【踏破】雲関蜻蛉討伐令
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: イベント
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 73人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/06 15:03



■オープニング本文

 魔の島‥‥鬼咲島。
 その全域は、いまだはっきりとはしていない。
 だが、そこに巣食うアヤカシの姿ははっきりしていた。
 キキリニシオク。
 雲に住まう大蜻蛉。
 蜻蛉の頭に鳥の胴体、孔雀のような尾を持ったアヤカシ。その大きさと口伝から、上級だと言われている。
 幾つかの依頼を経て、島の周囲には、その配下と思われるアヤカシがいる事が分かった。何が気に食わないのか、向ってくる船を片っ端から狙い、中には自ら船を操るアヤカしさえいる。その軍勢は、魔の島だけにとどまらず、伊乃波島周辺にまで勢力を伸ばしていた。
 それは、他の国の空とも、さほど変わらない光景だったが、このままでは、嵐の壁を突破する事は無論の磨Aこの辺りの航路を確保する事も出来ない。それに、魔の島のアヤカシ達は、他の勢力より強力だった。

 夜、魔の島の闇がいっそう濃くなる頃、島の上空に響くは唸り声。そして、天空を揺るがす羽根の音。
「このままじゃ、先に進めませんね‥‥」
 船からかなり離れてはいるが、どんどん近付いていくる。その行き先は、間違いなく自分達の船だった。周囲にはアヤカシからすれば小型の‥‥それでも差し渡し5mはあろうと言う大蜻蛉が群れており、怯えた動物達は伊乃波島から飛び立つ。中には瘴気に捕まり、アヤカシと化す鳥達もいる。一大勢力と化しつつある魔の島のアヤカシ達に、三成は入り江の影に船を進ませ、停泊していた。
 月の無い夜。見張りの交代を見遣りながら、思考をめぐらせる三成。

「船長はまだ働いてくれそうですね。餌の一部を断たれれば、首領も出てくる‥‥。宝珠はこちら‥‥。魔の島の攻略には、重要な足がかりでしょう‥‥」
 手元には、この辺の空を映した絵図がある。色分けされた印を動かし、三成は満足そうに言った。
「目には目を。歯には歯を。古き手法だが、時には有効です。やつの狙いがここにある以上」
 伊乃波島の右下には、髑髏の印。魔の島と呼ばれる島の上。
「三成様。娘はいかがなされますかな?」
「鍵と引き耐えとの事だったですかね。そのままでもよろしいでしょう。向こうで重要だったかもしれませんが、今はただのおまけですから」
 お雪の引き取り先は、まだ安定しない。

 うぉぉぉん‥‥。

 そんな船に、風に乗って響くアヤカシの声。見張りが騒がしい。どうやら、近くに雲柳が来て居るようだ。蜻蛉の羽音も聞こえる気がする。ここも危ないようだと言われ、三成は船の移動を指示する。


 うぉぉぉん‥‥。

 蜻蛉が鳴き声を上げるのなら、それはアヤカシだろう。ぐるぐると旋回する蜻蛉。いらだっているようで、瘴気が濃くなっていく。
「狙いは‥‥宝珠でしょうか‥‥」
 船長に寄って届けられた宝珠。それは、アヤカシ達に奪われば、この間の空賊事件を、もっともっと規模の大きなモノにしたような被害が出る。護らなければならない。と、宝珠を修める胸のうちに呟く。程なくして、 音もなく滑り出した船が、場所を移動し終えた頃、入り江の上空に、蜻蛉と瘴気が流れ込んでいた。
 どうやら、間一髪だったらしい。1匹、とても大きな蜻蛉がまぎれて居るのを見て、三成は再び思考を巡らせた。
「伝承によれば、名はキキリニシオク‥‥とありますね。大人しくさせる方法はないかしら‥‥」
 広げた古文書と、調査されたメモには、雲関蜻蛉とある。関所の番人たる大蜻蛉の親玉。だが、どうみても門番の類には見えない。少なくとも、魔の島から追い出さなければならないだろう。
 そう判断した三成は、天儀王朝の名の元に、書を記す。それにはただ一言、そして簡潔な命令が書いてあった。

『キキリニシオクの軍勢を追い払え』

 天儀の名前で発動したその作戦は、多数の開拓者達の力を必要とする。ゆえに、人数を制限する事など出来ない。
 目指すは雲の関所に舞う蜻蛉。
 アヤカシの軍勢を蹴散らし、空に平穏な青を取り戻す。

 それは、事実上の討伐命令だった‥‥。


■参加者一覧
/ 小野 咬竜(ia0038) / 北條 黯羽(ia0072) / 沢渡さやか(ia0078) / 無月 幻十郎(ia0102) / 犬神・彼方(ia0218) / 雪ノ下 真沙羅(ia0224) / 羅喉丸(ia0347) / 鷲尾天斗(ia0371) / ヘラルディア(ia0397) / 薙塚 冬馬(ia0398) / 佐久間 一(ia0503) / 龍牙・流陰(ia0556) / 相川・勝一(ia0675) / 葛切 カズラ(ia0725) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 酒々井 統真(ia0893) / 紫焔 遊羽(ia1017) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 柏木 万騎(ia1100) / 桐(ia1102) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 輝夜(ia1150) / 巴 渓(ia1334) / 八十神 蔵人(ia1422) / 喪越(ia1670) / 羅轟(ia1687) / 嵩山 薫(ia1747) / 辟田 脩次朗(ia2472) / 細越(ia2522) /  鈴 (ia2835) / 斉藤晃(ia3071) / 黎乃壬弥(ia3249) / 赤マント(ia3521) / シエラ・ダグラス(ia4429) / フェルル=グライフ(ia4572) / 各務原 義視(ia4917) / 奏音(ia5213) / 御凪 祥(ia5285) / 叢雲・暁(ia5363) / 設楽 万理(ia5443) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / バロン(ia6062) / からす(ia6525) / 痕離(ia6954) / 趙 彩虹(ia8292) / 一心(ia8409) / ルーティア(ia8760) / 和奏(ia8807) / 茜ヶ原 ほとり(ia9204) / 劫光(ia9510) / リーディア(ia9818) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / 龍馬・ロスチャイルド(ib0039) / エルディン・バウアー(ib0066) / シャンテ・ラインハルト(ib0069) / オラース・カノーヴァ(ib0141) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 玄間 北斗(ib0342) / リンカ・ティニーブルー(ib0345) / ルヴェル・ノール(ib0363) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / 无(ib1198) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 将門(ib1770) / 鈴歌(ib2132) / 蓮 神音(ib2662) / ティンタジェル(ib3034) / 朱月(ib3328) / 初瀬 羽沙(ib3509) / ホムラ(ib3674


