財産までたどり着け!
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/28 02:07



■オープニング本文

「はっ? 宝の地図?」
「正確には『財産の一部を隠した地図』らしいです」
 北面国の開拓者ギルドに勤める芳野は、知り合いの辰斗の依頼を聞いて、首を傾げる。
「辰斗どのの父方の血縁者は、代々商家をしているんだったな。その血筋が残した物なのか?」
「はい。父方の祖父は十年前に亡くなりまして、ついこの間、祖父が所有していた蔵を片付けていましたら、一枚の古ぼけた地図を見つけたのです」
 辰斗の家は土地も所有しており、地図にはその中の一つの場所が書かれてあった。辰斗が使用人達を連れて行ってみたところ、山の中腹に作られた洞窟があったそうだ。
「洞窟の前には厳重な鉄の扉がありましたが、地図と共に鍵もありましたので開けることができました。‥‥しかし問題は中の様子です」
 そこで辰斗は言葉を切り、深くため息をついた。その表情は沈鬱だ。
 洞窟の中には宝珠が壁に埋め込まれており、中は明るかった。地図には洞窟の一番奥に財産が隠してあることが書かれてあり、辰斗と使用人達は地図を見ながら進んで行った。
「‥‥本来ならば地図を見ながら進んで行けば、安全に財産のある場所へたどり着けると考えるでしょう。ですがどうやら地図は元々、二枚あったらしいのです」
 そこで芳野は疑問を感じ、首を横にまげる。
「それと財産にたどり着けなかった理由が、重なるのか?」
「もちろんです。何せ二枚目は洞窟にあるカラクリを書いていたはずですから」
「カラクリぃ?」
 芳野は驚いて眼を見開くものの、辰斗は深くて重い息を吐く。
「どうやら防犯の意味も兼ねて、カラクリ洞窟にしていたらしいです。もっともそれを知ったのは、実際にカラクリを体験し、追い返されて家に戻った後でしたが」
 暗い顔を見ると、どうやら散々な眼に合ってしまったらしい。
 しかしそういう事があったからこそ、再び蔵を調べ、二枚目の地図の存在を知ることができたのだろう。
「なら二枚目を使って、行けば良かったんじゃないか?」
「‥‥ところが、です。一枚目の地図は鍵と共に厳重に箱に入れて保管されていたのですが、二枚目の方は別の箱に入っていたのです。ですがどうやら床に落ちた衝撃で外に出てしまっていたらしく、数年間放置されていたせいで何も読めないボロボロな紙に成り果ててしまっていました」
「そりゃまあ‥‥」
 運がなかった、としか言いようがない。
「しかも防犯用のカラクリの仕掛けは、いつ、どういうのが発動するかも予測できないようになっているらしいです。二枚目の地図には全てを書かれていたようですが‥‥」
「う‥‥ん。なるほど。つまり辰斗どのは開拓者を雇い、その洞窟に行かせ、財産のある部屋までたどりつきたいんだな?」
「おっしゃる通りです。ですが防犯のカラクリが問題でして、それをうまく避けながら進んでほしいんです」
「そのカラクリの種類は分かっているのか?」
「いくつか当たりましたから‥‥」

 一つめは歩いていると、突如壁から細長い棒が出てきて、叩かれる。
 二つめは深さ三メートルほどの隠し落とし穴。
 三つめは洞窟の上から突如、突風を浴びせられる。
 四つめは壁から複数の水鉄砲が出てきて、いっせいに射撃される。
 五つめは歩いていると、徐々に洞窟内が熱くなっていく。

