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■オープニング本文 「暑いなぁ」 「夏だしねぇ」 神楽の都で受付職員を担当する京司、京歌の兄妹は、うちわでパタパタと己を扇いでいた。 開拓者ギルドには宝珠の力を使って風を建物の中にふかせているものの、風自体が熱を持っている為に、あまり涼しくはない。けれど風もろくにふいていない外に比べれば、天国である。 「今度の休日だが、少し遠出して海へ遊びに行くか?」 「あら、良いわね。友達誘って一泊ぐらいしたわね。でも今の時期、海は混んでいそうね」 「しょうがないさ。一般家庭には納涼のやり方が少ないからな。‥‥でもさ、開拓者の相棒達は涼むこと、できるのかな?」 「‥‥あ〜、どうなんでしょう?」 少なくとも一般の人が遊ぶ海や水場では、遊ばせることはできないだろう。いくら開拓者の相棒とは言え、見た目的には恐ろしいものもあるのだから。 「何かそう思うとちょっと気の毒だよなぁ。一日ぐらい、海で相棒と遊びたい開拓者もいるだろうし」 「まあ開拓者と相棒の仲は良いみたいだからね」 しばし考え込んでいた京司だが、ふと思いついたように手を叩いた。 「‥‥よしっ! どっかの海で、一日ギルドに海を貸し切ってくれる所を探してみるか!」 京司の突然の思いつきに、京歌のうちわを扇ぐ手が止まる。 「えっ? それって海に開拓者の相棒達を野放しにするってこと?」 「一日ぐらいなら良いだろう? ああ、海の家もある所が良いな。かき氷とか焼きそばとか、海で食べるとまた美味いもんな。早速探してみよう!」 「ちょっ‥‥兄さんっ!?」 |
■参加者一覧
露草(ia1350)
17歳・女・陰
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
鴻領(ib6130)
28歳・女・砲
黄霖(ib6132)
25歳・女・砲
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
キャメル(ib9028)
15歳・女・陰 |
■リプレイ本文 本日、快晴。空は透き通るような青い色、そして海はその色を映したような同じ色をしており、視線の先ではまるで溶け合っているように見える。雲は純白、太陽は強く熱く輝いており、絶好の海日和であった。また海の家からは、美味しそうな音と匂いが海風に乗って漂ってくる。 着替え終えた開拓者達は、相棒と共に喜びの表情を浮かべた。 「海と夏が私とキャメルちゃんを呼んでるんですよ! 応えなくてどうしますか!」 『なのーっ!』 露草(ia1350)とその相棒、人妖の衣通姫ははしゃぎながら両手を上げてバンザイをする。 「ギルドで海を貸し切るとか、ぜーたくなの。これぞまさに『ぷらいべーとびーち』だよね。ぷーちゃん、露しゃん達といっぱい遊ぼうね」 キャメル(ib9028)は相棒の人妖、ぷーちゃんに嬉しそうに頬ずりするものの、ぷーちゃんは嫌そうに顔をしかめた。 『んもう。ぷーちゃんって呼ばないでくださいまし。私には暁月夜という本名が‥‥』 「ぷーちゃん、ぷーちゃん」 あまりに嬉しそうにキャメルが呼ぶので、ぷーちゃんは諦めたように溜め息を吐く。 『はあ‥‥。もういいですわ』 キャメル達から少し離れた場所では、露羽(ia5413)がからくりの七星に海を指さして見せる。 「七星はまだ海を見たことがなかったですよね。今日はたくさん遊んでリフレッシュしましょう」 『私に気晴らしが必要な事項は発生していませんが‥‥そうですね。