【大祭】狙われた祭客
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/01 04:24



■オープニング本文

 大もふ様。
 お祭の紹介で『凄いもふらさま』と紹介されるくらい、特別扱いされるもふらさまである。
 お世話係の巫女が何人かいて、他のもふらさまと違い、作業や使役に借り出される事はない、いわばニートもふらである。
 普段は大切に扱われている為、人々は柵の外から見物するだけなのだが、大祭の時だけは違った。
 大もふ様に触れるのである。
 しかも、ただ触れるだけではない。
 もふもふして、なでなでして、ぎゅっと出来るのである。
 そして、撫でたものには幸運が訪れると、この手の神様にはつき物の伝説が、まことしやかに伝えられている。
 当然、希望者は多い。
 その為、大もふ様の飼育小屋には『希望者多数の場合、1日30名様限定のくじ引き』と書かれており、事前申し込みの木札が積まれていた。参加者は裏に名前を書き、備え付けの箱に入れる事になっている。
 ところが、その木札をめぐって、ある村の一行が、レースを行う事になった。結構大きな村なのだが、村内希望者を募った結果、そうなっちゃったらしい。
 方法はいたって簡単。スタートからゴールまで、一番早くついた者が大もふ様を愛でられる。が、シンプル故、妨害行為は何でもありらしく、村の人々が前宿泊している場所では、喧々囂々の大声が、外にまで響いていた。
「今回の大もふ様なでなで権は、おらん家のもんだ!」
「負けねぇだ。今回は我が屋敷が頂く!!」
 こんな感じで、始まる前から喧嘩上等である。近所の人々は、正直迷惑に思いながらも、大事な客なので、我慢をしていたのだが。
「た、大変だ! 裏のレース会場に、でっかいアヤカシが出た!」
 その宿舎に駆け込む、お祭の係の人その1。アヤカシとは穏やかじゃない。顔色を変える宿の人が、説明を求めると、情報を持ってきたはっぴの御仁はこう言った。
「すごいでかい貝だ!濃いぃ瘴気をばら撒いてる!」
 家ほどもある巨大な貝が、何もかも踏み潰しながら、結構な速度で村へと移動しているのだ。目的はおそらく村でレースを企んでいる一同だろう。知らない村人がレースの用品を揃えに行く毎に、そのアヤカシ貝が進路を変え、周囲にある家や畑を瘴気に染めて行く。
 その巨大な貝に、やどの人は見覚えがあった。
「それって、こないだまで山の裏のほうに居なかったか!?」
「ああ、そいつだ! どうやら覚醒しちゃったらしいぜ」
 今までは、ゆっくり運行だったのだが、何の因果か突然動きが早くなり、周囲を破壊しまくりながら、元気の良い獲物を捜し求めているようだ。
「やばいぞ。このままだと、レース参加者が食われるだけじゃなくて、大もふ様までまずい!」
 大迷惑な参加者はともかく、他の見物客やもふらさまに被害が出るのは、大問題だ。そんなわけで、宿は急遽、ギルドに助けを求める事になった。

「うちの宿めがけて、巨大な巻貝アヤカシが進軍中です。このままでは、宿も宿の客ももふらさまも、被害を被る事になるので、その前に退治をお願いします」

 出費が大迷惑なのは、いたしかたがないと言ったところだろう。

「もふ‥‥」
「大もふ様! アヤカシが迫っているんですから、こんなところでお昼寝しないでくださいなっ」
 だが、本人(?)は全く気にせず、ちょっぴり寒くなってきたこの時期、日当たりの良い場所を求めて、のそのそと牧場の中を転がっているのだった。

