|
■オープニング本文 怒涛のような新大陸騒動がようやく落ち着きを取り戻し始めたある日、船長の元では1つの騒動が起きていた。 「嫌ニャ」 ぷいっと横をむく雪姫。白い尻尾が、敵意を抑えきれずに、ぱたぱたと降りたくられている。そんな雪姫を説得しているのは、不機嫌そうな顔のノイ・リーだった。 「おい。折角里の人が、お前を受け入れてくれるって言っているのに、そりゃあねぇだろ」 「嫌にゃったら嫌ニャ。お雪はこっちが良いニャ」 きゅっと抱え込んだぷらぁとも、心なしか困った表情を浮かべているようだ。間に立ったギルドの職員が、苦笑しながら「懐かれておりますな」と呟いている。 「好きでそうなったんじゃねェよ。だいたい、お前も理由は知ってるだろ」 「でもやっぱり、ぷらぁとくんと、親方様の所が良いにゃ」 お雪は全く譲る気配はない。聞けば、結局の所、天儀にある獣人の里で、お雪を暮らさせる事になったらしい。しかし、当の本人が、船長の船から下りないと言って聞かないのだ。 「どうでしょう。とりあえず鬼咲島まで向かい、そこからまた考え直すと言うのは‥‥。今は確か、そこへ定住させようと言う向きもあると聞きますし」 「遠いんだよなぁ。あそこ」 頭を抱える船長。ギルドの話によると、新大陸が見つかり、交流が成立した暁には、他の大陸と同じように、門が一つ増えるのではないかと噂されていた。実現するか分からないが、もし同じようにやれば、会うのに手間は掛からなくなる。 「でしたら、ちょうどこんな依頼があるのですが‥‥」 それでも、時間はかかるだろう。そう判断した船長がゴネていると、ギルドの職員が、1つ依頼を引っ張り出してきた。それには、こう書いてある。龍の美味しい餌を開発したいと。 「ここ最近、戦が続いて、龍達も疲弊しているでしょう。開拓者達には、龍以外の朋友を連れている方も多いのですが、ここはそう言う朋友達をねぎらう会を兼ねて、ここでしか売れないものを開発して見ましょうと言う話です」 普段、開拓者達が乗る龍は、神楽の都で管理されている。開拓者達は自ら面倒を見る事が多いが、それでも依頼や合戦の時等は、都で面倒を見る事になる。そんな世話係の1人から、提案されたものだった。 「なるほど。まぁ、意見徴収をやれって言うなら、接待係にもなるさ」 「お願いします」 戦いばかりでは疲れてしまう。それは、人の子も龍の子も、精霊の子も同じ。 「と言うわけでな。今まで開門騒動でのびのびになっていたんだが、アイツの処遇をどうしようかって思ってな。空はまだまだアヤカシが多いしな」 そんなわけで、開拓ギルドでは船長が他の開拓者捕まえて、管を巻いていた。自分ひとりではどうにかなるし、船にも余力はある。だが、それは本当に雪姫の為になるのか、わからないと。 「もしかしたら、新しい儀が、お雪の故郷かと思ってたが、少しばかし違うようだ。まぁ、何年もたっているから、話がねじれちまってるのかもしれないがな」 何しろ、話の出元が古文書だ。この目で見るまでは、確かな事は言えないだろう。 「それで、折角だから、龍の餌を開発するついでに、ここの面々に意見を聞こうと思ってな。まぁ、それなりに忙しかったし、茶ぁしばくのも悪くはないだろ」 そう言って、船長は依頼書を渡す。それには、こう書かれていた。 【龍へのねぎらいを兼ねて、お月見茶会を行います。この先、新大陸への依頼も増えるそうですから、龍用のえさ開発をかねて、お月見会へ参加しませんか?】 内容は大人しいが、れっきとしたギルドの依頼である。 |
■参加者一覧 / 井伊 貴政(ia0213) / 羅喉丸(ia0347) / 白拍子青楼(ia0730) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 深凪 悠里(ia5376) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / 志宝(ib1898) / 久悠(ib2432) / 春陸(ib4467) / 神陸 蓮(ib4473) / 氷雨月(ib4480) / カリア(ib4481) / 真介(ib4484) |