■リプレイ本文

 雲関蜻蛉はオニクと略された。やはり、呼びにくいようだ。
「ふむ。この調子では、緊急連絡手段を決めておいた方が良いと思うぞ。中々声が届かないだろうから、要点だけでも迅速に伝えられる手段を講じた方が良いと思うのだ」
 渦巻く風は、通常の声を全て遮断してしまう。玄間 北斗(ib0342)はよく通る笛の音を、その代わりにしようと提案していた。
「回りの雑魚から片付けた方が良いと思いますよ」
 偵察に出ていた菊池 志郎(ia5584)が戻ってくる。それによると、敵もまた準備を整え終わってしまった頃だった。まさに嵐の状況。周囲に瘴気が立ち上る。さしずめ空に上がった魔の森だろうか。
「まずはあの辺の敵を攻撃しないとっ」
 志郎はそう言うと、影縛りを目の前の蜻蛉へと食らわせる。ボスよりだいぶ小さいが、それでも自身の龍と同じ位の大きさはある。散華でその蜻蛉に刹手裏剣でもって、その装甲の隙間を貫く。羽を振るわせる蜻蛉へ、忍刀『暁』を食らわせる。
「なぎ払って!」
 その蜻蛉にまぎれるように、雲柳が触手を伸ばしてきた。しなる木の枝に似た一撃を、龍のソニックブームで吹き払う。
「極力近付かせないようにしないとっ」
 叢雲・暁(ia5363)が、そう言いながら手裏剣投げつけていると、大きい蜻蛉がすっ飛んできた。どうやら小隊長と行ったところだろう。大物だと思った暁は、風魔手裏剣を取り出した。気合いと共に、巨大化する風魔手裏剣。その一撃は、見事蜻蛉頭に命中していたが、他の蜻蛉達の注意を、完全に引きつけているとは良い難い。そうこうしている間に、今度は闇目玉が姿を見せる。
「こっちにきなさいっ」
 暁は、そこで火遁の術を使った。慎重な性格と言う闇目玉は、その炎に炙られ、集団の方へと戻って行った。
「かなり多くの軍勢が増えているようですね」
 辟田 脩次朗(ia2472)の乗る止来矢のビーストクロスボウが、空を切り裂く。リロードをしている間に、炎魂縛武をかけた白弓を撃ち込んでいる。しかし、蜻蛉の動きも素早く、距離を詰められてしまう。
「止来矢、硬質化を」
 そう指示する脩二郎。そのまま、速度を上げる。距離を詰め、自身も大薙刀へ持ち変える。だがそこへ、蜻蛉が近付き、一撃を食らわせてきた。切り裂く爪が、龍の鱗を薙ぐ。篭手払いで何とかしのぐが、おかげで攻撃するタイミングを逸してしまう。中々に難しいようだ。
「このままでは、血が血を呼んで瘴気嵐が吹き荒れるやもしれぬ‥‥」
 開始された雑魚への対応に、玄間がそう懸念を示す。玄間の超越した聴覚には、次々と群れてくるは音が届いている。どうやら、見えているだけではないようだ。
「皆の者、注意してくれ。血の雨は恨みを呼ぶようだ」
 呼子笛が鳴った。まるで、音楽のように聞こえるそれは、敵の恨みをなるだけ薄れさせるよう、注意を促すものだった。
「こりゃあ厳しそうだねぇ」
 軍勢をみて、友の狐を置いてきてよかったと、安堵する无(ib1198)。駿龍の風天と共に、戦場を咲け、指示通り索敵と伝令を繰り返している。風天に高速回避と全力移動を使わせ、梟の人魂を起動させる。四方八方に飛び散らせた梟達は、敵の位置を的確に教えてくれた。その規模と攻勢を把握するのは、无自身の役目だ。
「この調子だと、戦えば戦うほど、蜻蛉の力になりそうだねぇ」
 まだ、オニクの姿は見えないが、その雑魚達の中心に、奴が潜んでいるのは確かそうだ。そう判断した无は、くるりと踵を返すと、人魂と声とで各班に注意を促しに行く。その間も、渦の中心からは決して目を離さずにしながら。
 そんな戦に参加しているのは、何も武器を持つ者たちばかりではない。
「ムアウィヌン、もう少し前に出られませんか? ここでは、音が届かないかもしれないです」
 両手持ちのリュートを携えたモハメド・アルハムディ(ib1210)が、自身の龍にそう声をかける。弾き語るは武勇の曲と、騎士の魂。吟遊詩人は戦人を鼓舞し、その力となるのが役目だが、風の音が邪魔して、上手く届かない。
「ショクラン、ありがとう」
 ムアウィヌンは、主の意思に答え、戦場へと進み出てくれた。母国語と天儀語を重ねるモハメドの氏族は、伝え聞く新大陸からやってきたと思われる。本格的な合戦参加時期は、ちょうど氏族の風習である断食の期間。それを考えると、今のうちに少しでも出来る事をやっておきたかった。
「戦場が空でよかったですよ。御酒と豚には触れませんからね‥‥」
 大きな鳥に、重力の爆音を食らわせるモハメド。願わくば、合戦にそのようなアヤカシが出ない事を祈りたい。少しでもお手伝いと思ったシャンテ・ラインハルト(ib0069)は、あちこちで交戦し始めたのを見て取り、精霊の狂想曲を奏で始めた。敵の数が多い最初ほど、効果の高い曲だ。範囲内の蜻蛉に一撃を与えたその曲に、アヤカシ達の一部が混乱する。動きの止まるシャンテに、恐慌しなかったアヤカシが、うるさい騒音を消そうとやってきたが、ノクターンは主の曲を止めない為、回避に徹してくれた。
 そこへ割り込んだのは、龍・ミョウケンに乗り、事前に班内で決めた策通り、雑魚を相手取る将門(ib1770)。多数派の意見に従えば、その新陰流の技を、遺憾なく発揮すれば良いようだ。
「名付けて、騎兵の、進撃です‥‥」
 戦っている間に行動の自由を取り戻し、後ろ辺りへ付いたシャンテが、武勇の曲と騎士の魂を、交互に演奏する。組曲となったその曲で、底上げをする。神威人の故郷へ繋がる道を開く為、怯む事なき行進曲を組み上げる。聞こえる範囲だけでも、力とならんと。
(神音は今、どこまでできるんだろー?)
