不届き者を退けよ
マスター名:ホロケウ
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/12 22:49



■オープニング本文

 サムライ、杉浦 勝栄(スギウラ カツエイ)。
 伝統を重んじる剣術道場の生まれのせいか、彼の性格はやや古風だと評価されていた。
 真面目ゆえに融通のきかない部分があり、頑固者のため、中々自分の意見を曲げようとしない。
 そのような性分のため、他人と衝突することが多かった彼だが、彼にも理解者はいた。
 彼の愛した妻は、彼のことを『可愛い人』だと話し、彼の酒飲み仲間は、彼を『愉快な奴』だと考えていた。
 彼の息子は、『父のようになりたい』と熱く語り、彼の同業の友人は、『また一緒に仕事がしたい』と微笑んだ。
 また、『弱きを助け、悪を挫く』彼の行動によって救われた人々は、両手だけでは足りない。
 彼は一部の人間から陰口を囁かれていたが、それ以上に感謝を告げられる男だった。

 そんな彼が、数日前、帰らぬ人となった。
 彼は村を襲撃したアヤカシの群れを撃退する依頼に参加したのだが、その最中、逃げ遅れた村の子供を発見した。
 その子供はすっかり怯え、アヤカシを前にして身動き一つできなかったため、彼は身を挺して子供を守ろうとした。
 幸いにも村の子供は無傷だったが、その際に負った傷が致命傷となってしまった。
 彼の突然の訃報に、多くの者が悲しみに包まれた。
 彼の家族は愛する人の死を嘆き、彼の友人達は涙が流れるのを止められなかった。
 そうして一日を過ごした後、
(「このまま彼が安心してこの世を旅立つことができない」)
 そう考えると、彼の妻は涙を堪え、葬式の準備を整え始めたのだった。

 友人達の助けを借りたお陰で葬式の準備は順調に進み、会場は彼の故郷の集会所に決まった。
 そして、いよいよ開かれようという前夜。
「なんでぇ、勝栄が死んだって話は本当だったのかい」
 無遠慮な男の声が集会所の玄関から聞こえ、弔問客を迎える準備をしていた妻と数人の村人が振り向いた。
 見ると、いかにも『悪い事してます』という容貌の男達が、数人立っていた。
 皆、下卑た薄笑いを浮かべ、粛々とした場の雰囲気も気にせずに騒がしくしている。
「あの‥‥主人とはどのようなご関係でしょうか?」
 男達の不躾な態度に苛立ちを覚えつつも、妻は出来るだけ丁寧な口調で尋ねた。
 だが、男達は妻の問いには一切答えず、妻を頭から足先まで舐め回すように見つめた後で
「これが、勝栄の女か‥‥いい女じゃねぇか」
「たまらねぇな」
「勝栄には勿体ねぇぜ。どうだ、俺の女にならねぇか?」
 と、更に下品で劣悪な言葉を妻に投げかけた。
 これを聞いて、それまで大人しくしていた村人達の表情が一気に怒りに染まった。
 下品な男達は空気が一変したことを敏感に感じ取ると、漸く妻の質問に答えた。
「俺達ぁ、昔、勝栄に──ご主人にお世話になった山代組ってもんですよ。
 今回の吉報──いや、凶報を聞いて、お悔やみを申し上げようとして来たんでさぁ」
 明らかに、間違えた言葉を選んでいる。
 残念そうな男の口調を、その場に居た誰もが信じていなかった。
「どうやら、葬式は明日やるみてぇですね。
 今日は大人しく帰ることにしまさぁ。騒がして申し訳ありませんっしたぁ」
 ペコリとも頭を動かさず、現れた時と同様に男達は騒がしく会場を去っていった。
 男達の姿が見えなくなると、妻はフラリとその場に腰を落とし、村人達は慌てて彼女を囲んだ。
 だが彼女に近付いた村人達は、彼女が緊張の糸が切れて座った訳ではないことを知る。
 男達の前では努めて冷静を装っていたが、顔を伏せた妻は怒りに肩を震わせ、涙を流していた。