■リプレイ本文 開拓者にとって、相棒と言うのは、なくてはならない存在だ。 「あいっかわらずにぎやかだな‥‥」 戦の前後に関わらず、神楽の都は、いつも龍やその他の相棒で賑わっている。その一画にある港で、お茶会は行われる事になった。なぜなら、構成上体の大きな龍が多数おり、また空の見渡せる場所が、月見にはよろしかろうと言うわけである。 こうして、場所の決まった所で、開拓者達は、それぞれ食材を持ち込み、己の相棒のため、調理を始めていた・・・・。 「ああそれ、料理用のですってば! 食べても美味しくないですよう!!」 礼野 真夢紀(ia1144)が駿龍の鈴麗が両手に持っている林檎を取り返そうと、おててを伸ばしてわたわたしている。甘味にする専用の林檎は、生ではちょっとすっぱいので食べづらい。だが、手に持った林檎がそうだと気付かなかった鈴麗さんは、思いっきり丸呑みして、涙目になっている。 「だから言ったのに。これで機嫌直してください」 甘えん坊の鈴麗が、ぐしぐしと涙をおててで拭いているのを見て、真夢紀は持っていた袋から、栗やしいの実等の木の実を取り出して差し出す。じぃっとそれを見ていた鈴麗。ぺろりと平らげ、ついでに彼女のほっぺもぺろりと舐める。 「おや、お早いんですね」 と、そこへ到着したのは和奏(ia8807)だ。まだ開宴まで1刻以上もあるが、やはり入念な準備をと言う事で、早く出てきたらしい。神楽の都のあちこちにある駐龍場へ赴いて、念入りにお出かけ準備を施している。 「えぇと、颯さんの好きなものは‥・・と。ああそうだ。光華姫もどうですか?」 人妖ひとりをお留守番させるのは、流石に忍びないので、彼女も誘っているようだ。さすがにそれは人間と同じで良いだろうと言う事で、本人が気に入っているお茶とお菓子を用意し、会場へと向う。 「大丈夫です? 何か、歩き難いとかありますか?」 普段、世話になっている自覚があるせいか、今日はやたらと気にかけている。颯の方はそれが若干うっと尾真のか、その割にはそっけない対応も目立った。が、相手が自分を気遣っているのはわかるのか、大人しく飾り付けられている。 「よう、来たな」 既に、船長も会場に到着していた。船は修理中だそうなので、今日は陸上である。天儀酒と思しき瓶が腰から下がり、そのずっと足元には、雪姫がコートの裾を握り締めながらへばりついていた。で、その雪姫の頭に、もふらさまのぷらぁとが乗っかっている。 「しかし、今日はお茶会だから、子供みたいなのも多いな」 「お友達が増やせるにゃ」 少し頭痛のする様子の船長。何しろ、駿龍のろんろんを連れてきているのは、見た目どう見ても雪姫と同じ年くらいの琉宇(ib1119)である。同い年に興味を惹かれたのか、とてとてと寄って来る雪姫。 「こんにちはにゃ。この子、好きなものとかあるの?」 で、とりあえずご挨拶と間に立った龍の話題から始めて見る様子だ。 「そういえば、俺もおまえさんとこの龍の好き嫌いは、聞いた覚えがなかったな」 顔見知りの琥龍 蒼羅(ib0214)も一緒だったようで、お互いの龍の話題を向けている。 「そうだなぁ。陽淵は特に嫌いな物は無かったはずだな。変な物で無ければ大丈夫だろう」 「ろんろんの好きなもの? いつも僕と同じものを食べているけれども、何かおかしいかな。ろんろんも普通に食べているしね」 吟遊詩人の少年は、快く答えてくれる。若干、営業風のきらいはあるが、初対面かそれに近い相手なので、さもあり何と言ったところだ。雪姫も、その辺りは心得ているらしく、横にちょこんと座って、大人しく話を聞いている。 「でも、何か特別なメニューとかあるならば興味はあるよ。ろんろんが気に入るならば、これからも用意してあげたいしね」 そう言って、彼が眼を向けたのは、次と搬入される食材だ。中には、何に使うのか分からないような食材もあるが、食べられるものではあるのだろう。 「たぶん、好きなものは僕と同じだと思うから、あんまり辛いものとかは苦手かもしれないよ。ところで、それって僕達、人間にも食べられるのかな‥・・?」 