空賊怪盗にお願い
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/27 00:53



■オープニング本文

●すり替え依頼
 火種の宝珠事件から、少し離れたある町で、船長が村長から相談を受けていた。
「火の宝玉‥‥シフール・ブラッドねぇ。確かに火力のある宝珠っぽかったが、こないだの話では、それほど危険そうには見えなかったぜ?」
 足を組み、村の記録書を眺める彼。今いるのは、ジルベリア系移民を中心とした町である。国交が成立するより前に、今は失われてしまった手段でもってここへ流れ着いた人々の町だ。今はその殆どが天儀民となり、平和に暮らしていたのだが。
「天儀の言葉では、妖精の血と申すそうですが、ともかく危険な代物なのです」
 青い目に黒髪と言う、開拓者ならば珍しくもない容姿でそう答える長。彼らには、1つだけ気がかりな事があった。はるか昔、ここへ来たばかりのころ、定住の取引として、ある宝石をその村を支配する町に渡したのだが、それが悪さをしているらしい、と。
 冒険者の尽力で、今でこそ納まっているが、このまま展示が続けば、また被害が出る可能性が高い。
「町を焼き払う程ってのは冗談だと思うが。せいぜい火事3件くらいだろ」
「当時の建築技術では、充分な脅威だったのでしょうけどね」
 その宝玉の名が妖精の血。伝承によれば、町を一晩で焼き払えるような力をもっているようだ。まぁ、半分は誇張なのだろうが、それでも火属性宝珠ではあるらしい。
「じゃあ何で自分たちでやんねーんだよ」
「こちらも、それ相応の立場というものがあります。一応、警告はしたのですが、どうやら相当の値打ちものと思われたらしく、渡すならそれ相応の金子をといわれまして‥‥」
 困ったように答える若長。一応元の所持者として、古文書の写しと共に警告をしたのだが、そんなカビの生えた伝承をまともに信じても貰えず、あろうことか買い取るならと金子を持ちかけられたらしい。
「どれくらいの金額なんだ?」
「大型とは言いませんが、そちらのドラゴンフライが3隻くらい買えるお値段です‥‥」
 船長の表情が引きつった。小型飛空船並とは、また法外なお値段である。それもその筈、今やその宝珠は、街の名物になっており、時折展示会が開かれるそうだ。
「そりゃあふっかけられたな。それで、俺になにをしろと」
「怪盗のまねごとです」
「は?」
 船長の目が点になった。と、そこへ村の長が、とある肖像画を差し出す。そこには、妙齢の女性が仮面をかぶった姿が、暗く描かれていた。
「我が村には、伝説の怪盗ハムスター・レディというのがいまして。すでに行方不明となって久しいのですが、その志を継いだということにすれば、それなりに警戒するでしょうし‥‥」
 二十年以上前に、このあたりで話題になっていた怪盗だそうである。今更名前を出しても、眉唾な感は否めないが、それでも宝玉を使わない理由にはなるだろうと。
「それでビビってしまえればそれでいいってか。だめだったら?」
「こちらとすり替えていただきます。無害な赤い石です」
 そう言って、長が差し出したのは、赤い石に細工を施したものだ。確かに、ジルベリアの服には似合いそうな細工である。
「それに、あなたの船に宝珠砲を取り付ける手助けにもなるかと」
 そう。船長が用もなくこんな町にきたわけではない。彼の船‥‥ドラゴンフライ二世号が、アヤカシ船と対等に渡り合うには、開拓者の他に武器‥‥いや、主砲が足りなかった。
「精度は?」
「は?」
 しばらく考えた後、船長が口にした予想外なセリフ。戸惑う長に、彼はこう言った。
「違うもんだってばれたら、大騒ぎだぜ? できるだけ本物に近い方がいい」
 その刹那、長の顔がぱっと明るくなる。
「それでは、この依頼、受けていただけますな」
「俺は空賊だよ。空に出たお宝をどうこうしようと、俺の勝手さね」
 眉を曇らせる船長。つまり、盗むまではそっちでどうにかしろと言うことらしい。

