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■オープニング本文 いつもは開拓者ギルドで受付を担当している者達は、東房王国の海に一泊二日で遊びに来た。メンバーは遊びの計画を立てた京司と京歌の兄妹、そして女性は野衣に雛奈に鈴奈、男性は芳野に利高の合計七名である。 新しい水着を持って、海近くの旅館に泊まることになっていた。そこで東房王国の開拓者ギルドで受付をしている男性、美島(みしま)と合流する。二十歳ぐらいの美男子に見える彼は、しかし実年齢が三十八という、いろんな意味で女性の憧れの的であった。優雅な物腰と言葉遣いをする美島だったが、今は何故か苦笑を浮かべている。 「美島さん、久し振りに会えたのに‥‥何で苦笑いしているんだ?」 「あっ、もしかしてこの旅館に泊まれなくなったとか? 計画言い出すの、遅かったから‥‥」 「いえ、そうではないんですよ、京司くんに京歌ちゃん。逆に部屋数は余っているぐらいですから」 確かに客の姿はあまりない。この旅館は人気が高くて有名なのだが、今は活気もないように見える。 「特に女性客が少ないような‥‥」 「うんうん。男ばっかりいるわね」 「この時季には珍しいと言うか、おかしいわね」 野衣、雛奈、鈴奈は旅館の中を見回しながら呟く。三人が言う通り、客は男性ばかりで若い女性の姿は見かけない。 「美島さん、何か問題でも起こったのかい?」 「事件ですか? アヤカシとか海賊とかが出たんですか?」 芳野と利高の問いかけに、美島は深いため息を吐いた。 「とりあえず部屋に荷物を置いてきてください。その後、お話します」 部屋割りは女性組と男性組の二つに分かれている。どちらも広くて立派な部屋なのだが、周囲の部屋が空いていることに七人は気付いた。疑問に思いながらも男性組の部屋に集まり、美島の説明を聞く。 「異変に気付いていると思いますが実は今、女性客が極端に減っています。原因はその‥‥言いづらいんですけど、水着泥棒が出るんです」 七人の口があんぐりと開き、呆れた顔になるのを見て、美島の表情が複雑そうに歪む。 「‥‥そう正直な反応を返していただけると、逆にありがたいです。まあ簡単にご説明しますとね」 この近くの海の周辺には多くの宿泊宿がある。そこの客達は海で遊んだ後、水着を乾かす為に外に干す。多くの宿が客達の要望によって、物干しを部屋の窓の外に設置していた。しかし一晩経つと、いつの間にか水着が無くなっているのだと言う。 「水着盗難事件が続く為に、あっという間にこの地域の評判は地に落ち、今では女性客どころか男性客も減っています」 「えっ!? まさか男性用の水着まで‥‥」 「そんなおぞましいことがあってたまるかっ!」 京司のボケ発言に、すかさずツッコミと共に拳を兄の頭上に落とした京歌。 「まあソレは幸いにも無いんですけどね。ですが事件は事件です。本当は水着を外に干すことをしなければ、盗まれる心配もありません。ですがすでに事件は起きていますし、その噂も外に流れています」 「まあ確かに水着泥棒が出るっていう話だけでもイヤよね」 「うんうん。お気に入りとか高かったやつとか、盗まれたらイヤだもん」 「対処法を言われても、嫌悪感は拭いきれないでしょうね」 野衣、雛奈、鈴奈の三人が険しい顔で言った言葉に、美島はますます落ち込む。 「でも美島さん、そういうことなら同心連中に見回りさせたらどうだい?」 「芳野くんの言う通り、見回りはさせました。ところがですね、コレも非常に言いづらいのですが‥‥犯人はシノビのようでして」 「はぐあっ!?」 シノビを住人としている陰殼王国の開拓者ギルドで働く利高は、胃の上を押さえて倒れ込んだ。 「いろいろ罠とか盗難防止の装置を設置しても効果がないんですよ。その上、目撃者の話では忍び装束を身につけた男だったようです」 「‥‥何か春に出た変態シノビの件を思い出すなぁ」 「‥‥何だかどんどんあたしの中で、シノビの評価が下がっていくんだけど」 京司と京歌は今年の春に、シノビ関係の依頼を担当した。あの時は開拓者崩れのシノビが相手だったが‥‥。 