北と東に挟まれて
マスター名:ほっといしゅー
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/06 15:04



■オープニング本文

 受付がそれを発見したのは、依頼の受付簿の決裁を確認していたときであった。ここ安積寺にある開拓者ギルド支部が受理した依頼には、受付係を統括する職員の印を最終的に捺すはずだが、その一枚だけ、当の受付係の印しか捺されていなかったのだ。彼も最初は受け付けたばかりだと思ったが、受付順の通し番号からして、最近のものではないことは明白だった。日付を見ると、もう1週間ばかり過ぎている。
 彼はあらためて、受付簿を見た。盗賊団を駆逐して欲しい、というのが依頼の内容だったが、こんな依頼が、すぐ開拓者に任されないということは通常はあり得なかった。つまり、開拓者たちが実行に移せない何らかの理由が、そこにあったということになる。彼はすぐに当時の受付を呼び、事情を聴くことにした。
「――はい。あー、これですか。実はまだ正式な依頼じゃないんですよ」
 保留の理由を訊かれ、受付票を見せられた職員は、思い出したように話し始めた。盗賊団が根城としていたのは、かつて東房と北面が戦争をしたときに使われた砦の名残で、砦そのものは北面領に存在するものであった。その砦が東房側からでは難攻不落であったため、開拓者たちが北面領から背後を素早く衝けるよう、依頼者は仁生の支部と調整しているとのことだった。
「なるほどね。向こうの支部に、依頼を出せばいいのにね」
「ごもっとも。でも北面では、自分たちでできるとか何とか‥‥」
「そうなんだ?」
 北面志士は、開拓者の力を借りるのをそこまで嫌っているわけでないはずだが。彼は訝しがったが、とにもかくにも、実際に依頼の形をとって舞い込んでこないことには、よほど喫緊のものでない限り、ギルドとしては動きようがなかった。結局、彼はその職員に、今回のように特別なことがあれば、責任者も含め係のみなに周知して欲しい、事情が分からないと困ることがあるから、と注文をつけただけで、受付簿を閉じることとなった。
 一度は忘れかけたその依頼が、再び安積寺のギルドに持ち込まれたのは、それからまたしばらく経ってからだった。最初と同じ受付係が、依頼者の対応をしたため、話ははかどった。
「こんにちは。ああ、どうも――あの件ですか。‥‥結局、どうなりました?」
 2度目となる依頼者の話を聞き、受付係は、その内容の変貌ぶりに目を見張った。
「北面領を通す代わりに、戦利品をよこせ、ですって?‥‥何それ」
 職員が問い質すと、依頼者は力なく頷いた。これには、長年ギルドの受付を務めてきた彼も眉をひそめざるを得なかった。自分たちでできるから、というのは建前で、きっと戦利品が目当てなのだろう。これは芹内王の周辺ではなく、権力機構の末端にすぎない志士が口を挟んできたのだろうが、アヤカシとの戦いでどこも疲弊しているのは理解できるにしても、この仕打ちはどうだろう――。受付ははっと我に返った。東房側がその条件を呑んだのだから、ギルドからいまさら何かを言うことはない。
 それでも戦利品から、ギルドのへの報酬を半分肩代わりしてくれるということなので、足元を見られたとしても御の字だったのだろう。本来の仕事に戻るべく、受付はさらに詳細を尋ねた。
 目標の砦の話を聞いて、足元を見られてしまうのも仕方のないことか、と受付は思った。砦の立地は防衛側にとって完璧と言ってよく、東房から攻める軍勢を一望できる位置にあり、これは設計者の知略を褒めるしかなかった。それと比べて、背後は林になってい、補給のための道もしっかり作られているという。類い希な能力を持つ開拓者たちであっても、無用の消耗は避けたいから、この進路の変更は、作戦としては上策なのだ。北面と東房がこんな状態のため、運がよければあるいは、盗賊団も背後からの襲撃を予測していないかもしれなかった。
