桜祭りを盛り上げて!
マスター名:hosimure
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/26 00:27



■オープニング本文

「雛奈(ひいな)〜! 久し振り〜!」
「春香(はるか)! 本当に久し振りね」
 開拓者ギルドで受付を担当している雛奈の職場に、幼馴染で同じ歳の女の子の春香がやって来た。
「篝(かがり)から聞いたわよぉ。生きた雛人形、好評だったんだって? あたしも見に行ったけど、綺麗で可愛かったわね」
「あら、来てたのなら声かけてくれれば良かったのに」
「だってアンタ達、仕事中だったんでしょう? 何かバタバタしてたし、ね」
「そう。‥‥ところでわざわざここを指定してきたってことは、開拓者に依頼があるのよね?」
 最初は世間話をしていたが、ここで二人が会ったのは偶然ではなく、前以て春香が雛奈にこの場所を指定してきたからだ。
「うん‥‥。あのさ、実は言いにくいことなんだけどね。あたしの実家って普段は飴屋だけど、地元でお祭りとか行われる時、まとめ役をしているじゃない?」
「ああ、そうだったわね」
 祭りが行われる時など、出店などを集めて、店の配置などの取り仕切ることが、春香の家で代々行なってきた役目だった。
「それでもうすぐ桜が川沿いに植えられた土手で、桜祭りをする予定だったんだけど‥‥」
 そこで春香は言葉を切り、暗い面持ちで深くため息を吐く。
「どうしたの? 何か問題でも起きた?」
「‥‥実は、そう。そこの川で魚を釣って、お寿司の出店を出そうとしてたの。それで寿司屋のご主人が一度魚の味を調べる為に、魚を釣って‥‥」
 すぐにさばき、寿司にすれば良かった。だが寿司屋の主人はせっかくだから、他の出店を出す人達にも味見をしてもらおうと、魚をまな板に載せたまま、その場を離れた。
「本当はすぐに戻って来るつもりだったらしいの。でもあの土手って広いのよね〜。しかもその日はポカポカとあたたかい日で、しかも寿司屋は日当たりの良い場所に作られてたの。ご主人が知り合いに声をかけて、ようやくさばいて、お寿司にして食べさせたら‥‥」
「まさかっ‥‥! あたった、とか?」
 雛奈が苦笑を浮かべながら尋ねた言葉に、春香は深く頷いて見せる。
「あらら‥‥」
「そして一気に人手が足らなくなっちゃったの。雛奈! お願い! 桜祭りの手伝いをしてくれる人を集めて!」
「ウチは人材派遣会社ではありません」
 必死に頼んできた春香を、雛奈は笑顔でスッパリ切り捨てた。
「どうして篝が良くて、あたしがダメなのよ!」
 しかし春香はその反応に激怒する。下手に傷つく女の子ではないことを知っている為、雛奈はこういう態度に出たのだ。
 そして雛奈も怒りの表情を浮かべ、声を荒げる。
「そんなの募集かければ済むことだからよ! 普通に人を集めりゃ、何とかなるでしょう!」
「‥‥確かに普通のお手伝いだったのならば、それで済んだでしょうね」
 ふと遠い目をした春香。その表情に、雛奈は不思議がって首を傾げる。
「何よ? だって『手伝い』でしょう?」
「んっ‥‥。実はちょっと違う」
 言いづらそうに、春香は隠していたことを語り出す。
 実は食中毒になったのは、少し特殊な仕事をしている人達ばかり。
 大きく広い川に屋形船を出し、客を乗せる人。船からは土手の両脇に植え揃えられた桜の木が見える。
 土手上の土道で、客を人力車に乗せ、引く人。桜が植えられた道を通る。
 そして出店のある所から少し離れた場所で、小さな舞台が作られ、そこで芸を見せる人など。
「あ〜、普通の手伝いではないのね。つまり船を漕いだり、人力車を引いたり、芸を見せたりする人が必要なのね」
「そうなのよ〜」
 わっ! と泣き出した春香を見ながら、雛奈は痛むこめかみを指でグリグリ押す。確かに一般の人ができる技ではない。『特殊』関連でここへ来たことは分かるが‥‥。
「でもそう言うのって、必ず二人は用意してあるんじゃなかったっけ? 疲れないように、交代制でさ」
「そっそれが‥‥その人達までお寿司を食べてて‥‥」
 ――つまり全滅、と言いたいのだろう。
「けどあたったって言っても、数日で治るもんじゃないの?」
「だけど初日には間に合わないわ! 桜祭り初日に大人気の催し物がなくちゃ、話にならないじゃない!」
「それは‥‥そうだけど」
 それに桜祭りは一日二日ではなく、何週間にも渡って行われる。初日に盛り上がらなくては、確かにその後の集客率が悪くなるだろう。
「はあ‥‥。分かったわよ。それじゃあ船を漕いで、人力車を引いて、舞台で芸を見せる人を集めれば良いのね」
「あっ、それと何か屋台をやりたいんだったら、こっちで手配するからって言っておいて」
「‥‥あと屋台をやりたい人がいれば、可能ってことね!」
 雛奈は渋い顔で依頼書を書き上げた。
「ったく‥‥。せめて日が暮れて仕事が終わったら、夜の屋台でタダでおもてなしでもしてあげなさいよ」
「そうね。あまり報酬が出せない分、そのぐらいはさせてもらうわ。でも夜の屋台は昼間よりは数が少ないし、せいぜい夜桜と飲食店ぐらいしか楽しめないと思うけど‥‥」
「まあ食べたり飲んだりがタダでできて、美しい夜桜が見られるなら‥‥って、ちょっと待って。『あまり報酬が出せない』ってどういうことよ?」
 春香の家はまとめ役をタダではしていない。なので代々つとめてきたのだ。
「そっそれが、さあ。今年は夜桜を綺麗に見せようってことで、特別に宝珠を使った街灯を借りてきたの。その貸出賃‥‥でね? だから桜祭りを盛り上げたいの」
 しかもその街灯を盗まれない為に警備の人手も借りてきたので、正直、今は赤字らしい。
 青い顔で苦笑を浮かべる春香を見て、雛奈は大きくため息をついた。
「まっ、桜はみんなに愛される花だしね。自分が楽しむ前に、人々を楽しませる人を集めましょう」
「‥‥雛奈、何か、怒ってる?」
「気のせいよ」
 ふっと笑った雛奈の表情は、どこか諦めたような色が浮かんでいた。