露羽様が遊ばれるのでしたら、お付き合いします』 無表情ながらも同意してくれた七星に、露羽は嬉しそうに微笑む。 そしてからす(ia6525)は相棒の羽妖精、キリエの言動に苦笑を浮かべていた。 『からすさん、どうですか? この水着!』 キリエは胸の部分が三角の黒のビキニを着ており、からすの目の前でビシッ!とポーズを決める。 「ない胸を張るな。ビキニが似合ってない。ほら、私が用意してやったこの水着に着替えろ」 そう言ってからすは水着ワンピースに着替えさせた。 キリエは残念そうに項垂れるものの、すぐに他の女性開拓者達をキッ!と睨み付ける。 『おのれメロン共め! いつか見返してやりますよ!』 リィムナ・ピサレット(ib5201)は笑顔で迅鷹のサジタリオに抱き着いていた。 「今日はたっくさん遊んじゃおうね、サジ太!」 サジタリオことサジ太も嬉しそうに眼を細め、甘えた鳴き声を上げる。 「西宵、今日は海でゆっくりまったりしましょうね」 鴻領(ib6130)は霊騎の西宵の首を優しく撫でながら話しかけると、顔を寄せてきたので優しく微笑んだ。 「兆候も今日は海を楽しみましょう。一緒に海で遊べる機会なんて滅多にないですしね」 同じく霊騎を相棒にしている黄霖(ib6132)も、兆候の頭を笑顔で撫でる。すると同意するように、兆候もこくっと頷いた。 そんな女性開拓者達の姿をうっとりと見つめているのは、ラグナ・グラウシード(ib8459)。 「はう‥‥。やはり良いな、海は」 『どこ見ながら言ってるの! このドスケベがっ!』 「んごっ!?」 ドカンっ!とラグナの後頭部に蹴りを入れたのは、相棒の羽妖精のキルアである。 「きっキルア! 相棒に向かって何て人聞きの悪いことをっ!」 ドタバタと騒ぎたてるラグナとキルア。 ――こうして開拓者とその相棒達の夏の一日がはじまった。 「キャメルちゃん、海ははじめてみたいですけど泳いだ経験は?」 露草に問い掛けられ、キャメルは首を弱々しく横に振る。 「泳いだ事はないの‥‥。露しゃん、泳ぎ方教えてほしいなぁ」 上目遣いで頼まれ、露草はにっこり微笑んだ。 「もちろん、良いですわよ」 「ほんと? うわーい! 泳げるようになったら、いつか熊しゃんみたいに鮭をとってみたいなぁ」 「キャメルちゃんならきっとできますよ」 『いや、いくら開拓者でもムリですから。まったく‥‥。ボケの垂れ流しは困ったものですわ』 二人の会話を聞いて、ぷーちゃんは青い顔色で額を押さえる。 「あっ、ぷーちゃんは衣通姫しゃんと遊んで良いよー」 「そうですわね。キャメルちゃんに水泳を教えている間、二人で遊んでいると良いですよ」 『‥‥そうですか?』 『わーい! 暁月夜さん、一緒に遊ぼう!』 こうして人妖達は二人から離れて遊ぶことにした。 「さっ、キャメルちゃん。まずは私の手をしっかりと握り締め、体の力を抜いて海に浮かんでみてください」 「うっうん‥‥」 キャメルは真剣な表情の露草の両手を握り締め、浅瀬で体を伸ばして力を抜く。 「よし、浮きましたわね。次に息継ぎですが、ゆっくりと顔を水につけて‥‥」 「お顔を水につけるの? こわーい! お鼻に水が入るとイタイの〜。溺れるのぉ〜!」 「だっ大丈夫ですから。まずは落ち着いて!」 涙目でパニックになるキャメルを宥めるのに苦労する露草を、少し離れた場所から見ていたぷーちゃんは見ないフリをすることに決めた。 『‥‥さっ、あちらはあちらで盛り上がっているようですし、私達は私達で海を楽しみましょう』 『はーい!』 ぷーちゃんと衣通姫は更に二人から距離を取り、波があまりない所にまで来た。