 そして、さらに数日後。
「本当に安全なんだろうな」
「はい。この双方のシフールは、宝玉の封印を司ります。加えて、このように天井には防御の結界を張り巡らせたので、まず大丈夫かと」
 展示会場のそばで、そう言いあう男女。
「わかった。しかし、このようなものが届いては、さほど安心できんが‥‥」
 不安そうに見下ろした先には、カードのようなものがあった。それには、こう書かれている。

『結界に閉じ込められし妖精の姫君を、天空に解放いたしたく候。 怪盗ハムスター・レディ』

(って、何でもう予告状でてるんだよ!? まだ人数も集まってないだろ!)
(知らないにゃー)
 大騒ぎになっている会場で、様子を見に来た村長が、頭を抱えていた。

『怪盗ごっこやろうぜ。詳細は俺宛に連絡くれ』

 その直後。そんな密やかな依頼がギルドへ乗った。何しろ相手にヒミツにしととかなければならないので、ギルドに乗るのがそんな曖昧な文言になるのは、いた仕方がない事だろう。


■参加者一覧
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ
雨傘 伝質郎(ib7543
28歳・男・吟
桃白 オリカ(ib8621
14歳・女・志


■リプレイ本文

 廓の街は、海に隣接している。船長のドラゴンフライ二世号も、宵闇にその帆を休ませている。灯りを消した船の上で、こっそりと手を振る船長。船には既に数人の開拓者がおり、その準備を整えていた。
「問題ない。全て予定通りだ」
 最後に上がってきたのはロック・J・グリフィス(ib0293)である。悠然とマントを翻しつつ、本人差し置いて甲板に上がっているあたり、かなり場慣れしているようだ。同じ空賊なので、ある意味同業者と言った所か。
「まさか、盗人の真似事することになるとはねぇ。あぁ、怪盗の名前には突っ込まないことにするわ。何だっけ」
 黒布を被って上がってきたリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)が、そう言って布を取る。緋色の髪が夜風になびく中、既にマストの縁に座っていたペケ(ia5365)が降りてくる。
「えーと、怪盗ハムスターレディ???」
「そうそう。それそれ」
 深くは考え事にしたようだ。その存在を聞かされたペケさんは、うーんと考え込む。
「20年前の本物の怪盗ですか。‥‥本人が出てくるのか、二代目的な奴が登場して来るのか‥‥。どんなオカマさんが出てくるのでしょうか?」
 完全に女性ではないと思っているようだ。まぁ、伝わる文言にも、その性別は伝えられていないので、あながち間違えても居ないわけだが。
「まあ色々試すにはいい機会よね」
「こえーなー、魔道師殿は。怪盗さんも真っ青ってところかね」
 くすくすと、意地悪く微笑むリーゼに、肩をすくめる船長。
「ペケケケ、面白そうです。まぁ、事情が事情ですしねぇ」
「違いない。で、準備はどうすんだ?」
 火種の宝玉の事件を知っているペケも、付き合う事に決めたようだ。と、船長のそんな質問に、ロックがふむと考え込む。
「そうだな。警備員と入れ替わって潜入、仲間の侵入を手引きすると共に、期を見て派手に動き警備の目を引きつけ、妖精の姫君のすり替えを容易にする。と言った所かな」
 だれがどう、と言うのはこれから決めるが。
「流れは皆に従うわ。そっちで決めて下さいな」
 と、サラファ・トゥール(ib6650)は役割を周囲にお任せする事にしたようだ。
「まぁその前に情報収集かしら、ね」
「安心しろ、既に向かっているはずだ。だが、繋ぎを取りに行かなければならないな」
 その為にも、警備の状況を確かめなければなるまい。そう告げるリーゼに、ロックは口の端に甘い微笑みを浮かべて、衣装を取り出すのだった。

