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■オープニング本文 闇夜に包まれた、とある場所にて。 「ふむ。彼女は失敗しましたか‥‥。まぁ良いでしょう。元々、それほど期待していません」 逃走した陽貴の事を書いた瓦版。それを手に、くたりと首を動かす青年が1人。 「しかし、材料を燃やしてしまうのはいかにも勿体無い。でしょう?」 彼の話を聞くのは、人形のような顔をした人妖だった。黙して語らず、ただ青年にしなだれかかるのが楽しいような人妖を、青年はいとおしげに撫でる。 「楠も嘆きの回収を行ってくれているようですし。ここは1つ、騒ぎを起こしてあげるとしますか‥‥材料費が掛かりますからねぇ。この子には」 そんな彼らの足元には、何やら陣図のようなものが書かれていた。 その頃、何とか砦を守った開拓者達には、次なる事件が勃発していた。 暴走した未綿の里長は倒されたが、アヤカシは逃走してしまったとの事。それでも、砦に残っていた人々は都に戻り、そしてある者は里へ戻ると言う選択をしていた為、その尽力を行うと言うものだ。 もっとも、都では修羅騒動でテンパっている部分もあり、中々追いつかない部分もあるのだが。 「では、処分はそのように」 「はい。まぁ‥‥怖いですからね」 暴動の折に、回収されたのは、人々を操っていた『人形』の残り。多くは、開拓者の手によって壊され、破棄されたが、出来が良いためか、幾つか残っているものもあった。 今は活動を停止しているが、アヤカシの鍵となったような人形である。その為、人々はそれを集め、焼却処分をする事になった。 人形が箱の中に集められ、次々と都に運ばれていく。強い火力を持つ鍛冶場で、跡形もなく焼いてしまおうと言うのが、決定した予定だった。 とは言え、人形200体。焼くにも時間がかかる。おまけに、その間危ないからと、人々を避難させているので、手が足りない。その為、人形の7割を別の里に置いておき、順次鍛冶場へ持ってきて燃やすと言う方法が整えられた。 「うーっし、これでいいなっ」 湖の上に設置されていた桟橋に、船を横付けする船長。襲撃の影響で、まだ船が使えないていたらくだが、その腕を寝かせておくのは勿体無いと、お空を飛ばない方の船を、操船している仕事のようだ。大きさは1人でも操作できるくらいの小型輸送船である。それに、里から人形を受け取り、鍛冶場まで運ぶと言うのが、今回のお仕事だった。 同日、未綿の里。 「いくらうちのボスがやらかしたからって、なんでうちにこんなはた迷惑なものを置くかなぁ」 「仕方がないよ。迷惑かけちゃったみたいなんだしさ」 未綿の里。その中心部に近い村で、人形達が集められ、積み上げられていた。これからそれを、船に乗せて湖から運びだし、鍛冶場の劫火で焼こうと言う算段らしい。 「でも、勿体無いよな。こんなに綺麗なのに」 「触っちゃダメだよ。また操られちゃうかもしれないじゃないか」 里の人々も、扱うのはおっかなびっくりだ。都から来た見張りの兵が歩哨に立ち、人々の目から離した所で、ひっそりと積み下ろし作業を行う予定だった。 ところが、である。事件はその人目につかない事があだとなった。人形達が突然カタカタと動き出したのだ。見れば、積み上げられた場所の周囲には、墓所が見える。そこならば、人々も恐れて近付かないだろうと言う判断だったのだろうが、逆に瘴気とアヤカシを招いてしまったようで。 「ウォォォォン‥‥」 鳴きながら、人形達が次々と集まって行く。驚いた歩哨が、弓を撃つが、それすらも取り込まれてしまう。隊長と思しき者が、退避を告げ、村人の避難を行うよう指示する。歩哨達が走り回り、置き去りにされた盾や鎧を取りこみながら、人形は1つの固まりになって行く。 「まるで、鉄くずの塊のようだ‥‥」 誰かがそう言った。見れば、取り込まれた金属物質は、鉄くずのようにボロボロになり、そのまま吸収されている。歩哨が撃った矢も、鏃の部分だけが鉄くずになっていた。 