 同時刻。
 巻貝が破壊の限りを尽くしているその跡地で。
「・・・・これで、よかったのかな?」
 何もかもなくなったそこには似つかわしくない少女が、崖の上から貝を見下ろしていた。美少女、と言ってさしつかえないだろう。桜色に染まったふっくらとした頬は、やんごとなき家の姫御前のようで、すらりとした手足が、男物の狩り衣から覗く。髪の毛が若干ざんばら気味だが、それさえも気にならない目のパッチリした少女だ。
 惜しむらくは、その頭頂部に、2本の角が生えていたことだが。
「かわいそうな村人さん。あんな風に大騒ぎしなければ、狙われる事もなかったのに。ねぇ?」
 誰かに呼びかけるように、そう口にする少女。だが、その周囲にも黒い霧にも似た瘴気がはびこってくる。
「危ない危ない。ここで吸い込んじゃったら、私もまたアヤカシになってしまう。童子の所に戻る? 戻らない? どうしようかな」
 自分に問いかけるような不思議な口調で、森の中へと姿を消す少女だった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
篠田 紅雪(ia0704
21歳・女・サ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ジェシュファ・ロッズ(ia9087
11歳・男・魔
利穏(ia9760
14歳・男・陰
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
S・ユーティライネン(ib4344
10歳・男・砲


■リプレイ本文

「よ、よろしくお願いします」
 几帳面にそう言って、ぺこりと頭を下げる10歳児、S・ユーティライネン(ib4344)。その手には、明らかに両手用のゲイルクロスボウが装備され、耳には獣耳のカチューシャが生えている。
「本名はジークフリート・ユーティライネンですが、故あってギルドに登録できなかったので、ジークとお呼びください」
 どうやら、余りにも長すぎる名前は、ギルドでも書ききれないらしい。そんなギルドで多数依頼をこなしてきた、広視の援護者・竜哉(ia8037)曰く。
「俺はね。敵の強さの過小評価だけはしない主義なのよ」
 たとえ、見かけがどこをどう見ても巨大な巻貝で、いわゆる焼いたら美味しそうな部類のアヤカシでも。
「兎を狩るにも全力に、とは良く言いますが、遠慮なく排除が必要でしょう」
 そんな、熱血直情を装う竜哉に、柔らかく答える雪切・透夜(ib0135)。ずもももっと地響きを立てている巻貝の退治が、今回の目的だ。
「あの、巻貝について、誰かご存知ありません?」
 ジェシュファ・ロッズ(ia9087)が巻貝について、聞き込みを始めた。詳しく問いただすものの、知ってたらギルドに細かい報告が行くってもんだろう。だが、見た目の動きがかたつむりっぽいと言う以外は、まったく身に覚えがないようだった。
「でも、なんでまたいきなり動き出したのやら」
「お腹がすいたのかもしれません。ちょっと見てきますね」
 排除するにしても、原因が分からないとどうしようもないと言う事で、ルンルン・パムポップン(ib0234)が急いで偵察に走っていた。シノビの技を駆使すれば、あっという間に巻貝の元へたどり付く。屋根の上から見下ろしてみれば、瘴気をまきちらしながら、あたりを踏み潰しつつ、人のいるほうへと向かって行く。
「でも、どうして急に進行が早くなったんだろう‥‥」
 しかし、原因になるようなものは見当たらない。その事を報告すると、透夜は手ぬぐいで口元を覆いつつ、巻貝を指し示す。
「ともかく、何とか止めなきゃいけませんね。瘴気を吸い込まないようにしなくっちゃ」
 吸い込んだら、頭痛どころの騒ぎではないのだから。