 その頃、雨傘 伝質郎(ib7543)は、件の屋敷へ向かい、その警備担当に自分を売り込んでいた。
「警備は強面に限りやすぜい。ですよなぁ? 旦那」
「余り強面過ぎても、客が減る。対応は柔らかく控えめに頼む」
 ギョロリとした三白眼と口元が一瞬しゃれこうべを思わせる彼。自身では凶相のやや猫背は、にらみを利かせるにちょうど良い。だが、それだけでは客すら寄りつかないとの事なので、訪れる正規の客には、極力親切にしてやれと言うのが、上からのお達しだった。
「へいへい。お、客人が来たようですぜ」
 そんな伝の字が指し示したのは、以下にも小金を持っていそうな男女である。
「ごきげんよう。何か宝物が見れると聞いて」
 頭に千の星の金冠、体にエンジェルフェザーのドレスを身につけたサラファ、上着にチャドル「黒夢」、脚にダンスヒールを纏い、アル=カマルから来た見学者に変装している。
「こ、これはこれは。わざわざ異国の地からおいでとは、恐れ入ります」
 明らかに異国のお金持ちにしか見えない彼女に、警備担当がすっ飛んできて、深々と頭を垂れた。
「いえいえ。折角ですから、案内してくださる?」
 にっこりと笑顔の影には、ヴィヌ・イシュタル。魅惑のジプシースキルに、一般人男子が逆らえる筈もなく、「喜んで」と自ら案内に立ってくれる。問われるまま、ぺらぺらと喋る警備。半分は自慢話だが、結界だけは気になっていた。
「ふむ。結界ねぇ‥‥。ずいぶんと厳重です事」
「触らないで頂きたい!」
 その結界は、宝珠の周囲に青く光るものが展開されている。触れようとした刹那、後ろから年配の男性が止めに入った。
「あら失礼」
「安全の為です。ご了承下さい」
 優雅に微笑む彼女に、その側でやはり一般人のふりをして、警備員の配置と結界装置を確かめていたロックが、ジルベリアの紳士風に被っていた帽子の内側で苦笑する。
「あれはゼニーのオヤジ、なんであいつがここに‥‥」
 そそくさとその場を離れようとするロック。やはり普通の客を装って、順路を確かめていたリーゼがこっそりと問いかける。
「知り合い?」
「昔、色々とな」
 どうやら空賊時代色々因縁があったらしい。そうこうしている間に、2人に訪れた案内係が、展示室へと通してくれた。
「あれが妖精の血ね。確かに綺麗だけど、ボヤ騒ぎを起こす物を家に置いておきたくはないわねぇ」
 周囲はひんやりと冷え切っている。宝珠の都合で、火が使えないらしい。通りで警備達も厚着をしているようだった。と、そこへ先に見終わったサラファが、すれ違い様に戻ってくる。
『結界は周囲のみ、と。それ以外は火の気もなく、人力に頼りっぱなしと。存外警備には穴があります』
 押し付けられるのは、気になる所を纏めた紙切れ。主に宝珠を無効にするような死角だ。それを見えないように懐へと押し込んだ所へ、ロックが声をかける。
「見取り図は出来たかな?」
「ええ。大丈夫」
 頷く彼女。頭の中には、見取り図が書けそうな地図が出来上がっている。
「何かおっしゃいましたかな?」
「「いえいえ」」
 こっそりと打ち合わせを済ましていると、ゼニーと呼ばれた年配の男性が目を光らせた。2人揃って首を横に振れば、疑わしげな表情が返される。と、そこへ今度は伝質朗が割って入る。
「どうでしょう。実は手前ども保険屋も兼ねておりやして‥‥」
「保険? 何だそれは‥‥」
 ぺらりとめくられた紙には、細かい文字が書かれている。目を白黒させるゼニーさんに、彼は畳み掛けるように告げる。
「今回の場合、掛け金はこの程度ですな‥‥。さらに倍額支払えば、これだけの保障が‥‥」
「ふむふむ」
 盗難保険の話に巻き込まれるゼニーさん以下警備の面々。彼が口元に笑みを浮かべ、今のうちにと促してくれた。
「どうやら、案内どころではないようだな。また見物に来るとしようか」
 ロックが多忙を理由に撤収する事を宣言する。それを見て、リーゼもサラファを外へと連れ出した。
(今のうちに撤収するわよ)
(らじゃですわ)
 数分後、彼らが姿を消したのは言うまでもない。