「ああ、その事件は聞き及んでいます。しかし今回はスキルの使用は見られませんので、開拓者ではないと思われます」 その言葉を聞いて、利高は震える体で何とか起き上がろうとした。 「しかし複数いるのが問題です」 が、すぐに撃沈する。 「どうも五人ほどのシノビの男性が代わる代わるしているようなのです。なのでもしかしたら、誰かに依頼されてのことかもしれません」 美島の推測に、七人はギョッとした。 「水着を欲しがる男性がいるのっ!?」 野衣の顔色が青くなり、 「ヤダ、キモーイっ!」 雛奈が顔をしかめ、 「って言うか信じられないっ!」 鈴奈が表情を強ばらせる。 「‥‥なるほど。さしずめモテない男がヤケになって、開拓者ではないフリーのシノビを雇って水着を盗ませているってわけか。しかし五人も雇っているとなると、犯人は金持ちのぼんぼんか、それとも複数の男達が同盟でも組んだか」 芳野は耳を塞ぎながら、自分の意見を言った。 「ええ、恐らくどちらかでしょう。犯人をつきとめる為にも今から開拓者達を集め、事件を解決してもらおうと思っています。開拓者ではないにしろ、シノビが五人も相手では同心では無理があります。すでにこの辺りの宿屋の方達が、開拓者ギルドへの依頼を考えているそうです」 地元ゆえに一早く旅館に到着した美島は、客達や旅館の雰囲気から異変に気付き、旅館の従業員達に話を聞いていた。ギルドへの依頼の話はまとまっており、すぐにでも向かう準備も整っているらしい。 「と言うことで、みなさん。申し訳ないのですが、依頼が終わるまでは遊べませんのでご理解くださいね」 満面の美島が言った言葉に、七人は眼を丸くして一斉に悲鳴に似た声を上げた。 「その代わりここには仕事として来たことにします。終わればちゃんと一泊分、遊べるようにしますので頑張りましょうね」 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
灯冥・律(ib6136)
23歳・女・サ
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
ギイ・ジャンメール(ib9537)
24歳・男・ジ
明神 花梨(ib9820)
14歳・女・武 |
■リプレイ本文 夜、集まった七人の開拓者達は息を潜めて、水着泥棒を行うシノビを待つ。 場所は受付職員達が泊まる旅館で、空いていた離れの部屋を使う。離れには立派な物干し台が庭に置いてあり、そこには梢・飛鈴(ia0034)とライ・ネック(ib5781)、灯冥・律(ib6136)が用意した女性物の水着が干してある。 旅館から借りた暗い色の大きな布を全身にかぶり、気配を消して外の物陰に隠れている飛鈴は、視線を物干し台に向けながらも声なく息を吐く。 「シノビとして仕事を選ばないのがプロにしても、プライドぐらいは持ってほしいもんだナァ。それとも盗むことに興奮しているのか……いやいや、それは考えマイ」 軽く頭を振った後、ライから貰った岩清水を飲む。全員が身を隠す前に、ライは人数分の岩清水を配っていた。蒸し暑い夜に、冷えた岩清水は喉を潤すのに最適だ。 そしてライは夜の闇の中、【暗視】と【超越聴覚】を使い、周囲の様子を窺っている。 「今のところは異常なしですね。…ああ、でもスキルの発動時間が終えてしまいました」 視力を上げる【暗視】は五分、聴覚を研ぎ澄ませることができる【超越聴覚】は三十分と制限時間があった。 ライは近くにある木の枝を掴み、ガサガサガサと三度揺らす。 「ああ、俺の順番か」 ライの近くに身を隠しているのは王禄丸(ia1236)。王禄丸も【超越聴覚】を使える為に、時間がきたら交代でスキルを使うことになっていた。 「しかし腕が立つと言われる程に鍛錬をし、武具を長く使い込んで――そして水着泥棒の仕事をする。その心境を聞いてみたいものだな」 半分呆れ、もう半分は好奇心の気持ちで呟き、三十分が経過する。そして王禄丸は用意しておいた枝を両手に持ち、パキッと折った。 足で踏むのとはまた違った音に反応したのは、霧雁(ib6739)だ。 「ムッ…。