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■オープニング本文 紫陽花の下には‥‥。 「死体が埋まっているって‥‥本当かな?」 「‥‥それは桜の間違いじゃないの?」 『桜の下には死体が埋まっており、それゆえに花の色は濃いピンク色をしている』というのは、あまりにも有名過ぎる話。 神楽の都で開拓者ギルドの受付を担当している野衣は、幼馴染の女性、偲那(しな)の言葉に冷静に返した。開拓者ギルドに相談があるとのことで担当することにした野衣だったが、彼女の言っている意味がよく分からず首を傾げる。 「でもでもっ! 紫陽花って死体を埋めると色が変わるって言うじゃない!」 「ちょっ‥‥声っ! 抑えて!」 周囲には多くの人がいるのに声を荒げた偲那の口を手で塞ぎ、野衣は愛想笑いを浮かべながらこちらを見ている人達に頭をペコペコと下げる。 「はあ‥‥。一体どういうことなのか、最初っから話して」 「あっ、うん。実はわたしが勤めているおウチでね」 そもそも偲那はこの近くにあるジルベリア帝国の貴族の屋敷にメイドとして働いており、そこの庭園で問題は起こっているらしい。仕事の為に移住してきたその家の主人は、故郷のジルベリア帝国より紫陽花を持ち込み、庭に植えた。そしてこっちで庭師を雇って庭園の管理を任せていたのだが、どうやらその紫陽花の色がどんどん変化しているらしい。 「‥‥それでそんな話が出てきたのね」 確かに死体は酸性の成分があり、紫陽花の下に植えると花の色が変わるというのは有名な話だ。 「でも酸性の成分は別に死体に限らないでしょう? 酸味、つまり酸っぱい食べ物には必ず酸性があるし。土の肥料として使っているのかもよ?」 「うっうん‥‥」 「それに最近は梅雨のせいで雨が多いじゃない? 雨に酸性が入っている時だってあるし」 「‥‥うん」 「あと金属を土に埋めても色が変わるんだって。いろんな要因があるみたいだし、死体とは一概に‥‥」 「言えないけど、調べるのが怖いから野衣ちゃんを頼って来ているんじゃない!」 ――そうだった、と野衣は叫ばれて思い出す。 つまり偲那達は自分達で紫陽花の色の変化の原因を探るのが怖いので、開拓者ギルドを頼って来たのだ。 「わたしが開拓者ギルドで受付を担当している野衣ちゃんと知り合いだって奥様に言ったら、話をつけてほしいと言われたの。お願い、野衣ちゃん。調査してぇ〜」 「‥‥まあ開拓者を集めるのは良いけど、庭師のことをもうちょっと教えてくれない?」 「あっ、うん。庭師を勤めているのは今は二十三歳になる草太(そうた)さん。ちょっと気が弱いけれど、植物にはとても詳しい男の人なの。元々草太さんのお祖父さん、草矢(そうや)さんが担当していたんだけど、この前ぎっくり腰になっちゃって、つい最近代替わりをしたの」 雇い主である主人と奥様が紫陽花を大事にしていることを知り、特に紫陽花の手入れを入念にしていたらしい。しかし‥‥。 「ある日、旦那様が紫陽花の色の変化がないことをちょっとぼやいてね。『色が変わったのを見たい』と言い出して、それを聞いて草太さんは勉強したみたい」 「紫陽花の色の変化を旦那様が望んだのね。‥‥なるほど」 「そしてしばらくして、ふと気づいたら花の色が変わってたのに気付いたの。それで色の変化の原因だけど、死体説が結構有名な話だからすっかり奥様は信じちゃって‥‥。夫である旦那様が迂闊なことを言ってしまったからだって、責任感じちゃっているのよ」 確かにあまり良い言葉ではなかっただろう。奥様はきっと、草太が期待に応えようとして、とんでもないことをやらかしたのだと思っている。 「それですっかり体調を崩されて‥‥。だから開拓者ギルドを頼って来たの。万が一のことがあっても、ギルドならば対処してくれるだろうからって」 「う〜ん‥‥。でもさっきも言ったけど、花の色が変わる原因はさまざまあるのよ? 本当は草太さんに直に尋ねたり、土を掘り返せばすぐに分かるんだけど‥‥」 「ムリムリ! だからね、結果がどうであれ、ちゃんと紫陽花の色の変化の原因を探ってほしいの。