 今回の討伐令、未だ未熟な自分だが、そう思い、相棒の駿龍・アスラと共に参加した石動 神音(ib2662)。その腰には、落ちないように荒縄で、自身とアスラとを二重8字結びで結び命綱にしてある。微妙に可愛いかもしれないと思いつつ、神音は龍の首筋を撫でた。
「神音がんばるから、アスラもがんばろーね!」
 龍が小さく鳴いて答える。戦場では、新たな敵が現れ始めた所だった。あちこちで攻撃を食らい、時には与え、混乱する現状に、第二陣を投入する気になったらしい。現れたのは、羽をもった蛇型の下級アヤカシ。いわゆる小雷蛇と言う奴だ。見れば、親船のように風柳が何匹か混じっており、蜻蛉達が集めた霧に、目玉が浮かんでいる。おそらく吸血霧と呼ばれるアヤカシだろう。
「皆のそばでやらないとっ。アスラ、クロウで連続攻撃!」
 突出行動はとりたくないので、皆に混ざって、気功波を撃つ神音。言われたアスラは、その足元で、目の前の小雷蛇に一撃を食らわせるが、それほど当たらない。その間に、風柳が枝を伸ばしてきており、神音は接近されたからと暗勁掌を使うが、相手の防御力がそれほど剥げたようには見えなかった。
「こうなったら!」
 それでも、ダメージは行っている筈だ。そう思った神音、アスラを急上昇させる。轟音が耳元で唸る中急降下をして、気功波を次々と放つ。効果で2匹は落とせたが、中身はふらふらだ。自身の体力ががっつり減っている気がする。アスラの息も荒い。高速回避しつつ、回復班の待つ船へと引き返す神音。
「喉が、カラカラ‥‥」
 緊張したせいで、ぜぇはぁと息が荒いそこへ、ヘラルディア(ia0397)が良く冷えた岩清水を差し出す。回復作業に専任しているが、船ではなく相棒アルマ・ズィーベントに騎乗していた。回復用の閃癒や、神風恩寵の届く範囲を、アルマでぐるぐると回遊している。すぐ前にいるのは、羅轟(ia1687)。全身鎧の、いわゆる前衛タイプらしく、ヘラルディアを孤立させないように、敵を切り伏せていた。
「大丈夫?」
 頑張って皆といっしょに敵を攻撃しているが、つまずいて倒れたホムラ(ib3674)が、鳥に襲われている。そこへ、嵩山 薫(ia1747)の龍がソニックブームで先制一撃をお見舞いしていた。声をかければ、頷いてくれる。どうやら大丈夫そうだと感じた薫は、高速移動で大鳥に接近し。極神点穴を食らわせる。極端な単機突出はしたくない。絡め手の一撃離脱を旨とする薫、ホムラを連れて、さっさと離脱する。
「幻十郎さん、敵さん引きずり込んだわよ!」
 追いかけてきたそのアヤカシ達を迎撃するのは、八葉に跨る無月 幻十郎(ia0102)だ。力ある咆哮が、追いかけて来たアヤカシの勢力をひきつける。
「示現流こそ最強! 気張って行きますか!」
 どんっとその刃が振り下ろされた。ほかの勢力に負けず劣らず、派手な一撃である。それは、趙 彩虹(ia8292)も同じだ。蜻蛉の一撃を緊急回避で避け。加速をかけながら、戦場を飛び回る手には、槍が握られており、すれ違いざま、そのボディに一撃を食らわせては、加速して飛び去る。そこへ、小雷蛇が群れを成すが、加速した勢いに、破軍をかけて叫んでいた。
「疾風! 翔虎箭疾歩!!」
 ざしゅり、と突破口が開ける。それを駆け抜けた彩虹は、船長の船へと全力で戻って行った。
「戦闘とかは苦手だけれど、試してみたい事があるんだ」
 駿龍ろんろんの首と、自身の腕に、余裕を持った紐で結び付け、すいっと前に出る琉宇(ib1119)。今はただ信じるばかりだ。側には、龍馬・ロスチャイルド(ib0039)が護衛についてくれてもいるし。奏でるは夜の子守唄。眠れば落ちていくだろうと思っていたが、アヤカシは寝ても落ちない。
「通じないわけじゃないんだ」
 が、それはそれで有効なようで、眠気で攻撃の手が緩んだ隙に、回復と強化の班に合流する事が出来た。本来、強化班である琉宇は、すぐさま「武勇の曲」「霊鎧の歌」を奏でる。応援用楽器でもあるブブゼラを法螺貝のように吹き鳴らして。
「ま、これだけ豪華な顔ぶれが揃ってりゃ、俺の出る幕なんざ無ぇだろ」
 戦場の様子に、そう笑い飛ばす喪越(ia1670)。苦戦していそうな戦線を探しちゃあいるが、あちこちで戦っているので、戦場を駆け抜けるにしても、それなりに時間がかかる。
「金を貰っておいてサボりっ放しは大歓迎――じゃなかった、流石に悪い気がするしな」
 それでも、単騎の身軽さからか、味方を巻き込まないように、焙烙玉を放り投げ、斬撃符と霊魂砲で削っていく。接近してきた蜻蛉は、鎧阿がきしゃあっと警戒していた。下では三成が見ている事を思うと、せめて良いところをみせてやりたい。
「配下の数も加えての蹂躙のつもりだろうが、姿を見せることの危険を教えてやらぁ!」
 そう言う酒々井 統真(ia0893)が使うのは、空波掌。ちくちくと遠距離で牽制をかけている。なぜならそこに、傷つけさせたくねぇやつ‥‥フェルル=グライフ(ia4572)がいるから。
「開拓者の名に恥じない、嵐の壁を開き新たな儀への道を拓く戦い‥‥参ります!」
 そのフェルルはと言うと、オニク班の戦力を温存する為、隼襲で機を掴み、手綱と鐙を素早く繰る。敵の出鼻を挫きたいが為だが、索敵の援護もそれなりに力を使う。それでも、向かってくる敵には、惜しむことなく焔陰を使い、エインにはクロウと急降下を織り交ぜさせていた。
 だが。
「出てきたな。エイン、炎を!」
 その戦場を取り囲む用に出没したのは、巨大な目玉を持つ闇そのものと言っていいアヤカシ達。そう、闇目玉の団体さんだった。

