【踏破】魔の島に吹く風
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/29 15:07



■オープニング本文

 それは、まだ船長が遺跡にいた時に始まった。
「おおーい、志藤さーん。手紙が届いたぞー」
「ここしばらくなかったのに‥‥。誰だろう‥‥。えぇと、ノイ・リーさん‥‥?」
 とある海べりの村。港には大きな建物が3件並び、中から作りかけの船が垣間見えている。おそらく、船大工を生業とする者達の村であろうそこで、一人の若者が、手紙を受け取っていた。どうやら、船長のものである。遠方からの手紙に、若者は困惑した表情を浮かべていた。
「どうしよう。じいちゃん、10年前から家に帰ってないのに‥‥」
 裏をひっくり返すと、宛名には彼の祖父の名前が書いてある。だが、同じ船大工である祖父は、村にはいなかった。
「じいちゃん、伊乃波島に行くって言ってたけどなぁ‥‥。首都からは遠いよなぁ‥‥」
 祖父が居るのは、天儀の南のハズレ。祖父はその「ハズレ」に向うと言ったっきり、10年も帰っていない。捜索届けを出さなかったのは、時折、孫の元に手紙が来るからである。その手紙によると、祖父は数日前、伊乃波島方面へ向ったらしい。五行から島伝いに向うとたどり着ける伊乃波島には、今、嵐の壁を越えると言う第三次開拓計画が持ち上がっている。船大工の祖父は、その船の強化に借り出されているようだ。
 ただ、祖父の手紙にはこうも記されていた。いわく、魔の島へ赴きたい‥‥と。
「魔の島って、この間来た市の人が言ってた奴かなぁ」
 何でも世の中には、アヤカシ達の巣窟となっている島があり、そこには貴重な船の材料もあるらしい。一般人である彼には、新たな儀の発見がどうのなんて分からない。だが、そこには多数の空アヤカシがおり、祖父の安否は心配だった。そして、船長はそんな祖父に、自身の船の改良を頼みたいと記してきたのだ。
「でもじいちゃん、用があって行ったみたいだし、そう簡単には、帰ってこないんだよな」
 ため息をつく彼。祖父が頑固な性格なのは、村を出る前からの事だ。おそらく、船長に行き先を告げて、会えたとしても、無理難題を押し付けられる可能性の方が高い。だがそれでも、彼は手紙にその旨を記していた。祖父から、『用がある者は、現地まで来る様に言っておいてくれ』と伝えられていたからである。

 さて、祖父の居る天儀本島から南西に下った先では、とある小島で、何やら揉めていた。
「むう、さすがに厳しいのう」
「俺達も困ってるデス」
 他の大工仲間と、頭を抱えるおじいちゃん。嵐の壁を越えるほどともなれば、丈夫な船がいる。天儀もその事は予想していたようで、伊乃波島に向けて、多数の船大工達を招集していたのだが、その先の空にアヤカシ達がおり、大工達を上陸させる事が出来ないでいたのだ。護衛を頼むにも、人数が多いので、手が回りきらない模様。
「とにかく、上陸する手段を探さにゃならんな。許可は下閧驍?セっけ?」
「だめっすよー」
 しかも、彼ら大工には、危険だからと言う事で、船を出す事が出来ない。しかし、船の強化をするにも、情報が集まらなければ、意味がない。誰かが行って、風向きやその速度、そして島周辺の気候等を調査しなければならないのだ。
「仕方がない。じゃあ開拓者に頼むか‥‥」
 三成に伝えれば、天儀の名の元に予算は下りるだろう。そう話していた時、祖父の元に孫から手紙が届いた。船長からの手紙を転送したわけである。
「ほう、こりゃあいい話になってきたな」
 孫の添え書きをにまにましながら堪能しつつ、そう呟くジジィ。仕事仲間が「どうしたんすか?」と尋ねると、彼はその手紙を示して、こう言った。
「船を組み立てて欲しい奴がいるらしい。せっかくだ。風を見てきてもらおうじゃないか」
 どうやら、強化の度合いは自分で調達させるつもりらしい。