証拠を揃えば、奥様自ら土の下を暴きに行くって言っているし」 恐らくどんな最悪な結果であれ、奥様は受け入れるつもりなのだろう。 「‥‥とりあえず、周囲の人達から聞き込みを始めた方が良いわね。草太さんと仲良い人とか分からないかな?」 「え〜っと。まずは使用人専用の住居で一緒に暮らしているお祖父さんでしょ? 紫陽花の育て方はお祖父さんに教わったみたいだし。後は‥‥」 土の肥料の相談をよくしていた、料理人の四十代の女性、和子(かずこ)。 同じ庭師だが、まだ見習いの十六になる少年の樹(いつき)。 屋敷に出入りしている鍛冶屋で、草太とは幼馴染の青年の刀真(とうま)。 「‥‥そう言えばあの人達、なぁんか意味ありげなことを言っていたなぁ」 和子いわく「今年の野菜や果物は酸っぱいわねぇ」 樹いわく「今年はよく雨が降るけど、植物が傷む雨だ。酸性雨かな?」 刀真いわく「最近湿気が多いせいか、鉄を打っても割れやすいんだ。捨て場がなぁ‥‥」 草矢いわく「最近、この近くの墓場が荒らさられているらしい。墓場泥棒かねぇ」 「‥‥何その発言。全部疑わしく聞こえるじゃない」 「だーかーらっ! 困っているの!」 偲那は耐え切れずに机をバンバンっと叩く。 野衣は痛むこめかみを指で押し、結果を出す。 「じゃあ開拓者達にはより深い聞き込みをしてもらいましょう。その後、結果を出して奥様に報告。草太さんもまじえて紫陽花の前で真実を明かしましょう」 「うん、そうして‥‥」 話がついたところで、二人は同時に深いため息を吐いた。 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
羽紫 アラタ(ib7297)
17歳・男・陰
煌星 珊瑚(ib7518)
20歳・女・陰
奈々生(ib9660)
13歳・女・サ
火崎琥太郎(ib9700)
22歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●調理場 和子への聞き込み 裏口から調理場へ通じる扉を、リィムナ・ピサレット(ib5201)はノックする。 「はいよー」 そして扉を開けて姿を見せたのは、中年女性の和子だ。 「おや、可愛らしいお嬢ちゃん達だね。ウチに何か用かい?」 リィムナと奈々生(ib9660)は明るい笑顔を和子に見せた。 「和子さん、だよね? あたし達、肥料のことについて聞きに来たんだよ」 「偲那と奥様から話があったと思うんだけど‥‥」 和子はふと考え込んだものの、すぐに思い当たったように手を叩く。 「ああ、聞いているよ。植物の肥料の作り方について、あたしに聞きたいんだってね。でも庭師に聞かなくてもいいのかい?」 二人の笑顔が僅かに引きつったものの、明るい調子で話を続ける。 「それは後で!」 「うんうん。とりあえず和子にお話聞きたいな。お茶菓子もあるんだよ」 そう言って奈々生はここへ来る途中で買ってきたおまんじゅうを和子に差し出す。 「おや、嬉しいね。それじゃあ中へどうぞ。今はちょうど休憩中だから」 二人はこうして中に招かれた。イスとテーブルのセットに座った二人に、和子は麦茶を入れたコップを置く。 「それであたしに聞きたいことって何だい? 肥料の作り方なら簡単には説明できるけど」 「うっうん。それが聞きたいよね? 奈々生」 「もっもちろんだよ! リィムナ」 「えっとねえ‥‥」 和子の説明はこうだった。 まず水切りした生ゴミを土や枯れ葉と共に大きな容器に入れる。それを時々かき混ぜて、黒くなって臭いがしなくなったら肥料の完成。季節や天気の変化で完成する時間が変わってくるものの、約二週間から一ヶ月で完成ということらしい。 「ウチの新しい庭師の草太くんも、お祖父さんの草矢さんから肥料の作り方を受け継いでいるしね」 草太の名前を聞いて、奈々生の眼に光が宿る。 「じゃあ肥料の作り方は変わっていないの?」 「ええ。庭の隅に肥料を作っている容器があるし、そこで草太くんが手入れしているの見かけるしね」 「じゃあ今の肥料ってどうなのかな?」 