 最初の訪問から約2週間で、この依頼はようやく、開拓者にお鉢が回ってくることになった。東房側の寛容のおかげで、開拓者にとっては難しくない仕事になるにちがいない。北面からは切り捨て御免の言質も取れたので、条件としては申し分なかった。ただそれでも、受付の頭の隅には、やるせない気持ちが消えずに残っていた。
「地図に線が一本引いてあるだけで、こんなに面倒くさくなるんだねえ」
 それを聞いて、彼の同僚は答えた。
「まったく。でも、アヤカシが現れたおかげで天儀が一つになるっていうのも、相当な皮肉なんじゃないのか」
 本当の世界は、いったいいくつなのだろうか。彼らには想像もつかなかった。


■参加者一覧
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
久悠(ib2432
28歳・女・弓
天笠 涼裡(ib3033
18歳・女・シ
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
月見里 神楽(ib3178
12歳・女・泰
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫


■リプレイ本文

 北面方が今回押しつけてきた条件は、あまりに分の悪いものではあったが、依頼者の話によると、このようなことは珍しくないらしかった。国境を越えるときの通行税から始まり、開拓者ギルドへの依頼や水の灌漑までいちいち彼らは口を挟むのだが、現場ではこれまで穏便にことを済ませきた、と彼は言い、開拓者たちの感じる理不尽さを宥めた。
 ただ、たとえ北面と東房が過去を全て水に流そうとも、あるいはその反対にお互いに憎み合っていようとも、御凪 祥(ia5285)にとっては何の興味も抱かせるものではなかった。そもそも縁も思い入れもない二つの国であり、分かれているとはいえ、それはただ地図上のことでしかなかったからだ。そういった内部での無意味な紛争がどういった帰結を見せるかということについては、彼は経験として、十分すぎるほど理解していた。
 祥とは対照的に、久悠(ib2432)は憤りを感じていた。東房は下手に出て協力を求めているのに、このあからさまな足元の見具合はどういうことだ。依頼の条件をあらためて考察すると、何か裏でもあるのかと勘ぐってしまう。依頼者の態度を差し引いても彼女の不審は払拭できなかったが、滅多にない機会ということで自らを納得させ、これから同行することになる北面の志士のためにも、自己の感情はできるだけ抑えようとつとめていた。
 祥や久悠と比べると、他の面々は国同士の揉め事には冷ややかな反応を返していた。もともと開拓者自体が、氏族という枠組みから外れたものたちを中心として成り立っているために、態度が淡白になってしまうのは当然ともいえる。そういういがみ合いをするくらいなら、と、天笠 涼裡(ib3033)は思った。畑でも耕していた方がいいでしょうに。天儀の生まれでないマーリカ・メリ(ib3099)も考え方は大きくは変わらなかった。対立するのはお偉方だけでもうたくさんだから、現場にいるひとたちだけでも、仲良くしてくれるといいんだけど。
 それ以前に、国と国の間に引かれた線を実感することは、獣人である朱鳳院 龍影(ib3148)と月見里 神楽(ib3178)にはなおさら困難なことだった。自分たちは種族も儀も越えるお付き合いをしているから、隣同士で仲良くできないのは明らかにおかしいのだ。敵味方を区別しない鳳珠(ib3369)にとっては、もはやひとの属するところなどどうでもよかった。北面の志士でも東房の僧でも、はては盗賊であっても、必要とされれば精霊の力を分け与えなければ、と考えていたからだった。
