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■オープニング本文 「あっ、もふらしゃま!」 舌っ足らずの可愛らしい声を上げたのは、馬や牛を飼育している家の三つになる娘の亜子(あこ)。多くの野菜を入れた荷車を引いているもふらさまを見て、大喜びで近付こうとするものの、若い母親に止められる。 「ダメよ、危ないから」 「もふらしゃまは危なくないよ? かーいの!」 「はいはい。もふらさまが可愛いのは分かるけど、荷車は危ないからね」 母親は亜子を抱き上げ、野菜を持って来た中年の男性に頭を下げた。 男性は農業をしている野作(のさく)という者で、いつも決まった日にこの家に採れた野菜を運ぶ。この家では馬や牛の世話をする人達が多く寝泊りしているので、その量も多かった。なのでいつももふらさまに荷車を引かせて来ていたのだが、亜子がすっかりもふらさまを気に入ってしまったらしく、見つけると大喜びする。 「亜子お嬢ちゃんはもふらさまが大好きだなぁ」 荷車を止めると、野菜を入れた籠を次々と下ろしていく。ここで働いている若い男性達が駆けて来て、家の中に籠を運んでいった。 その間に亜子は母親に下ろしてもらい、もふらさまに駆け寄る。 「もふらしゃま、かーいー!」 『ありがとうもふ』 一メートル近くのもふらさまも亜子を気に入っているようで、抱きついてくる亜子に擦り寄っている。 「おかーしゃん、もふらしゃまと遊びに行きたいの」 「ダメよ。野作さんのご迷惑になるでしょう?」 「いやいや、少しの間なら良いですよ。次に採れる野菜のことについて、旦那さんと話がありますし」 「あっ、その夫ですが、今来客のお相手をしていまして、少々お待ちいただくことになりますが‥‥」 「構いませんよ。今日は特に用事もありませんからね」 野作は笑顔で言いながら、もふらさまの手綱を解く。そして亜子をもふらさまの背に乗せた。 「わぁーい! もふらしゃま、あっちに行こう」 『もふ!』 そして亜子を乗せたもふらさまは歩き出す。 「あまり遠くに行っちゃダメよ!」 「分かってるぅ〜!」 その様子を微笑ましく見ていた野作は、ふと母親に尋ねてみた。 「亜子お嬢ちゃん、随分ともふらさまが気に入っているみたいだが、こちらで飼ってあげたらどうです?」 「ええ‥‥。ですがウチにはすでに馬や牛がいますからね」 広い敷地の中には数多くの馬や牛がいて、荷車を引く役目は今のところ充分に足りている。 「まあでも一匹ぐらい、一人娘のお嬢ちゃんの為に飼っても‥‥って奥さん。何だか顔色が悪くないですかい? もしかして来客って危険なヤツらですか?」 「いっいえ‥‥何でもありません。野作さん、とりあえず家の中に入ってください。お茶をお出ししますので」 「はあ‥‥」 疑問が残った野作だったが、とりあえずそのまま母親と共に家の中に入った。 ――しかし太陽が沈みかける頃になっても、亜子ともふらさまは戻って来なかった。 「亜子! 亜子ぉ!」 「どこに行ったの? 亜子、もふらさま!」 「お嬢ちゃーん! もふらさまー!」 村にいる人達も慌てた様子であちこち探しまくる。しかしどこにも亜子ともふらさまの姿はない。 「まいったな‥‥。何で戻って来ないんだ?」 野作は亜子の両親の元へ行った。だが二人の様子がおかしい。心配しているのはもちろんだが、それ以上に何か強い恐怖を感じているようだった。 そこへ野作の視界に、二人の人物が映る。村人かと思ったが、その二人はギルド職員の制服を身に付けていた。 「あっあの、旦那さん、奥さん。ギルドの人間がいるみたいだが‥‥もしかして何かあったのか?」 