■参加者一覧
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
巌 技藝(ib8056
18歳・女・泰
紫泉 羽竜(ib9333
22歳・男・サ


■リプレイ本文

 桜祭り初日。良く晴れた空の下、会場となる川原には満開の桜が咲き乱れていた。
「いやぁ、お花見日和で良かったわぁ」
「‥‥で、なぁんでわたしまで手伝いに駆り出されているのかしら?」
 機嫌の良い春香と、暗雲を背負う雛奈には温度差が出来ている。二人ともその手にはチラシがあった。そのチラシには桜祭りの内容が書かれてあり、二人は会場近くを歩く人達に渡している。
「だって人手不足。幼馴染のよしみで手伝ってよ」
「もう手伝わされているじゃない!」
 休日だったにも関わらず、家に朝から春香が突然訪れ、引っ張り出されて来たのだ。
「おっと、そろそろ桜祭りが始まるわ。開拓者のみなさんの様子、見に行かない?」
「それは‥‥行くわ」
 自分が担当した仕事なだけに、ちょっと気になっていた雛奈だった。



「ここからだと土手道を走る人力車が近いわね」
 土手沿いには桜の木が植えられており、満開の桜が花びらを散らせる中、人力車は走る。
「担当は二人だったわよね」
 雛奈の言う通り、ジルベール(ia9952)と紫泉羽竜(ib9333)の二人が人力車を担当することになっていた。
 会場の入口近くに人力車があり、そこに二人はいた。ジルベールは春香と雛奈を見かけ、愛想良く声をかける。
「おねーさん達、乗ってかへん? 人力車の上からやと、桜がよぉ見えて綺麗やで。まっ、おねーさん達の美しさの前では霞んでしまうかもな」
「え〜、ヤダぁ」
「‥‥相変わらず女性にはお優しいですね、ジルベールさん」
 春香が赤い顔をしているのを、呆れた眼で見る雛奈。
「春香さん、雛奈さん。せっかくですし、乗っていきませんか?」
 羽竜の申し出に、春香と雛奈は顔を見合わせる。
「確かに今ならお客もいないしね」
「わたし、人力車ってはじめて」
「それじゃあどっちに乗る?」
「人力車は一人用と二人用の二種類ありますよ」
「せっかくだから別々に乗りましょうよ。あたしはジルベールさんのに乗るから、雛奈は羽竜さんのに乗ったら?」
「そうね」
 まずはジルベールの人力車に、春香は乗り込む。
 続いて雛奈が人力車に乗り込もうとしたら、羽竜が優雅に手を差し伸べてきた。
「良かったら、掴まってください」
「あっ、ありがとうございます」
 羽竜の手を借りて、雛奈は乗った。
 そしてジルベールと羽竜は、ひざ掛けを二人に差し出す。
「お嬢様方、まずはひざ掛けをどうぞ」
「春の朝はまだ冷えますから」
「ありがとう」
「使わせてもらいます」
 春香と雛奈がひざ掛けをかけると、ジルベールと羽竜は人力車を引き始める。
「そんじゃま、一時の桜の旅時へのご案内や。ゆっくり楽しんでな」
「美しい桜の景色を、堪能してください」
 ジルベールの人力車を先頭に、二台は一定の距離を置きつつ桜並木をゆっくりと走る。土手道からは下の川原と川の様子がよく見おろせた。
「あっ、大分お客さんも入って来たみたい」
「ほんまや。ああ、あそこに見える野外茶屋がオススメやで。店主も感じええし、食べ物も美味いで」
 ジルベールが顎でさした茶屋を見て、春香はくすっと笑う。
「確かあの茶屋はジルベールさんの同僚の人が経営しているのよね」
「あちゃー。バレてたか」
 苦笑するジルベールを見て、春香は優しく声をかける。
「ここの取り締まりはウチがやっているからね。後で雛奈と行くつもりよ」