 辰斗からカラクリの内容を聞いた芳野は、思いっきり微妙な顔をする。
「‥‥何と言うか。微妙にダメージを受けるな、心が」
「はい‥‥。どれもそんなに肉体的にはダメージを受けませんが、コレが結構数多く襲いかかってくるので、すっかり精神的に参ってしまうんです」
「だが頑張れば、財産のある部屋まで行けたんじゃないのか?」
 どの内容も命を失うことはなく、重傷を負うほどではない。
「‥‥実はコレが一番問題かもしれませんが、洞窟に入ってある程度の時間が経過しなければ、財産がある部屋の扉は開かないことになっているらしいのです」
 辰斗は後に祖父の日記を見つけ、カラクリ洞窟のことを知ったのだが、財産がある部屋は鍵と洞窟に滞在している時間が問題らしい。
「カラクリを一つや二つ、受けるぐらいならば大丈夫でしょう。ですが何度も受け、しかも洞窟にいる滞在時間が関わってくるとなると、流石に普通の人ではいろいろな意味でもちません」
 滞在時間は一刻(三十分)ほどで、鍵が開けられる時間になる。普通に歩いて行けばたどり着ける時間だが、カラクリを受けることで時間がかかってしまう。その上、一刻を過ぎればまた一刻、時を重ねなければならなくなる。
「あっ、ですが無理にとは言いません。祖父は『財産の一部』とは書いていましたが、その内容については一切書かれていませんでしたし‥‥」
「つまりお宝かどうかは、分からないってことか」
「はい。祖父はこういうイタズラを楽しんでする人でしたし、カラクリの内容も祖父自ら考えたものだとありましたから」
 辰斗とは違って、随分と楽しい性格の持ち主だったらしい。でも柔らかな表情で辰斗が語るところを見ると、懐いていたことが分かる。『財産に興味がある』というより、ただたんに亡き祖父が何を残したのか、純粋に知りたいだけなのだろう。
「‥‥はあ。分かった。うたれ強い開拓者を、集めてみるよ」
「芳野さん‥‥! ありがとうございます!」


■参加者一覧
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
赤塚 豪(ib8050
28歳・男・騎
青山 小雪(ib8199
17歳・女・シ


■リプレイ本文

 辰斗はカラクリ洞窟の前で深く深呼吸をしてから、鉄の扉の鍵を開ける。そして一行は中に足を踏み入れた。洞窟の中は壁に埋め込まれた宝珠のおかげで明るく、歩いて進むのに難は無い。
 石造りの洞窟をキョロキョロ見回しながら、皇りょう(ia1673)はぼんやりと呟く。
「それにしても財産の守りにカラクリを使うとは‥‥また面白い考えの持ち主だったようであるな。辰斗殿の祖父殿は」
「ははっ‥‥。そうですね。遊び心をいつまでも持っている人でしたから」
 先頭を歩く赤塚豪(ib8050)は周囲を注意深く見ながら、口を開く。
「カラクリ仕掛けか‥‥。怪我はするかもせぇへんなぁ。死ぬことは‥‥まあ無いにしてもな」
「重傷を負うこともありませんから、そこら辺は安心してください」
「みなさまに何か起こる前には対処したいと思います」
 豪の隣を歩く青山小雪(ib8199)の強い意思のこもった言葉を聞いて、辰斗は少し驚きながらも頷いて見せる。
「よっよろしくお願いします‥‥」
 そんな辰斗の隣を歩くリィムナ・ピサレット(ib5201)は、彼の手元の地図を覗き込む。
「でもスゴイお祖父さんだったんだね〜。辰斗さん、頑張ろうね!」
「はっはい‥‥。しかしリィムナさん、凄い格好ですね」
 辰斗が微妙な顔をしながら言うが、それは他の三人も思っていたことだ。
 何せリィムナは一人、紺色の水着姿でいる。
「これなら濡れてもへっちゃらだし、熱くなっても平気だからね!」
「そっそうですか‥‥」
 苦笑する辰斗は地図に視線を移し、みなを誘導する。だが歩いて少し立つと、カラクリの一つが作動し始めた。
「‥‥何か熱うないか?」
「どんどん温度が上がっている気がします」
 異変に気付いた豪と小雪が、周囲を見回す。
 歩いている五人の顔が赤く染まり、汗も流れつつある。熱はどんどん上がり、やがて床に汗が落ちると、じゅわっ!と音を立てて蒸発するほど熱くなった。
「ああ‥‥コレはカラクリの仕掛けの五つめですね。歩いているとどんどん熱くなっていきます」
「‥‥そういうことは先に思い出してほしいな」
 りょうの一言に、開拓者達は深く頷く。
「あっある程度走れば、ここを抜け出せます」
「そんじゃあ走るぞっ!」
 豪の言葉で、全員が一斉に走り出す。しばらく走って行くと、だんだんと熱は引いていき、やがて熱が完全に無い場所までたどり着けた。
「あっ熱かったよぉ〜」
「結構‥‥熱がありましたね」
 リィムナは熱さに眼を回し、小雪も顔から流れ出る汗を手で拭う。
「あかん‥‥。あの熱は耐えられへん。これからは少しでも熱さを感じたら、すぐに走り出すからな」
「わっ分かりました‥‥」
 豪と辰斗は息も切れ切れに、肩を激しく上下させる。りょうはふと、たどり着いた場所を見回す。
「にしても結構走ったな。辰斗殿、ここはどの辺りだ?」
「ええっと‥‥ですね」
 どうやら財産のある部屋には近づいているらしく、このまま進んで行く。
「ねぇ、辰斗さん。地図にカラクリの位置とか時間とか、書いた方が良いんじゃない?」
「リィムナさん、残念ながら全てのカラクリの位置と発動する時間は把握できないようになっているのです。ですから今から起こることを書いても、次に同じことが起こるとは限りません」
「あっ、そうだったね‥‥」
「でもまあ防犯としては良いと思う」
「ありがとうございます、りょうさん」
 熱から逃れられたことで全員の気が緩んでいた時、先頭の豪が何かをカチッと踏んだ。
「何や、今の」
 音がした足を上げて見るが、何もない。
 ――が、突如、左右の壁から無数の銃口が出てきて、一斉に水が飛び出してきた!