野作の問いかけに、二人は体をビクッと震わした。すると亜子の父親が深々と頭を下げる。 「黙っていて申し訳ありません。実はこの近くの森に最近、怪しい人物やケモノが現れるとの話が出ていまして、ギルドの人達は今日、現場の視察に来ていただいたのです」 すでに開拓者ギルドへの依頼は済ませており、後は現場を調査してもらい、開拓者を雇うだけだった。その間、村人達は絶対に森には近付かないようにしていたのだが‥‥。 「森には亜子が気に入っている花畑があるのです。危険なので一人では近付かないように言ってはいたのですが‥‥」 「‥‥もしかしなくても、もふらさまを連れて行ったのか?」 もふらさまが一緒なら『一人』ではないだろうと、三歳の子供が思っても仕方がないことだろう。 「う〜ん‥‥。確かにもふらさまはその気になれば、一般の人間よりは強いが‥‥もし複数の山賊やケモノ相手だと‥‥」 正直どうなるのか、もふらさまの飼い主である野作でさえ分からない。 母親が耐え切れずに泣き出し、父親が抱き締め、慰める。 野作は唸りながら、二人のギルド職員に向かって行く。 「あっあの、お願いがあるのですが‥‥。今すぐにでも、開拓者達を集めていただけないでしょうか?」 その頃、森の中では――。 「うわあーんっ!」 『もっふーーー!』 泣き喚く亜子を背負いながら、もふらさまは二本足で駆けていた。背後から追いかけてくる『モノ』から逃げる為に。 『かっ開拓者達ぃ〜、助けてほしいもふぅ〜!』 涙を流しながら、もふらさまは心から叫んだ。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
唐州馬 シノ(ib7735)
37歳・女・志
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
ミーリエ・ピサレット(ib8851)
10歳・女・シ
土州 虎彦(ib9387)
21歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●救出開始 亜子ともふらさまを探し出し、そして助ける為に集まった六人の開拓者達は、薄暗い森の中にいた。 松明を持ちながら【心眼】で気配を探る土州虎彦(ib9387)と、【超越聴覚】で物音を聞き取っているミーリエ・ピサレット(ib8851)。二人とも眼を閉じながら集中している姿を、四人は緊張に満ちた顔で見つめている。 「‥‥見つけましたよ。ここからそう遠くない所に、亜子ちゃんともふらさまがいます」 「うん、ミーリエにも二人の泣き声が聞こえたよ。でも‥‥」 「ええ、イヤな気配も近くにいます。早く助けに行きましょう!」 虎彦とミーリエを先頭に走り出す。やがて亜子ともふらさまの泣き声が聞こえてきた。 「亜子ちゃん、もふらさま!」 「見つけたよ! 二人とも、こっちだよ!」 声をかけられて、泣いてぐしゃぐしゃになった顔で亜子ともふらさまはこちらを見る。しかしその眼には、警戒の色が浮かんでいた。 『だっ誰もふか?』 「落ち着けよ。開拓者ギルドから来た者だ。助けに来たぞ」 唐州馬シノ(ib7735)が落ち着かせるように、ゆっくりと声をかける。 「こっコレを見ろ‥‥」 走ってフラフラになったラグナ・グラウシード(ib8459)は息も切れ切れに、背負っていた野菜入りのカゴを下ろし、もふらさまに向けて差し出す。 「ホラ、この野菜は野作から貰った物だ。見覚えや嗅ぎ覚えがあるだろう?」 もふらさまは亜子を背に庇いながらも慎重に近付き、カゴの中の野菜をクンクンと嗅いだ。 『‥‥確かに野作の野菜もふ。でもコイツも開拓者もふか?』 