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■オープニング本文 冬になると、世界が白く染まるのは、何もジルベリアに限った話ではない。 北面の海岸にある町。最近、きなくさい匂いのするその国の一角は、天儀では珍しく雪が降り続いていた。周囲はジルベリアのように白く染まり、しんと静まり返った空気が漂う。港ですら、流れのない場所には、薄く氷が張っている。 そんな、白い世界の中心に、その姿はあった。 「よくもまぁ、これだけばら撒いたものね。そんなに、氷菓が食べたいのか?」 1人は、弓を携えた女だった。手配書には、名手でありながら、アヤカシの味方をする者とある。名は、楠通弐。 「主には分からぬよ。この世界の美しさは」 もう1人は、白いジルベリア風の衣装を着た御仁だった。中身はエルフの姿に似ている。その肌すら光景に溶けるような姿形をした彼が笑うと、その口元から牙が覗いた。 「冴え渡る冷めた空気。切り裂くのも悪い事ではない…か」 曇天の空を見上げ、楠が呟き、くるりと踵を返す。眼下には、雪に覆われた港町。 「ふん。食えぬ女よ」 白い世界に、2人の姿がかき消える。 それは、白き静謐の中に見えた、一瞬の邂逅。 その、港街には、この辺りにはそぐわぬ船が停泊していた。 「親方ー! 船の手続き済んだそうなのにゃー」 「おう。鑑札だけこっち寄越せ。書類はてきとーにそのへんいれとけ」 お使いに行っていた雪姫に指示を飛ばしつつ、船長は港の一画にある繁華街へと向かう。だが、その港へと繋がる賑やかな通りに、突如異変が起きた。 「うあ。降ってきやがった」 急に空が雲に覆われ、白いものがちらつき始めたのだ。しかし、慌てたのは船長ばかりではない。その港街もだった。 「って、ちょっと雪? 今日の天気は晴れだったじゃない!」 特に騒ぎが顕著だったのは、泥汚れには敏感な廓だった。慌てて『商品』の女性達を店の奥に避難させ、白き世界に映える様、店の奥へ『陳列』しなおしていく。 「ふう。どうやら大丈夫なようだねぇ。悪いね、手伝わせちまって」 「気にすんなって。おねーちゃん脚が拝めるんだし」 で、それを手伝っている船長。どうやら、廓に遊びに来て巻き込まれてしまったようだ。女性達の裾から除くおみ足を、にやにやと眺めている。おかげで、商品のおねいさんから「どこ見てんだい。この助平が」と、ドツかれてしまった。 「まー、ささやかな潤いって奴さ。しかし、ここ数日毎度なんだって?」 ひっぱたかれてもあんまり応えていない船長、降り積もる雪が、今日昨日ばかりではない事に気付く。足元に積もったそれは、氷となって1週間だ。 「あたしもそう思ってたところさね。数日前、廓で水浸し騒ぎがあった後以来だよ…。何かよくない事が起きる気がする‥‥。船長、1つ頼まれておくれでないかい?」 店を仕切る年かさの姐さんが差し出したのは、依頼書だ。ただし、金子はついていない。 「俺ぁ高ぇぞ」 「だったら、きっちり利用料払って貰うよ? こっちも商売なんだから」 長い付き合いのようだが、そこはそれ、おぜぜの絡むやりとりである。しぶーい顔をする船長だが、顔を引きつらせながらも、大げさな身振り手振りで答える。 「くっ。仕方ない。だが、代金は帳消しだぞー」 「おまいさんの働きがよかったらね」 だが世間で、その姐さんの台詞を、タダ働きの布石と呼んでいるのは、言うまでもない。 『港街を襲う大雪の正体を確かめる。寒いんで防寒対策しとけ』 数日後、ギルドに開拓者を募る告知が乗ったのだった。 だが、それから数日後。 「旦那! 大変ですよ! すぐ来て!」 「なんだよ、姐さん」 ギルドへの連絡を終えた船長に、慌てた芸姑が駆け込んでくる。呼び出されるままに番所へ出向いてみれば、そこにいたのは廓の女主の痛ましい姿。 