『魔の島を抜ける為に、必要な船の強度がどれくらいにしなきゃいけないかを知りたいので、周囲の状況を調べてきてください』

 そんな依頼が乗ったのは、それからまもなくの事だった。天儀もまた、アヤカシの数と強さ。そして龍と船をどう運営すれば良いのかを、模索しているようである。


■参加者一覧
神流・梨乃亜(ia0127
15歳・女・巫
八神 静馬(ia9904
18歳・男・サ
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎
久悠(ib2432
28歳・女・弓


■リプレイ本文

 魔の島にもっとも近い港。とは言え、桟橋があるだけの海岸‥‥と言った風情なのだが、船長の船はそれほど大きくない。少し立派な漁船程度の大きさだ。その為、開拓者達が連れてきた龍の方が立派に見えていた。
「世のため人のために働く神教会の神父です、宜しくお願いします」
 エルディン・バウアー(ib0066)がそう言いながら、皆へ挨拶している。ひと通り挨拶しているのは、フィーネ・オレアリス(ib0409)も同じだ。
「ノイ様初めまして」
「えーと、何だかここだけものすごいジルベリアなんだが」
 何しろ、黒い衣装に紅の薔薇を持つ彼女。見慣れないらしく、船長ちょっと面食らっているご様子。そんな、どう対応していいのか分からない彼にも、エルディンは声をかける。
「ノイ殿、お久しぶりです。アヤカシ交戦歴が何か役立つかと思い、お手伝いに来ました。ぷらぁと殿も元気でしたか?」
 もっとも、エルディンのおてては、元気良く「もふ!」とお返事して、おててを差し出してきたぷらぁとと、がっちり握手。
「まずは、挨拶代わりにもふらせてください♪」
 エルディン、そのままもふもふとだきゅっとして、そのふわふわな毛並みにすりすりしている。とっても幸せそうな彼に、ぷらぁとも撫でられてまんざらではないようだ。
 そんなわけで、顔合わせを済ませた開拓者達は、さっそく準備と打ち合わせに入る。
「魔の島♪ 魔の島。どんなところだろう?」
 神流・梨乃亜(ia0127)、見知らぬ土地への好奇心が顔に溢れているようだ。観光気分の彼女の目の前で、上空に瘴気が吹き上がった。
「やばい所らしいなぁ。あの辺から瘴気出てるし」
 飛行船での作業は嫌いじゃない。風を受けて、帆を上げる。小麦色の背の高い女性な久悠(ib2432)は、冷静にそう言いながら、龍を少し下げさせる。
「風向きによっては、なんとか食らわずに済むだろう。ノイ殿、機材はこんな感じで良いか?」
 彼女が積み込んでいる荷物は、依頼人から渡されたものだ。バランスを考えつつ積み込む彼女に、船長は「ああ、それでいいだろう」と了承を返す。
「凄い船を造ろうってんだ、データ収集だって気合が入るぜ」
 がしっと龍にまたがりつつ、自身に気合いを入れる八神 静馬(ia9904)。アヤカシの数や強さ、速度。どれをとっても大切な事だと。
「まだひとつひとつステップを踏む段階なのでしょうけれど、力添えができれば幸いです」
 フィーネが、第三次開拓計画とくくられた一連の依頼を思い起こす。続く新天地への希望は、瘴気に脅かされた人々の為には、なくてはならないものだ。
「どんな大仕事もこういう地道なデータの積み重ねで達成されるもんや。新天地への開拓も、まずは敵をよぉ知ることから始めんとな」
 ジルベール(ia9952)の台詞に、どこかの軍師が似たような事を言っていたなと思いつつ、久悠はこう答えを返す。
「まったくだ。強度決定には、データが必要だしな」
 それが、今回の依頼の目的だった。