船長が船から目撃したのは、まさにその時だった。未綿の里に保管された人形を運ぼうとした矢先である。 「なんだ? あれ‥‥」 岸壁に浮かび上がる黒い塊。それは、徐々に大きくなり人の形を作って行く‥‥。そして、とうとう湖岸にある低木を追い越し、家よりも大きな人形のような者になっていた‥‥。 「ウォォォォン‥‥」 黒い塊が人となったようなそれは、かぱりと口を開く。そこからは鍛冶場で熱せられたような赤い塊がちゅどんと炸裂し、周囲の低木を火に包んでいた‥‥。 「どうやら、人形が暴走しちまったようだな‥‥」 見れば、その黒い影を構成しているのは、未綿の里に置いてあったはずの人形達だ。何人かは見張りが居たらしいが、それすらも取り込んでいるのだろう。隙間には、剣や鎧や盾が鉄くずと化して入り込んでいる。 「いわば鉄くず人形ってところだな。こいつぁ、やばいかもしれない」 その向かう先には幾つかの里がある。そしてそれは、はっきりと鍛冶場の方向を向いていた。それを確かめた船長は、くるりと船を回れ右させると、都へ戻るのだった。 『鉄くずが人型になって、鍛冶場へ向かっている! どうやらアヤカシの手によるもののようだ! このままでは、都も人里も危ない! このはた迷惑な鉄くず人形を撃破しようって奴を求む!』 なお、歩みは亀より遅いので、時間的には若干の猶予があるようだ。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
浄巌(ib4173)
29歳・男・吟 |
■リプレイ本文 初めて人形を見た浄巌(ib4173)曰く。 「‥‥驚きぞ。さしもの大きさになり得るか」 暫し、唖然としている。これだから開拓者は辞められないと思いつつ。 「まずはあの鉄くず人形まで行かへんとなー」 天津疾也(ia0019)は様子を見に行く事にしたようだ。 「では、そちらは任せた。こちらは先に村までいってくる」 からす(ia6525)がそう言って、鉄くず人形とは逆方向へ向かう。進路から外れたそれに、天津が首をかしげていると、彼女は一言こう言った。 「保険じゃ、保険。ほら働け、船長とやら」 「何で俺まで借り出されるんだよー。ったく、もう少し空賊としての尊厳を持ってだなぁ」 職員とか伝令とか言う便利な人々は出てこないので、借り出されたのは船長らしい。ぶつぶつと文句を言う船長を一蹴し、村人達の避難に取りかかる。まだ、到着まで1日はあるし、村からも見えるから、充分に逃げる時間はありそうだ。 「大至急避難してくださいまし」 とは言え、あまりのんびり見物もしていられない。鈴木 透子(ia5664)もまた、村人の避難を申し出ている。 「特に、金属で出来ているものは、取り込まれるから、大事なものはしっかり持って行くようにー」 「鍋やお釜のようなものも、持って逃げてもらえると助かりますー!」 透子もまた、避難に声を張り上げている。結構な人数のいる村なので、彼女2人だけでは足りず、霧崎 灯華(ia1054)は現地に居たいわゆる『関係者』も動員している。 「あんた達、今度はアヤカシ相手なんだから、きっちり働いてよね」 よく見れば、人形が鉄くずと化す原因となった砦に詰めていた面々だ。言われた通り、ありあわせの丸太で投石機をこしらえている。余り飛距離はでないが、牽制くらいには役に立ちだろう。 「さて、どう料理したものかしらね?」 予想通り、丸太の櫓ごときではびくともしない。その間にも、ずんずんと人形は近付いてくる。 と、その正面には、ちょっとした台地があった。まるで舞台のように盛り上がった芝生。平時ならば、この辺で弁当でも広げるのに適したそこで、青き芝生に降り立つ翠の乙女が約一名。 「ああ、あれはきっとこの間の合戦で失われた伝説の鎧‥‥」 祈りを捧げるように見つめたのは、アルネイス(ia6104)だ。その視線の先には、誰かの鎧や刀などが張り付いている。 「きっとあの表面に張り付いているのは、切れ味を良くしようと頑張った刀‥‥。