 後で調べた所、山代組というのは壊滅したはずの金貸し屋だった。
 元々悪い噂の絶えなかった山代組だが、ある時、山代組が経営する遊郭で働かせるため、女を拉致しようとする事件が発生した。
 実際には、その計画を知った善良な者が事前にギルドに相談。開拓者の手によって未然に終わったのだが。
 この時、依頼に参加していた一人が、杉浦 勝栄だった。
 彼は抵抗した山代組の鎮圧に特に貢献し、親玉だった男を捕縛していた。
 どうやら捕り逃した山代組の残党が彼を逆恨みして、葬式を荒らしてやろうと姿を現したらしい。
 前夜ではなく、葬式当日を狙うあたり、余程怨みは深いようである。
 この事を知った勝栄の妻は、夫の悪に屈しない精神を汲み取り、葬式の延期や中止を考えなかった。
 代わりにギルドに相談して、開拓者達に葬式が無事行われるように護衛を頼むであった。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
喪越(ia1670
33歳・男・陰
詐欺マン(ia6851
23歳・男・シ
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫


■リプレイ本文

「依頼主の、杉浦 郁美さんで宜しいかしら?」
 式場の入り口から柔和そうな女性の声が聞こえて、準備を終えたばかりの喪服姿の郁美は、視線を転じた。見れば、泰国出身であることを感じさせる顔立ちの女性──賀 雨鈴(ia9967)が立っていた。
 装飾が最低限に抑えられた彼女の黒を基調とした礼服が、天儀式のものでないことも、雨鈴が泰国出身ではないかと郁美が推測した理由の一つだった。
「はい。間違いありませんが、貴方達は‥‥?」
 雨鈴の近くには老若男女様々の人物が──正確には、この場合の『老』とは宮鷺 カヅキ(ib4230)が変装した老婆のことであり、実際の彼女は『若』に区分されるべきなのだが──彼女を含めて六人、集合している。その様子を見て、郁美は訝しげな表情を浮かべた。
「依頼を受けてやって来た、開拓者です。この度は誠にご愁傷様でした。謹んでお悔やみ申し上げます」
 郁美の問いに答えたのは、風雅 哲心(ia0135)だった。彼は和風の礼服に身を包んでいたが、熟練者らしい落ち着いた態度がよく映えて似合っていた。
 哲心に倣うように、開拓者達が一斉に頭を垂れたのを見て、郁美は安堵しながら返礼する。
 昨夜現れた野蛮な者達とは違う。そう頭の中で呟いた自分が、思っていた以上に神経質になっていることを知り、郁美は内心で驚いた。
 それから郁美は、最初に疑ってしまったことを詫びた後で、今回の依頼について開拓者達と話し始めた。

「これで好し、と」
 葬式会場となっている集会所に裏口があることを知ると、笹倉 靖(ib6125)は鍵を受け取って、施錠を行った。更に、村人から借りた紐と鈴を使って、万が一裏口が開いた際には音が鳴る仕掛けを施しておく。
 最後に扉が閉じていることと仕掛けに問題がないことを確認すると、靖は満足そうな表情で裏口を後にした。
「なるほど。顔に傷、でおじゃるか」
 靖が会場に戻ると、郁美や村人達から昨夜の闖入者の情報を聞いた詐欺マン(ia6851)が、納得したように頷いていた。
 彼は自称『愛と正義と真実の使者』らしいが、彼の風貌がそれを否定しているようで、妙に名前に信憑性を高く感じてしまうが、実はそれこそが彼の狙いかも知れない。少なくとも、この依頼に参加したということは、良い人だろう。
 靖が雨鈴から山代組の残党について確認した所、郁美達が覚えている中で特徴的な人物は、三人居た。
 一人目は日焼けした大男。二人目は毛深くて小柄な男。三人目は中肉中背で、顔に傷のある男。
 他の者達は特徴が曖昧だったり、あまり特徴がなかったようで、記憶に残っていないとのことだった。
 事前に調査した情報では、山代組の残党は全員で六人残っているらしいので、これで半数が見つけ易くなったことになる。
 開拓者達は郁美達の協力に感謝の辞を述べると、それぞれの行動のために移動を始めた。
「滞り無く死者を常世に送り出せれば良いのだが‥‥あぁ、そうそう、喪主殿」
 一番最後に式場を出ようとした喪越(ia1670)が、わざとらしく急に思い出したように郁美の方を振り返った。
 何事かと首を傾げる郁美に近寄ると、喪越は他の者に聞こえないように小さな声で、
「後日、俺と同じくらいの身の丈で妙な身なりと言葉遣いの男が訪れて熱心に口説くかもしれんが、適当にあしらっておいてくれ。何なら斬って捨ててくれても構わんぞ」
 と、予言めいたことを告げる。
 郁美は少しの間、きょとんとした表情で無反応だったが、喪越が何を言おうとしているか理解すると、優雅に微笑んだ。
「それでは、そのようにさせて頂きます」
 美しいはずの郁美の微笑には、何故か底知れぬ気迫が垣間見えたため、喪越は逃げるように式場を後にするしかなかった。