 さて、まずは混乱する宿と村人の安全を最優先にしなければならなかった。
「皆様、お静まりください! 皆で祈れば、きっと大もふ様に願いは届きます」
 利穏(ia9760)が、避難をさせる為、そう叫んでいる。が、反応は薄い。
「えぇい、騒ぐな。今奴を止めている。混乱を起こせば、怪我人も増えるわ!」
 篠田 紅雪(ia0704)も、避難民に怒鳴り散らしているが、あまり聞こえてはいないようだ。柚乃(ia0638)も呼び子笛で、集合の合図を送ってみるものの、やっぱり反応していない。
「どうしよう。戦闘の邪‥‥ううん、危ないから、牧場内に避難してもらうとか‥‥」
 その柚乃が、そう言い出した。確かに、牧場は広いので、村ひとつくらいなら、何とかなりそうだ。
「確かに、あそこならもふらさまもいるから、大丈夫だと思う。万一の場合は、大もふ様も退避しないといけないかもだけど」
 利穏が頷いて、協力を要請している。その相談の結果、目的地は、大もふ様のいる牧場になった。ちょっと寒いかもしれないが、アヤカシを倒せば元に戻せる。
「奴は重そうだな‥‥」
「台車に乗せて置きましょう。力技はお願いします」
 中央に鎮座まします大もふ様が、ちょっとばかし邪魔だが、その辺の力作業は、紅雪にお任せだ。
「心得た。どのみち、奴への有効打を持ち合わせていないからな‥‥」
 もしかしたら、大もふ様自身が目的なのかもしれない。その可能性を考えて、紅雪は利穏の指示に従って、場所を開けていく。
「大もふ様を安全な場所に連れて行った人は、家内安全もふら安全ご利益があると聞きます〜。ご協力ください〜」
 そこへ、柚乃がそう言って回っていた。もふらさまの単語を聞いて、今まで蜂の巣突撃状態だった村人が、ぴたりと動きを止める。
「本当なのか?」
「多分っ」
 大もふ様がありがたい存在なのはぢぢつなので、柚乃は力強く頷いて、人々を誘導していくのだった。