そこでぷーちゃんは水面につま先をつけながら、滑ってみる。 『ふふふっ。天気の良い日、海の上を滑るのは気持ち良いですね。衣通姫さんもやってみると楽しいですわよ』 『うん!』 ぷーちゃんに続き、衣通姫も同じように海の上を滑った。 『わあ! 楽しいー!』 『こういうこと、キャメル達は真似できませんものね。私達なりの海の遊び方です』 そしてぷーちゃんと衣通姫が思う存分、海の上を滑り終える頃には、露草とキャメルは網やバケツを手に持って砂浜を歩いていた。 「キャメルちゃん、いっぱい泳いでお腹空きましたし、今度は食べ物をとりましょうね」 「うん! キャメル、浅い小川で魚とったことあるし、ここでも食べ物とるのー。貝やカニしゃんを食べるのー」 二人が岩場へと移動したので、ぷーちゃんと衣通姫もそちらへと向かう。 『キャメル、泳げるようになりました?』 「うん! バチャバチャできるようになったの」 嬉しそうにキャメルは答えるも、ぷーちゃんの頭の中ではバチャバチャしながら溺れている姿が浮かんだ。 その頃、衣通姫は海の中で赤い物が動くのを見つけ、好奇心からつついてみる。すると赤いハサミが、衣通姫の小さな指に当たった。 『きゃーっ! ハサミなのぉ!』 「いつきちゃん!?」 自分の相棒の悲鳴に驚いた露草が慌てて駆け寄る。 しかし驚いた衣通姫はフラフラと移動し、今度は海の中にいるウミウシを見て半泣きになった。 『きゃーっ! 変な色のナメクジみたいなのがいるぅ!』 「ああ、それはきっとウミウシです。毒があるのもいるみたいですから、近づいちゃダメですよ」 『うわあーん!』 泣きながら露草にしがみつく衣通姫を見て、ぷーちゃんは真顔で呟く。 『衣通姫さん、海がトラウマにならなければいいのですが‥‥』 露羽は七星を連れて浮き輪を海の家から借りた後、砂浜で準備運動をしている。 露羽は黒のサーフパンツをはいており、長い黒髪は頭の上でまとめていた。七星は白の三角ビキニを着ており、背中の七つ星のような刺青が見えている。 そして準備運動を終えた露羽は、解れた体で伸びをした。 「うん、体も程よく解れました。では七星、泳ぎに行きましょうか。ゆっくり水に慣れてくださいね」 『はい』 二人は浮き輪に身を潜らせ、海にゆっくりと入っていく。最初は露羽が七星の手を引いていたが、徐々に慣れてきたので離した。浮き輪を使いながら、泳ぎ方や潜り方を教えたりする。 一通り海を楽しんだ後、二人は浮き輪で海の上をプカプカと浮いていた。しかしふと、露羽はイタズラを思いつく。こちらに背を向け、波の揺れに身を任せている七星にゆっくりと静かに近付いた。そして七星の浮き輪をクイクイと引っ張る。 『‥‥はい?』 少しボンヤリしながら振り返った七星に向かって、露羽は両手ですくった海水をビシャッ!と顔にかけた。 「アハハ。油断大敵ですよ、七星」 晴れやかに笑いながら、露羽は浮き輪を使ったバタ足で向こうへ泳いで行く。 その姿を見ていた七星の眼が、ピクっと動いた。 『‥‥不意打ちとは卑怯です、露羽様。今度はこちらから参ります』 七星は真剣な表情で浮き輪を掴むと、恐るべき早さのバタ足で露羽を追いかけ始める。 「うわっ! 早いですね!」 無表情ながらも怒りのオーラを出す七星を見て、露羽は慌てて泳ぐスピードを上げたのだった。 砂浜では、からすに向かってキリエがビシッと敬礼している。 『それでは遊びに行って来ます!』 「ちゃんと帰ってくるんだよ。ああ、あとコレを持って行くと良い」 からすはキリエの身長に合わせた小さな水筒を差し出す。 「中には水だ。