袖のパーツに使われているのは、思い出のお守り‥‥。きっと、あれは涙を拭った手ぬぐい‥‥」 中には、どーーーー見たって鉄くずにはなりえない品もあるんだが、神楽の都では、お守りが鉄くずに化けることがあるので、あながちないとも言えない。 「まぁ、これ以上進ませるわけにはいかないかなー。さて、どうする?」 開拓者達の武器防具の殆どは金属が使われている。天津の槍もその1つ。だが、アルネイスは何かに気づいたように、こう言った。 「鉄くず人形は金属制の物を取り込んだり腐食させますが、木製の物は腐食しない‥‥そう言う事ですか!」 確かに、普通の木々は、重さで薙ぎ払われたり、枝が折れたりはしても、腐食そのものはしていない。それを見て、彼女は思いついたようだ。 「私達は「くず鉄」に対抗できる唯一最強の防具を知っている! それは『鍋のふた』です!」 確かにアレは、防具として開拓者達の間で取引されている。犠牲にしてもいいと、タワーシールドを持ち込んでいた百舌鳥(ia0429)は、いつも通りの飄々とした表情でもって、「なるほどねぇ」と頷く。確かに、タワーシールドよりよっぽど安心かもしれない。 「ほんじゃま、あの鉄の塊さんも、そうそうとくずに戻すとしますかねぇい」 煙管の焔種が、ぽふんと鳴った。 対処法がわかれば、後はそれを実行するだけである。とは言え、泰拳士の梢・飛鈴(ia0034)には、金属を腐食させるとか、そう言った事は念頭になく、びしぃっとその拳を突きつけていた。 「そこの鉄くずっ。こっから先は、一時停止アルよっ」 そう宣言すると、突きつけた拳を、右足の膝へと振り下ろす。人型をしている以上、人の子と同じ弱点であるはず‥‥と思ったわけだが。 「うわー、硬ぁっ」 鉄を殴りつけているような衝撃に、思わず文句がこぼれる。後ろに回り込むようにして、膝裏の同じ部分に攻撃してみるが、通常のダメージ程度しか入らない。 「‥‥はて、コイツに経脈って存在するンかいな?」 点穴の効果はなさそうだ。だがそれでも、天津は同じ用に脚の一箇所を狙っていた。 「わからん。けど、普通は足を狙えば、自重で自滅するやろ。負担のかかりやすい場所から削っていかへんか?」 「了解アル。っとぉ、ぶっ飛ばして来たアルね」 流石に、武器を壊されてはかなわない為、回避に専念するはめになる梢。その間に、彼女が狙った右足へ、虚心で避けた天津がダメージを蓄積させていく。白梅香で衝撃を倍化させた一撃を食らい、動きが止まる。そこへ響くは、からすの響鳴弓。 「鉄くずを吸収するとな。だが封じられた音まで盗めはしまい」 張り詰めた現から、音が流しこまれる。鏃が放たれたそれは、急速に速度を増すが、こめられた術は、ちょうど胸の辺りへ吸い込まれ‥‥弾けた。 「あの辺りかのう」 「そうでもないで。あちこちにあるし」 だが、天津の指摘通り、どこか一箇所に定まっているのではないのかもしれない。 「しかしカテー奴だなァ。脚さえ壊しゃ、後はただの的‥‥いや、元から的か。幾つ潰せばいいのやら」 進むのに支障が出るほど、ダメージが重なっているようには見えないが、それでも足を止めた人形に、梢はしびれる拳を振ってそう言った。 「デカブツだし、どんどん鉄とか吸収して大きくなってくみたいだから早めに倒した方がよさそうね」 灯華が、その辺に転がっている石をぶつけさせているが、若干でも金属を含むと吸収するようで、あまり効果は挙げられていない。重ねて、結構な重量を持つため、倒す方向にも注意しておく必要があるだろう。 「あの生えてる人形を潰せば、何とかなるんでね?」 「かも知れないわ。鉄に殴りかかるよりは、行けるかもしれないわねっ」 灯華と梢が、表面に見える人形を壊して行く。点穴で潰す梢に対し、符をばら撒く灯華。早めに倒そうと、手数を消費していくが、その間にも、人形は回りの鉄くずを吸収している。サイズが大きくなる速度は遅いが、それを見た透子は、首をかしげた。 