【踏破】空賊と監視
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/19 04:38



■オープニング本文

●魔の島と嵐の壁
 ここに来て、開拓計画は多くのトラブルに見舞われた。
 新大陸を目指す航路上に位置していた魔の島、ここを攻略するには明らかに不足している戦力、偵察に出かけたまま行方不明になってしまった黒井奈那介。
 やらねばならない事は山積だ。
「ふうむ。なるほどのう‥‥」
 風信機から聞こえてくる大伴定家の声が、心なしか弾んでいるように聞こえた。
「それで、開拓者ギルドの力を借りたいという訳じゃな?」
「えぇ。朝廷には十分な戦力がありません。鬼咲島攻略焉A黒井殿の捜索も、開拓者の皆さまにお願いすることになろうかと存じます」
「ふむ。ふむ‥‥開門の宝珠も見つかり始めたとあってはいよいよ真実味を帯びて参ったしのう」
 大きく頷き、彼はにこりと表情を緩めた。
「宜しかろう。朝廷が動いて、我らが動かぬとあっては開拓者ギルドの名が廃るというものじゃ。新大陸を目指して冒険に出てこその開拓者と我らギルドじゃ。安心めされよ。一殿、我らギルドは全面的に協力して参りますぞ」
「ご英断に感謝致します‥‥」
 少女の頭が小さく垂れる。
 当面の障害はキキリニシオクの撃破。
 そしておそらく、嵐の門には「魔戦獣」と呼ばれる敵が潜んでいる筈だ。過去、これまでに開かれた嵐の壁にも総じて現われた強力な敵――彼等はアヤカシとも違い、まるで一定の縄張りを、テリトリーを守るかのように立ちはだかるのだ。
 計画は、二次段階へ移行しつつあった――

●空賊
 開拓者達が、宝珠の入手に躍起になっている頃、柏山遺跡から遠く離れた空の上‥‥。ちょうど北面から南へ少し下がったあたりだ。五行との国境付近にある場所で。空賊騒ぎが起きていた‥‥。
「天儀王朝の印? 何の用事だろう‥‥」
「分からないが、停船を命じられているようだな」
 その船には、特徴のある印が掲げられていた。商人達の船は、何か用事でもあるのかと思い、船速を落とす。船が並び、互いの顔がよく見えるようになった刹那、船員達の顔が青ざめる。にぃっと笑みを浮かべて姿を見せたのは、天儀の役人等とはかけ離れた‥‥夜盗と変わらない服装だったから。
「うわぁ、空賊だぁ!」
 フードをかぶり、人相の見えないようにした彼らの手には、ぎらつく刀。中には爪や、ジルベリア風の小剣まで持っている者もいる。彼らは船が横付けすると、いきなり襲い掛かってきたのだ。
「逃げろぉ! 殺される!」
「いや、空賊なら、金さえ払えば見逃してくれるはずだ!」
 中には、持っていた財を代償に、逃げようとする者もいるが、その申し出を受けた長らしき者は、にまりと笑う。
「金であがなうとは、なんと愚かしき事よ。我らが主、ノイリー様は、そのような事は好まぬ。だが、どうしてもと言うなら、その身を滅ぼすのは止めてやろう」
 そう言って、彼らは商人達を連れてきた船の中へと引きずり込んでしまったのだ。運良く逃れた商人達の証言では、船には女の空賊がいて、幾人もの美形達を侍らせていたと言う。
 それが、一度ならず二度、三度と繰り返されれば、ギルドもほうって置くわけには行かなくなった。
 今はまだ、国家所有の船には手を出されていないため、各国家は動いていない。いや、それ以前に、動けない理由があった。
「でもあいつ、免状持ってたんだ。ノイリーだっけ? そいつの」
 ギルドに討伐を依頼しようと訪れていた商人達の証言では、彼らは必ず『ノイリーの手下』を語っていたそうだ。だが、当の本人は、ギルドの証言にもあるように、遺跡でミノ戦に出ている筈である。遠い北面の空に浮いているはずがないのだ。
「けどそれも、誰かいるわけじゃないんだろ」
 確かに、開拓者の証言くらいしかなかった。その為、ギルドは手続きと要請に応じるように、船長へ連絡を取らずにはいられなかったのだった。

