【華宴】朋友とお花見
マスター名:姫野里美
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 22人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/15 12:33



■オープニング本文

 梅は咲いたか桜はまだかいなと言う話が、天儀にも通用するかどうかは定かではないが、花の咲く時期に、春を祝う祭りや宴席と言うのは、あちこちで設けられているようだ。それを過ぎれば、春の種植えシーズンに突入するので、鋭気を養おうと言うのは、古今東西変わらない模様。
 そんな折、ギルドに妙な依頼な舞い込んだ。
「これ、いいのかなぁ」
 ギルドの受付が首をかしげているのも道理で、それには『宴会参加者求む』と記されていた。
「書式はちゃんと揃ってるし‥‥。大丈夫じゃないかしら」
 見れば、正式な依頼である。ある学者の名前が書かれており、大いなる実験であると併記されていた。
「実験で宴会って‥‥。何だか釣りみたいだね」
「そうかな。理は合ってるよ」
 その依頼書曰く、アヤカシと言うのは、恐怖を振りまくもんなので、逆に楽しい気分を振りまいてみたら、どう反応するのかを調べてみようと言うことらしい。
「まぁ、募集対象は開拓者だから、何があっても平気だろうしね」
 一般の人々では、実験が失敗し、アヤカシに襲われた時に困る。そこで、何があっても、そう人によっては酔っ払っていても刀は振り回せる開拓者達に、実験台になってくれるよう頼んできたらしい。
 ところが。
「何々。なお、開拓者だけではむさいので、花として芸の出来るもふらさまを用意されたし‥‥って、そう言えばギルドの外にそんなのいなかったっけ?」
「あれかな」
 窓の外を指し示せば、ノイ・リーの相棒であるぷらぁとが、玉乗りをして小銭を貰っている。確かに芸達者なぷらぁと君、ほんわかとした明るい気分になるには、うってつけかもしれない。
「でも、一匹だけじゃねェ。とりあえず、何匹か集めておこうか」
「だね」
 芸が出来るかどうかは分からないが、白くてふわふわしたもふらさまは、開拓者達にも人気だ。そんなわけで、花見の相手役に、もふら様が多数呼ばれるのだった。

『アヤカシが嫌う状況を確かめるため、魔の森のすぐ近くで、楽しく宴会をしていただきます。お姉さんは呼べませんが、その代わりにもふらさまを呼びました。もふもふとした環境で、実験に協力していただければと存じます』

 やはり、敵を知ると言うのは、大切な行為だ。なお、せっかくなので、それぞれの朋友を呼んで、絆を深めてもらって良いらしい。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 橘 琉璃(ia0472) / 玖堂 真影(ia0490) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 乃木亜(ia1245) / 巴 渓(ia1334) / 懺龍(ia2621) / 菫(ia5258) / 神楽坂 紫翠(ia5370) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / 支岐(ia7112) / 和奏(ia8807) / セシル・ディフィール(ia9368) / 御陰 桜(ib0271) / ケンイチ・ヤマモト(ib0372) / ブリジット(ib0407) / 不破 颯(ib0495) / ワイズ・ナルター(ib0991


■リプレイ本文

 ギルドで宴会の募集、と言うのも中々見ないようで、受付に訪れた開拓者は、怪訝そうな顔をしていた。
「ぇ? 開拓者向けの依頼って宴会とかもあるのねぇ? 桃、最初の依頼はコレにシよ♪」
 依頼の告知書類を手に、連れている忍犬の桃を、そう言って撫でる御陰 桜(ib0271)。その書類には、朋友を連れて行く事も可能と言う事で、数多くの開拓者達が手続きに訪れていた。
