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■オープニング本文 「はっくしょん、ぶえっくしょん!」 「あいっかわらず酷そうだな、花粉症」 春を迎えた東房王国の山には多くの花々が咲き乱れ、青々とした葉をつけた木々がたくさんある。 そこを歩いているのは、染物屋の奉公人の偲槻(しつき)と弘太朗(こうたろう)だ。主人に頼まれて、山一つ越えた所にある貴族の家に品物を届けに行った帰りだった。 しかし偲槻は酷い花粉症でマスクをしていても鼻が出て、大きなクシャミを何度もし、眼も真っ赤で、ぜぇぜぇと息を切らしている。 「行く時に飲んだ薬がきれてきたな‥‥」 「だから無理せず、店にいれば良かったのに」 「お前一人じゃ運べない量だっただろう? それに人手が俺とお前しかいなかったからな」 マスクと花粉症を抑える薬を飲めば、何とか症状は和らいだ。しかしここに来て、酷くなってきた。 「近くに川がないかな?」 弘太朗は薬を飲む為に水場がないかと、周囲を見回す。 「いいって。もう都が見えるし、店に帰るまで我慢できるって」 「そうは言うけどなあ‥‥」 今にも倒れそうな偲槻を見ると、心配と不安な気持ちがおさまらない。 しかしふと弘太朗の鼻に、甘くて強い匂いが飛び込んできた。 「‥‥ん? 何か匂わないか?」 「俺は鼻がつまっているから、何も匂わない」 偲槻がきっぱりと答えるが、弘太朗は歩みを止め、森の奥に視線を向ける。 「弘太朗?」 不審に思った偲槻も足を止め、振り返る。 「良い匂いがする‥‥」 ぼんやりした様子で、弘太朗は森の奥に向かって歩き出した。 「おっおいっ! どこへ行くんだ!」 偲槻が声をかけても、弘太朗は歩いて行く。まるで何か目に見えない力で導かれるように――。 弘太朗の歩みが早かったのと、偲槻が花粉症で苦しんだせいで、二人には距離が出てしまう。 「ごほごほっ‥‥。アイツ、どうしたんだ?」 涙目になりながらも、決して見失わないようにと偲槻は弘太朗を必死で追い掛ける。 ――が、とある場所でとうとう弘太朗は地面に膝をついてしまう。 「がほっ、ごほっ、げほぉっ!」 苦しさにマスクを外し、吐き気がもよおすほど咳き込む。今まで感じたことのない花粉の症状に、偲槻は恐怖を感じた。 何かがおかしい――そう思った偲槻は必死に顔を上げ、弘太朗の背中を見つめる。 弘太朗はフラフラと歩き、ある場所で立ち止まった。そこは木々がなく、広い草原のような場所だ。少し土が盛り上がっており、そこには大きな一本の木があった。 「何だ‥‥あの花はっ‥‥!」 しかし偲槻の眼に映ったのは、血のように真っ赤な花をいくつも咲かせる姿だ。花の一輪が成人男性の掌ぐらいの大きさで、そこから甘く強い匂いが漂ってくる。数え切れぬほどの花をつけ、木はその存在を主張していた。 そしてその木の下には、一人の美しい人物がいる。黒く艷やかな髪は腰まで伸びており、深紅の眼は弘太朗を映し、嬉しそうに細められる。雪のような肌の白さ、見た目には十八ぐらいだろう。立派な着物を着ているが、どことなく、人間離れした雰囲気がある。 「こんな所に人間が一人で‥‥?」 偲槻は目を凝らして、人物を見る。中性的な顔立ちに、着ている着物は貴族が身につけるほどの上物。そんな人物がお供もつけずに、こんな森の奥に一人でいるなんておかしい。 だが弘太朗はその人物の所へどんどん近付いて行く。嬉しそうに、虚ろな目で微笑みながら。 「弘太朗‥‥ダメだ! 行くなっ!」 偲槻は駆け出そうとした。 しかしそれよりも早く、弘太朗は人物と抱き合おうとした――が。 その人物は突如、縦真っ二つに裂け、そのまま耕太郎を飲み込みこんだ。 そして再びくっつき、一人の人物に戻った。 「あっアヤカシっ‥‥!」 驚愕に眼を見開く偲槻を、そのアヤカシは見つめ、ゆっくりと微笑む。 「うっうわああああっ!」 偲槻はその場から逃げ出した。 アヤカシは追ってはこず、クスクスと笑った。 |