塩と砂糖を入れて、少し甘くした飲み物だ。熱中症にならないように、こまめに水分補給をしておくんだよ」 『はっ!』 「それとはしゃぐのは良いけれど、他の者の迷惑にはなってはいけないよ。‥‥特に胸の大きい人には絶対に絡まないように」 『‥‥努力したいと思います』 少々不安の残る返答をして、キリエは海に向かって飛んで行った。 「さて、私は砂遊びでもしようかな」 黒のタンキニ水着の上に白いパーカーを着たからすは、道具を持って海の家の近くに移動する。そして砂のもふらやウサギなどを次々と作り出す。 「砂は崩れやすいからな。精巧に作る為の、集中力の鍛錬になる」 真剣な顔付きで、からすは作り続ける。 やがて海の家の人達が店を囲むように作られた大量の砂の作品を見て、ギョッとするのであった。 ビキニのノワールを着ているリィムナは、サジ太と共に崖に向かって歩いている。 「やってみたかった実験があるんだよね。今日は挑戦する良い機会だね、サジ太」 鼻歌を歌うリィムナの背には、背負っている物があった。やがて下が海の、それほど高さがない崖に到着する。 「よし、サジ太。合体だ!」 リィムナは【友なる翼】でサジ太と同体化した。リィムナの背中に、光でできた翼が生える。 「ていっ!」 走って崖から飛び降り、翼を使って飛ぶ。中空まで飛ぶとスキルを解除し、落下する中、リィムナは背負っている物から六本の荒縄を三本ずつ、二つにまとめて結んだ結び目をそれぞれ左右の手で掴み、一気に引っ張る。するとボンッ!と音がして、荒縄の先にある布が一気に開き、落下の速度が落ちた。 「おお〜! 実験成功!」 リィムナはあらかじめ、丈夫で大きな布を六角形に切り、角の部分に荒縄をしっかりと結びつけた。そして荒縄の端を三本ずつ結び、両手で持てるように二つにしていた。開かれた布は海風を含み、海の上をゆるやかに飛ぶ。 「うん、考えた通りになった。傘みたいに開いたから、落下傘って名付けようかな? ねっ、サジ太」 満面の笑顔でガッツポーズをしながら、近くを飛ぶサジ太に声をかけた。‥‥が、だんだんと下りていくリィムナは、とうとう海に体が入る。しかし布も海に入った為に、水を含んで重くなった。そしてゆるんだ荒縄も体に絡んできた為に、上手く泳げない。 「あっアレ? ちょっとピンチかも」 布と荒縄に体を絡み取られ、溺れそうになる。サジ太も慌てるように、リィムナの周囲をバタバタと飛ぶ。 「リィムナさん、大丈夫ですか?」 そこへ露羽と七星が泳いできた。 「たっ助けてぇ〜!」 あぷあぷしているリィムナを、露羽は自分が使っていた浮き輪にくぐらせる。そして隠し持っていた刹手裏剣で絡んでいる荒縄を切り、体を自由にした。 「とりあえずこの浮き輪で陸地まで行きましょう。連れて行きますから、安心してください」 「ううっ‥‥。ありがとう」 「いえいえ、礼は彼女に言ってあげてください」 露羽が指さした先には、飛んでいるキリエが心配そうにリィムナを見ている。 『大丈夫? リィムナちゃん』 「あっ、キリエ‥‥。うん、ありがとう」 「彼女が海の上を飛んでいたところ、溺れかけているリィムナさんを発見して、近くにいた私と七星を呼びに来たんです」 七星はリィムナが背負っていた布を小さくたたみ、荒縄できつく縛った。 『リィムナ様、こういったことは水のない陸地でやられた方がよろしいかと思います』 「‥‥そうだね。今度からはそうするよ」 海では危機一髪な事件が起きている頃、離れた場所の砂浜では鴻領が西宵を、黄霖が兆候を連れてゆっくりと歩いている。二人とも同じ霊騎を相棒にしていたので、一緒に過ごすことにしたのだ。 