【初依頼】開拓心得
マスター名:ほっといしゅー
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/11 23:07



■オープニング本文

 受付は、宿直の不寝番がギルドに顔を出したのを見、大きく伸びをした。そろそろ終業だ。事務所の窓越しに外を見ると日はもうとっくに暮れてい、昼の残暑とは全く違う、秋の夜風が神楽の都を包み込んでいる。今日も昼は暑かったが、夜は涼しくなりそうだ――。
「ちょっといいかい」
 帰り支度をしようというところで、彼は上司に呼ばれた。席へ出向くと、書類ばさみにつけたままになっている受付簿が彼の目にとまった。これは彼が今日受け付けたばかりのもので、アヤカシ退治の依頼として不備はなかったはずなのだが。その依頼がどうかしましたか、と彼は訊いた。何か問題でも。
 いや、問題があったわけじゃないんだが、実はね、相談したいことがあって。上司は傍らから、もうひとつの書類ばさみを取り出し、彼に渡した。
「これを見てくれ」
「‥‥研修、ですか?」
 渡されたものは、ギルドに登録されたばかりの開拓者を対象とする、野外実習の研修を企画した書類であった。野山で食料の調達から野営の仕方まで、人里離れた場所に赴くことも多い開拓者の基礎を学んでもらうことを企図するものであった。
「そう。新しく登録された開拓者が近頃増えてきているし、ちょうどいいかなと思ってね」
「ああ――なるほど。それで、私の受けたアヤカシ退治の依頼をやってもらうってことですか」
 相談の大方の予想が付き、彼は大仰に頷いて上司に訊き返した。彼の受けた依頼は、狼の姿をしたアヤカシが近辺の里山で目撃されたため持ち込まれたものであって、上司が起案する研修の場所とごく近いものであったのだ。確かに、対象のアヤカシもそこまで脅威的ななものでなく、彼の見立てでも、駆け出しの開拓者たちにちょうどよい相手であろう。
「その通り。2泊3日の計画だから、探して退治する時間は十分にある。昼間は結構、暇だろうしね」
 いま、山は実りの季節であろうから、いい場所を見つければ木の実や茸、山菜には事欠かないはずだ。冬眠に備えそれらを狙う動物も肥えているはずだし、計画では、川の近辺で夜営するようなので、腕次第では魚も期待できる。もし食料が何も手に入らなかったとしても、この日程なら健康にも悪影響は出まい。野営の道具もギルドに揃えてあるから、開拓者は着の身着のままで参加すればいい――そう思って企画書をすらすらと読み進めていたが、最後の部分で、彼の目が止まった。
「干飯に味噌玉って、これ何です? ギルドから出すんですか?」
「ああ、それはね――」
 彼が指摘すると、上司はばつが悪そうに、ギルドで備蓄している非常食の、規定による使用期限が切れているのだと説明した。更新するのに、捨ててしまうのももったいないから使ってしまえということである。もちろん、保存食であるから品質に問題はないはずで、もったいないのならば便宜上の期限など気にせずに、取っておけばいいのである。ただ、公的な機関として存在するこの開拓者ギルドでは、もしものこともあり、それを堂々と主張していいものかどうかは彼も悩むところであった。
「ずいぶん豪華な野営になっちゃいませんか。まあ、必要経費ですかね、これ」
「だから頼むよ、これとこれ、ふたつ一緒にして企画作ってくれ。今日中に」
 仕方ないなあ、と笑っていた受付だったが、上司の一言を聞いて、その表情が凍り付いた。俺がやるのか!
