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■オープニング本文 ●伊織の里 魔の森の近くには、どこの国でも、アヤカシを食い止める砦がある。 伊織の里や高橋の里も例外ではない。 「敵襲ーっ!!」 がんがんと櫓の鐘が鳴り響く。眼下を見れば、「花ノ山城」へ向かって、凡そ荷車ほどの大きさはあろうかと言う化け甲虫が、まるで鋼鉄のアーマー部隊の様に整列して迫っていた。 どうやってかはわからないが、各地の砦近くに、甲虫達が、忽然と姿を現したのだ。 そんな甲虫達の群れを見下ろすのは、固体の中でも、さらに大きな固体。 「さぁおいき、可愛い子供達。たっぷりとね」 その上部には、会話を交わせるほどの形となった、美しい女性の姿が埋まっていた‥‥。 それは、数ある砦の中でも、砲台の多く集まる砦にやってきた。 「これだけ火力が集中していれば、アヤカシとてそう簡単には攻め込めまい」 「いやまったく。腕に覚えのある砲術師も揃えておりますしな」 そうは言うものの、砦はさほど大きくはない。だからこそ、火力を揃えることができたのだが、そう話していた砦の壁に、いきなり6寸ほどの大穴があいた。 「敵襲!? どこからだ!」 「わかりません。火薬のにおいはしませんし‥‥」 「当たり前だ! アヤカシが火薬を使うか!」 そう話したところに、またしても6寸の穴。大砲でも打ち込まれたようだが、火薬のにおいもその衝撃もない。だが。逆に砦には次々と穴が開いていく。 そして。 「大変だ! 火薬庫の扉が吹っ飛ばされた!」 「なにぃ! えぇい、砲撃隊は何をしている!」 「一撃の姿を与えようにも、相手の姿がわかりませぬ!」 「ああもう。開拓者どもを呼べ。傭兵代わりにこき使ってやる。他の者は防備を固めろ。 どこからくるかわからぬが、簡単にこの砦を役立たずにされてはかなわんからな」 そのころ。砦から少し離れた森の中にて。 「いかがですかな。弾の威力は」 「ふむ。多少大き過ぎるのが問題だな。これでは、砲の筒を鬼らに持たせるのはつらかろう」 会話する二人。片方は楠だった。足場をつけて、車輪を回し、セットされたそれには、弾丸と言うには、少し大きすぎる鈍い色の固まりがうごめいている。 「本来は、そんなものは必要ないのですがな」 「助走は必要だろう? まぁいい。これなら、何とか配下どもにも撃てるだろう。こちらにはそう伝えておく」 頭を垂れる楠。その後には、うごめく弾丸をかけた鬼たちだけが残された。 そして。 「謎の弾丸により、砦が奇襲を受けています。どこから飛んでくるのかわからないので、防戦一方になるばかりです。至急、増援をお願いいたします」 君たちは今、そこにいる。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
サクル(ib6734)
18歳・女・砂 |
■リプレイ本文 砦に集められた開拓者達は、現状を見て唖然としていた。 「何が怖いって何されてるか訳解らないのが一番怖いのよね〜〜」 葛切 カズラ(ia0725)がそう言った。見た目は、壁に穴を穿たれたぼこぼこの砦。しかし、そこにあるはずの弾丸はなく、飛び散った壁が砕けているだけと言う‥‥。 「見えない弾かー。どんなのだろーなー?」 首をかしげる羽喰 琥珀(ib3263)。 「サクルと申します。よろしくお願いします」 ぺこりと頭を下げた砂迅騎のサクル(ib6734)が、同じ様に首を斜め45度に傾けながら「それで、どうしましょうか?」と尋ねてくる。 「まずは砲弾の正体を究明しないと。訳の解らない新兵器って面倒なのよ〜」 「ええ、厄介ですね。どういう仕組み何だか‥‥」 カズラにそう答える鬼啼里 鎮璃(ia0871)。なにしろ、手の打ち方ががわからないので。と、メグレズ・ファウンテン(ia9696)がこう言い出した。 「一度はあえて攻撃させ、その状況を分析し、場所を特定するのが妥当でしょうか‥‥」 反対する理由はない。そう判断した開拓者達は、提案に従い、砦防衛の流れを相談する事にする。 「それでは、砦に残る砲台班と、強襲班に分かれて行動と言う事でよろしいですね」 相談の結果、鎮瑠、八十神 蔵人(ia1422)、琥珀が強襲班。それ以外が砲台班と言う事になった。 