 闇目玉は慎重な性格をしていると伝えられている。だが今目の前にいるのは、そんな伝え聞く性格なんぞ、欠片も見せず、堂々と姿を見せていた。
「まずい‥‥。瘴気嵐が近い‥‥。闇目玉の掃討を先に。総動員で当たりをつけてくれ!」
 そう確信する鬼啼里 鎮璃(ia0871)。何しろ麻痺上等のアヤカシである。先に始末をつけておきたい。まだ距離が離れているので、弓を使っていたが、その周囲は黒く染まっている。心眼を使い、直前の仲間の位置を外せば、目玉の位置がわかる。だが、隙間を詰めれば、その分攻撃も食らいやすくなっていた。精霊剣を使うのは、まだ先になりそうだ。
「対闇目玉部隊はこっちだ」
 応援シャツを自信の龍の角に結ばせ、ひらひらと振っているオラース。呼子笛もブブゼラも、さっきからひっきりなしに鳴っている。むしろ、囲い込みと言って良いだろう。そう判断したオラース・カノーヴァ(ib0141)スは、その目立つ格好のまま、目玉へと突貫する。
 ぶしゅうっと闇目玉のウィンクが散った。幻覚を放つ闇目玉に、視界が奪われる。幻惑の力だ。が、オラースはしっかりと手綱を握り締め、ブリザードストームをお見舞いしていた。そこへ、旗にひきつけられた他の開拓者達が向かう。どうやら、敵の命中力を下げる作戦は成功したようだ。
(焙烙玉のタイミングを計らないとな)
 後は、サンダーとアークブラストを使い分けると言ったところだが、距離と時間を稼ぐ為、一端後ろに下がる事にする。弓の白獅子隊には、親しい茜ヶ原ほとりがいる。何とか力になりたいと。
「物理攻撃が効かないらしいからな。皆で追った方が良い」
 そんな対闇目玉班を、何とか纏めようとする御凪 祥(ia5285)。行動不能系をお持ちのアヤカシは、その動けなくなった所へ無の刃を飛ばしてくる。恐慌を引き起こさない為には、仲間の絆を感じているのが一番だと。
「班内でペアを作れ。一方は囮、もう一方が本命だ。こんな風に」
 オラースの作り出した隙間に、斜陽を絡めた雷鳴権をお見舞いする御凪。周囲にいたアヤカシを盾にしようとする闇目玉だが、そこへ今度は龍が立ちはだかる。
「こいつを相手に使用ってのが少ない。さぁ、槍を存分に振るってやろうか」
 しかし、闇目玉に参戦している面々は、雑魚掃討の半分くらいだ。それでも、攻撃できそうな面々を見つけると、そう声をかけていく。その口元に笑みが浮かんでいるのは、この厳しい戦いを、どこか楽しんでいる思いがあるからだろう。
「露払いは私がっ」
 その囮を買って出てくれたのは、和奏(ia8807)だった。合図を確認すると、龍と共に闇目玉へと向っていく。高速回避を使い、器用に避けている。時折、ソニックブームを使っているところを見ると、闇目玉をやると言う認識は持ってくれているようだ。
「大アヤカシには、たくさんの方が挑まれるようですしねっ」
 苦心石灰で抵抗力を高める和奏。だが、さっきから心を蝕む闇目玉の睨みは止まらない。だるさと重さを感じながら、それでも手を休めるわけにはいかなかった。さっきから、呪いの声が聞こえてくる。耳を貸してはいけない。鈍りそうになる心を叱咤する。
「いつもすまんな‥‥では行くぞ」
 甲龍のラエルを連れたルヴェル・ノール(ib0363)が、そうして和奏が暴れている隙を狙い、自身の持つ焔使いの名の如く、エルファイヤーで闇目玉を焼こうとする。だが、敵の数は多く、中々削れない。蛇に睨まれたカエル状態になる目は、邪視の技を持って、開拓者達を威圧してくる。
「硬質化を!」
 返す刀で、闇目玉の一撃が飛んできた。ラエルを硬質化させ、守備に徹するが、それでもダメージが重い。
「蹴散らせっ」
 補給の終わったルヴェルが、ブリザーストームをお見舞いする。錬力は惜しまない。切れたら、背中に背負った旧式弩で、援護に徹するだけの事だ。
「こっちを倒してから考えましょうか」
 漂う瘴気は、陰陽師にとっては回収するべきものだ。それを鈴木 透子(ia5664)は、斬撃符へと変え、闇目玉へと食らわせる。
「当たりさえしなければ」
 問題はないと思っている朱月(ib3328)。囮だと思い、気楽に打剣を使ってみた。が、相手の邪視に阻まれ、動きが鈍くなってしまう。相手にする闇目玉の飛ばす無の刃は、いわば非物理の攻撃。
「颯、回避して」
 駿龍だから、きっと行ける。そう思う朱月。しかし、目玉の効果は、龍の速度をも落とすらしい。そこへ、朱月の火遁が放たれた。しかし、反撃もそこまで。邪視の睨みに、囲まれてしまう。それを切り裂いたのは、却光の残撃符だった。後方で、闇目玉にやられた傷の治療をしているリーディア(ia9818)を庇いつつ、射程に入った闇目玉を落としている。
「この俺の目が黒い内は近づけさせねえよ!」
 力強く宣言する劫光(ia9510)。乗るのは炎龍の火太名。人魂で竜を作る余裕はなさそうだが、その気炎は激しいものだ。
「幻覚はこちらで何とかします」
 リーディアが、闇目玉の幻覚にやられ、何もない空間を攻撃している者に、解術の法をかける。抵抗力の低そうな人に、加護の力を分け与えてきたが、足手まといになっていないかどうかは、今ひとつ自信がない。それでも、リーディアは朱月にも加護の術をかける。
「颯、キックだよ」
 刹那、それに応えた朱月が、楓に命じている。いくぶん、闇目玉が後ろに下がる。声を掛け合う事が大事。そう教えられた朱月は、即座に叫ぶ。霊青打の刃が、闇目玉を叩き落としていた。
 リーディアが、先を示す。雑魚は専用の班が良くひきつけてくれていたが、闇目玉の数も多い。そして‥‥まだオニクは姿を現していないのだから。

