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■オープニング本文 深い霧の立ち込める森と言うのは、どこにでも比較的存在するものだ。その多くは、打ち捨てられた廃屋だったり、場合によってはただの古い家だったりする。しかし、今回の場合はその何れとも少し違っていた。 「ここか。問題の物件ってぇのは」 そう言ったのは、黒いマントを羽織った長身の青年だった。そう、きしんだ門に立ち、軽く小学校くらいの広さはあろうかと言う屋敷を見上げているのは、胸に蜻蛉の記章を貼り付けたノイ・リーである。と、その後ろには、大きな荷物を持った少年が控えていた。同じ記章が煌いている彼は、怪訝そうにこう言う。 「船長、入らないんですか?」 「あー、今回ぷらぁとがしゃべんだっけ。しかも人化してるし、美少年だし‥‥」 苦笑する船長に、ぷらぁとは怪訝そうに首をかしげる。よく見れば耳が人じゃない形にとんがっていて、尻尾が生えていた。いわゆる異種族って奴なんだろう。きっとエルフとかそう言う類の御仁である。 「まぁ、周囲の状況を確かめるのも、いわゆる不動産屋の仕事って奴さ。えぇと、間取りはだいたい100DKっと‥‥」 「凄いお家もふ」 感嘆するぷらぁと。何でも、この広大な館を再開発して、一大リゾートにしようぜという計画があり、ノイ・リーさんはその為に調査に来たそうである。 が。 「どっちかって言うと、化け物屋敷だけどな」 船長が弐の足踏んでいるのには訳があった。館には、庭に人魂みたいなモンがあっちこっちで追いかけっこしており、蔦カズラは這い登ってうねうねして、時々別の株とカップルが指を絡めあってるような動きしてるし、窓では赤いワンピの少女が、赤いマントの少年と、何か喋ってる。駐車場と思しき場所では、首のないライダーさんが、足のない美人さんを、自慢の愛車で口説き倒している。で、そのバイクの横には、骨鎧が鬼火まとった馬で出陣準備中。先行くぞーとゼスチャーで告げて、どっかの闇の中へ走って行ったりしていた。 「そういや、お雪は?」 「あっちもふ」 ぷらぁとが指し示した先では、尻尾が3本になって、サラダ油のボトルを食堂から失敬している雪姫の姿があった。しかも、本編では少女なのに、しっかりはっきり出るとこ出たおねいさんになっている。 「こんだけおおっぴらに化け物が多いと、説得が大変そうもふ」 「だからオレにお鉢が回ってきたんだろ」 そう言った船長の後ろには、巨大な船が横付けしてあった。先頭に、ごつい大砲を備えた大型船。 その縁にはこう書かれている。 『万揉め事引き受けます。空賊船団ドラゴンフライ』 今回、その船長が受けた依頼はこうだった。 『あの化け物屋敷の住人をどうにかして、ここを使えるようにして欲しい』 だが、たまったもんじゃないのは、当の住人達だ。 『また新しいのが来たよ』 『懲りないねェ。東方不動産も』 『追い出しちゃおうか』 『すぐそうする。良い男なんだから、勿体無いよ』 『お館様に聞いておく?』 『さっき、晩酌のサラダ油もってったから、聞くのはたいていの事やってからで良いと思うよ』 闇の中で、相談する声が聞こえたと言う。 ※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧 / 美空(ia0225) / 鶴嘴・毬(ia0680) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 柏木 万騎(ia1100) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / 倉城 紬(ia5229) / 神鷹 弦一郎(ia5349) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / 茜ヶ原 ほとり(ia9204) / アーシャ・エルダー(ib0054) / エシェ・レン・ジェネス(ib0056) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 燕 一華(ib0718) / 琉宇(ib1119) |