拙者の出番でござるな」 物干し台に視線を向けながらも、霧雁も【超越聴覚】を使用し始める。 「拙者はシノビは受けた仕事は何でも完璧にこなすものと考えているでござるが……誰に頼まれたのでござろうな」 霧雁は水着をじっと見ても、特に恥ずかしがることはない。 しかし【ナハトミラージュ】で存在感を隠し、姿を薄くさせているギイ・ジャンメール(ib9537)は嫌悪感に顔を歪めていた。 「人を雇って水着泥棒とか、最高に気持ち悪いなぁ…。…けど正直、真犯人がどんな顔をしているのか興味はある。ぜひその姿を拝んでみたいな」 そう言って意地の悪い笑みを浮かべるギイ。 一方、離れの部屋で身を潜めている明神花梨(ib9820)は、呆れた表情でため息をつく。 「不埒なことをするもんはどこにでもおるんやな…。特にこの東房王国でしとるんやから、精霊さんもあまりエエ顔せんと思うで。罰当たりもええところや」 「本当に。でもそれも今夜限りですから」 月明かりが差し込む部屋で、律は苦笑しながら言う。 「律さん、随分元気やな?」 「私は昼間、スキルの【爆睡】で六時間たっぷりと眠りましたから」 ちなみに美容効果もあるので、夜なのに律の顔色はとても良く、肌もツヤツヤしている。 「…ええスキルを持っているんやな」 花梨が眩しそうに眼を細めた時だった。 「…むっ? 複数の足音が聞こえるな」 霧雁が不審な音を耳にする。しかも普通の人間のような音ではなく、シノビ独自の走り方をしている時に出る音だ。 「【暗視】を使って確認するか」 そして音がする方を【暗視】で見た時、五人のシノビの姿を見つけた。しかしそのうち三人は隠れ、二人だけが水着の干してある物干し台に到着する。 一早く動いたのは飛鈴だ。二人の側に音も気配も消して近付き、水着に集中している間に呼子笛を強く吹く。その音に驚いている隙に布を取り、物陰から出て奇襲をかける。【瞬脚】を使って一気に距離をつめ、膝を狙って【絶破昇竜脚】を繰り出す。 「そっちはシノビのプロかもしれんが、こっちは開拓者として熟練者だゼっ!」 「ほう! 開拓者を雇ったか!」 飛鈴の攻撃は、一人のシノビの膝に当たる。しかしすぐさま身を引いた上に、飛鈴は足の裏に変な感触を感じた。 「何だこの感触……もしかして何か仕込んでいるのカ?」 「ご明察。派手に動いていれば、ギルドが動くことは分かっていたからな。…しかし流石は開拓者、負傷せずにはいられぬ相手よ」 飛鈴の攻撃を受けたシノビの顔に、汗が滲んでいる。それでも膝を庇うこともなく、体勢を立て直す。そして両手を振ると袖から二本ずつ飛苦無を出し、飛鈴に向けて投げた。 「おっとっと」 アーマードヒットを両手につけている飛鈴は、拳で飛苦無を殴り落とす。 その間に無傷のシノビが刀を抜き、飛鈴に向かって走り出すも、その前に王禄丸が立ち塞がる。 「行かせない」 そして【夜】にて三秒間、時間を止めた。その隙にシノビに向かって【散華】を使う。手裏剣の鶴を使い、三回連続で投擲攻撃を行った。 「ぐあっ!」 闇夜にシノビの血が花火のようにパッと舞い散る。 「同じシノビならば、開拓者でなくても【夜】が恐ろしいものであることを知っているだろう?」 そう言って王禄丸は体にいくつもの切り傷ができたシノビの背後に回り、羽交い絞めにした。そして飛鈴と戦っているシノビに見せつけるように、一歩前に進む。 「この依頼、命をかける程の仕事ではないだろう。ここらで別の仕事に従事するつもりはないか?」 「――笑止。貴様もシノビならば分かるだろう? 我らにとってどんな依頼であれ、誇りと金が絡んでいれば全力で戦うのみよ」 答えたのは王禄丸が捕らえているシノビだった。袖から飛苦無を取り出し、王禄丸の脇腹を狙う。 「危なイっ!」 咄嗟に飛鈴が【瞬脚】を使い、二人に向かって駆ける。そして飛苦無を持つシノビの腕を狙い、再び【絶破昇竜脚】を繰り出す。 「ぐ…っ!」 攻撃を受け、飛苦無が宙に舞い上がる。その隙に王禄丸は手刀をシノビの首筋に叩き込み、気絶させた。 「ふう…。大したプロ根性だと感心するけど、請負う仕事内容は間違っていると思う」 「今のうちに荒縄で縛ろうカ」 二人は荒縄で、気絶しているシノビの体を縛り上げる。 