 さて、必要なものは積み込んだが、使う順番はまた別である。
「温度計、気圧計、風向風速計などあれば、お貸し頂けませぬか?」
「専門用語はよく分からないと思うが、こいつを預かっている。使い方はこれに書いてあるそうだ」
 船長に久悠が尋ねると、彼は積み込んだ荷物の中に、一式預かっていると答えた。壊したら困るのは、久悠も同じ。扱い方の絵図には、使う順序や禁則事項なんぞも明記してある。さほど難しい機材ではないようなので、その通りに使えば、久悠はむろんの事、梨乃も使えるだろう。
「なるほど。取り付けるのは、甲板でよろしいです?」
「ああ。広くないんで、あんまり場所を取られるのはよくないがな」
 エルディンが船の舳先に、風速計を取り付けた。空中停止は出来るので、温度計なども設置してある。一部は、クリスタへ取り付け、船の負荷を軽減していた。
「ねーねー。梨乃、これもつけたいー」
 と、そこへ梨乃ちゃんが持ってきたのは、どこから見つけてきたのか、縞模様の鯉のぼりだ。にこにこしながら彼女、その鯉のぼりもってよいしょっと甲板へ。
「風向きも大切なんだって!」
「ま、まぁ良いけどよ‥‥」
 確かにこれなら、遠くから見てもわかりやすい。傍目から見ると、何の仕事してるのかわからない船になったが、まぁこれはこれでという所だろう。
「風力よし。気圧は低下中。さすがに、上空ともなると少し寒いですね。ぷらぁと殿を貸してください」
 エルディンが、そう言いながら、よっこらしょとぷらぁとを背中に背負う。
 が。
「大丈夫か?」
「もふもふです」
 潰れるエルディン。結構重いようだ。まるごともふらさまがちょっと欲しいお年頃。
「気流が安定していないな。高度少し下げて見てくれ。時間も記録したい」
 そんなわけで、準備の終わった一行は、ようやく空へと出ていた。久悠が、高度・時間・距離毎に、各種計測を記録している。それによると、上空には強い風が吹いており、それに耐えるには結構踏ん張らなければならないようだ。風向きを記録していくと、嵐の壁に近い方向に、気流が乱れていることがわかる。
「ローテーションはどうするんだ? これ、結構距離あるし」
 静馬が、壁に貼り付けられた地図を見て、そう言った。魔の島そのものは、伊乃波島ほどではないが、そこまでに結構離れている。龍達の疲労や、アヤカシからの襲撃を考えると、計測は交代であたった方が無難じゃないのかと提案していた。
「距離計測もしたいからなぁ」
 ジルベールの案では、船の上に二人、その周囲に警戒4名で当たったほうがいいだろうとの事。久悠も、敵対適所の考えはあったので、とにかく船から離れないようにしつつ、アヤカシを警戒する。ギルドで聞いた限り、敵は必ずしも見えているもの
「お、向こうのほうに瘴気が出たな。どうやら、アヤカシ達がいるようだぜ」
 静馬の進行先で、瘴気が一段と濃くなった。雲で視界がだんだん通らなくなってくる。まだ見つかってはいないが、びりびりと走る殺気は、間違いなくアヤカシのものだ。見つからないように気をつけながら、迂回ルートを提示する彼。
