【遺跡】牛頭の迷宮
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/11 16:54



■オープニング本文

 遺跡の空の上。
「なるほど、遺跡の迷宮‥‥開拓者達の冒険にぴったりですね」
 専用飛空船の上で、開拓者達が右往左往している姿を、視界に治めつつ、そう言う一三成。船長は、既に船の修理を終え、開拓者達を迎えにいける準備は整っているが、彼はそこでギルドに手を打つ事にした。
「ええ、私です。まだ宝珠は手に入っていないようなので、引き続き増援を」
 風信機を使っているのは、聞かれても構わないと思っているのだろう。こうして、宝珠争奪戦は、第二場へと進むのだった。

 そうして、一三成が黒く見える糸を操って居る頃、船長は開拓者達をギルドに送り、その帰り道、暁のいる万商店へと呼び出されていた。
「何ィ? 引き続き遺跡の捜索をしてくれ? あのなぁ、これ以上どうこう言うと、ちゃんと運賃貰うぞ」
「別にぃ。じゃあ船強化してあげないよ?」
 そう言って、暁が出してきたのは、緑色の宝珠である。この間、船からサルベージしてきたものが、何故か船長の手元に行かず、開拓者の手に渡ったのだと言う。
「それは元々俺ンだろうが。ああもう、で、何やんだよ?」
「この間の続き。牛頭ぶっ倒して、その奥のお宝手に入れてきてね。あ、お姫様はうちで預かっても良いよ」
 にぱっと笑顔で雪姫をおいでおいでする暁。が、それを船長ががっつりと止めた。
「お前なんぞに渡したら、性格が曲がる。開拓者ギルドもってった方がマシだ」
「お姉さんも、尻尾ついてる人にゃ?」
 もっとも、雪姫は暁の尻尾に興味津々らしい。今まで同族は母親しか見た事がなかったので、気になるのだろう。性別に関しては、聞かなかった事にした。
「遊ぶのは後にしろ。あの遺跡は、お雪がいないと暴走する可能性が高い」
「しょうがないなぁ、じゃあ護衛代は1割り増しね」
 がめつくもおぜぜを徴収しようとする暁に、「きゃっかあああっ!」と言う船長の怒鳴り声が響いたのは、言うまでもない。

 それは、とある護符によって開かれた迷宮だった。
 開拓者達の調査により、地下の迷宮である事は分かったが、その半分は扉に閉ざされている。
 だが、もっとも深い部屋には、門番とも言える存在が鎮座していた。

 阿傍鬼。
 牛の頭に筋骨隆々の体と言う、ジルベリアで言うところのミノタウロスだ。
 古き伝説にはこう記されている。
 その者、強靭なる体を持ち、唸声を上げて巨大な斧を振り回す。体の戦ばかりならず、様々なアヤカシの技を使う。その叫びを聞いたものは、恐怖し、呪われ、そして魅了される。人語ではない不気味な呪い声は、聞いた者達を恐れさせ、行動不能にさせる。それを、阿傍鬼はいたぶり、慰みものにするのだと。
 事に、女性が狙われるらしい。ジルベリアの伝説には、見目麗しい少年少女達が遺跡への生贄として捧げられるものが残っていた。時の英雄によって退治されるその物語には、阿傍鬼が地下遺跡などの人里離れた空間に隔離されている場合が多く、決して愚鈍な訳ではないのに何故か外へ出てこない事が明記されている。
 そして、そのお供には、闇目玉と言うアヤカシが巣を広げていた。
 各地でも見かけられる浮き目玉の上位版と行ったところだろう。霧状の黒いもやを纏い暗がりに出没する事で知られて居る。その巨大な眼で相手を睨み、人を惑わす能力を持つ。決して殴ってくる相手ではないが、人の後ろへ忍び寄り、人睨みすれば重武装の戦士さえ崩れると言われ、しかも見つからないようにしているとも言われる。慎重な性格で、ずっと獲物がかかるのを待っているアヤカシの狩人。
 だが、目指すお宝はその奥にある。
 入り口には、手順を間違えれば即座に襲われる罠が張られ、どこから現れるか分からないアヤカシ達が潜む。獣と虫を貼り付けたようなアヤカシや苔鼠。まだ見た事のないアヤカシ達。
 その鍵は少女が携える護符。謎多きその護符を持つ少女は、見た事のない阿傍鬼を『どこかで見た』と言う。