だがその間に、飛鈴と戦っていたシノビが逃げようとしていた。 「逃しません!」 そこへ離れから出てきた律が【咆哮】を上げる。大地を響かせるような雄叫びを聞いたシノビは一瞬体勢を崩したが、すぐに律に向かって走って来た。 「はっ!」 シノビに向かって、ライは荒縄の先に大きな石を付けた流星錘を投げる。流星錘はシノビの片腕を捕らえ、その動きを止めた。 「…ちっ! 惑わされていたか」 縛られた衝撃で我に返ったシノビは脇差を抜き、荒縄を切る。そのまま目の前にいる律に向かって切りかかろうとしたが、律は【剣気】を叩きつけた。 「ぐっ!」 怯んだシノビに駆け寄ろうとした律だったが、四枚の十字手裏剣が飛んで来たので慌てて立ち止まり、後ろに身を引いて避ける。 隠れていたシノビの一人が出て来て、仲間を支えながら逃げようとした。 「させませんっ!」 ライがすぐに【煙遁】を使い、煙幕を展開する。そして忍刀の暁を抜き、混乱しているシノビの一人の目の前に切っ先を突き出す。 「うおっ!」 仰け反ったシノビを見て一度腕を引き、刀を持ち替え、刀の背でシノビの首元を打った。シノビは声もなく、地面に崩れ落ちる。 「おいっ、何があった!」 残ったもう一人に向かい、再び律は【剣気】を放つ。再び怯んだシノビの首筋に、ライは刀の背を打ち込んだ。煙幕が消え去る頃には、地面に二人の気絶したシノビがいた。 「今のうちに」 「ええ、縛っておきましょう」 律とライは荒縄を取り出し、二人のシノビを縛り始める。 隠れて様子を見ていた二人のシノビは、互いに頷き合うと逃げようとした。だがそんな二人の背に、霧雁が声をかける。 「お待ちなさい! 女の敵よ!」 凄い裏声を聞いて驚いた二人は振り返り、ぎょっと眼を丸くした。 今の霧雁の姿は『女魔術師』として黒づくめの衣装を身に付けており、わざわざ杖まで持っている。しかし高すぎる身長と、どうしても声が男であることを隠せていない。 シノビ達は表情を強ばらせたまま、後ろに十歩ほど音もなく下がった。 「女性の水着を狙うとは破廉恥なシノビめ! 恥を知りなさい!」 昼間、昼寝をして元気な霧雁は高らかに言うと、【アルムリープ】の呪文を唱え始める。本来なら魔術師のスキルであり、シノビである霧雁には全く使えない。しかし霧雁の性別をともかくとした見た目からは魔術師に見える為に、二人のシノビは呪文を聞かないように霧雁から更に距離を取る。 その時を狙っていたギイは【シナグ・カルペー】を使って回避能力を上げながら、黒曜石の短剣を使って【喧嘩殺法】を仕掛けた。多種多様な攻撃を受けたシノビは衝撃を受け、勢い良く背中から木にぶつかり、気絶する。 「ほい、いっちょあがり!」 気絶したシノビを、満足そうにギイは見つめながら荒縄を取り出す。 その間に最後の一人が逃げようとしたものの、駆け付けた律が【咆哮】を使って自分に向かわせる。 「さて、うちも戦うかな!」 花梨は槍の烈風を両手に持ち、【荒童子】を使う。シノビの前に精霊の幻影を具現化させ、攻撃するも、我に返ったシノビは後ろに下がって逃れる。シノビは両手に飛苦無を持ち、花梨に向かって走って来た。 「おっと」 花梨は槍を持ち直し、【宝蔵院】で攻撃を受けながらも、逆にこちらからも攻撃を仕掛ける。 「花梨さん! 交代しますわ!」 あくまでも裏声を使い続ける霧雁は脚絆の瞬風をつけた足で【忍拳】を使い、蹴りを放つ。シノビは体ごと避けようとしたものの、顎につま先がくい込み、そのまま木にぶつかって気絶してしまう。 「アラ、股間を狙ったんですけど、避けられちゃいました」 「…いや、同じ男ならそういう攻撃は止めとこうよ。あと女装した時、足を大きく開く技も止めといた方が良いよ」 倒したシノビを荒縄でぎゅうぎゅうに縛り上げながら、うんざりした表情をギイは浮かべている。どうやら霧雁が蹴りを放った瞬間に、嫌なものを見てしまったらしい。 「あら、失礼」 前を押さえてオホホと笑う霧雁を見て、三人はどっと脱力した。しかし霧雁は荒縄を取り出すと、真剣な顔になる。 「――何はともあれ、これで全員を捕まえられたでござる」 捕獲後、五人のシノビ達は離れの庭に集められた。