「さっき、すっぱい方のりんご食べて泣き出してたから、大丈夫だと思うが」 依頼書を引っ張り出してきた船長がそう答えてくれる。その腰の徳利を見て、琉宇はこう続けた。 「そうそう、僕はお酒、飲めないからね。たぶん、ろんろんも飲めないと思うなぁ‥・・」 見上げると、ろんろんは不思議そうに首をかしげている。そうしている間に、食材の置かれた調理場には、続々と人が集まってきた。 「うーん、龍用のえさ。ここでしか売れないもの‥・・万民受け‥・・‥・・」 食材を眺めて呻いているのは久悠(ib2432)だ。同行しているのは、駿龍の白月。が、悩んでいる間に、じぃっと食材を見つめていた白月は、その1つをひょいぱくとつまみ食いしてしまう。 「ああもう。まだ食べちゃだめだ。食い意地は治らんか・・・・」 ため息をつく彼女。どうやら、干した果物に興味を惹かれて、つい食べてしまったようだ。仕方なく、適当にチョイスした鶏肉と果物を、白月に差し出して見る。以外と、受けたようだ。 「書いてあった解説だと、ご飯系と言うよりおやつ系の感じだったな。うちの一釵はあんまり間食とかしないから‥・・、ちょっとご飯寄りの‥・・お菓子っぽくない物にしてみようか」 そう言って、深凪 悠里(ia5376)が引っ張り寄せたのは、米だった。炊くのに1時間はかかるものだが、これなら、少々甘めの胡桃味噌で、美味しく味付けできるだろう。基本はご飯だし。 「まだだって。ほら、蓋を開けようとしない」 後ろでわくわくしながら、釜におててを伸ばそうとしている一釵くんを引っ込めさせる彼。割りと人懐こいので、湯気を立てる鍋釜を始め、興味深そうに色々覗きまわっている。 「コンセプトは持ち運びに便利で、一食あたりの栄養価が高いもの。そして日持ちのするものかなぁ。シノビの皆さんが使うって言う『兵糧丸』っぽい奴ですね」 井伊 貴政(ia0213)が作ろうとしているのは、米やそば粉、木の実を粉末にした物をこねて作る保存食だ。なんでも、鰹節とかを入れると、栄養素もばっちりだそうだが、さじ加減は中々に難しいようで、よくわからない餅団子のようなモノが出来上がる。 「って、やっぱり人サイズでは足りないですか‥‥」 試しに帝釈に味見させてみるが、あっという間に飲み込んでしまい、なんだかよくわからない顔をしている。仕方なく、お鍋と同じ大きさに変えて見る。が、火が通り辛く、時間が掛かるようだ。 「うーん。保存性を考えると干し物とかが妥当かなぁ。肉・海産物とか。水分飛ばして、塩気を多くした方が良いだろうから、味は少し濃い目になっちゃうかも‥・・」 調整をしている横に、小さなおててが伸びてきた。見れば、雪姫がその1つをツマミ食いして、「このお団子、お味噌の味してしょっぱいにゃー!」と、しかめっ面をしている。 「出来るだけ程よい感じにしたいですねぇ」 新商品の開発は、中々に険しい道程のようだ。 「小太郎。美味しいお菓子を作ってあげますわ♪」 そんな中、意気込みだけはたくさんの白拍子青楼(ia0730)。そんな彼女を、相棒の忍犬‥・・小太郎は心配そうな顔で、ご主人様を見上げていた。料理なんてかけらも触った事のない彼女、準備もしていないのに、かぼちゃ団子を作るんだと息巻いている。 「ノイ様。お招きいただきましてありがとうございます♪」 お行儀よくぺこり♪ と一礼し、山ほど用意された『材料』に手を付ける。 だが。 「お団子は甘くて丸いものですのよ?」 そう言って、良く知った顔で、胸をそらす彼女。だが、そのおててに握られているのは、砂糖ではなく塩の粉だった。 「南瓜団子と言うには、南瓜を入れなければなりませんわね。黄色いの黄色いの‥‥」 しかも、彼女の頭の中には、出来上がった後の黄色いお団子に餡が掛かっているものしかないらしい。普通、南瓜団子と言うのは、茹でた南瓜に片栗粉をつなぎにしてこねるもんらしいのだが、どこをどう間違ったのか、彼女の入れ物には粉はない。 そのうちに。 「わぁんっ」 ぼふっと、釜の方で盛大な黒煙が上がる。びっくりした雪姫が覗きこむと、目をぱちくりさせて、いびつな炭の塊を抱えた青楼の姿があった。 「わふ‥・・」 その横を、ため息をつくように鳴いて通り過ぎる小太郎。