もふらさまの険しい視線の先には、まるごともーもーを着た村雨紫狼(ia9073)がいる。 「おうよ! 幼女の助けを呼ぶ声あらば、マッハ全開即参上だぜっ!」 カゴを背負いながらビシッとポーズをとるも、ジト目になった亜子ともふらさまから十メートルほど距離をとられてしまう。 「何故っ!? あっ、もふらさまと亜子たん、お腹減っただろう? 岩清水とワッフルセットを持って来たんだ。ほら、食べると良い。美味いぞ〜」 紫狼が岩清水とワッフルセットを差し出すと、もふらさまは眼にも止まらぬスピードで奪い取り、虎彦とミーリエの後ろに隠れながら食べ始めた。 『お水が美味しいもふ』 「わっふるも美味しーね」 ニコニコしながら飲み食べする二人を見て、紫狼はがっくり項垂れる。 「まっ、見つかって良かったじゃないですか。‥‥もっとも、余計なモノまで見つけてしまいましたが」 三笠三四郎(ia0163)が顔では微笑みながらも鋭い視線を向けた先には、荒い息を吐き出す一匹のケモノに向かっていた。 全長三メートル近くあるイノシシに似たケモノは、こちらにゆっくりと近付いて来る。大きく見開かれた眼は血走り、その口元からは大量の唾液が流れ落ちていた。 『腹、減ッタ‥‥』 「チッ。面倒くせぇな、こういう相手は」 シノは舌打ちしながら、背負っているカゴを下ろす。そしてラグナに視線を向け、ケモノを顎で示す。 ラグナは無言で頷き、ケモノに向かって微笑みかける。 「まあまあ。こんなにちっぽけでいたいけな子供や、もふらさまを喰わずともいいだろう。もっと良い物を喰わせてやる」 ラグナは静かに【士道】を使用し、ケモノの信頼を得ながらカゴを引っ繰り返し、地面に野菜を落とす。 続いてミーリエも【仮初】で笑顔を浮かべながら、カゴを倒した。 「美味しいお野菜を持ってきたんですよ。どうぞ召し上がってください」 「自分達はこのコ達を助けに来ただけです。あなたに危害を加えるつもりはありません」 虎彦も敵意が無い事を示すように、野菜を差し出す。 ケモノはクンクンと鼻を鳴らしながら、野菜を一口食べる。すると次々と勢い良く食べていくので、他の開拓者達もカゴを引っ繰り返して野菜を継ぎ足す。 やがて持ってきた野菜を全て食べ尽くしたケモノは、げふっと満足そうにゲップをした。その眼はすっかり正気を取り戻しており、荒かった息遣いも落ち着きを取り戻していた。 『まあまあ美味かった。さて、ぬしらは開拓者か?』 ケモノの大きな鼻がこちらに向かって動くのを見て、もふらさまと亜子は恐怖に顔を引きつらせる。しかし開拓者達はギリギリ我慢した。ここでおかしな態度を見せれば、ケモノに警戒されるからだ。今までの努力を無駄にせず、そして戦闘を避ける為に精神的に必死に耐える。しかしラグナと紫狼の匂いを嗅いだ途端、ケモノの眼に再び鋭さが宿った。 『‥‥おぬし達、まぁーだ美味そうな食べ物を持っているな? ちなみに我は上戸で甘党ぞ』 二人は顔を見合わせると、重箱弁当を取り出す。ラグナはその上、極辛純米酒と月餅までケモノの前に置いた。 『おおっ! やはり持っていたか。うむ、この弁当は美味いな。それに酒と菓子も美味いぞ』 ケモノが上機嫌で食べていく姿を見て、ラグナは悔しそうに涙を流す。 「くっ‥‥! 私のオヤツがっ‥‥!」 「まあまあ。ラグナさんは大人なんですから」 「男ならグダグダ言うな」 三四郎とシノに両脇を支えられながら、ラグナはケモノの前から離れた。 その間に、虎彦は亜子にもふらのぬいぐるみを手渡す。 「亜子ちゃんにはこのもふらさまを差し上げます」 「わあい! フカフカもふらしゃまだぁ」 「良かったねぇ、亜子ちゃん」 『ちっちゃいもふらもふね』 虎彦とミーリエのおかげで、二人はすっかり明るさを取り戻していた。 