「結構面倒やなぁ。細かい目盛り読むん苦手や…」
 その間に、借りた計測器を記録するジルベール。計測に詳しい技師によると、わからないうちは、細かくデータ取りをすると良いそうだ。数多くのデータを見ていくうちに、共通点が見えてくるからだそうである。風向きが急に変われば数値が大きくなり、緩やかならほとんど変わらない。けれど、記録の間隔があいてしまうとわからなくなる。要は間違い探しと同じだそうだ。
「これを使ってはどうでしょう?」
 フィーネが差し出したのは、たこが連なったものだ。凧の流される方向と速さ等でもって、風を調べた方が、見た目でもわかりやすいとの事である。船外組にもわかりやすさ倍増だろうと。
「ほな、ついでにアヤカシを警戒しとくかね」
 狭い船の上で、メモリをこまごまとやるのは、船内組にお任せし、見た目でわかりやすい方を選択するジルベール。フィーネは凧をマストにくくりつけ、「私も参りますわ」と、外周組みだ。
「観測方法がバラバラだと、データとして話にならぬ。ここは、揃えておくべきだろう。遅くなると危険が増すしな」
 準備はさほど時間はかからなかったが、夕刻になれば、瘴気も宵闇もわからなくなる。時間は残しておくに越した事はないだろうと、久悠は言う。結局、風向きと強さに関しては鯉のぼりと凧を、見えないものに関しては、記録をとるのが正解だろうと言う結論に至る。
「やれやれ、計器とにらめっこしてるよりネイトと飛んでる方が楽しいわ」
「そうも行ってられませんわ。今のうちに、必要な速力を調べませんと」
 周囲に目を配るジルベール。監視を分担している間に、フィーネは風の裂け目へと龍の速度を上げる。一声ないた龍が、その風を切り裂くように旋回しながら、羽ばたきを強くするが、なかなか裂け目を越えることは難しいようだ。まるで、強固な盾を無理やり押し広げているような感覚だと、彼女は感じていた。 
「おいでなすったようやで〜」
 敵影を発見したジルベールが、呼子笛を鳴らす。足元には、魔の島の海。どうやら、全域が瘴気に覆われた島では、何もしなくともアヤカシにあたってしまう。見れば、周囲の雲も少しずつ黒くなっていた。
「種類は明確にしておいた方が良いでしょう。出来るだけ、種類の多い攻撃をしてください」
 エルディンがそういった。スピード、大きさ、個体差。姿かたち。魔の島へ近いのか遠いのか。を項目にあげる。
「見通しの悪いのは、こいつで‥‥意外と数がいるな。船と敵を引き剥がす必要がありそうだ」
 鏡弦で、雲の陰に隠れたアヤカシを確かめようとする久悠。しかし、そうすると船の上がおろそかになる。と、そこへ船長が久悠と計測器の間に割り込んできた。
「どけ、そっちはオレがやっとく」
 船のことは船の専門家へ。そう言いたげに、ぷらぁとも『もふ』と軽く胸を叩いている。船そのものは簡略化されているらしく、船長がぷらぁとに何やら頼むと、一気にスピードが増した。これなら、何とか逃げ切れそうだ。
「心得た。他の者は進路上のアヤカシを迎撃。それでいいな?」
 後は、船を護衛しつつ、アヤカシの速度を調べるだけである。 