リィムナの問いかけに、和子は苦笑した。 「それが今年は酸味の強い果物や野菜が多くてねぇ。良い肥料とは言えないんじゃないかと思うのよ」 「酸っぱいってどれぐらい?」 「私とリィムナ、食べてみたいな」 「じゃあちょっと待ってて」 和子は調理場に行き、赤いミニトマトとオレンジを切って持ってきた。 「はい、どうぞ」 「「いただきまーす!」」 リィムナはミニトマト、奈々生はオレンジを食べる。しかし次の瞬間、笑みが崩れ、顔色が真っ白になった。 「「うっ!」」 二人の口の中には酸味が溢れる。それと同時に唾液も口の中に溢れ、二人は慌てて麦茶を飲み込み、口の中を空にした。 「っぷはー!」 「すっ酸っぱいよぉ!」 見た目には完熟しているのだが、どちらも舌が痺れるぐらい酸っぱく、その違いに二人は眼を白黒させる。 「だろう? ウチの野菜や果物は近くの農家や果樹園から仕入れているんだけど、どうも他の所でも酸味の強い物しか採れないみたいでね。困ったもんだねぇ」 ●鍛冶屋 刀真への聞き込み 「ごめん。こちらに刀真さんはいらっしゃるか?」 霧雁(ib6739)が加治屋の暖簾をくぐって、中に声をかける。 「はい、俺に何のご用ですか?」 草太と同じ歳の青年、刀真が三人の前に姿を現した。 「俺達、鉄のことに関して聞きに来たんだ。なっ?」 羽柴アラタ(ib7297)に同意するよう声をかけられ、煌星珊瑚(ib7518)はため息を吐きながら頷く。 「ええ。最近、雨が多いでしょう? 鉄がさびやすくなって、ちょっと困っているのよ。あなた、偲那が勤めるお屋敷に出入りしているんだってね。私達は彼女と知り合いで話を聞いていたんだけど、貴族が出入りを許すぐらいなら腕も知識もあるんじゃないかと思って」 珊瑚にニコッと微笑みかけられ、刀真の顔が赤く染まる。 「そっそれほどではありませんけど‥‥。まあ俺の知っていることであれば、ご質問にお答えします」 「では早速だが、壊れて使えなくなった鉄の処理の仕方について聞きたいでござる。刀真さん達、鍛冶師の方は壊れた鉄などはどうしているでござる?」 「ウチは鍛冶屋なので、もう一度熱に溶かして打ち直しますよ。まあこの季節は湿気が多いので、失敗率が高くなってしまいますけどね」 霧雁の質問に、刀真は困った笑みを浮かべた。 「じゃあもう溶かして使うこともできなくなった鉄はどうするんだ?」 「ん〜、そうですねえ‥‥」 アラタの質問には、刀真は顔をしかめて腕を組んでしまう。 「‥‥本当にもう使えなくなった鉄は、捨てるしかありません。くず鉄を集める業者がいますので、その人達にお譲ります」 刀真の答えに、珊瑚はふと首を傾げた。 「じゃあその中間。作りたい物が作れないけど、でも鉄自体は使えるって場合はどうなるの?」 「その場合は別の物に作り変えます。ただ失敗している鉄なので、精巧な物は作れませんけどね」 「ではくず鉄を他の人間‥‥鍛冶に全く関係ない者に譲り渡すというのは?」 「ありえません。鉄は扱い方に難しい物です。素人には決して預けたりしませんよ」 霧雁の言葉をスッパリ却下した刀真の眼は、一点の濁りもなく透きとっている。それは偽りなき答えの現れだった。 ●庭園 樹への聞き込み 「ううっ‥‥。まーだ口の中が酸っぱいよぉ」 「おまんじゅうを食べても、酸っぱさが残ってるね」 リィムナと奈々生の二人は、和子に聞いた肥料が作られている庭の隅に移動した。しかしそこで、一人の少年が木のヘラを使って肥料をかき混ぜている姿を発見する。 「あれ、もしかして‥‥」 「庭師見習いの樹?」 「ん? 何だ、嬢ちゃん達。ここには面白い物なんて無いぞ?」 顔や手を土まみれにしながら、樹は振り返って二人に声をかけた。 「えっと、それって庭の木やお花の肥料?」 リィムナが大きな木の樽を指さしながら問いかけると、樹は頷く。 「ああ、オレと草太さんの二人で作っているんだ。あんまり近付くんじゃねーぞ? 臭いからな」 「確かに‥‥」 奈々生は鼻をつまみながら、後ろに一歩下がる。様々な生ゴミがあるせいか、異様な臭いが周囲に満ちていた。 