●討伐
「だーかーらーっ。俺はそんな所行ってねェよ。だいたい、もしやるなら、そう言うまっとうな船乗りの皆さんになんか、手を出さねぇっつーの。出すなら、例えば‥‥さっきまで俺の真上で見物してた奴とかだな」
『酷いですね。そんな人を観客みたいに言わなくても』
 風信器は、時折変な動きを見せる事がある。その気になればいくらでも聞き耳の立てられる宝珠に割り込んできた用に見えたのは、三成の声だった。
「思いっきり見物してたじゃねぇか。だいたい、風信器に割り込んでくんじゃねぇよっ。誰だお前っ」
 依頼を受ける前まで、空に浮かんでいた船がいなくなったと思ったら、この状態である。宝珠を使った魔法の品は、遠く離れた場所の相手とも意思の疎通が図れる。なければ、手紙か伝令に頼るしかないだろうが、三成の船には幸い高性能なモノが備わっていた。
『一三成。天儀王朝の末席です。どうします? 今ちょうどその辺にいるし、なんとかできそうですけど。その代わり、取引しませんか?』
 どうやら三成は、船長が宝珠を持っていると思っているらしく、『君が持っている大切な珠』と引き換えにしろと申し出る。
『だいたい、開門宝珠は見つかれば、朝廷に差し出すのが定めですよ? 持ち逃げされては困ります』
 状況的には、そう考えられても仕方がなかったのだが、船長はそれには答えなかった。と言うか、無視した。
「朝廷なんざしらねぇよ。そんなモンは後回しだ。人の名前でアヤカシだか空賊だかやられる方が、気にくわねぇ。この手でふんじばってやる!」
 そのまま、ぷちっと風信器が切られてしまう。三成は、その様子に深くため息をつくと、別の相手に連絡を取った。
「現れている空賊とやらは、おそらく大アヤカシの手下でしょう。金銭よりも、人を集める事に躍起になって居るようですから、何かの食料かもしれないです。露払いは彼に任せるとして、探索と監視の人員が要ります」
 その空域の先‥‥南へ向かった先には、懸念している大アヤカシがいる。今はまだ、その姿を見せないが、配下も居るだろう。敵を知り、己を知ればと、兵法の書を思い出していると、風信器の向こう側で、船長が怒鳴って居るらしき声が聞こえた。だいぶ頭に血が上っているらしき船長とは対照的に、三成は静かに告げる。
「あれは使えますが、あまり好き勝手にされては困ります。ただし、大事な式のようなものですし、あまり痛めつけないように」
 どうやら三成は、船長を利用しておきたく、船長はそんな思惑なぞには気付かずに、自分の汚名を返上したいと言ったところだろう。

【俺の名前を語っているドアホウがいるんで、とっ捕まえに行くぜ。宝珠? よくわかんねぇが、アホを駆逐する方が先だ。そのあとの事は、それから考える!】

【南西空域探索の手勢を。目的は敵の把握と、宝珠を持っている可能性の高いノイ・リーの監視です。持ち逃げされたら困りますから】

 こうして、ギルドには双方の依頼が並ぶのだった。


■参加者一覧
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
深凪 悠里(ia5376
19歳・男・シ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓


■リプレイ本文

 開拓者と言っても、一枚岩ではない。退治と監視を仕事として依頼された彼らは、それぞれの立場から、船長を追う事になった。
「あれだな。船長の船は‥‥」
 三種類の一つ、甲龍をお持ちの大蔵南洋(ia1246)さんが、先を行く船長の船を見つけていた。移動の為に渡る空の船だが、一般の船は大地とそう変わらない高さの空域を飛んでいる。むしろ航海と言うようにも取れる位置った。
「とすると、問題になっている空域は、この先か‥‥」
 深慮遠謀と言う称号を持つ彼は、その船長が急ぐ先に、問題の船があるのだろうと推測する。だとすれば、近くに三成の船もあるはずだ。
「戦う前に、色々情報収集が必要だと思う。少し、確かめておきたい事はある」
 ぎゅおんっと八つ目と名付けた甲龍を降下させる南洋。「心得た」と紙木城 遥平(ia0562)と、玲璃(ia1114)も続く。程なくして、天儀の旗を掲げた三成の船が、入り江の影に停泊しているのが見つかった。ギルドから来た開拓者と言うのは、龍を見てすぐにわかったのだろう。何やら調べ物をしていたらしい三成の所へと通される。
「事前に伺っておきたいことがあるのだが。もしくは調べて頂き後で連絡という形でも構わぬ」
 そう言って確認事項を告げる南洋。
「この時期我等と同様に、北面及び五行国の警備船なりが該当空域の偵察・警備にあたっているのかどうか?」
 もしいないなら、天儀の旗を掲げているのは、かなり不自然な事になる。が、三成は窓の外にかかっている自身の船の旗を指し示し、こう答えた。
「えぇ、いますよ。今回は調査なので、偵察や警備と言うわけではないのですけど、巡回は行っているでしょうね」
 ただでさえ、危険な空域だ。商人達の仕事を邪魔する気はないが、関係空域に近付かないよう、巡回する船はある。目論見が外れた南洋が、むむむと眉を寄せた。
「ならば、ここに天儀の旗を掲げた船がいるのも、極自然な成り行きと言うわけか‥‥。難しくなったな」
「騎乗中は両手持ちの武器は扱い難いものですか? 弓兵が後方から射撃するのは報告書で見た気がするのですけど」
 と、遥平も聞きたい事があったらしく、龍姫を横付けして、こう尋ねてきた。
「敵に、航空戦力はいるのでしょうか?」
「居ると思いますよ」
 どうやら、前に出るプランは諦めた方が良さそうだ。ならば、後ろから攻撃する事になるのだが、それについても一つ疑問が残っていた。
「報告書には、武器に長けた者も多く書かれていることでしょう。その腕があれば、騎乗したまま使えるとは思いますよ」
 たぶん、その報告書に載っていたのは、いわゆる弓術師とかの類なんじゃないか‥‥と答える三成。見てはいないそうなので、詳しい事は言えないが、少なくとも巫女の遥平では難しい事のようだ。
「そんな事はやってみなければわからないさ」
 そう言って、船長の方へ向う南洋。そこでは、既に船長を助けようと依頼を受けた面々が、龍で追いついていた。
「あれがノイ・リーじゃな‥‥」
 朱鳳院 龍影(ib3148)が船を見下ろす位置に、自身の炎龍『朱鳳龍』を対空させている。正義の空賊を志す彼女は、その存在がとっても気になる様子。
「ノイの親父さんには、その昔世話になったからな…それに、色々と気になる事もある」
 ロック・J・グリフィス(ib0293)も同じ位置からそう言った。五行の空を荒らす空賊と戦い、その無実を証明するのが、今回の目的である。
「気になること?」
「ノイリーか…まさかその名をここで聞く事になるとはな……」
 何やら因縁があるようだが、彼の口からは、その理由は出てこない。胸元の高貴なる薔薇に触れ、思い出して居るようだ。
「むむむ。ややこしそうじゃのう」
「いや、万が一にもあの男のはずが。ここは、ノイの無実をはらす作戦に協力させて貰おう」
 ともあれ、まずは話を聞こうと言うことのようである。さっそく、深凪 悠里(ia5376)が駿龍の一釵を降下させ、船の上へと下りていた。
「おーい、船長〜。俺だー」
 面食らったのは船長である。急いで空賊の元に向おうとしていた彼の船に、いきなり龍のった開拓者が5人も現れたのだから。
「おまいら、どうしてここに?」
「いや、ギルドから頼まれてさ。しっかし、船長…災難だな★ 迷宮に居たのは俺も一緒だから、無実なのは知ってるけど…」
 まんざら知らない仲ではない悠里が、いつの間にか寄ってきて、ばしびしと背中を叩く。
「証明の仕様がないだろ」
「偽物捕まえてみれば判ると思うんだけどなぁ」
 だから依頼したんじゃないのか? と言うツッコミはさておき、悠里の背中に乗せてもらったらしい朱麓(ia8390)が色っぽい仕草で、尋ねてくる。
「とりあえず、情報収集をお願いしたいんだけど?」
「商人達の話じゃ、まちがいなくノイリーって名乗ってたらしい。人の名前パクりやがって」
 怒り心頭の船長から、相手の状況を聞きだす朱麓。人妖の風深が真似して、ふんふんとうなづいている。と、そんな彼に冷水を浴びせたような事を言い出したのは、やはり出発前に商人達へ聞き取り調査をしていた沢村楓(ia5437)。男装の麗人でもある彼女、今は紅葉と名乗っているが、船長を捕まえるなり、後頭部からぽかりとやる。
「いてぇな。あにすんだよ」
「アホか、お前は」
 たんこぶを抱えて涙目な船長に、彼女は冷ややかに言った。
「お前の名はノイ・リー、泰国読み。相手名は”ノイリー”商人に確認したところジルベリアア風のイントネーションだった」
「だ、だからなんだってんだよぅ」
 ぷうと頬を膨らませる彼に、紅葉は疑いのまなざしを向けた。話に聞くと、率いていたのは女性である。
「で、どうも女性らしいが…。お前、偽名乗り上げられるほど御婦人相手に恨まれるようなことをしたのか」
「え、あ。いや別にそんな事ぁないぞっ。港でおねーちゃんに甘えた事は山ほどあるけど、ちゃんと筋は通したしっ」
 廓や水茶屋に出入りした事はあるのだろう。それなりに成人男子なので、女性経験もあるようだが、恨まれるような別れ方はしてないと言い張って居る。
「ややこしい経歴を持つ、お前が悪い。身からでた錆だ。甘んじて受けろ」
「しくしく‥‥」
 結構酷い事を言われ、轟沈している船長。
「そんな事やってるから、船長に監視が付いちまうんだぜ」
 商売人は信用第一と分かっている船長の事。よもや持ち逃げはないと思うが、少々呆れ顔な悠里さんだった。