 受付の帰りは遅くなりそうである。


■参加者一覧
/ 平野 譲治(ia5226) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / シータル・ラートリー(ib4533) / 藤吉 湊(ib4741) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 和妃(ib5283) / キリヤ(ib5286


■リプレイ本文

 出発の日の朝、あらためて受付は名簿を見、参加者を確認した。人数が予想外に少なかったため、保存食の消費を別に考えなければならない。台帳の数字では、まだ十分な量の廃棄予定品が残っているのだ。
「どうします?」彼は上司に訊いた。
「人数が少ないのは仕方ない。まあ、今度また、別に使い道を考えてくれよ」
 『使う』以外の使い道がいったいあるのかどうか。かぶりを振って、彼は上司に言った。
「もう配っちゃってもいいと思いますよ。じゃ、そろそろみんな集まる時間なので」
 今回の依頼のために広い相談室をとっておいたのだが、この人数では役不足である。まあいい。大は小を兼ねるというし。彼は説明のための書類を抱え、相談室へと歩いていった。
 当然のことながら、相談室は静かであった。集合時間にはまだ少し早いが、相談室には、どうやら参加者全員が揃っている。ひ、ふ、み、よ、とそれを確かめると、がらんとした相談室の片隅で、彼は開拓者たちに挨拶をした。
「――こんにちは、よろしくお願いします。じゃこっちに集まって、説明しますね」
 相談室に、職員の声がこだましている。ほぼがらんどうの大部屋では、小さな音もはっきりと聞こえるような気がし、初めての依頼とあって、シータル・ラートリー(ib4533)は終始落ち着かなった。表情にこそ出さなかったが、内心では緊張しているのだ。しかし、いちど経験すれば慣れるだろう、という目算はあった。アヤカシ退治くらい、ボクはきちんとこなしてみせますの。自らに彼女はそう密かに言いつけ、職員の説明を聞いていた。
 同様に初めての依頼であったが、しっかり者のリィムナ・ピサレット(ib5201)は準備を怠らなかった。今回の目標とされるアヤカシについて、彼女は書物を使って調べていたのだ。狼に似たアヤカシは天儀の中でも数多く発見され、開拓者にとっては比較的くみしやすい相手だということも、わかっていた。
 和妃(ib5283)にとっては、初めての依頼であるだけではなく、神楽の都も初めてに近いものだったので、外からも見てわかるくらいに緊張していた。職員が心配そうに声をかけたが、あまり効果があったようには感じられなかった。こればかりは、場数を踏んでもらうしかない。
 傭兵としての経験から、キリヤ(ib5286)は他の参加者ほど緊張はしていなかった。もともと戦闘も、野外活動もこれまでの仕事であり、立場が変わっただけですることに変わりはないのだ。変わっているところといえば、共に戦う仲間――3人の同期の女の子たちを見下ろしながら、大丈夫かナァとこっそり首をかしげた。
 研修の内容も大部分が終わり、新入り開拓者と職員は付き添いの先輩を待つことになった。職員の指定で、説明が終わるころ来るように時間を調節してある。
「いぇ〜い、新入りさんこんにちはー!」
 まず、部屋の外にいても十分わかるくらいの元気を溢れさせながら、リエット・ネーヴ(ia8814)が相談室に駆け込んだ。もうちょっと静かになりませんかね、と針をチクリと刺した職員にも全く意に介さず、彼女は初めての依頼を受ける4人によろしく、と言葉を投げかけた。
 その次に現れたのは平野 譲治(ia5226)である。今日もよく歌詞のわからない歌が聞こえてきたが、その真の意味は誰にもわからない。キリヤ以外は歳が近いので、まるで別な集まりのようにも見える。彼はかなり気楽な様子でいた。というのも、今回の依頼をさいころで占ったのだが、出目が6、一番よい結果だったからだ。
