まだ陽が昇っているうちは、四人は普通に新しい使用人として働く。そこで昔からいる使用人達に話を聞き、情報を集めた。
 そして夕方、屋敷の主人に挨拶する為に、他の使用人達よりも先に夕食を食べる。その後、風呂に入るように言われ、桜、エルレーン、理桜の三人は使用人専用の露天風呂に入ることにした。流石に男性の閧は遠慮し、庭に面する木竹の仕切り垣越しに会話に参加する。幸いなことに他の使用人達はまだ仕事があるとのことで貸切状態だ。なのでゆっくりと四人で話ができる。
「うぅ〜む。ここまで大きいと、ちといつもと勝手が違うのぉ。使用人として働いている間はちいっと邪魔じゃったわ」
 髪を洗いながらも、桜は首と肩をコキコキと鳴らす。
「ああ、そうそう。宝珠を守る為に雇われたシノビのことじゃがのぉ。男達で数は五人ほどいるらしいが、どこにいるかまでは分からなかった。こちらで調べられた情報はこんなもんじゃ。…しかしやはりこの巨乳は夢じゃないのじゃな」
 自分の体を見下ろしながら夢見心地に語る桜。胸から下の体が見えないことに、感動を感じているようだ。
「うちが聞いたところによると、宝珠のある場所はやっぱりご主人しか知らんようどす。ここはやはり、色仕掛けしかないと思うて」
 閧が声を潜めながらも、三人に聞こえる声で告げる。
「うっう〜ん…。できるならずっとこのままでいたいけど…困っている人…特に男性が多いし、頑張らなくちゃね。私の集めた情報だと、屋敷の奥に主人の住居があるみたいなの…。玄関から手前の方はお客様をもてなしたりする場所で、今いる中心部分が使用人達の住居スペースで、その奥が主人のスペースだから……多分、宝珠はそこじゃないかなぁ」
 エルレーンは昼間、歩き回った屋敷の中の構造を思い出しながら説明した。しかしふと視線を感じてそちらの方を見ると、理桜がじぃ〜っと胸を見ながら小さな両手の指を曲げたり開いたりを繰り返している。
「理桜もそれ、聞いたよ。何でも主人の信頼厚い使用人達しか立ち入ることができないスペースなんだって。新しい使用人は最初の挨拶以外、立ち寄ることもできないみたいだからそこが怪しいかもね」
 と言いつつも、怪しい視線をエルレーンの胸に向け続ける理桜。
「あっあの…何かな?」
 不気味な雰囲気に身の危険を感じたエルレーンは後ずさりしようとした。が、理桜の眼がキラーン☆と光る。
「うへへへ! お胸にスキンシップ〜♪」
 ――その後、エルレーンと桜の悲鳴、それに理桜の楽しそうな高笑いが聞こえてきたので、閧はこっそりその場から去った。


 閧は女湯の隣の男湯がたまたま無人だったのでこっそり入浴した。そして主人に色仕掛けをする為に化粧をし、胸元を大きく開いたりして準備をする。
 そして廊下に出ると、身奇麗にはなったもののグッタリしているエルレーンと桜、それに着ているメイド服の胸元を開けて胸を見せようとしている理桜の姿があった。
「済まぬが色仕掛けはおぬしに任せた…」
「もう…私達にはそんな力……残っていないから…」
 二人を力尽きそうにした当の理桜は、ちょっと残念そうに胸を押さえている。
「あ〜あ。本当は胸に何にも巻かないでいたかったんだけどなぁ」
「ダメじゃ! 胸は寄せてこそボリュームがあるように見えるというもの!」
「そのままじゃ…だらしなく見えるわよ」
 どうやら桜とエルレーンの二人からダメ出しをされ、胸にサラシを巻いてボリュームを出したようだ。
「はあ…。とりあえず挨拶に向かいまひょ」
 