「なるほど。野外での花見でなら、大柄な龍でも参加出来るだろ」
 巴 渓(ia1334)は相棒の龍と共に参加するつもりらしい。
「桜の御花見は初めてで御座います。此度は忍犬の嘉織と参加させて戴きまする」
 ぺこりと頭を垂れる支岐。その手には、適当に調達してきたらしいお弁当と、水筒に入ったお茶が携えられている。
 他にも、何人かの開拓者がその依頼を受けたようで、桜はその名前にちなんだ桜柄の着物を調達し、桃にもおそろいの衣装を着せ、所定の手続きに従う。
「さて、研究にも興味はある。が、しかし」
 からす(ia6525)は今回駿龍『鬼鴉』の様子見をしてからの参加のようだ。何しろ、合戦全てに参加していたので、休ませてやりたい。
「宴会で追い払えれたら、志体がなくてもアヤカシに対処できますね。お手伝い、させて下さい」
 乃木亜(ia1245)が、自分には芸がないから。とか言いながら、宴会で使う料理を運んでいる。龍達がきても大丈夫なように、かなりの数が揃えてあったが、開拓者達は己の龍の好みに合わせたものを調達しているようだ。
「鈴麗♪ 又一緒に行けるお花見依頼があったよー♪」
 礼野 真夢紀(ia1144)がそう言いながら、駿龍の側に駆け寄っている。既に受付を済ませたまゆも、その懐に、鈴麗の好物を調達している。
「お花見弁当作って行くから一緒に行こうねー、うんうん、鈴麗用に八朔も持って行くからね」
 鈴麗の好きなものは、どうやら黄橙色の柑橘類であるようだ。そう言って、頭を撫で撫でし、会場へと向う。
「我は猫又である。名前は結珠」
 で、同じ様に依頼を受けたのは、鬼啼里 鎮璃(ia0871)の朋友、猫又の結珠。ずずいっと顔を庭の井戸に写して、そう言っていると、飼い主から「結珠さーん、行きますよー」と、お声がかかる。
「‥‥‥‥せっかく文学的に決めたのに、鎮璃んは無粋だなー」
 猫又と言うのは人と同じくらいの知能を持っているので、こうして飼い主と喋ることも出来る。不満そうにしっぽをパタパタさせる結珠に、鎮璃は用意したお重に料理を詰め込んでいた。見れば、お花見団子と桜餅だ。他に何か持って行くかと問われ、結珠さんは即答する。
「団子なら、みたらしも欲しい!」
 猫又の表情はよくわからないが、ごろごろと喉を鳴らしている様子は、先ほどまでの不機嫌さはどこかにすっとんでいるらしい。鎮璃さんは、にこやかに「判りました、持って行きますね」と、甘辛いタレをかけたみたらし団子をお重に詰めてくれた。楽しそうにお弁当をこしらえている鎮璃ん。これでも猫又の主なのだが、まるでおかーちゃんである。そうしていると、懐から白兎さんが顔を出した。
「林檎さんもお花見するのか?」
 同兎人の林檎さんである。異種族なので、言葉はよくわからないが、同居人が楽しそうにしているのを見て、自分もと思っているようだ。
「よしよし、じゃあ一緒に行きましょうね」
 とにかく三人でお花見会に参加するらしい。アヤカシが出るかも、という話だけど‥‥ま、鎮璃んは放っといても大丈夫だろう。と、結珠さんは思った。
「林檎さんは我がちゃんと守るから、安心すると良い☆」
「‥‥‥‥ええと、じゃあ林檎さんをお願いしますね」
 猫にウサギと言う、旗から見ると、目をつけているようにしか見えない絵面なのだが、主は全く気にしていない模様。
 会場に着くと、色んな開拓者が居た。もふらさまがこんぱにおんと言う話だが、開拓者の連れている朋友達も多い。中には、もふらさまを連れている開拓者もいる。桜も綺麗だけど、折角だからお友達作ろうと思った結珠、とてとてと朋友の集まっている中へ、林檎産と一緒にご挨拶。
「我は結珠、宜しくねー☆」
「もふ龍もふ」
 どう見ても、もふらさまにしか見えないもふ龍さんが、もふもふしながらぺこりと頭を下げる。
「乃木亜といいます。よろしくお願いします」
 ついでに開拓者の乃木亜まで、ぺこりとご挨拶しているが、混ざっていても誰も気付かないくらい、花見会場は盛況だった。
「春になると、空を飛ぶのは楽しそうでいらっしゃいますが、お花見はどうなのでしょう?」