その光景を微笑ましく見ていた三四郎は、次に食べ終えたケモノに向かって話しかける。 「腹は満たされましたか? 落ち着いたのなら、もうこのコ達を追い掛け回すのは止めてほしいんですけどね」 『ああ、もう腹はいっぱいだ。‥‥しかしそやつらを追い掛け回していたのは、何も我だけではないぞ?』 意味ありげに笑うケモノを見て、緊迫した空気が流れる。その隙に、ケモノは突如走り去って行った。 誰もが呆気に取られている中、もふらさまだけが人の気配に気付いて振り返る。 『もっ‥‥もっふぅーーー!』 もふらさまの絶叫を聞いて、開拓者達は慌てて振り返った。三人の男達がそれぞれ手に手斧、刀、ナイフを持ちながらこちらに歩いて来る。 「何だ? お前達は」 「いつの間にか、人数が増えているな」 「まあいい。そこのガキともふらに用があるんだ。お前達はどいてろよ」 挑発的な態度を取る三人に、険しい顔をしたラグナが声をかける。 「我々はギルドの依頼を受けた開拓者だ。お前らこそ何者だ? まさか山賊か?」 言い当てられた三人は立ち止まり、顔を見合わす。そして次の瞬間、殺気を放ちながら向かって来た。 一早く動いたのは三四郎で、【咆哮】を使って三人の注意を引きつける。こちらに向かって来た三人のうちの一人を【発気】で怯ませ、続いて【剣気】を叩きつけた。すると先頭にいた手斧を持った男の体がグラっと揺らぐ。 その隙をついてシノが【居合】を男の持つ手斧に振るい、弾き飛ばす。すぐに【銀杏】にて武器を収め、冷たく言い放った。 「力の差も分からないのか。この大ボケがっ!」 硬直する男の首筋に、三四郎は木刀を叩き込んだ。 「ぐっ‥‥!」 倒された仲間を見て、残りの二人はすぐに亜子ともふらさまの所へ向かう。 運悪く開拓者達は全員、亜子達から離れて男達に向かっていた為、今二人は無防備に放置されている状況だった。 「待てっ!」 「行かせないよ!」 二人の足元を狙ってシノは懐に隠していた匕首を投げ付け、ミーリエは手裏剣「無銘」を使って【打剣】を放つ。 「ぐあっ!」 「ちっ‥‥!」 それぞれ太ももと踝に武器が命中するも、男達は勢いを落とさず向かって行く。 『もっふーっ!』 「うわぁあん!」 「あの野郎どもっ!」 男達が亜子ともふらさまに手を伸ばすと、駆けつけたシノが【防盾術】を使ってその手を跳ね除け、咄嗟に二人を抱えて後ろに下がった。追いかけようとした男達の前に、刀「牙折」を抜いた虎彦が立ちふさがる。 「彼女達に手出しはさせませんよ」 男達が虎彦の迫力に怯んだ隙に、紫狼が【咆哮】を使って注意を引きつけた。紫狼に向かって来た二人のうち、刀を持った男の前にラグナが現れ、腕と胸倉を掴み、思いっきり投げ飛ばす。 「ぐはっ!?」 男は木に背をぶつけ、そのまま地面に落ちて気絶する。 「ふぅ‥‥。まったく、ケモノとは通じ合えても、同じ人間同士ではこの様とはな。情けないにも程がある」 そしてナイフを振りかざしてきた最後の一人を、紫狼が牛の拳で力いっぱい頬を殴りつけて倒した。 「亜子たんにスプラッタシーンは見せられねぇからな。だがお前達は逮捕だっ!」 「逮捕だー!」 紫狼に続き、ミーリエも持ってきた荒縄で三人の盗賊を縛り上げる。 ――こうして亜子ともふらさまを助け出し、あまつさえケモノを退け、山賊達を捕まえるという依頼までこなしたのであった。 ●救出後 荒縄で縛った後、山賊達の眼を覚まさせて自ら歩かせる。そして開拓者達ともふらさまと亜子は、無事に村に戻って来た。 「亜子!」 「あっ、おかーしゃん」 もふらさまの背に乗っていた亜子を見つけた母親は駆け寄り、その小さな体を力いっぱい抱き締める。 