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■オープニング本文 求められたのは、水だった。 アルカマルからやってきたと言う御仁は、ギルドで船長を相手に、こう説明してくれた。 「我が村では、水場を共用して使っているのですが、供給源が滞ってしまいまして」 砂漠の国、と言ったアルカマルでは、水場が貴重なのは、どこへ行っても同じである。船長が、アルカマルとの取引をはじめるに辺り、紹介されたのはそんな依頼だった。 「精霊様がお怒りなのか、アヤカシが何か悪巧みをしているのかはわかりません。しかし、このままでは水が枯れ、我々は滅んでしまうでしょう」 「ふむ。つまりその水を運んで欲しいと言うわけか」 「いえ。それでは延命措置にしかならないのです。そちらにお願いするのは、その水を枯れさせない為の力を持った宝珠です」 船長が、船に水桶を積み込むつもりで確かめると、その御仁は首を横に振った。そして、懐から差し出したのは、東房の地図だ。 「そんな話をどこから聞いたんだよ」 「それは・・・・我が部族の巫女殿が」 口を濁すアルカマルの御仁。いぶかしげな顔をする船長だったが、これは取引と割りきり、話を続行させる。 「こちらの国には、水の宝珠と言うのが存在するようです。それを水場に入れれば、オアシスも復活するでしょうと」 「‥‥俺は水を運んじまった方が早いと思うがね」 それでもそう言い残し、船長はその地図を持って、東房にある水の遺跡を探してくれる。 「良いのですか?」 「この方が実入りが大きいでしょうから。巫女殿のお言いつけですしね」 だが、その影でアルカマルの御仁が、複雑そうな表情を浮かべていたのには、まるで気付かなかった。 天儀にも海が存在するのは、見ての通りだ。 勿論その周囲には、空があり、人々は大陸をわたる際には空飛ぶ船を使う。 そんな、空飛ぶ船の主である船長は、東房の西にある遺跡へと赴いていた‥‥。 ところが。 「あー、これはダメだなー」 「なんでだにゃ?」 雪姫を伴い、船の上から遺跡の様子を見た船長は、頭を抱えていた。海岸にあるその遺跡は、少し高くなった場所に入り口があり、見下ろした先に、出口と思しき洞窟がある。 「見てみ。これ、海の線だろう」 「ほんとにゃ」 船長が指し示した先。そこは、黒く湿った波の跡が記されている。その跡は、崖下の出口をすっぽりと覆っており、潮が満ちた折には、水没するであろう事が容易に想像出来た。 「これじゃ、宝珠が取りにいけないにゃ。どうするにゃ?」 「まぁ落ち着け。干潮の時には、中に入れるからな。その間にとってこれば良い話さ」 しかし、今はまだ波打ち際は遠い。早朝である事を考えると、水没するのは夕方頃になるだろう。 「そっか。けど、この中に本当に水の宝珠が埋まってるぉ?」 「この文献だと、そうなんだけどなぁ。確かに、水の宝珠なんだから、水の多い場所にあるのは、道理なんだが、確かめるには様子を見ねぇとダメか‥‥」 広げた古文書は、東房内のとある寺に収められていたものだ。それには、海岸線にある遺跡で、水の力を持つ宝珠が見つかったものの、取り出せず脱出したと記されている。 「お雪、ちょっと待ってろ」 「待ってにゃー」 ただ、中にどんなものがあるのか、外からでは分からない。そこで、船長は海岸に降りる細い道から、下の出口へと降りて行く。雪姫は、少し考えたあと、ぷらぁとと共に、その後へと続いた。 「予想してたよりひでぇなー」 上の入り口は、管理する天儀の印で封印されていた。そのせいか、反対側の扉は、入り込んだ水のせいか、生臭い匂いに包まれていた。 「潮の匂いいっぱいだにゃ。あ、わかめ発見」 足元に、流れ込んできたのか、ワカメの塊のようなものがある。好奇心にかられた雪姫が、それを拾い上げようとした直後だった。 「触るなっ」 「ひゃあっ。なんだこれーーー!」 わかめがひとりでに動き、2人へ襲いかかる。慌てて避ける雪姫と、それを引っ張ってお外に転がり出る船長。