■参加者一覧
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
狸寝入りの平五郎(ib6026)
42歳・男・志
射手座(ib6937)
24歳・男・弓
魚座(ib7012)
22歳・男・魔
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 植物アヤカシが目視できる場所にたどり着いた開拓者六名は、花粉対策もバッチリしてきた。 しかし防風防砂ゴーグルをつけている射手座(ib6937)は、みなの顔を見回し、一言。 「‥‥何か顔を隠していると、オレ達、怪しい人物に見えるな」 すると魚座(ib7012)が水晶の仮面を付けたまま首を傾げ、ピースして見せる。 「この水晶の仮面、どお? 似合う?」 「ごっほん! 花粉対策なんだから似合う・似合わないはともかく、これで良いんだ。射手座さんはそんな軽装で大丈夫なんですか?」 わざとらしく大きな咳を一つした滝月玲(ia1409)は、アサシンマスクをしっかりとつけ、眼鏡もかけている。 「オレは後方から攻撃するから。弓術師だし」 そう言って背負っている弓矢を揺する。 「後ろの方はあたし達に任せておいて!」 「うんうん。ちゃあんと守ってあげるからね」 鼻に耳栓を入れ、口には手拭と布を巻き付け、目にはゴーグルをかけているリィムナ・ピサレット(ib5201)と、魚座が前方を担当する三人に微笑みかける。射手座を含めたこの三人は、今回後方担当だ。 「おうよ! だが問題は食われちまった人のことだな」 ゴーグルをつけ、鼻と口を手拭で覆っている狸寝入りの平五郎(ib6026)は、地中に埋められた人のことを思い、険しい表情になる。 「まずは人命救助第一優先で。アヤカシ退治も重要だけど、助けられる命は助けなければね」 カフィーヤで口と鼻を覆っているケイウス=アルカーム(ib7387)は、励ますように五人に声をかける。 ケイウスの言葉に、五人は深く頷いて見せた。 「では戦いの前に、このスキルをみんなにかけておくね」 そう言ってケイウスは自分を含め、六人に【精霊集積】と【霊鎧の歌】をかける。 「これで知覚力が上がって埋まっている人を見つけやすくなるし、アヤカシの花粉への抵抗力が上がる。厳しい戦いになるだろうけど、頑張ろうね」 ――こうして戦いは始まった。 まずは平五郎・玲・ケイウスの前方担当の三人が、気配と足音を消しながらアヤカシに向かって行く。 「アヤカシに食われちまった以上、望みは薄いかもしれねぇが‥‥助けてやりてぇな。気張って行くぜ!」 「ああ。人々を魅了する花粉を出し、地中に埋める恐怖を与え続ける悪趣味なアヤカシは駆除だ!」 三人はアヤカシを間近で見て、足を止めた。 「‥‥嫌な感じの花だなぁ。まずは、こいつを倒さないとね」 ケイウスが言い終えるのと同時に、二人は表情を引き締める。 そして三人は目前にいるアヤカシを睨み付けた。 前方担当の三人がアヤカシに向かって行く後ろ姿を見ながら、ふと射手座は呟く。 「地中に獲物を引きずり込むというのは新しいよな、うん」 「人に見える根を持つアヤカシかぁ‥‥。アヤカシじゃなければ、薬草になるかもしれないのにね‥‥勿体無いねぇ」 続いて魚座が肩を竦め、心底残念そうに呟いた。 「急げばまだ間に合うかも‥‥! 弘太朗さん、生きていてね!」 