「あの大きさ‥‥おそらく、複数の人形が集まって、周りの金属を引き寄せながら、一体として動いているのでしょう。これってもしかすると、核になっている部分があるのではないでしょうか?」 もしそうなら、探し出してみたい透子。どこにあるかが問題だが。 「確かに、このまま色々やってみるのはいいけど、やっぱ核潰さないとダメだと思うのよね」 灯華がそう言った。見れば、不動のスキルで防御力を上げ、タワーシールドを持った百舌鳥が、浄厳達後衛の前で、咆哮を上げている。 「ぬお、結構しんどいぞこりゃ、なんだが結構おもしれぇなぁ!」 接近してはいるが、囮になるより先に、他の面々が攻撃してしまっているようだ。 「エチュードと葛藤を交互に弾いた方が良いでござろう」 近付くには、まだ時間がかかるだろう。その間に浄厳が、笛「小枝」の音を響かせる。どちらが聞くかは試してみないとわからないが、少なくとも効果はありそうだ。 「盾は任しときぃ。いくのはどっちだい?」 既知の友でなくとも、後衛を守るのが仕事と自覚しているらしい百舌鳥が、盾を構えなおす。ぐいぐいと引き寄せる力は、思いの他弱くなっていた。 「関節を狙えば、何とかなるかもしれんでござる‥‥!」 そこへ、斬撃符を放つ浄厳。皆が集中攻撃している部分を狙ったのだが、それでもすぐに修復してしまった。 「やはり、コアのある場所を狙わなければ‥‥。船長さん、ちょっとお手伝いいただけますか?」 「お、俺?」 その様子に、透子は矢の羽根に紐をつけ、地面に固定していた。そして、避難誘導をしていた船長を招き寄せ、こう言い出す。 「ええ。船長さんなら、三角関数は御存じですよね? 航海には必須だと聞いています」 「あー‥‥。ま、まぁな」 何故か、明後日の方向を向く船長。しかし、彼女は気付かず、こう頼んでいた。 「矢を飛ばせば、それを起点にして、核を探し出せる筈です。船に分度器はありますよね? あと、三角比の表も」 「そんなモン何に使うんだよ。空の上じゃねぇし」 想定外の物を要求されて、首をかしげる船長。と、透子は地面に図を書き始めた。 「いいですか。矢の位置をAとした場合ですね。三角比で位置が割り出せると‥‥」 なにやら、やたら数字が並んでいる。陰陽師特有のモノにしか見えないそれに、船長は頭を抱えていた。 「そいつはいいが、あの表は空用だ。地上のこの距離じゃ使えねぇよ」 曰く、三角比は天文学的数字の距離を測る際に、誤差修正用として用いられるので、目の前ずんずん進む人形くらいの距離では、意味がないそうだ。 「えぇぇぇ、じゃあどうやってコアの位置をわりだすんですかぁ」 「この位置からなら、直接調べに行ったってわかるだろ!?」 何もそこまで難しく考えなくてもいいようだ。頭の中に浮かんでいた公式を、自分の中にだけ止めて、透子は人形の進路上に、距離を測る目盛りを書いてもらう。 「やってみます。えぇと、この高さなら‥‥」 計算をはじめる透子。しかし、その間にも、人形は目の前の『邪魔な』開拓者達を攻撃している。このままでは、百舌鳥の盾を抜けて、彼女にも攻撃が来るのは必定だ。 「そう言うことなら、任せてください」 だがそこへ、再びアルネイスが立ち上がる。 「あぁ、さぞ無念でしょう。エレメンタルローブ‥‥夜空の魔法帽‥‥呪殺符「海妖」‥‥くず鉄に変えられた思い出が脳裏によみがえってきます‥‥」 相当鍛冶屋に通い詰めていたらしい。アルネイスの脳裏と言うなのお空に、生贄になった各種武器防具道具呪符その他が並んで行く。 「何か始まったぞ」 「今のうちに‥‥・」 その間に、透子達は核になっているであろう人形の位置を、測定していた。が、彼女は気付かず、人形へと対峙する。 「大丈夫です、私が代わりに貴方達の思いを伝えます。だからどうか今は安らかに眠りなさい」 懐から取り出したのは、天儀人形「紫陽花」。その刹那、計算を終えた透子が、人形のへそ辺りを指し示す。 「アルネイスさん! コアの位置はあそこです!」 「さぁ、土に還りなさい!」 足元で、隷役と地縛霊の罠が発動していた。