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■オープニング本文 依頼してきたのは、神楽の都から歩いて3時間ほどの距離にある、とある町だった。開拓ギルドに程近い町が舞台である。すぐ近くに深い森があり、魔の森になっている事もあいまって、人々は不安な日々を送っていた‥‥。 「船、また出てるなぁ」 「こっちには来る気配がなさそうだけど‥‥」 水源であり、重要な水路でもあるその湖と川の境目に、船が浮かんでいた。時折、二艘に増えている時もある。空に浮かぶわけではないが、身動きひとつしないのが、かえって不気味だった。と、そこへ年のころなら20代の若い僧侶が、見張りの番所に面を出す。 「あ、若旦那。お見回りご苦労様っす」 「いつまでも若旦那はよしてくれ。今は寺の代理人だよ」 木戸をくぐり、町に1つしかない遠眼鏡と、風神器の前に腰を下ろす。向こうも攻めては来ないので、茶をいただきながらのんびりと監察する事になるのだが。 「まぁあんまり気にしないで下さいよ。それよりあの船、どうするつもりなんで?」 それでも、迷惑なのは変わりない。これが、ただの船ならばほうっておくのだが、夜になれば人魂が舞い、町の収入でもある川魚の漁獲量がめっきり減った。何よりも、船の周囲には不気味に瘴気がたまっている。アヤカシであるのは確かだ。 「手は打った。数日中にも船持ちを寄越すそうだ」 そう言って、その『若旦那』が示したのは、万屋からの手紙だった。それによると、数日中にあの船を改める為、小型飛空挺と開拓者を数名送ると書いてある。 「名前は、ノイ・リー。表向きは運送屋らしい」 「信用出来るんですかねェ」 もっとも、あまり信用はされていないようだった。 その頃、船の上では、相変わらず不気味な人魂が舞い、悲鳴ともうなり声ともつかぬ声が響いていた。 「うぉぉぉぉん‥‥」 その鳴き声の主は、船の乗組員。もはや生きて居るとは思えない骨の者達。だが、その骨に見張られているのは、生きた少年少女達だ。うち1人は、耳と尻尾が生えた少女。天儀でもまれに見られる獣人‥‥神威族と呼ばれる人々である。 「逃げなきゃ‥‥」 ぽそりと呟く彼女、その手には円形の護符のようなモノが握られている。どうやら、この船で、主人の世話をさせられているようだった。 「いつまでこの空域に留まっているつもりだ?」 その主人。それは金髪のジルベリア人らしき青年だった。まるで船長のように、優雅な仕草で真っ赤な液体を口にしている。その杯は、この辺りでは珍しい細工ものだった。 「そう急かぬでもいい。獲物がかかるまで、ゆっくりと待つのも、釣りの醍醐味でありんすよ」 答えたのは、天儀の着物を着た女である。どこかのおいらんめいた口調で、釣り糸をたらしていた。 「それがわかるほど、頭の良いのは揃っていないように見えるが?」 「撒き餌の代わりじゃ。なぁに、この船は早い。潮が満ちぬ内に帰れば良いだけよ‥‥」 周囲を見回した『船長』が指摘するように、回りには人型のアヤカシばかり。だが、アタリを待つ釣り人は、今日も糸を垂れていた。 ただ、その餌はどこで仕入れたのか、暁と同じ耳の形をもった、人の頭だった事を追記しておく。 そして。 「と言うわけで、あの船の様子を探り、いやおそらくアヤカシなので、退治して欲しい‥‥」 呼びつけられたノイ・リーは、膝の上にもふらさまのぷらぁとを乗せつつ、話を聞かされていた。 「けどなぁ、あっちからは仕掛けてこないんだろ?」 「なぁに、こっちにはこれがある」 相手が確実にアヤカシであると言う保障がないとぶーたれる船長に、若旦那が持ってきたのは何やら墨書きされた薄い石の小板だ。天儀王朝の名が併記されたそれを見て、船長は眉をひそめた。 「何で寺に免状があんだよ」 それは、天儀内でも一部の者しか持ち合わせていないと噂される、臨検許可証のようなものだ。 「何年か前に、足を洗った船乗りが置いて行ったそうだ。