 その危機を救ったのが琥龍 蒼羅(ib0214)である。とはいえ、『引率らしき人物』がひとりがふたりに増えただけ、で大きな差はなかった。10歳強の5人と、20歳弱のふたり。何だかおかしな組み合わせになったかもしれないが、ギルドの職員はあっさりとその蒼羅の心配を否定した。開拓者って、こういうものだし。
 それとは別に、アヤカシと対峙することに対し若干の不安があったが、経験者が3人補助してくれることもあり、これも大丈夫だろう、と受付の職員は結論づけた。そして野営に必要な道具と、今回のもう一つの目的である保存食を支給され、開拓者たちはギルドを出発した。一行の後から、偵察のため連れ出した2頭の龍が大人しく歩いているが、それがなければ開拓者かどうかわからない。
「きのこたけのこあけびにざくろ、秋のお山は食べ盛り〜」
「きのこたけのこあけびにざくろ、探して食べよ、腹減った〜」
 リィムナとリエットの、山の幸の名を連呼するだけの歌が、秋の風に乗って流れている。このような顔ぶれだったから、研修の舞台である里山までは、ほとんど野掛け遊びや山歩きに等しいものであった。特にこのふたりがはしゃぐ様子を見、キリヤは蒼羅に尋ねた。
「開拓者って、いつもこうなのか?」
 数多くの戦闘を経験してきた彼にとって、子供のお遊びにしか見えないのが異質なものとして映っていた。もちろん、それは見かけのものであるから、同じく経験の多い蒼羅はそれを否定する。
「ひとによって異なるが、もちろん、ふざけているばかりではないぞ」
「へー。俺からすると、ずいぶん気楽なもんに見えるけど」
 開拓者は傭兵とは違い、戦うばかりが仕事ではない。その違いを理解してもらえるよう、蒼羅は言葉を選んだ。
「やるときはやるってことだ。――キリヤは傭兵上がりだったか? 開拓者は戦いがなくても仕事を探すことができるからな」
「そんなもんか。ま、とりあえずは慣れることかナァ」
 そういうこと。蒼羅は頷いた。まずはアヤカシを実際に相手するのが、一番手っ取り早い方法である。
 野営の場所についても、雰囲気は和やかなままだった。3組に分かれ、帝国式の天幕を張るときも、当然というか予想通りというか、一苦労であった。鉄製の、2本の細い軸を十字に交差させ、それぞれの端を下向きに曲げた上に天幕を被せるのだが、これがなかなかうまくいかない。蒼羅とキリヤの組は年の功もありそれほどの難なく組み立てられたのだが、譲治と和妃の組、リエットとシータル、リィムナの組は手伝ってもらうまで作業を終わらせることができなかった。そして、ようやく設営が終わると、すぐに夕食の準備に入らなければならない。秋の日は予想以上に落ちるのが早く、すでに傾きかけていたからだ。
 獣を狩るのには大の男、蒼羅とキリヤがあたった。キリヤの経験を活かし、蒼羅の待ち構える場所まで追い立て、彼の苦無で仕留めるのだ。この作戦は功を奏し、日暮れぎりぎりまでねばった結果、小型ではあるが猪を捕らえることができた。結構なご馳走である。
 譲治は付近を流れる川へ、魚を捕りに向かった。ふたりで1匹くらいが食べられれば御の字だが、場所が悪いらしく、今日の釣果ではひとり1切れぐらいしか望めなかった。魚籠の軽さに悔しい思いをかみしめながら、彼は野営の場所へ向かった。明日はここではないところで釣ってみるのだ。
 残りの4人は、山の幸を集めていた。果実はすぐ判別が付くのだが、キノコは食べられるかどうかいちいち判断しなければならない。その判断は予習をしてきたリィムナが務めた。
「ねえ、これはいかがかしら?」
 シータルが見つけたのは、野生のブドウ。和妃はアケビを、歌のとおり探しだした。
「じゃあ、これは?」
「これも食べられるかな」
「じゃーん、これは?」
 リエットが持ち寄ったのは――、「毒キノコだよ、それ」