そこで花梨が【浄境】を使って怪我をしたシノビの傷を癒し、律が甘酒をそれぞれ縛られているシノビに飲ませている。そんなシノビ達の姿を見て、ギイは残念そうに肩を竦めた。 「にしても、せっかくシノビとして高い技術を持っているのに、こんな仕事をするなんて勿体無いよ。他に仕事が無かったのかもしれないけど、雇われて水着泥棒とか……やっててむなしくならないの?」 最初は真面目に言っていたものの、ついにはふき出したギイをシノビ達は睨み付ける。 「こら、ギイさん」 「彼らに失礼ですよ」 霧雁とライに左右をはさまれ、ギイはその場から移動させられた。その様子を見てため息を吐いた律は、【剣気】を放ちながらシノビ達を真っ直ぐに見つめる。 「さて、本題に入りましょうか。貴方達を雇ったのはどなたで、どちらにいらっしゃいますか?」 「悪い子がどうなるか、まさか知らぬわけもあるまい」 長身で体格のいい王禄丸まで加わり、シノビ達は迫力に押され、気まずそうに顔を背けた。 「まあまあお二人さん、そんな怖い顔せんといて。なあシノビのみなさん」 花梨は間に立ち、シノビ達に向かってにっこり微笑みかける。 「天が定めたのは運命だけや。せやけど運命は自分で変えられる。盗みを続けるんも止めるんも自分の意志や。真面目に生きるっちゅうんは難しいけど、仏さんはちゃんと見てくれとるで。特にここはお寺が多いしな」 アハハと笑う花梨の後ろで、ギイが呆れたように呟く。 「いや、止めてもらわなきゃこっちが困…むがっ」 「しっ! 今は彼女に任せとこうナ」 ギイの口を、すぐに飛鈴が手で塞ぐ。 「…ふんっ。そう言う言葉は我らには効かぬ。説法ならば寺ですると良い」 眼つきの悪いシノビの一人が、花梨を睨みつけながら言い捨てる。だがふと、その眼が細められた。 「だがまあ今回は我らの負けだ。今まで盗んだ水着は海に面した洞窟の奥に隠してある。お主ら開拓者ならば海から泳いで洞窟に行けるさ」 「隠し場所を教えてくれてありがとうな。――で、依頼人は誰や?」 「そこまで教えてやる義理はないわ」 言い終えた途端、シノビ達を縛っていた荒縄がパラ…と地面に落ちた。 「まだ武器を隠し持っていたか!」 その様子を見て、慌てて王禄丸が花梨を背後に隠す。 しかしシノビ達はそのまま開拓者達に背を向け、走り去ろうとした。 「くっ! 皆様、耳を塞いで地面に伏せてください!」 律が前に出て、仲間達に声をかける。そしてシノビ達に向かって【咆哮】をあげるも、すでにシノビ達は届かぬ所まで移動した上に、耳栓までしていた。 「……シノビ達には逃げられちゃったけど、とりあえず水着の隠し場所は分かったナ」 飛鈴が空を見上げると、朝日が登り始めていた。 一休みした後、開拓者達は水着に着替え、例の洞窟へと向かう。洞窟の奥で、たくさんの水着が入った大きな籠を見つける。 「おーい! 水着はあったか?」 「敵はいないでござるか?」 「って言うか、水着は無事?」 王禄丸、霧雁、ギイの男性三人は盗まれた水着を運ぶ為に、小型の船を借りて漕いで来た。 「いろいろあったナァ」 「よくもここまで集めたものです」 「でもどこかに運ばれていなくて良かったです」 「うんうん。これもこの国の行いが良いからやね」 飛鈴、ライ、律、花梨の四人は籠を抱えながら洞窟から出てきた。男性達は船を洞窟近くに寄せ、籠を乗せると代わりに王禄丸が海に入って船から下りる。 「それでは先にこの水着を旅館に届けてくるでござる」 「ヤレヤレだね」 霧雁とギイは船を漕ぎ出し、陸地に向かう。その様子を見ながら、花梨は遠い目をして呟く。 「結局真犯人は分からず仕舞だったなぁ。もう二度とこういうことが起きないよう祈るしか…って飛鈴さんに王禄丸さん、もう泳いでるっ!?」 二人はすでに海を泳ぎ始めていた。呆然とする花梨の左右の肩を、ライと律が苦笑しながら叩く。 「まあシノビ達には灸を据え、水着は無事に取り返しましたし」 「依頼としては終わったので、私達も遊びましょう」 「そっそやね。せっかくの海だし、遊ばな損や!」 すぐに切り替えた花梨も泳ぎだし、二人もゆっくりと夏の海を泳ぎだした。 【終わり】 |