リィムナは心配そうに、木を見つめながら呟く。 ――後方担当の三人は、それぞれの思いに耽っていた。 赤い花を咲かせる木の下には弘太朗を飲み込んだアヤカシの人型擬態がいる。擬態が前方担当の三人に視線を向けた時、後方担当のリィムナと魚座が【ホーリーアロー】を放ち、射手座が【狙眼】を使って精神を集中し、弓・弦月を使用しながら矢を何本も撃つ。 すると地中から何本もの木の根が出てきて、矢を弾き飛ばしたり、攻撃を受けて砕けたりした。 「うわっ! いろんな根が出てきたなぁ」 「ホントホント。太いのから細いのまで、長さも様々なのが地中に埋まっていたんだね」 「しかも根の数も多いよ。あのアヤカシがいる一帯を覆い尽くすぐらいの量はあるね」 土埃を上げながら出現した多数の根に、三人は驚きを隠せないものの攻撃を続ける。 アヤカシが後方担当の攻撃に気を取られている間に、前方担当の三人は木に近付く。 玲は【超越聴覚】を使いながら、生存者の音を聞き取ろうとする。それと同時に太刀を引き抜き、【早駆】を使いながら根の攻撃をかわしながら切っていく。 「せいっ! やあっ!」 平五郎は【心眼「集」】を使用しながら周辺を探り、手裏剣で花粉を出す赤い花を目がけて攻撃する。切られた花は地面に落ちると、黒く変色し、枯れていった。 「――やはり花を落とせば花粉は少なくなるな。戦いの邪魔になる花粉は、先に始末するか」 ケイウスは【超越聴覚】を使い、地中の音を注意深く聞き探る。――が、擬態の近くに来た時、【ホーリーアロー】をその身に受けながらも平然と立っている姿を見て、立ち止まった。 「っ!? コレは‥‥!」 「ケイウスさん、下がってください!」 そこへ玲が【早駆】で駆けてきて、太刀で擬態の肩から腰にかけて真っ二つに切る。 「玲、ありがとう。‥‥しかしコレは‥‥」 「‥‥穴が、空いている」 二人は少し呆然としながら、切られた擬態を見た。外側は人間の姿をしていたが、中は空洞になっていた。 玲は改めて【超越聴覚】を使い、空洞の中を集中して耳をすませてみる。すると空洞の中から人間の心音を数人分、聞き取ることができた。 「この中から心音が聞こえる‥‥! ならば!」 玲は【強力】を使用しながら擬態の下半身を掴み、【早駆】を使いながら一気に引き上げる。 ズボボボっ! 「うわっ!? 人がいっぱい出てきた!」 根が引っ張られると同時に地中から何人もの人間が出てきたことに、平五郎は驚いて眼を見開く。 その光景を遠くから見ていた射手座・魚座・リィムナも、ぎょっとする。 「芋づる式に出てきたなぁ」 「あら、ホント。これが本当の芋づる式なんだね」 「二人して感心している場合じゃないよ!」 しかしいくつもの根が前方担当の三人を狙っていることに気付き、射手座は【鷲の目】を使って命中を上げながら矢を放ち、リィムナと魚座は再び【ホーリーアロー】を放つ。根は攻撃を受けた衝撃で、矛先が三人からずれる。 「ちっ。攻撃は当たって効くんだが、根の数が多過ぎるな」 「根は本体じゃない‥‥と言うことだね」 「本体を叩かないことには、キリがないってことだよ!」 後方の三人が僅かに危機感を感じ始めた。何度も攻撃を繰り出しても、根はその勢いを止めない。 だが攻撃され、更に食料となる人間達を掘り起こされ、アヤカシの殺意が上がった。木の根が細くなり、攻撃対象者を貫こうとするように鋭さが増す。 「ちっ! 獲物を引きずり出されて、怒りやがったか!」 平五郎は向かってきた根を、【防盾術】を使って攻撃を防ぐ。 「くそっ! いっそのこと、火で燃やしてしまいたいもんだな!」 「まだ埋まっている人達を全員救助しないうちには危険過ぎます! アヤカシごと怪我をさせてしまう可能性がありますからね!」 