その船乗りがどうなったかは知らないが、好きにしていいらしい」 いや、それ相応の後継者がいたら渡して欲しいと言った所だろう。だったら、しかるべき筋に修めるべきだとも船長はご意見したが、そこには運送の問題があるらしい。 「そうだな。これを渡すから無報酬というわけにはいくまい。実は、あの船からこんなモノが落ちてきてなぁ」 さらに若旦那が出してきたのは、月を意匠化した、円形の護符だ。細い金属の針金を編みこんだそれには、人の名前らしきモノが掘り込まれていた。しかも、何やら小さな宝珠のようなモノが組み込まれている。まるで、何かの鍵のようだった。 「へぇ。神威人の細工か。珍しいな」 「船に誰か居るのかもしれない。でなくても、遷都にいけば何らかの金にはなるだろう。外も、全てお前さんが処分していい。それでどうだ?」 「‥‥それってそのままその免状の許諾条件じゃないか。まぁいい。それで手を打とう」 こうして、ギルドには募集の告知が乗った。 【水路に陣取っているアヤカシの船を検査するぜ。どう見てもアヤカシが乗ってる船だ。中身のお宝をゲットする為、アヤカシどもをたたき出せ!】 船長が絡むと、どうしても話がすこーーしねじれてしまうらしい。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
霞・滝都(ia0119)
16歳・男・志
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
マリア・ファウスト(ib0060)
16歳・女・魔
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲 |
■リプレイ本文 船は黙して語らず。されど、圧倒的な存在感をもって、そこに鎮座していた‥‥。 「やれやれ、さしずめ幽霊船やな。まあ、なら中のもんはもらってもかまわんやろうしな。お上の許可もあるししっかりいただかせてもらうで」 早朝、船を見上げつつ、そう呟く天津疾也(ia0019)。かなり近くまで寄って、見上げる事も出来たが、やはり不気味さを漂わせながら、沈黙を守っている。 「‥‥臨検‥‥強襲‥‥私掠船‥‥心躍る響きじゃありませんか?」 長渡 昴(ib0310)が、そう言いながらニヤリと笑う。元々、水軍で砲術氏をしていたと言う一族の出だ。その嫡流の血がうずくと言う奴だろう。が、天津はそれには答えず、操縦していた船長に尋ねた。 「船長ーあの船が報酬なのはええけどな。船自体がアヤカシやったらどーすんの? 実は幽霊船でしたーとか」 「もしそうだったら沈めるしかあるまい」 そう答える船長。相手がアヤカシならば、遠慮は要らないと言う事だろう。 趙 彩虹(ia8292)が村から小船を借り、二手に分かれて行動する事になった。村人たちは、八十神 蔵人(ia1422)の申し出で雨戸を閉めてひっそりと息を殺している。金髪アヤカシは船長と何やら因縁があるらしい事もわかったが、まずは先にやる事があった。 「まぁずは子供を取り戻さなぁいといけねぇよな‥‥」 そう、救出が第一。そう主張するは、犬神・彼方(ia0218)だ。他に雪切・透夜(ib0135)、マリア・ファウスト(ib0060)、昴が陽動班である。船長の船でもって不審船の注意をひくと言うのが、その作戦だ。ただし、船は2つもないので、より目立つ船長の船でアヤカシ船まで乗り込む所である。 「陽動ですから、派手に行きましょう。よろしくお願いしますね」 そう言って、飛空船の速度を上げさせる透夜。「勿論だ」と答え、帆を帆を上げるよう告げたのは、昴である。 だが。 『‥‥ヒャッハー!』 どうやら、乗り物を操縦すると人格が代わる類の人間だったらしい昴。スピードをマックスまで上げ、水飛沫を撒き散らしながら、アヤカシの船へと寄せてくる。ざざぁっと盛大に上がった水柱は、ちょうど横付けする形で、ぴたりと止まった。元々、戦闘をするつもりなので、目立つのは問題ないようだ。 