 そんな朋友達の群を見て、和奏(ia8807)がそう尋ねている。まぁ平たく言うと、野外の宴会なので、気力の充実する催しではあるようだ。
「陰陽師の玖堂 真影です!宜しくお願いします♪」
『ボクは人妖の泉理。よろしくね?』
 花見弁当を持参し、早速手近な桜の下に、ござを敷いている真影と泉理は、どう見ても親子か歳の離れた兄弟かと言う風情だが、一行気にせずお花見の準備中だ。
「では、あたしはもふ龍ちゃんと一緒に皆さんに食べて貰う出店を出すことにいたしましょう」「もふ龍頑張って売り子するもふ☆」
 もふ龍の飼い主でもある紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が、そう言いながら料理を用意してくれる。力持ちのもふ龍が、ごろごろと引いてきた屋台がわりの荷車には、湯気の出る大きな蒸し器がいくつも乗っかっていた。
「皆さんに出す料理は泰国の料理を中心に、受けが良い物を出すことにいたしましょうか」
 簡易調理のはずだが、てきぱきと並べて行く彼女。お品書きと書かれた扇に、出来上がった料理のリストを書き込んで行く。
「基本は肉饅頭、餡饅頭、小龍包、空揚げ、春巻き、焼き鳥、ラーメン‥‥でしょうかねえ?」
 流石に蒸し器なので、点心が中心になるようだ。春巻きや焼き鳥や麺類は、持ち込んだ七輪を使って仕上げている。
「美味しそうもふ☆」
 おめめをきらきらさせるもふ龍さん。
「では、その美味しいのを皆に宣伝してくださいね〜」
「わかったもふ。もふ龍、売り子するしふ! 美味しい泰国料理はいかがもふか〜☆」
 首からお弁当を売る人のように、饅頭をぶら下げ、花身の席へ向うもふ龍さん。開拓者達に届いたころ、自分も花見に混ざれば良いだろう。そのつもりで、今日は御酒のセットも用意しておいた。
「お酒美味しいもふ〜☆」
 早くももふ龍さんが、その御酒をひとなめしているが、気にしないで置こう。
「実験に協力する為には‥‥まゆが出来るのは美味しいお花見弁当を作る事ですの」
 一方、料理を作っているのは、紗耶香だけではない。鈴麗に八朔をあげていたまゆも、持参の弁当を広げていた。
 筍ご飯のおにぎりに、鳥の照り焼き、菜の花のからし和え、蕗の煮物に卵焼き、鰆の味噌漬け‥‥。
「やっぱ、予想通りだな。ご馳走になるぜー」
 色とりどりの弁当に、早速手を伸ばしているのは巴。後ろには、相棒の龍、サイクロンが控えている。こう言う場所でないと、大きな龍は中々連れて歩けないが、先日大きな戦があったばかり。労をねぎらいたいのだろう。
「定番だけどねー。後は、甘味は桜餅と‥‥花見団子っと」
 まゆがそう言って、料理を取り分ける。彼女が作れるのは、もち米蒸して餡を包んで桜の葉で包む方だ。他にも、桜の塩漬けを刻んで薄桃色にしたものと、蓬を入れた萌黄色のもの、そして何も入れない白のもので、3色団子を作って串に刺してある。重箱に入れられたそれは、料理と甘味でしっかり分けられていた。
「さすがにサイクロンには、人間の食い物は物足らんか‥‥」
 もっとも、サイクロンをはじめとする龍達には、そんなお弁当はオヤツにしかならないのかもしれない。
「花を眺めるよりは、お団子とかのが好きかもしれませんね」
 色気より食い気なのは、和奏の所の駿龍も変わらない。困ったように鼻を鳴らす相棒に、巴が差し出したのは、大きな生肉の塊だ。
「お前にはこれを用意してある。ほら、花見弁当だ」
 その様子に、やっぱりうらやましそうにしていたのは、羅喉丸(ia0347)の頑鉄だ。その様子に、桜を見ながら酒杯を傾けていた主は、焼いた骨付きの大きな肉を渡してやる。嬉しそうにそれにかぶりつく頑鉄を見て、「お前は花より団子か」と、苦笑する羅喉丸。しかし、そこへ一片落ちた桜の花びらが、酒杯に浮かんだ。
「たまには風流なのもいいものだ」
 薄紅色の花びらに、そう呟いた。見れば、開拓者達は、それぞれ持ち込んだ弁当を交換したりと、既に宴席は始まっているようだ。
「ほら、泉理‥おべんとついてる。ゆっくり食べれば良いのに」