ひょいっと口で入れ物を咥え、船長の所に持ってくる。その背中には、なぜか南瓜粉の袋。 「何、これ入れろって?」 「わふ」 頷く小太郎。一定量まで入れて貰うと、次は水場に行ってお水を貰ってくる。で、本人があたふたと炭団子をどうにかしようとする間に、あっという間にお団子を作ってしまった。 「どこの世界でも、飼い主より頭の良い朋友っているよなー」 ぼそっと呟いた船長の酷い一言は、まるで耳に入らず、仲良く2人であむあむしている青楼と小太郎だった。 「まぁ、あれでどうにかなるなら、頑張れるよね」 その様子を見ていた志宝(ib1898)がそう言った。 「料理は初めてだけど、なんとかなるよ!」 作るのは、辰風の好みを考えた和菓子だ。が、その手元にはぴちぴちと行きの良いドジョウがタライに入っている。 「辰風ドジョウ好きだよね〜」 のほほんとそう言っている志宝だったが、当の辰風は困惑した顔を浮かべていた。ドジョウが好きなわけではないのだが、折角作ろうとしているのに、それを止めるのは申し訳ないと思っているのだろうか。 「えい」 そう言って、そのドジョウをまるまる1匹生地に投入する志宝。びちっと跳ねるドジョウに、辰風が唖然とする中、彼はそこに大量の砂糖を投入し、がしがしと焼き始めていた。出来上がったのは、さっきの炭団子に負けず劣らない謎の食い物だ。いや、食い物ですらないのかもしれないが。 「あとは、これを切って捌いて摩り下ろして、かまぼことか良いよねー」 志宝さん、欠片も違和感を抱かず、今度はドジョウのかまぼこなる者にチャレンジしている。そんな主の姿を、辰風は複雑そうな表情で見ているのだが、彼は全く気付いちゃいねぇのだった。 さて、会場はそれほどゲテモノ量産体制になっているわけではない。 「先生、先の戦ではご無理おかけしました」 自身の龍をそう呼ぶ菊池 志郎(ia5584)は、新しく出来た傷に手を当てて、そう謝っていた。既に日の翳り始めた中、静かに龍と月見をしながら、「次は、もっと上手く」と決意しているようだ。その手元には、湯気の立つ椀が握られている。傍らにある鍋には、鰯のつみれ汁が入っていた。野菜もたっぷりと入ったそれは、どこをどう見ても龍の餌、と言った単語は似合わない、ごくごく普通の鍋である。そう、秋の夜長に冷えた腹を温めるには最適のものだ。ごはんかうどんなんか入れると、美味しいかもしれない。 「どうぞ。こちらは本日の夕餉でございます」 うやうやしくそのつみれ汁を差し出す志郎。人の10倍はあろうと言う巨大な椀の傍らには、予め炊いておいたらしい栗と鶏肉のおこわが、巨大なおにぎりになっている。そのメガ盛りサイズのご飯を、龍の隠逸、じぃっと見つめていたが、やがておこわおにぎりをひょいぱくと口に運んだ。 「お口に合いましたか、よかったです」 淡々と口に運ぶ龍に、あっさりとした表情で、志郎はそう言った。気に入らなければ、顔を背けてガン無視なので、食べてくれると言う事は、合格なのだろう。そう判断している。実際、手順さえ間違わなければ、具沢山味噌汁のようなものなので、それほど失敗にはならないのだろう。 「ふむ。これなら俺にも作れそうだな‥・・」 琥龍 蒼羅(ib0214)が、つみれ汁をすすっている。神楽の都にはそれなりにすり身などが売っているので、料理経験のない彼でも、これなら失敗は少なく出来そうだ。 「えぇと、餅用の米に、佃煮に茹でたニンジン‥・・か。細かく切らねばならんのだな。居合いで大丈夫だろうか‥‥」 そう思い、蒼羅はおこわご飯に入った具を、一つ一つ覚えて行く。何しろ、切ったり浸したりした材料を時間ごとに区切った火加減で煮るだけである。まぁ、下ごしらえが大変だったりもするのだが、炊き上がったものは、普通のおにぎりと同じ様に握ればOKだそうなので、自分で作る事も出来るだろう。それに、切るのは得意だった。 「やっぱり、月にちなんだ巨大きび団子的なのはどうだろうねぇ」 天儀酒とちょっとしたつまみを携えた不破 颯(ib0495)が、相棒の瑠璃(俊龍)に寄りかかりながら、作業を眺めている。そんな彼が差し出したのは、龍用の干し肉だ。