 そんなやり取りを見張っていた南洋は、何やら思案を巡らせていた。
「なるほど。あ奴は別に悪い者と言うわけではなさそうだな」
 ひょっとすると、誰よりも早く新しき儀を目にしたい、というところなのだろうか? と思っていた南洋だったが、先ほどのやり取りを見る限り、そう言う事ではなさそうだ。
「とするならば通行が可能となる瞬間、大アヤカシや魔戦獣が倒される時を狙い、行動を起こす‥‥あの手勢では、それも無理そうか」
 その前に、船長をドツいている面々が止めるだろう。そこへ、玲璃が夏香の背中から口を挟む。
「自身の商売の為‥‥と言う風に映るのですが?」
「ともかく、被害の出ている空賊を倒しに行くべきかと」
 遥平が監視を知り合いらしい彼らに任せ、先に空賊の元へ向おうと促す。ききぃと金属が擦れる様な高音で鳴いた雌龍が、主の言いつけ通りの方向へと向っていた。
「あれか‥‥」
 結構な上空を飛んでいるはずの龍達。その正面に、空賊と思しき船があった。一般の船とは違い、結構な高さがある。敵の上空を確かめる遥平。敵影は見えないが、風がかなり強く、高度を維持するのは難しそうだ。だが、耐えねばなるまいと、その高い空へと向う彼。
「前衛は私が」
 相手にはまだ気付かれていない。射程に入るまでは、盾を構えていた南洋は、船に近付くと同時に真空刃を放つ。
「くうっ。やはり使ってくるか」
 返す刀は早かった。遥平の小刀で近接するより早く、敵の船からたなびく柳のようなもの。絡め取られたと思しき動物が干からびているのを見て、彼は急いで龍姫を回頭させる。
「夏香、何とか避けてください。全力で構いません」
 玲璃が自身の龍にそう命じていた。敵の中には、サムライ崩れが居るかもしれない。咆哮を使われる可能性もある。何とか神楽舞を使いたかったが、不安定な龍の上では、避けるだけで精一杯だ。
「もう始まってるみたいだねぇ。先行している監視組かな」
 そこへ、船長を回収した後発組がようやく追いついてきた。「疑われるような事は何もしてねェよ」と足元でほざく船長を尻目に、鞘をもう片方の手に持ち、自身の練力に気をつけながら、炎魂縛武と横踏の技を使う朱麓。だが、今彼女がいる場所からは、携帯品の苦無「獄導」しか届かない。風深も以下同文だった。
「やはり空はいい…行くぞっ、空を汚す者達に、真の空賊魂を見せてやるとしよう!」
 そのままでは距離がありすぎる。そう考えたらしいロックは、J・グリフィス3世号『流離』を駆って、件の空賊達に襲撃を仕掛ける事にする。
「心得た。こちらも向う。とりゃあっ!」
 同じように、相手の船を目視で捕らえた龍影が、ロック達突入組と同じく、アヤカシの船へと突っ込んでいく龍影。そのまま、邪魔な甲板の障害物を蹴り飛ばす。樽が壊れて中の林檎が零れ落ちていた。そこへ、わらわらと周囲を取り囲む柳のような雲のアヤカシ。
「お前達の船長に用がある、そこを退いて貰おうか…」
 それを、ロックは流離を操り、自身の槍で駆け抜ける。カミエテッドチャージの技で、敵を翻弄する彼は、アヤカシ達に告げた。
「ロック・J・グリフィス、参る!」
 だが、雲柳は答えない。元々、番犬がわりなのだろう。答えるような知力はなさそうだ。
「接近戦は余り得意じゃないんだよなぁ」
 その後ろで、ぼやきながらも悠里が飛苦無で援護をしていた。知力攻撃は、イザと言う時まで取っておきたい。それ以前に、接近戦は想定の範囲外だ。
「前衛は任せろ!」
 その間に、接近して星球の片方を、直閃で叩き込んでいた。後ろから追われるように乱戦になって行く船。それを、甲龍の上から様子を探っていた紅葉は、相手の奇襲を警戒しつつ、ちらちらとこちらに視線を送る巫女に気付いた。朱麓に確かめて見れば、知りあいだと言う。
「あなたも、この依頼に?」
「私だけではないですよ。と言うわけで、ここは手を組んでやるべきだと思いますが?」
 答えた玲璃。そう言って船の奥を示す。「違いない」と考えた紅葉は、船の警護をしつつ、皆を誘導する。
「龍が疲れてきたら、船長の船で休ませて貰おうと思うたが、そんな暇はなさそうじゃなぁ」
「さっさと倒してしまえば良いでしょう。怪我をしてるなら、こっちにまわしてください」
 ぼやく龍影に、玲璃はそう告げた。まだ、閃癒を使う余力はある。癒し手は見回す限り彼1人しか居ないようだ。と、その時だった。
「轟、どうした? 新手か?」
 紅葉の龍、轟が鋭く鳴いた。見れば、雲柳のアヤカシが甲板まで登って来ている。そして、わらわらと現れる骨の姿も。
「あ、逃げた!? この、待ちなさいっての!」
 朱麓がその隙に船底へ向う船員達の姿を確かめる。どうやら、骨は囮と分断役のようだった。