 集めた情報は、一度船まで持って帰る事になった。展示会場の見取り図を起こし、警備の人数と場所、そして宝珠の稼動時間やパターン、そして何より出入り口を書き込んで行く。3人分の情報で、目の前にはいつの間にか詳細な地図が出来上がっていた。
「なるほど。問題はその結界より警備員のようね」
 リーゼがその地図に配置された面々を見て、考え込んでいる。結界そのものは、壊してしまえば大した事はない。確かに一般人が触れば怪我をするらしいが、志体を持つ者なら、何とか耐えられそうだ。それよりも、囲い込まれる方が大変である。
「1人、手引きが紛れ込んではいるが‥‥ゼニーの親父がいる所を見ると、面倒な事になりそうだな」
 ロックがそう言った。あの御仁は、存外しつこく、どこまでも追いかけてくるらしい。港まで出てくれば、船長が運んではくれるだろうが、そこまで許してくれないかもしれないと。
「なぁに、ようは精巧な偽物と交換してしまおうってことですよね。任せるですよ」
 にやりと笑みを浮かべるペケ。彼女の心得たスキルなら、問題なく侵入は出来るだろう。
「まぁ連携できるようならしましょう。じゃ、怪盗ウィッチ・レディ、行っちゃいましょうか♪」
 能面「風霊」をつけたリーゼが、たたんっと足元を鳴らした。なんだかんだ言ってノリノリである。そんな彼らが向かったのは、警備の増した会場である。
「これで怪盗とやらが来ても、蟻の這い出る隙間すらないぞ」
 自慢げに並ぶ警備員を見回すゼニーさん。だが、その部下の1人となった伝さんは、その光景に苦笑する。
「やれやれ、かなり厳しい状況ですなぁ。あの姉さんがたなら、なんとかしやすでしょうしなァ」
 それはむしろ仲間達ではなく、警備員に向けられていたのかもしれない。その証拠に、誰も気付いては居なかったが、既に出入り口となる窓には、ペケの姿があった。屋根の上には、ナハトミラージュで存在そのものを隠しつつ、展示会場へと忍び込んで行く。刹那、周囲が暗闇に閉ざされた。
「閉館時間か‥‥。まぁ灯りが使えないので、仕方があるまい」
 宝玉の都合上、周囲を照らす灯りが使えない。だが、それは怪盗達にとって好都合だ。
「さて、オタノシミはここからかしら。昼間下見した限りだと、問題なのは、宝珠より人よね」
 すれ違う者もいるが、暗闇では見抜かれない。知覚出来ない警備達は、余計な手出しをしないのが得策と、リーゼならぬウィッチ・レディはスルーしていく。
 だが、いざ宝珠の前へ向かえば、ゼニーさんを始めとする警備の面々。さすがに、知覚出来る者もいるだろう。躊躇うレディさんに、ロックが合図をしていた。
「私に良い考えがある。まぁ1人生贄が必要だが」
 そう言った彼が指し示したのは、見張りの1人だ。なるほど、と頷いたレディは、こっそりとその背後へ回り込む。
「昏倒させるだけなら、しょうがないんじゃないかしら。ちょっとごめんあ・そ・ば・せ☆」
「はうっ」
 どごっといやんな音がして、警備が床に転がっている。ずりずりと引っ張って、物陰に連れ込むと、衣服をひん剥いて、掃除用具入れの中へと放り込むロック。
「なんだ! 何の騒ぎだ!?」
「大変です隊長、あちらにハムスターレディーが!」
 者をとを聞きつけたゼニーが書け寄って来たのに、警備員の格好をしたロックは、目深に被った帽子で敬礼してみせる。
「なにぃーーー! 覚悟しやがれいっ!泥棒猫‥‥でねェ泥棒ハムスターめいっ!!」
 刹那、伝さんが真っ先にその指し示された方向へと向かって行った。そのまま、暗闇に潜んでいたリーゼめがけてタックルを敢行。
「あらあら。おいたはよろしくないわ‥‥よっと」
 だが、その攻撃はするりと避けられ、逆に手裏剣の柄で殴られてしまう。本来魔道師であるはずのレディさんは、あまり膂力なんぞないはずなのだが。
「おわぁ‥‥きゅう」
 少なくとも自分と同じ位の力はあるだろう。わざと大ポカをやらかすつもりでこけてはみたものの、食らった肘うちが、じんじんと痛い。あざくらいは出来ているだろう。
「今のうちですわね。アレがゴールかしら」