ケイウスも攻撃を避けながらも、根の動きを注意深く見た。根は激しく蠢くものの、木の幹は全く動かない。 「平五郎さんっ! あっちの木の幹から、人間の気配はありますか?」 ケイウスに問われ、【心眼「集」】を使い続ける平五郎は改めて木の幹を見つめた。 「いんや! アヤカシの気配しかしねぇな!」 木の根と土埃から身を避けながら、大声を出し合って確認する。 「それならば!」 ケイウスは後方にいる三人に向かって声を張り上げた。 「木の幹を中心に攻撃してくれ! こっちは攻撃を避けるのに手一杯だ! 幹には人間がいないから、思いっきりやってくれ!」 ケイウスの叫びを聞いて、射手座が一歩前に進み出る。 「どれ、いっちょ調べてみるか」 そして弓と【鏡弦】を使い、アヤカシの存在を確認してみた。 「‥‥うん。確かにあの幹から強いアヤカシの存在を感じる。本体かも、な?」 そう言ってリィムナに意味ありげな視線を向ける。 「分かったよ!」 すぐさまその意味を察し、リィムナは強く頷く。そして【ララド=メ・デリタ】で灰色の大きな光球を作り出し、木の幹に向かって撃ち込む! 「ていっ!」 ドウンッ‥! 光球は木の真ん中に命中し、攻撃が触れた部分は灰となり朽ち果てる。支えをなくした枝の部分が地面に倒れ落ち、残った幹の部分から大量の瘴気が噴出してきた! 「おおっ! ど命中!」 「そして大当たり! 木の幹がアヤカシの本体だったんだね」 「いろんな意味で当たったのは嬉しいけれど、出てくる瘴気が激しいよ!」 後方の三人は瘴気から逃れる為に身を縮めるも、アヤカシを倒せたことに堪えきれず笑みを浮かべている。 しばらくは勢い良く出ていた瘴気も、やがて薄れていく。すると今度は大量の根が、静かに力なく落ちてきた。 「うわっ!」 「おおいっ!」 「わわわっ!」 それは前方担当の三人の上にも容赦なく落ちてくる。 「あらら」 「たーいへん」 「あっ‥‥。三人が逃げるタイミングをはかるの、忘れてた」 射手座と魚座は哀れみの視線で、攻撃を放ったリィムナはちょっと反省しながら、その光景を見ていた。 「ごほっ‥‥。何はともあれ、退治できたみたいで良かった」 「がはっ‥‥。だな」 「けほっ‥‥。本体が木の幹という考えが当たって良かったよ」 三人は土埃にまみれ、体のいたるところに打ち傷や擦り傷を作りながら、後方担当達がいる草原の上に座り込んだ。 「まあまあ。アヤカシは退治したし、埋まっている人達もどうやらまだ生きていることが確認できたし。良かったじゃないか」 「そうそう。ちょぉーっと土まみれになっちゃったけど、お風呂に入れば問題ないし」 「きっ傷はあたしが治すよ」 離れた場所にいた為、無事だった射手座と魚座は三人に笑いかけ、リィムナは【レ・リカル】で三人を治療する。 「‥‥さて、アヤカシを倒した後が本番だな。これから地中に埋まっている人達を掘り起こさなきゃならんしな」 傷を癒した平五郎は、改めて現場を見る。 木は灰色となり、攻撃を受けた中心から折れたようになっている。根が大量に地面に落ちてはいるが、すでに枯れ木のようになっていた。赤い花も全て地面に落ちて、黒く染まり、枯れている。 平五郎は鋤を持って、現場に行く。そして戦いのさなかでも埋まっている人々の気配を感じ覚えていたので、記憶を辿って掘り出す。 「じゃあ俺も行くかな」 「そうだね。早く助けないと」 続いて回復した玲とケイウスも、現場へと向かう。玲は平五郎の指示の元、木の根を持ち運び、一ヶ所に集めていく。 ケイウスは【精霊集積】で知覚力を上げ、【超越聴覚】を使って埋まっている人達の心音を聞きつけては、地中から助け出す。