纏わりついた砂を払い落とし、言い聞かせるように告げる。 「遺跡には、アヤカシが勝手に発生するんだ。この様子だと、奥には海産物がごろごろしてるな‥‥」 遺跡には、魔の森にいるアヤカシとは、多少性質が違ったアヤカシが出るのが、天儀の常識である。森のアヤカシが食べる為に襲うのと違い、アヤカシは殺すだけ、しかも魔の森がなくても発生し、掃討してもまた復活するのだ。 「やっぱり、皆を呼んだ方が良いにゃ?」 「だな。遺跡のアヤカシは宝珠を落とすらしいし。連中にとってもいい稼ぎ先だと思うぜ」 それでも、開拓者は遺跡に潜る。忘れているかもしれないが、遺跡のアヤカシは宝珠を落とす事があり、その良質な宝珠は、人々をアヤカシから守る為の糧となるのだから。 『干満の差で水没する遺跡から、水の宝珠を捜して下さい。出口は上下にありますが、中身は海産物アヤカシが出没するそうで、大変危険です』 連絡を受けたギルドに、依頼が乗ったのはそれから程なくしての事である。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
リラ=F=シリェンシス(ib6836)
24歳・女・砂 |
■リプレイ本文 潮満ちる海岸線。その沖合いに停泊した船長の船から、一行は遺跡の様子を確かめていた。 「後の事は次回お手伝いするとして〜、まずはこの珠を無事回収して、お届けしませんとねー」 旋律に乗せるような口調で、カンタータ(ia0489)が依頼書を丸めている。あまり時間のない事に、船長が「ああ、なんか急いでるみたいだしな」と納期を急いでくる。 「水は生命の源ですからね。それに、アルカマルのピンチを正義のニンジャは、放っておけないもの!」 必ず持ち帰って見せますっと、ぷらぁとを持ち帰ろうとしつつ、そう宣言するルンルン・パムポップン(ib0234)。 「中々面白い宝珠があるらしいね。楽しみ」 「水を呼ぶ宝珠ねぇ。ホント、宝珠には面白いものがあるわね」 リラ=F=シリェンシス(ib6836)とリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)も、その宝珠に興味津々のようだ。船長も、そう言った宝珠は初めて見るらしい。「世間には見た事のないお宝を持ってる奴が居るって事さ」と言っていた。 「…何故に封印された遺跡に下から入れる様になったのかが最大の謎ですけど‥‥」 三笠 三四郎(ia0163)が怪訝そうに首をかしげるが、それに回答を示したのは船長だった。 「おめ、ギルドの解説読んでないのか?」 「あ、ホントだ。これですか‥‥」 何でも、遺跡には放置されたものと、天儀王朝が開拓者に解放したものと二種類あるそうだ。詳しいはギルドで解説してもらってくるようにとの事である。 「それにしても〜、依頼内容を聞く限り〜、後でひと悶着ありそうな感じですねー」 「キナ臭い依頼ですが…やるだけやってみます」 水宝珠を必要とする村の筈だが、どうもそれだけではない気がする。カンタータと三笠にはよぎったが、小船を出している船長には聞こえない。 「キャプテンはいつも大急がし〜」 カンタータの声が詠う。そこへ、用意を終えた船長が「頼まれてた地図だ。これでいいか?」と、紙の束を渡してきた。 「なんですか?この枚数は‥‥」 「天儀のギルドに問い合わせたら、それくらいになったぞ」 この遺跡の地図らしい。どういう遺跡かは知らないが、いくつかルートがあるようだ。 「と言う事は、見取り図が役に立たないのですかねぇ。上から順に第1・第2・第3階層と呼称しますが、よろしいですか?」 「ああ、構わないですよ」 他に、記録用の紙を受け取りながら、彼女が皆に総尋ねている。異存がある者はおらず、そのままの呼称で進む事になった。 「さて、それじゃあちょっと封印されている方を見てきますか」 小船で上陸した一行は、まず第一階層の上にあたる封印された扉へと向かった。崖下までの高さを見下ろした三笠は、ふむりと考え込む。 「どうですー?」 