地面から、紫陽花人形によく似た式が生え、ダメージを与え続けた右足を引きずりこむ。それでもなお、ある方向へ向かおうとする人形に、百舌鳥はこう言った。 「なるほど。てつくず‥‥方向から、狙いは鍛冶場。ああ、因果方法だからほっておいてもよくね? ダメか、ですよね」 「鍛冶場はどうでもいいけど、村に入られると面倒やしなー」 その間に、何とか体力を回復させた天津が、核の部分と思しき場所に。雷鳴剣を食らわしていた。元が金属なので、ダメージが広がるかと思ったが、そうでもないらしい。それでも、人形が歩みを止めた事で、むしろ好機とばかりに、遠慮なく攻撃していく。振り上げた拳は、虚心でぎりぎり回避し、体のすぐ側を掠めた人形を壊して行く天津。 「弱点に届くかどうか分からぬが、狙ってみるかの」 そこへ、月涙を使ったからすが、へその辺りへ狙いを定めた。その様子に、灯華も、血の契約へ己の生命力を注ぎ込む。 「こっちも厳しいわね。でも、めんどうだわ」 幾重にも結ばれる契約。体力を使いすぎてふらふらするが、それでも彼女は時間をかける事をよしとしなかった。 「って。灯華さん、それは危険です!」 「百も承知よ。後は任せたわ」 構わず悲恋姫を使う灯華。 「結界よ!」 その間に狙われてはいけないと、透子は周囲に符の壁を張り巡らせる。くみ上げられた結界の舞台で、浄頑が歌を奏で始めていた。それは浪々と響き、人形の動きを鈍らせる。 「重き枷は苛む邪悪 道を這え映え紅き跡。並べて此処に神は来ず 叫べ命の断末魔‥‥」 「さあ、どっちの『想い』が強いか勝負よ♪」 背負った気は、寄せ集めの人形になど負けはしない。それは、アルネイスが今までくず鉄に変えちゃった品々と同じ。 「私の力となってくれている装備品の数々‥‥この子達は多くの強化という試練に打ち勝ちました」 だからこそ、今ここにある。 「この子達があるから、私はこれだけ戦える! 全ての力で貴方を止める!」 刹那、アルネイスはその手に懐から陰陽符「アラハバキ」を取り出す。幾重にも強化した符が、彼女の中で輝きを放つ。 「貴方達くず鉄の存在はこれだけの力を産みだすための軌跡なのです!」 人形の中心めがけ、アルネイスの宣言と共に、式が包みこむ。隷役と蛇神の力で、全ての力を一転に叩き込まれた人形は、泥人形が崩壊するかのように、ゆっくりと元の鉄くずへと戻って行くのだった。 さて、残骸はかなり広範囲に散らばっていた。とはいえ、村1件あるかないか、なのだが。 「さて‥‥此れは誰が片すものかの。いやはや、これは‥‥やりおるわ」 「折角だし、まだ使えないかしらね?」 からすの提案で、村人と共に、ゴミ拾いの要領で集めたそれから、鍛えなおせなくても、呪術武器の材料にしようと考えていたらしい灯華、がさごそとひっくり返すが、めぼしい者は見つからない。 「何か使えそうなもンでもねーかな‥‥と思ったケド、所詮鉄くずだからあるわけねーか」 梢もまた、同じ事を考えていたようだが、思ったものは見つからない。その間に、人形の残骸は、その殆どが村の広場へと集められていた。 「このまま、焼き払うのが正解じゃないのかねぇ」 「ふむ、火葬と言うわけじゃな。では、しっかりと供養する事にしよう」 梢の提案に、頷くからす。人形供養の要領で祈りが捧げられ、浄厳が供養の歌を奏でる中、火がつけられる。 「転生の夢、再び武具として力を振るう夢を見て今は安らかに眠るがよい」 煙となったその先で、人形達は今度こそ誰かの役に立つ道具として生まれ変わる事が出来るよう、からすがそう呟いていた。 「しかしさ、やっぱアレだよな。鍛冶屋が俺らにとって最強の敵じゃねぇのかね?」 「さぁな。だが、そう思ってる奴は多いかも知れねぇな」 百舌鳥にそう答える船長。確かに気がついてみれば、約一名姿を消している。 「うっぎゃあああああ。だ、誰だよお嬢ちゃんわぁぁぁぁ!!!」 その後、とある鍛冶屋が謎の少女によって襲撃されたとかしなかったとか。 でもそれは、また別の‥‥お話。 |