 手まり寿司を頬張った泉理の口元から、ご飯粒を取る玖堂 真影(ia0490)。
『う‥うるさいなぁ、子供扱いしないでよ?』
 恥ずかしそうにそう言った泉理が桜茶をすすっていた。照れ隠しのまま、草もちに手を伸ばす。飾りに添えられた花を見て、何か思ったのか、泉理はこう言った。
「頭、出して」
「はい? あらあら」
 丁寧に拭いたその飾りを、真影の髪に飾っている泉理。花のせいか、少しは素直な態度になっているようだ。
「捨てられた村、か。滅ぼされた村じゃないだけマシかね」
 そんな料理自慢達の弁当を、それぞれが摘む様子とは対照的に、周囲は寂れた村加減なのを、酒々井 統真(ia0893)は気にしていたようだ。
「桃が一番だけど、もふらさまももふもふシたいわねぇ♪」
 もっとも、そう考えているのは龍を愛でる人々なようで、中には桜のように、ぷらぁとにわきわきとおててを動かしながらにじり寄る。
「桃はお腹をもふもふされるのが好きなんだけどもふらさまは何処がイイのかしら? ココかなぁ? それともコッチ?」
 怪訝そうにしているぷらぁとのお腹を、同じ様にもふもふする桜さん。もふられたぷらぁと、なんだかくすぐったそうにしている。
「もふらさまがいらっしゃいますのだな。嘉織ともふらさま、どちらがよりもふもふしておりましょうか。触れさせて戴いても良う御座いましょうか?」
「もふ☆」
 興味津々の支岐(ia7112)が、そう恐る恐る言いながら手を差し出すと、ぷらぁとはとててと駆け寄って、どうぞーと頭を差し出した。とたん、食べ物を目の前にした時と同じ様に、ぱぁぁぁっと嬉しそうなオーラを滲ませる。忍犬の嘉織が、自分も! と言わんばかりに駆け寄ってきたので、懐から塩抜きの干し肉を取り出した。
「よしよし。嘉織にはこれを渡しましょうぞー」
 古風な話し振りでもって、なでなでと同じ様に頭を撫でて、よく出来ましたと言わんばかりの御褒美を上げる。その一連の様子を見ていたワイズ・ナルター(ib0991)は、他のもふらさまに目をつけた。
「このもふらさまも、何か芸をしないでしょうか?」
「もふ?」
 しかし、一般のもふらさまは、そう言われても、不思議そうに首をかしげているだけだ。ためしに待てとお手をやってみるが、全く反応はしない。ぷらぁとは、玉乗りやお手玉を披露して、ブリジット(ib0407)に受けを取っていた。
「むう、やはり難しいでしょうか‥‥」
 しょんぼりしたそこに桜が御酒を差し出した。
「まま、一杯どうぞ♪」
「ありがとうございます。うう、どうして上手く行かないんだろう」
 薦められるままに、ワイズその御酒を一気に飲み干してしまう。そして、暫しうつむくと、ゆらりと立ち上がった。
「ふふふふ。今日は宴席なのですよねぇ。ならば、御酒とおつまみを進めねばなりませんねェ‥‥」
「あははは、この子、酔っ払うとお勧め魔になるんだね。面白〜い」
 きゃっきゃとその反応に大喜びする桜。この子も、ヒトに注いで酔わせる方が好きと言うタイプのようだ。その代わり、自分の杯は殆ど減っていない。
「もったいないなぁ。飲みましょ」
 ブリジットがそう言いながら、もふらさまに御酒を飲ませようとしている。忍犬のラサが貰った干し肉をかじかじしていた。
「あれ? そういえば、ぷらぁとくんは?」
「さっきからあそこだ」
 そのブリジットが、ぷらぁとの芸を堪能しようと振り返れば、既に懺龍(ia2621)がぷらぁとを膝に乗せて、もふもふともふりながら、無口に甘酒をすすっている姿が見えた。甘酒がほんのり薄紅色だから、桜餡で味付けしたものだろう。
「さぁ、桜火をお持ちしましたから、皆さんどうぞ召し上がれ」
 にこりとセシル・ディフィール(ia9368)が酒の樽を差し出している。笑顔で御酒を進められ、断れる男子はあんまりいない。満開の桜と曇りのない青空は、それだけでも十分な肴となる。
「いや、こっちは‥‥」
「え? 大丈夫ですよ。酔ってないです。ないですとも」
 もっとも、そのせいで御酒が進みすぎたのか、セシルのおめめは据わっていた。そのまま、にっこり笑顔に見せかけて、周囲の杯へ酒を注ぎまくっている。