「血が、蜻蛉を起こすってところだねぇ」
 長く続く戦いの様子に、无は過去の戦場の情報から、一見順調に見えて、そうではない事を見抜いていた。
 開拓者の怪我は多い。その殆どは巫女達の治療で賄っている為、重傷な事にはなっていないが、それでもその血潮は、闇目玉の霧とそして瘴気と相まって、空を赤黒く不気味に染め上げている。
「あれは‥‥」
 幻間の耳が、その不気味に染まった空に、異音を察知していた。予め決めていた吹き方を、呼子笛でかき鳴らす。項目は『瘴気嵐警戒』。そう、眼下に見える魔の島から、真っ黒な瘴気が吹き荒れてきたのだ。まるで、開拓者達を飲み込むように。
「人の血を、魔の島に降らせちゃいけないようだねぇ」
 鎮璃の疑問が、予感になった。オニクと対戦した事のある面々が息を飲む。瘴気が噴き出し、抵抗の低いものが頭の痛さを自覚した刹那、その中心に目覚めるは‥‥大アヤカシ・オニク。
「背後は任せて、オニクに専念してください!」
 龍のソニックブームで瘴気を切り払おうとする志郎。その程度で晴れる瘴気ではない。それでも、死角から攻撃されないよう、動き回り、手裏剣や刀で雑魚を足止めにかかる志郎。
「こっちだ。雑魚ども!」
 フェルルが群がる有象無象の敵へ咆哮を浴びせる。サムライの力ある声に、雑魚の幾つかがこちらを向いた。これで、統真の方に向う敵も減らせるだろう。後は任せるだけだ。
「雑魚の陣は‥‥割れたな! だったら、一気に叩くまでだ!」
 統真がそう言って、全力移動を開始。龍が風を切り、距離を詰める。雑魚の攻撃を八極門で耐え、何とか張り付こうとする。
 が、現れたオニクは巨大だった。統真1人でどうにか出来る大きさではない。上空から一気に下降した透子が、すれ違いざまに呪縛符で攻撃していた。がつんっと金属の鳴るような音がして、その攻撃が阻まれる。その間に、後退する統真。
「大丈夫ですかっ」
 ティンタジェル(ib3034)が、ジャスパーで全力移動してきて、その治療をしてくれた。符の届く範囲にのみ寄せてもらおうとしていたが、それでも縦横無尽に駆け回らないといけない。他の回復役と対象が被らないようにしていたが、さすがに人数が多いので、仕事に事欠く事はなさそうだ。
「では次やってきます」
 少しウェーブがかかった髪が、肩の高さでなびいている。小柄だが決して少女っぽくない少年が担当だった事に、少しほっとする統真。
「こっちで、いいんですよね?」
 事前に、連絡事項や呼子笛の合図を確かめていた礼野 真夢紀(ia1144)、鈴麗と共に戦闘で足手まといにならぬよう、リンカ・ティニーブルー(ib0345)と行動する事にしたようだ。頷かれ、後方から【神風恩寵】をかけていた所、そのリンカの呼子がけたたましく鳴り響いた。
「瘴気嵐だ。結界を頼む」
「わ、わかりましたっ」
 リンデンバウムに乗り、救助の手を差し伸べるリンカ。そのリンカに言われ、礼野は加護結界を使う。これで、何とか持つはずだ。そう判断したリンカは、周囲の負傷者を確認しながら、迎撃を行う事にした。
「ウチにできる事は少ないかもやけど、前線の皆はんの為にも、気張らなあかんな」
 鈴歌(ib2132)、龍のホム爺に乗り、ハープをかき鳴らす。敵の攻撃は多く、いくら歌っても足りないが、瘴気を見る限り、霊鎧の歌を優先させた方が良いようだ。
「ホム爺、頼みますぇ」
 危なくなったら、素直に下がるように言い、レイピアと盾を持って、詩人の音が聞こえない空域を目指す。しかし、瘴気の囲いは、そうして縦横無尽に駆け回る詩人達をも包み込んでしまう。
 吼えるオニク。呼び声が、頭痛を引き起こす。姿を見せたオニクは、圧倒的な存在感を持って、開拓者達を飲み込まんとしていた。
 そこへ、バロン(ia6062)の率いる白獅子隊が、弓矢を撃つよう指示している。まず、弓術師を中心に、横に並んだ小隊員達がいっせいに矢を撃ち、他の開拓者達に手を出させないように、弾幕を作っていた。
「皆、塊になって幕を作れ!」
 カザークショットを常時維持しつつ射撃するバロン。先即封で牽制して仲間の被害を減らそうとする。だが、敵もただ黙って撃たれている訳ではない。弾幕の横へと回りこもうとする。
「バロン翁はやらせませんよ」
 曲乗りに備え、足腰を龍に固定し、弓と左手を予め包帯で縛った茜ヶ原 ほとり(ia9204)が、そのバロンに攻撃を加えさせないよう、足元でクロエへと指示している。右足で方向を、左足で速度を調整する動きに、クロエは従ってくれている。冷静に合理的にと考えるほとりは、開戦直後に使ったカザークショットの矢を番えなおし、速射で応戦していた。アクロバティックな攻撃を信条とするほとり、駿龍、鬼鴉にのったからす(ia6525)が、援護してくれるが、急加速や体をそらすのはともかく、龍を横転させてと言うわけには行かないようだ。
「油断大敵」
 そのからすが心毒翔で狙うは、オニク本体。かなりの高度へ舞い上がった鬼鴉から、オニクの背中に生えた円盤を狙う。しかし、中々上手くは行かないようだ。そんな弓兵達の攻撃に、何匹かの雑魚が引っかかって針山と化す中、隊を率いるバロンが、こう叫ぶ。
「白獅子隊突撃! 突破口を開くぞ!」
 前衛部隊が突入する道を作る。そう指示を受けた小隊の面々が同じ様に弓を撃つ。狙っていたからすも、その指揮にあわせ、乱射を敢行する。
「‥‥誰一人とて‥‥落とさせはしません、よ!」
 乱射する一心(ia8409)。珂珀には、高速回避と全力移動を必要に応じ使用するよう告げてある。炎をあわせたその矢は、後衛のポジションを揺るがす物ではない。
「弓は苦手なんですけど‥‥。体力と気合いは負けません」
 そう言って、援護射撃をするルーティア(ia8760)。発気でオニクの一撃を避け易いようにすると、隼人で足の速さを増す。攻撃がきつければ不動とは思ったが、そこまで余力があるわけではない。それでも、甲龍フォートレスは霊鎧で身を護り、近付いてくる雑魚に尻尾で迎撃してくれた。おかげで、射撃攻撃が出来る。
「弓兵の才は無くとも、弓兵の心を見せん」