そして草原まで連れて行き、包帯で怪我の手当をした。 「さて、オレ達も行くか」 「だね」 射手座と魚座はスコップを担ぎ、現場に入る。 「乱暴に掘りすぎて、埋まっている人を怪我させないように注意しなきゃね!」 魚座が見た目とは反してイキイキと地面を掘っていく姿を見て、射手座はそのギャップに思わずプッと吹き出す。 「‥‥っとと。オレも真面目に働かなくちゃな」 「うん! 早く埋まっている人達を救出しなくちゃ!」 射手座と魚座の近くで、リィムナも鋤を使って掘っていく。そして助け出した人達を二人の手を借りて草原まで連れていき、リィムナは【レ・リカル】で傷を回復させる。魚座も【プリスター】を使って回復させた。 ――そして埋まっていた人達を全員、救出することができた。幸いにも衰弱しているものの、大きな怪我や命に危険がある人はいなかった。しかしみな、草原に引き上げられてもなかなか意識を取り戻さない。 その様子を見て玲はギリっと歯を食いしばり、再び現場へと戻る。根と枝は木の下に全て集められていた。それらに持参した酒のヴォトカをかけていく。そして同じく持参した松明に火を付け、投げた。 ボゥッ! 「貴様が与えた恐怖の一端でも、味わってから無に帰しな」 そして太刀を引き抜き、【早駆】を使いながら幹や根に斬撃を揮っていく。 「――まっ、最後の仕上げはしといた方が良いな」 平五郎は軽く息を吐いた後、現場に戻る。そして武器・大砂蟲の手斧に【炎魂縛武】で炎を纏わせ、玲と同じように枝や根を切って燃やしていく。 そして火が消える頃には、そこには白く積もった灰しか残っていなかった。 「後はこの人達が眼を覚ましてくれれば良いんだけど‥‥」 リィムナの視線の先には、弘太朗がいた。土まみれになっていて顔色は悪いものの、呼吸はしているし鼓動もしっかりしている。 「多分捕まった人達の中ではまだ日が浅いだろうから、大丈夫だとは思うんだけどねぇ」 そう言いながら魚座が弘太朗の頬を手で撫でた時、そのまぶたがピクっと動いた。 「んっん‥‥」 弘太朗は呻き声を上げながら、ゆっくりと眼を開く。 「おっ! 起きるか? おーいっ! 気がついたぞ!」 射手座が現場にいる二人に声をかけると、すぐに駆け付けて来た。そして六人が見守る中、弘太朗は眼を覚まし‥‥。 「うっ‥‥うわあああっ!」 六人を見て仰天し、飛び上がった。そして慌てた様子で、座ったまま後ずさりする。 「ああ‥‥体力も気力も消耗しているから、恐慌状態になっているんだね。大丈夫、あたし達は助けに来たんだよ。ホラ、岩清水を飲んで、ワッフルを食べて、人心地ついて」 リィムナがにっこり笑顔で勧めるも、弘太朗は身を小さくし、ヒィヒィ唸って震えている。 「可哀想に‥‥。土の中にずっと埋められていたから、恐怖が抜けきれないようだ」 「まあ命が助かっただけでも良かったんだ。後は時間をかけて心の傷を癒せば良いさ」 「そうだね。時間はかかるかもしれないけれど、それでも大丈夫だよ」 玲・平五郎・ケイウスが真剣な面持ちで話し合うのを見て、射手座は手を上げ、注意をこちらに向ける。 「‥‥あの、さ。みんな忘れていると思うけど」 そう言いながら射手座はゴーグルを外して見せた。 「顔につけている物、そろそろ取った方が良いと思うよ?」 五人はお互いの顔を見て、沈黙した。誰もが土まみれな上、顔には花粉予防の物をまだつけていた。 弘太朗が怖がっているのは、自分達の今の姿だと気付いた五人は、慌てて外したのであった。 弘太朗の叫ぶ声で、救助した人々は意識を取り戻した。そして何とか全員無事に、都に到着する。 だが土を落とす為に行った銭湯では、苦情が開拓者ギルドによせられたとか何とか‥‥。 【終わり】 |