 瘴気の雲は、かなりの高さになっても、その濃さを減らす事はなかった。むしろ、島に近付くほど、濃くなっていると思って良い。そんな黒雲に見える瘴気の塊は、風柳と呼ばれるアヤカシだった。空を飛び、雲に移る影が風になびく柳の木に似ている、不定形のアヤカシ。それが実体を表し、龍達を獲物とみなして枝を伸ばしてくる。数は8。その足元に警戒していた小雷蛇が4匹ほどばちばちと雷を飛ばし、周囲にはびこり始めた瘴気は、相手をを指定る隙に、感染の食指を伸ばすだろう。
 スピードは並のアヤカシより少し速いくらい。大きさは風柳が大型、小雷蛇が中型くらい。個体差激しく、姿かたちは空中に柳の森が出来たよう。
「さて、盛大なお出迎えですね。私達もそれに応えましょう」
「吹き飛んでまえ!」
 記録し終わったエルディンがそう言うと、ジルベールがまず安息流騎射術を使い、警戒していた小雷蛇に射掛けた。敵が少なければ良いと思っていたが、余裕はなさそうだ。久悠の鏡弦を頼りに、バーストアローを打ち込む。小雷蛇が再び密集しようとする中、静馬がソニックブームを放つ。翼を狙う彼だったが、アヤカシは翼で飛んでいるわけではなさそうだ。
「おっと邪魔はさせないぜ、紫苑けちらせっ!」
 しかし、彼にはまだ相棒がいた。龍で突っ込み、風柳を両断剣で叩く。呪いの声には、気力で耐えた。
「牙雷との連係プレイは初めてだね☆うまく行ってるかな?」
 船の上あたりに滞空する利乃が、力の歪みを使う。片手棍はないが、敵を怯ませるには充分だ。
「多勢に無勢と言うわけではなさそうですね。ヴァーユ、敵に回りこまれないようにしてください」
 その梨乃が舞う時間を稼ぐ為、フィーネが風柳の枝をひきつける。船を落とさせるわけに行かないので、ヴァーユの機動力便りだが、風の動きは鯉のぼりと連凧が教えてくれる。まだ風を掴みきれているわけではないが、流し切りを打ち込む事は出来る。それは、ヴァーユの炎とあいまって、一輪の薔薇のようだった。
「タフやなぁ。ネイト、ソニックブームや!」
 が、それでも力は及ばない。スピードは上回っているようなので、龍の全力移動で後方に下がったジルベールが支援のソニックブームを放たせる。おかげで、やっと風柳も沈黙する。
「やっぱり、紫苑となら、こいつらもどうにか出来るけど‥‥。問題は数はだなぁ。きりないぜ」
「そっちいったで!」
 中途半端な攻撃では、落とすのも一苦労だ。そう判断する静馬。風柳も小雷蛇も、風に影響を受けにくいタイプのようだ。と言うより、普段は風と雲に紛れ、奇襲をするパターンのようである。風に自在に乗れなければ、どこか違うところへ流れ着いてしまうだろう。
「追いつかれますか? こちらに!」
 紫苑と追いかけっこをするように、その速度を計る静馬。アヤカシ達は一度固定で浮くと周囲の風ほど凶悪な移動速度はしていないようだ。もっとも、龍も一般的な船も、その風に乗ったアヤカシを振り切れるほど早くない。船長の船も足止めを食らっているくらいの速い風を超えるには、連絡船並の強度が必要だろう。そんな船は、決して早く無い事を、彼は聞いていた。
「祝福の矢、神の雷、聖なる冷気、どれをおみまいしましょうかね!」
「一つづつお願いする。弱点があれば記録しておきたいのでな」
 エルディンが自身の使える三種類の魔法を告げると、久悠が全部試しておきたいような考えを示す。エルディン自身も、万遍なく3種の魔法を試したかったので、頷いて練力の続く限り、両方へ魔法を放った。
「心得ました。全能なる神の力を思い知りなさい!」
 その結果、風柳にはそれぞれ均等に。スパークを鳴らす小雷蛇には、サンダーが聞き辛く、高さがある分フローズの魔法は半分くらい。ホーリーアローが瘴気を浄化する作用でもあるのか、少し威力は増していた。が、それも個体差が激しい為、抵抗力の違いなのかもしれない。
 そうして、10分程戦っただろうか。小雷蛇が霧散し、風柳が半数程逃げ去っていた。どうやら、アヤカシ達は雲や風を地上における霧や雨と同じように利用出来るらしい。それが空アヤカシの怖い所だが、逆に言えば風の動きに耐えられる、読める船であれば、あまり被害は出ない。
「目的は調査や。深追いはせーへんでええ。どうやら、大アヤカシがいるようやし、な」
 ジルベールが首を横に振る。鬼咲島の中心には、向こうが見透かせないほどの瘴気が立ち上り、こちらを監視するように闇目玉がじろりと睨んでいる。距離があるので影響はなかったが、気味の悪い島だった。早々に反対方向へ向った方が身の為だろう。
「穢れに生まれた者達といえども世界の生んだ子には変わりありません。どうか、薔薇が君の道を示さんことを」
 それでも、安全な所まで来たフィーネは、散って行った小雷蛇に、手向けの薔薇を舞わせた。天儀の側とは違う雰囲気に、船長「ずいぶんジルベリアっぽい雰囲気になったな」と感想を言う。
「こんなもんだな。これが全てとは言わないが、参考になるだろう」
 久悠が高度別に出てきたアヤカシを航路図に図解している。戦った報告書の番号も書き加えれば、危険度マップの出来上がりだ。
「アレを見ると、んな事どうでもよさそうだけどな」
 受け取った船長が、大切そうにしまう中、ぷらぁとは相変わらずエルディンにもふられているのだった。