 さて、その頃巻貝への対応班葉と言うと。
「ナメクジ式か‥‥。やっかいだな」
 遠巻きに様子を見ていた竜哉が、忌々しそうに呟く。
「そうなのですか?」
「ああ。ヤドカリ式なら、何本か足を壊せば、移動速度はいやでも下がる。が、こっちだと、削っても進行速度が下がるかどうかわからん」
 まだ、前線経験のあまりないS・ユーティライネンことジークが怪訝そうにしていると、彼はそう教えてくれた。確かに、ねちょねちょと包みこむ様に潰して行くナマモノな足は、ざくざく削っても、容易に止まりそうない。と言うか、削れるかどうかも分からない。
「だが、やれるかじゃなくて、やるしかないんだがな。まずは、進軍の速度を削がないと、倒すどころじゃない」
 その彼が、巻貝の横へと移動し、真横から殻を狙う。ずもももっと転がる殻の中心に、忍刀『蝮』の一撃を食らわせる。蛇が飲み込む貝の一撃とは行かないまでも、進路がずもももっと突き飛ばした先にずれ、進行速度が弱まっていた。
「わかりました。マキドンの綺麗な顔を吹っ飛ばしてやりますよ」
 効果がありそうだと判断したジークは、そう言うと、ゲイルクロスボウを番えた。相手が大きい分、何発も打ち込む必要はない。ので、こまめに矢を番え、その進路を宿から離すべく、狙撃する。
「マキドン?」
「あいつは、たったいまからマキドンです」
 そう主張するジークくん。10歳、美少年。しかし、特に反対する理由もなかったので、巻貝アヤカシは、その瞬間からマキドンになった。
「村人の避難、完了しましたー!」
 そこへ、村人を避難させた利穏が、報告してくる。ある程度の距離を取った感れは、ショートスピアを構えると、射程分の距離を取り地断撃を打ち付ける。隼人の技で速さの上がった彼が、ちょうど良い場所から、地‥‥いや、殻を割る一撃を食らわせる。が、殻は丈夫なので、ダメージは入るようだが、容易には割れなかった。
「ひとつ、試させて貰う‥‥」
 同じく避難を完了させた紅雪が、長槍『羅漢』をくるりとひっくり返し、その石突きの部分を、振り上げる。
「やるなら、真横からお願いします。転がしてください!」
「心得た!」
 その回転させた勢いでもって、石突を殻へと叩きつける紅雪。黒く落ち着いた色で塗られたその槍は、東房の法力を、紅雪に与えてくれる。増大した感覚が、アヤカシの殻を撃ち貫く。
「こいつで目印ですっ」
 宿から分けて貰った炭をマキドンにぶつけて、目印を作る利穏。それでも、殻にはひびが入る程度だ。
「まったく、無駄に硬い事で」
 槍構の技でもって、再びマキドンに対応出来るようにする紅雪。
「殻にほころびが出ているが、まだ厳しそうだな」
「頑丈そうですからねっ。同じ場所を攻撃すれば、割れるかもしれません」
 竜哉が攻撃を一点に集中させれば、透夜もまた、同じ様にヴァリャーグを振り下ろしていた。ポイントアタックの技を習得している彼は、ひびの入った場所を流しギリし、正確に2度目を食らわせる。反撃に出てきたマキドンのしなる腕が、前衛の2人を弾き飛ばす。
「殻はさすがに物理の方が強いのかな。ならば、これで!」
 なかなか破れぬ殻に、業を煮やした竜哉は、戦法を変えた。羅漢の石突に、戦塵烈破の力が宿る。その法力を持って、殻のどこに中身が隠れていてもいいように、槍を振り上げた。
「烈破、縦一文字斬!」
 気迫で持って振り下ろす。ごぉぉぉぉんんっと、鐘を突いたような音が鳴り響き、マキドンが苦しげにその身をくねらせた。殻には大きくひびが入り、中から正気が漏れ出てくる。その瘴気を吸い込まないようにしながら、柚乃ばぼそりと呟いた。
「やどかり、かたつむり‥‥どっちなのかな」
「どうみても、かたつむりだよ。これ」
 そう答えるジェシュ。と、彼女は殻から覗いた柔らかい場所に狙いを定めた。
「むう。食べられないかもしれないや。もふらさまに、触るなーーー!」
 どぉんっと精霊砲がぶっ放された。衝撃で、ぐらりと倒れかけた足元に、回り込んだジェシュが、フロストマインを設置する。
「皆、こっちこっち! フロストマインで一気に凍らせちゃうから」
 既に、前衛でマキドンに相対する面々には、アクセラレートを使っている。後は、氷の魔法で一気に固めてしまうだけだ。
「ほれ、貝さんこちら!!」
 紅雪が咆哮で貝の注意を引くのを見て、透夜が呼び子笛を吹き鳴らす。
「来たぁぁぁ!」
 ごぉぉぉっと起き上がるように迫ってくるマキドン、その節足が、フロストマインの設置された場所を踏んだ。封印された吹雪が、マキドンの足元を包みこむそこへ、ジェシュのブリザードストームがお見舞いされる。
「って、場所は良く見てやれーー!」
 巻き込まれかけた竜哉が、あわててその場から飛びのく。凍りつきかけたマキドンが、ジェシュへと節足を伸ばす中、ジークが猛攻と言わんばかりにゲイルクロスボウを打ち込んだ。すぐ脇には、なぜか座布団が用意してある。どうやら、体力が尽きて気を失う事を警戒しているようだが、節足はそこまで届かなかった。なぜなら。
「いまだ! ルンルン忍法フレイムブリザーーード!」
 ルンルンが、すかさず不知火で凍りついたマキドンを焦がしに入る。
「炎なのにふぶき?」
「真っ赤に燃やせなんだからっ。今です大もふちゃん。噂に名高い、空手の技を‥‥あれ?」
 柚乃の突っ込みに答えたルンルンが、大もふ様を振り返り、そう合図するが。
「もふううう‥‥」
 大もふ様、相変わらず我関せずだ。
「大もふ様〜。美味しい肉まんもって来たよ? 後で一緒に食べようね?」
「ふぁう‥‥」
 邪魔だから、と言う理由で、柚乃が持ち込んだ屋台の肉まんで釣る。もふもふと真っ白い大玉が肉まん追いかけて転がって行った。
「ああもう。こうなったら! ルンルン忍法、熱風聖剣突き‥‥貝!」
 影で増幅した刀の一撃が、殻にお見舞いされる。極限まで冷やし、熱せられた殻は、開拓者の力により脆くなっていて。
 ばきぃぃぃぃんっと、粉々に砕け散った。
「いまだ、つっこめーーー!」
 透夜が一斉攻撃を合図する。待ってましたとばかりに、残りの技をつぎ込まれ、マキドンは切り身‥‥いや、叩きにのされるのだった。

