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■オープニング本文 秋の高空が続く田園風景。このいたって平凡な農村にある問題が浮上していた。 雨をつかさどる大切な社が何者かによって燃やされていたのだ。近くには布団の燃えカスが残っており、そこから飛び火したとも考えられる。 村長・村人は村のやんちゃ盛りの子供たちの仕業であると確信していた。社が燃える前日、子供たちが近くでたき火をしているのを知っていたからだ。 三人を問い詰めるが、知らないの一点張りで、なかなか本当のことを語ろうとはしなかった。 最初は子供たちも素直に答えていたが、つじつまが合わないことを指摘され、へそを曲げてしまったようである。 自分たちを信じない村の大人たちに対して、意地でも口を割らない気だ。 証言一 社近くに住む太助の言い分。 「何回聞かれてもしらねぇもんはしらねぇ! じいちゃんたちが社のことに気付いたのは昨日の夕方なんだろ? その日の昼間はみんなと焼き芋してただけだし、夕方からは川で魚釣りをしてただけだ。 川の近くに住んでる太郎がそん時のこと覚えてるはずだ!」 証言二 川の近くに住む太郎の言い分。 「昨日の夕方から夜まで太助はおれと一緒に川で遊んでたよ。 大きな魚が釣れてかぁちゃんに褒められたんだ。 妹のさちは太一と山でクリ拾いに行って社には近づいてないし、おれたちが社を壊したんじゃないよ」 太郎の妹、さちの言い分。 「お兄ちゃんに何も言っちゃだめって言われたから、さちは何も言わない」 証言三 山のふもとに住む太一の言い分。 「昼間は落ち葉がいっぱいだったから、社の近くで焼き芋をしたんだ。日は夕方くらいには燃え尽きてたよ。 四人で焼き芋は分けて食べたんだけど、ちょっと物足りなくてクリ拾いに行くことにしたんだ。 いっぱいは拾えなかったけど、家族の分はちゃんと見つけたし、その日の夕飯はクリご飯だったよ」 と、こんな感じで、すべての言い分を信じると、誰も犯人ではないということになってしまうのだ。 社も立て直したいが、その前にちゃんと原因を突き止めたい。原因を突き止めたいが、このままでは子供たちとのイタチごっこ。 困り果てた村長は社の修理の手伝いも兼ねて、ギルドに依頼を出した。 社復旧のお手伝いが出来る開拓者、子供たちの嘘を見破れる開拓者募集、と。 |
■参加者一覧
朧 焔那(ia1326)
18歳・女・巫
雷華 愛弓(ia1901)
20歳・女・巫
仇湖・魚慈(ia4810)
28歳・男・騎
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
景倉 恭冶(ia6030)
20歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●事件当日 川面に夕日の光が反射している。さっき釣れた魚はいつものより大きい。きっとかぁちゃんに褒められる。 「‥‥ちゃ‥‥。お兄ちゃーん」 自分を呼ぶ声がする。さちだ。いつも自分の後ろをくっついてくる妹。 顔をあげると、遠くからかけてくる姿が見えた。鬱陶しいがしょうがない。太助に厠に行ってくると伝えると、生返事が返ってきた。相変わらず釣りに夢中のようだ。 「どうした?」 泣きじゃくり上手く話せないさちにぎくりとする。そういえばさちは今まで何をしていたのだろう。焼き芋を皆で食べ終えた後、川までついてこようとするさちを振り払い、おねしょをした布団をどうにかするまで自分にはついてくるなと言ってある。単にさちの面倒をみるのがいやだったから、そう言ってしまっただけで。 いやな予感が胸に湧き上がった。袖を引っ張るさちに連れられ、たき火をした場所まで走っていく。 赤々と燃える炎に愕然とした。社が燃えている。乾かそうとした布団に引火して、たき火から布団を離そうと引きずったところ、社に燃え移ってしまったようだった。 「ごめん、なさい。ごめんなさい」 さちはさっきからずっと泣きながら謝り続けている。 一緒に川に連れて行けば、自分がさちにあんなことを言わなければ。後悔が頭の中をめぐる。ぽろぽろと涙をこぼす妹をそっと抱き締め、大丈夫だからと言葉を紡いだ。 「兄ちゃんがさちのこと守ってやるから。泣くな、さち」 その言葉にさちは頷く。 