「高さはだいぶありますね。見張りは、雪姫さんを襲ったワカメだけのようです。接触は避けたいですね」 カンタータにそう答える彼。見張り櫓の上から下まで位の高さだが、わかめの他にアヤカシがいる様子はないが、わかめがもぞもぞと動いて警戒中。 「タイムリミットは日没までですかね? なんともならない場合、あそこを壊して脱出してもいいですか? キャプテン〜」 「禁止されてるのは、壁の明かり宝珠を奪って行く事だけだ。それ以外は特に気にしてねぇよ」 カンタータが尋ねると、船長は遺跡に対する規定を答えてくれる。 「わかりました、まぁ皆さんの命に関わるとなれば別でしょうけどね〜」 どの道、危険を感じれば、脱出するルートを考えねばならない。そう思い、彼女の唄は遺跡の中へと紡がれるのだった。 出来るだけまとまって行動する事になった。 「まったく、どこにあるのよ‥‥」 入り口にいたワカメを、ウィンドカッターで切り身にしたリゼが、文句たらたらに奥を見通そうとする。 「ちょっと待ってくださいね」 人魂が幾つか召喚された。それによって、中身の構造が明らかになる。それによると、遺跡の中はカニの巣のようになっていた。 「ふむ、それほど難しくはないようですが‥‥逆に危険かもしれませんねー」 「結界を張っておくわ。アヤカシが来たら何とかなるはず」 カンタータの調査結果に、リーゼが瘴索結界を張り巡らせる。これで、近付いてくるアヤカシには、何らかの反応が出てくるはずだと。 「長そうですよ」 「リサイクルするわ。心配しないで」 維持錬力はかかるが、その辺はアヤカシの瘴気を回収すれば良い事だ。逐一補充をしていけば、充分持つだけの量はある。 「台座へ向かう水の流れが変わった? この先に、大きな生き物が居ます」 ルンルンの超越感覚が、足元の水が変わった事を告げる。耳を済ませてみれば、ばしゃばしゃと足音を立てるような音が、かすかに聞こえてくる。 「アヤカシかな」 「遺跡のアヤカシは、野良に比べて強いって聞くぜ」 同行していた船長がそう教えてくれた。つまり、油断しない方が良いと言うことだろう。 「毒性があるとやっかいです。先に、機動に注意して下さい」 向かってくるそのアヤカシを見据え、刃を構える三笠。海の生き物と言えば、毒を持つ者も少なくない。一般的な場所にいるお魚さえそうなのだ。アヤカシであればいわずもがな。 「そろそろ水からから上がってきます」 ルンルンもグニェーフルードを正面に突きつける。そこへ、わかめの中から現れる白く細長い物体。くぱぁと開いた中には、人の肌など貫きそうな小刀が生えている。まちがいなくアヤカシの白うなぎだ。 「これで、確実に倒す!」 新陰流の技で持って切れ味を増した刃が、その白いうなぎを両断する。剣気の効果で一瞬ひるむ白うなぎだが、敵は1匹ではなかった。合計4匹が、しゃあしゃあと牙を向く。 「この状態だと、速さを上げた方が良いか? 抵抗力が下がるが」 リラがそう尋ねてきた。自分から積極的に攻撃はしない分、仲間の援護に徹するようだ。 「先に片付けてしまえば良いんです。お願いします」 「わかった。砂狼!」 陣を組みかえるリラ。そのおかげで、最適な位置取りにより、速さが変わる。仕切り直しになった刹那、アヤカシ達も攻撃しやすいようにか、壁際に寄る。 「海産物みたいなアヤカシねぇ。捌いて下して開きにしてあげるわ♪」 水が徐々に増してきている。そのおかげか、次第に動きの活発になる白うなぎに、手早くけりをつけるべく、ウィンドカッターを投げつけるリーゼ。一匹が切り身になった。 「後で食べれないのが、余計にプンプンです」 数はそれほど多くない。いや、違った。うなぎが何事か水の柱を立てると奥のほうから、派手な模様の蛇が、にゅるりと姿を見せる。 「何か派手なの出てきたなぁ。近づけないようにしましょう。その間に先へ進んで下さい」 その姿は、海で見かける蛇を何倍にも大きくした姿に見える。派手な危険色を伴う姿に、リーゼは第二階層へと進む階段を指し示した。まだ地面は乾いている。 