「とうとう死人が出たか‥‥」 番所を預かる志士達が、ヒソヒソと囁きあう。 「この雪、もしかするとアヤカシの仕業かも知れねぇなぁ‥‥」 「どうみても、中から襲われてるしなぁ‥‥」 氷結した女主。整えられたはずの髪は乱れ、その氷上は恐怖に凍り付いている。その首から下は、綺麗さっぱり食われていた。明らかに、アヤカシに襲撃された後だ。「女達に被害は?」 「座敷に出てたからな。ただ、2人だけ行方が分からない。廓は苦行だから、逃げたのかも知れねぇ」 拳をぐっと握り締める船長。 『追記:廓の女主人を食った奴がいる。雪を降らせてる奴と同じだろう。捕まえてシャーベットにしてやれ』 その文面にあったのは、彼なりの怒りだったのかもしれない‥‥。 |
■参加者一覧
御神楽・月(ia0627)
24歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「突然の大雪に蠢くアヤカシの影‥‥。これも何かの縁かも知れません」 ジークリンデ(ib0258)が曇天の空を見上げながら、そう言った。今にも降り出しそうな空は、これから起こる事件を、否応にも予感させてくれる。そんな彼女は、最初に、街の様子を確かめる事にした。 「ここからなら、街と裏山の様子がよく見えますね‥‥」 廓から少し離れた見張り塔。火災やアヤカシの襲撃等を警戒する為の施設は、突然のジークリンデの訪問にも、快くその場を見せてくれた。 「えぇと、南東側に海があって、反対側に山と。雪は主に山側に偏ってますね」 そこからも、白く染まった町の様子が見て取れる。やはり降雪の量が多く、主に日陰になっている場所や、少し風の強い場所に雪が固まっている‥‥と思っていた。 「どのあたりです?」 だが、和奏(ia8807)が降りてきたジークリンデに、地図を見せると、彼女は雪の積もった場所に印を入れて行く。 「ふむ、吹きだまりばかりと言うわけではないようですね。先ほど、鐘楼の方に確かめたら、やはり夜によく降るそうです」 彼もまた、見張り台の職員に訪ねてみた所、地区によって降り方に差があるそうだ。時間も例外はあるが、大きく降るのは概ね夜らしい。滑りそうな場所の目星はついたので、次は事件のあった廓へと向かい、現場検証を行う事になった。 「おつかれさまでーっす。はいこれ」 甘酒を差し出す陽月(ia0627)。ほんのりとした笑顔の中、膝を進めてくる。 「ところで船長さん、何故雪を降らせている者と同一犯と考えられたのでしょう?」 依頼書にあった内容に、疑問を挟んだようだ。と、船長は難しい顔をしながら、その理由を告げる。 「うーん。時期が一致してやがるんだよなぁ」 廓の事件と、今回の雪と。それが理由と言う勘らしいが、陽月はそれには否定的だ。 「凍りついていたから、にしては早合点な気もしますが、廓の女主人が狙われた理由に心当たりでも?」 「こう言う商売だしな。恨みを買うのも多いって所だろう。ただ、ここの場合は、年季奉公関係じゃねぇ気がするんだ。割と身元の確かな子しかとらねぇし」 女主人も廓上がりで痛い目を見た事があるらしく、そう言った事情をきちんと聞いてから出ないと、買い取りに応じない。そんな頑なな態度が、他の同業者からの恨みを買っていたらしい。 「ふむ。動機は充分ですね‥‥」 もし、ここを潰そうと言うのなら、そのうちの誰かが糸をひいた可能性は、多いにある。悪意は、アヤカシを呼ぶのは常識だ。 「雪姫さんも、普段から見ていて知っている事、気がかりなこと、色々教えてください」 対象年齢が合わないので、雪姫はここには足を踏み入れた事がない。が、船の近くで、船長に挨拶する芸姑の姿も見かけなかったそうだ。確かに船長も、店以外の場所で、見た覚えがない。 「ふむ。