二人とも霊騎には乗らず、波打ち際をのんびりと歩く。そのうち西宵が波を前足でピチャピチャと触れるのを見て、鴻領は歩みを止めた。 「西宵、海に興味を持ったのですか?」 西宵がこちらを見ながら深く頷くのを見て、鴻領はニッコリ微笑む。 「では入ってみましょうか。黄霖さんと兆候も一緒にどうですか?」 立ち止まって岩清水を兆候に飲ませていた黄霖は、ふと考えてみる。 「そうですね。せっかく海に来たことですし、水着にも着替えています。遊ばなくては損ですね」 最初は浅瀬でバシャバシャと波で遊んでいた西宵と兆候だったが、慣れてくるとゆっくりと海の中へ入っていく。 「ふふっ。西宵、泳ぎが上手ですね」 「兆候も気持ちよさそうに泳いでいます。海に来て正解でしたね」 楽しそうに泳ぐ相棒達をそれぞれ見て、鴻領と黄霖も笑顔で海水浴を楽しむ。 充分に遊んで砂浜に戻ると、二人のお腹が同時に鳴った。 「泳ぐとお腹が減りますね」 「ええ。とりあえず海の家に向いましょうか。海水を流さないと、お肌によくないですし」 海の家の近くには、海水を流す為に真水のシャワーが設置されている。二人はシャワーを浴びた後、互いの相棒にも真水をかけた。しかし真水をかけ終えた後、西宵と兆候はブルブルっと全身を振るわせ、水切りをする。 「きゃあっ!」 「つっ冷たいですっ!」 すっきりした相棒達とは反対に、思わぬ水攻撃を受けた二人はグッタリしながら改めてシャワーを浴び直したのであった。 何とか落ち着いた後、相棒達を海の家の日陰に待たせて、二人は野菜直売場に来た。海の家の人達の家でとれた新鮮な野菜を、鴻領と黄霖は真剣な表情でじっと見つめている。 「う〜ん‥‥。霊騎は草食ですけど、野菜も食べるでしょうか?」 「確か普通の馬は糖分が強めの野菜や果物が好物と聞いたことがありますが、霊騎の場合、どうなんでしょう?」 野菜を見ながら首を傾げ続ける二人であったが、とりあえず野菜と果物、そして蜂蜜を購入して相棒達の元へ戻った。人参やりんご、さつまいもにスイカを借りてきたまな板に置き、包丁で一口サイズに切って差し出す。 「コレは食べられそうですか?」 鴻領は次々と野菜と果物を西宵に見せて食べさせながらも、岩清水を与える。 黄霖は蜂蜜をかけた野菜やスイカを兆候に食べさせながら、自分もスイカを食べていた。 「いつもは草ばかりですが、たまにはこういうのも良いかもしれませんね」 霊騎達が嬉しそうに食べていく姿を見て、二人も笑顔になる。が、そこへ道具を持ったからすが通りかかった。 「おっ、霊騎に食事を与えているのか。‥‥しかし糖分が多い物ばかりだな。まあないとは思うが、太った霊騎にならぬように量は調整しといた方が良い」 からすの一言で、二人は慌てて霊騎達から野菜を取り上げる。 「あははっ! 海だ海だっ!」 後頭部に大きなタンコブをつけながら、ジルベリアの水着を着用したラグナは海に向かってはしゃいでいた。 しかしその隣には、グッタリしたキルアがいる。 『‥‥あづい。それに疲れた‥‥』 「大丈夫か? しかし来たばっかりなのに、『疲れた』はないだろう」 『誰のせいだと思っている‥‥』 ネジが飛びすぎるラグナに全力でツッこんでいた為に、すでにキルアの体力は尽きそうになっていた。 「冷たい海に入れば、気分も良くなるだろう」 『はあっ!? そんなことしたら羽が濡れて飛べなくなる‥‥うわっ!』 ビシャッとラグナに水をかけられ、全身ずぶ濡れになるキルア。 「ホラ、気持ち良いだろう?」 ブチッ!とキルアの中で、何かが切れた。 