【修羅】悪鬼羅刹
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/21 15:18



■オープニング本文

●朝廷へ
 酒天の部屋は、開拓者ギルドの最深部にあった。
 形式的なものではあるが、一日中部屋の外に誰かが待機し、監視と用聞きを兼ねている。もっとも、それは前述の通り形式的なもので、酒天はちょくちょくと部屋を抜け出してはいるのだが。
 その部屋で、大伴と酒天が向かい合って座っている。
 大伴の隣には、職員見習いの少年が肩を小さくしていた。
「貴殿を迎えるよう、遭都より命が下った」
「へぇ、何だ。磔刑でも決まったのか?」
「しゅっ、酒天さま!」
 素っ頓狂な声を上げた少年を手で制して、大伴は言葉を続けた。
「和議に向けた動きは進んでおる。修羅と天儀数百年のわだかまりを考えれば簡単なことではあるまいが‥‥の」
「そうだろうな」
 が、和議を結ぶ為には酒天がおらねばならぬ。その為にも酒天の身柄は必要であり、これからはこれまで程に無断行動に目を瞑るわけにはいかなくなるだろう。一路遭都へ。移動は精霊門。陸路では時間が掛かる上に、安全面にも不安が残るからだ。
 もっとも、酒天としては「船」に乗りたかったようだが。

 逢都の東南。
 湖の広がるその上空は、空アヤカシから防衛する開拓者達で埋め尽くされている。だが、足元の湖でもまた、アヤカシからの襲撃を受けていた。
 湖には、幾つかの船着場がある。その1つ、比較的大きな荷出し用の港では、アヤカシに備えて幾つかのバリケードが築かれていたのだが。
「悪鬼兵に羅刹妖兵だと? 聞いた事がないな‥‥」
 修羅をめぐる騒乱で、初めて確認されたアヤカシ。姿形は、小鬼に類しているが、かなり器用に武器を使うアヤカシだ。もし、小鬼が駆け出しだとすれば、それなりに訓練された兵と言うことだろう。
「くう、上空の迎撃は、開拓者に任せるとしても、この砦を守るには足らんな‥‥」
 港を取り囲むアヤカシ兵の数は、20〜30と言ったところだ。それだけの戦力を差し向けて、手に入れたいほどの力が、ここにあるのかと言うと。
「ひょっとして、奴が狙ってるのは‥‥」
「こいつだろうな。なんでまたかぎつけられたんだか‥‥」
 不安をちらつかせつつ、振り返れば、そこには船長の姿があった。そして、彼が身を立てかけているのは、修復の進む自分の船。そのパーツだった。
「アヤカシが精霊砲を手に入れてなんとする。志体持ちでなければ、動かせない品だろうに」
「志体持ちが、人の味方してるとは限らないさ。ひょっとしたら、中の宝珠だけが目的なのかもしれないし」
 そのパーツは、砲台の形をしていた。ゴーレム技術と、大筒の技術、そして宝珠を組み合わせた主砲だろう。アヤカシに解体出来るとは思えないが、出来なければ粉砕すれば良いと思っているのかもしれない。
「距離、500と言ったところでしょうか‥‥。炎、来ました!」
 おそらく、上空の空アヤカシが援護に動いているのだろう。牽制気味に放たれた炎に、見張りの兵が右往左往している。慌ててバリケードの内側へ引っ込む彼らに、船長がしっかり混ざりながら、「どうするんだ?」と尋ねてきた。
「さほど数は多くないが、相手の手の内がわからんのは、厳しいな」
「ここは、朋友もアーマーも入れねぇしなぁ‥‥」
 船着場は大き目とは言え、かなり入り組んでいる。高さを稼げば、朋友は展開出来るだろうが、外側で、大きな龍を展開できる空間は、なさそうだ。ましてや、ゴーレム等は持ち合わせていない
「とにかく、志体持ちを集めろ。兵士でも開拓者でも構わん。10人もいれば撃破は出来るだろうが‥‥。気は抜くな」
「‥‥俺も一応持ってるんだけどな」
 指示をする守護責任者に、船長は苦笑しながらそう答えるのだった。