 ビシャーーーっ!

「ぶばばっ!?」
「みっ水攻撃っ‥‥!?」
「熱の次は水って‥‥」
「あはは! 気持ち良い〜!」
 豪、小雪、りょう、リィムナがそれぞれの反応を見せる中、水攻撃は十秒ほどで終わった。水が切れると銃口は壁の中に入り、蓋も閉まって、何もない壁に戻る。
「‥‥この水攻撃、十秒で終わるんですよ」
 全身水浸しになった辰斗が今更ながらに説明した。
 リィムナはプルプルっと頭や体を振り、他の者達は服や髪を絞ったりする。
「ねえ、あたしはこのままで大丈夫だけど、みんなはちゃんと拭いた方が良いんじゃない?」
「でもこれから先も同じカラクリにあったら、今拭いてもムダになる気がするな」
「そうですね。とりあえず水気を切っておくだけでも充分でしょう」
 りょうと小雪はすでに諦めた表情を浮かべている。
「そういやぁ地図は無事か?」
 豪が辰斗に視線を向けると、その手にはちゃんと地図があった。
「この紙、防水になっているので大丈夫です」
 こういうカラクリを設置してあるだけに、破ることはできるが、水には濡れて溶けないようになっているようだ。
「ほお、どれどれ」
 興味を持った豪が地図を見ようと後ろへ下がる。
 先頭になった小雪は歩いていると上の方からカチッと音がしたのを耳にし、顔を上げた。
「今度は一体‥‥」

 ブオオオオーーーー!