『少女をつれ、遺跡に潜り、牛頭のアヤカシを討伐し、その奥に眠る宝珠を手に入れろ』

 それが、天儀王朝から厳命された依頼である。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
雲母坂 優羽華(ia0792
19歳・女・巫
深凪 悠里(ia5376
19歳・男・シ
キァンシ・フォン(ia9060
26歳・女・泰
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎


■リプレイ本文

 再び集まった開拓者達は、阿傍鬼が待ち受ける遺跡へと集まっていた。目的は遺跡の全容を解き明かし、宝珠を手に入れることだ。
「あんじょうよろしゅうにぃ。今回はりべんじどすな」
 そう言って、拳をぐっと握り締める雲母坂 優羽華(ia0792)。思いは、柊沢 霞澄(ia0067)も同じだった。
「前は、途中で引き返しましたので‥‥」
 色々と思惑が絡んでいるようだが、今はまず「よろしくおねがいするのにゃ」と頭をぺこりんしている雪姫の為、頑張ってみようと思う彼女。
 遺跡の入り口は、相変わらず時間ごとに閉まる構造になっていた。その様子に、彼方は既に経験のある開拓者達に、事情を尋ねてくる。
「さぁて‥‥遺跡を探検するんなぁら、情報収集もぉ必要だぁな。宝珠も依頼対象だぁし、持って帰らないとな‥‥何かしら文献とぉか噂とぉか言い伝えとぉかが、残ってりゃ参考にできるんだぁがな」
 雪姫は何もご存じないようだ。そこで、雪切・透夜(ib0135)がギルドから仕入れた、前回の開拓者達が作った地図を広げている。墨書きされたそれを、前回を思い出しながら相談する霞澄。
「この前はこの先で‥‥」
 阿傍鬼に遭遇した位置を指し示す彼女。牛、と記され、周囲に3つ『闇』と書かれている。その前の通路はかなり狭い。広場には重要な品もありそうなので、無月 幻十郎(ia0102)は頭を抱えつつこう答えた。
「ふむ。そうするとおびき出した方が良さそうだな。広間めいた部屋にも、危険はあるかもしれないし」
「どうやるんだ?」
 にやりと笑う無月。つんつんとつついたのは、透夜の身につけている巫女装束だ。要するに、女装しろって事らしい。女性陣を危険な目にあわせるわけにはいかないので、見た目『女性』な男子を使おうって事らしい。
「と、とにかく行って見ましょう‥‥」
 苦笑するキァンシ・フォン(ia9060)。引っかかるかどうか、やってみないと分からないから。