■リプレイ本文 蔦に絡まれた大きな西洋っぽいお屋敷。道案内をするなら、そんな表現が妥当だろう建物は、入り口の門扉から玄関まで、かなり距離がある。広大な庭と言うか植物園に見える迷路のような生垣。その天然ダンジョンを潜り抜ける為、船長はきょろきょろと周囲を見回していた。 「とりあえず、今回は案内役がいる筈なんだが」 「あ、あの人じゃないもふ?」 ぷらぁと少年が見つけた先には、巫女服を着用した髪の長い少女が、こちらへ向ってくる図が見えた。 「あー、ったく、めんどくさい‥‥」 じゃあやらなきゃ良いじゃねェかと思うのは素人と言うもので、鴇ノ宮 風葉(ia0799)は入り口へ向う間に、気だるそうな表情から一転し、カンペキな美少女ガイドの姿になっている。もちろん、船長もぷらぁと少年は全く気づかない。 「初めまして…案内を務めさせていただきます、巫女の鴇ノ宮と申します…」 勤めて丁寧に猫を被る風葉。その口元には、ニヤリと笑みが浮かんだが、船長は現れた巫女さんに、「ごくろうさんだな」とか言いながら、頭をなでこなでこしている。幽霊達との計画があるのと、カンペキな礼儀を心がけて要る聖で、顔色は引きつりもしないが、内心穏やかではなさそうだ。 「では、最初はこちらです」 そう言って、風葉はかねてからの予定表通り、くるりと回れ右。その手元には『案内のしおり』が握られているのだが、何故かとても古びたものだった。 さて、その道に向う庭で、きょろきょろと周囲を見回すカップルが居た。 「ほぅ!これが噂の廃墟か。ん? ほとりさん見ないのか?」 神鷹 弦一郎(ia5349)と茜ヶ原 ほとり(ia9204)である。庭園を見物にきた観光客と言った風情だが、神鷹はによによとその手を引っ張って、庭の方を指し示す。そこでは、相変わらずうねうねとダンスしている蔦の姿が。 「え、ええと…やだな、気のせいですよね」 努めて見ないようにしているほとり。真っ青になった顔色をを、恋人の手前、必死で隠しているが、腰が引けていて、極めていっぱいいっぱいな状態だ。 「まぁそう言わずに。楽しそうだぞー?」 「い、今動いたけど。そんなことないですよ。ええ、気のせいですってば!!」 ぶんぶんと蔦から体ごと顔をそらすほとりさん。神鷹の腕にしがみついたまま、離れない。もう片方は、猫の人形をぎゅむっと抱きしめたままだ。、 「あははは。じゃあ屋敷をぐるっと回ったら帰ろうか」 どうみてもビビリ入っているほとりさんを、神鷹が抱き寄せながら、先へ進もうとしている。 「気のせいじゃなかったりして」 「うひゃあああっ。でたぁぁぁっ!」 船長が声をかけると、ほとりさん腰を抜かさんばかりに驚いている。刹那、船長の顔面に神鷹のぐーぱんちが飛んできた。 「い、痛いじゃないかー」 「えぇいうるさい。ほとりを苛めて良いのは俺だけだっ」 ずきずきと真っ赤なほっぺをして、涙目の船長に、そう言ってふんぞり返る神鷹。が、よく見ると船長には立派な足がある。ついでに言うと、そこに背丈の足りない少年が見上げている。 「驚かせてごめんもふ。どうやら案内ツアーの受付はこっちみたいなんで、声欠けただけもふ」 ぷらぁと少年が申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げた。そして、関心のなさそうな表情で、手招きをしている巫女風葉を示した。 「って、お化けじゃなかったか。それはすまん」 どうやら、愛ゆえの勘違いと言う奴だったらしい。