 だが、その頃港の外側では。
「砦はこの先か‥‥」
 ずらりと並ぶアヤカシの兵達。それを率いるのは、ジルベリア風の装束を身につけた、人の子に見える存在だった。
「ウィキキキキ」
「キキキ‥‥」
 悪鬼兵も羅刹妖兵も、言葉を発するわけではない。だが、牙を剥くその姿は、今にも攻撃を仕掛けんとする兵士そのものだ。そんな彼らを睥睨し、ジルベリア風の青年はこう命じている。
「落ち着け、お前達。負の感情ならば、この先にたっぷりと詰まっている。だが、今はまだその時ではない」
「ギギ‥‥」
 頭を垂れる羅刹妖兵。その見かけもまた、ジルベリア風だ。見れば、持つ武器もまた、西洋風の武器防具で、アヤカシらしき言葉を発する事を覗けば、ジルベリアの一群が攻めて来たようにも見える。
「間もなく、慌てた奴らが呼び集めるであろうな。ククク‥‥」
 ニヤリと笑うその口元には、鋭い犬歯が覗いていた‥‥。

【補給用の港に、悪鬼兵と羅刹妖兵が多数表れやがった。人ンちの船を狙ってやがるらしい。朋友を持ち込めるような広さじゃねーが、精霊砲が敵に回ると面倒だ。おまけに補給用の物資も預かってる。撃退を頼んだぜ!】

 ギルドに船長の弁で依頼が載っている所を見ると、どうやら借り出されたようだった。


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
周藤・雫(ia0685
17歳・女・志
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔


■リプレイ本文

「お前らは俺の一番嫌いな【偽兵】を俺に見せた。その対価は、大きいぞ」
 怒りをはらむ竜哉(ia8037)。だが、そんな思いをバカにするかのように、気配へ気付いた小鬼が鳴いた。地鳴りのようにも聞こえるそれに、開拓者達はドッグを目指して、斬りこんでいく。
「ドッグ内部の守備と、外回りで撃破する2組に別れた方が良いと思います」
「わかった。僕は中にいくねっ」
 周藤・雫(ia0685)の提案に、開拓者は二手に分かれていた。輝夜(ia1150)達ドッグ外班は、そのままドッグの外側で迎撃をする事になる。天河 ふしぎ(ia1037)達ドッグ内班が小鬼達の群れを抜け、ドッグ内に入り込む中、外組は早速悪鬼兵達の掃除を始めていた。
「遅い‥‥食らいなさい!」
 ドッグを常に視界に入れながら、雫が斬りかかる。一番近い敵をざっくりと切り付ける。盾を持っている悪鬼兵が割り込んで来る。横踏のスキルを使って、その攻撃を回避した雫は、盾を持っていない方向へと回り込むと、その刃を食らわせた。
「敵の数が多いですね‥‥」
 心眼を使い、確かめてみれば、後から後から現れる。こちらも、それなりに技を使ってはいるが、さすがに行動が追いついていない。
「んだァ?邪魔だ退け」
 鷲尾天斗(ia0371)も、邪魔くさそうに言いながら、近くに居た小鬼を槍の一振りで粉砕していた。面倒だと、ため息一つつきながら。
「三下がゾロゾロ集まっても、三下に過ぎねェって言う事を教えてやるから、かかって来いやァ」
 光のないように見える凶悪そうな眼で、挑発する彼。一撃必殺とばかりに、固まってきた悪鬼兵へ流し切りを叩き込んだ。その一撃で振り払われる悪鬼達を見て、天斗は嬉しそうに、刃をぺろりと舐めた。
「いいねェ、この後ろを気にしねェで思いっ切り欲求不満をぶつけられるって言うのはよォ」
 一応周囲を気にしながらも、にやりと笑う。何か嫌な事があったのかもしれないが、ここは聞かないでいてあげよう。その間に、ふしぎはドッグの中へと入り込んでいた。
「皆、大丈夫っ!?」
「おう。まだ平気だな」
 駆け込んできたふしぎが、真っ先に向かったのはノイ・リーの元だった。
「よかった。じゃあみんな、精霊砲の直衛は任せて! アヤカシ共には指一本触れさせないんだからなっ!」
 が、その視線は船長に向かっているわけではなく、その後ろで建造中に船と精霊砲に注がれている。
「って、おまいどこみとんねん!」
 船長がそう言うと、ふしぎはくるっと振り返ってにっこりと笑う。
「ノイ、飛空船と精霊砲はしっかりと守るよ…」
「お前‥‥」
 おててを差し出してきた少年に、ちょっとほろりとした様子の船長。だが、そんなほろり感を打ち砕いたのは、ふしぎの次の一言だった。
「だから、あの飛空船頂戴!」
「だれがやるかいっ! 折角作り直したばっかの俺の大事な船をっ!」
 笑顔のまま言われて、その腕をはたく船長。そのまま作りかけの船にべたべたと触り、手の後をべったりとつけた上、目印のサインまで入れていた。残念そうに「ちぇー」と頬を膨らますふしぎを尻目に、鈴木 透子(ia5664)はドッグのはしごを使う。
「ではここはお願いします。ちょっと屋根に上がって見て見ますね」
「私も行こう」
 大蔵南洋(ia1246)と共に向かった先は、ドッグを見下ろせる屋根の上だ。入り口と出口を見下ろせるそこは、小鬼達の動きもわかると言うもの。
「確かに、小鬼達が組織立っているように見えますね。ほら、右と左に部隊を分けて居ます」
「見取り図は、あるのだろうか?」
 南洋がそう問うと、透子は手元にメモを広げた。そして、今しがた見てきたどっぐと港の位置を簡単に示す。
「先ほど、皆が居た部屋に、港の地図がありました。確か、こうです」
「ふむ。後で確認せねばなるまい。敵の展開上、この桟橋から、大勢で迎え撃つ気なのだろうな」
 小鬼の動きは、港の先端にある水側の出口から、何とか中に入ろうとしているようだ。多くは、他の開拓者達が食いとめているが、あふれた小鬼が左右にわかれ、その壁を登ろうとしているのが見える。
「それで、入り口の左右に‥‥」
 おそらく、中にある船か精霊砲が目当てなのだろう。桟橋を占拠すれば、湖に出るのはたやすい。アヤカシに操られた船は、連中にとって強力な戦力となる。
「下で待つ者達に伝えねばなるまい。きゃつらの目的が分かった以上、な」
 叩きだせ、と。

