かぶとむし
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/15 19:55



■オープニング本文

●どことも知れぬ闇の中
「配置、完了いたしました」
「ふむ。よかろう。いや」
 黒く染まる崖の上、見下ろす場所に影2つ。
「これだけ大きく騒いでいるのだ。手は売っておいた方が良い。人形を」
「かしこまりました」
 そんな会話が聞こえたとか聞こえないとか。

●避難路切り通し
 国境に程近い裏街道。
「でっかいかぶと虫だと?」
 そこを守る警備隊の小隊長の元に、斥候に出ていた兵から報告があったのは、夕暮れ時だった。
「はい。しかもただのかぶと虫ではなく。体長3mの超大型かぶと虫でした」
 何人かで向かった彼らが見つけたのは、荷車ほどもある大きな甲虫だ。この辺りでも話は聞いている大型の化け甲虫と言う奴だろう。
「ふむ。ここにも現れたか。どこで見つけた?」
「ここから2里程の切り通しです」
 その報告を聞いて、頭を抱える小隊長。思いっきりこれから通らなければならない道である。
「通せんぼと言ったところか‥‥。数はどうだった?」
「道の上に2匹、左右の崖に1匹づつ。弓が届く範囲ではありますが、空に2匹でした」
 全部で6匹の甲虫が、夕陽に照らされて、こちらに牙を向く。とてもじゃないが、相手に出来る大きさではないと、回れ右をしたそうだ。
「無視して進むわけにもいかんか‥‥」
「キャラバンを遠回りさせるには、時間が足りませんしねぇ‥‥。お供もいましたから、見つかったら追いかけてくるかと」
 しかも、その空には、開拓者でさえ頭痛を引き起こすあの白い玉のアヤカシが、20匹ほど浮いていたそうだ。
「普通の甲虫と違って、アヤカシの甲虫ですし‥‥。普通の甲虫なら、黒蜜と光で一発なんだがなぁ」
「集光性があるようには見えなかったですね。周囲の光球には向かって行かず、平気で襲って来ましたし」
 さすがに偵察部隊で相手をするレベルのアヤカシではなかったため、早々に引き返してきたそうだ。
「‥‥厄介だな」
 頭を抱えつつ、ギルドに報告を入れる小隊長さん。それには、こう書かれていた。

『でっかいかぶと虫6匹を退治してください。周囲には頭痛を引き起こす光球が20個ほど飛んでおり、注意が必要です』

 子供のとき、遊び相手になってくれた甲虫達とはわけが違う。向こうが遊びのつもりでも、こっちは命がけになってしまうのだから。


■参加者一覧
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
エラト(ib5623
17歳・女・吟
ナプテラ(ib6613
19歳・女・泰
リュシオル・スリジエ(ib7288
10歳・女・陰