 一方、設楽 万理(ia5443)は、理穴のことでなくてよかった、と内心で安堵していた。東房と北面の古くからの因縁については、とくに何か感慨を抱くことはなかったが、これが、現状ではありえないことではあるにせよ、もしも、たとえば理穴と武天についてのものだったら――彼女の忠誠心からいって大きく異なっていたことだろう。それを考えると、彼女にはまるでひとごとのものではないように思えるのだった。
「なるほど。‥‥確かにこちら側からじゃと、攻めるのはちと厳しいのう」
 北面との境までまだ一刻はかかりそうな場所で、早くも目標の砦が開拓者たちの眼前に小さく現れた。なだらかな原野の先に急斜面がそびえ、その上に建てられた砦から、そこまで迫ろうとする軍勢を一望できる形になっていた。砦まで延々と続く原っぱを見渡し龍影は呟いたが、依頼人の言うように、今ここから襲撃しようとしても、盗賊たちがよほど愚かでない限り、守りを固めるか、あるいは砦を捨てて逃げ出そうとするかのどちらかなのは、この場の誰もが容易に予想できることだった。開拓者たちは当初の計画どおり、一旦砦から離れる形をとって道なりに進み、北面領に入った先で襲撃の計画を立てるよう、道案内に従った。
 日が昇るに従い、暑く湿った空気が肌にまとわりついてきた。風が出ていたため不快感は少なかったが、目的のものが見えているのにわざわざ遠回りしなければならないことは、一同の心証にいい影響を与えなかった。関所を越え北面領内に入り、最初の村に置かれていた屯所で、開拓者と目付の志士は合流した。羽織に陣笠の出で立ちで、見た目にはいかにもお役人という印象であったが、まだ若く、人当たりはきわめて現実的で、それまでの予想とは大きく異なるものだった。
 その志士は綾続と名乗り、この地を治める領主に仕えていると語った。久悠は武具や家柄についての質問を、志士の気分を害さないよう丁寧に言葉を選んで並べていたのだが、彼はそれをあまり意に介さないようで、隠し立てする素振りもなくそれに答えた。彼の主家は、何代か前に北面王より知行を拝領したため領主を名乗ってい、今のあるじに代替わりしたのはほんの数年前、とのことだった。
 しばらくその調子でやりとりを続けているるうちに、その志士に高飛車な態度も、鼻持ちならない言い回しもないことが分かり、一行を包んでいた空気がいくぶん軽くなっていくのを久悠は感じた。これなら、感情的にならずに話し合えるかもしれない。彼女はずばり切り出した。
「北と東の現状をどうお考えですか?」
 このまま憎しみあって終わるのですか。それが方角の話ではなく、ふたつの国を指しているということは綾続もすぐに理解した様子で、彼はちょっと笑い、夏の空を見上げた。
「――瓦版書きみたいなこと、仰るんですね」
「真面目に答えて下さい」
 久悠にそう言われて、彼はまた笑った。
「これは失礼。僕もそう、思いますが‥‥その質問、我が殿にぜひ訊いてもらいたいものですね」
 お互いに不倶戴天の敵と見なしているのかと思っていた久悠は、拍子抜けした。過去にまつわる憎しみから抜け出すことの重要さを説こうとしたのだが、その意図は通じたようで、綾続は小さく数回、頷いてみせた。そのとき彼の脳裏に浮かんでいたのは、開拓者たちを迎えるにあたり、全部自分の企みごとのせいにして構わないと命じたあるじの姿だった。開拓者たちであれば、彼には推し量れないあるじの考えごとが、理解できるかもしれないといったかすかな期待が、言葉尻から伝わっていた。
「北面志士といえば誇り高いと聞いていたが‥‥あんたは違うのか?」
 きわめて鷹揚、悪くいえば不真面目な回答に、大きな落差を感じ、国は異なるものの、同じ道を選んだ祥は驚きを隠せずに、口を挟んだ。もう少し角が立っているものと思っていたのだが、どうもここでは様子が違うようだった。
「ここは北面の端ですから。仁生と丸きり同じようにお考えになると、僕も困ります」
 それほど端にあることが特別なのかと訝しがりつつ、綾続が淡々と答える様子に半ば呆れて、祥は志士を見遣った。含みのある言い方であったのだが、彼はそれ以上の子細の回答は得られなかった。