「それより杯が空いてますね‥‥ささ、も1つ‥‥」
「あの、困ります‥‥」
 被害を受けたのは、給仕をしていた乃木亜だった。年齢的にまだ御酒は飲めないお年頃なのだが、酔っ払いには見境なんぞ付かないらしく、だばだばと注いでいる。
「私のお酒は飲めないのですね! 私のお酌じゃ飲む気も起らないのですねー」
「そ、そう言うわけではなくて。助けてくださいましーー」
 おめめを潤ませて、そう訴えてくるセシルをもてあましたらしく、乃木亜さんすぐ横でケタケタと大笑いしている不破 颯(ib0495)に助けを求めていた。このままじゃ、朋友の藍玉が噛み付いてしまう‥‥と。
「あははは。楽しそうだねぇ。俺もまぜな〜」
 申し訳程度に弓を持った不破、そう言いながら、ぷらぁとをひょいと己の朋友である瑠璃に乗せてしまう。他にも、たっぷりともふらさまが乗せられており、まるでもふらのやまだ。おかげで、乃木亜も攻撃的な酔っ払い達も、その山に見とれている。
「さて、誰が一番しがみついてられるかな」
「もふー!」
 そんな特盛もふらさまの山頂で、必死で落ちないようにしているぷらぁと。まるで玉乗りのように縦になったり横になったりしている。その姿を見て、セシルが目を輝かせた。
「そこに見えるはもふらさま‥‥あら、芸を!」
 落ちないようにぷらんぷらんしている姿がそう見えたらしい。もふらさまに対抗するように、セシルは自分の龍におててを差し出した。
「‥‥何だか悔しいですね‥‥‥‥イグニィ、お手!」
 龍、困惑していたが。主を傷つけないようにそぉっと腕を差し出し、爪の先をちょんっと乗せた。その姿に満足そうに笑顔を浮かべるセシル。その光景に、不破は今日は実に良い日だねぇ」と酒を煽る。
「ルイ、楽しそうだな」
 遠巻きにその様子を見ている統真。コンパニオンもふらに興味はないが、相棒を遊ばせてやるのには、ちょうど良いと言ったところか。
「花見‥‥久しぶりですねえ‥‥」
 そんな花見特有の光景に、目を細める神楽坂 紫翠(ia5370)。今回は、相棒と一緒に、杯を傾けていた。だが、一緒にいる見たことのない朋友に、橘 琉璃(ia0472)は首を傾ける。
「おや、みずちですか? 珍しいですね?」
「ええ‥‥この子は‥‥雫と言います」
 紹介されて、ぺこりと頭を下げる雫。橘の連れている朋友、紅雪が興味深そうに覗きこむ。紫緑の銀色の髪に手を伸ばした己が朋友に、橘はこう切り出す。
「紅雪、悪戯は、ほどほどにですよ」
「おや? 紅雪ちゃんは‥‥大きくなったようですね‥‥」
 かかる重みは、以前感じたものよりもあるように思える。そう思った紫翠は微笑んで、雫を差し出した。
「お久なの‥‥雫ちゃん? 触っていいの?」
 こくんと頷く彼。黒い体はとてもつやつやしていた。紅雪がその相手をしている間に、橘が舞い散る桜の花びらに合わせて、笛を出してきた。
「花も綺麗ですから‥‥今回だけですからね」
 答えた紫翠が、笛を出してくる。と、もふらさまいぢりに精を出していた開拓者達も、そして酒杯を傾けていた開拓者達も、聞こえて来た笛の音に耳を傾けている。ぷらぁとが、笛の音に合わせて踊っているのを見て、きゃっきゃとはしゃぐブリジットや不破がいたり。
「やあ、お疲れ。お茶はいかが?」
 その間に、からすは花を愛でつつ茶席を作り、来た者に振舞っていた。そこへ、どすどすと土偶の地衛がやってきて、恭しく膝を付く。
「鬼鴉の様子はどうだった?」
 休ませている朋友と、周囲の森の様子の報告を受けるからす。
「問題なしでござる。今は厩舎でぐっすりでござるよ。ただ、森は少しざわめいているで御座る」
「ならばよし、だ。こっちできみも休め」
 警戒しているのは変わらぬまま、「御意」と答え、まるで古代の将軍そのままの仕草で、どっかりと腰を下ろす土偶。
「楽しい気分を振りまいたらアヤカシはどう反応するか‥‥・考えたこともありませんでした。学者の先生は変わったことを考えるんですね」