そうだ、そういえば太一が栗拾いに行くと言っていた。それにさちも付いていったことにすればいい。社が燃えたのはたまたま風向きが悪かったんだ。そうだ、そういうことにすればいいんだ。 心配そうに見つめる妹に固く口止めを約束させる。大丈夫だから、自分にも言い聞かせるように太郎は小さく呟いた。 ●村に到着 一行が村に到着すると、すぐさま社の焼け跡に案内された。開拓者など見たことのない村人たちは、その派手な姿にこそこそと言葉をかわしている。特に朧 焔那(ia1326)の大柄さに村の男たちも困惑気味だ。 焔那は小さく残念に思う。甘いものや可愛らしいものが好きな女性らしい部分も持っているが、まず注目されるのは自分の体の大きさだ。景倉 恭冶(ia6030)も顔にはしる大きな傷跡に村人から注目されている。 「そんな〜暗い顔〜しちゃ〜だめ〜な〜の〜」 間延びしたしゃべり方に幼い容姿。奏音(ia5213)は若干落ち込む焔那の腰をぽんと叩く。 「そうそう、そんなこと気にしちゃきりがないですよ」 明るく言うのは仇湖・魚慈(ia4810)。額が太陽に照らされぴかりと光った。 「それにしても‥‥、思ったより小さな社ですねぇ」 雷華 愛弓(ia1901)が燃え尽きた社を眺める。設楽 万理(ia5443)もそれに頷いた。 社は納屋ほどの大きさだった。村人だけで復旧できなくもなさそうだが、人数が少ないよりは多い方がいいだろう。 「‥‥何分‥‥‥‥私では子供たちにいらぬ不安を与えそうだからな‥‥。社の復旧を担当する。‥‥よろしく頼む」 用意してある木材を眺め、焔那は村人に頭を下げると指示に従い黙々と作業を始めた。 にこにこと笑う菊池 志郎(ia5584)がぽんと手を叩く。 「さて、それではこちらはそれぞれ聞き込みを開始しましょうか」 忠義(ia5430)はそれにうなずくと、村長へと足を向けた。 ●村長のお話 彼は村長に気になっていたことを一つ一つ確認していた。社の焼失具合や布団の燃えカスがあった場所、子供たちがしたたき火の跡、子供たちの証言の矛盾についてなどなど。 「で、布団は結局どこのもんだったんすか?」 「どうやら太郎の家のものみたいじゃなぁ、母親が嘆いておったわ」 怒涛の質問に少々困り気味の村長だったが、問われたことには丁寧に答えを述べている。村長の返答を頭の中で整理しつつ、忠義はふむと一人頷いた。 ●太一の証言 太一のところには万理が話を聞きに行っていた。少年を威圧しないように優しくほほ笑む。 「栗拾いにはさっちゃんと行ったのかしら?」 綺麗なお姉さんにそう問われ、太一はふっくらとした顔を赤くした。万里の白い肌が眩しく太陽に照らされている。 「山には一人で行ったよ。栗拾いに誘ったんだけど、太助が魚釣りの方が面白いって。太郎もそれについて行っちゃったし‥‥。一人でいったから少ししか拾えなかったんだ」 あっさりと一人で行ったことを万里に伝える太一。どうやら嘘をついているのは太郎で決まりのようだ。 ●太助の証言 釣りをしている太助のもとには愛弓が訪ねていた。 「こんにちは、太助君。社修復に来た雷華です」 身をかがめ、太助の目線に目を合わせる。にこにことほほ笑む優しそうな顔に、太助は警戒をといた。 「社が燃えていた時は何をしていたんですか?」 修復前の形式的な物ですから気楽に答えて下さい、と前置きをして愛弓は太助の言葉を待った。 「‥‥川で釣りしてたよ。途中で太郎は厠に行っちゃったんだけどさ」 おずおずと太助が答える。特に怪しいところはなさそうだ。太助にお礼を言い、愛弓は立ち上がった。 残るは、太郎とさちだけだ。 ●太郎とさち おびえたように太郎の後ろに隠れるさち。それに魚慈は困ったようにポリポリと頬をかいた。さちの担当は奏音と自分。太郎の担当に志郎と恭治である。さちと話そうとしても太郎がかばうように前に立つ。 かたくなな態度の太郎に恭治は落ち着いて言葉を紡ぐ。 「自分達は嘘をついてたとしても怒らないし、頭ごなしに信じないことはしない。だから、そんなに警戒しないでくれ」 外見は怖そうだが、村の大人たちとは違う態度。まだ警戒はあるものの、もしかしたらちゃんと話を聞いてくれるかもしれない。淡い期待が太郎の顔に現れる。 「さちさんはこっちで一緒に遊びましょうか。お人形もあるんですよ」 魚慈の言葉にさちが太郎の顔を見る。