「大人って、大変なんだね」
「そうでもないですよ。いずれ分かります」
 神楽が様子を察して声をかけたが、返ってきたのは、北面志士の、大人が見せる特有の作り笑いだった。

 昼を過ぎ、一日で一番暑くなる頃になり、小高い丘の麓で、綾続は足を止めた。村も町も近くにはなく、道を知るものでなければ通り過ぎてしまいそうな林が、麓に広がっていた。さっきは遠目に見た砦の丘だが、近くで見るとだいぶ大きくなっていた。
「この丘の向こう側に、砦があります」
 目標の砦へは、ゆっくり歩いたとしても、ものの30分で着いてしまうと彼は説明した。襲撃は、周囲が視認できなくなる夕方、物資の補給か夕食の最中と決めた。それまでは盗賊団に気づかれることがないよう、街道から離れた場所に手頃な空き地を見付け、そこで開拓者たちは思い思いに身体を休ませていた。
 砦までの道と、砦の内部については、彼の持参した図面によって容易に知ることができた。隠された部屋や通路などは後付けでない限りは存在せず、見張り櫓と兵の詰め所などがあるくらいで、裏から入るための門についても、表と違って簡易な作りになっているとのことだった。
 夕闇が押し迫ると、マーリカと神楽はがぜん張り切りだした。盗賊退治ということ自体物騒なものではあったが、北面と東房が仲直りをするため、という純粋な目的には、少しの曇りもなかった。しかし、戦利品を気にかけるあまり発した、マーリカの無邪気ではあるがきわどい質問は、北面志士を少し刺激したようだった。
「あれ‥‥戦利品て、本来の持ち主に返すんじゃないんです?」
「それができれば一番いいんですが。手間暇がかかりすぎますからね」
「――じゃあ、私もらっちゃっていいですか?」
 発想の突飛さに、綾続は目を丸くした。たしかに、自分たちが無理を聞いてもらったということは分かっているのだが。
「ほら、領主のひとも‥‥何がどれくらいあるかって知らないんですよね。だから、全部じゃなくても、いいのかなって」
「だめです。しっかり検分しますからね」
 彼は掌を立て、止めるよう求めた。言葉の魔術師、とまではいかなかったようで、綾続から釘を刺された彼女だったが、これくらいでへこたれるようでは、目標の一攫千金など夢のまた夢であったから、べつだん懲りた様子などは見せなかった。
 開拓者たちは、まず鳳珠が支援の舞踊を舞い、万理と久悠ふたりの弓術師に先手を取らせることにした。それに続いて龍影が咆えて挑発を行い、盗賊たちを外へおびき出す作戦であった。もしも砦の中に盗賊が残っている場合には、密かに侵入した涼裡が片付けることになっている。また綾続の予想と異なり、一同はできるだけ生け捕りにすることを望んだ。このことについては、久悠が代表して、彼へ苦情を述べた。
「死んだらそこで終わりですからね。そういうわけで、斬り捨て御免だとか――体のいい駒みたいな扱いはしないでいただきたい」
 綾続はその言葉を頭の中で反芻すると、やおら笑顔になって答えた。
「‥‥なるほど、仰るとおりです。だいたい、駒になるのはわれわれの方が得意でしたね」
「おい、冗談を言っている場合ではないだろう。あんたも腰に下げてるんだ。手伝ってもらえるか?」
 祥の申し出にも、彼はもちろん、と快諾した。
 夕闇の帳が下り、作戦が開始された。先導し気配を探った涼裡には、何かしらの異状は感じられなかった。ちょうど砦では夕食の支度をしているようで、焚き火の煙のやに臭さが周囲に漂っていた。戦果に味を占めて居座ろうとしているのか、あるいは盗品の処分に手間取っているのか、これからも長居しそうな雰囲気である。これは楽だな。砦のすぐ手前に生えている低木の陰に陣取りながら、彼女は思った。