私のイメージを言っちゃうと、消えた二人の芸姑がアヤカシで、正体に気付いた女主が消された‥‥」 ペケ(ia5365)が自分の考えを口にする。片方か両方のどちらかが、既に人ではないものなのだろうと。 「そんな単純な話だったら、もう既にこの辺が血の海だろ」 もし、芸姑の一人に化けていたのだったら、わざわざ他の芸姑をやるような真似はしてないだろうと、船長は言う。力を溜めた時点で、さっくり全員お腹の中だ。その後意見に苦笑するペケ。 「そういえば前に賞金首で雪の姿を模した者がおりましたね‥‥」 陽月が空を見上げて、そう言った。炎龍のカルラは、街の郊外にいる。雪で震えてないと良いがと思いつつ、空へと向かう事を告げる彼女。 「では、その間にここ数日の事を調べておきますわ」 「郭の水浸し騒ぎも、少々気になりますね。具体的に聞いても良いと思いますよ」 町はそう広くもないが、炎龍で空を調べている間に、廓の情報収集は終わってしまうと思われた。そのため、陽月は自分が気になっている事を、変わりに聴いてきて貰う事にする。 「雲は自然。しかし、雪になんらかの反応がある‥‥。やっぱり、この大雪はアヤカシの仕業って事かしら‥‥」 そんな彼女が、毛布と手袋に包まりながら導き出したのは、瘴索結界の明らかな『影』だった。 その頃、廓に戻ったジークリンデは、いなくなった芸姑の事等を聞き込んでいた。 「ふむ。これが行方不明の人相ですか‥‥。よく似てますね」 居なくなった2人は、背格好が同じくらいで、年齢も一致している。さすがに、出身地は違っていたが、年が同じと言う事は、奉公を始めた年も近く、仲がよかったらしい。 「うーん。その2人がアヤカシでないとすると、やっぱり町中に出た方が良いですかねぇ」 「その前に、無事だった芸姑さんに聞いても遅くないような気がしますよ」 ペケが曇天の町中を指し示しながら、首を傾げるものの、菊池 志郎(ia5584)は中へと上がり込む。開拓者というのは、ギルドからある程度の操作権を与えられている。そのため、芸姑達も、志郎の聞き込みに、快くとは言わないまでも、ぽつぽつと答えてくれた。 「中から襲われている、ということは、廓の施錠がきちんとされていたということでしょうか‥‥」 「ええ、そうだよ。夜も遅かったし、閂かけて寝るところだったさね」 基本、郭というのは終夜営業ではあるものの、明け方近くになれば、店じまいとなる。そんな、日が開けるか開けないかの頃合いだったらしい。 「ふむ。女将はその時間に何をしようとしてたのでしょうかねぇ‥‥」 陽月が当然抱く疑問を口にした。郭まわりならばともかく、一般のお店は閉まっている時間に、何をしていたのだろうか。そもそも、なぜ二人だけ座敷にでていなかったのか等。 「あたしらもよくわからないけど、特別な会合でもあったんじゃないかねぇ」 「ふむ。どなたか身分の高い方でも、相手していたのかもしれませんねぇ」 もし、会合の相手がわかれば、なにか原因がつかめるかもしれない。不自然な来客が、アヤカシにつながるのは、よくある話だ。 「女主の様子とか、反応がおかしい人がいなかったか、とかないです?」 「姐さんの様子は普通だったけど、変な事言われたとかって言ってた」 陽月に答える芸姑さん。何でも、芸姑の移籍やら、やり方を変えることを強要されたりとか、この店では珍しくトラブルだそうだ。 「その人の事、もう少し詳しく教えてくれませんか?」 が、何か関わりがあるのかもしれない。そう思い。聞いてみる陽月。志郎もまた行方不明になった芸姑の事情を問いただす。 要約すると、何度か知らない商売敵の訪問を受けていたそうだ。彼女達も、それほど煙たがられているのかと心配していたそうである。行方不明の二人は、最近ある雑貨屋に気に入られ、身を飾るものの決済でもめていたらしいことがわかった 「ふむ。