■リプレイ本文

 精霊門を越え、現地へと向かう開拓者達。挨拶と打ち合わせは、その道すがら行われていた。
「エラトと申します。よろしくお願いいたします」
 吟遊詩人らしく、腰のあたりに手を当て、優雅に挨拶をするエラト(ib5623)。と、一人だけ元気のよすぎるご挨拶をするリュシオル・スリジエ(ib7288)。
「僕にとっては初陣です。力の限り頑張ります!」
 どう見ても、男の子‥‥希望に胸を輝かせる少年にしか見えないリュシオルの真の性別はさておき、一行はギルドから渡された報告書を片手に、状況を確認する。
「えぇと、依頼内容は‥‥難民一行の行く手を通せんぼしている巨大かぶと虫六匹の退治ですね」
 ペケ(ia5365)がそう言った。確かに、通りの先には、6匹分の羽音が、彼女の耳にも届いている。
「かぶと虫といえば昆虫の王様、普通の物なら男の子達が喜ぶでしょうがこの大きさでは・・・。被害も出ているようですし、早々に片付けなければなりませんわね」
「キャラバンの道程の安全確保もしないと‥‥」
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)にそう答えるナプテラ(ib6613)。商隊はすぐそこに来ているのだが、すでに、ギルドから通達が行っているので、問題が片づくまでは、待っていてくれるらしい。だが、あまり待たせるのも問題だろう。
「デカブツって言っても所詮は虫でしょ? 頭いいとは思えないし、ちゃっちゃと蹴散らしちゃいましょ♪」
 くくくっと楽しそうに嘲笑う霧崎 灯華(ia1054)。言っていることは間違っちゃいないのだが、その死神の鎌の刃を舐める彼女は、とってもまがまがしい。
「まずは実物を確かめないとですね」
 ペケのセリフに、一行はその先へと向かった。と、そこには荷車と同じくらいはあるだろうか。それが切り通しを埋めているのだ。
「うわー。大きいっ」
 おめめをきらきらさせるペケ。しかし、その周囲には、白い羽根の生えた玉が、20個余りふよふよと浮いていた。
「頭の痛くなる布陣ですね。何らかの関与がありそうですが‥‥。ちょっと暗いかも」
 しかも、エラトの見る限り、周囲は木々の陰にかくれ、夕方くらいの薄暗さだ。
「松明、つけましょうか?」
「いえ、そこまでではないです。それに、見つかってしまいますし」
 彼女がそう訪ねるとペケが首を横に振る。幻惑や吐き気を起こすその白い羽根玉が、なんの準備も整えていないうちに襲ってきたら、目もあてられない。
 が、そんな相談をしていた直後だった。
「ちょっと、頭が痛くなってきちゃったかもしれないですね」
「え、もう?」
 マルカに怪訝そうな顔を向けるナブテラ。彼女は首を横に振って、「いえ‥‥あれが」と、もう一人を指し示す。
「いいなぁ。かっこいいなぁ。ああいうの、いつか持って
みたいなぁ」
 おめめをきらきらさせて、アヤカシかぶとむしをガン見しているリュシオル。虫の中でも、大きくて強そうなかぶとむしがちょーーー大好きで、式にまでしているリュシオルは、その化け甲虫が、気になって仕方がないようだ。
「もう。見とれてたって、言うなりにはならないわよ」
「そうですよねー。アヤカシですものね‥‥」
 はぁっとため息をつくリュシオル。同じ式使いとしては、気持ちの分かる灯華の代わりに言ったのは、マルカだった。
「ケモノだったら、まだ話が通じる余地もあったかもしれないですけど」
 確かめる術はないけれど。と彼女は言う。アヤカシは人を食らう。しかし、ケモノは人を食らうとされていても、満腹であれば襲わないと伝えられているから。
「しかし、動きませんね。何であんな所ふさいでるんでしょうか‥‥」
 ペケが首を傾げた。切り通しにいるかぶとむしは、余り動く様子はない。空にいるかぶとむしは、羽音は聞こえているが、やはり留まっている。
「さぁ‥‥。邪魔なのは確かですけど」
「答えはかぶと虫を倒して道を進めば解る筈です。ではでは、バッチリ褌締めてかかりますかー」
 ナプテラの答えに、ペケは腰から少し見えている褌の紐を、きゅっと結びなおして、戦と言う名の排除作業に望むのだった。

 その姿、鋼鉄の如し。主な交通手段は徒歩と言う天儀にとって、例えるもののない巨大な虫は、アヤカシ以外の何者でもない異様さをもって、開拓者達を迎えていた。
「白玉だか何だか知らないけど、メインディッシュはカブトムシだからさっさと仕留めたいわね」
 すでに、先ほどから鈍痛ともとれる不快感が、開拓者達を包んでいる。それでもなお、どこか楽しげな灯華にエラトがこう提案する。
「まず白珠を全て退治後化け甲虫を倒すという流れはどうでしょうか」
 彼女も、その頭痛が自身の調べを邪魔するのは、勘弁してほしい模様。
「そうねぇ。この面々なら、遠慮する必要は無いし」
 すでに、灯華が共に依頼へと赴いたことのある面々ばかりだ。決を採るように、ナプテラが問うた。
「異を唱える方はおられますか?」
 全員、首を横に振る。
「では、その策で」
 陣は敷かれた。後は、上手く行くことを祈るばかりだ。