 皆の乱射時には、さほど矢を多く放つ事の出来なかった細越(ia2522)が、直閃で敵の密集地の中心を狙う。威力で陣形を崩すのが狙いだが、すでに崩れかけていた。大アヤカシといえど、所詮はアヤカシ。それでもなお近づいてきた敵には、龍の長柳に硬質化を使ってもらい、その行く手を阻んでいる。
「私の強弓、今こそ皆の為に役立てん」
 すぐそこに、突入の前衛部隊が控える中、不動で防御をあげ、前のほうへと進み出る。弓は後衛。盾になれる者は少ないのだ。
 再びオニクが吼え、その巨体をくねらせた。機動力に心血を注ぐ開拓者達は、素早く龍を避けさせる。中には盛大に怪我をする者もいたが、自身が回復出来る者も、回復の薬を持ち込む者も多い。なるべく損害を受けないよう、距離を取って戦う設楽 万理(ia5443)のような開拓者もいる。全力移動で避けるジルベール(ia9952)のような者もいる。
 オニクは、開拓者達が避けた刹那、呼び声を上げた。それは、足元から沸き立つように、虫達を呼び寄せる。いわゆる害虫召還の術だろう。人に対抗する人の技と同じようなモノを身につけたオニクに、万理はある事を思い出す。
「‥‥別依頼でつかなかった決着をここでつけられればいいわね」
 オニクを、忌々しく見上げながら、万理はそう言った。既に、カザークショットをお見舞いし、開幕乱射で精密射撃を混ぜてみたものの、撃墜率は芳しくない。それでも、闇目玉を覗く敵を弓で攻撃し、援護に徹していた。
 オニクは、弓ごときでは我を傷つける事は出来ないと思っているのか、あまり相手にはしてくれない。動きの止まるタイミングはなさそうだ。阻まれるのは害虫と瘴気の霧。それでも、万理は攻撃を繰り返す。
「仲間と連携すれば、1の力を5にも10にも出来るからな。名高い白獅子隊の戦いぶり、近くでじっくり見せてもらうで」
 隊に入っているわけではない。が、共に弓を使うジルベール。今までは練力を節約しつつ、雑魚を掃討していたが、オニクが攻勢に出た以上、参加するのが必定だった。
「くそ、しぶといトンボやなぁ! 皆、いっしょに狙うで!」
 そのジルベールは、周囲にいる弓兵にも声をかけると、攻撃を集中させる。狙うはやはりオニクの翼。それはもう穴を開ける勢いで、移動力を削ぐ事を前提に。
 オニクが、巨体を揺らす。刹那、知っている者達が警告を出す。瘴気嵐を示す呼子笛が鳴らされる。ぶしゅうっと吐き散らされ、視界が奪われ、頭痛のひどく鳴る者もいる。
「道が開けた! 前衛さん頼むで!」
 その直後、ジルベールが叫んだ。見れば、オニクがひと回り小さくなった気がする。その証拠に、害虫の中に一筋の道が見えた。
「よし、いまだ!」
 隊長のバロンが、援護を指示する。弓兵達が、前衛の為にオニクに迫るのを支援し始めたのは、この時からである。
「ここで足止めするのがぁ、正解の気ィするなぁ」
 犬咬隊が動いたのは、その時だった。温存しながら、地道に削る事を指示する犬神・彼方(ia0218)。オニクの攻撃は、受け流し気力で抵抗を上げる事にして、黒狗にも硬質化で耐えるよう指示を出していた。
 控えめな割には、思いっきり前衛の雪ノ下 真沙羅(ia0224)。自身の生命力や錬力を気にしつつ、平正眼を使う。余り大きなダメージになっているとは言えなかったが、ちりも積もればなんとやらだ。
 受け流しの構えを取る薙塚 冬馬(ia0398)。相棒の名は夜刀。その夜刀と自分を荒縄で繋ぐように縛り、より激しい軌道にも振り落とされないように様に備えた冬馬は、やはり自らの力を温存し、オニクの足止めに向っていた。とはいえ、隊の面々と離れすぎては一大事なので、周囲で機動力を生かし攪乱、一撃離脱の戦法を取っている。そこへ、後衛の北條 黯羽(ia0072)が、冬馬のフォローをするべく、残撃符を放って援護していた。群がる害虫もいたが、符は火炎の獣を形作る。迎撃するのは北条ばかりではない。超越聴覚で、相手の出肩を探っていた痕離(ia6954)もまた、害虫への火遁をお見舞いしていた。龍の鐡が、ファングとクロウを食らわせている。前衛の痕離だが、避ける事を重点においていた。
 鈴(ia2835)は炎龍の檐鈴を害虫の群れに向けた。まだ、自身も龍も遠距離の攻撃手段がない。ので、父親代わりの彼方の元で、足止めに精一杯だ。一斉攻撃の合図を待っていると言ったところだろう。
「怪我をした人は居ませんか? 虫にかまれた人は、遠慮なく行ってくださいね?」
 同じ一家の巫女、紫焔 遊羽(ia1017)と手分けして支援活動に従事している沢渡さやか(ia0078)がそう言いながら、一家の場所を回っている。閃癒を使い、怪我を治していくさやか。せめて、手の届く範囲にいる者くらい、怪我をさせないようにしたいと。そう願うさやか達回復巫女のおかげで、それぞれ怪我こそ負うものの、何とか耐えられる範疇のようだ。
「さぁて‥‥存分に暴れなさいな」
 遊羽が舞うのは、神楽舞・攻。まだ、さほど怪我の酷い人はいないが、足止めの手伝いをしておきたい。その援護を受けて、龍牙が吼えた。
「この先に進むためには、あのアヤカシを討たねばならない、か。ならば‥‥僕たちの力で奴を討ち、道を切り拓くまで!」
「強敵ですけど‥‥・犬神一家が力を合わせればきっと!」
 守りを重視する龍牙に対し、彼方を父と慕う相川・勝一(ia0675)も、周辺を跳びまわっている。
「ふ、どこを見ている!俺はこっちだ! 父様には攻撃させん!」
 重い一撃が、相川を襲う。
「神焔衆が長、小野咬竜とその半身、紫焔遊羽。義により犬神一家に助太刀いたす!」
 そこへ、小野 咬竜(ia0038)が割って入る。失われた力は、半身と呼ばれた遊羽が回復してくれた。気付けば、彼ら2人の他にも、オニクを相手取る開拓者がいる。その数は、犬咬隊より多いくらいだ。
 オニクが、気に入らないと言わんばかりに、周囲の雑魚と闇目玉を呼び戻そうとする。だが、開拓者達もそうはさせない。逃げさせなどしない。
「犬神一家と白獅子隊の戦列を乱させるな! 波状攻撃だよ!」
 巴 渓(ia1334)が、呼子笛を吹き鳴らし、白獅子隊の波状射撃を盾に進行する。群がる雑魚は気にせず、オニクへの波状攻撃に加わる。