 そして。
「しかし、何故急にアヤカシが覚醒したのでしょうか‥‥」
 ようやく騒動が落ち着いた頃、利穏は気を抜かずに調査に赴いていた。場所は、ルンルンの案で、急に早くなった辺りへと向っている。気になるのは、漂う瘴気だった。
「ルンルン忍法、ニンジャアイ‥‥。きっと、この先に犯人が!」
 ルンルンが、森へ向う足跡を見つけ、その後を追う。と、そこにいたのは。
「あ、いたっ」
 森の中に姿を見せる、男装の少女。何かの石塚が倒れており、その上で、何を思ったか握り飯を食していた。
「わわ、見つかっちゃったかな? 見つかってないかな?」
「ひょっとすると、竜人かなにかかも‥‥。逃げたほうが良いですよー」
 義理の兄が竜の獣人な上、背格好もそれほど変わらないジークにとっては、その不思議な言動を持つ少女が、そんな悪い相手には見えないようだ。
「そうかな? ふふ、そうしておこうかな」
 ぺろりと米粒をなめとったその男装の少女が、倒れた石塚の上でくるりと踵を返す。その刹那、かぶったフードがはずれ、中から女性の長い髪が見える。
「女の子‥‥? あ。芸人の白拍子か‥‥」
「はいはーい、白拍子ってなんですか?」
 ジルベリア出身のルンルンが、好奇心旺盛な様子で問うてくる。。一応、白い衣装を着て踊る巫女のよーな人だと聞いていたそうだが、そう言ったジークも、やっぱりジルベリア出身な上、年も若いので、良く分かっていない。利穏は、2年より前の記憶はどこかに落として来ちゃったので、やっぱりよくわからない。
「なんにせよ、安全な所にいた方が良いですよー」
「じゃあそうしておくよー。まったねー」
 ジークがそう促すと、少女は微笑みながら、森の奥へと姿を消した。後に残ったのは、蹴倒された石碑のみ。そこには『封』の文字。足元に、なにやら貝の跡があった。
「やれやれ、やっと掃除が終わりました。大もふ様は、大丈夫だったでしょうか?」
 もっとも、他の面々は、貝よりも大もふ様が気にかかるらしく、牧場へ戻ってみれば、透夜が柚乃を対比物として、大もふ様を絵に書いているところだ。
「大丈夫みたいだね。それにしても、大きいなぁ。ねぇねぇ、何食べたら大きくなれるの?」
 ジルベリア出身のジェシュにとっては、もふらさまは希少種と言う認識があるらしく、とても珍しがって、ぺたぺたと触り巻くっている。おかげで、「催し物を楽しみたい気持ちはわかるのですが、あまり騒ぎすぎると、疲れちゃうんじゃないかな」と、利穏に注意される始末だ。いや、気持ちはとてもよくわかるのだが。
「もふらさまか‥‥。たしかにふわふわもこもこで‥‥いや、今回は護衛対象だから‥‥」
 心の中でおててをわきわきさせつつ、じっと我慢の子な紅雪さん。そんな彼女の思いを知って知らずか、利穏はのほほんと首をかしげた。
「そう言えば、レースはどうなったんでしょうか‥‥」
「ちょっと聞いてみようかね」
 紅雪が尋ねると、どうやら宿の方は、それどころじゃないようなので、まずは片付けて、祭りの準備を整えてから改めてとなったらしい。
「一時期、もふらさま料理を作ろうと志したんだけど、これだけ大きくても、肉は取れないんだよねー」
「だだだめですっ。もふらさま食べちゃダメですっ。食べるなら、こっちにしましょう」
 そんなもふらさまに興味津々だったジェシュ、恐ろしい事を言う。あわてて、柚乃が綺麗に洗ってきたマキドンの切り身を貰ってきた。生白いそれは、どうみてもでっかいアサリの切り身にしかみえない。ので、とりあえず煮てみる事にした。
「って、食べてたら大もふちゃんに触れなかったー。もふらのヒミツに、もふったら王子様に出会えるって書いて会ったのにー!」
 貝料理で失った練力を回復してしまい、気がついたら大もふ様への面会時間が終わってしまったのは、ルンルン最大の不覚かもしれない。