「うそ!? きれいなのになあ、残念」
 料理が得意とするものが多かったので、採れた食材の使いどころには事欠かなかった。できあがってみると、量は少ないが、肉、魚に果物と、神楽の都ではあまりお目にかかれない、ちょっとした料亭の料理を彷彿とさせるものである。
 開拓者たちは自画自賛の舌鼓を打ったあと、予定通りに、翌日に備えすみやかに休む算段を立て始めた。見張りは天幕の組ごとに3交代制をとった。人数が少ないことが蒼羅は気にかかったが、2交代では就寝できる時間が少なくなってしまうというリエットの意見に従うことにした。
 リエットとシータル、リィムナの組が最初の時間の見張りを引き受けた。3人寄れば何とやら、で彼女たちは仕事のことも忘れるくらいに話し込んだ。それぞれ故郷から遠く離れたこの天儀の地で、いったい何が待っているのかという期待を共有できたことは、今後の活動を続けるうえできっと大切なものになるだろう。何のことはない研修(ギルド職員の思惑も混ざっているのだ)よりも、この機会を得たことの方が重要かもしれなかった。
 休みにくい真ん中を、蒼羅とキリヤが引き受けるのは成り行きからいうと自然なことかもしれない。ふたりは見張りの合間に、明日のアヤカシ退治の作戦を話し合い、キリヤが蒼羅同行のもとで、主にアヤカシを引きつける役をすることで合意をみた。他にも、狼アヤカシとの戦い方など、蒼羅の講義が続き、キリヤは眠い目をこすりながらも聴き入っていた。
 結果として、最後の明け方までは、譲治と和妃が締めることになった。和妃は素性を話すことはなかったが、神楽の都に来てからの、神威人の苦労話などをぽつりぽつりと語り出した。譲治は彼女の不安をやわらげるように、元気づけた。
「やっぱり和妃は不安、なりかね‥‥。でもでもっ! 守りたいものが在ったからゆえに、おいらは開拓者なのだっ! 和妃も何か守りたいものを持つのだ!」
 急に張り切りだした譲治に驚いた和妃であったが、最後に少し笑い、そうなるといいですねと答えた。
 2日目の朝を迎え、開拓者たちの動きは急に慌ただしくなった。支給された干飯をちまきにし、蒸し直して腹ごしらえすると、まず、エイエットとリィムナがそれぞれの龍を使い、上空からの偵察を試みたが、これはうまくいかなかった。この界隈には樹木が密集しているため、空からではうまく地表を捉えることができなかったからだ。少し離れた周辺の草原でアヤカシが逃げていないことを確かめると、次の段階に支障がないよう、速やかに野営地へ降り立った。その後は、何か見掛ければ連絡するように言いつけ、龍だけを話すことも試みたが、アヤカシの姿を見つけることはかなわなかった。
 それからの偵察の次に、開拓者は罠を設けた。下生えの多い目立たない箇所へ、昨日シータルが手に入れたブドウの蔦を使い、輪に足が引っ掛かるようあつらえたものだ。この周囲に餌を置けば、後はアヤカシが飛び込むのを待つだけである。
 最後の作戦は、打って出ることである。昨晩の打ち合わせ通り、主にキリヤの声で挑発し、皆の待つところまで連れてくるのが目的である。キリヤはしっかりと、罠のある場所を経由して連れてくることを忘れなかった。罠に引っ掛かってしまえば、こちらのものだ。
「よし、来たぞ! 準備はいいか?」
 キリヤの様子を確かめ、蒼羅が呼びかける。それに応じ、駆け出し開拓者たちはそれぞれの武器を取った。初めて握る冷たい感触に、それぞれの感慨を抱きながら。
「わ、わっ、この!」
 威勢よく飛び出したはいいものの、和妃は緊張のあまり、ただ短刀で切りつけるだけで、特技を活かすことを忘れてしまった。みんなの力を合わせる、と意識してはいたが、心の準備が足りなかったようだ。これはほとんど指導教官のようなものになっている譲治が、彼女の負った傷を癒した。