 最初に動いたのは、やはり灯華だった。
「まずは先手必勝。一発、景気よくぶっ飛ばして行くわよっ!」
「って、ちょっと灯華さん!?」
 エラトが止める間もなく、そう言うや否や、白羽根玉へと飛び込む彼女。しかし、その刹那、先に白い羽根玉の方が動く。
「白球のくせに早い!?」
 灯華を筆頭として、その場にいた全員に、強烈な頭痛の攻撃が降り注いでいた。がんがんとお酒飲み過ぎた次の日みたいな感覚が襲いかかる。
「きたぁぁぁぁっ!」
 頭を抱える開拓者達。しかし、それを跳ね返すように、灯華が叫ぶ。
「このぉっ。こんなもの、あたしの気力があれば!!」
「無茶です! 灯華さん!」
 燃やすのは気力の炎。エラトに彼女は、にやりといつもの表情を浮かべて叫び返す。
「あんた達に、この頭痛を負わすわけには行かないのよ! いくよ、悲恋姫! あんたの悲しみを聞かせてやりな!」
 意識が朦朧となる中、彼女は悲恋姫の符を放った。血塗れ姫の呪符は、強烈な悲しみの声を白羽根玉へと注ぐ。と、同時にばしゅばしゅばしゅっと、白羽根玉が16匹落ち、暗い瘴気と化した。だが、それと引き換えに、気を失う灯華。気力を使い果たし、その場に倒れる。
「灯華の犠牲を無駄にはしないよ!」
 ペケが残りの白羽根玉に、天狗礫を食らわせる。いや、灯華は気力の使いすぎで、文字通り気を失っているだけなのだが。
「死んでない、みたいですけど‥‥」
「だったら、なおさら近付かせるわけに行かないよ。先に、あの白い玉を落とそう! とりゃああああ!!」
 無防備な彼女に、アヤカシが攻撃すると困る。そう判断したペケが、指先から飛礫をお見舞いしていた。さすがに単体ではさほど強くないので、10発も使わずに打ち落とす事ができた。と、ナプテラが気功波で、白羽根玉を打ち落とす。こちらもまた、一回で黒い瘴気と化す。
「皆様、頑張って下さいませ」
 後ろから、マルカが朱春弓を使っていた。射程外とはいえ、相手は動く。決して油断できる相手ではなかったが、それでも1匹は落とせた。
「調べよ。そのビロードの音色によりて、精霊の加護を授けたまえ‥‥」
 その間に、エラトのトランペット「ミュージックブラスト」が、ヴェロア・ランデヴーを奏でる。頭痛が弱まり、自身の力があがっている事を知る開拓者達。
「よし、錬力7を消費し、魔殲甲虫ビートルマグナを召喚!」
 その効果を受け、リュシオルが、斬撃符を引き抜き、己の練力を注ぎ込んで、式へと変える。その姿は、目の前の甲虫にも負けない黄金のヘラクレスオオカブトムシが白羽根玉へとぶっ飛んでいった。 
「行けーっ!マグナァアア!」
 かじりつかれ、瘴気と化す白羽根玉。それはちょうど、残った5匹を倒し終えたところだ。
「これで白珠は全部?」
「そのようです! あ、かぶとむしが来ます!」
 だが、敵はそれだけではない。リュシオルが声を上げる先には、巨大な甲虫が重量を響かせてこちらへ向かってくるところだ。
「あれをこの状態でやるのは厳しいですね。眠って下さい」
 エラトが、夜の子守歌を奏でる。魔力の込められた歌は、甲虫の抵抗を打ち破り、眠りの縁へと追い込むことに成功する。
「動かなくなった?」
「今のうちですわ」
 しゅるりと、闇照の剣を掲げるマルカ。その切っ先は、まっすぐ甲虫に向けられている。
「そこな化け甲虫! 我がアルフォレスタ家の銘と誇りにかけて、この場にて討ち果たさせていただきますわ!」
 その胸にかけるは、騎士の誓約。天儀神教会が復活させたその誓いは、精霊の力を身に宿すもの。
「あれは時間がかかりそうですね。詠唱を途切れさせないようにしてください!」
 ペケがそう言って自らの気を掌に込める。集中された気が、天狗礫の飛礫を螺旋状に動かす。がしがしときれいな円を描きつつ突き刺さったそこへ、ナプテラとリュシオルが押さえにかかる。
「えぇいっ!」
「挟め! マグナノコギリ!」
 気功波と気功拳で、鎧ごと張り飛ばし、呪縛符が甲虫の足をつかんだ。行動の制限された中、ようやく詠唱の終わるマルカ。しかし、今度は甲虫の番だ。角を振りかざし、その一撃でもってペケを串刺しにしようとする。
「って、うごくなぁっ! ああっ、ふんどしが!」
 その激しい動きで、すっ転んだペケの褌が、またもや外れてしまう。あわてて、目をふさぐリュシオル。空中に、ひらひらと褌が舞った。
「わぁっ。あ、あれ? ボクと、同じ?」
 が、謎な事に、三角跳びで踏みとどまったペケにあったのは、自分と同じもの。

 そう、ここには幸か不幸か、ここには女の子の裸を見て咎められる立場の人間は、誰もいなかったのだ!