どうやら、その揉めていた件が動機のようですね。なにやら屋内に潜ませていたのかもしれません」 周囲の店から浮いていた事は確かなようだ。そこに筆頭の人間がいたかどうかは、姐さん方にはわからないが、誰かが糸を引いていたらしい。 「事件の前、何かありませんでした? 数日前に廓が水浸しになった、というのが気になりますが…」 志郎に問いに答える芸姑。誰かに何かを言われたのか、少し顔色が悪かったそうだ。 「後は、廓の中ですね‥‥。術、使いますよ」 巫女である志郎が、瘴索結界を使って、アヤカシの気配が残っていないか、確かめてみる。さすがに血痕や足跡はかけらも見あたらなかったが、別の痕跡が残っていた。回収の符を使えば、きれいさっぱりなくなってしまうようなレベルだ。同じく郭で話を聞いていたペケが、水浸しの合った場所をじーっとはいつくばっていたが、ややあって、不思議そうに起きあがる。 「うーん。まるで中から現れたかのようです」 普通、水漏れ等ならば、どこかにそれ相応の傷跡があるものだ。だが、ペケが床をみてみた限り、どこにもそんなものはない。むしろ、きれいなものだ。 「穴、やっぱりありませんよ。あれ? この天井は‥‥」 床下にも潜ってみたが、何もなかった。不自然さに疑念を抱いたペケが、周囲を見回したところ、何か、思い者が通った後が、柱にべったりと残っている。 「何かが通った後‥‥ですかね」 「これで、人を疑わなくても良さそうですね」 ほっとしたように、そう答える陽月。再び、志郎が瘴索結界を使ってみれば、明らかな瘴気の残滓。それは、天井の小窓の外へとつながっている。 その外には、屋根があるにも関わらず、凍り付いた雪が、もっさりと積もっていた。 瘴気と共に。 その頃、ジークリンデは入れ替わるように、町中へ向かったカズラ、和奏と合流していた。2人もまた、行方不明の子を探っていたそうだ。 「どうです?」 ジークリンデが訪ねれば、葛切 カズラ(ia0725)は書き出した地図を見せてくれた。雪の降っている範囲の記されたそれには、今まで聞いてきた行方不明の芸姑が記されている。それは、郭だけではなく、他の所へ及んでいた。ただし、港には足を踏み入れていないが。 「見た事があったそうよ。隠れられる場所も多くて、ほぼこの辺に潜んでいると思って、間違いないでしょうね。潜んでいるとは限らないけど」 「目撃されたのは、彼女達ばかりではないようです」 ぐびり、とお酒を一口飲んだカズラの台詞を、和奏が引き継ぐ。2人が聞き込みを重ねた所、行方不明の女性達は、雪の多い場所に、一度は訪れたことが合うらしい。 「行方不明の女性は、以前からこちらを訪れていたようですね。見覚えのない御仁と、何度か会っていたそうです」 「それって、女将と会っていた人かしら‥‥」 和奏の調査結果に、カズラがそう言い出した。彼女が聞いてきた話にも、やはり女主人と合っていたようだ。しかも、その根付には、同じ家紋があったと言う。 「重なる部分はありそうね」 ジークリンデが聞いてきた町の話でも、雪の多いあたりで、行方不明になった女性が目撃されていたらしい。体温を下げないよう、ちびちびと飲んでいたカズラもまた、2人の女性の行き先と、雪の降り積もる場所が一致している事を突き止めている。さらに、行方を不明しているのは、彼女達ばかりではなかった。聞いてみれば、やはりそこには共通の家紋をつけた小間物屋が徘徊していたらしい。 「以前から、こちらにいらっしゃったって感じですかね」 「そうみたいね。この界隈でも、何人か同じ品を買っていったみたい」 うずたかく積み上げられた雪。その向こうに、聞いた紋章とおなじ紋章をつけた屋号がある。 「ここは‥‥小間物屋?」 行方不明の芸姑がつけていたかんざし。