素直に謝る神鷹さんに、船長がぶつぶつと「オレのどこがバケモンに見えるって言うんだー」とほっぺをさすっている。 「「「長い髪」」」 が、後ろから見ると、そのトレードマーク的な銀髪は、どぉみても妖怪変化に見えてしまうのであった。 こう言う場所では、分断された瞬間に、死亡フラグだか退場フラグだかが成立してしまうので、2人もツアーに合流する事になった。なんでも、今日は屋敷の見物客が多く、まとめてご案内した方が、効率が良いとの事である。 「最初はこちらに」 と、案内されたのは、玄関である。庭先を抜けた先にある重厚な扉。そこをききぃっと空けた先にいたのは。 「ふはははは。ようこそ来られたお客人!」 山伏服に鴉面、錫杖と言う、どっからどう見ても鴉天狗なからす(ia6525)さんが待ち構えていた。入ったとたん、玄関扉がばぁんっと閉められ、がちゃっと嫌な予感のする音が響き、からすは盛大に開幕を宣言する。 「さあさあ今宵も無礼講! 今回迷い込みしお客様は若き青年と獣の少年! 彼等の先に待つのは地獄か!はたまた地獄か!」 「地獄しかないんかい!」 しかも神鷹とほとりが数に入っていない。が、船長の突っ込みに、からすさんはどこ吹く風で明後日の方向を向いた。 「ツッコミは受け付けない! では狂気と狂楽の狂宴を。グッドラック!」 同時に、打ち鳴らされた錫杖が、リズミカルな音楽をかき鳴らす。いや、よく聞くと錫杖じゃない音楽も混ざっている。風葉が見ると、廊下の角に、しふしふの琴音が、何かのスイッチを押していた。と、琉宇(ib1119)が楽器でBGMを奏で始める。どうやらこの辺は仕込みのようだったが、船長達は全く気付かない。そのうちに、窓が自動的に開いて、大量の眼突鴉が窓を突き破って侵入してくる。 「わぁぁっ」 神鷹がほとりを庇い、そして船長がぷらぁと少年を庇っている。視界を覆うほどの鴉が飛び去った後、からすの姿は欠片もない。 「な、なんだったんですか今のはぁぁぁぁ!!」 「ああ、芝居の前口上と言う奴ですね」 涙目のほとりに、そう説明する風葉。平気な顔をしている巫女さんに、ほっと胸を撫で下ろすほとりさん。 「な、なぁんだ。お芝居だったんですか。じゃあ、安心ですね」 アトラクションだと思ったらしい。そうして一行は玄関脇にある食堂兼居間‥‥に案内されたわけだが。 『あ〜、誰か来たよぉ』 場違いにのんびりした声が響く。入った食堂は、意外と綺麗で、電気設備も水道もガスのひと通り通っているようだ。その食堂で、ごとごととでっかい魔女様御用達みたいな釜で、お湯を沸かしているのは礼野 真夢紀(ia1144)である。 「あ、人間だぁ、嬉しい」 「おや、お客様ですね、いらっしゃいませ」 食堂にいたのは、礼野ばかりではない。ごくごくまっとうな姿の、菊池 志郎(ia5584)のような青年もいる。来客に気を良くしたようで、お茶と茶菓子を用意してくれる彼。その彼が背中を向けた瞬間、湯を沸かしていた礼野の首が、繋がったまま、ぽてっと落ちた。 「うひゃああああ!!」 「お、お嬢ちゃん首、首!」 船長とほとり、大騒ぎである。菊池が、顔色を変えずに振り向く。と、その時には既に礼野の首は元に戻っていた。 「え? 何の話?」 「気のせいか。なんだか伸びた気がするんだがっ」 船長がそう訴えるが、礼野の首はちゃんと繋がっている。その様子に、菊池はにこりと笑顔で、入れたばかりの茶を差し出す。 「少々お疲れのようですね、お茶でもいかがですか」 ただし、生ぬるい上に、妙に赤い。いや、匂いは間違いなく紅茶なので、きっとそう言う種別なのだろう。 「何か食べますかぁ? 簡単なものなら出来ますけど。ここの住人も食べてくれる人もいるけれど、食べれない人も多いんですよね〜」 礼野が差し出したメニューには、しっかりはっきり蕎麦、と書いてある。