「そうしてもらえるとありがたい。あっ、そうそう。今夜、その同僚が舞台で舞うんや。夜桜と舞の幻想的な共演やで。雛奈さん誘って、ぜひ見に来てな」
 ジルベールの後ろを走る羽竜も、雛奈に夜の舞台のことを話していた。
「殿方達は舞わないんですね」
「こういうのは女性が舞った方が華がありますから。でもお手伝いはさせていただくつもりです」
「そうですか。まっ、どちらにしろ春香に付き合って夜までいる予定ですから、それまでは他の所を見回っています」
 すでに諦めた笑みを浮かべる雛奈を横目で見た羽竜は、苦笑を浮かべる。
「お疲れさまです」



「さすがに始まると、ボチボチお客さんの姿も増えてくるわね」
「屋台船の予約者も続々集まっているみたい」
 春香と雛奈は人力車を乗り終えた後、川の方に来た。屋台船はまず、乗客の予約を受け付ける。一定の人数になれば、客を船に乗せて出発する。予約の受付場では何人かが集まっていた。
「おっ、お二人さん。おはよう」
「屋形船に乗りに来てくれたの?」
 屋形船を漕ぐのは巌技藝(ib8056)とリィムナ・ピサレット(ib5201)の二人だ。
「二人とも、おはよう。今日はよろしくお願いね」
「わぁ! お二人とも、異国の衣装が良く似合っていますね」
 雛奈は眼を輝かせ、二人の衣装を見つめる。技藝は泰国のを、リィムナはジルベリア帝国の衣装を着ていた。
「ふふっ。たまにはこういう衣装も良いと思ってね」
「この衣装はジルベリアの手漕ぎ船の船頭が着る伝統的衣装なんだよ!」
「似合っているし、目立つから良いわね。それで雛奈、アンタは屋形船、乗ったことないでしょう?」
「実はそうなのよ。春って仕事が多い時期だから、お花見に来れない時もあるぐらい。なので良かったら乗せてくれませんか?」
 雛奈の申し出に、技藝とリィムナは満面の笑みを浮かべて頷く。
 まずは雛奈が技藝の屋形船に乗ることになった。
「足元に気をつけて」
「あっ、はい」
 技藝が雛奈の手を掴み、川の上で揺れる船に乗せる。
「技藝さんは器用そうなので、船を漕ぐのも安心して見られそうです」
「まあリィムナと一緒に、具合の悪い屋形船の漕ぎ手達に教えてもらったからね」
 二人とも流石に屋形船を漕ぐのははじめてのことなので、青い顔色で腹を押さえる漕ぎ手達に教えを請いに行ったのだ。
「さて、では出発するとしようか!」
 技藝は声高く宣言し、船を漕ぎ出す。
 緩やかな川の流れにそって、船は移動する。川をはさむ左右の土手には満開の桜並木があり、太陽の光を受けてキラキラと輝く水面に、花びらが舞い落ちてくる。
「川のせせらぎと土と緑の匂い、それに桜の景色が良いですね〜。心が癒されます」
 雛奈が心地良さそうに背伸びをすると、技藝は櫂を使って漕ぐ姿を見せながらも綺麗な水飛沫を上げて、川の景色を彩る。すると乗客達から喜びの声が上がり、技藝は満足そうに微笑んだ。
 しばらくして戻って来た屋形船。次に船を漕ぐのはリィムナだった。
「ではリィムナさんの船にはあたしが乗るわね」
「うん! 楽しみにしてて、春香」
 リィムナは身軽に船に乗り込み、技藝から櫂を受け取る。
「頑張ってね」
「うん。お客さんを楽しませてくるね!」
 技藝と雛奈に見送られながら、リィムナは船を漕ぎ始めた。
「今日は晴れて良かったね! 夜まで晴れていればもっと良いんだけど。あっ、夜にはね‥‥」
 リィムナは【聖歌の冠】を身に付けている為、その声はよく透き通って聞こえる。明るくはしゃいだ声で、桜祭りのことを丁寧に説明していく。
 可愛らしいその姿に、乗客達は終始ニコニコしながら見つめているのであった。