それは、詫びの品として送られたものというのが、聞き込みの結果判明している。 「人がいる気配はないし、関係ない業種だと思うんだけど‥‥」 「調べてみましょう。もしかしたら、裏でつながっているのかもしれませんし」 ぐるりと周囲を巡る和奏。ジークが空へと上がり、カズラが人魂を店の裏へと潜り込ませる。その結果、小間物屋は、女主人の店に出入りしていた商売敵とも懇意にしており、いや、むしろ贔屓にしていた親戚筋らしい。どうやら、この店が一因で間違ってはいないようだ。 「しかし、何故首だけ食べ残して行ったのでしょう‥‥」 「たまたま、かもしれないわね。ほら見て」 その側には、水路があった。人気のあまりない雪は、踏み固められておらず、乱れた足跡が、水路の際まで続いている。バランスを崩して、首だけ噛み切ったのが流れて行った可能性が考えられそうだった。反対側の足跡は、雪の壁に消えている。 「では、これをたどれば‥‥」 「そんなもの、こうすれば良いのよ」 見上げた和奏の横から、ジークリンデが横合いから、魔法の詠唱を開始する。破壊力だけは盛大なそれは‥‥ララド=メ・デリタ。 「あーあ、乱暴ねぇ。そんな事しなくても、こうすればいいのに」 カズラはそう言うと、残った壁に人魂を唱えた。光り輝く触手にも似たそれが、屋号を掲げた店の中に入り込んで行く。 そこにいたのは。 「おやおや。嬢達も氷結のかんざしを買いに来たのかえ? それとも氷結の贄になりに来たのかえ?」 行方不明になっていた女性の首を抱えた、同じ紋章の白い着物の老婆。周囲は、氷で出来たドームのように、凍り付いていた‥‥。 白い雪がしんしんと降りつもる頃、長く響く笛が聞こえてきた。 「あれは‥‥カズラさんの合図!? ‥‥あははは、あの2人が犯人じゃなかったようですね☆」 郭の周囲を調べていたペケが、てへぺろ☆っと舌を出す。 「良いから行きますよっ」 反省会は後でも出来る。あれを出しているという事は、戦いが開始された合図だろう。外へでてみれば、空の上に、狼煙銃の白煙が、細く軌跡を描いていた。 「これは‥‥。足止めに専念した方が良さそうねぇ」 カズラが、斬撃符を投げつける。いつものように、正体不明のぬとぬとになって、氷結した老婆の足下に炸裂する。 「ふむう。ならば計画を少し早めるとしようかの」 その刹那、老婆はそう言うと、何やら印を結ぶ仕草をした。刹那足元の氷が競りあがる。中には‥‥幾人かの女性の首。 「これは‥‥結界?」 「ああんもう。折角考えた作戦なのにぃ。しょうがない。時間を稼ぐしかないわね」 しゅるりとカズラの懐から、別の符が取り出される。氷に詰まれたここなら、引火する可能性は少ない。が、相手もそれを召喚させまいと、沸きの操り人形達に攻撃させる。 「速さなら任せてっ」 もっとも、そこはペケが奔刃術で割って入っていた。その速さで持って、下のお肌が露出するが、構わず攻撃する。 「あれですっ!殺された方のためにも、絶対に逃しませんよ…!」 その騒動は、廓の方にいた面々にも見て取れる。志郎がいち早く気攻破を投げつけていた。ばきょうっと扉が粉砕され、残りの面々がなだれ込む。 「これ以上雪は降らせませーん!!」 「力よ! 空間を!」 カズラが火炎獣を呼び出す。足元を気にしつつ、和奏が雪折を使う。そこへ、ペケが不知火でもってその雪を薙ぎ払う。陽月が力の歪みで対抗し、徐々に追い詰めて行って。 「おのれ‥‥。ここで終幕か‥‥。まぁいい。術式は完成しておる‥‥。留まる必要もないであろうかの‥‥」 ぱりんと窓の氷が割れた。老婆が外見には似合わぬ動きで姿を消す。 「逃げたかな。どうやら、これは何かの儀式だったようだね‥‥」 足元には、魔法陣の後と、凍りついた被害者。開拓者達が、その後始末に奔走したのは、言うまでもない。 |