瑠璃が美味しそう‥‥と言わんばかりにガン見している中、彼はそれをきび団子の材料にぽいっと投入してしまう。 「と言うわけで、ちょっとオレンジなき美団子を作ってみたんだが、食べるかい?」 差し出された瑠璃は、干し肉は勿体無いと思ったのだろう。まぐまぐとその巨大団子にかじりつく。しかし、なんとも微妙な表情だ。 「まぁ、一応食事を想定しているようですし、ご飯としていただける物を作りましょうか」 その様子を見て、鬼啼里 鎮璃(ia0871)が用意したのは、粉を練った生地に、ひき肉や各種野菜を細かく切ったものだ。 「美味しい肉まん作りますよー。泰国風の味付けも良いですね」 確か、華麗とか言う食べ物が美味しいと、港の船乗りが話していたのを聞きかじった彼だったが、やたら辛い食べ物と言うだけで、実態は良く分からなかった。ので、とりあえずスパイシーな調味料をひと通り入れて見る。と、そこへ、刺激的な香に誘われてか、華燐が興味深そうに覗き混んでいた。 「どうぞ」 龍にしてみれば欠片にしかならないだろろうが、蒸しあがったばかりの肉まんを、口に運ぶ。美味しければしっぽをゆらゆらと揺らしてくれるはずなのだが。 「!?」 びっくりした顔で、上を向いてぼふーーーっと火を吐いてしまう華燐。 「Σ華燐さんっ!?」 鎮璃がびっくりしているが、どうやら相当に辛かったらしい。とっさの理性が働いた所を見ると、香辛料の入れすぎだろうか。 「何事もバランスが大事な。肉だけでなく野菜もね」 隣で、肉と野菜をこねこねしていたからす(ia6525)が、お水を差し出してくれた。ごきゅごきゅと口を潤す中、彼女は作業を再開する。やはり、普通の味付けの肉饅頭がよろしそうだ。鬼鴉がバランス思考である為か、彼女もそうなるように与えるようにしているとの事。 「刺激物はだめなようじゃな」 香辛料たっぷりの肉饅頭は拒否されてしまった。それ以外のものは、興味を示したので、生地には包まず、茹でたものを与えて見る。二口、食べた。 「これは美味しい、と」 反応が薄いのは地なので、食べてくれれば口にあうと言ったところだろう。後で、他の朋友達にも与えてみようと思う彼女。 「やっぱり、シンプルにおいしそうな物を目指した方が良いみたいだな」 羅喉丸(ia0347)が用意したのは、大きな肉の塊と言った様子の骨付き肉だ。前の晩に、塩を振っておいたその肉を、万遍なく火が通るように、串に刺して焚き火の上でぐるぐると回しながら、丹念に焼き上げる。ほど鳴くして、良い感じの焼き色と、美味しそうな匂いが漂ってきた。その匂いに、最初は興味なさそうに寝ていた頑鉄が、半目をあけて、のっそりと近付いてくる。 「どうかね?」 颯の、見るだに怪しいオレンジ色の肉きび団子は拒否されてしまったが、羅喉丸が作った、肉を焼いただけの肉には興味を示したらしい。やはり、上手に焼けたお肉は、人も龍も好物なのだろう。 「なるほど。やはり龍には、そこまで手の込んだ料理は、必要ないみたいですね」 その様子に、得意じゃない料理で、何を作って良いか分からなかった鈴木 透子(ia5664)がそう言った。度暮らしが長く、習う機械のなかった彼女だが、宿屋で出てくるような料理ではなく、極力シンプルなものが良さそうだ。 もっとも、彼女の龍‥‥蝉丸は、少々ひねくれた龍、そうも行かなかったようである。龍に高級料理を食べさせてあげたい親心なんぞ、どこ吹く風で、とてとてと顔の良い開拓者へと向った。 「あの、蝉丸さん‥‥?」 蝉丸さん、多少面食いの気があるらしく、作った人の容姿で、反応を決めている模様。『慣れてますから』と言わんばかりの表情で、怪しげな肉饅頭やら団子やらを食べてくれるのだが。 「その方は、女性ではありませんよ‥・・?」 透子に言われて、目を瞬かせている。そして、抱えた団子と作った御仁を見比べ‥・・本人が悲しそうな顔をすると、おもむろにぱくつく。どうやら、味に性別はあんまり関係がないようだ! 「ちょっと、しょっぱいのに‥・・」 試しに自分で作った餌も差し出して見ると、意外にもちゃんと食べてくれた。どうやら彼女自身も『合格』のようだ。 