 キリヤに追いすがっていた狼アヤカシが、次々と彼らの眼前に現れた。アヤカシと向かい合うリエットの様子は、これまでの彼女とは一変していた。彼女の生業はシノビであり、はしゃいでいるときとは比べものにならないほどの洗練された動きで、狼に拳を食らわせている。
 リエットに牙をむくアヤカシへ、そのとき雷撃が襲いかかった。格闘の合間を縫い、リィムナが放ったものだ。雷をもらった狼は、背を大きく逸らし地面へ倒れ込むと、そのまま溶けるように消えていった。
「やるじゃーん!」
 先輩の歓声を聞いたシータルも、負けませんわよと刀を振るう。開拓者たちの戦場で、いいように弄ばれた狼はいよいよ疲弊しており、彼女の刀を受け入れるのを甘んずるほかなかった。
「ボクだって戦えますわ!」
 渾身の一撃でアヤカシを葬ったあとの残心で、彼女はつい余計なものを言ってしまった。一人称の幼さに、気恥ずかしさに一人顔を赤くしたが、すぐ気持ちを切り替え、次なる狼に向かっていく。アヤカシを滅することを使命とする開拓者としての表情を、彼女は見せていた。
「ち、ひとと違ってすばしっこいナァ。まぁやりがいあって、いいかもしれないけどサ」
「どうだ、みんなの調子は?」
 みんな? こんなときに、蒼羅がキリヤに尋ねた。なぜこんな忙しいときに、と彼はぼやいたが、駆け出しの女の子たちをちらと見、これは、と思い直した。
「――やっぱり、みんな素質は持ってるんだな」
「そういうこと。まあキリヤもそのうちに入るだろうがな」
 キリヤの手に余る狼を、苦無で軽くいなし、彼は言った。これが開拓者だ、とでも言いたげな表情に、キリヤも軽く笑ってみせた。
「和妃、こうやるのだ!」
「は、はい!」
 他方では、陰陽師が普段あまり使わない剣を構え、譲治が狼に真っ正面から飛び込んでゆく。狼の鋭い爪より一瞬早く、彼の剣が狼の口から喉を貫き通した。シノビは、サムライのような正面切っての戦闘は行わないが、いまの譲治の心意気は、和妃にも伝わるものがあったようだ。何を守り、何のために戦うのか、それを見つけるのも、彼女の目標のひとつになり得るのだ。
 はたして、キリヤの連れてきた狼は12頭を数えた。アヤカシの一群を撃退したあと、随所に仕掛けた罠には4頭のアヤカシが捕まっていた。これで目標はほぼ達成できたはずだ。恐れるアヤカシがいなくなったことで、一行は安堵感に包まれた。あとはまた、ここで夜を明かして帰るだけである。
 日が高いうちにアヤカシを退治できたことから、食材の調達は念入りに行うことができた。今回は、場所を変えた譲治が、産卵のため川を遡上してきた鮭を見事釣り上げ、これで2日目の夕食も、保証されたも同然である。占いのおかげなりかな、と彼は思った。
 その結果、昨日とは趣を変え、今回は鍋を囲むことになった。保存食として支給された味噌玉を使うのは本来の研修では禁じられているが、いまさら特段咎めたてるものでもない。重い鍋を持ってきた甲斐があった、と蒼羅はほっとした。やはり大勢で鍋を囲むのは、他の料理にはない魅力がある。開拓者たちは家族ではないかもしれないが、これは団欒以外の何ものでもないはずだ。
 夕食も済ませ、研修最後の夜となった。アヤカシの脅威は去ったとはいえ、見張りは欠かせない。昨晩と同様の順番で、何ごともなく無事に朝を迎える――はずだったのだが、リィムナだけは様子が違った。
「研修中は絶対しないぞって思ってたのに‥‥」
 翌朝、粗相で湿った下穿きをこっそりと乾かしながら、油断してしまった自分に対し落胆する彼女がいた。

「お帰りなさい、お疲れさまでした」
 3日目の夕方、ギルドに帰ってきた開拓者たちを出迎え、受付は労をねぎらった。研修を終えた駆け出し開拓者たちの顔は疲労と野営で薄汚れてはいたが、どことなく出発のときとは違う、精悍な表情を受付は感じた。この短い期間で、彼らは確かに、彼らなりに何かを得たのだ。
 それさえ確かめられれば十分だった。受付には、倉庫にまだ多量に残る期限を過ぎた保存食のことは、この際どうでもよかった。