「綺麗に元気良く植物を生かす為には必要な物なんだ。人間だって、ナニを肥料にした作物を食っているしな」 「「それは言わないでっ!」」 咄嗟に鼻よりも耳をふさいでしまった二人だが、すぐにここへ来た目的を思い出す。 「あっあのね、今年の雨って酸性雨が多いみたいだけど、ここの植物はどう?」 「あ〜、そうだなぁ。結構、葉っぱとかボロボロだぞ? 花の方も色が白くなって、干からびている」 リィムナは周囲を見回し、樹が険しい表情で語った言葉が本当であると気付く。ここにもいくつかの木や花があるのだが、確かに樹の言った状態になっている。 「‥‥じゃあ酸性雨を浴びると、花の色は変わるんだね?」 「ああ。まあ植物によっちゃあ酸性雨を浴びても平気なのもあるが、多くは色が変わっちまう。まさか全ての植物に雨よけをかぶせておくわけにもいかねーからな。今年の庭は寂しいもんだぜ」 樹が庭園の方を向いたので、奈々生もつられて見る。確かにどんよりした天気と同じく、庭園も明るさに欠けていた。 ●墓場 草矢への聞き込み 鍛冶屋を出た三人は、次に墓場へと向かう。 鍛冶屋に寄る前に、屋敷の使用人専用の住居の部屋で、休んでいる草矢に話を聞いていた。 「ふむ、墓荒らしの話が聞きたいとな?」 ベッドに横になりながら、三人を見つめる草矢。草矢にはあらかじめ、偲那の方から話をつけてもらっていた。墓荒らしの件について聞きたい人が行くので話してほしい――と。 「療養中のところを申し訳ないのでござるが‥‥」 「物騒なことは早めに解決するべきだと思ってな」 「知っている情報を教えてくれないかい?」 霧雁、アラタ、珊瑚の顔を次々と見た草矢は、ふむ‥‥と遠い目をする。 「まあワシもここに通っている医者から聞いた話しなんじゃがな」 ここからそう遠くない山にある墓場が最近、荒らされているらしい。墓が暴かれ、中に入れた遺品を盗まれるという事件が連続して起こっているという。 「どうも人気のない時を狙って動いているらしくてな。噂ではその道のプロではないかと言う話しじゃ」 夕暮れ時。珊瑚は人気がないことを確認して、【人魂】を使って周囲を探らせる。 「山にある墓場なだけに、広くて人気もない。泥棒するにはうってつけの場所だね。しかし墓を荒らすなんて、いつか祟りが降りかかってくるんじゃないかい?」 「‥‥俺はこの格好の方が、祟られると思う」 引きつった表情を浮かべるアラタの視線の先には、着替えた霧雁の姿があった。 白の単衣を着て、顔には白粉を塗り、真っ赤な紅を唇に付けている姿は、猫耳と猫の尻尾があるせいで、化け猫の化身に見える。しかし当の本人である霧雁は、スキルを使うことに集中していた。 「【完徹】の発動により、二十四時間、一切の眠気を感じずに済むでござる」 くわっと眼を見開くと本物の妖怪に見える為に、アラタと珊瑚はビクッと体を揺らしてしまう。二人は霧雁から視線をそらし、体の向きも変える。 「アラタ、そろそろ隠れようか」 「そっそうだな、珊瑚。霧雁も隠れといた方がいいぞ?」 「ああ、そうだな」 三人が物陰に隠れ、日が沈む直前になった頃。珊瑚は放った式を通して山の麓からこちらへ向かってくる三人の男達を、視覚と聴覚で確認した。 「――来たわよ」 小さく低い声で、アラタと霧雁に伝える。 霧雁は【超越聴覚】を発動させ、耳を研ぎ澄ませた。 「‥‥そろそろここも、めぼしい物が無くなってきたなぁ」 「違う場所に移るか?」 「そうだな。ちょっと噂になっているようだし、今日で最後にすっか」 下品に笑う男達の声を聞いて、霧雁は【暗視】を使ってその姿を見る。ボロボロの浪人姿の中年の男達がそれぞれ鍬を持ち、カゴを背負いながらこちらに向かって来た。 三人が霧雁の前を通った時、髪をボサボサにし、眼をカッと見開いた霧雁が突如飛び出す。 「うらめしにゃあああーーー!」 「ぎゃあああっ!」 「うわーっ!」 「ばっ化け猫だあっ!」 三人は鍬を放り出し、逃げ出した。 「待つでござる!」 荒縄を持った霧雁が、その後を追う。 「珊瑚っ!」 「分かっている!」 