「え、美味しい?」 龍の好みが微妙に分からなくなってしまう彼女。こうして、龍用の茶請けは、開拓者達の深すぎる愛情によって、山と積み上げられて行くのだった。 さて、モノがそろった所で、お月見と相成った。戦の後なので、話題は自然と新大陸の話と成る。 「あるすてら‥・・か」 そう呟く久悠。そして、白月の首筋に頬をよせ、感謝の意を述べる。 「お疲れさん。有難う。まだまだ宜しくな。いつだってずいぶん遠くへ来たと思うが、それでも先はあるのだな」 世界は、広い。この神楽の都のある天儀本島ですら、踏み入れた事のない場所もある。それは、船長とて同じだ。 「・・・良い月だな、陽淵。お前の眼にはどう映る?」 蒼羅が、陽淵を、目の届く範囲に置きながら、月を見上げた。他の龍と問題を起こすような性格ではないので、自由にさせておいても安心だろう。そう思い、からすに琉宇と、知り合いが何人もいるので、自然互いの龍の話となる。 「甘い物を食べた後は、ちゃんと歯を磨くのだぞ。それと、運動もさせて健康管理をだなぁ」 そのからす、大事な事なので、開拓者達に龍の管理は義務であると説いていた。物を食ったら歯を磨く、くっちゃ寝は太る素なのは、人間様も同じ。そう思った志宝、こう切り出す。 「んー。ついでに組み手の相手も探してあげたいんだけど‥・・‥・・いいお相手はいないですかね〜?」 「飛行訓練なら付き合うぞー」 どうやら、食後の運動相手もばっちりのようだ。 「まぁ、暴れるなら、人様の迷惑にならんとこで頼むわ」 杯を飲み干す船長が、ちくりと釘を刺す。もう、夜も更けてきたので、お腹のいっぱいになった雪姫が、その辺で転がっていた。 「そう言えば、大規模で船室を占領してしまって、もうしわけありません」 「ああ、別に気にしてないぜ」 志郎がそう言って、お詫びとお礼の弁を述べている。と、横からそんな船長に、久悠がまったりと酒を注ぎ足した。 「お疲れ様。良い月だね」 「ああ。この月が、いつまでも見られるとは思わないがな」 その視線は、雪姫に注がれていた。確かに、連れて行けばアヤカシに襲われて落命する可能性もある。それでも、彼女はこう続けた。 「何処にいようが厄災も幸福も等しくある。なら望む場所にいるのが幸せだと思うよ。迷うなら、其れも縁。彼女の道が見えるまで乗せてやれば?」 「道ねェ。ずっと見えない奴もいるんだよなぁ」 「まぁ、平和に過ごしてほしいと言う気持ちは理解できるが。俺の意見としては本人の意思を尊重するべき、だな」 くびり、と飲み干しながら、蒼羅もそう言う。 「何が幸せかは本人が決める事だからね。船に居たいと言うなら置いてやれば? 自分で選んだなら何かあっても自己責任って事でさ」 本人の望む通りにしろと言うのは、深凪 悠里(ia5376)も鬼啼里 鎮璃(ia0871)も同じらしい。それは、大半の開拓者達のご意見でもあった。 「やはり本人の気持ちが一番大事なので、里に残すのは可哀そうだなと思いますが‥・・危険な目に遭わせたくないという船長さんの親心? もわかります‥・・」 志郎、一緒に困った顔を浮かべている。 「危険を理解した上で、それでもなお降りたくないと言えるのは幸せな事ではないかな。これを機に幸せというのは、雪姫がどんな状態である時なのかについてもう一度考えてみてもいいと思うがな」 「本人寝てるけどな」 羅喉丸(ia0347)の答えに苦笑する船長。どんな状態が幸せなのか考えるような頭に出来てないかもしれない。 「いずれにせよ、お嬢さんが決めれば良いんじゃないか? それぞれの良い悪いを理解出来た後なら、あとはお嬢さんの覚悟の問題だと思うがねぇ」 月見酒をちびちびとやりながら答える颯。 「良しあしを理解できる頭が、あれば良いけどな。ま、仕方がないか‥・・」 ため息をつく船長に、新たな酒が追加されたのは、ほどなくしての事である。 こうして、雪姫は自身で選んだ道に進む事になった。その先に待ち構える出目が、吉と出るか凶と出るかは本人次第である事を、充分に良い含めた上での判断だそうである。 なお、出来上がった龍用のご飯試作品は、ギルドから依頼者の方に多数納められたそうだ。 |