「僕は強襲組みっと、サクルさん、どっちに行きます?」 「砲台班ですね。迎撃準備を整えて起きますわ」 サクルは砲台班だが、この中では一番砲に関して目が効く為、遊撃的に動くらしい。 「わかりました。お手伝い、よろしくお願いします」 「さぁて。じゃあまずは適当な若い衆を借りようかしら。力仕事に」 それぞれの準備を整える中、カズラが砦の責任者を捕まえて、労働力をかき集めている。 「まずはここを直さないとね。ほーら、あんた達の砦なんだから、しっかり働いてチョーダイッ」 ぺしぺしと式の符が踊る。名称不明な生き物に、若い衆が戸惑いながらも砦の修復に取り掛かっていた。 「まず被害状況を確かめないと‥‥。撃たれたのはこの辺りですか?」 その間に、メグレズが、崩れ落ちた壁を観察していた。何か、硬い物がぶつかったように凹んでいる。しかし、致命的な事にはなっていないようだ。 「補修する材料はありますか? 木材や石や土嚢などがいいのですが‥‥」 「一応ないと言えなくはないが、数は少ないぞ」 砦なので、それなりに修繕の部材は用意してあるらしい。すでに、木材は組みなおされ、縄紐でくくりつけられている。だが、メグレズはそれでは足りないと、土嚢を積み上げさせ、砦の防御力を上げるよう指示していた。 「作業はお任せします。その間に別のものを。丸太状の材木があれば良いのですが‥‥」 「それなら、外の木を使えばいい」 指し示された森には、それなりに太い木が生えていた。確かに組み合わせれば、思った通りの物が出来そうだ。 「なるほど。では若い方に、お手伝いを。気を切って運ぶだけの簡単なお仕事ですよ」 結構な重労働である。が、兵士さん達は特に不満も言わず、木を切り出してくれた。後から聞いた所によると、元々、この辺りで山と共に暮らしていたそうなので、アヤカシを相手にするよりはよっぽどマシなのだろうと言うことだった。 「森の外って、何か気をつけなきゃいけない事ってあるかー?」 「狼くらいかなぁ。腹が減ってなけりゃ襲ってこないし、襲ってきてもこっちが危険だって分かればいなくなるから、威嚇だけで要は足りるぜー」 琥珀は、その少年らしい純粋さで、早速仲良くなっている模様。この辺りは、アヤカシを除けば、野山の獣と、時折姿を見せる山の主と言ったケモノだけで、商隊が通るには少し護衛がいるが、かと言って開拓者が目くじら立てるようなものでもないらしい。 だが、そう言って、砲台の材料を集めている間に、砦のほうで笛の音が上がった。びくっと驚く兵士の皆様に、琥珀は大丈夫、と安心させる。 「あれは、メグレズ姉が、笛の音が届くかどうか試したってところだ。吹き方が違うだろ」 見れば、砦には4色の旗が立てられている。黒は北から東、青が東から南、赤が南から〜西の間で、黄が西から北だ。それと同じ色の煙を上げる事により、連絡方法を定めている。火急の場合は、合わせて笛を吹くと言ったところだ。 「よろしければこちらをお使いください」 その砦では、サクルが岩清水を提供しようと申し出るが、水分が無いと言うわけではない。確かに燃えやすい物は多いが、そこは小さくとも砦なので、砦内にため池なども用意されている。 「まぁ、その辺りは先に砦の補修を行ってしまおう。この砲弾、できれば墨液を仕込みたいんだけど」 宥める鎮瑠。そんな彼が持ってきたのは、皮の袋のようなものだ。 「え、なんで?」 「砲弾が透明だった時のためですよ」 その中に詰まった墨液で、色をつける事にしたらしい。だが、それには蔵人が首を横に振る。 「せやけど、それやったら、残骸残るはずやろ。確認するけど、砲弾の残骸も何も見つからへんねんな?」 見回しても、欠片も見つからない。考え込む彼。 「瘴気を砲弾代わりに飛ばす敵がおるとは聞いてへんなあ。‥‥砲弾代わりにアヤカシをアヤカシがぶん投げてるとか?」 「それって、出来るの?」 怪訝そうに聞き返すカズラ。彼女もまた、砕け具合と散らばり具合に注目して見たが、答えはバラバラで、どうも砦全般を狙っているように思えた。 「さぁなぁ。せやけど、生きとったら着弾後、自分の足で帰還、そしてまた投擲されるやろ。なーんて環境に優しいリサイクル運用」 「砲弾尽きなくなりますねぇ」 のんびりと静瑠が言う。事実上、際限なく使える砲弾は、確かに脅威ではあるが。 