少し迷った後、太郎は遊んでおいでと言った。ぱっと表情を明るくさせ、さちは奏音のそばへと駆け寄る。 「さて、お話を聞いてもいいですか?」 志郎が太郎に声をかける。太郎の顔に緊張の色が走った。 「火事はたまたま運が悪かったんだ。風向きが悪かったんだよ」 真実を言ってしまう前に、太郎は考えていたいい訳を一生懸命に言いつのる。 「‥‥俺個人の意見としてはね、火事のことはそんなに怒ってないんですよ。誰だって失敗するときはあるし、それを次に気をつければいいんだから」 志郎の言葉に太郎が目を見開く。激しく問い詰められると思っていたところに、意外な言葉だった。 「でもね、それを隠したり、嘘をついたりすることはいけないことだと思うんだ。時間がたてばそれだけ言いにくくなるし‥‥。もし、さちちゃんや太郎君が原因なら本当のことを話して謝りに行くべきだったんじゃないかな?」 志郎が話すたびに太郎の顔がうつむいていく。 「悪いことしたら、謝る。大切なこと、だよな?」 恭治の諭す言葉に小さく肩を震わせる太郎。ほんの少しの間をおいて、涙交じりのごめんなさいと言う言葉が太郎から聞こえた。 どうやら全てを話してくれる気になったようだった。恭治と志郎はほっと息をついた。 少し離れた場所ではさちと奏音がお手玉で遊んでいた。 「えーと、初めまして。私の名前は魚慈、名前は聞いても大丈夫ですか?」 その言葉に魚慈の顔を見上げるさち。小さく自分の名前を呟く。どうやら、少しほどなら話をしてくれるようだ。 「燃えちゃったのはさちさんの布団ですか?あ、頷くか、首を横に振るかだけでいいですよ」 言葉をつぐんださちに魚慈は優しく話しかける。ややあってこくりとさちの首が縦に振れた。 続けて火事のころは何をしていたのか、どうしてそんなことをしようと思ったのかを聞いていく。ある程度情報が集まった後、奏音がのんびりと口を開いた。 「おに〜ちゃんも〜、さちを〜まもろ〜として〜えらいえらいかもなの〜」 さちが奏音の顔を見あげ嬉しそうに頷く。大好きな兄が褒められるのが嬉しいようだ。 「でもでも〜うそは〜わるいことなの〜。さちの〜だいすきなおに〜ちゃんが〜、わるい人になっちゃったら〜、かなし〜の〜」 はっと表情を変えるさち。だんだんと泣きそうな顔になっていく。 「おこられるのは〜こわいかも〜だけど〜おに〜ちゃんを〜助けられるのは〜さちだけ〜なの。がんば〜ろ〜?」 こくりとさちが頷くと、奏音はにこにこと笑った。 「一旦集まって、みんなの話を整理してみましょうか」 太郎から話を聞き終えた志郎たちに、魚慈はそう声をかけた。 ●社の前にて 聞き込みに行っていた仲間たちが戻る。社の復旧作業はまだ片付けの最中のようで、なかなか進んでいないようだ。 「さーて、犯人はさち嬢で決まりのようっすね」 忠義が頷きつつ、それぞれの顔を見る。村長からの話、太助・太一の話、そして太郎・さちの話をまとめるとその答えしかない。 「予想通りってとこね。でも、そんな理由まで村のみんなに説明しちゃったら、さっちゃんはずっとおねしょのことを言われ続けるのかしら‥‥。同じレディとしてちょっと忍びないわ」 万里が困ったように眉を寄せる。ぽつりと志郎が口を開いた。 「俺たちから説明するんじゃなくて、子供たちに謝りに行くように諭してみましょうか」 そうだな、恭治が相槌を打つ。村長たちにはその後それとなく事情を伝えればいいだろう。こほんと忠義が咳払いをした。 「とりあえず、まずは太郎坊とさち嬢に悪いことしたら謝るってことをちゃんと約束させないと」 「そうですね。そのあと、太一君と太助君も合わせて、正しいたき火講座、でもしましょうか」 愛弓がポンと手をたたきニコリとほほ笑む。火の扱い方や後始末の仕方など、教えるべきことは山ほどある。 自分の若かりし頃を思い出し、魚慈は思い出したように小さく笑った。昔は不良仲間とやんちゃをしては後始末に手を追われていたものだった。 無知ゆえの失敗だ。知識をきちんとつければ村長たちも子供たちのたき火にいちいち目くじらを立てることもなくなるだろう。 ●社消失の謎、一件落着 さちの遊び相手をしていた奏音が、やってきた仲間に気付く。 「おかえり〜、さちと〜お山で〜かけっこしてたの〜」 頬が赤く染まっている。荒く息を吐きながら、さちは楽しそうに笑った。