天ぷら蕎麦からかけ蕎麦まで、ずらりと並ぶ蕎麦御膳に、船長はここは一つ何か腹に入れておくのも手だろうと、注文してくれた。 「な、何の話だかよくわからないですけど、じゃあいただきます」 「紬〜、お蕎麦よろしく〜」 奥に声をかけるのは、いつの間にか姿を消していた風葉だ。知り合いらしく、奥から「はぁい、風姉様〜」とオーダーを承った声がしたのだが。 「いちまーーい。にまーーい。さんまーい」 みょおおおに間延びした声がする。 「ずいぶんゆっくりだなぁ。蕎麦伸びちゃわないか?」 船長が奥を覗きこむと、厨房で顔を真っ赤にして、額の上に眼鏡を乗せた和服姿の倉城 紬(ia5229)が、「ああ、眼鏡眼鏡‥‥」と、右往左往しながら、何故か暗がりにある戸棚の皿をスローテンポで数えていた。 「ああもう。頭の上についてるわよ」 「すみません、姉様〜」 本人は怖いつもりなのかもしれないが、どうみてパニくってスローになった蕎麦屋の厨房にしか見えない。折角かけた眼鏡も、熱気で曇ってしまっていた。 「ここの食堂大丈夫なのかっ?」 「どうだろうなぁ。ところで、こんな話を知っているか?」 蕎麦が延びたりしないだろうか‥‥と、心配になる船長に、向かいに座った青年が、ぼそりと話を振ってきた。今回のツアー参加者の1人、蒼羅である。 「ひぃぃぃ。変な話をしないでくださいよぉぉぉ!!」 ほとりが相変わらずビビり魔食って要る間、鏡の妖怪の話を振ってくる琥龍 蒼羅(ib0214)。それまで、カラス天狗だろうが動く蔦だろうが、ろくろっ首だろうが皿屋敷だろうが、顔色一つ変えなかった彼の手には、いつの間にか、鏡が姿を見せており、トカゲ陽淵が姿を消していた。 「そう、ちょうどこんな風に‥‥」 その鏡に映ったノイリーが、その姿を徐々に変えていく。いや、急速に肉が腐り、骨になっていく‥‥。 「って、変なもん見せるなぁぁぁ!!!」 さすがに、ほとり程泡は吹かないが、反射的にその鏡を叩き落そうとしていた。が、はっと気付くと、鏡もその持ち主もすっぱり姿を消している。 「いったい何のトリックだったんだ。まったく、こんな仕事引き受けなきゃ良かったぜ」 ぶつぶつ言っている船長に、菊池が気の毒そうな顔をしていた。そして、疲れた表情を見せる彼に、ぼそりとこう言う。 「そうですか、お仕事とはいえ大変ですね。…ところでお化けってこんなのもいましたか〜?」 着物の袖でぐいっとひと拭い。口元のそばつゆが消えると共に、口そのものどこおか、目鼻立ちまですっぱり消えうせていた。 「のっぺらぼう!?」 「え? 私達もお化けですよぉ。夏休みだから、知り合いの所あちこち旅行してるんですぅ」 あ、お蕎麦出来ました〜。と、のんきに蕎麦持って来た礼野の首が蝶々結びになっている。 「って、おい、ここ、お化けだらけじゃない! が、がいどさん!?」 「風姉様なら、お花摘みに行かれましたよ〜」 ほとりが慌てて風葉を呼ぼうとするが、既にその姿はない。皿を9枚まで数えてたが、一枚足りないと呻いた紬が、トイレタイムな事を教えてくれた。 「えぇい、ほとりを苛めて良いのは俺だけだっ。とりあえず体制を立て直すぞ」 こう言う時に強いのは彼氏である。引っ張られて食堂を走りぬけ、かなり奥の廊下へたどり着くと、既に妖怪達の姿はなかった。 「あ、ああよかった。ありがとうございます」 「さり気に酷い事を言っているのは気付いていないのか‥‥」 ため息をつく礼野。下手をすると馬鹿にされているようにも聞こえるセリフに、船長はそう呟くが、礼野は全く気付いていない。 「ほっとしたらトイレに行きたくなりました。風葉さんの様子も見てきますね」 「って、それフラグもふよ!?」 こう言う場所では孤立しては行けない。鉄則のはずだが、トイレまで追いかけるわけには行かず、哀れ生贄の間に水から進んでしまうほとりさんだった。 さて、屋敷が広大ならば、トイレもそれと同じ数存在していた。