 灯りは松明。何人かで分担した松明は、誘き出しに使えそうな場所を探しつつ進む‥‥と言った方式になった。松明をかざし、扉を確かめる透夜。
「どこか、おびき出せそうな場所があると良いんだけど‥‥。トラップばかりかな」
 しかし、いくつかは錆ついて開かない扉だし、開いた所は埋まっていたりする。2番手の悠里が、横の扉の気配を探りながら、不意打ちに注意していく。そんな中、無月が大きな天儀酒のとっくりを、雪姫に差し出していた。
「ああそうだ。あとで飲むから天儀酒もっておいてくれ」
「わかったのにゃ」
 こくんと大事そうに抱え込む雪姫。彼方も「危なくなったら、後ろに来るんだぞぉう?」と告げている。素直に「あい」とお返事する雪姫。後方に控えるキァンシと、華澄の間に隠れるように戻る。
「後方で全体を観れるのも大事な仕事だ、何か気付いたら大声で知らせてくれ」
 そんなキァンシに、無月が合図している。雪姫が「じー」と目を皿のようにしていた。しかし、彼女を護ろうとする中衛の彼方は、雪姫の視界よりはるかに高い身長。何も見えない。
「今、何か音がした‥‥」
 まるで、大きな目玉が瞬くような音だと、深凪 悠里(ia5376)は感じた。活性化していた超越聴覚が、何か動く音を捉えたのだろう。忍びの眼を使うと、奥の広場で何か質量が跳ねるような姿が見えた。練力の都合上、ずっと眼を使うわけには行かない悠里を見て、霞澄も瘴索結界を唱えてくれる。
「この先に大きな瘴気を感じます・・」
 場所はちょうど、通路の出入り口だ。集まって、こちらを伺っているような素振りが見える。
「闇目玉じゃないかしら‥‥。雪姫、こちらへ」
 キァンシが、松明を持ち、雪姫を後ろに庇う。黙ってそれに従う雪姫の表情が、少し不安そうに見えたが、きっと戦場を前にして、緊張しているのだろう。そう思うキァンシ。
「出てくるかな」
「罠はともかく、遺跡の番人が、おびき出しに出てくるなら、前回倒されてると思います」
 前衛では、風雅 哲心(ia0135)が警戒しながらそう言ったのに、透夜が首を横に振っていた。ギルドで聞き出した伝承では、何らかの理由で、遺跡から出てくる事は稀と言われていると告げる。
 そんな警戒を強めていると、ふっと闇が濃くなった。
「出てきた」
 悠里がそう告げる。その暗視の技には、闇をまとった目玉がはっきりと見えていた。数は‥‥4匹もいる。
「闇目玉、増えている気がするな。どういうことだ?」
 確か、前に来た時は、3匹だと書いていた。警戒する哲心に、闇目玉はのそりとその体を宙に浮かせながら、開拓者達に近付いてくる。どうやら向こうも警戒しているようだ。見回せば、仕掛けと言うわけではないが、上が大きく開いている。崩れた後が見て取れた。
「どうやらすっかり囲まれているようだ。どうする?」
「不意をつかれないだぁけ、ましだぁな。速攻で片付けるぞ」
 にらまれる前に。と、犬神・彼方(ia0218)はそう言って、符を取り出した。場所はまだ特定出来ないが、消耗を避けたいと思い、そのまま居ると思しき方向に、残撃符を投げた。うぉぉぉんっと、唸り声のようなモノが上がり、闇の中に目玉がすうっと浮き上がる。かけだしの開拓者では間に合わない速さで、近付いてきた体を、符が切り裂いた。
「わかった。ただし、あんまり技は使わないでくれ」
 避けるので手一杯の哲心。敵は1匹ではない。意外と素早いらしい闇目玉は、自分の得意な場所へ引きずり込もうと、幻の技を発動させる。
「これは‥‥幻惑か‥‥」
 視界がぼんやりとかすれた。床が見え辛くなる。それに引っかかったのは、悠里、透夜、無月、キァンシの4人だ。特にキァンシは、その抵抗力の低さゆえか、すぐ近くの雪姫も見え辛くなっているようだ。
「どうしようどうしよう。そうだにゃっ!」
 キァンシにしがみつきつつ、おろおろしている雪姫。その手に、まだ天儀酒が握られているのを見て、キァンシは見えない視界でこう告げる。
「お雪ちゃん、その瓶で無月さんを殴って!」
 はっと気付いた雪姫、ぎゅっと瓶を握り締めると、思いっきり無月の後頭部を殴打。
「し、しっかりするにゃっ」
「ぐはっ。おっといかんいかん。もったいねぇ」
 ばりんっと盛大に割れる天儀酒の入れ物。後ろにでかい瘤が出来ているが、この際気にしない。
「精霊さん達・・皆さんの怪我を癒して・・」
 その怪我を、霞澄が閃癒で直してくれた。自衛用に白霊団を用意しているが、闇目玉は彼女の方には来なかった。どうやら、先に不利になる松明持ちを潰そうとしているらしく、標的になるのはもっぱら透夜や悠里のほうだった。
「注意をっ」
「あまり使いたくはないんだがなっ」
 それでも、その透夜が気を引いている隙に、哲心が雷鳴剣をお見舞いする。彼方が残撃符を投げつけた事で、不利を悟った闇目玉は、慎重な性格と言われる通り、広間の方へと引き上げていく。
「怪我は‥‥」
「こんなもん、酒塗っとけば治るわい」
 薬草を持って心配する霞澄に、無月は酒で濡れた頭を吹きながら、そう答えるのだった。