「どうして森の中に行ったの! 危ないって言ったでしょう!」 涙を浮かべる母親に叱られ、亜子はしゅんとなる。 「だってもふらしゃまにお花畑、見てほしかったんだもん‥‥」 「まあまあ。三つじゃ事の良し悪しの区別も、なかなかつかねぇだろう。特に今回はもふらさまが一緒なら大丈夫だって思ったんだろう?」 シノに頭を優しく撫でられながら尋ねられ、亜子は素直に頷いた。 「うん‥‥。だってもふらしゃま、つおいってのしゃくのおじちゃんが言ってたから」 「えっ? ‥‥ああ、確かに言ってたな」 もふらさまの頭を撫でていた野作は思い当たり、気まずそうに頭をボリボリとかく。 確かにもふらさまはその気になれば、一般の人間よりは強い。だがケモノや、武器を持った複数の人間が相手だと話が違ってくることに、三歳の亜子が気づかなくてもしょうがないことだ。 「でもな、『行ってはいけない』と言われたのならば、誰が一緒でももう行くんじゃないぞ? 危険なことはするな」 「ラグナくんの言う通りです。これからはお母さんの言うこと、ちゃんと聞くんですよ? じゃないとご両親も心配しますしね」 ラグナと虎彦の言葉を聞いて、亜子は母親と父親の顔を見る。二人とも疲れた顔をしており、特に母親の眼が真っ赤になっていることに気付いてしょんぼりする。 「‥‥ゴメンなしゃい」 「ううん、もういいわ」 「無事だったのなら、それで良いから」 両親に抱き締められ、亜子は安堵の笑みを浮かべた。 亜子達から少し離れた場所では、二人のギルド職員の目の前でミーリエが布にヴォトカを染み込ませ、山賊達の傷の手当をしている。だがアルコールが傷に沁みるのか、男達は軽く悲鳴をあげながら身をよじるも、荒縄に縛られた体では逃げられない。 「うふふ。優しいミーリエに感謝するのだ!」 笑顔で薬草と包帯で手当をするミーリエだが、その表情は明るく輝く笑顔を浮かべている。 その笑顔を怖がる山賊達に、こちらに来た虎彦が苦笑しながら声をかけた。 「相手が自分達で良かったですね。空腹のケモノやアヤカシが相手だったら、もっと酷い目にあって死んでいましたから」 虎彦の言葉に、山賊達は言葉と顔色を失う。 「まあケモノやアヤカシ相手に、この煙玉は意味無いですからね。と言いますか、そもそも効果が無いかもしれません」 そう言いつつ三四郎は、山賊達の懐から没収した煙玉入りの布袋をブラブラと振って見せる。確かにケモノやアヤカシが相手ではこんな目くらましは意味が無いどころか、逆に怒りを増幅させるだけだろう。 「それにしても亜子たん、カワユス。嫁を貰う前に、出会いたかったぜ」 近くにいた紫狼が相変わらずきぐるみを着たまま、亜子を見て興奮している。 「えっ!? 紫狼さん、結婚なさっていたんですか?」 三四郎が驚いて声を上げると、紫狼はさらっと答えた。 「おうよ! 十歳の嫁持ちだぜ!」 親指を立てながら嬉しそうに紫狼は言うものの、仲間の開拓者のみならず、ギルド職員や山賊達までもがドン引きしてしまう。 「あっアレレ? 何でそんな不審人物を見る眼で俺を見るんだ?」 こちらでは冷たい空気が流れる一方、亜子達の所ではほのぼのした空気が流れていた。 「でもね、おかーしゃん。開拓者の人達、つおくてカッコ良かったんだよ」 「そう、良かったわね」 「それでね、ケモノしゃんもおっきくってフカフカしてて、おしゃべりできたの。亜子、もふらしゃまもしゅきだけど、ケモノしゃんもしゅきー。また会いたいなぁ」 もふらぬいぐるみを持ちながら、上機嫌で話す亜子。 しかしその場の空気は、一気に凍り付いたのであった。 ――その後、亜子にケモノの危険性を説明するのに、苦労する開拓者達だった。 【終わり】 |