『あー、あー、そこの船籍不明の船ー、先日より居座っているようだが貴船の目的と所属を述べよー』 厚紙を漏斗状に丸めて作っておいた簡易型拡声器を手に取り、昴は大声で怒鳴った。が、反応はない。 「此れより其方の船を臨検させて頂きます。拒否は認められませんよ!」 透夜は既に刀へと手をかけ、臨戦態勢を整えていた。 『天儀王朝許可状に基き、臨時に貴船内部を検索する、異論があろうがなかろうが、力づくで行わせてもらう』 断る気のなさそうな2人に、ひょいと顔を出したのは女の方だ。 「やれやれ、そうぞうしいのう」 「行動理由をお聞かせ願いたいのですがね‥‥? ただの御ふざけ、で済ませるものでもないのでしょう。何もせず、態々待っていたのですからね」 アヤカシ女は答えなかった。ただ、その代わりに隣の金髪に、こう言っていた。 「釣れたはいいが、余計な者もつれてしもうたようでありんすよ」 「まぁいい。見目は麗しい方だ。餌にはなろうさ」 相変わらず、釣り糸を垂れていた金髪だが、そう答えると、後ろへ合図を送る。直後、わらわらと船倉から現れたのは、骨アヤカシだ。それが襲ってくる事を予期していたマリアは、忌々しげに答えながら、フローズの魔法を唱えていた。 「人型のアヤカシは小賢しいことを考えるから嫌いだよ、まったく‥‥」 もっとも、動きは骨の方が早かった。詠唱中にさびてはいるが鋭い刀を振り下ろして行く。かきぃんと音がして受けとめたのは、犬神だった。 「船だぁし、それほど広くねぇから、あまり武器振り回せぇないかねぇ。刀で上手く間合いを調整しつつ戦ってぇいこうかぁ」 どんっと突き飛ばし、距離を稼ぐ。無茶は禁物だ。相手の数は自分達の倍。そこへ、変わって透夜がダーツを放ち、近付かせないようにしていた。 「弓で撃った方が良いか、それとも斬った方が早いか‥‥」 五人張りを構える昴。その必要がないと判断出来るなら、珠刀を使うべきだろうが、犬神がこうアドバイスしていた。 「攻撃は振り下ろす、斜めに薙ぎ払う方がぁ骨にゃ有効かぁね」 自分はそう言う中、残撃符をバラまく。近付かせる前に、五人張りでの矢を撃つ昴。骨がこちらに上陸してくるのだけは阻止しなければならない。そこへ、霊青打を打ち込んでとどめをさす犬神。動きの鈍ったアヤカシに、ホーリーアローが突き刺さる。 「さようなら誘拐犯。何考えてたか知らないけど、さっさと消えうせろ」 「‥‥‥‥早々に失せて頂きますッ!」 ガラガラと崩れ落ちる骨を両脇に、透夜が流し斬りで女アヤカシに斬りつけていた。 「では、お言葉に甘える事としようでありんすなぁ」 「うわっ」 が、その刹那、彼女はゆうらりと船べりに下がり、その袂を振るう。なぜか、硬質な物を叩く音がして、弾き飛ばされた。 「く、早いってこう言うことか‥‥」 そう呟く昴。手を講じているらしいアヤカシ。それを、じりと包囲を狭める開拓者達。だが、骨もまだ残っている。 その時だった。 「おや、人の食糧倉庫に鼠が入り込んだようだな」 「手癖の悪いお子達でありんすなぁ。足抜けは重罪でありんすよ」 後ろの方にあった部屋で、何かをごすっと殴る音に、アヤカシの注意が向いた。それが、人質を助ける為の行動だと知っている開拓者達は、何とか間に合うよう、さらに包囲網を縮めようとするのだった。 さて、時間は少し巻き戻る。ちょうど、朝の霧がかかる頃だ。 「始まったな‥‥。注意がそれてる。今のうちに上陸するで」 激しく立ち上る水しぶきは、陽動の面々が臨検を開始した合図だろう。それを機に、小船に乗り換えた奇襲班は、こっそりと後ろの方へと回りこんだ。 「そやな。見張りはおらへんか?」 「おるで〜。がっりがりのかっちかちが」 天津が周囲を探る用に告げる中、心眼を使う蔵人。音を立てないように、こっそりとはしごをかければ、そこには見張りと思しきちょっと小型の骨アヤカシが、頑丈な扉の前で微動だにしない。 「ほな、いこか」 「気付かれないようにせぇへんとな」 陽動班が戦っている間に、その見張りをどうにかしなければなるまい。