 始まった演奏会を遠巻きに監察する菊池 志郎(ia5584)。相棒の駿龍‥‥通称『先生』は、すぐ近くにいるが、あまり酒は飲んでいない。それは、桜の周囲に広がる魔の森のせいでもあるのだろう。
「久しぶりに、あなたの笛聞きましたよ?さすが、上手ですね」
 笛の演奏は終了していた。しかし、周囲がざわめいているのは変わらない。
「まぁ、楽しくこうやって、アヤカシを追い払えるんなら、それに越したこたぁねぇな。別に、アヤカシどうのこうの抜いても、笑う角には福きたるっつーくらいだし」
 志郎の膝の上に、ぷらぁとがもふもふと乗っかっているのを、あまり興味なさそうに言う統真。それでも、自分ところのルイは、のんびりと羽を伸ばしている。どうやら落ち着いているようだ。
「失敗は成功の母というし、上手くいかなかったとしても次の糧になるだろうし。まぁやってみるか。上手い酒と魚もあるしな」
 酒杯を傾けた羅喉丸がそう言った直後、また森がざわめいた。嫌な予感が、開拓者達の首筋に走る。気付いていないわけではないようだが、一番最初に反応したのは、宴に距離を置いていた菫(ia5258)だった。ざわめいていたのが、アヤカシだとわかると、即座にエレノアを呼び寄せる。
「‥‥‥‥皆様が楽しんでいるのに水を差されるわけにはいきませんからね」
 そう言って、エレノアに後方から支援、鎌鼬などで攻撃よう指示する菫。本来、菫の方が主な筈なのだが、エレノアはまるで自分が主であるかのように、爪先をアヤカシ達へ指し示す。
「やれやれ、野暮な連中だねぇ、菫、さっさとやっちまいな」
 その刹那、騒ぎに気付いた開拓者達が、それぞれの武器と符、そして技で応対する事になる。
「せっかくですから頂いたばかりの、ソメイヨシノの試し斬りをさせていただきます‥‥。御覚悟を」
 和奏がそう言って構えたのは、紅蓮紅葉の構え。半年ほど季節が逆だが、強化したそれで、撫でるように切りに行く。いわゆる流し切りと言う奴だ。と、そのすぐ脇を、ワイズのファイヤーボールがぶっ飛んで行く。
「すひまへん。もふらさま、ちっとも芸を覚えてくれないんれすよう!」
 そう言って、謝り倒しているワイズ。頬が主に染まり、ろれつが回っていない所を見ると、かなり酔っ払っているようだ。それを見て、あまり飲んでいるようには見えない羅喉丸、ぐびりと酒を飲み干しながら、こう言い出した。
「1つ宴会芸をお見せしよう」
 ふらり、とまるで足に力が入っていないような足捌きになる。
「酔えば酔うほど強くなる。酔八仙拳の妙技その身に刻むがよい」
 だが、その一撃は強烈。ゆらりとした動きに引き寄せられた獣らしきアヤカシを、拳の一撃で地に伏せさせる。スピード感はないはずなのに、足を引っ掛けられ、元はイノシシと思しきアヤカシがすっ転ぶ。そこへ、統真が泰練気法弐でトドメを刺していた。
「命ず。私を護れ」
 土偶に守らせたからすの射撃が、イノシシアヤカシを貫く。それと同じ光景が、あちこちで繰り広げられていた。その為、騒ぎに引かれて集まってきたらしいアヤカシは、ものの数分と立たずに撃退されてしまう。
「さあ、お茶を淹れ直そう」
 からすがゆうがにそう言って、何事もなかったように、花見を再開する。しかし、菫は相変わらず、少し離れた場所から、花見の光景を見守っていた。
『‥‥‥‥って、せっかくの花見なのにそんなんでいいのかい、あんた?』
「えぇ、こうしてゆっくり花を眺めるのも、悪くないですし、ね」
 心配したエレノアがそう言うが、菫は楽しげに様子を見ている。
『芽吹き出でて 少女の如き桜の花よ いざ咲かん早春の朝』
 巴が、咲き誇る花を愛でつつ、一句捻っていた。そして、上出来だと言わんばかりに生肉を加えているサイクロンの体を撫でて、こう声をかける。
「いい季節だ。心も体も健やかさが満ち満ちてくるようだ。これからも頼むぜ、相棒!」
 ぐるる、と小さく答えるサイクロン。
「ところで、実験結果、教えてもらえるのでしょうか? 気になります」
 広いところでアヤカシを退治し終わった志郎が、そう言っていたが、結果は一目瞭然。花見はアヤカシを寄せ付けないと言う結果には、なっていないようだった。