 闇目玉達は、阿傍鬼がいると思しき広間へと入って行った。どうやら、戦うなら自分たちの戦い易いフィールドでと言ったところだろう。やはり、慎重なアヤカシのようだ。
「いるのは、この先だな。できれば、待ち伏せのない場所で戦いたいが‥‥。難しいかもしれん」
 入り口の通路が1本しかない。悠里は罠のないお外がいいと思ったのだが、闇目玉の様子を見る限り、出てきそうにはない。
「大広間から直で迷路だもんなぁ。無理そうなら中でやるしかあるまい」
 それはきっと、阿傍鬼も同じだろう。もし、そのまま誘い出しに応じるようなら、既に前回倒されているはずだし、そもそも門番は自分のエリアからは中々出ないものだ。
「物は試しだ。囮を用意してみよう」
 そう言う透夜。彼だけではなく、索敵能力の高い悠里もそれに同行する事になった。
「一緒に行った方がいいかな」
「ああ。1人だと信用してもらえないかもしれないしな」
 念の為、キァンシが眉を書き直している。
「お化粧、するにゃ?」
「そうよ。お化けを騙すの」
 雪姫も、舞台用の化粧をやった事くらいはあるのだろう。キァンシを手伝って、綺麗に眉を書いてくれた。やっぱり意外と手先が器用である。
「どれ、行ってみましょうか」
 ひと通りくるりと回ってチェックし終えた悠里は、透夜と共に、広場へと足を進めていく。と、うぉぉぉん‥‥と唸るような声がして、足音が聞こえて来た。鋭敏聴覚で確かめるまでもない、大振りの足音。それはやがて、松明に照らされて、扉から姿を現す。見下ろすその足元には、中々に化けた透夜と悠里。じりっと後ずさりすると、阿傍鬼も共に動く。
「よし、騙されているようだ」
 無月がその進行方向へと隠れた。他の面々も、比較的広い通路の方へと移動する。だが、「こっちよ、こっちっ」と女言葉で呟く悠里に、阿傍鬼の歩みが止まる。どうやら、気付かれてしまったようだ。
「し、仕方がない。彼方、頼んだっ」
 少し危険だが、見た目は男性でも、中身は女性の彼方にバトンタッチする。決して顔立ちが悪いわけじゃない彼方さん、懐に手を突っ込んだまま、阿傍鬼の元へ。
「色気もへったくれもないが、仕方ないわなぁ」
 普段一家の長として振舞っている彼女だが、いざ女として色気出せと言われても、何やって良いのかさっぱりだ。とりあえず、一緒に住んでいる娘達が、お気に入りの服を見せる時を真似して、くるりと回って見る。
「よし、釣れた」
 ぐっと拳を握り締める悠里。見れば、阿傍鬼がそちらに狙いを定めなおしたようだ。
「可愛げがなくても、女の方が良いってかぁい」
 ぶつぶつ言う彼方を尻目に、その阿傍鬼の後ろには、闇目玉。どうやら大きな体躯に有利だと思ったのか、まるで従者のように控えている。
「ここで足止めする! 優羽華さん、お願いします」
「神楽の力よ。皆を護って‥‥!」
 近付く間、透夜は優羽華に抵抗の補助をお願いしていた。阿傍鬼もまた、幻惑の術を使うアヤカシ。神楽舞の力が、一行を包みこみ、その抵抗を上げた。
 だが。
「うぉぉぉぉん!」
 阿傍鬼が、何やら言葉ともつかぬうめき声を上げた。それは、力持つ呻き。呪詛を投げかけ、恐怖を呼び起こす声だ。