天津も心眼を使って見たが、やはり目の前の見張り以外は、陽動に引っかかっているようだ。そこで、そっと息を殺して、見張りのすぐ側まで回りこむ。それほど複雑な仕組みの船ではなさそうだ。 「とりあえず敵は殲滅しておきましょうか。そのほうがすっきりしますしね」 霞・滝都(ia0119)がそう言って、見張りを指し示した。頷いた他の面々は、自信の武器を骨へと振るう。 「てぇい!」 紅蓮紅葉で威力を上げた蔵人がその頭を砕き、彩虹が瞬脚と白虎で距離を詰めて、足元の骨を砕く。速やかに排除し終えた彩虹は、1つしかない扉を泰拳士のパワーに物を言わせて鍵を粉砕すると、中に囚われていると思しき子供へかけよっていた。 「あ、あのっ。あなた達は‥‥」 少し歳かさの子供が驚いている。そこに、彩虹は「しーっっと:人差し指を唇にあてていた。そして、こくこくと頷いた子供数名を、待機していた船へと持ってくる。そこにいたのは、船を昴に預けた船長だ。 「暫くココで待っていて下さい、良いですね?」 頷く子供達。その膝に、もふもふとぷらぁとが乗る。 「おし、時間を稼いでいる間に逃げるで」 陽動班が取り囲んでいるのは、明らかに他とは違うアヤカシだ。だがいまだ、その力を欠片ほども見せていない。力量がわからないので、虹彩も攻撃を仕掛け損ねていた。 と、その刹那。 「見つかったみたいやで!」 女がこちらを向いた。気付いた天津が前にでる。虹彩が牽制の一発をいれようと、拳を振り込んだ。霞も炎魂縛武で武器を強化する。船が大きく揺れて、巻き打ちがやりづらいが、そこは我慢だ。 「人のお得意に手をつけるのは、ご法度でありんすよ?」 後ろから横から、ぞろぞろと他の面々を引き連れつつ、こちらへ向ってくるアヤカシの女。そこへ、彩虹は陽動に加わる目的で、わざと大声を上げていた。 「あなた達の目的は何です?‥‥いや、そもそも何者ですか?」 この2人は、今後重要な情報源になる。そう確信しての問いだった。が、アヤカシ女は、にぃと口元に笑みを浮かべている。 「我らはアヤカシ。それ以上でもそれ以下でもない」 「そうだな。人の記したものはまた、アヤカシでも利用出来る事は、教えてやろうか」 船べりに腰掛けた金髪の視線は、その下にいる船長に注がれていた。ぞくうっと背筋に冷たいものが走った船長の胸元には、預かった免状の木札がある。 「まさか‥‥。目的はコレか?」 「ご名答。流石は水の民が末裔でありんすな」 慌てて木札を隠す船長。その間に、虹彩は身にまとう練力を練り上げる。じりっと足元から闘気のようなモノが立ち上った。白虎の形で。 「だったら、神威の少女と何か関係があるのですか?」 「かむいの子の血は甘いと聞いているでありんすがなぁ」 くくくっと女が流し目をしていた。それを送られ、うっとおしそうに払った金髪は、口の端を釣り上げて、こう告げた。 「非常食だ」 豪華な携帯食と言ったところか。人の子を食糧倉庫がわりにしている事に、彩虹の怒りが頂点に達する。 「このぉ‥‥!」 たたっと床を蹴る彩虹。速さを纏ったその攻撃に、華墨と天津も動く。 「さて、悪いが今日限りでこの船はご臨終や。せっかくの川や、そのまま三途の川に送ったるわ」 目にも留まらぬ速さと言うのはこう言うのを言うのだろうか。一気に残撃で斬りつける天津。 だが。 「やれやれ。生きが良すぎて、興がそがれるな。今宵はここまでにしとこうか」 がんっとやはり金属を斬りつけるような音がして、はじかれる天津。その刹那、金髪がざざっと船べりを飛び降り、船長の元へ。 「しまった!」 犬神が追いかける。その直後、うわっと船長が叫び、着物が千切れ飛んでいた。ばたりと崩れる彼。 「子供とやらには手をつけぬでおくでありんすよ。また手に入れるまで、大事にしておくでありんす」 くくっと女が笑い、自信も飛び降りる。そこに、どこからか大きな蜻蛉が舞い降りてきて、2人を空へと上げて行った。 「逃がしたか‥‥」 「それより、子供と船長をなんとかしないと!」 悔しそうにそう言う天津。