 床に突っ伏したまま動かずにいる伝さんに、心でごめんなさいをしていないかもしれないリーゼさんは、宝珠のある場所へと向かった。
「これでちょっとは怪盗らしいかしら。行動、被っちゃったですね」
 警備員の注意が、レディに向けられている間に、今度はサラファが忍び込む。マスカレードを着用し、同じ様にナハトミラージュを使って、皆で下調べしたルートに従って、宝珠を目指して行く。そこには、既に先約が居た。
「ふふ。厄介な結界といえど、所詮は壊れ物ですわ」
 レディはそう言うと、妖精の血を守る宝珠に、手裏剣が飛ばせた。かきぃんっと結界に弾かれるものの、直後グエリアッシュが結界そのものを砕いてしまう。
「強引ですね」
「さっさと掻っ攫って逃げるわよ」
 レディが妖精の血を回収したのを見て取り、サラファは変わりの宝珠を置いた。その作業を行った直後、宝珠の結界が再び蘇る。
「あっぶなー。ぎりぎりだったわね」
「とは言え、変わりの宝珠はこれでOKですわ」
 顔を見合わせた直後、通路の向こうから、警備達の声が聞こえてくる。どうやら、もう追いついてしまったようだ。
「どうします?」
「派手に行ってもいいんだけど。ねぇ?」
 脱出手段は幾つかあったが、どれが一番良いかなと考えている間に、ゼニーさんがびしぃっと指先を突きつけていた。
「さぁ追い詰めたぞ。ハムスター・レディとやら‥‥なに!?」
 だが、その直後。明り取りの窓の側に、マントをまとった男性の姿が。
「久しいなゼニーのオヤジ、悪いがこいつは頂いて行く」
 ロックである。手に赤い宝珠を持っており、それを見せびらかすように、マントを風になびかせていた。そしてその直後、スカイフィッシュ空賊団の犯行カードを投げつける。
「貴様はロック! 何故こんな所にスカイフィッシュがいる!? 頭は既に死んだ筈!」
 驚くゼニー。所属していた空賊団の頭が帝国に殺されているらしいので、その頃の因縁なのだろう。
「今のうちに‥‥」
 だが、それを知らされていないサラファは、彼が引きつけている間に脱出を開始。その道筋をつけたのはレディである。
「そうね。もと来たルートが騒々しいから‥‥こうしましょうかっ」
「おわぁぁぁっ!」
 どごぉぉぉんっと横の壁がぶち抜かれた。人が通れるほどの大きさとなった穴に、サラファが呆れている中、彼女はにやりと笑う。
「やり過ぎかもしれないけど、こんなことに加担させたんだから構わないわよね♪」
「ですね」
 呆れている間に、とっとと暗闇に紛れる女怪盗が2人。我に帰ったゼニーが「えぇい、追いかけろ!」と指示を飛ばせば、出て行くのは伝さんだ。
「と言うわけですから、うらまないでおくんなせぇ」
「懲りないですね」
 そのまま追いすがった彼から逃げようとするサラファ。揉みあっている格好となったそこへ、伝さんが一言。
「あっしが宝珠を届けやす。ニセモンをこれへ」
「ではお願いいたしますわ」
 ロックの言っていた手引きの者と言うのは、香れの事だったのだろう。頷いたサラファは、念の為持っていた偽物を、伝さんの手へ押し付ける。そのまま、闇に隠れて逃げ出す彼女を、ぜぇはぁと言いながら見送った伝さんは、とっとと引き返す。 
「何とか奪い返しやしたぜい。しかし賊は逃がしやした。」
 と、その手に赤い宝珠。しかし、元の宝珠もまた健在に見えた。
「あれ? ココにも宝珠が‥‥」
「どちらかがニセモノなのでしょう。また来るやもしれやせん、ここは矢張り保険に入るしかありやせんぜい」
 もはやお得意となった弁明で持って、その話題からそらしてしまう伝さん。巧に営業トークへ持ち込む彼に、ゼニーさんが「ううむ。考えて見るとするか‥‥」と、考えはじめる。と、その直後だった。
「ばかもーん、そいつがレディだっ!」
「えぇぇぇ!?」
 窓の外に、何か空を飛ぶもの。お空をよく見れば、それは人形をつけた凧のようなものだった。警備が慌しくなる中、すんなり脱出したレディとサラファは、ペケの手引きで安全に港へとたどり着き、宝珠を村へと返す事に成功するのだった。