 砦の門と櫓には立ち番がふたりずついたが、見張りの形をとっているというだけで、門は開け放し、おしゃべりはのべつ幕なしと、おざなりなものだった。兵士や開拓者などを経験しなければ、こういったやり口は理解できないのだろう。久悠は神楽と申し合わせ、矢を放つ瞬間を待った。
「そろそろ、いいでしょう」
 綾続が見計らうと、鳳珠の舞によって精霊の力が与えられた、ふたりの放つ矢がそれぞれ、音もなく見張りを襲った。続いて櫓の上。暗殺が目的ではないので、その後で騒がれるのは織り込み済みだった。どうであれ、体幹に矢が刺さってしまえば、よほどの武人でない限り大人しくなるのが普通であるから、これで早くも、盗賊の耳目を封じたことになる。
「これならば、落とすのは難しゅうない感じじゃの」
 あとの7人は素早く砦へ近づいた。門を破った勢いのまま、龍影が威嚇の咆哮をし、盗賊たちの気を引いた。改方か、返り討ちにしろ、などといった喧騒が聞こえ、詰め所から一団がどっと飛び出した。
 それを迎えるは龍影に加えて祥。その後方にマーリカと神楽が続き、さらにいつでも回復に向かえるよう、鳳珠は陰にそのままとどまった。こうしてひとたび息が揃えば、開拓者の優位は崩れることはなかった。盗賊たちはそれぞれ、突き、払い、薙ぎと続けざまに流れる祥の槍に翻弄され張り倒されるか、あるいは龍影の、あの柔らかそうなふくらみに目がくらみ、大柄な肢体から放たれる左右一振りでいいようにあしらわれるか、のどちらかだった。鳳珠の精霊も、このときは出番を待ちわびるばかりだった。
 たとえ運良く、隙を突いてふたりを出し抜いたとしても、結果としては差はなかっただろう。そうしたひとりは、マーリカの短い悲鳴と共に凍るかと思うくらい冷やされ、それに追い打ちの石礫を浴び、たくさんの星を見るはめになった。またもうひとりは、立て続けに電撃を受け、刀を振るう間もなく伸されてしまうありさまであった。また、これらを目の当たりにし、攻めあぐねるものには容赦なく、久悠と万理が闇の向こうから矢を浴びせかけていた。
 こうして外が静かになってゆくあいだ、涼裡と神楽が詰め所を探っていた。綾続が鳳珠の助けを得、盗賊を捕縛していたのだが、彼によると気配が残っているとのことだったので、騒ぎになっている反対側を大回りして、入り口に向かった。
「まだ、盗賊さんいる?」
 シッ――静かに。神楽を抑え、涼裡が中を窺うと、3人の男が持てるだけ持って逃げる準備をしているのか、荷物をあさっているのが見えた。むろん、好機だった。
「これを打ってから――真ん中の盗賊さんにかかってくださいね」
 3人を見比べた上でそう言うと、涼裡は小さく振りかぶり、手裏剣を打った。ほぼ同時に、右端の男が、小さく呻いてくずおれた。今だ。
「お天道様は何でも見てるんだよ? 逃がさないからね〜」
 一足飛びに距離を縮め、神楽は盗賊に飛びかかった。いくら子供といえども、開拓者に不意打ちされてはかなわず、狭い室内で組み伏せられ、あえなく御用となった。涼裡の予想どおり、彼が盗賊の頭目だった。神楽を頭目から何とかして引き離そうとしたもうひとりは、暗闇の餌食に、平たくいうと、涼裡が背後から始末した。

 盗賊の戦利品は主に交易品が大部分であり、マーリカが期待したような『お宝』は、残念ながら見つからなかった。仕方なく彼女は、綾続に頼み込み、帳面を一枚破ってもらって、それでジルベリアの両親に手紙を書くことにした。
 はたして、縛り上げた盗賊は、綾続が応援を呼んで対応しなければならなかった。戦闘の後も、伝令に検分にと彼は忙しかったが、終わってみると、開拓者にとってはいささか役不足の相手ではあった。ただ、どうしても、と彼は語った。兵を動かすことはできないので、と。国境の近くで無闇に兵を動かすのは、北面にとっても東房にとっても嫌がられるんです。戦争みたいで。
「ですから、また何かと、お世話になるかもしれません」
 眼前の東房の地に背を向け、綾続は笑った。これが、今の領主になって初めて、この地と開拓者が関わりあいを持った経緯の始終であった。