幾つもの個室が並ぶトイレは、一度に10人以上が用を足せそうだ。 「トイレも広いなぁ。こんなんじゃ、さの間に合わないかも」 きょろきょろと周囲を興味深げに見回すほとり。ところどころに装飾があり、とてもトイレとは思わない。 「こんなところに置物‥‥?」 と、その一角に、日本鎧が1体置いてあった。真っ黒な当世具足と呼ばれる鎧は、一番奥の洋風便座に、まるで床几に座る大鎧のごとき姿だ。 「部屋的には西洋鎧だと思うんだけどなぁ」 ほとりがそう言った直後である。その鎧が、いきなり立ち上がった。がちゃこんっと音をたてつつ、よいせっと下りた鎧こと美空は、大昔のミイラ男のように両手を突き出して、こちらへと歩いてくる。 「さ迷う鎧なのでありますよ〜。おっかないのでありますよ〜?」 もっとも、背は小学生くらいしかないわけで。 「あら、可愛い」 ほとりもこれは全然怖くないらしい。にこやかにその行進を見守っている。ぷんすかと頬を膨らました美空(ia0225)は、ぱたぱたと動かして、猛抗議。 「か、可愛いって言うなであります〜!」 「五月人形さん、どうしたの?」 ほたる、そんな抗議なんぞ聞いてない。 「誰が五月人形でありますか〜。さまよう鎧なんだってば〜」 「うん、きっと迷子ね。トイレ終わったら、お姉さんがガイドさんのところに連れてってあげますよ」 なでなでとかぶとを撫でまわすほとりさん。「違うんであります〜!!」とちたぱたするミニマムさ迷う鎧の主張は、耳に入らない様子で、「あはは、気の強い子だね」とか言っていたのだが。 「あ、ストライク土偶さん」 ほとりの後ろに立つ、巨大な影。目を輝かせた美空の視線を追いかけてみれば、後ろに立つのは、巨大な土偶だ。 「プロトタイプのコールを確認、迎撃します」 「‥‥え」 固まるほとり。直後、どどんっとどこからともなく大音響が響き渡っていた。 「今、何か音が‥‥」 「退治、します」 ずずい、と近付いてくるストライク土偶。再びどどんっと砲台のような音が鳴り、ほとりは慌てて回れ右。 「きゃあああ! 何でこんな効果音が〜!」 「いやー、こんな面白い事になるなんて」 くくくっと含み笑いする琉宇。床の軋む音や、正体不明の足音、扉の開閉する音を折りまぜ、不安を煽っているが、どうやら成功しているようだ。 「ん? 今ほたるの悲鳴が! おのれ妖怪変化め!」 もっとも、そのほとりの悲鳴に即座に反応する神鷹もいる。 「とりあえず迎えに行った方が良いんじゃねェのか?」 「もういないもふ」 船長が薦める前に、既に姿を消していた。ぷらぁと少年がそう報告してきたので、船長も「んじゃ、向こうはアレに任せて、こっちは違う連中を探すか」と、別の部屋へと向かう事にした。 「よしよし。良い感じの効果音になってきた。ねぇ? 譲治くん」 「しぃずかに。和菓子曰くぅ、来る人を驚かすのはぁ、これからだぁねぇ?」 その琉宇の相棒は、三味線使いの平野 譲治(ia5226)だった。本当は子供らしいのだが、ここでは大人の姿で、ゆっくりと分かっている風に話す。 「そこの人、ここの管理人かガイドを知らないか?」 「あっしに…用かい? 妖怪じゃあないけどね…くかかかっ!」 船長の問いに、そうシャウトする譲治。よく見れば、耳がない。 「どわぁぁぁっ」 耳まで避けたような顔に、船長思わず回れ右。 「わぁいんっらーせぉ…♪たぁうぉんっなぁーむっ…♪」 ずっと座って要るかと思えば、いきなり立ち上がって歌いだしたりする。亡霊の鼓笛隊のように、ふらふらと歩き出す。 「って、どこいくねん!」 「さぁねぇ。どこにいこうかねぇ」 本人も分かっていないようだ。追いかける気にもならない船長に、ぷらぁと少年がつんつんとつついてきた。 「なんだか歌が多いもふ」 「ほんとだ。って、何か違う歌が混ざってるんだけど」 よく聞けば、明日天気にして欲しい時に歌が混ざっている。