 時刻が正午に近付くにつれ、村の外からの弔問客は人数を増した。
 最初は村の入り口で弔問客を一人一人念入りに観察していた哲心だったが、途中で諦め、全体の中に異質な人物がいないか見分けることにした。 
 普段の町中で行き交う人達の中から特定の人物を見つけ出すことは困難かもしれないが、今回は状況が特殊だった。
 皆、杉浦 勝栄の逝去に肩を落とし、悲しみの表情を浮かべている。
 例え山代組の残党が礼服を着ていたとしても、復讐を目的とした人物がいれば、明らかに雰囲気が違うだろうと推定された。
 一方、雨鈴は村の各所で弔問客を見つける度に、近くに隠れながら聞こえるようにこう呟いていた。
「まさか山代組の人達も、自分達を捕まえるために勝栄さんが一芝居打ってるとは、夢にも思わないでしょう。村の入り口にある納屋に隠れて、一網打尽を狙ってるのにねぇ」
 偶像の歌の効果が含まれたその呟きに、聞いた人のほとんどが虚実ではないかと疑いもせず、一瞬だけ喜びを見せる。その表情を見る度に、雨鈴は罪悪感が胸に積もって行き、謝罪の言葉を小さく残すのであった。
 そして、雨鈴の流している噂を裏付ける役として、腰の曲がった老婆に変装したカヅキは、噂の納屋へと向かう道の途中に待機していた。
 彼女の変装の技術はかなりのものらしく、この村では誰も彼女の正体を見破った人間はいない。
 『単に弔問客は皆、勝栄の死に気力を無くしていて、彼女のことを気にかけていないのではないか』という意見は、野暮だろう。
 ちなみに武器である泰術棍は布で包み、まるで杖のように扱っている。
 彼女は既に数組ほど納屋への道を案内していたが、いずれも本気にした普通の弔問客ばかりで、噂が嘘だったと分かって怒り出す弔問客を見る度に、申し訳なく思うばかりだった。
 内心で作戦は失敗だったかも、と思い始めた頃、新たに二人組の男がカヅキの前にやって来た。
「おう婆さん、村の入り口近くの納屋ってあれのことかいな?」
 二人組みの内の一人が、カヅキを威嚇するように睨みながら質問して来たので、カヅキは「もしや」と内心で期待しながら、老婆の口調で答えた。
「そうよ。でも、何だかおかしいの。誰もいないはずなのに、納屋の方から物音がするのよ‥‥」
 カヅキの不安そうな声を聞いた男達は苛立たしげに舌打ちをすると、カヅキに礼も告げずにさっさと納屋に向かって歩き始めた。
 よくよく見れば、男達の礼服はどこか歪で、急ごしらえな感じが否めない。
 カヅキは内心で、作戦成功の予感を強く感じていた。
 同じ頃、靖は弔問客に何をしているのか話しかけられ、
「いやぁね、快晴で真昼間だし暑いよねぇ‥‥ハハハ」
 と、わざとらしく答えながら、式場の周りに打ち水をしていた。ちなみに、ただの打ち水とは思えないほど、彼は広範囲に水を撒いている。
 同じ式場の近くでは、詐欺マンと喪越が不審者がいないか巡回を行っていた。
 喪越は先ほど郁美に聞いた特徴の人物に該当する人間を見つけると、自然な流れで話しかけ、それとなく山代組を馬鹿にするような話題を振る作業を繰り返していたため、その様子を見ていた詐欺マンは、自分達の方がよっぽど怪しいのではないかと悟るようになった。