「「「「「〜〜〜っ!」」」」」
 突如上から突風がふいてきて、全員顔を下にし、その場にしゃがみこんでしまう。悲鳴を上げようにも風の強さで声が出ず、風が止むまでの十秒間は沈黙の状態が続いた。
「‥‥ちなみに風の攻撃も十秒で終わります」
「そっそうか‥‥」
 辰斗とりょう、それに豪はフラフラしながら立ち上がる。
「おい、怪我はなか?」
 豪が仲間達に視線を向けると、無言で頷いて返答された。
「まっ、着ているもんが乾いたと思えばええか」
 豪の言う通り、確かに髪も服も乾いている。それほどまで凄まじい突風だったのだ。
「ううっ‥‥。ひどい目にあったよ」
「対処する暇もありませんでした‥‥」
 続いてリィムナが半泣きで、小雪は何も出来なかったことにショックを受けた状態で起き上がる。
 再び歩き出した一行だが、三度続いてあってしまった仕掛けに、グッタリした様子を見せた。
 ――しかしカチッと何かのスイッチが入る音を聞いて、表情を強ばらせる。
 左右の壁が細くも縦長の空洞をいくつも作り、そこから一メートル五十センチほどの長さの木の棒が出てきた。
「あっ、殴られます!」
 辰斗の叫びに、今度は各々対処しようと動き出す。
 豪は『グレートソード』を使い、次々と棒を切っていく。
「こっコイツはイタズラっちゅうにはごっついわぁ‥‥。ととっ‥‥見切ったぁ!」
 横一文字に剣をふるい、多くの棒を切るものの、後ろの棒にガツンっと後頭部を殴られてしまう。
「あいた‥‥」
「しっかりしてください。油断は大敵です。そしてイタズラではなく、防犯用のカラクリの仕掛けです」
 頭を抱えてしゃがみこむ豪の前に、『翼の剣』を手に持った小雪が出て、棒を切っていく。
「しかし切っても切っても出てくるな。当たってもさほど痛くないのがありがたいが」
 『珠刀・阿見』をふるいながら、りょうは体に当たる棒を見る。りょうの後ろには体を縮こませている辰斗がいて、彼を守りながら切っているので上手く避けきれないのだ。
 棒は一度振り下ろされるとまた壁の中に戻り、再び振り下ろしては戻る――というのを繰り返してくる。
「でも当たると地味ぃ〜にダメージを受けるね。まっまあこんなの姉ちゃんのお尻百叩きに比べれば、何てことないけどさ!」
 『精霊甲・煉』で棒を殴り折りながら、りょうと共に辰斗を守っているリィムナは痛みに耐えながら言う。
 十秒が経過したところで出ている棒は全て壁の中に引っ込み、再び元の壁に戻った。
 豪は小雪の手を借りて立ち上がる。
「ううっ‥‥。当たり所が悪いと、ほんまダメージ受けるわ」
「まあ防犯用のカラクリですからね。しかし凄い数の棒を仕込んでありましたね」
 それぞれ武器をしまいながらも、床に落ちた棒の残骸に眼を丸くする。
「もしかしたらどこかで、木の棒を製造しているのかもな」
「宝珠の力を使って?」
「ああ‥‥あるかもしれませんね」
 りょうとリィムナの会話を聞きながら、辰斗も立ち上がった。
「自動生産も、宝珠の力とそういう道具があれば可能でしょうから」
「そんじゃあこんだけ切っても、次は同じぐらいの数が出てくるってことか?」
「――そう言うことです、豪さん」
 辰斗の返答に、豪はがっくり肩を落とすも、すぐに前を向く。
「まっ、しゃーないか。剣の修行だと思って‥‥」

 ズボッ

「‥‥あれ? 豪、さん?」
 前を歩いていた豪の姿が、突然消えた。
「あっ、まさか!」
 思い当たった辰斗は、慌てて豪が消えた所に向かう。その後を開拓者達も追った。
「ああ‥‥やっぱり!」
 床の石畳は割れており、深さ三メートルほどの落とし穴の中に豪はいた。大きな体の豪は腰を打ったようで、手で押さえながら震えている。
「だっ大丈夫ですか? 豪さん!」
「‥‥こりゃおいどいわすで‥‥」
「「「はい?」」」
 豪が呟いた言葉に、小雪を除いた三人は首を傾げた。
「訳しますと『おいど』がお尻のことで、『いわす』はひどい目にあうことを言います。なので『コレはお尻に怪我をする』と言いたいわけですね」
 小雪の冷静な訳を聞いて、ようやく意味が分かった。
「あっ、この荒縄を使うと良いよ!」
 リィムナが持ってきた荒縄を辰斗は受け取り、端を一度固く結び、そこを豪目がけて落とす。
「豪さん、捕まりましたか?」
「ああ」
「それじゃあ引っ張り上げますよ!」
 地上では辰斗、リィムナ、小雪、りょうの順番で荒縄を掴み、引き上げる。
「よいしょっと!」
 落とし穴の中は土だったので、豪は壁を蹴りながら地上へと上がった。
「すまんかったな」
「いっいえ‥‥。僕もまさかいきなりカラクリが作動するなんて思いませんでしたから」
 重い豪を引き上げたせいで、四人は再びグッタリしてしまう。
「だけどコレで五つのカラクリ、全てあったな。‥‥まあ多少のダメージは受けるが、我慢できないことはないと分かった。今、どれぐらい時間が経ったか分かるヤツ、おるか?」
「あっ、あたし『契約の時計』を持ってるよ」
 リィムナは時間を確認すると、驚いたように声を大きく張り上げた。
「もう一刻半過ぎてる!」
「まあこれだけカラクリにあえば、時間も経つでしょう」
「そうだな。でもどれぐらいの攻撃力で、ダメージを受けるか分かった。多少強引でも前へ進めるな」
 小雪とりょうは新たに気合を入れ、立ち上がる。
「でも辰斗さんは大丈夫ですか?」
「あっ、平気ですよ、小雪さん。こう見えて打たれ強いんです。それより結構奥まで来ましたから、少し急げば次の解錠時間に間に合うでしょう」
「そんじゃまっ、ちょいと急ぎながら前へ進むぞっ!」
 豪の言葉に四人は拳を上げ、「おーっ!」と叫んだ。