部屋の一つから聞こえてくるようだ。ひょいっと2人して覗くと、部屋には高さも大小も色も様々なてるてる坊主が、大量に吊るされている。 「新しいお客さんですかっ?こんばんはですっ!」 その中で。にこっと笑顔で歌を歌っては、新しいてるてる坊主を作っている燕 一華(ib0718)がいる。つられて「こ、こんばんは」と答える船長に、燕はこう言った。 「ボクは供養のためにてるてる坊主を作ってますっ。皆さんの未練も何もが晴れやかになるように、ってっ♪」 てるてる坊主がまた一つ増えた。 「今残っている皆さんは此処や楽しいことが大好きなんですよっ。んー…それじゃあ、皆さんのこと、宜しくお願いしますねっ♪」 「って、消えた?」 刹那、ぽふんっと煙が上がり、視界が閉ざされる。残されたのは、きょだいなてるてる坊主だ。どうやら燕も住人だったらしい。 「あらあら。仕方がない子ね。ちゃんと片付けないと」 そんなてるてる坊主を、天井に吊るしなおしたのは、ロングのエプロンドレスを身につけたエシェ・レン・ジェネス(ib0056)だ。双子のウシャスと共に、部屋をお掃除中である。 「め、メイドさん?」 「まぁ可愛い子。こっちいらっしゃいな」 そのエシェが目をつけたのは、船長の後ろにいるぷらぁと少年だった。モップを持ったまま、ずずいと少年を口説きにかかる。 「あ、あのちょっと‥‥!?」 「うふふふ。私達はそれなりにここの先住権を持って要るのよ。追い出さないで♪」 船長を無視して、ウシャスと両側を囲い込んでいる。「も、もふ〜」と悲鳴を上げるぷらぁと少年から、仕方なくメイドさんズを引き剥がす船長。 「ねえさんがたの意に沿いたいのは山々だが、家の従業員をオモチャにしないでくれないかな」 「あら、こんなところにも可愛い子が。うふふふ、みぃつけたっ」 船長がぷらぁと少年を取り戻した瞬間、ガラリと扉が開いた。見れば、柏木 万騎(ia1100)がすすすっと近付いてくる。そして、あっという間に「も、もふぅ?」と怪訝そうにしているぷらぁとを抱え込んでしまった。 「探したのよぉ。美少年がもっといるかなと思ったけど、カラス天狗とさまよう鎧とろくろっ首で、可愛いけど女子萌えにはちょっとだけ足りないし!」 「って、何を持って帰っている何を!」 「ぷらぁとくん」 ふんぞり返る万騎ちゃん。撫で繰り回して、ばしばしと写真を撮りまくっている。と、その音を聞きつけたのか、学校の教室に乱入する生徒よろしく、がらっと扉が開いた。 「あー。いたいた。ちょっとー、それやるんだったらこっちの原稿を手伝ってよー」 見れば、見た目ものすごく腐乱した女子高生のアーシャ・エルダー(ib0054)だ。何故か車椅子に乗って、背中に漫画用原稿用紙を抱え、暗闇から現れている。 「えー、見てるのが楽しいんじゃないのー」 「締め切り間に合わないし。もうこうなったら印刷所に連絡して、割り増し特急料金なのよ。って、あら可愛いお兄さん」 色ペンを片手に、万騎にアシスタントを呼びかけているアーしぇが目をつけたのは、ぷらぁとを引き剥がそうとしている船長だ。 「って、誰だお前!?」 もはやゾンビ女子高生レベルでは驚かなくなってしまった船長に問われ、自己紹介するアーシャ。 「腐ったヲトメそのいちです」 「そのにです」 その2はどうやら万騎の事らしい。まるでお笑い芸人の立ち位置で、ずもももと詰め寄るアーシャ、いつの間にか背後の扉に、地文字で『船長×ぷらぁと』と書かれていた。 「ねぇねぇ、せっかくだから、性別の壁くらい乗り越えてくれない? 原稿ネタの為に」 「い、いや。その一応ご遠慮しておくと言うかなんと言うか」 ずずずっと下がる船長。しかし、抱え込んだぷらぁと少年の姿は、アーシャの創作意欲をいたく刺激したらしく。ぽんっと手を叩く。 「ああそうか。