 正午を少し過ぎると、弔問客のほとんどは式場の中に消え、葬式が本格的に開始された。
 騒がしかった村に本来の静けさが戻り、同時に、息を潜めていた悪者達が行動に移り始める。
 まず最初に本性を現したのは、雨鈴の流した噂に誘われて、誰も居ない納屋へと侵入した二人組の男だった。
「なんや、勝栄なんてどこにもおらんやんけ!」
 ようやく自分が騙されたことを理解すると、妙な口調の男は近くにあった薪を忌々しげに蹴り飛ばした。もう一人の男も、無言で納屋の壁を容赦なく殴りつけ、納屋全体を僅かに振動させる。
 それでも腹の虫が治まらないのか、二人組が次なる憂さ晴らしを求めている時だった。
「当人が死んだ後を狙ってくるとは、何とも陰険な奴らだな」
 不意に若い男の声が聞こえて二人組が驚いて視線を向けると、納屋の入り口に眉間に皺を寄せた哲心が立ち塞がっていた。口調こそ軽めだったが、表情からも窺えるように、彼は『少々』気を荒くしていた。
「なんやお前はぁ!?」
 妙な口調の男が言い終わる前に、壁を殴った無口な男が短刀を腹の前に構え、哲心に突進を行う。
 それが、無口な男が哲心を危険人物だと判断したからなのか、仲間が質問するのを待てないほど短気だったからなのかは、もう分からない。
「‥‥もう、半殺しじゃすまねぇな」
 哲心は事も無げに、横に軽く跳躍して無口な男の攻撃を回避すると、わざと男が振り返るのを待ってから、
「響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け――アークブラスト!」
 その胴体の真ん中に向けて、激しい閃光を伴う強烈な雷撃を放った。
 刹那にも満たない一瞬の間で雷撃は男の体を通り抜け、まるで子供が宙に人形を投げたように、軽々しい様子で男の体が背後に弾き飛ばされた。
「な、なんやねんお前ぇ!?」
 妙な口調の男は先ほど同じ言葉を哲心に向けながら、相棒のことなど目もくれずに一目散に納屋から飛び出した。
 先回りしようと思えば充分に間に合ったが、哲心は男の行く先に妙に長い杖をついた老婆が立っているのを見て、安心して足を止めた。
「どけや、婆ぁ!」
 男は走り出した先に腰の曲がった老婆が立っているのを見て、短刀を振り回しながら道を譲るように促した。しかし、老婆は耳が遠いのか、それとも目が悪いのか、実は両方なのか、男の進行方向から一歩の退こうとしない。
 仕方なく老婆を突き飛ばそうと、間近に迫った所で男が短刀を振り上げた時だった。
「やれやれ、おばーちゃんを舐め過ぎだよ」
「‥‥へ?」
 老婆とは思えない冷ややかな口調に、男は間の抜けた声を発し、そして次の瞬間には、男の手に握られていたはずの短刀が空に舞っていた。
「へ?」
 地面の刺さった短刀を見て、再び間抜けな男の声。
 もう一度その声が聞けるかと思われたが、老婆は即座に杖を持ち替えると素早く回転動作を始め、最後にもう一度杖を持ち替えて、遠心力の乗った豪速の杖を男の顎に叩き込んだ。
 無口な男が地面と平行に飛んだことに対して、妙な口調の男の体は地面から飛び上がり、空高く打ち上げられた。
 この時すでに男の意識は遥か彼方まで飛んでいたため、受身もせずに地面に落下した男の姿は実に痛々しいものだった。
「まずは、二人」
 曲げていた腰を戻し、老婆の変装を解きながら、カヅキは失神した二人組の男を見下ろして、成果を呟いた。