 群がる小鬼を相手取り、オラース・カノーヴァ(ib0141)の術が響き渡る。
「ブリザーーストォォォーーーム!!」
 刹那、魔力が氷雪の嵐が、悪鬼兵を複数包みこむ。だが、幾人かは残り、その冷たい嵐を乗り越えて、ドッグへと迫る。
「強化されているな。やはり、駆け出しではうまくいかぬ量と言った所か‥‥」
「第二陣、来ました!!」
 雫が声を上げる中、狭い通路から現れた悪鬼兵。ドッグの入り口には、様々な部品らしきものや、燃料らしき樽も転がっており、容易に全体魔法は使えない。
「一匹ずつ相手をしなければまずいか。アークブラストッ!」
 確実に捕らえた魔法が、一匹を葬る中、数を減らした彼らに、オラースは思わず口にする。
「やったか?」
「いえ、まだです!」
 見れば、鎧を身につけた羅刹妖兵が、幾人かの悪鬼兵を取り集めて、遠ざかる所だ。その品は、ジルベリア風に装飾されており、竜哉が怒る理由もよくわかる。料理の味付けに、ジルベリア色の強い物を好むオラースも、気持ちはよくわかった。
「くっ。装備さえも強化された品だと言うのでしょうか?」
「そうかもしれないな」
 雫が、刀で相手の斧を弾く。くるくると飛び、地面に突き刺さって得物のなくなった悪鬼兵を、オラースの魔法が粉砕していた。すかさず拾って、懐へとしまうオラース。
「商店で聞いてみるか。出元がわかるかな」
「船長がご存知かもしれませんね」
 衣装はジルベリア風だ。名前以外、素性がわからない船長だが、商売をやっている以上、なんらかのコネはあるだろう。そう判断する雫。
「後で回してみるが…もう少し材料が必要そうだな‥‥」
 斧一本だけではわかるまい。そう判断したオラースは、悪鬼兵には任せておけぬとばかりに、前へと出てきた一回り大きな鬼に、地震の魔法を向ける。
「やりますか?」
「どれほどの魔法に耐えられるか、試して見る価値はある!」
 そう言うと、アークブラストムを唱えるオラース。氷雪嵐が辺りを包む。耐え切った羅刹妖兵は、お返しとばかり炎の塊をぶつけてくる。いわゆる、ファイアーボールだ。
「刀の間合いであれば‥‥そう簡単にはやらせません!」
 そこへ、雫が走りこんで、その大降りの隙間に、自身の刃を滑り込ませた。接近の勢いをそのままに、フェイントをかけ、眼前につきを繰り出す。
「せぇぇいっ!」
 思わずのけぞった直後、横踏で側面へ回り込み、今度は振り下ろす。ごとり、と嫌な音がして、鬼の首が飛んだ。
「魔法は流石に一種類と言ったところだな」
 消火を兼ねたブリザーストームがお見舞いされる。指揮官を失い、散り散りになる悪鬼兵から、矢を払いのけた刹那だった。
「敵の一団が、裏に回りこもうとしてます!」
 透子が屋根の上から知らせて来てくれた。
「やはりか! 中には!?」
「既に配置について居ます!」
 内部班は、既に迎撃体制を整えているようだ。それを知り、二人は合流するべく内部へ向かうのだった。