ノイさんは受けなのね!」 「と言う事は、いわゆる年下攻め」 で、万騎がその話に乗って来た。腐った乙女の必需品、スケッチブックにがりがりとぷらぁとと船長の絡んでる姿が書き足されていく。人は、恐怖体験で絆が急速に強くなるとの説を信じ、仲の良すぎる主従が出来上がりつつあった。 「体格が合わないかもしれないから、これはここをこうして‥‥」 「きゃっ、ぷらぁとくんてばちょっと大人〜」 内容的には下克上らしいが、そう言うのは大人の都合なので、割愛しておく。 「それにしても、他に攻めタイプいないかなぁ」 「もう好きにしてくれ‥‥」 船長は突っ込む気もないようだ。と、またそこへ別の御仁が乱入してくる。白装束に三角布を頭に巻いた、いわゆる誌にたてほやほや和風幽霊の鶴嘴・毬(ia0680)さんだ。 「そのつもりだよ。騒いでいるのを聞いてみれば、こんなところにお客様かい」 「あ、熊姐さん。ごめーん、ちょっと盛り上がっちゃって」 相変わらず大柄な姿の為、そう呼ばれているらしい。ぺろっと半分縫い目のある舌を出すアーシャ、万騎をつれて、食堂でお茶会を敢行する事にしたらしい。 「ここじゃ、話も出来やしない。そこの2人もついといで」 くるりと振り返って、船長達を連行する熊姐さん。その足元に足はない。 「って、お、おねいさん足! 足!」 「いいから来るっ!」 怒られて、そのまま連行されてしまう船長。連れて行かれたのは、食堂だった。気付けば、住民の殆どが集まっている。 「すみません、姉様。また怖がらせる事が出来ませんでした」 「気にしないで」 紬が風葉に謝っていた。最初に驚かしたからすもその人妖である琴音も、船長を囲んでいる。 「え、えぇとこれ皆住民の方でしょうか?」 「手を出すなよ。出したらこーだからなー!」 ほとりが真っ青な顔のまま固まっていた。神鷹がぐーで警戒する中、熊姐さんは幽霊なのに、くどくどくどとお説教を開始する。 「幽霊とはいえ、我々はここに住んでいるのだし一方的に追い出すとは何事か」 「いやそのー‥‥」 こっちも仕事‥‥と言う弁は、通用しないらしい。 「引越しって面倒なんで、このまま住まわせて下さいよ」 菊池がのっぺらぼうのまま、そう訴えている。譲治も「ふふっ‥‥だぁねぇ?」と同意していた。管理人だと言うエシェも、うるうるしながら「追い出さないで〜」とぷらぁとくんに訴えている。 「あたいが生きてる頃にはそんな無法は通らなかったもんだよ」 幽霊なので、物に触る事は出来ないが、姐さんのお説教はまだ続いている。 「んー。まぁ仕方がないか‥‥」 このままだと際限なく続きそうだと判断した船長、ため息をつきながら、懐から書類を取り出す。封筒に入ったそれには、『契約書』と書かれていたが、それを彼は盛大にびりっと引き裂いてくれた。 「これでチャラだ。オレはここで行方不明になって戻ってこなかったって事で良いや」 にっと口元に笑みを浮かべ、その契約書を紙ふぶきにして宙に舞わす。 「別にリゾート地になってもいーんだけどな‥‥。ま、これも変な友人をもったせいか」 その光景をのんびりと見送りながら、着崩した巫女服を直さず、ずずずっと紬の入れてくれた茶を頂く風葉。横では、ぷらぁと少年を抱き枕にした万騎が、満足げにすやすやとお休み中。 「ぷらぁとちゃーん。もふもふです〜」 「おーい。起きろー。寝たら死ぬぞ〜」 ゆさゆさと起こされる万騎。少年抱えているだけで、身の危険はないはずなだが。 「え‥‥? 食堂で寝てたら‥‥わぁっ」 ゆさゆさゆさ。余りしつこく起こされるので、思わず目を開いてみれば、眠っていたのは船長の船の上で、抱き枕になっていた少年は、普通のもふらさまに戻っている。 「ここで枕にすると落ちるぞ」 「え、夢? もったいなぁぁぁい!」 が、万騎の感想は、手元の真っ白い毛玉が毛玉に戻ってしまった事を残念がっているのだった。 |