「ほら、こちらですわ」
「へへへ、どこへ行こうってんだい」
 雨鈴に誘惑されるまま締りの無い表情で彼女を追っているのは、昨夜も現れた日焼けした大男。
 葬式が始まって間も無く、受付で弔問客の護衛役を務めていた彼女は、何食わぬ顔で式場に入ろうとした大男を発見した。
 当然、そのまま見逃す訳もなく、入り口の警備を靖に任せ、艶やかな女性を演じて大男を人気の無い所に誘う作戦を決行。咄嗟の機転だったが、大男は全く疑いもせずに現在に至る。
 式場から程よく離れた場所まで来たことを確認すると、雨鈴はどこからか二胡「寂愁」を取り出して、大男の方に振り返った。
「おっ。一曲聞かせてくれるのかい?」
 ニヤニヤといやらしい笑みを止めない大男は、どうやらただの余興だと思っているらしい。
 雨鈴は内心で呆れ果てながらも、同時に、大男の無防備さに感謝しつつ、静かでゆったりとした曲を奏で始めた。
「いい曲だ‥‥な‥‥はれっ?」
 目を閉じて聞き入っていた大男は、全く抵抗することなく、己に何をされたのかも分からないまま、その場に倒れて眠ってしまった。
 雨鈴の奏でた音色が夜の子守唄と呼ばれる催眠効果のある音楽だと大男が知るのは、もっと後のことだった。
 だが、警戒心の強い猿のように小柄で毛深い男は、偶然にもこの光景を物陰から目撃していた。当然、猿男は襲撃が失敗したことを感じ取り、急いで村から離れようとする。
 見た目通り、猿男は軽やかな身のこなしで村の入り口に向けて走り始めた。ところが──。
「うきっ!?」
 踏み込んだ足が突然地面を滑り、猿男は奇妙な声を上げると、凄まじい勢いで後頭部から地面に倒れた。この衝撃に猿男は耐えられる訳もなく、そのまま意識を空のどこかに手放してしまい、呆気なく気絶してしまった。
「ありゃ、拘束するつもりだったんだけどな‥‥」
 いつの間に傍へ来たのか、靖は猿男が倒れているのを確認して、全然申し訳なくなさそうな口調で呟いた。
 猿男が踏み込んだ地面は、葬式の前に靖が水を撒いていた場所で、微風のおかげで涼しいとしても、日光の下では有り得ないはずなのに、凍っていた。
 その答えは、靖が密かに唱えていた氷霊結という術の効果で、氷の精霊に働きかけて、水を氷へと変化させるものだった。
 つまり、靖は予めこうなることを見越して水を撒き、罠を張っていた訳である。決して、何も失敗などしていない。

「ククク、ここいらで派手に故人を見送ってやろうじゃねぇか‥‥!」
 会場の裏口辺りで、巧妙に変装していた元山代組の一人が不気味な笑い声を上げていた。その手に握られているのは、誰もが一目で分かるような球形の爆弾。正確には、花火職人から盗んできた小さな花火の火薬球である。
 手の平と同じ大きさしかない火薬量だが、静粛な葬式会場で爆発すれば、大騒動になることは間違いない。勿論、そんな悪行を『愛と正義と真実の使者』が見逃す訳もなかった。
「そちの考えなどお見通しでおじゃる」
 突然背後から声が響き、爆弾男は驚いて振り向こうとした。だが、その喉元に苦無の刃を当てられると、抵抗は無意味だと悟らされ、爆弾男は動きを停止せざるを得なかった。
 情けない表情のまま硬直する爆弾男を見下ろしながら、詐欺マンは涼しげな表情で微笑を浮かべた。
 一方、会場の中では予定の時刻になっても爆発が起きないことを知り、顔に傷のある男が焦りの表情を浮かべていた。
 男は何らかの対策を練られることを予測し、仲間を陽動に使うことによって、何とか式場脇の倉庫にまで侵入することが出来ていた。もし式場周辺を開拓者達が常に巡回していたり、入場者を一人一人検査されていては、とても侵入は不可能だっただろう。
 爆発後の騒動に紛れて郁美を拉致する計画だったが、一向に爆発が起こる気配がない。
 顔に傷のある男はとうとう痺れを切らして自棄になり、こうなれば大声で騒いで葬式を台無しにしてやろうと、倉庫の扉を開けた。
「あ」
 扉の前には符を構えて準備万端の喪越が立っていたため、顔に傷のある男の勢いは一瞬で萎んでしまった。
 刹那、放たれた多数の毒蟲が彼の全身に噛み付いたため、元山代組最後の男の復讐劇は、何の見せ場も無く幕を閉じた。

 哲心の用意した荒縄で山代組の残党を縛り上げた後、開拓者達は人の少なくなった式場で、勝栄に依頼の結果を報告し、彼の魂を見送った。