「害虫召還と、あの災いの風は、常時連発で出来るわけやない。攻撃するチャンスが来るまで、チャージや」
 ぐるるる、と八十神 蔵人(ia1422)の龍が答えた。自身の龍が大人しく言う事を聞いているのを確かめると、その連携を取ったのは、羅轟だった。回復や強化の者にも手を出させたくない。前に出て、目の前の雑魚をきり防ぐ。
「新たな‥‥儀への‥‥可能性‥‥開くぞ‥‥太白!」
 龍は防御に集中させ、その敵をひきつけさせていた。大きな爪で狙われた蜻蛉の1匹に、残撃を食らわせる。アヤカシがきしゃあっと牙を向く。本来なら硬質化を使えるのだが、相手をしている今では、そこまで行動が回らない。仕方なく、自身が咆哮でそのアヤカシをひきつける。守る者達に手を出される前に。不動の構えで退かない心域だ。
「鬼咲島へ鬼ぃちゃんが鬼退治ならぬ大蜻蛉退治とはわろすな」
 豪快に笑い飛ばしつつ、身につけた蓑を取り払う斉藤。事前準備が大切と、荒天の準備をしてきたが、あまり意味を成さなくなってきた。雨や雷より、ここでは瘴気の嵐が恐ろしい模様。だが、そんなものに笠も雨具も要はなさない。とった方が動きやすかった。出来る限り相手の上を取るように龍を借り、炎で牽制をする。瘴気に集まった雑魚が炙られる中、斉藤晃(ia3071)は突撃をかけていた。
 龍の蹴りと共に、すれ違いざまお見舞いされる槍。その一部は盾にされた雑魚に寄って阻まれたが、その一撃は開幕の合図となって、開拓者達に鬨の声を上げさせる。
「小鬼が大鬼退治ですよーって何言わせますか!?」
 大鬼もいれば小鬼もいる。滑り止めを塗って、龍の歌月から堕ちないようにしながら、斉藤に追随する桐(ia1102)。後ろには奏音(ia5213)も続く。瘴気に解毒は効かないようなので、閃癒での回復をメインにしていたが、ここは精霊砲で援護しておいた方がよさそうだ。
 オニクが鳴く。それは、危険な合図。注意を喚起する桐。その行動は、かつて戦った事のある者も覚えていた。輝夜(ia1150)もその1人。少し離れた場所で、オニクよりやや上で、様子を伺っていた輝夜が、警告を発する。
「また遭ったの‥‥・とはいえ汝は覚えてはおらぬじゃろうがの」
 その鳴き声が、答えを示していた。覚えていないほど頭は悪くないのだろう。輝夜を追おうとしている。上昇した刹那、輝夜はオニクの上から急降下し、羽の付け根を狙う。そこへ、ビーストクロスボウが突き刺さった。放ったのは、陽淵に騎乗した琥龍 蒼羅(ib0214)だ。
「悪いが、通すわけにはいかんのでな。行くぞ‥‥、陽淵」
 そう言うと、自身の苦無とソニックブームで削り役に徹する。後衛部隊が狙われないように注意しながら、時折回避して、龍に全力移動で降下させる。その刃には、速度を乗せた紅蓮紅葉。羽を居抜くように狙っていた。
「攻撃、来ます!
 桐が皆に注意している。オニクが吼え、その背中から瘴気が放たれた。どうやら、毎回使えないと言うのは、間違っているようだ。
「うかうかしてると、災いの風が来るで。はよ離れい!」
 蔵人がそう言うが、龍よりオニクの方が速い。よく動く。それに、空は連中の巣の中なのだ。炎で害虫を焼き払っているが、それも焼け石に水なのかもしれない。
「動きをとめればっ」
 各務原 義視(ia4917)が加速で距離を詰め、隷役使用の斬撃符で攻撃する。龍の重量を利用して、上空から急降下してくる。が、呪縛符で、何とか動きを止めようとする。が、鍾馗の練力にも限界がある。必要な分だけは確保しなければならない事を考えると、無茶は出来なかった。
「これだけの方々が集まるとは‥‥壮観ですね」
 雑魚を相手にしている間、錬力は龍も自分も使わず、迂回と隙間を縫う敵を迎撃していた佐久間 一(ia0503)が、ぼそりと言った。その視界には、急降下攻撃を行おうとする輝夜の姿がある。それを見て、自身と同じ事を考えているなと判断した佐久間は、やはり龍を上昇させていた。
「合わせます。背中の円盤を狙いましょう!」
 そう言うと、紅蓮紅葉を付与した槍を、平突の形で使用する。しかし、円盤までには届かない。オニクは、輝夜を追う事を止め、開拓者の集まる場所を狙い始めた。その足元に船がある。回復と強化に努める者達の拠点となる船だ。船長が上空を見上げ、瘴気を噴出しつつあるオニクから、何とか船を遠ざけようとする。だが、いくら速さを重視した船とは言え、アヤカシよりは襲い。このままではすぐに追いつかれてしまうと判断した羅喉丸(ia0347)、飛空船の前に立ち塞がる。
「頼むぞ、頑鉄」
 甲龍が低く唸った。大アヤカシの動きに従い、雑魚達もそちらへ動く。大半は他の開拓者がおさえ、闇目玉の半数もまた抑えられている。だが、オニクの呼び出した瘴気は、その視界を奪うほどだ。船長は志体を持っているので、すぐさま倒れるような事はないだろうが、それでも常に背拳を使い、乱戦に備える。物理には必殺の骨法起承拳がお見舞いされるが、闇目玉のような相手には気功波しかない。
「出し惜しみはなしだ、全力で行く」
 そうは言うものの、甲龍の頑鉄がやられるとまずいので、攻めよりも守りを優先させる羅喉丸。錬力こそ惜しまないが、敵の攻撃に合わせて硬質化と霊鎧を使わせている。その為、羅喉丸の回りには、敵が寄ってこない。
「まだ、雑魚の対処は落ち着いていないみたいですね」
 柏木 万騎(ia1100)も、直接オニクを攻撃する手段は持っている。トドメに近くなったわけではないが、このままではオニクに寄られてしまう。
「キキシリ‥‥なんでしたっけ」
 もっとも、オニクの名前は上手く言えないらしい。だが、その技そのものは覚えているらしく、向かってきたオニクに、炎魂縛武と巻き打ちを食らわせ、そのまま攻撃している一団へと合流していく。
 その船の上、グライダーを持っている天河 ふしぎ(ia1037)は、活動限界があるため、今までは船の上だった。が、この状況では、出陣せざるを得ないだろう。船長を見て、何かを誓うようにグライダーへと乗り込む。