「キャメルちゃーん、このカニ、焼けましたわよ」 「わーい! 炭で焼いたカニとか貝とか、お魚とか美味しいね」 『美味しいのー!』 『なかなかイケますわね』 露草とキャメル、衣通姫にぷーちゃんは海の家で借りたバーベキューセットでとってきた魚介類を焼いて食べている。 『露羽様、からす様の手作り焼きそばです』 「ありがとうございます、七星。海で食べると、普段とはまた違う味わいがあるんですよね」 休憩場の座敷に座っている露羽は七星から焼きそばを渡され、笑顔で食べ始めた。その様子を黙って見ていた七星が、ふと口を開く。 『露羽様、今日はありがとうございました。機会がありましたら、また連れて来てくださいね』 淡く微笑む七星。露羽の笑みも、あたたかいものへとなる。 「良いですよ。今度は二人きりで海に来ましょうか」 『はい』 ほのぼのした空気が流れる休憩場の外では、リィムナがグッタリとテーブルに倒れていた。 「ううっ‥‥。海の恐ろしさを身をもって知ってしまったよ」 落ち込むリィムナを、隣のイスの背にとまっているサジ太は心配そうに見ている。 「まあまあ、そう暗くならずに。ほら、私の作った焼きそばでも食べて元気出して。サジタリオには特別に肉を多めに入れておいた」 「焼きそばっ!」 美味しそうな匂いにつられて、リィムナとサジ太はからすが持つ皿に視線を向けた。そしてテーブルに置かれると勢い良く食べる。 「おいっしー! よぉーし、元気出た! お礼に今から【フローズ】でかき氷を作って、みんなにご馳走するよ。サジ太、手伝って」 焼きそばを食べて元気になったリィムナとサジ太は、厨房へ駆けて行く。 「元気になって何より」 『美味しい物を食べて元気になるなんて子供だね』 ヤレヤレといった感じで首を横に振るキリエの小さな耳を、からすはクイッと引っ張る。 「人のことは言えないだろう?」 『そっそうですね‥‥』 思わず涙目になるキリエだったが、リィムナが持ってきたかき氷を見て眼を輝かせた。 『おおっ、美味しそう! いっただきまーす!』 そして一気にかき氷をかきこんだキリエは次の瞬間、顔を嬉しそうにしかめる。 『頭がキーンっ!と。これぞ夏の風物詩っ!』 「‥‥何も体現せずともいいと思うんだが」 からすは呆れながらも、かき氷を食べるのであった。 からす達から少し離れたテーブルとイスのセットでは、鴻領と黄霖がリィムナからかき氷の器を受け取る。ビーチパラソルの影の下、二人はかき氷を食べて嬉しそうに笑う。 「たまにはこういう日も良いですね」 「ええ。‥‥あの、鴻領さん。またこういう機会がありましたら、よろしくお願いします」 「ふふっ、こちらこそ」 テーブルとイスのセットがある休憩場の中では、怒り狂ったキルアに顔面を蹴られまくって顔を変形させたラグナが、リィムナのかき氷を食べながら未だに不貞腐れているキルアに声をかける。 「まだ怒っているのか? ホラ、かき氷をやるからいい加減、機嫌を直してくれ」 リィムナが渡そうとした時、まだ不機嫌だったキルアは断った。だがラグナが半分食べたかき氷をチラっと見るとすぐに器を奪い、勢い良く食べ始める。やがて食べ終える頃には、怒りの熱も冷めつつあった。 『‥‥まっまあせっかく海に来たんだし、いつまでも不機嫌でいるのもアレだしな。もう怒ってなどいないから、今から海に‥‥』 そこまで言って振り返ったキルアは、ラグナが別の方向を見ているのに気付く。その視線の先をたどると、鴻領と黄霖が笑顔で話している姿があった。 「う〜ん。やはり豊満な体は素晴らしいな」 『だからお前はどスケベ騎士なんだっ!』 【終わり】 |