「帰還経路がダメにならない様にしないとね〜」 「任せて下さい。ジュゲームジュゲームパムポップン…ルンルン忍法神風の術!」 カンタータの声に答え、ルンルンはすかさず聖なる杖「ローフル」を取り出して、うなぎの上へと振りかざした。ごおっと精霊の光が巻き起こる。城下の光に、たまらず退散するアヤカシ達。その隙に、彼女達は次なる階層へと進んで行く。 「ここが第二階層・・・・。さぁ、ぷらぁとちゃん、一緒にニンジャの力で宝珠をこの手に掴んじゃいましょう」 「お前が掴んでるのはぷらぁとのもふもふだろうが」 胸に抱えてぎゅっと離さずにいるるんるんは、どーみてもぬいぐるみを確保している様にしか見えない。 「潮満宝珠だけっていうのはちょっとおかしいから、潮干宝珠もどこかにあるかもしれない。両方とも見つかれば、お互いの力が打ち消し合うはず」 「もし拾えるなら〜、両方回収しちゃいましょうー」 そんな彼女に、リラが名前から予想される能力を引き合いに出した。カンタータが、地図を片手に、見つからなかったくぼみをチェックしていく。それを覗き込んだルンルンは、濡れたおててですらすらとルートを書きつつ、こう言っていた。 「えーっと、付いた水の跡がこう流れてて、台座の跡がこうだから…よし、ニンジャの勘が潮満珠はこっちだって言ってます!」 びしっと、自信たっぷりにある方向を指す彼女。一瞬考え込んだカンタータだが、船長の持っていた松明の揺らめきと、煙の流れを見て、それもあながち間違っていないのではないかと思いなおす。 「水、だいぶ上がってきているから〜、行って見ましょう。別の出入り口が確保できるかもしれませんしー」 満ち潮で水が入ってくる横穴を確かめてみれば、そこには。 「あった。あれが宝珠!」 覗き穴のようになった先に、きらめく水色の宝珠。周囲を見回せば、扉のようなものがあった。 「潮干珠は、見当たらないな‥‥」 リラは、潮には満ち干がつきものと、もう1つの珠を捜す。しかし、どこにもそれらしきものは見当たらない。両方見つかれば、お互いを打ち消しあう筈なのだが。 「遺跡を出るまでは、慎重に動いた方が。出る迄はうかつに触らない方がいいかと思いますしね」 三笠がその宝珠の周辺を探る。とは言うものの、水の気配が濃厚で、アヤカシの気配を感じ取れない。水の気配がない事も考えたが、どうやらそう言うわけではなさそうだ。 「目的物は回収したんです〜。上に行くか、最短コースを選ぶか‥‥は、皆さん次第だと思いますよ〜」 カンタータがいつものように歌うような口調で、先に進むか戻るかを選んで貰う。うーんと考え込んだ彼らだったが、リラがそこでこう言った。 「気になるけど、遺跡だし、なにがあるかわからないから、取るもの取ったらさっさと帰る方が懸命」 「そうね。長居は無用、さっさと切り上げるわよ」 リーゼもその意見には三世らしい。ふむ、と考え込む三笠。1階では、まだ巨大海蛇がとぐろを巻いている筈である。 「どっちみち、これを持ったらダッシュで戻る羽目になりそうです。一掃して行きましょう」 「また発生するんだけどな。こいつら」 船長がぼそりと突っ込んだが、そのセリフは当然の様にシカトされるのだった。 何とか海蛇を避けつつ、表へと出てきた一行を、カンタータが手当てしていた。 「これで大丈夫ですよー」 傷の治療を終わったリーゼは、持ち帰った水の宝珠をためすすがめつしている。 「それにしても中々の代物ね。これを武器なり装飾品に加工したらどうなるのかしら」 ふふっとおめめが値踏みするそれに変わる。が、それも一瞬の事で、「おいおい」と船長に突っ込まれ、元に戻った。 「ん、まぁやらないわよ、とーぜん。やっちゃってめんどくさいことになるのもイヤだしさ」 肩をすくめる彼女。と、船長は未踏破だった3階を指し示し、こう言ってきた。 「あの遺跡にはまだ残ってるみたいだしな。もう一度行けるなら、その時の方が良いと思うぜ」 「それもそうね。出来れば今度は、きな臭いの抜きでお願いするわ」 ただお宝を探す開拓者リーゼとして。 |