 リュシオルが目を怪訝そうな色に染めている間に、エラトは再びヴェロア・ランデヴーを唱える。それを受け、まだ他の甲虫が目を覚まさないうちに、マルカは崖を蹴上がって、甲虫の背中へとよじ登る。
「上手く踏み台になって下さいませね!」
 振り落とそうとする甲虫。しかし、彼女はその関節の隙間にしがみつき、中々離れない。そのまま、頭部の付け根にある隙間に、剣を突き立てる。
「悪しき甲虫よ! このまま、散っていただきますわ!」
 ばしゅうううっと瘴気が周囲に飛び散った。エラトの歌で、抵抗の上がった彼女達が、感染する事はなかったが、それでもそのままにしておくわけにはいかなくて。
「今のうちに、灯華さんを‥‥。口笛よ、どうかかの人に再び立ち上がる気力を‥‥」
 エラトが灯華を抱き起こし、心を癒すと言う口笛を吹く。特に目立った効果は現れなかったが、灯華の気力は少しだけ回復したようで、目を覚ました。
「う、うーん。あら? 親玉は?」
「まだ残ってますわ」
 そう答えるエラト。ちょうど、褌つける暇のないペケが奔刃術を駆使して回り込み、1匹倒した所だ。ナプテラもまた、リュシオルと共に、もう一匹を倒した所だ。
「そう。さて、こんだけデカイとどう料理したものかしらねー」
 身も蓋も無い事を言えば、自分の周りに味方がいなければ悲恋姫で、デカイ全身まとめてダメージ与えちゃえばソッコーで終わりそうなのだが。
 残念ながら、周囲は絶賛戦闘中である。そう簡単に範囲攻撃術を使うわけには行かないようだ。
「なら、空を対応した方が良いわね。このままラスボスのおいしい所はいただくわ♪」
 天空にぶんぶんと重々しい音が響く。エラトが怪訝そうに「親玉?」と尋ねると、彼女はその奥を指し示した。
「これだけでかいのが、ただいるわけないでしょ。絶対に黒幕がいる。そっちを見に行って来るわ」
 復活した彼女は、そう言うと、かぶとむし地上組を駆け抜けていった。が、そこへ立ち塞がるかぶとむし。
「邪魔よ!」
 呪縛符が踊る。動きを鈍らせるものの、もう一匹も近付いてきた。
「マグナノコギリ! 手伝えっ!」
 リュシオルが、ノコギリクワガタの式を呼び出し、その体を挟む。
「あらありがと。これで、符を出すのが楽になったわねっと!」
 余裕の出来た灯華さんは、斬撃符でもって、残りの甲虫へと食らわせていた。下手に暴れそうな触角は避け、文字通り足を砕く。それでもなおその場に留まる甲虫に、言い知れぬ不気味さが漂うが、灯華は気にせずそれを飛び越えていた。
「待ちなさい!」
 背中を捕らえたのは、切り通しを抜けた頃。フードをかぶった御仁が、足を止める。
「何の用かな。お嬢さん」
「逃げようったって、そうは行かないわよ!」
 そう言うフードの御仁に、呪縛符を放とうとする灯華。しかし、フードの方が早かった。
「蟲達。足止めを」
 わらわらと現れるのは、体長20cm程のカナブン。小さい分、奴らの方が早く、あっという間にたかられてしまう。それに対処しているうち、フードの姿は見えなくなっていた。
「ああもう! 仕方がないわね。それじゃあ、血祭り開催と行きましょうかしらっ」
「相手にするのはこっちです。上を狙って下さい!」
 八つ当たりをするように、符を放つ灯火華。関節の部分に突き刺さるそこへ、彼女は、羽虫でもぷち潰すように、こう言った。
「あたしの邪魔をするのは許さない。そんなに死にたいなら、地道に潰して上げるわ!」
 死神の鎌が踊り、甲虫達は容赦なく撤去されるのだった。

 脅威の無くなった切り通しを、開拓者達に見守られながら、商隊が進んで行く。不安げな一般市民もいるが、自分達の姿を見ると、護衛が付いていると安心したようだ。
「はー。これが開拓者の戦いなんですね! 僕も経験を積んで、早く皆さんのお役に立てる様になりたいです!」
 そんな彼女達を、憧れのまなざしで見上げる10歳児。リュシオルである。
「あら。ちゃんと役に立ってたわよ。呪縛符1枚分だけど」
「そんなぁ」
 灯華さんに、褒めてんだかけなしてんだかわからないセリフを言われ、ほんのり苦い思い出が増える。当の灯華さんは「ま、これが実力の差って奴かしら?」と、ケラケラ笑っていた。
「しかし、あれほどの物、標本に出来ないのが残念ですわね」
「ほんとですよ。あれを捕獲できたらどんなに良い相棒になるか‥‥」
 アヤカシは瘴気になってしまう為、モノは残らない。残念そうにそう言うマルカと、物欲しそうな顔をしているリュシオル。
「天儀には、まだ見ぬ生物がたくさんいると申します。いつかは捕獲できるようになるやもしれませんから、これを食べて英気を養いましょう?」
 そんな彼女達に、エラトは貰った岩清水と陰殻西瓜を切り分けて差し出すのだった。