「道は開けた‥‥天河ふしぎ、天空竜騎兵でる!」
 スカイドラグーンと呼ばれたそのグライダーは、出来るだけ軽くしてある。速度と運動性を生かしたそのグライダーを、ふしぎは大きくバンクさせ、急加速する。未知なる世界への扉を開く為にも、僕達は負けるわけにはいかないから‥‥それに何より、この蒼い空を汚す者を、ふしぎは許さない。
「蜻蛉‥‥それならこれだっ!」
 目の周りで円を描くように飛ぶふしぎ。蜻蛉が蜻蛉の形をしていないかもしれないが、習性が同じなら、目を回すはずだと。
「新たな時代を開く、その邪魔をさせはしないんだからなっ!」
 もっとも、蜻蛉とは言え、大アヤカシ。秋空に舞う蜻蛉とは訳がちがう。それでも、うっとおしく思ったのか、そちらへ巨体をくねらせるオニク。
「邪魔だからそろそろ消えてもらいたいのよね」
 そう言う葛切 カズラ(ia0725)。龍のカナちゃんに、殆どの攻撃を任せたおかげで、符には余力がある。その符を補充した刹那、呼子笛が甲高く鳴った。オニクへの攻撃の合図だ。隷役を使い、威力の増した白狐を、翼目掛けて放つ。狙いは出来るだけ1点に絞った方が良い。そう判断し、呪殺符を撃ち込んでいく。
「パティ、ソニックブームを、合体攻撃しますよ」
 シエラ・ダグラス(ia4429)が、その攻撃にあわせるように、パトリシアと共に、桔梗を撃った。動く位置は、オニクの側面を狙える。使えるだけの技を使い、回避と高速回避を併用させ、カズラと共に畳み掛ける。
「精霊よ、龍の翼に祝福と加護を与えたまえ」
 エルディン・バウアー(ib0066)が、駿龍クリスタに乗り、アクセラレートを付与している。高速で回避するクリスタの上で、ホーリーアローを撃っていたが、その刹那、オニクが再び害虫を撒く。
「瘴気嵐‥‥。クリスタ、離脱を!」
 全力で移動するクリスタ。行く空の虫には、ブリザードストームをお見舞いし、咆哮使いの元へと放り込む。まとめて攻撃しようと言う腹だった。
 オニクの鳴き声は、まるで離脱しようとしているかのようだ。それに気付いたクリスタが、アクセラレートと全力移動で回りこむ。
「おや、逃げるつもりですか。つれないですねぇ。ここで散ってしまいまなさい!」
 それが、合図。呼子笛が甲高く吹き鳴らされたのを見て、鴇ノ宮 風葉(ia0799)と赤マント(ia3521)のコンビが、空中静止しながら、攻撃を仕掛ける時である事を知る。背に負った太陽は、撒き散らされた瘴気で見えないが、赤マントと共に急降下を仕掛ける。
「突っ込むだけが戦いじゃないのよね」
 雑魚を相手のアークブラストは、一度だけだった。本命は、赤マントの攻撃を、神楽舞・進で上昇させ、数を当てる事。
「行くわよ朱猫‥‥今回は回復に回らない分、思い切り暴れられるってもんよ!」
 赤マントが頷いて、オニクの背負う円盤目掛けて、降下強襲を仕掛ける。レッドキャップには、身軽さを駆使し、全力で移動と回避をお願いしていた。機動性の高まったそこへ、彼方が隊全員に聞こえるような大声を出した。
「さぁ、我らの牙を味あわせる時が来たぞ! 全員、突撃ー!!」
 わぁぁっと、隊員達の声が上がる。一斉に攻撃を仕掛ける犬咬隊。
「この先に進むためには、あのアヤカシを討たねばならない、か。ならば‥‥僕たちの力で奴を討ち、道を切り拓くまで!」
 皆と一緒に、オニクに集中攻撃をかける龍牙・流陰(ia0556)。序盤は守りを重視していたので、何とか温存されていた。
「よし、豪炎行くぞ!」
 相川が、豪炎に炎を使わせながら、仲間と共に突撃し、すれ違い様に、払いぬけを発動する。
「犬神隊、相川・勝一参る!我が剣、食らうがいい!」
 その一撃で、のた打ち回るオニクに、龍牙も全力で攻撃を食らわせる。真紗羅が平正眼と紅蓮紅葉で平突きを、上から仕掛ければ、冬馬もそれに追随する。北条が暗影符で資格を奪えば、痕離も残る力を振り絞る。
「遅れはとらへんよってなぁ‥‥っ!」
 遊羽が、その足元に力の歪みを使っていた。
「行くぞ遊羽。断空‥‥灼火剣ッ!」
 その足元に、咬竜は両断剣の技を使っていた。刹那、朱猫達も動く。
「いくよ、朱猫っ」
 風葉、朱猫が泰練気法・壱を纏った上で紅砲を叩き込んだのを確かめると、アークブラストを放つ。すでに、神楽舞・心は使っていた。円盤に近付く刹那、鷲尾もまた、攻撃に加わる。
「さて、前回依頼の仕切り直しといこうか」
 以前、対戦した時には死ぬほど痛い目に会った。無茶をしなければならない相手に、狂気の色さえ浮かんだ鷲尾天斗(ia0371)は、その刃に炎魂縛武を発動し、平突の構えで流し斬りを食らわせる。
「オニク、今度こそおめぇの首を貰おう」
 狙いはオニクただ1体。相棒の急降下と共に、一撃必殺を狙う。
「俺の狂気で灰になり、空に水面に浮いて漂え!!」
 答えるように、オニクが瘴気の塊を噴出する。囲まれる赤マント。耐え切れず、落下するように見えた。が、その体がオニクにたどり着いた直後、態勢を戻す。
「食らいやがれ!」
 その間に、巴が龍の背中から、瞬脚を発動させ、オニクへと取り付いていた。背中の円盤へ、自慢の拳を刻み付ける。円盤が、大きく歪む。そこへ、赤マントが加勢に入る。巴が時間を稼いでくれたおかげで撃ちこめるのは、天呼鳳凰拳。
「生き残れば、儲け物ってかい!」
 巴が、入れ替わるように泰練気法・弐、三連撃を叩き込んでいた。弾き飛ばされる巴。もとより、不退転の覚悟をしていたそれに答えるは、斉藤の鬼切。
「蜻蛉取りもこれで終いや!」
 炎を上げる槍が、2つの軌跡を描いて炸裂する。それと共に、今まで見た事もないほどの濃い瘴気が吹き荒れた。それは、オニク自身の姿をも隠す。直後に聞こえたのは、水面へ巨大なモノが堕ちる轟音だった。
「えぇい、確認するのは後だ。先にこっち手伝えっ」
 感慨にふける間もなく、船長の怒鳴り声が聞こえた。見れば、気を失った巴を船へと引き上げている真っ最中だ。
「まぁ、アヤカシを見回る隙間はあらへんわな」
 斉藤が、いつもの酒をぐびりと飲み干しながら、島を龍で見回る余裕がなかった事を、ちょっと残念そうに呟くのだった。