 ドッグの入り口では、派位置についた竜哉が、声を上げてい亜。
「いいか。意地でも精霊砲には近づけさせるな! 知恵が回る相手だと思って良い!」
 人質くらいは取るかもしれない。そう思い、既に作業員達は船の中へ退避させてある。苦無を握り締め、ちらほらと入り始めた鬼達に、その切っ先を向ける。
「またわらわらと、よくもまぁこれだけの数の小鬼共が集まってきたものじゃの‥‥」
 きしゃああああっと咆哮する鬼の前に、ゆうらりと姿を見せたのは、輝夜だった。
「どこから現れたのかは知らんがな」
 超越感覚で、ドッグ内の異常を探り、壁を乗り越え、扉の隙間から入り込んだ悪鬼兵を探り当てたのだろう。早駆けで救援に駆けつけた彼女は、その動きを一瞥して、自身の得物を振り上げる。
「仰々しい名前じゃが所詮は小鬼の一種、たかがしれておる」
 ぶうんっと大降りの一撃が振り下ろされた。防御ごと一気に叩き潰すつもりなのか、がきんっとその武器ごと叩き斬ろうとする。しかし、悪鬼兵の中には、丈夫な武器を持つ者もおり、一度引いて体制を整える頭を見せていた。
「ただの小鬼の群れにしては妙に士気が高い気がするが、もしかすると指揮する者が居るのやも知れぬの」
 周囲を見回し、その感覚で次なる悪鬼兵を追う輝夜。見れば、鬼達は1つところに集まって、その扉を破ろうとしていた。まるで1つの生き物のような姿に、天斗は気付く。
「とりあえずよォ…姿見せたらどうよ。三下の頭さんよォ」
 誰かが糸を引いている。口は悪いが、そう言いたいらしい。雫もまた、感覚を研ぎ澄まさせるが、反応はない。
「‥‥出てくるかのう?」
「これだけの数が目的を持って攻めるなら、必ず指揮を取る奴が居るはずだろ?」
 天斗の意見に、「それもそうじゃな」と納得する輝夜。そのまま、天斗の挑発に任せる事にする。
「そこの特等席に陣取ってる奴さ。見たらわかるぜ? ああん?」
 びしぃっと突きつけられたのは、港の水辺だった。ちょうど、自分達が入ってきたのとは、反対側にあたる湖の上。しばしの沈黙の後、その湖上に「なるほど。息を潜める必要性はないか」と、姿を見せる存在。
「さァ…ど〜せヤルなら楽しくヤろうや!ゴミ焼却をさァ!」
 その刹那、天斗は真っ先に雷鳴剣を撃つ。ピシャアっと落雷の音が鳴り響いた直後、彼は焔の力を解放し、紅焔桜を発動させる。ごうっと炎が走った。だが、その一撃は、湖上の人物には届かない。
「ふん。どうやらここは無理を押し通る場所ではなさそうだな」
「ほう?」
 どういう意味だ? と、いぶかしんだのは、入り口の台座の上で、事の成り行きを見守っていた竜哉だ。
「我らの目的は、ここではないと言う事だ」
「やはり、囮か!?」
 予想が的中した。この襲撃そのものが陽動である可能性。それを考えて、不用意に人を入れず、中に残っていた人々は、建築中の船に避難してもらっていたのだが。
「いや、向こうには精霊砲がある。直営だっている! こっちを片付けるぞ」
「心得た。まずは、散るが良い!」
 そう言うと、多少強引にでも気を引くため、咆哮する。遠距離魔法を使う輩もいるのを見て取り、唐竹割がてら強引に割り込んだ竜哉は、その苦無を相手の鎧の隙間へと刺し貫く。一体一体に時間を書けるつもりは、毛頭なかった。
 何故なら‥‥。
「あれだけのアヤカシ兵…率いる奴がいて、ひょっとしたら直接ここを狙ってくるかもしれないから、念には念を入れて……必殺の空賊戦法だぞ」