「おう! お前さん達が新しい使用人か。まだ慣れぬことは多いだろうが、徐々に慣れていくと良い」
 はじめて会った屋敷の主人は六十過ぎてもひょうひょうとして明るく、好好爺に見える。
「何かあればこの椎名という男を頼ると良い。古株だし、ワシが信頼を置いている男じゃ」
 側には話に聞いていた椎名がいたが、四人は愛想笑いを浮かべて軽く頭を下げるだけ。
 椎名は男性なのに巨乳なことをよくは思っていないらしく、それが気まずそうな表情から読み取れた。
「あの、旦那様。実は私、マッサージが得意なのです! いかがですか?」
「ん〜そうじゃのぉ。なら肩でも揉んでもらおうかのぉ」
「それならウチは旦那様の腕でも揉みまひょか?」
「ああ、頼むぞ」
 こうして桜とエルレーンは一旦部屋から出て、理桜と閧が部屋に残って主人にマッサージをし始める。
 理桜は胸をぐい〜っと主人の背に押し付け、谷間を見せるような格好をした。
「ねぇ、旦那様ぁ。理桜、もっとお胸を大きくしたいんですぅ。旦那様のお力で何とかなりませんかぁ?」
 猫なで声を聞いて振り返った主人の眼に、理桜の谷間が映る。そして次に理桜の顔を見るなり、主人は真顔になった。
「今は焦らず、ゆっくり五年の月日が過ぎるのを待つと良い」
「ほぎゃっ!?」
 外見年齢十歳の理桜はそのまま撃沈。仕方なしに閧は声なく咳払いをすると胸を寄せ、主人に上目遣いをし始めた。


「宝珠のある場所が分かりましたえ」
 ぐずる理桜の手を引きながら、苦笑を浮かべる閧が桜とエルレーンに合流する。
「この屋敷の地下に保管してあるそうどす。周囲には警護のシノビ達が配置されているそうなので、シノビを見つければその部屋が保管部屋やそうどす」
「おお! 流石は閧、男の扱いには長けておるな」
「ふふっ。あの旦那さん、根は良い人どすからなぁ」
 桜に褒められ、振袖の袖で口元を隠しながら閧は得意げに笑う。
 その影では理桜が蹲って暗雲を背負っていた。
「男に負けた…」
「げっ元気出して…。あの旦那さんはきっと、閧さんみたいな人がタイプだったんだよ…」
 必死にエルレーンになだめられ、数分後、ようやく理桜は復活する。
 そして四人は気配と足音を消しながら、地下に向かった。地下は普段、物置に使われているが今は宝珠を置いてある為、数人のシノビの気配がある。
「ここが宝珠のある階か…。…本当は壊したくないがのぉ」
 桜につられ、三人も辛そうな表情を浮かべた。しかし涙を拭い、桜は前を見る。
「――では参ろうか!」
 四人は一斉に廊下に飛び出した。すると音もなく五人のシノビが現れる…が、そのシノビ達もまた巨乳だった為に、四人の集中力が一瞬途切れる。
「…分かっていたことじゃが」
「改めて見ると…」
「結構…キッツイわね」
「男のシノビの巨乳姿って」
「「「「「やかましいわっ!」」」」」
 桜、閧、エルレーン、理桜の言葉にシノビ達はたまらず涙目になった。
「…とりあえず、この巨乳は理桜の好みじゃないや」
 残念そうに肩を竦めた後、理桜は素早くシノビの一人に近付き、その背中にピッタリ貼り付くと勢い良く脇の下をくすぐり始める。
「こちょこちょこちょお〜」
「うっ…わははははっ!」
 くすぐられた途端、シノビは胸を揺らしながら大笑いし始めた。
「ううっ…! シノビの男の人でも胸がボインボイン…揺れている。可哀想だから、あっという間に終わらせてあげるね!」
 エルレーンは哀れみの視線を向けながらも、黒鳥剣を抜く。飛苦無を両手に持って攻撃してくるシノビを剣で受けながら、隙を見て剣の柄をシノビの首筋に叩き込んで気絶させた。
「まあ巨乳が似合う男性と似合わない男性がおるっちゅうことやな。しかし何や、胸が大きすぎて邪魔で回避しにくいどすなぁ」
 閧は苦笑しながら刀で斬りかかってくるシノビの攻撃を【虚心】で見切り、【横踏】でかわしていく。まるで舞うように美しいその姿は、だが隙は一切見せない。そして黒夜布・レイラと【紅焔桜】を使って刀を弾き飛ばした後、シノビの体にレイラを巻きつけて壁に叩きつける。
「ぐはっ…!」
 そのままズルズルと床に崩れ落ち、シノビは気絶した。
 一方、桜も巴型薙刀・藤家秋雅を使ってシノビを迎え撃っていたが、石突きの部分でシノビの喉を突いて気絶させる。
「ふう…。これで残りは一人だね」
 シノビの一人を笑い気絶させた理桜が桜に合流した。残りの二人もそれぞれ駆け寄って来る。
 残り一人になったシノビは、だが眼を閉じると四人に背を向けた。そしてスっととある部屋のふすまを指差す。
「お主達の目的の物はその部屋にある。とっとと破壊するなり持ち出すなりしろ」
「おや? ええんどすか?」
 閧が首を傾げながら問い掛けると、シノビは深く息を吐いた。
「元より我々はこの屋敷の警護を担当しているのだ。宝珠がなくなったところで、役目は変わらん」
 どうやら巨乳であり続けることに、限界を感じていたらしい。せっかくの好意なので、四人はそのまま部屋へ向かうことにした。