続いてアラタと珊瑚も物陰から飛び出し、【呪縛符】を放つ。 「奴らを捕えろ! 急々如律令!」 「男達の動きを止めろ!」 二人の放った式は逃げる二人の男の足首に絡みつき、転倒させた。 「とおりゃっ!」 そして残りの一人は霧雁が飛びかかり、しばらく地面でもつれ合った後、グッタリした男の背を踏み付けた霧雁の勝利に終わる。 三人を一本の荒縄で連なるように縛り付けた後、霧雁にボロボロにされた男は珊瑚の【治癒符】で傷を癒していた。最初に霧雁に飛びかかられた時に足をくじいてしまった為に、歩けなくなってしまったのだ。連れて行く為にも足の治癒だけすることになった。 そして霧雁も傷を負ったのでアラタの【治癒符】で癒してもらいながらも、男達に問いかける。 「さて、ギルドに引き渡す前に貴様らに聞きたいことがあるでござる。墓荒らしは三人だけで行なっていたのか?」 「‥‥ああ、そうだよ」 「墓には結構良い物があるからなぁ」 「墓場になんぞ滅多に人も来ないし、穴場だと思っていたのによ」 悔しそうに語る三人からは、嘘を言っているようには見えない。それならば‥‥。 ●紫陽花の色の原因は‥‥ 翌朝、屋敷の奥様を支えながら偲那は紫陽花の花の前に来た。そこにはすでに五人の開拓者達と、草太が集まっている。草太には開拓者達が一連のことを話し終え、結果は奥様と偲那が来た時に明かすようにと伝えてあった。 「‥‥みなさん、お騒がせさせたみたいで、すみません」 まず草太は頭を下げる。その表情は気まずそうで、そして辛そうでもあった。 「最初に結果から申し上げます。‥‥『正解』ということに関してだけならば、肥料と鉄、そして酸性雨が該当するでしょう」 「まあ昨夜捕まえた墓荒らし達は、草太さんのことは一切知らないと言っていたでござるからな」 霧雁がうんうんと頷きながら、昨夜のことを思い出す。あの後もいくつか問いかけたが、墓荒らしと草太は関係が無いことが分かった。それに墓荒らし達も物だけ盗み、死体には一切手を付けていないことも調べて分かったことだった。 「酸っぱい野菜や果物で肥料を作って、それを紫陽花の肥料にしてたんだよね?」 「それはやっぱり、紫陽花の色を変える為だったのかな?」 リィムナと奈々生が首を傾げながら尋ねると、草太は弱々しく頷く。 「和子さんからお聞きした通り、今の野菜や果物は酸味が強いです。ですから肥料に使えば、もしやと考えました」 「それじゃあ鉄のことは?」 「まさか肥料として埋めたのかい?」 アラタと珊瑚は刀真が関係していないことは知りつつも、尋ねてみる。 「肥料にはしていません。ですが刀真が全く関係していないというわけでもないんです」 そう言って草太は紫陽花の下の部分を指さした。 「刀真にはつい最近、この鉄の柵を作ってもらったんです」 あっ、と草太以外の誰もが息を飲んだ。土の色とほぼ同じで、紫陽花の数多い葉っぱで見えにくかったが、膝ぐらいまでの鉄柵があった。 「時々野良犬や野良猫が入って来るので、荒らされない為に作ってもらったんです。そして酸性雨が降っているせいもありますが、鉄が酸性雨で溶かされて土に染み込んだせいもあるんでしょう」 「‥‥じゃあ結局、草太さんが意識してやったことは肥料だけ?」 「ええ、そうなりますね、偲那さん。鉄と酸性雨が紫陽花の色に変化を付けることは知ってはいましたが、意識していたわけではなかったんです」 ゆるく首を振る草太。恐らくこんな大事になるなんて思わなかったのだろう。 「でも、良かったわ。本当に良かった‥‥」 心から安堵した奥様は、その場で泣き崩れてしまった。 「すみません、奥様。正直どれが原因で紫陽花の色が変化したのか、ハッキリしなかったので僕も報告できなかったんです」 三つのどれかが紫陽花に反応したのか、あるいは三つとも原因になったのかまでは、草太も分からなかったのだ。 「開拓者のみなさまにもご心配おかけしました。紫陽花のことに関しては、奥様と旦那様とよく話し合いたいと思います」 ――こうして人騒がせな事件は解決したが、本当に死体が埋まっていなかったことに、誰もが心から安堵した。 【終わり】 |