なお、船長は犬神や他の面々が持ち込んだ治療符と符水で、何とか回復するのだった。 改めて見てみれば、その正体は、数日前にアヤカシに襲われたと言う避難船のようだった。船長の話では、おそらく戦った骨アヤカシは、その操縦をしていた船乗りのなれの果てだろうと言う。その話を済ませるうち、目を覚ました神威の子は、自身を取り囲む状況に、がたがたと震えた声を出していた。 「う、うーん。はっ、とうとう食べられちゃうにゃか?」 怯えたようすの彼女へ、霞と透夜、それに犬神が異句同音になだめようとする。 「あなた達を助けに来た開拓者です。怖がらないでください」 「もう大丈夫ですよ。今は落ち着いてくださいな。何をするにも、まずはそれからですよ」 「よく今まで頑張ったぁなぁ。もう大丈夫、家に帰ろうなぁ?」 水筒を差し出し、水を飲ませる透夜。ごくごくと飲み干す彼女を、犬神が後ろからそっと抱きしめていた。 「はにゃ〜。た、助かったにゃ〜」 ほっと胸をなでおろしたのか、力抜けてへたり込む神威の少女。 「アヤカシって訳やなさそうやな」 「失礼にゃ。にゃはかかさまもいる人間にゃ。その護符にちゃんと住まいが書いてあるにゃ」 蔵人がそう言うと、少女はぷーっと頬を膨らまして、船長が持っていた護符を指し示した。その裏には、一座の名前と母親の名前。そして少女の名前らしき『雪姫』の文字が、墨で黒々と書かれている。 「これ迷子札だったんですか? いったい何があったんです?」 「出来れば、今までの経緯を教えて欲しいのですが」 彩虹とマリアが同じ様な事を聞いてくる。怖かっただろうし、疲れているだろうが、マリアとしては聞いておかなければならなかったようだ。 「えぇと、にゃ達は‥‥瘴気を避けて旅してたのにゃ」 それによると、彼女は旅芸人一座の1人として、母親と共に、あちこちの村で興業と逗留を繰り返していたそうだ。そして、しばらくたったある日、骨の軍団に襲われ、雪姫さん達はその骨に浚われてしまったらしい。 「どうして攫われたの? 連中の目的話してなかった?」 「何でも、あの符があればとか言ってたのは覚えてるにゃ」 マリアがその続きを問う。符、と言うのは今ならば船長の免罪符だろうが、彼女は自身が抱えていた護符の事だと思っていたらしい。そこで、逃げ出すのと護符を渡さないようにとの思いから、村に向けて投げたそうだ。 (もしかして、持ってた頭ってのは、嬢ちゃんの‥‥) (だろうな。よくみりゃほれ、耳の形が一緒だ) 蔵人が、アヤカシの残した釣具を見下ろす。その先には、耳の形と色がそっくり同じな大人の神威人が、餌としてくくりつけられたままだ。 「かかさまはどこに行ったのにゃ‥‥。それと、一座の皆も‥‥」 しょんぼり雪姫嬢に知られないように、蔵人はその釣り糸を切り、首をそっと水葬に帰した。 「なるほど、やはり免状が狙いやな‥‥。で船長、この子達どーしよか?」 ここには、他の子供もいる。彼らもまた、村から避難してくる途中で、骨に襲われたと言っていた。困ったように話を振ると、透夜がこう呟く。 「町に預けたりとか、出来ないのかな‥‥」 と、蔵人はおもむろに船長へと言った。 「依頼内容じゃ、船の中身は船長が管理する事になっとるな?」 顔を引きつらせる船長の背中を、蔵人はばしばしと容赦なく叩く。 「船長がついに子持ちに!」 と、雪姫までしょんぼりしていた顔を上げ、「新しい親方さまにゃ?」と首をかしげている。職業上、違うとは言い切れない船長なので、なんだか口をぱくぱくさせている。 「冗談や。ま、わしらが一旦預かって連れてってもええよ。乗りかかった船や、幾らか自腹でギルドで親元に帰す依頼でも出すか?」 「こっちで何とかするさ。借り、作っちまったし」 だが、蔵人の申し出には、首を横に振った。覚悟を決めたようで、自分の船に移るよう告げている。 「とりあえず、船は沈めておいた方がいいだろうな。分け前がもらえないのは残念だが」 残されたアヤカシ船は、後で面倒な事がないように、マリアがファイヤーボールを打ち込んで、火葬にしているのだった。 |