 宝珠は脚付きの台の上に置かれてあり、部屋の中心にあった。水晶のような透明感があり、理桜の頭ほどの大きさがある。しかし不思議な輝きを発しているところを見ると、中に封じ込められた巨乳の術が発動している証なのだろう。
「あ〜あ。この宝珠があったら女装するんも楽なんやけどなぁ」
 閧が勿体無さそうに呟くと、エルレーンは涙を流しながら宝珠を撫で回す。
「はぅはぅっ…! ももも勿体無いっ…けどっ! …仕方ないよね。せめてご利益が得られるように、今のうちに触っておこう…」
「う〜ん。確かにこれで巨乳の見納めは悲しいね」
 理桜も残念そうだが、桜は物凄く悔しそうな顔をしながら薙刀に精霊力を込める。
「くぅうっ! わしの巨乳になる夢を壊すのは忍びないが、これも仕事じゃっ! 済まぬっ!」
 ただならぬ気配を感じた三人は、慌てて宝珠から離れた。そして桜は【精霊砲】を放ち、宝珠を粉々に破壊する。煙が舞う中、桜は遠い眼をして立ち尽くす。
「これでわしの巨乳も終わりか…。ぬっ? …なああっ!」
 胸を押さえていたサラシがストンと床に落ち、前がはだけてしまう。慌てて合わせるも、三人は煙に視界を塞がれており、こちらを見てはいなかった。
「あ〜あ。みんなのお胸、ちっちゃくなっちゃった。残念」
 理桜の言葉に反応した桜とエルレーンは、涙目で睨み付ける。
「さて、ゆっくりしているヒマはないどすえ。とっとと退散しまひょ」
 閧の一言で我に返った三人は、慌てて部屋から出た。


 そして四人が庭の塀の上に飛び上がった時、主人と椎名が数名の使用人達を連れて追いかけて来た。
「おっお主ら、一体何てことをしてくれたんじゃ!」
 すでに使用人達の胸は元通りになっており、主人は今にも倒れそうなほど血相を変えている。
「旦那さん、うちも男やので巨乳は嫌いじゃあらしまへんが、食と同じく天然物の方がええと思うて」
 閧の言うことは真面目だが、その顔には意地の悪い笑みを浮かべながら胸のサラシを取って見せた。男の胸であるのを見て、主人のみならず他の使用人達も愕然とする。
「じゃっね!」
 その隙に理桜達、三人は逃げて行った。


 ――後日、エルレーンは破壊された宝珠の欠片をこっそり持ち帰って綺麗に磨き、腕輪の宝石として身に付けていた。
「うふ…。いつかまた…ああなれたら良いなぁ」


 そして巨乳でなくなった椎名は、元の給金の金額に戻ったことから実家に帰り、無事に赤ん坊も産まれたと言う――。


【終わり】