「空賊戦法がなんだかはわかりませんが、放火される危険性があります。気をつけて」
 精霊砲近くに潜んでいたふしぎに、透子がそう言ってくる。彼女の人魂は、ここにも早晩、鬼達がやってくる事を告げており、外に指揮官の人型が居る事を告げていた。その間に、ドッグ内外を問わず、ファイアーボールの火の手が上がった。
「わわっ。本当だっ!」
「消化はこちらでやる。氷嵐の術は、敵を攻撃するばかりが能力ではない」
 オラースが、その消火をやってくれている。それを彼に任せ、透子は船の中にいる船長に、声をかけた。
「お任せします。船長!」
「おう!?」
 突然呼ばれ、少し驚いた様子だったが、すぐに対応してくれる。
「砲は、使えますか?」
「出力が若干足りないかもしれねぇが、扉吹き飛ばすくらいはできらぁな」
 がちゃがちゃと砲を操作する船長。その向こうには、いまだ乗り越えようとする悪鬼兵と羅刹妖兵。そして、あちこちで燃え盛る炎がある。大半は消火されたが、火種は残っていた。
「わかりました。では、ご協力をお願いします」
「ほほう。何をさせるつもりかな」
 はっと振り向けば、窓の外には、ジルベリア風の衣装を着た大将と思しき人物。立ち塞がっていた他の開拓者から距離を取りながらも、よく通る声がドッグに響いていた。
「きっと来ると思った…船にも精霊砲にも、触れさせはしないんだからなっ!」
 そこへ、ふしぎがすかさず身を隠している場所から飛び出す。精霊砲を壊させるわけに行かない彼。グニェーフソードを振りかざし、防御するはずの瞬間を夜で奪おうとする。
「なるほど。腕は、立つか」
 確実に当てたかに見えた。しかし、続く刹那に影の技を叩き込もうとした刹那、それをつかまれる。
「だが、残念だったな。我には、少し遅かったようだ」
 そのまま、ぽいっと精霊砲のほうに押し戻される。その様子見て、すぐ近くの悪鬼兵を唐竹割でしとめた南洋が、駆けつけてきた。
「この様な物を奪って何とする。何処かで反乱を企む輩にでも融通いたすつもりか?」
「派手だからなぁ、この玩具は。欲しがる輩は大勢いる。何も、人の子とはかぎらぬよ」
 ククク‥‥と、精霊砲を愛でるような仕草を見せる敵。
「僕は、空賊団『夢の翼』の天河ふしぎ…お前の名前を聞いておこうか!」
「名前? 知っても意味はあるまい。人には覚えられぬよ」
 それは、南洋も気になっていたものだ。素直に答えるとは思っていないが、人に覚えられぬ言葉とは、一体なんだと言うのだろう。
「それほど長い名だと言うのか?」
「人の言葉で発音できる物ではないのさ。忌むべき名の者。とでも言って置こうか」
 アヤカシ独特の名なのかもしれない。そういえば、この世界には発、まだ知られていないアヤカシもいる事をしる。と、その刹那だった。
「逃げてください! 精霊砲を撃ちます!」
 透子が、白狐を差し向けながら、そう宣言した。見れば、すでに竜哉が発射の動作に入っている。慌ててその射線から逃れる開拓者達。そこへ、竜哉が偽兵の怒りを込めて、その手を振り下ろした。
「精霊よ、剣の縁に従い力を貸せ。無形の刃を無し、我が敵を切り裂け」
 本来は、戦塵烈波の言霊。しかし、その無形の刃は、精霊砲とて同じ仕組み。船長が火を入れ、竜哉が狙いを定めた先は‥‥敵の将。
「なるほど、考えたな。だが、面白い。後々まで予約をしておこう‥‥!」
 ふいっと扉の向こうへ姿を消したその直後、紅き精霊の焔が、扉に群がっていた悪鬼羅刹の群れを、まとめて吹き飛ばしたのだった。