 アヤカシ達が潜んだ甲板はひっそりとしていた。戦力の大半は、その下に隠れているのだろう。準備を整えて居るのかもしれないと予想した南洋は、龍を従えつつ、こう尋ねる。
「どうする? このまま突入するなら、外で見張っているが」
「それしかあるまい。退治するのが目的だし」
 そう答える玲璃。空に向った面々との呼吸を合わせ、連絡役になってくれるようだ。突入を連携して行えるよう配慮したのだろう。
「しゅろく様のお背中はあちきが護るッス!」
「殺傷は最小限に。捕縛を最優先とするのじゃ」
 やる気満々で、船の状況をまず確かめようとする朱麓。そんな彼女に、龍風が龍に乗ったまま、そう忠告していた。
「なにぶん敵の規模が分っておらぬ。この船にノイリーを名乗る者が乗っておれば話しは速いがそうでない時の心配もしておかねばなるまい…」
「殺生しないのはいいけど。結構大変そうよ、これ」
 南洋も船の裏側へ回りこみ、そう答える。突入の扉は一つしかない。そこで、紅葉が心眼を使い、状況を知らせてくれた。
「まだ船内に5〜6人いる。油断するな」
 もしかしたら、もっと奥には増えているかもしれないが。それは船長室にたどり着いてからだろう。
「鍵が掛かってるな。これで、どうだ!」
 硬く閉ざされた扉に、業を煮やした龍影が、強力を使う。さすがに板数枚分しかない扉の蝶番がはずれ、積みあがった箱の向こう側に、下へ降りる階段が見えた。
「さぁ、行こうか、ノイリーとやらの顔、しっかり拝ませて貰おう」
 ロックがそう言って、階段の下を目指すように言う。船の知識がある者も無い者も、一番偉い奴は一番奥に居るのが相場だ。
「はっはっは。こりゃあ、乗り込まれないように迎撃するしかないね。一釵、近付く奴が居たら追い払っておいで」
 それは、船長の船とて同じである。もっとも、こちらは逆に乗り込まれないよう、そう言った悠里が警護の任に付く事になった。船の周囲へと寄り付くアヤカシを追い払うのがその役目だ。
「やれやれ揃って無茶をする…」
 苦笑しながらも、空中戦力へと向う紅葉。手には槍が持たれ、外の雲柳と連携しようとする勢力を防ごうとしている。「お前もだろ」とよぎったのは、気の迷いではないのかもしれなかった。