「くう‥‥。手ごわい、な‥‥」
 歴戦、と言っても差し支えない哲心や無月、気力で抵抗を上げていた彼方は平気だった。巫女の霞澄と優羽華も、その加護でもって何とか耐えた。だが、悠里と透夜、それにキァンシの動きが止まる。ことにキァンシが深刻で、雪姫を抱えたまま動けない。せっかく練気法と、旋風脚の術を体得していると言うのに。
「物理攻撃が通用しないってか。だったら、こいつでどうだ!」
 そんな阿傍鬼に、鉄心が白梅香を使う。斧を持つ腕を狙い、相手の攻撃手段を奪おうとする。だが、相手も見た目通りの膂力に物を言わせ、その動きには無駄がない。
「咆哮されるまえに、黙らせる!」
 忌まわしき呪いの声を上げる口元をめがけて、残撃符を投げつける彼方。だがそこへ、闇目玉が霧の形となって視界を奪いに来る。呪いの声は彼らからも聞こえていた。
「闇目玉が増援に来ています。気をつけて!」
 おかげで悠里、動けない。弓を投げつけるのがやっとだ。
「大丈夫よ。あと少しの辛抱だからね? 絶対安心」
 心配そうな雪姫を抱え込むキァンシ。この子を、やらせるわけには行かない。それが、彼女の今の支えだ。4時熟語が出ているところ見ると、呪いで動けなくとも、その思いは届いているらしい。
「おぉぉぉぉぉぉ!」
 剣気の技を使う無月。阿傍鬼に効果があるかどうかは分からないが、使って見る価値はある。
「うちにかかれば、どんな術も何とかしてみせるどすぇ!」
 そこへ、恐怖の呪声を、優羽華が解術の法を使って、打ち消してくれた。動けるようになった透夜が、斧を手に闇目玉をなぎ払う。
「後方に行かせないで下さい!」
 気力を使い、何とか相手の闇に対抗出来るようにしながら、何とか後衛に行かせない様にしているが、それでも阿傍鬼は中々倒れなかった。その太い腕は伊達ではないようだ。
「しぶといな・・・ならこれでどうだ。雷撃纏いし豪竜の牙、その身で味わえ!」
 哲心がその刃に雷鳴の力を纏わせているが、それでも阿傍鬼の膂力は落ちない。闇目玉は既に不利を悟ったかその姿を消していた。そこで、透夜はその斧を、流れるように切り付ける。
「‥‥マトモな手では歯が立ちませんか。埒が開かない? ならば埒をこじ開ければいい―――より深く抉ってやるッ!!」
 重ねて同じ場所へ2撃目を食らわせた。ポイントアタックと呼ばれる騎士の技。さすがにぐらりとたたらを踏む阿傍鬼。そこへ、無月が示現を食らわせる。どうやら、踏みとどまれるだけの力はない。そう感じた哲心は、白梅香の力を己が剣に宿らせた。
「そろそろ頃合いだな、まずはこいつだ。星竜の牙、その身に刻め!」
 流れるように、切り付ける。自信の練力を8割がた突っ込んだ盛大な奥義に、阿傍鬼はようやくその身を崩すのだった。

 全てが終わった後、透夜は遺跡を自身のスケッチに治めていた。宝珠の事もしっかりと記録し、画帳を閉じる。
「これでよし、と。どんなものかは、もう少し調べてみないとだけど」
 その表紙には、ちょこんとお座りする雪姫の姿が描かれている。興味深そうに覗き混んでいる彼女に「マスコットには、ちょうどいいからね」と、一枚描いてプレゼントする透夜だった。