そばにいた太郎はやってきた開拓者に心配そうな顔を向けている。どうやら叱られることに感づいたらしい。しおらしく肩を落としている。 忠義はその姿ににやりと笑うと、太郎の頭をぐりぐりとかき回した。荒々しい動作だが、力はそんなに入っておらず髪が乱れる程度だ。 「悪いことしたら謝る。悪い事してバレ無い様に隠したらアヤカシに襲われると昔の偉い人は言ったもんス」 おおげさに言いながら、さちにも同じことを伝える。さちは叱られた意味を理解すると、涙を浮かべ小さくごめんなさいと頭を下げた。同時に、社が燃え上がった恐怖を思い出したのか、なかなか泣きやまないさちを愛弓が優しくなでる。 「怖かったですね。もう大丈夫ですよ。‥‥でも、悪いことしたらちゃんと謝らなければいけませんよ?大抵の失敗は謝れば何とかなるものなのです」 安心させるように明るくほほ笑む。愛弓の言葉に小さくさちは頷いた。 「嘘、ついてごめんなさい。おれ村長に謝ってくる」 先ほど話されたことが頭に残っていたのだろう。太郎は自ら村長に謝りに行くことを伝えた。 「‥‥さちも、謝るの」 兄の袖をつかみ、さちは小さく言葉を出した。 ●社の修復とたき火講座 社の方は後片付けをようやく終え、土台の修理を始めたところだった。ちょうど昼が過ぎて一、二時間ほどたった頃だ。 「こいつはどこに持って行きゃ良いんでしょう?」 村人の指示に従いながら、魚慈はそろえてあった木材を担ぎあげた。志体をもたない村人たちは開拓者の見た目によらない身体能力に驚きつつも好意的だ。 朝から黙々と作業続ける焔那に軽口をたたいたりと、村人たちは開拓者たちに親しみを持ち始めていた。 「おおい、屋根の枠組みをそこに頼む」 「はーい、任せてください」 志郎はシノビの能力を生かし主に高いところの修復作業が中心だ。恭治は子供たちに簡単な手伝いを促しつつ、力仕事を担当している。 細かい組み立ては万里がしている。弓術師である彼女は矢を自ら作ることも多い。手先が器用なため扉の不具合などを細かに修正していた。 社から少し離れた場所では、愛弓が子供たちを前にこほんと息をついた。 「さて、たき火講座ですが、用意はいいですか?」 そばには水が入った桶や、火かき棒などがすでに準備されている。 「まず、水は必ず用意しましょう。あと、風の強い日はやっちゃだめです。それに、周りに燃えてしまいそうなものがないかちゃんと確認しましょう」 一つ一つ丁寧に子供たちに言い聞かせる。子供たちは神妙な顔でそれぞれ聞き入っている。見よう見まねでやってきた自分たちのたき火がどんなに危ないものか理解し始めたようだ。 「分かりましたね?では、次は実践です」 楽しそうににこりと笑う愛弓に子供たちは緊張しつつもわくわくとたき火を始めた。 ●夕方、社の前にて 西日がだんだんと強くなってきた。影が長く伸びる。社は大方が完成し、開拓者たちが手伝えることはほぼなくなってしまった。 忠義が疲労した村人たちや仲間にお茶をさしだす。 「皆様お疲れ様でございマス」 用意された茶の数々。程よい温度に調節され、一口飲めばほっと疲れが癒される。ジルべリアで貴族の館に勤めていた過去がある彼は、もてなしに関しては一流だ。言葉づかいは少々悪いが、その振る舞いに執事としての素質を感じさせる。 「お芋もそろそろ完成ですよー」 火の番をしていた愛弓が、ほかほかと湯気の上がる焼き芋を燃え尽きた落ち葉の中から取り出している。 出来上がった焼き芋はほくほくとして甘く、おやつには最適だ。太郎とさちが修復をしていた大人たちに感謝とお詫びも兼ねて焼き芋を配る。村長にはすでに謝ってきたようだった。 今までのやり方を反省した彼らは後始末もしっかりできていた。たき火の跡は水でしっかり消火され、念のため土をかけてある。 子供たちの後始末を見ていた魚慈がぽつりと言葉をこぼす。 「これからも焼き芋ぐらいは大目に見てもらっちゃくれませんかね?」 渋い顔をした村人もいたが、土下座でもしそうな魚慈の勢いに苦笑しつつ頷く。事前事後報告を必ずするという約束付きだが、これからも子供たちはたき火をすることが出来そうである。 復興祝いということで持参した酒を村人と汲みかわす恭治。酌をする時間には早いが、焼き芋を肴に杯を交わす村人も多い。 その日、遅くまでにぎやかな声が寂れた農村に響いていた。 |