 階段の下には廊下があり、寮側に小部屋があった。どうやら、相手の船長はその下に居るようだ。
「とにかく、各部屋を確かめましょうか」
「この船、樽酒とか置いて無いんスかねぇ…」
 そのどこかに、囚われた商人が居るかもしれない。そう思い、朱麓は風深にも探索をお願いした。
 不満そうに口を尖らしつつも従う風深。隙間から覗いて見ると、米の袋と釣り下がった干し肉、漬物樽があったりするが、船の人数を考えると、少し足りないような気がした。
「どうやら、人々は階下に連行されたみたいね」
 足跡がくっきりと付いているところを見ると、龍で接弦した後で連行されたのだろう。おそらく、上でばたばたと雲柳に骨と相手している間に、準備をしたという所か。
 その足跡をたどっていくと、船長室とかかれた扉の前に出た。風深がそっと覗くと、中に商人達を盾のように並べた向こう側の窓際に、女の姿がある。中間には商人達の証言通り、表情の無い美形を取り巻きにしている。そっと扉を開けると、怯える人質達の向こう側に『船長』の姿があった。そこへ、朱麓は遠慮なしにずいっと進み出る。
「やあやあ、空賊の兄さん方こんにちは。いきなりだけどさ…あたしとヤッてかない?」
 妖しく微笑みながら殺気放つ彼女。しかし、既に空賊達はアヤカシとなっているのか、返事はない。代わりに商人達が哀れっぽい声を上げていた。
「で、実のところあんたらの後ろに居るのは誰よ? やっぱりキキリニシオク?」
 その商人達をさておき、黒そうな笑みを浮かべて、頬をぺちぺちやっている。と、一番奥にいた『船長』が口を開いた。
「なぜそれを知っている‥‥」
 どうやら、主はキキリニシオクで間違いないようだ。
「キキリ‥‥? 何の話だ」
「他ン所の話じゃ、この辺のボスさ。空アヤカシを多数抱えてるって聞く。外の柳みたいなアヤカシも、その一つじゃないかねぇ」
 朱麓の弁によれば、この船もおそらくその配下。雲関蜻蛉と呼ばれるそれに、餌を運ぶ船じゃないかと。
「なるほど。では倒しておいた方が良いですね」
 その刹那、反対側にあった窓が吹きとんだ。見れば、それを知れば充分とばかりに、外から様子を見ていた遥平が、牽制の白霊弾を放った所だ。好機と見た紅葉が、槍を片手に取り巻きへと切り結ぶ。
「沢村”紅葉”参る!」
 ざぁっと紅蓮の紅葉が、槍の周囲に散った。平正眼で力を増したその槍が、ざっくりと取り巻きを貫く。それを見た女船長は、残りの取り巻きにこう命じていた。
「まぁいい。そこの商人達だけでも、蜻蛉様への土産にしておこう。すでに、先発は送ったゆえな」
「させないですっ」
 そうは行かない。ここで逃げられてはと判断した遥平、龍姫を上空に移動させ、再び白霊弾を放っていた。ジルベリア語で言うところのヒットアンドアウェイと言う戦法だろう。
「夏香、強引ですが、舞いますよ!」
 船内への回復役が足りない。そう判断した玲璃が、破れた窓から強引に船の上へと着陸させる。そして、仲間達が存分に戦えるよう、神楽舞『速』を踊る。
「船なら下にもある。いくぞ、お前達」
 ひょい、と破れた窓から飛び降りる船長。そこへ、船の下にいたらしい大蜻蛉が出発する。それを足がかりに急降下するアヤカシの女船長。それに続く取り巻き。何人かは、紅葉が相手をしていたが、遥平の援護だけでは追いつかない。玲璃は舞を「抗」に切り替えていた。
「く。船長の船が!」
 それでも遥平は、龍姫を降下させ、何とか敵側の乗船を阻もうとしていた。まだ、ファング2回の余力はある。前のほうにいる大蜻蛉に、一撃を食らわせてやりたい。
「こっちだ! 皆!」
 南洋が、貰ったばかりのブブゼラでもって、離れた場所に居る龍影にも合図していた。玲璃も再び夏香に跨り、船長の船へと急ぐ。
「お前があのノイリーなのか、ならば…オーラドライブインストール、くらえ魂の一撃をっ!」
 追いついたロックが、そう言いながら自身にオーラドライブを解放する。魂のという名の通り、力の限りフルスイングされた槍が、アヤカシ船長の乗る大蜻蛉を捕らえた!
「今だ。轟、突貫するぞ!」
 刹那、紅葉が自身の龍を硬質化させ、大蜻蛉へ体当たりを敢行する。その一撃は、大蜻蛉を見事しとめていた。
「今のうちだ。皆、しっかり捕まっていてくれ。船を落とす!」
 空中では地断撃の使えない龍影が、龍を近くに待機させて、心臓部である宝珠に、地断撃を叩き込んでいた。だが、甲板の端っこがめくり上がるだけで、効果は薄いようだ。
「ふん。わが船を沈めようとは、中々の心がけ。だが、それは仮初。何れは貴様らもあの方の腹の足しになることだろうよ‥‥」
 そう言い残すと、女船長は雲間に消えて行くのだった。