「それだけやないで。砲弾がスライムとかのアヤカシの場合、既に隠れて砦内部に入り込んでる可能性もある。火薬庫周り気を付けや」 蔵人の見立てでは、既に消えたアヤカシが、どこかに潜伏しているかもしれないとの事。責任者が慌てて見張りを増やしていた。だが、その後報告はまだない。 「後は、どっちから撃ってきてるからかしらね〜。砕け具合とかだと、こっちの方かな」 「せやろな」 カズラが、砲台を作らせている間に、発射された方向を割り出す。それは、鎮瑠やサクルの意見とも一致している。頷いたカズラは、砲台の砲塔をそちらへと向けさせ、その周囲に符を4枚取り出した。 「豪勢やな」 「このうねうね感がなければ、ね」 結界呪符「黒」。通称モノリスと称される防御の符は、彼女の好みとするうねうねした名状しがたき式が硬質化する形を取って、その壁となるのだった。 砦の補修も終わり、偽装砲台を作った所で、開拓者達はめいめいの場所へとその身をもぐりこませていた。 「さて。では参りましょうか。皆様、準備はよろしいですか?」 メグレズの問いに、それぞれ「問題ありませんわ」「こちらも大丈夫です」と答えが返ってくる。開拓者達は、琥珀が砦の下、蔵人が砦の前、鎮瑠が砦のすぐ外の他、目星をつけた方向を見れるように待機し、その瞬間を待つ。 「では、行きますよ」 メグレズがそう言うと、咆哮の力を使った。ややあって、ぼんっと言う音。それから3秒くらいたって、積み上げた土嚢の中へ、何かが着弾する。 「よし、撃ってきた。様子は、どうです?」 「あちらの方です。集団が動く様子はなさそうですわ」 サクルがパダドサイトを発動させる。彼女の遠視能力が、発射した付近に、何やらうごめくアヤカシの姿が 「何をしているかわかります?」 「そこまでは。あ、でも連射速度は早いみたいですよ」 メグレズの問いに、彼女は首を振る。小鬼くらいのサイズのアヤカシが、咆哮を聞きつけて、なにやら砲弾のようなものを、砦へ打ち込もうとしているのはわかったが、細かい造形までは見えなかった。 「よーし、じゃあこっちも撃ち返しちゃおうかな。行くわよん」 敵がいるのを確かめたカズラが、火薬と鞠と導火線を装填し、砲座に出してその撃ってきたと思しき方向へと投げつける。砲塔は偽物なので、撃てはしないのだが、変わりにメグレズが火槍を飛ばしていた。 が。 「弾が途中で消滅した?」 その火槍が、途中でばしゅっと消えていた。 「位置はこちらの射程ぎりぎりです」 サクルが、その様子を仲間へと報告してくる。向こうの射手はこちらの動きには気付いていない。強襲班にそれを伝えると、急いで向かってくれるようだ。 「まずは砲台を無力化させてください。話はそれからです」 「分かったぜ。‥‥心眼!」 鎮瑠が、砲台班から受け取った連絡に従い、砲台のある場所へと向かう。強襲班の琥珀がそう言って、アヤカシの場所を見抜こうとする。 「あっちだ。あの台みたいになってる所に、アヤカシがいる!」 「心得ました」 周囲の敵は、見えるアヤカシばかりのようだ。その殆どは、鬼の姿をしていたが、中に1人だけ人間の姿をした女性がいた。 「おぉっと、逃がさへんで。こっちむきや!」 蔵人がそのアヤカシをひきつけるべく、咆哮を放つ。一斉に鬼達が向かってくるのを見て、その女性だけが覚めた目をしていた。 「ふむ。やはり射手が馬鹿では用が足りぬか」 そう言った女性。それは、賞金首としてギルドに張り出されている楠だった。 「これぞ、偽装砲台を囮にして敵の攻撃を誘い、着弾角度から相手の砲撃箇所を特定。こっちから強襲して正体を掴む、ちゅー寸法や」 ドヤ顔で作戦を語る蔵人。しかし、そんな彼に、女性は少しばかりあきれ顔。 「そんなもの、見たらわかるわ。そのままの動きしていたからな」 そう言い残すと、例のトンボで立ち去ってしまう。 「あら、現場監督いなくなっちゃったわ」 カズラさんが食らわせ損ねた斬撃符を手に、ちょっと残念そうだ。どうやら、こちらで準備をしている間に、逃げる算段を整えられてしまったと言った所か。 「追いますか?」 「いや、砦を留守にするのはあかん。そっちまでつれてくで。ほら来いやぁ!」 鎮瑠の問いに、首を横に振る蔵人。ここで深追いして、その間に砦を攻められる可能性を考えていた。いるのは兵士ばかりではないが、かと言って離れるほどでもない。