「ふぅ‥‥。そろそろお腹すいたわね」
「もうお昼時になるし、野外茶屋に行ってみない?」
「おっと、そうだった」
 雛奈の提案に、春香はポンッと手を打つ。
「ジルベールさんにもぜひと言われていたし、美味しい食べ物目指して行きましょう!」
「ええ」
 意気揚々と二人が向かったのは、フェルル=グライフ(ia4572)と長谷部円秀(ib4529)の野外喫茶だ。
 エプロン姿のフェルルが、笑顔で忙しそうに立ち回っている。
「フェルルさん、お客さんいっぱい来ていますね」
「盛況そうで何よりよ」
「雛奈さんに春香さん! 来てくださったんですね。嬉しいです」
 駆け寄って来たフェルルに、雛奈はふと疑問を問いかける。
「あれ? 円秀さんの姿が見えないようですけど‥‥」
「ああ、それは‥‥あっ、今ちょうど戻って来ました」
 雛奈と春香が振り返ると、空の木箱を持った円秀がこちらに向かって来た。
「おや、お二人とも、来てくれたんですね」
「ええ‥‥。ですけど円秀さん、それ、何ですか?」
 二人の視線は木箱に向かっている。深くはないものの、結構な大きさだ。
「ああ、コレにお菓子を入れて、売り歩きしていたんです」
「じゃあ空ってことは、結構売れ行き良いのね?」
「春香さんの仰る通り。順調です」
 円秀は笑みを浮かべて、空の木箱を改めて見せる。
「聞いているとお腹減っているの思い出しちゃった。今、空いている席はある?」
 春香の問いに、フェルルはニッコリ微笑んだ。
「お二人が来ることを予想していまして、予約席を作っておきました」
 そして二人は、大きな桜の木の影の下の特等席に座った。
「ここ、良い席だわ。春とは言え、日差しは強いしね」
「それに屋台とか見渡せるし、ちょっと離れた場所にあるのが落ち着くわね」
 二人は疲れを吐き出すように、大きくため息をつく。
「お待たせしました」
「ご注文の品を持って来ましたよ」
 フェルルと円秀は二人の前のテーブルに、次々と皿を置いていく。
「私が創作したジルベリアのお菓子です」
 フェルルは桜の花の形のクッキー、甘く味付した桜湯ベースの桜ゼリー、桜を塩漬けにした桜湯、甘酒のメニューを提案していた。
「私は桜をイメージした和菓子を考えました」
 円秀は桜あんの団子に桜餅、そしてそれら和菓子に合う緑茶を選んだ。
「わあ! 美味しそう〜。ジルベリアのお菓子なんて滅多に食べられないもんね」
 満面の笑みを浮かべながら、春香は早速桜ゼリーを食べ始める。
「美味しい〜!」
「ふふっ。良かったです」
「円秀さんの桜餅と緑茶も美味しいです。落ち着く甘さですね」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
 そして二人は瞬く間に、お菓子をお腹におさめていくのであった。