 ――その後、さまざまなカラクリにあいながらも冷静に対処していき、前へ進む。そしてようやく目的の部屋の前にたどり着いた。部屋の前には洞窟の前にあったのと同じ、鉄の扉が設置されている。
「辰斗さん、そろそろ時間だよ」
「わっ分かりました‥‥」
 リィムナが時計を見ながら告げると、辰斗は深呼吸をした後、扉に鍵を差し込んだ。
 だが部屋の中は暗く、リィムナが【マシャエライト】を発動させ、灯り代わりにする。
「こっコレはっ‥‥!」
 豪、小雪、りょう、リィムナ、そして辰斗は部屋の中を見回し、何とも言えない複雑な表情を浮かべた。
 その中で辰斗は壁にスイッチがあるのを見つけ、押してみる。すると部屋の中に宝珠の光が満ちて、より部屋の中が見やすくなった。眩しい光の中で、機械の定期的な音がする。その音は木の棒を作る機械から聞こえてきた。別の場所では地下水を汲み上げ、大きな樽の中に入れていく音、また何かを燃やす音や、風が大きくふく音などが部屋に満ちている。
「なぁ、ここが本当に財産のある部屋か? 管理室に間違ってたどり着いたんとちゃう?」
 豪の問いかけに、地図を真剣に見ていた辰斗は首を横に振った。
「いえ‥‥恐らくこの部屋自体が『財産の一部』なのでしょう。そして財産の意味とは‥‥」
 辰斗は改めて部屋の中を見回した後、やって来た道を振り返る。
「このカラクリ洞窟自体のことだったのだと思います」
「ああ、だからこの管理室が『財産の一部』と書かれてあったのですね」
「ええ、小雪さん。‥‥確かに考えてみれば、この宝珠を多く使ったカラクリ洞窟は値段にしてみるととんでもないことになりそうです」
「確かに贅沢品であるな。もしこの洞窟を表沙汰にすれば、騒ぎの一つになるだろう」
 辰斗の言葉に頷きながら、りょうは腕を組む。
「確かにこういうの、あたしの生まれ故郷にもないもんね」
 他国でも珍しい物だろう。宝珠をふんだんに使ったカラクリの仕掛けは、技術的にも価値があるものだ。
 辰斗は一つの机の前に立つ。そこにはいくつもの線と繋がった一つのスイッチがある。それはカラクリの起動スイッチ。辰斗はカラクリを止めようと思い、押そうと手を伸ばして‥‥そして引っ込めた。
「みなさん、ちょっとお願いがあるのですが‥‥」
 辰斗は振り返り、開拓者達に苦笑を浮かべて見せる。
 その『お願い』とはカラクリをこのままにし、帰ることだった。予定ではカラクリを止めて帰るつもりだったが、辰斗はこのままにしておくことを望んだ。理由はこのカラクリ洞窟を守る為。この洞窟のことが他に漏れれば、悪用される恐れがあるからだ。
 亡き祖父が残した財産を守りたいと言う辰斗の気持ちをくんで、開拓者達は了解する。
 帰りの道でも、カラクリにあいまくった。しかし何とか無事に、全員が洞窟から出ることができた。しかし流石にボロボロで、体のいたるところに怪我をしていたので、リィムナが【レ・リカル】で怪我を癒していく。
 豪は怪我を癒してもらいながら、鉄の扉をぼんやりと見つめた。
「ごんたがそのままでかなったような、じーさんだったんやろなぁ」
「「「えっ?」」」
 豪の言葉に、辰斗、りょう、リィムナがまたもや首を傾げる。
「『ごんた』は『イタズラぼうず』という意味です。つまり『イタズラぼうずがそのままになったような、じーさんだったんだろうな』と言いたいわけですね」
 再び小雪の訳を聞いて、三人は苦笑を浮かべるしかなかった。



 ――その後、地図は再び蔵にしまわれた。
 辰斗は地図をしまう時、いつか自分の子供がこの地図を見つけた時には、開拓者達と共にあの洞窟へ向かうようにと、こっそり願いを込めた。



【終わり】