逆に、アヤカシをひきつける様方向を放つ。その間に、鎮瑠が砲台の車輪をばらばらにして、移動できないようにしていた。砲台を動かせなくなった事を確かめた琥珀が、持っていた狼煙銃で、砦へと合図する。 「ようし、追うわよっ」 砲台班が、急いでそちらへ向かう。カズラが、鞭で牽制しつつ、砲弾の弾入れを見る。そこには、うぞうぞとうごめくアヤカシ蟲が詰まっていた。 鬼達は、それを次々と投げてくる。投げられたそれは、砲弾ほどではないが、結構な速度を持って、開拓者達を攻撃していた。避けられないので、受けてみれば、軽く吹っ飛ばされる。が、ダメージと引き換えに、その姿はない。 「どういうことなの‥‥?」 「サクルはん、そこの砲弾をなんとかとっ捕まえられへん?」 怪訝そうにするカズラの疑問には、蔵人が答える格好となった。符をそのアヤカシ蟲に向けるカズラ。名状しがたき触手の式が鏃状に変化して、そのアヤカシ蟲にざっくりと刺さる。瞬間、蟲は黒い瘴気となり、周辺の森に散って行った。 「今の見た?」 「見たでェェェ」 顔を見合わせるカズラと蔵人。よく分かっていない琥珀が、怪訝そうに尋ねてくる。 「おっちゃん、説明してくれよ」 「だれがおっちゃんやねん」 びしっとツッコミを入れ、ちゃんと「‥‥お兄さん」と訂正させてから、彼が説明するには。 「答えは簡単なこっちゃ。アヤカシの奴ら、リサイクルなんざしてへんちゅう事やな」 「使い捨て‥‥符のようなものかしら」 カズラが己の符を見てそう言うが、それとは少し違う。 「いや、カズラはんは、自分の式をちゃんとかわいがっとるやろ。向こうはほんとーに消耗品の使い捨てなんや。衝撃で瘴気になるから、確かに欠片ものこらへん」 その形態はともかく、彼女は自分の式を対等の存在として胸に抱いていた。しかし、ここにいるアヤカシ達は、そんな事など考えていない。 「さて、どうする?」 「決まってるじゃんか。やそ兄は、あれをそのままにしておく気なのかよ」 琥珀の少年らしいまっすぐな気持ちに、「残骸くらいは持ち帰りたいんやけどなー」と答える蔵人。 「じゃあ、欠片があれば良いよな。よし」 頷いた琥珀が出したのは、焙烙玉だ。あまり遠くまでは飛ばないが、目の前の車輪を壊すくらいなら充分である。 「ぶっこわれろーーーー!!」 「皆、下がって!」 その焙烙玉の投擲にあわせて、カズラが周りを下がらせた。入れ替わりに、 ひょうっとぶっ飛んで行った焙烙玉が、眩い花火を散らせた所で、カズラが符を放つ。 「お行き! 私の可愛い名状しがたきモノ達」 その符と引き換えに現れたうねうねした物体の中心に現れた目玉。ぎんっと睨みつけて、手出しをさせない間に、琥珀は背中に背負った刀を、居合いと共に振り下ろす。 「よし、今だ。いっけぇぇぇぇ!!」 どぉぉぉぉんっと、盛大な音がして、アヤカシの砲台が破壊されたのは、言うまでもない。 「これで大丈夫かな。敵もいなくなったみたいだし」 回りに敵が居ない事を確認した琥珀が持ってきたのは、太めの籠のようなものだった。 「それは?」 「砲台に引っ付いていた籠。凄く重く出来てる。虫かごにしては、だけど」 琥珀によると、砲台についていたものらしい。確かに、内側には金属には付く筈のない、鉤爪の跡がしっかりと刻まれている。それを砦まで持ち帰った蔵人は、机の上にどんっとそれを落とすと、隊長をガン付けながら、こう言った。 「さて隊長のおっちゃん。こき使われてやったんやから、今度はアンタらの仕事やで、しっかり働けやー?」 「一体何しろって言うんだ」 後ろ頭に冷や汗を流す彼に、蔵人はこの辺の地図を取り出して、こう告げた。 「花ノ山城や武天王の本陣にはよう早馬出して、血反吐が出るまで走れや。わしが思うにコレ、多分奴さんたちの新兵器の試運転やで? あっちでも同じ手‥‥つうかもっと数揃えて、大規模にやって来る可能性もあるわな」 「わかった。貴重な馬に血反吐はともかく、急ぎ連絡は取らせよう」 本当にそれが出てくるかは定かではないが。 「こんなもん正体掴めんかったら、現場はさぞ混乱するやろうな‥‥。急げよう、どんだけ被害減らせるかはアンタの判断次第やぞー」 「あらら、西瓜をお出しする暇がありませんでしたわ」 慌てて伝令を送る姿に、西瓜を切ってきたサクルが、残念そうに呟いていた。 |