 食後、二人は腹ごなしの意味も兼ねて、会場を次々と見て回る。初日ということもあり、特に問題もないまま時間が過ぎていった。
「‥‥ん? 何か舞台に子供が多く集まっていない?」
 春香が舞台の周辺に子供ばかり集まっているのを見つけ、足を止める。
 その問いに、雛奈は思い付くことを言う。
「そういえば開拓者の女性達は、それぞれ仕事をしながらも舞台で舞うと言っていたわ。もしかしてそれかも」
「じゃあちょっと見て行きましょうか」
「そうね」
 そして二人は舞台に向かう。
 舞台にはフェルルと技藝、それにリィムナもいた。フェルルと技藝は楽しそうに、華やかに踊っている。そんな二人にはさまれて、リィムナも踊ってはいるのだが‥‥。
「‥‥雛奈、アレは何?」
 春香が震える指で、リィムナの着ている衣装をさす。
「アレは【まるごともふら】という名の着ぐるみです」
 思わず敬語になり、事務的に答える雛奈。
 何せあまり見かけない物ゆえに、道行く人が舞台を見ると一瞬ギョッとして足を止める。
「じゃ、動くたびに散っている物は?」
「恐らく桜の花びらかと‥‥。糊を用意してほしいとは言われたけど、まさかこういう使い方をするなんて‥‥」
 リィムナはまるごともふらに着替えていた。しかも着ぐるみには桜の花びらがくっつけられており、動くたびに舞い落ちる。
「もふらは桜が大好きだもふ! だから体も桜模様になったもふー!」
 まるごともふらは愛嬌があるものの、動きが鈍くなるのが欠点だった。しかしその不器用な動きが逆に可愛らしく見え、子供達には大ウケしている。
 また、リィムナの隣で踊るフェルルと技藝もあたたかな笑みを浮かべていた。



 暗くなると宝珠を使った街灯が光始め、幻想的な夜桜の光景が浮かび上がる。
 舞台の両脇にも街灯が一本ずつ置かれ、踊るフェルルと技藝の美しい舞をよりいっそう綺麗に見せる。
 昼間踊って見せたものとはまた違い、夜桜を背景にしなやかに踊る姿はまるで‥‥。
「桜の精が踊っているみたいやな。いや、見事なもんや」
「本当に‥‥。お二人とも、実にお美しいです」
「夜桜も綺麗ですけど、お二人の舞う姿が加わると、素晴らしい光景になりますね」
 ジルベール・羽竜・円秀の三人は舞台の周辺に集まる人達から少し離れた場所で、二人の踊る姿を見ていた。
「おやおや、すっかり見入っちゃって」
「仕方ないわよ、春香。だって本当に素敵なんだもの」
 そんな三人に、春香と雛奈がからかい気味に言ってくる。
 雛奈が舞台に視線を向けると、春香はこっそり三人に声をかけた。
「三人は夜の舞台の用意を手伝ってくれたのよね」
「まあな。でも明日は客として、遊びに来たいもんや」
「ぜひ来てよ。ああ、それと舞が終わったら食事、用意してあるから食べてってね。片付けはこっちの方でやっとくから」
 春香の言葉に、羽竜が少し驚き、身を引く。
「いえ、こうしてお手伝いをしている方が僕には合っていますので。むしろ、どなたかの前で食事なんて‥‥」
「そお? なら花見弁当でも持って帰って」
「それならば喜んで」
 ほっと安心する羽竜の姿を横目で見て、円秀は次に夜桜を見上げる。
「来年も見に来れると良いな、と思います」
「じゃあ来年も同じ依頼、出しても良い?」
 いたずらっぽく言った春香の言葉に、三人は苦笑を浮かべた。
「ホラホラ、みなさん。そろそろ最後の舞になりますよ?」
 雛奈の言葉で、四人は再び舞台に視線を向ける。
 フェルルと技藝は優雅にお辞儀をすると、舞台から下りていく。
 代わりに舞台に上がったのは、まるごともふら姿のままのリィムナだった。
「桜もふらのもふライトショー! はじまるよー!」
 元気良く告げると、呪文を唱え、マシャエライトで熱を持たない火球を出現させる。そして精霊甲・煉をきぐるみの下につけたまま、ホーリーコートで両手に白い光をまとわせる。そのままクルクルと回り始めると、火球もゆらゆらと同じように回り、両手の白い光が弧を描く。
 観客から驚きと喜びの声がわき上がった。
 そして最後に、リィムナは空に向かってホーリーアローを連発する。夜空に矢の光が走るのを見て、再び大歓声が起こる。
 大きな拍手が鳴り響く中、舞台は終了した。



 その後、開拓者達はそれぞれ夜桜見物を楽しみ出す。
 春香と雛奈は楽しそうな開拓者達を見ながら、桜吹雪を浴びていた。
「雛奈、仕事を受けてくれてありがとう。開拓者ギルドを頼って良かったわ」
「依頼を受けたのは開拓者達の方よ。だから彼等に言ってあげなさい」
「そうね。この分なら何とか赤字もうめられそうだし、黒字になりそうで一安心よ。‥‥だから来年も引き受けてくれないかなぁ?」
 春香の口調は軽かったが、その眼は本気の色を浮かべている。
 雛奈は引きつる顔を押さえながら、とりあえず一言。
「まずはこの祭りが終わるまで、ちゃんと取り締まりなさい!」



【終わり】