 残りの空賊は、紅葉の手で順次捕縛されていた。その大半はアヤカシに食われ、屍と化していたが、商人達と合わせ、何人かの生き残りがいた。それによると、やはりあの女船長は、ロックの捜し求める『ノイリー』ではないようだ。
「この男も違った…そうか流離よ、お前も悲しいのか」
 主の捜し求める御仁では無い事に、龍が物悲しく鳴く。その間に、悠里が許可証の出所を、問いただしていた。
「いったい、あの許可証をどこから出してきたんですか?」
「記憶があいまいですが‥‥」
 それによると、何だか花魁みたいな格好の女と会っていたらしい。船長、心当たりはあるようで、お雪を捉えていたアヤカシが、似たようなやつだったと教えてくれた。
「何かわかる? 精巧なものなら、ある程度出所が絞られると‥‥思うな」
 遥平に頷く船長。おそらく、書そのものは本物。これを治めていた寺に、手がかりがあるだろうと。
「ったく、とんだ偽物だぜ」
「何度も言わせるな。お前はノイ・リー船長だ。私たちにとってそれ以上でもそれ以下でもない」
 びしっとそう言い放つ紅葉に、船長は「わかってるつーの」と答えるのだった。
 なお、疑いの晴れた船長は、責任もって宝珠を三成の元へ届けてくれる事になったらしい。